「腕を前に出そうとすると背中が痛む」「車のハンドルを握っていると腕~背中にかけて重たさを感じ、すぐに疲れる」など腕の動作を行うと背中にかけて重たさや痛みを感じる時は、菱形筋という肩甲骨内側の筋肉がこわばっている可能性が高いです。

菱形筋の「こ」と「ゆ」

 菱形筋は小菱形筋、大菱形筋に分けられますが、ともに背骨から出発(起始)し、肩甲骨の内側に付着(停止)しています。収縮することで肩甲骨を背骨の方へ引き寄せる働きをしますが、反対に伸びる(弛緩伸張)ことで肩甲骨の自由な動きを可能にする働きをしています。肩甲骨の動きと密接な関係がある筋肉の一つ(正確には二つ)です。

 二足歩行の私たちは他の四つ足哺乳動物たちとは違って、手や腕を歩いたり走ったりするためにではなく、いろいろな手作業のために使っています。そのために上肢(腕と肩)はとても大きな可動域を持っていますが、それは肩甲骨の動きがあるから可能になっています。

 からだの仕組みとして、もし肩甲骨が動くことができなければ私たちは最大限90°までしか腕を上げることが出来ません。肩(肩峰)と腕(上腕骨頭)がぶつかってしまうので、それ以上動かすことができなくなります。しかしながら実際には腕を真上まで上げることが出来ますが、それは肩甲骨が上方に回旋することによって可能になっています。(https://www.youtube.com/watch?v=CH3UZgg_lCM
 また反対に背中で手を組むなど、腕を背中側にグッと回し込むことができますが、それは肩甲骨が下方に回旋することができるので可能です。また、手の先にあるものを掴むために腕をグッと前に伸ばしますが、それは肩(肩甲骨)が前に出る(前方突出)ので可能です。
 ラジオ体操や準備体操やストレッチ運動は心地良いものですが、そこには普段あまり動かしていない筋肉を動かすことによる心地よさが含まれています。大きく腕を動かす動作は肩甲骨を最大限に動かす動作と言い換えることもできますが、肩甲骨を積極的に動かすことは心地良さをもたらす効果があると言うことができます。
 ところが時々、肩甲骨を動かすことを好まない人がいます。ラジオ体操は嫌いで、ストレッチや運動は面倒だと感じてしまう人は、怠惰という性格的なものもあるかもしれませんが、からだが運動を望んでいないという場合もあります。その理由の一つとして肩甲骨の動きをサポートする筋肉の状態が悪いことがありますが、今回はその中の菱形筋について考えてみます。

菱形筋のこわばりが背中に痛みをもたらすケース
 筋肉がこわばった状態とは、筋肉が収縮したままで上手く伸びることができない状態であると言い換えることができます。そして、こわばった筋線維は「硬くなって太くなる」という特徴もあります。例えば、日々パソコンを操作したり、重たいもの扱う仕事をしている人は手や腕の筋肉がこわばりますが、腕をグッと力強く掴んだり、押したりしますと深部に硬くなった筋肉を感じます。そして、さらに圧力を増やしますと痛みを感じると思います。つまり、こわばった筋肉は圧力を加えると痛みを発する(圧痛)という仕組みになっていますし、伸ばそうとしますと痛みを発する仕組みになっています。

 菱形筋は肩甲骨を背骨に近づける働きをしますので、菱形筋がこわばっていますと、常に、肩甲骨を背骨の方へ引きつける力が働き続けていることになります。そして菱形筋は硬くなり太くなりますので、肩甲骨の内側が厚ぼったくなり、布団に背中を付けることに違和感や不快感を感じるようになるかもしれません。「横向きでないと眠ることができない」理由の一つになります。
菱形筋と前鋸筋の「こ」による背中の痛み

 さらに、パソコン業務や腕を使う仕事を行っている人は前鋸筋がこわばって肩甲骨が外側に引っ張られる状態になっている場合が多いのですが、そうなりますと菱形筋のこわばりによって肩甲骨は背骨側に引きつけられているのに、一方で前鋸筋によって背骨から離れる方向に引っ張れるという状態になってしまいます。肩甲骨を介して菱形筋と前鋸筋が綱引きを行っているような状態です。こうなりますと菱形筋のこわばりは更に強くなりますので、肩甲骨が身動きのとれない状態になってしまったり、じっとしているだけでも背中(菱形筋)が重たく窮屈で、痛みを感じてしまう状態になってしまいます。

肩関節の屈曲動作

腕を前に出すと背中が痛む‥‥大菱形筋のこわばり
 「車を運転すると背中~腕にかけてだるくなり疲れる」「普通に座っているだけなら大丈夫なのに、食事をしたり、手作業をしたり、パソコンをすると腕や背中がつらくなる」といった場合は、二つある菱形筋の下方、大菱形筋がこわばっている可能性が高いと考えられます。
 車のハンドルを掴む姿勢、食事で茶碗を持ち上げたり、手作業で手を前に出すなどの動作では、肩甲骨が少し前に出て上方回旋する必要があります。そのためには大菱形筋が伸びなければなりませんが、筋肉がこわばっているために伸びにくかったり、縮む方向に力が働いていますと肩甲骨が上手く動いてくれなくなります。そのため、ハンドルを掴む姿勢は腕から背中にかけて負担が掛かり、茶碗を持つ姿勢は肩が前に出ないのでロボットの動作のような感じになってしまいます。手を前に出して行う作業は辛さをもたらすことでしょう。

大菱形筋がこわばる理由
 トレーニングジムなどで器具を使い、負荷をかけながら肩甲骨を引く(後方牽引)などの運動をしますと菱形筋がこわばる可能性はありますが、日常生活での動作で大菱形筋や小菱形筋自体がこわばることはほとんどないと思います。
 ですから大菱形筋がこわばっているのは、他の要素との関係や他の筋肉との連動関係でこわばっていることがほとんどであると言えます。そして筋肉の連動関係では、大菱形筋は大腰筋、大内転筋などと密接な関係があります。

大菱形筋と大内転筋と大腰筋

 大腰筋は腰痛に関係するインナーマッスルですが、普通の日常生活でこわばる可能性としては、骨盤(股関節)や脊椎がずれていることが挙げられます。大腰筋は腰椎の腹部側から始まり股関節の大腿骨(小転子)に繋がっていますので、大腿骨が下がったり、あるいは腰椎が上方へずれますと骨と骨の間が本来より遠くなりますので、筋肉が張ってこわばります。実際、大腿骨が股関節で下がってしまうことはよくあることです。(整体院で「脚の長さが違いますね~」などと言う時など)
 この場合は片側の大腰筋がこわばりますので、大菱形筋も片側がこわばり背中のどちらかが違和感や痛みを感じることになります。また、腰椎が上にずれる場合で多いケースは頚椎が捻れているときなどです。右眼ばかりを使っている人は、右眼を動かす外眼筋がこわばりますが、それは頚椎と肩甲骨をつなぐ肩甲挙筋のこわばりへと連動し、同時に頚椎7番を右側に引っ張ります。その影響で胸椎も腰椎も不安定になり、上にずれてしまうことがあります。この場合は両側の大腰筋がこわばりますので、両側の大菱形筋がこわばることになり、両方の肩甲骨の動きが制限されることになります。
 実際、大菱形筋のこわばりを解消するためにコメカミを持続指圧して外眼筋のこわばりをゆるめ、頚椎を戻す施術はよく行っています。

 時々大内転筋がこわばっている影響で大菱形筋がこわばっている人と出会います。内股の人にその傾向は強いかもしれません。内股の人は内転筋のほとんどがこわばった状態になっていることが多いのですが、その原因を探っていきますと、足の外側(小趾側)が硬くなっていることが挙げられます。歩くとき足が「ハ」の字になってしまうので、小趾側が前に出た状態で着地してしまうからだと思います。母趾を除いた4本の足趾を曲げる筋肉に長指屈筋がありますが、この筋肉が大変こわばっていることが内股の人の特徴でもあります。

足の第4骨間筋と大内転筋

 そして足裏の4趾と5趾の間の筋肉(骨間筋)がとても硬くこわばっていますが、それが大内転筋のこわばりの原因だと考えられます。内股でなくても小趾側に重心がかかっている人は同様です。
 ですから大内転筋がこわばっている人に対しては、足裏の4趾5趾間をよく揉みほぐすことと長指屈筋を弛めることが対策になります。

 また、小菱形筋と大菱形筋は拮抗する関係になることがあります。例えば肩に重いショルダーバックをかけることが多い人は、肩甲骨の上部が外側に引っ張られるよう力をかけ続けられているわけですが、すると僧帽筋の上部線維と小菱形筋は疲弊して伸びた状態になってしまうことがあります。小菱形筋が機能不全に陥った状況になるわけですが、そうなりますと大菱形筋は小菱形筋の分まで頑張って肩甲骨の位置を保つように働くことになります。つまり大菱形筋は収縮し続けこわばった状態になります。

菱形筋が収縮できずに痛みを発する場合
 菱形筋のこわばりが背中の痛みにつながるケースについて説明してきましたが、それとは反対に菱形筋がゆるんで収縮できないために背中に痛みを発することもあります。
 腕を真上に上げて大きく背伸びする動作や、胸を大きく開いて肩甲骨を後ろに引く動作では菱形筋が収縮します。肩を回したり、胸を閉じたり開いたりする運動では菱形筋が伸びたり縮んだりするわけですが、菱形筋に上手く収縮できない部分(筋線維)がありますと「余分な肉が余ったような状態」になってしまい、縮めない状態なのに無理やり縮めようとするので痛みを発するという状況になります。

菱形筋と僧帽筋の「ゆ」による背中の痛み

 先日、菱形筋を“寝違えた”ように損傷してしまった人が来店されました。損傷によりこのような状態でしたが、その他にも、過去に太股の裏側を肉離れして大内転がゆるんだままであったり、腰が悪くて大腰筋が上手く働かないために連動する大菱形筋が上手く収縮できない状態になっているなどということもあります。

 菱形筋の問題が原因で背中が痛くなるケースはそれほど割合が高いというものではありません。(肩甲骨の内側が痛いという場合は、前鋸筋の問題が原因しているケースが多い)
 しかしながら「腕を動かすと腕や背中が重い」、「手を前に出しているのがかったるい」という場合は菱形筋が原因となっている可能性が高いと思います。
 そして再度申し上げますが、菱形筋自体を使いすぎてこわばってしまうことは普通の日常生活の中ではほとんどないと起こらないと思います。菱形筋がこわばっている原因のほとんどは、足や股関節や腰などの問題だと考えられます。そうであるならば、腕や背中が辛いからといって腕や背中をマッサージしたところで解決にはつながりません。それよりも足裏やふくらはぎを念入りに揉みほぐしていたら背中の問題が解決するかもしれません。腕を動かすことがかったるいと思われる方は、足裏やふくらはぎのマッサージを試されてみてください。


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