頭部や顔面を観察していきますと、今回は鼻(鼻骨)が眉間の方に食い込むくらいに上がっていて、上の前歯や歯茎も鼻の方に突っ込んでいるように詰まっているのが分かりました。
つまり、顔面が上がりすぎている状態なのですが、「もしかしたら口蓋(口の中の天井)が上がりすぎていて舌が届かない状態になっているのかもしれない」と直感しました。このようなことは通常はほとんど見られない状況です。大概は鼻骨や上顎骨が下がって問題が生じているのですが、今回は反対の状況です。
ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。
「食が進まない」「食欲がない」「食べるのに苦痛を感じる」といった状態を一般的に食欲不振と言うのかもしれません。
私はこれまで「食欲不振」と聞きますと、すぐに「胃の不調」を連想していました。膨満感や胃もたれ、胃下垂などをはじめ、胃が硬くなっている、胃が動かないなど、胃の不調や不具合による症状はいくつかあります。
また、歯や歯茎、顎や顎関節の状態が悪くて食物をそしゃくすることができない類の食欲不振もありますが、このたび、食物を飲み込むことに苦労したり、苦痛を感じることも食欲不振の一つであることに気がつきました。
食物を飲み込むことを嚥下と呼びますが、私たちが何も考えることなくごく普通に行っている食物のそしゃくから嚥下までの一連の動作は、実はとても複雑で微妙です。
多岐にわたる要素が絡み合っている複雑な専門領域に、一整体師である私が云々するのはおこがましい気持ちもありますが、一つの情報として、専門家や悩んでいらっしゃる方々の役に立てれば幸いだと考えています。
私の仕事は骨格筋を主に扱う分野ですから、骨格筋から見た嚥下動作の説明になりますが、それは「喉の動き」のことでもありますので、発声にも通じるところがあります。
食事で食物を噛み砕いてから飲み込むまでの概略を簡単に説明しますと、以下のようになります。(詳しくはこちらを参照してください。)
私たちが普段「のど仏」と表現している部位は、専門用語では甲状軟骨(の中の喉頭隆起)と呼びます。甲状軟骨の内部に声帯がありますが、気道を通過する空気を利用して声帯を振動させることで私たちは発声を行っています。
また、声楽家の喉の動きに注目しますと、のど仏(甲状軟骨)を上下に非常に大きく動かしながら発声しています。その意味するところは私にはわかりませんが、声楽家の方々は自由自在にのど仏を動かすことができるのだと思います。ですから、つまり、発声にとっても甲状軟骨の動きは大切なポイントであると言うことができます。
嚥下の初期段階
舌は舌骨を出発点としていますので、食物を飲み込む嚥下の初期段階において、舌が口蓋を押しつけるように上がることは、舌骨と甲状軟骨が上がるということでもあります。
つまり筋肉の働きとして重要なのは、舌骨を引き上げる舌骨上筋群、甲状軟骨を引き上げる甲状舌骨筋がしっかり収縮することです。そして、同時に体幹と甲状軟骨をつなぐ胸骨甲状筋と体幹と舌骨をつなぐ胸骨舌骨筋がゆるんで伸びることができる状態にあることです。
嚥下の終了段階
次に嚥下動作の終了段階、つまりゴックンと食塊を喉から食道に送る段階では、上がっていた舌と舌骨と甲状軟骨がグーッと下に下がる必要があります。この動作がスムーズにできなければ、食物が喉でつかえたような状態になり、不快感を感じると思います。
そして動作におけるポイントは甲状軟骨と舌骨を引き下げる働きをする胸骨甲状筋と胸骨舌骨筋がしっかり収縮することと、肩甲舌骨筋が収縮すること、そして舌骨上筋群がゆるんで舌骨が下がることの妨害にならないことです。
ですから嚥下動作においては、甲状軟骨の動きに直接関わる胸骨甲状筋と甲状舌骨筋の状態は非常に重要であると言うことができます。そして舌骨の動きに関わる胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋、舌骨上筋群の状態も大切です。
ここで、胸骨甲状筋と甲状舌骨筋に的を絞って、その状態や働きついて考えてみます。
喉を打撲したりして筋肉や組織が損傷した場合を除いて、胸骨甲状筋や甲状舌骨筋の状態が悪くなることは、なかなか考えにくいところです。
ですから、何か別の理由で筋肉の働きが悪くなり、発声や嚥下動作に問題が生じたのではないかと考えてみます。
私が観察したところ、胸骨甲状筋と甲状舌骨筋は股関節の恥骨筋、膝関節の中間広筋(大腿四頭筋の一つ)、足首の短趾伸筋と連動関係にあるようです。
膝関節の状態が悪い、膝小僧(膝蓋骨)目立つ、歩くと股関節にズレを感じる、股関節から下がむくみやすい、太い、足首が詰まっているように感じる、足首がグラグラしている等々の症状があって、喉の調子も悪かったり、喉に違和感を感じたり、嚥下や発声に不満や不具合を感じている人は、恥骨筋や中間広筋や短趾伸筋の変調が症状の原因になっている可能性が考えられます。
また、どのような仕組みでそうなるかはよくわかりませんが、歯茎が弱いことによって飲み込みが上手くできず、食べ物が口の中にいつまでもあるために食欲が減退している人がいます。
Aさんは理由は定かでありませんが、下歯茎の左側が弱く、左側の下の歯列が内側に倒れている状態になっていました。
そして、それによって左側の甲状舌骨筋がこわばり、甲状軟骨が斜め左上に歪んだ状態になっていました。甲状軟骨の左側が舌骨に近づくように上がった状態になっていたわけですが、すると自ずと胸骨甲状筋もこわばった状態になってしまいます。
食べ物(食塊)を口の中から喉の方に送り込もうとするときには、舌先が上がることから動作が始まるのですが、舌を上げるためには舌骨と甲状軟骨が上前方に引き上がらなければなりません。
ところがAさんの場合、左側の甲状軟骨は甲状舌骨筋がこわばっていることによって、常に引き上げられている状態になっていますので、それ以上引き上げる余地がありません。ですから、左側はなかなか嚥下動作に移れない状況になっています。つまり、極単に表現しますと、食べ物を飲み込もうとするときには、右側ばかりを使って動作を行わなければならない状況です。
左右両方の筋肉で仕事しなければならないところを、右側の片方だけで処理しなければならない状態ですから、当然仕事の能力は低下します。食べ物を口の中でいくらそしゃくしてもなかなか嚥下に移れない状況が理解できます。
Aさんに対しては左歯茎に原因がありましたので、歯茎の中でも最も弱っている部分を探し出し、そこに外側(体表)から指を当てて歯茎を回復させるような施術を行いました。
そして、歯茎の状態から日々のセルフケアが必要だと思いました。
「適切なポイントに指が当たりますと、唾がスムーズに飲み込めるようになります。ですからそうなるように、繊細な気持ちで施術ポイントを探し出してケアしてください」とアドバイスしました。
追記:
この施術後2週間くらいしてAさんが来店されました。そして「めっちゃ食欲がでました」と喜んで仰いました。(内心、解っていたこととは言え)喜んでいただけたので、私も嬉しく思いました。
また、本日は85歳の常連客の女性が来店されましたが、医学を勉強されているお孫さんから「誤嚥」を指摘されたと仰いました。本人の感覚では「これまでよりも喉が細くなって飲み込みがつかえてしまう」ということでした。喉元を確認しますと、右側の胸骨甲状筋がゆるんでいて甲状軟骨が斜めに歪んでいる状態でした。そして、その原因を探っていきますと、非常に硬くなっている足底(短母趾屈筋が主)にたどり着きまして、足底の筋肉をじっくりとゆるめました。するとそれだけで甲状軟骨の歪みはとれて胸骨甲状筋の状態も回復しました。そして唾の飲み込みも快調になりました。
普段はほとんど歩かないのに、昨日まで3日間旅行に行って「歩いた」とのことでした。
普段使っていない筋肉を使ったので、硬くこわばってしまい、それが甲状軟骨をゆがめる原因になっていたのです。
「高齢者」「嚥下に誤嚥の不安」という条件が重なりますと、医学的に検査・治療の対象になるのかもしれませんが、その方法では治らないこと考えられます。
それはそれとして、(医学的見地の中に整体的な観点がないわけですから)誤嚥や嚥下に不安を感じるのであれば整体的な観点での方法にも目を向けていただきたいと思います。
加齢が進みますと、からだの機能は全身的に低下します。そして多くの人が介護を必要とする段階に進みます。
実際のところ私は介護の現場を知りませんが、食事介助は大変だろうと想像します。なかなか食が進まない状況では、介助する人はずっと忍耐強く付き添っていなければなりません。本人も早く食べたいと思っても、口の中の食物が喉に向かっていきません。両者にとって食事の時間は苦痛なのではないかと思えてしまいます。
そこで少し視点を変えて、先ほど申し上げました筋肉の連動を利用して、嚥下がスムーズに行えるようになる可能性を考えてみます。
加齢が進み運動する時間が少なくなりますと足のむくみが強くなりますが、足首も硬くなってしまいます。現在80歳を超えている人が何人か来店されていますが、その人たちの10年間の経過を見ますと、ふくらはぎの筋力低下と足首が太く硬くなってしまった変化が如実にわかります。
小学生の頃は平気でグングン回っていた足首も、大人になると硬く太くなってしまいますが、それは加齢と運動不足によるものかもしれません。
胸骨甲状筋や甲状舌骨筋と連動関係にある足首、膝、股関節の筋肉は足首の硬さと深い関係にあります。(足首が硬くなりますとスネの骨を引き下げますが、そのことと膝、股関節は関係します)
つまり「足首の硬い人は喉元も硬く動きが悪い」可能性があるということです。ですから足首をたくさん回して軟らかくすることは対策の一つとなります。
ただし、足首を回しているつもりになっていても、足の半分から前ばかりが回ってくるぶしから踵にかけての足の後部分が回っていないようでは、いくらやっても無意味になってしまいます。この点に注意が必要です。
椅子に座った状態、あるいはあぐらをかいた状態で、例えば左足首を回そうとしたときには、左手でしっかり内くるぶしの上辺りを押さえてスネ(脛骨)が固定された状態にします。そして右手で足裏を大きく掴み、そしてゆっくり大きく踵まで一緒に回るように足首を回します。特に内くるぶしと親指を繋ぐラインが伸びるように心がけていただきたいと思います。
回し始めの段階では、足首の靱帯や筋肉が硬い状態ですから、思うように足首は回らないと思います。ところが粘り強く、ゆっくりと、なるべく大きく回しているうちに、少しずつ靱帯や筋肉がゆるみ始めますので、やがて大きく足首を回すことができるようになります。
そして、最初はスネと足がくっついているように感じていた状態が変化し、やがてスネと足に足首(足関節)を境に分離感が生じるようになります。ゴキゴキとか、カクカクとか音が鳴り出すかもしれません。それは筋肉がゆるんできたことの現れですが、このような状態まで足首を柔らかくしていただきたいと思います。
すると膝関節の状態もよくなり中間広筋の変調が良くなると思います。そして胸骨甲状筋や甲状舌骨筋の状態も良くなって、嚥下動作に改善が見られるようになると思います。
また、高齢者の場合や、あるいは筋力低下の著しい場合などでは、胸骨甲状筋や甲状舌骨筋はじめ、舌骨や舌の動きに関係する筋肉の働きが悪くて、嚥下がスムーズにできなくなっていることも考えられます。
このような場合は、直接喉周辺を手当てする手段も考えられますが、筋連動の仕組みを利用して、足首や膝の働きが強まるようにする方法も考えられます。
歩くこと、階段をゆっくり降りること、ステッパーなどを利用して足首を鍛えることなどは良いことだと思います。
歩くことで足腰の筋肉を良い状態に保つこと、食物をたくさんそしゃくすることは私たち人間にとってとても重要であることが、嚥下動作を通しても知ることがきると私は感じています。
嚥下動作に不具合あって誤嚥を招いたり、喉の動きが悪くて言葉を発するのが億劫になってしまったりするのは、高齢者や要介護の人ばかりではありません。
若い人でも、食欲が湧かない、言葉を発したくない、と思っている人はいます。それは性格が関係しているかもしれませんし、精神的・心理的要因が関係しているかもしれません。
しかし、そういうこととは全く関係なく、今回取り上げましたように骨格筋の状態に問題があるだけの場合も考えられます。
悩まれているへのメッセージとして、どうぞ、そのことも頭の中に入れていただきたいと思っています。
足つぼ・整体 ゆめとわ
電 話 0465-39-3827
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これまでのブログで幾度となく古傷による影響を取り上げてきました。今回は、幼児期の骨折による影響で、30年間も苦しみ続けている人の話です。
Aさんは現在たくさんの症状を抱えていますが、舌の落ち込みとそれに関連して口呼吸・無呼吸・浅い呼吸という点に的を絞って説明させていただきます。
呼吸は私たちの命そのものとも言えるものですが、その善し悪しは体調や健康に大きな影響を及ぼしますし、実際、呼吸状態の悪い人がたくさんいます。
Aさんは3歳頃、左肘近くを骨折した経験を持っています。そして幼少期、頻繁に中耳炎を患っていたということです。なかなか症状が治まらなかったので左耳にチューブを入れて固定し、後日チューブを抜くという手術したとのことです。そしてその時、同時にアデノイドも切除したとのことです。
その後、大人になって睡眠時無呼吸症候群と診断され、その原因は舌が顎に収まりきれないので寝ているときに気道に落ち込んでしまっているからだと医師は説明されたとのことです。
さらに数年前、下垂体腺腫を患い、成長ホルモンの分泌亢進となって、舌、下顎、肋骨が大きくなってしまったとのことです。
元々は顎の小さいアデノイド顔貌のような感じだったものが、下顎の肥大化によって受け口のようになってしまい、それも悩みの種となっています。さらに、舌も大きくなったことから無呼吸症候群が悪化したとのことです。
下垂体腺腫は手術により取り除くことができ、ホルモン分泌も改善されたので舌の大きさは元の状態近くに戻ったとのことですが、下顎の大きさは戻ることなく、噛み合わせに問題が残ったままだということです。
現在も無呼吸症候群状態が続いていて、睡眠時が息苦しいためにシーパップを使用されているということです。
また、舌が下がっているために滑舌が非常に悪く、他者と会話していても言葉がでなくなってしまうと仰っていました。
呼吸では吐くことが苦手で、吸った空気を自然に吐き切れていないことが実感でき、最近では上顎が落ちてき細くなり、ガミースマイルのような状態に変化してきたとのことです。
まだ30代半ばなのに、老化現象がどんどん進んでいるように感じられて非常に悲しい気分だと訴えられました。
以上がAさんが大雑把な概略ですが、それを整理しますと以下のようになります。
Aさんは、上記の舌と口呼吸に関係する症状以外に、慢性的な首肩の張りと、O脚および右股関節の痛みで10分以上歩き続けることができないという問題も抱えています。
Aさんのいろいろな状況を伺って、私が最初に確認したのは左肘の骨折部位でした。もう30年以上前のことですし、本人も幼かった時のことなので、うろ覚え程度ではっきりとした骨折箇所は指摘できませんでした。ですから、私は手指の感触を頼りに骨折箇所を特定していきましたが、尺骨の肘関節付近に骨折痕があることを感じました。その場所に手指を当てますとAさんの舌が上がる気配を感じました。やはり私の予想は合っていたと思いました。
おそらくAさんは、左肘を骨折した影響で舌が本来の位置より下がってしまったのだと思います。舌の上がり下がりに関しましては、以前に「上昇する力」という項目で説明させていただきましたが、体内に流れている上昇する力、つまり足元から頭部に向けて上がっていくエネルギーの流れが順調であれば舌が上がり、流れが弱まったり滞ったりしますと舌は下がってしまいます。
左肘の骨折によって上昇する力が弱まってしまったために、舌が下がって口呼吸の状態になってしまったのだと考えられます。
舌が下がりますと、自然と口は開いてしまいます。「口を閉じよう」と意識し続けていますと、舌の位置に関わらず口を閉じることはできますが、その場合はそしゃく筋を収縮させ続けることになりますので、いわゆる「噛みしめ状態」を継続することになり、顎関節の不具合や頭痛などの症状を招くことになります。(そして、そのような人はとてもたくさんいます)
一方、舌が上がりますと、舌は口蓋(口の中の天井)を軽く押し上げる状態になりますが、その力で口を閉じ続けることができますので、顎(そしゃく筋)はリラックスした状態を保つことができます。つまり口は閉じていても奥歯は離れた状態を維持することができ、頬周辺や眉間からも力が抜けますので、副鼻腔を使った鼻呼吸ができるようになります。そして、それが普通の状態になります。
Aさんの左肘、尺骨の骨折痕をしばらく手当てしていました。すると徐々にAさんの口の中で舌が上昇していくのが感じられました。そして、それまで全然できていなかった鼻呼吸が自然と少しずつ行われるようになっていきました。
左肘を施術していた時間は10分ほどでしたが、じっとただ手指を当てていただけですのでAさんは何をされているのかわからず不思議に感じたかもしれません。
「私は、この肘の問題で舌が下がってしまったと思っているのですが‥‥」
「今、そこを施術しているのですが、舌は上がってきましたか?」と尋ねました。
すると、これまでの記憶では経験したことのない体験ですから、戸惑いも混じりながら
「確かに、(舌が)上がってきているかもしれない」と仰いました。
「少しずつ鼻呼吸が始まってますけど、わかりますか?」と尋ねました。
Aさんは不思議な世界に迷い込んだような感覚に襲われたのか
「(左)肘と鼻呼吸と何か関係があるのですか?」と仰いました。
鼻呼吸に関しては、私なりにこれまでいろいろ試行錯誤してきましたが、ベースになるのは「舌が上がっていること」だと思うようになりました。
舌が下がった状態であっても、意識的に(あるいは無意識に)鼻呼吸を行うことはできます。”鼻づまり”の状態でなければ可能です。しかし、顎を脱力してリラックスした状態でありながら口を閉じ続けて鼻呼吸を続けるためには、舌が上がっている状態が必要です。
口呼吸を克服するために、唇にテープを貼って強制的に口を閉じ、鼻呼吸を行うようにするような訓練もあります。私もかつて試したことがあります。しかし、寝ている間に無意識にテープを剥がしてしまうことも度々ありました。息苦しかったわけです。ですからこの方法は、今の私からしますと邪道ということになります。
王道は舌が上がった状態を築き、そしゃく筋をリラックスさせた状態でも自ずと口が閉じる状態にすることです。そして舌が上がりますと鼻の通りが良くなりますので自然と鼻呼吸ができる状態になります。
また、鼻骨は鼻の通りに密接に関係します。鼻骨が下がりますと鼻の通りは悪くなりますが、鼻骨は上顎骨と関節していますので、上顎骨が下がった状態では鼻骨も下がってしまいます。
ですから理想としてましては、舌が上がって口蓋を軽く押し上げ、それによって上顎骨が高い位置を保つことができ、鼻骨も上がった状態を保てることです。
また、鼻呼吸が重要である理由として副鼻腔に空気(吸気)を通すことがあります。副鼻腔は頬骨の深部に「上顎洞」、額(前頭骨)のところに「前頭洞」、鼻骨の奥に「篩骨洞」そしてさらに奥に「蝶形骨洞」があります。この副鼻腔に空気が通過することによって、空気はゴミを除去され、温度と湿度が調整されて気管や肺に入っても安全な状態に浄化されます。
口呼吸が健康を害しやすい一つの理由は、口から空気を入れてしまうので副鼻腔における浄化作用を受けない不適切な空気が気管や肺に入ってしまうことです。途中、扁桃腺(ワルダイエル咽頭輪)などがあってバイ菌は除去される仕組みにはなってはいますが、冷たい空気や乾いたままの空気が気管に入ることになりますので、トラブルを招きやすくなります。
Aさんの訴えには、口呼吸、舌の下がりによる無呼吸症候群、そして浅い呼吸がありましたが、舌が上がることによって口呼吸と無呼吸症候群の改善の道筋は見えました。あとは浅い呼吸について対応しなければなりません。
呼吸が浅い状態を改善するためには、骨盤の可動性、胸郭の動き、副鼻腔、頭蓋骨の可動性というキーワードが登場します。
胸郭(肋骨)の動きが悪い状態ですと、胸が広がらず胸式呼吸が十分にできませんので呼吸が浅くなってしまうのは想像しやすいと思います。それは主に肋骨と肋間筋や肋骨に関係する筋肉の状態に依存しますので、そちらを調整することになります。
骨盤と頭蓋骨が呼吸の深さに関係することは、普通、連想できないかもしれません。しかし、実際は大いに関係します。
息を吸ったとき、骨盤と頭蓋骨は(平たく言いますと)横に拡がります。そして息を吐き出すとき、拡がった骨盤と頭蓋骨は元の状態に戻ります。そっと耳上の側頭部に手のひらを当てて観察しますとそれが解ると思います。
もし、頭皮や頭部の筋膜・筋肉が硬くなっていて頭蓋骨が広がらない状態だったとしますと、息は途中までしか吸うことができなくなってしまいます。頭を両手のひらでギュッと締め付けるように押さえた状態で息を吸ってみるとそのことがわかります。中途半端のところまでしか息は入ってきませんので、何となく息苦しさを感じると思います。
噛みしめ癖、歯ぎしりの癖がある人は、側頭部の筋肉(側頭筋)が硬くなっていますので、頭痛を感じやすいのですが、同時に息が途中までしか入ってきませんので、呼吸にストレスを感じると思います。舌が下がっていて、そしゃく筋を使って口を閉じている人も同様です。
Aさんの側頭部も非常に硬い状況でした。長年にわたる硬さですから、今、舌が上がったとしてもすぐに頭部の硬さが解消されるものではありません。ですから持続指圧によって側頭部の硬さをゆるめました。
また、副鼻腔に息が入らないとやはり呼吸は中途半端な状態になってしまいます。
四つある副鼻腔の中で頬の深部にあります上顎洞と、額にあります前頭洞に空気が通るかどうかを目安として施術を行います。
上顎洞に空気が通りますと息を吸ったとき頬が涼しくなります。そうなるためには頬骨の間を拡げる必要があります。
私たちはいろんな表情をしたり喋ったりしますが、それによって鼻周りの筋肉が硬くなってしまい頬骨間が狭くなってしまいます。ですから、軽い指圧などによって鼻周りの筋肉を和らげ、頬骨間を拡げるようにします。それによって上顎洞に息が通るようになります。(あるいは骨格が歪んでいて上顎洞に息が通らない場合もありますが、それは別の施術方法になります)
ちょっと難しいのは額にあります前頭洞に息を通すことです。額の骨である前頭骨と鼻骨との関係が歪んでいますと前頭洞に空気を通すことは難しくなります。鼻骨が下がっていますと、まず前頭洞には息は通りません。
眉間に縦皺が入りやすい人は、そこに力を入れる癖があるということですが、それも前頭洞に息が通るのを邪魔する要因です。息苦しいとか、辛いとか、目が見にくいとか、その他の理由で眉間に力が入ってしまう人はたくさんいますが、そのような人は眉間や眉のあたりを揉みほぐすなどしてしてみてください。
Aさんの場合、30年にわたる辛さのためか、眉間に力を入れる癖がありました。そして舌が下がっていたことで上顎骨も下がり、鼻骨も下がっていましたので、前頭洞にはまったく息を通すことができませんでした。
ちょっと話が飛びますが、Aさんは上記のこと以外に喉仏(甲状軟骨)から甲状腺のある部分が腫れているように硬くなっていました。
「このあたりも腫れてますけど、甲状腺の問題はありませんか?」と尋ねました。
「以前にバセドー病(甲状腺機能亢進症)だったのですが、今は治癒しているとの診断です」という返答でした。
しかし、私の手には明らかに甲状腺が硬く腫れている感触が感じられましたので、やはり「おかしい」と思わざるを得ません。
下垂体腺腫を患って、成長ホルモンの分泌が亢進したことに関連して甲状腺ホルモンが分泌過多になる状況になったのではないかとも考えられます。
口呼吸、副鼻腔が使えない、アデノイド顔貌(アデノイド肥大)、下垂体腺腫による成長ホルモン分泌過多、バセドー病(甲状腺機能亢進)、これらは私の頭の中では一つに繋がってきます。そしてその大元は舌が下がってしまったことだと考えることができます。
左肘の骨折の影響で舌が下がり、口呼吸となって副鼻腔を使わなくなります。それによりバイ菌が口から侵入しやすくなりますが、それを防御するためリンパ組織であるアデノイドが肥大します。さらに、(全くの憶測ですが)副鼻腔の一つである蝶形骨洞に空気が通過しないことで近接する脳下垂体の状態に何らかの変化が生じたかもしれません。成長ホルモンが分泌過多となり、それが甲状腺の活動に影響を与えてバセドー病を誘発し、薬物による治療で症状は改善されたものの名残は残っていて、それが甲状腺や喉の硬さになっているのではないかと、そう考えてみました。
ですから、改善方法としましては副鼻腔にたくさん空気が通る状態を築くことになります。蝶形骨洞に空気が流れれば、その刺激を受けて脳下垂体は何らかの変化を起こし、ホルモンの分泌に変化が生じて、甲状腺の状態も変化するのではないかと考えました。
さらに、長年の辛さのためか、眉間だけでなく喉元にも力を入れていたために甲状軟骨に関係する胸骨甲状筋と甲状舌骨筋がこわばっていました。
これらの筋肉をゆるめる施術を行いました。そして前頭洞と上顎洞に息がよく通る状態にすることを行いました。さらに蝶形骨の状態を整えることで蝶形骨洞に空気が通るようにする施術をおこないました。
そうしますと呼吸が深くなり、頭と胸が大きく動くようになりました。そして何分かそのような状態を保っていますと、硬く膨れていた甲状腺がスッキリしだし、喉元や首の緊張が取れていきましたが、「今、サッと肩の張りが取れました!」とAさんは仰いました。長年の辛さから解放された瞬間だと思います。
おそらくAさんにとっては、今回の施術でこれまで経験したことのない体験を幾つかしたと思います。
これらの体験は新鮮だったと思います。
また、Aさんは上記に記した症状以外に、O脚と股関節の痛みなども抱えていましたので、それらに対しても施術を行いました。
ここから非常に遠くにお住まいのAさんは、新幹線に乗って何時間もかけて来店されました。
そして4時間の施術を行いましたが、その中で、症状に対する施術と日々のケアについて教えて欲しいとのご希望でした。ですから3時間施術を行い、残りの1時間をセルフケアのやり方についての説明にあてました。
これまでのAさんの経過を考えますと、とても一度の施術で改善されるとは思いませんが、私にできることは精一杯させていただきました。当初から一回限りの施術でとお考えだったようです。「また来ることができるのは来年になってしまうかな」と仰り、また何時間も新幹線に乗って日帰りされるとのことでした。
古傷による影響は、元気で体力があるときにはほとんど感じられないと思います。ところが体力が落ちたり、加齢によってからだの力が弱まりますと必ず何らかの症状を現すと思います。とい申しますか、そう断言できます。
しかし、このことは現在の医療ではまったく無視されていると思います。30年前の骨折は骨が繋がっていれば治癒されていると医学は判断されるでしょう。
数十年前の足首の捻挫が現在の骨盤の歪みの原因になっていたり、目がかすんでしまう原因になっているとは誰も思わないかもしれません。
しかし、からだを順を追って丁寧に観察していきますと、必ずや治りきっていない古傷が大きな影響を及ぼしていることにたどり着きます。
より快適なからだの状態を求めるのであれば、古傷をしっかり直すことが要になると思います。
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無呼吸症候群を気にされている人は最近増えているようです。少し前まではいわゆる「中年」以降の男性に多い症状と考えられていましたが、今は30歳代の男性や、女性の人でも気になっている人が結構いらっしゃるようです。
また、「しゃべり」に関して、滑舌が悪い、喋っていると息苦しくなってしまう、大きな声が出せない、発声が長く続けられない等々、困っている人もいらっしゃいます。
今回は、舌に関係して、私が気になること、また最近発見したことなどを説明させていただきたいと思います。
無呼吸症候群に対する対処法として舌を大きく出したり、回したりするトレーニング方法が有効であるという情報があるようです。
そのトレーニング法について、「どう思いますか?」と度々聞かれます。
そして、この問いに対する私の応えは一貫して「止めてください」です。
無呼吸症候群の原因の一つとしまして、舌(舌筋)がたるんでいるので、寝ている間にそのたるみが気道に落ちてきて、気道を塞いでしまうために無呼吸状態になってしまうというのがあります。
ですから対策として、舌筋を鍛えてたるみを解消する必要がある、という理屈のようです。
そして、その情報通り、真面目に、一年間毎日トレーニングを続けている人(女性)が来店されました。
この女性の来店の目的は、頭痛と顎周りを中心とした顔面のこわばりと、首肩の張りの解消でした。現在は精神的ストレスもかなり強いとのことで、知らず知らずのうちに噛みしめてしまっているとも仰いました。
そして、顔のこわばりに対する施術行いながら喉周辺を触ったときに、かなり硬くなっていましたので、「喉周辺が硬いのですが、何かありましたか?」と尋ねたところ、舌のトレーニングの事を話してくださいました。
「一年間、毎日舌のトレーニングをしていたのでは、喉周辺がこれだけ硬くなるのもわかる」と内心思いました。そして、喉元~舌骨周辺~オトガイ(顎先)にかけのこわばりをじっくりゆるめていきました。
すると次第に顎周辺~喉元にかけてのこわばりはゆるんでいき、顔のこわばりも解消されて、顔の表情が豊かになりました。首や肩からも力が抜けて「あぁ、ゆるんだあ~!」と仰いました。
この女性は60歳代ですが、テレビの情報番組を見て「無呼吸症候群にはならないぞ」ということで、舌を大きく出すトレーニングを毎晩数分行っているとのことでした。
情報番組の情報は、良いような、悪いような、どちらもあると思いますが、気をつける必要があるのだろうと思います。
普通の人にとって、情報番組の情報が正しいか誤りかを識別することは非常に難しいことです。テレビなどでは、その情報は「正しい」というのを前提としていますし、「テレビが言うのだから、まず間違い」と私たちの多くは思っていますので、つい信じてしまうのは仕方のないことかもしれません。
ですから、私は、「とりあえず2週間やってみてください」、そして2週間続けても良い効果や変化が感じられないなら、それは止めたほうがいいです、と申し上げたいです。
からだに対して適切なトレーニングであれば、2週間も続けていれば必ず変化が現れると思います。そして、不適切なトレーニングであれば、速ければその場で、遅くても2週間で、悪い影響が現れると思います。
今回の舌のトレーニングは、後者(2週間)の方だと思いますが、喉元や顎周辺や顔が硬くなったり、首や肩にコリを感じるようになると思います。
さて、舌(舌筋)はからだの中でも非常に複雑な筋肉の一つです。
筋肉には腕や足の筋肉などのように骨格を動かして動作を生み出す「骨格筋」と、食道や胃や小腸・大腸といった内臓系の「平滑筋」があります。
カエルやカメレオンは舌を長く伸ばして獲物を捕獲しますので、その舌は私たちの手と同じような働きをしています。ですから、舌は骨格筋の側面を持っていると考えることができます。私たちは喋るときに舌を操りますが、それも骨格筋としての性格を現しています。ところが、食べ物を口に入れた後、そしゃくにともなって舌を巧みに使います。そして食塊を嚥下して食道~胃に送りますので、その意味では、舌は消化系の内臓の働きも担っています。ですから舌筋は内臓系の筋肉としての側面も持っています。
ちょっと話は難しくなりますが、手や足を動かす骨格筋は、意志によってコントロールできる随意神経によって支配されています。一方、内臓系の筋肉は意志に影響されない自律神経によって支配されています。ですから舌筋は、随意神経と自律神経の両方の支配を受けている筋肉になります。
舌筋を鍛えるためのトレーニングで舌を動かし続けたとします。それは随意神経のコントロールですが、舌からしますと普通とは違う種類の随意神経系です。普通は発声したり、喋ったりする種類の神経信号ですが、大きく舌を出し、その状態で大きく動かすのは舌からしますと不自然な神経信号であり行為です。
このようなトレーニングを続けていますと、やがて舌はその運動を「普通の行為」にするために少し変質するようになります。舌先でいろいろな技をする人がいますが、舌には順応性と可能性があるのだと思いますが、舌筋は変化する可能性に富んでいる筋肉であるとも言えます。
舌のトレーニングによる舌筋の強い収縮行為が1回、1日、1週間、あるいは2週間であれば、まだ大きな問題を起こすようなことにはならないかもしれません。ところが、半年、1年と続けていますと、それはある種の変化を固定化してしまう危険性があります。形状記憶に似た状態をもたらしてしまうとも考えられます。
毎日のようにトレーニングを継続していますと、舌筋はこわばった状態になり、それがやがて固定化してしまいます。そして、そのこわばりはやがて周囲の組織に影響を及ぼすようになり、喉(甲状軟骨、甲状腺)や顎関節周辺や顔面の筋肉にこわばりをもたらすことになります。そして、それがからだのいろいろな不快感や不調を招いてしまう可能性があります。
舌が強くこわばったり、あるいは反対にゆるんだりして働きが悪くなりますと、それは当然、自律神経経にも影響を及ぼします。スムーズな嚥下ができなくなったり、呼吸が不調になったりする可能性も考えられます。(現に、舌の問題で呼吸が悪くなっている人はたくさんいます)
わざわざ無理なトレーニングをしなくても、普通に食べて、普通に喋っているだけで舌はたくさん動きますので、それで十分だと私は思います。本来、私たちのからだはそのようにできているはずです。
誰とも会話することなく、食事でのそしゃくも不足しているのであれば、舌のトレーニングは或る程度必要かもしれませんが、そうでないのであれば全く必要ないと、私は考えています。
無呼吸症候群に関して、舌が気道を塞がないようにするためには、舌の位置とむくみの無い状態の方がよほど大切であると私は考えています。そして、現に、そのような結果がもたらされています。
以前に取り上げたことですが、舌の位置は呼吸と喋りにとって重要です。舌が正しい位置にある人は、口を閉じてリラックスした状態でも口蓋(口の中の天井)を少し押し上げるような状態になっています。それは上顎骨を微力ながら持ち上げている状態ですので、鼻骨も上がり副鼻腔に空気を通しやすい状態にします。また、そしゃく筋など顎に関係する筋肉を作動させなくても口を閉じていられますので、頭部もゆるんだ状態なり、呼吸に合わせて頭蓋骨が拡がることを可能にします。つまり、静かでゆったりとした呼吸が可能な状態になります。
これとは反対に舌の位置が下がって下の歯を押してしまうような場合(低位舌)は、そしゃく筋を脱力させた状態では、口が開いてしまいますので口呼吸になってしまいます。口呼吸を避けるために口を閉じようとしますと、顎先やそしゃく筋を収縮させることになりますが、それは顔に力が入った状態であり、頭部も硬くなります。上顎骨も下がり鼻骨も下がりますので、副鼻腔には空気が入らず、ゆったりリラックスした良質の呼吸は望めなくなります。
また、舌の位置が下がっていることは、舌に締まりがなく、ゆるんでいることでもあり、そのゆるんだ舌筋が気道に落ちて無呼吸になる可能性も考えられますし、イビキをかく可能性も高まります。
さらに、無呼吸症候群を考えるときに、舌のむくみも気になるところです。
東洋医学では「舌の大きさ」を体質を診断するときの尺度の一つとしています。舌は心臓と関連性のある器官とされていますが、体質が弱くなりますと舌が腫れて大きくなり、口からはみ出すようになると考えられています。そしてその目安が「歯痕(しこん)」と言いまして、舌が歯を押してしまうために舌の縁に歯型がついてしまう状況です。鏡の前でご自分の舌をだして観察したときに、歯型があるようでしたら注意が必要です。
舌がむくんで大きくなった状態は、当然気道を塞ぎやすくなりますので無呼吸症候群やイビキの原因になります。
ですから、舌のむくみを解消しなればなりませんが、舌だけのむくみを改善することは不可能です。東洋医学では舌と心臓が密接な関係にあると申し上げましたが、即ち、心臓の働きも含めて全身的にむくみを改善する必要があります。
(参照 循環のポイント‥‥鎖骨下静脈と鼡径部)
あるいは、口の中で「舌が邪魔」なほどに余っているように感じるのであれば、心臓の状態についても確認する必要があるかもしれません。
何年も舌の動きと喋りに関して苦しんでいる青年がいます。まともに喋ることができなくなってしまったきっかけは、英語の発音練習をしていて、かなり舌に無理を強いてしまったことだと本人は仰っていますが、確実なところはわかりません。
喋ることができなくなって、病院(言語聴覚士)やボイストレーニングのところなどを頼ったそうですが、何の改善も見られなかったようです。
現在は、舌の動きも戻って言葉は普通に喋ることができるのですが、喋りながらのブレス(息継ぎ)ができないので、息苦しくなって喋れなくなるといった状態です。
この青年は、長年の苦労によってか、あるいはトラブルを起こしたときのトラウマによるものか、舌や喉を動かすときに、どうしても口先から喉元にかけての部位しか動かさない癖になっています。
ここで構造的な話題になりますが、学問的な見解として、舌と喉を動かす筋肉は舌骨を境にして二つの群に分かれています。舌骨は喉仏(甲状軟骨)のすぐ上にありますが、舌骨から頭蓋骨の下顎にかけての筋肉群を舌骨上筋群、舌骨から胸にかけて筋肉群を舌骨下筋群と言います。
顎を開いて開口する場合、顎を閉じる働きをするそしゃく筋がゆるんで伸びますが、同時に、舌骨から下顎骨に繋がっている顎二腹筋(前腹)と顎舌骨筋、そしてオトガイ舌骨筋が収縮して下顎を舌骨の方に引き寄せます。
また、食物を嚥下して食道に送る際は、食塊を飲み込む最初の段階で一度喉仏(甲状軟骨)が上にあがり、そして下がって「ゴクン」という嚥下動作が完了します。
この嚥下動作では舌骨上筋群と舌骨下筋群が協働して舌骨と喉仏(甲状軟骨)を動かすことになります。そして唾を飲み込んだり、発声で声帯を動かしたりするときにも、同じように舌骨上筋群と舌骨下筋群が協働して甲状軟骨を動かします。(声楽家の喉仏が大きく上下に動くのはビックリしますが、これらの筋肉の働きによるものです)
ですから、舌骨上筋群と舌骨下筋群、そして口を閉じる働きをするそしゃく筋の状態が良ければ、舌に関係する動作は滞りなく行えるという理屈が成り立ちます。
ところが、実際は、それだけでは事足りません。
舌と喉を動かすためには、僧帽筋や頭板状筋など首の背面の筋肉がしっかり働ける状態にあることが必要になります。
頚部(首)を前後二つに分けたとき、舌や舌骨や喉、舌骨上筋群や舌骨下筋群は前側にあります。そして僧帽筋や頭板状筋、肩甲挙筋は後側に属しています。(胸鎖乳突筋も後側に属している筋肉と考えます)
舌や舌骨、甲状軟骨に直接繋がっている筋肉のすべては前側にありますので、前側の筋肉の働きだけで、そしゃく、しゃべり、嚥下などの動作は完了できると理屈ではそうなります。しかし、実際は後側の筋肉が働かないと前側の筋肉がスムーズに働くことはできません。
話を青年に戻しますが、彼は現在、毎日そしゃく筋や舌骨上筋群や舌骨下筋群を意識的に動かすように努力しています。顎の使い方を工夫したり、息の吸い方や吐き方を自分なりに調整しながら、昨日より今日、今日より明日、ちょっとずつでも前進しようと努力し続けていますが、どうしても首の前側だけに意識を向かわせてしまいます。
「もっと首の後側を意識して顎を動かしてみて」とアドバイスするのですが、首の後側の感覚が乏しいので、使い方がまったく解らないと言います。
通常、口を開いて下顎を下げるとき、鼻から息が入ってきますが、この時に同時に僧帽筋がゆるんで肩甲骨が少し下がります。そして頭板状筋は収縮して首の後面をしっかり支える働きをします。もし、頭板状筋が収縮できなかったり、あるいは僧帽筋(上部線維)がゆるまず肩甲骨が下がらない状態になりますと、顎を上手くゆるめることができず、顎を開いても鼻から息を取り入れることができません。
この状態をそしゃく動作で説明しますと、一般的にそしゃくは「モグ・モグ」ですから、口を閉じた状態のままで顎だけ上下左右に動かしています。
例えば「モグ」の「モ」のときに顎を開いて、「グ」の時に顎を閉じたとします。普通であれば、「モ」のときに鼻から息が入り、「グ」の時に鼻から息が出ていきます。このような仕組みになっていますので、口を閉じたまま「モグ・モグ」していても息苦しさを感じません。
しかし、これができない状態ですと、「モグ・モグ」していると苦しくなってしまいますので、口を開けて「クチャ・クチャ」そしゃくするようになってしまいます。
喋るときも同様です。私たちは喋りながら(=息を吐きながら)、無意識に、合間合間で瞬間的に吸気を行っています。それをブレスと言いますが、効率よいブレスを可能にするためには、首の後側の筋肉の働きが不可欠になります。その他に舌や鼻が下がっていないこと、舌骨筋群の状態が良いこと、頭皮や頭部の筋筋膜が硬すぎないことなどが条件になりますが、僧帽筋をはじめとして、後頚部の筋肉の状態が隠れた要となります。
この青年が、どうアドバイスしても上手くブレスができず、すぐに息苦しくなってしまい、喉元の動きばかりを気にするようになってしまいますので、究極の策としまして、ベッドにうつ伏せになった状態で顔だけ上げた状態になってもらいました。普通に見ますと姿勢の悪い格好ですから、良いことだと思われませんが、後頚部の筋肉を収縮した状態にしたかったので、あえてこの格好をしてもらいました。
すると、これまで長い間の苦しみが何処かに行ってしまったかのように、ごく普通に喋ることができるようになりました。後頚部の筋肉を収縮したままの状態にしたわけですが、それによって前頚部の舌骨上筋群、舌骨下筋群、舌筋がリラックスして使えるようになり、ブレスもごく普通にできるようになりました。そして長い時間喋り続けることが可能になりました。
後頚部の筋肉を収縮させたことで、頭部と頚部をしっかり支えることができる状態になったのですが、それによって鼻腔が拡がり、自然と顎から力が抜くことができるようになったことも要因の一つだと思います。そしておそらく、頭板状筋を収縮させたことで僧帽筋をゆるめることが可能になり、開口と同時に息が吸える状態になったのだと思います。
「この首の後側の使い方を、からだで覚えて‥‥!。これまでとは全く違った感覚だと思うけど、今までの使い方の癖を脱するために、うつ伏せになり、声を出して本を朗読するなどして、首全体を使って舌を動かす感覚を覚えて欲しい。」と申し上げました。
その後、うつ伏せ状態を解除して、座った状態になりますと、やはり上手く使えなくなり、息苦しさが戻ってしまいました。しかし、また一つ、前進のための光明が見えました。
後頚部の状態がこんなにも舌やその周辺の動作に影響を与えるとは私自身思っていませんでした。良い発見ができたと思っています。
これまで舌についても何度か取り上げてきましたが、私はやはり、とても重要なものだと考えていますし、舌の重要性を益々感じるようになっています。
舌は味を感じる感覚器官の一つであると同時に、喋りやそしゃくや嚥下の要ともなる大切な行為器官でもあります。
ですから、大切に、大切にしてください。
妙なトレーニングなどして舌を壊さないでください。
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