「膝が痛い」とやってこられる方に、最初に尋ねることは「どんな時ですか?」です。
膝を曲げると痛いのか、力が掛かると痛いのか、そのことを知りたいからです。もちろんどちらの場合も痛いということもあります。
 正座ができない、椅子に座っているだけでも膝が痛む、あるいは反対に膝を伸ばすと痛む、これらの類の症状は膝関節自体に問題があることが多いです。
 ところが、膝を曲げることもできるし正座もできるが歩くと痛む、階段の昇り降りで痛む、床に座った状態から立ち上がるときに痛むなどの場合は、膝関節自体よりもその周囲の筋肉の働きがおかしくなっている場合が多いです。痛みはないが、膝の屈伸運動や曲げ伸ばしをすると音がしたり違和感を感じる場合もどちらかというと筋肉の問題です。
 この判別を見間違うと、太ももの筋肉(大腿四頭筋)の筋肉を懸命に鍛えるリハビリ運動は害になる場合もあります。(私から見れば、多くの場合、そのリハビリ運動は意味がないと思いますが)
 筋肉はそれ自体がしっかり機能できる状態にあれば、鍛えることによって強さや弾力を増し筋肉トレーニングの成果を期待することができます。しかし、しっかり働ける状態にないときに負荷をかけると“しごき”になってしまい、かえって状態を悪くする可能性がありますし、別の筋肉にも負担が掛かるので、さらなる故障の原因となるからです。このことについては別の機会にもっと詳しく取り上げたいと思います。

①膝の曲げ伸ばしが困難な場合
 膝関節は太ももの骨(大腿骨)とスネの骨(脛骨)と膝の皿(膝蓋骨)とでできていますが、大腿骨と脛骨の関係が正位でない場合、曲げ伸ばしの動作で周囲の筋肉や関節を包む袋(関節包)に負担をかけ、炎症をおこします。つまり“膝関節がずれている”場合です。この不具合の特徴は“水が溜まる”ことです。“膝の水”は関節を包む関節包の中が潤滑油でいっぱいになってしまうことに例えられます。曲げにくい関節を潤滑油を増やすことによって滑らかさを保とうとするからかもしれません。“膝の水”のもう一つの大切な役割は炎症を抑えることです。これは蚊に刺されて水ぶくれができるのと同じ理由です。蚊に刺されるとその毒素による炎症を解消するためにリンパ液が集まってきます。それが水ぶくれの原因です。解毒が澄み炎症がおさまると自然と水ぶくれはなくなります。膝の水もこれと同じ原理であると考えてよいと思います。
 実際、施術によって膝関節のずれを修正すると速やかに膝の水は減っていきます。腫れぼったさが改善されるので膝関節は楽になり、大きく曲げることができるようになります。
 いつまでも膝の水がとれないのは、いつまでも炎症がなくならないということを意味しています。水が溜まっているとそれだけで膝は曲がりにくいので、注射針によって水を抜く治療がありますが、確かに膝の腫れぼったさは一時的に解消されますので、膝は楽になり曲がりもよくなるでしょう。ところが、関節のずれを改善しないままでは、炎症の原因が改善されたわけではないので再び水が溜まって腫れてしまいます。
 関節がずれたままでしばらく使い続けていますと、半月板などに負担が掛かり、半月板や軟骨を傷めることになります。これが変形性膝関節症の出発点です。
 変形性膝関節症も初期の段階、つまり半月板の損傷が進んでいない段階では、施術によって普通の状態に近づけることは可能です。状態が進んでしまい半月板が減りすぎてしまうと、実際のところ正しい膝関節の状態に戻すことは難しくなります。膝の内側の半月板が減ります、膝のところでO脚になってしまいます。こうなりますと歩く度に足の外側に重心が掛かるようになりますので、益々O脚が進み、半月板の損傷がひどくなります。やがて大腿骨の内側と脛骨の内側が直接接触するようになり、その結果“軟骨が削れてしまい、その破片が関節包を刺激するので、ジッとしていても痛む”という状態に進む可能性があります。こうなってしまうと、整体では“元に戻す”ということは厳しくなり、日常生活でなるべく痛みを感じないような“ケア”のための施術になってしまいます。月に二度とか、週に一度の定期的な施術が必要になります。また正座できる状態に戻すことは難しくなります。

 膝関節のズレ以外で膝の曲げ伸ばしができなくなる場合もあります。それは動作の時に伸びるべき筋肉が伸びてくれなかったり、縮むべき筋肉が縮んでくれなかったりする場合です。
 これは「痛くはないけど、それ以上曲がってくれない」とか「そこまでは曲がるけど、それ以上曲げようとすると筋肉が突っ張ってしまい、その筋肉が痛くなる」という場合です。
 この状態は、膝関節自体がおかしいわけではなく、周囲の筋肉のバランスがおかしいからだと考えることができます。骨盤からの影響かもしれないし、足に問題があるのかもしれないし、手や肩の方の問題が原因であるかもしれません。手や肩の方からの可能性が意外に高いです。

膝の痛みと中間広筋の働き

②力が入らない、重力に耐えられない膝の痛み
 「階段を昇ることはできるけど、降りるときに膝が痛む」「しゃがんだ状態から立ち上がろうとすると膝が痛む」「下り坂を歩くのは苦手」「短い時間は大丈夫だけど、長い時間歩いていると膝が痛くなる」などの症状は、膝周辺の筋肉の働きが悪く、膝関節が弛み、力がしっかり入りきらないため起こると考えられます。
 その他にも、「椅子に座った状態で腰を曲げたり捻ったりすることは何ともないけど、朝顔を洗ったり中腰になったりすると腰が痛くなってしまう」なども膝周辺の筋肉に問題がある可能性があります。つまり、膝に負荷が掛からない状態では腰は大丈夫だけど、膝に負荷が掛かった状態では腰痛がでてしまうということです。
 この膝に力が入らない、つまり膝周辺の筋肉がちゃんと機能していない状態で、スクワットやその他の膝周辺の筋肉を鍛えるトレーニングを行うことは“鍛え”ではなく”しごき”になってしまいます。辛いばかりで、効果的な筋力アップにはつながりません。
 この判別は普通の人には難しいところですが、あえて申し上げれば、そのトレーニングをしていて“心地良いしんどさ”を感じるならOKですが、単に“しんどい”とか“疲れる”とか感じたるだけなら、それは止めた方が良いでしょう。ましてやトレーニングしながら痛みを感じるようなら絶対に止めてください。

 ここで“筋肉の働きが悪い状態”について考えてみます。
 これを言葉で説明することは難しいのですが、例えとしてゴムを連想してみてください。普通、ゴムは引っ張ると伸びていき、引っ張りを止めると元の状態に戻ります。ところがゴムのどこかに伸びきってしまった部分ができてしまうと、そこが縮んでくれないため元の状態に戻らなくなってしまいます。筋肉の働きが悪い、あるいは筋力が十分に発揮できない状態というのは、筋肉の中にこの伸びきってしまったゴムのようなところができてしまい、その部分が収縮できないため、その筋肉全体としての働きが悪くなってしまっている状態のことです。これは筋力の問題ではなく働きの問題ですから、トレーニングしても状態を改善することはできません。働けないのにもっと強い負荷をかけて働かせることは“しごき”に他なりません。かえって状態を悪化させてしまうでしょう。ですから、まずは働けるようにしてから、その上でトレーニングさせるべきです。
 働きを改善するための運動療法があるのかもしれません。それについては私はよく知りません。
 疲労が重なって働きが悪くなっている程度であれば、休養をとることで速やかに回復することでしょう。ところが、無理を重ねたために(酷使したために)すでに器質的変化が始まり休養だけでは回復しない場合は、やはり施術を受けていただくのがよいと思います。(それが早いです。)

 以上のように、膝の痛みに関しては“関節が歪んでいる”のか、それとも“力が入らない”のか、あるいはその両方なのかという判別をして対処しなければなりません。テレビ番組やCMなどでは、そういう識別もないままに「○○が犯人だった!」とかグルコサミンやヒアルロン酸などと広く伝えていますが、私から見ればとても非科学的な取り組み方であると言わざるを得ません。

 私の店のすぐ前に整形外科がありますが、毎朝早くから膝の悪い方々が並んでいるのを見ます。
 私のところは保険は関係ありませんので、整形外科や接骨院などに比べるとかなり高額の負担になります。しかし、「いつまでも辛い思いをしなくてすむのになぁ」とついつい思ってしまいます。