ゆめとわのblog

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カテゴリ: 呼吸

 無呼吸症候群を気にされている人は最近増えているようです。少し前まではいわゆる「中年」以降の男性に多い症状と考えられていましたが、今は30歳代の男性や、女性の人でも気になっている人が結構いらっしゃるようです。
 また、「しゃべり」に関して、滑舌が悪い、喋っていると息苦しくなってしまう、大きな声が出せない、発声が長く続けられない等々、困っている人もいらっしゃいます。

 今回は、舌に関係して、私が気になること、また最近発見したことなどを説明させていただきたいと思います。

舌のトレーニングは要注意

 無呼吸症候群に対する対処法として舌を大きく出したり、回したりするトレーニング方法が有効であるという情報があるようです。
 そのトレーニング法について、「どう思いますか?」と度々聞かれます。
 そして、この問いに対する私の応えは一貫して「止めてください」です。

 無呼吸症候群の原因の一つとしまして、舌(舌筋)がたるんでいるので、寝ている間にそのたるみが気道に落ちてきて、気道を塞いでしまうために無呼吸状態になってしまうというのがあります。
 ですから対策として、舌筋を鍛えてたるみを解消する必要がある、という理屈のようです。

 そして、その情報通り、真面目に、一年間毎日トレーニングを続けている人(女性)が来店されました。
 この女性の来店の目的は、頭痛と顎周りを中心とした顔面のこわばりと、首肩の張りの解消でした。現在は精神的ストレスもかなり強いとのことで、知らず知らずのうちに噛みしめてしまっているとも仰いました。
 そして、顔のこわばりに対する施術行いながら喉周辺を触ったときに、かなり硬くなっていましたので、「喉周辺が硬いのですが、何かありましたか?」と尋ねたところ、舌のトレーニングの事を話してくださいました。
 「一年間、毎日舌のトレーニングをしていたのでは、喉周辺がこれだけ硬くなるのもわかる」と内心思いました。そして、喉元~舌骨周辺~オトガイ(顎先)にかけのこわばりをじっくりゆるめていきました。
 すると次第に顎周辺~喉元にかけてのこわばりはゆるんでいき、顔のこわばりも解消されて、顔の表情が豊かになりました。首や肩からも力が抜けて「あぁ、ゆるんだあ~!」と仰いました。

 この女性は60歳代ですが、テレビの情報番組を見て「無呼吸症候群にはならないぞ」ということで、舌を大きく出すトレーニングを毎晩数分行っているとのことでした。

 情報番組の情報は、良いような、悪いような、どちらもあると思いますが、気をつける必要があるのだろうと思います。
 普通の人にとって、情報番組の情報が正しいか誤りかを識別することは非常に難しいことです。テレビなどでは、その情報は「正しい」というのを前提としていますし、「テレビが言うのだから、まず間違い」と私たちの多くは思っていますので、つい信じてしまうのは仕方のないことかもしれません。
 ですから、私は、「とりあえず2週間やってみてください」、そして2週間続けても良い効果や変化が感じられないなら、それは止めたほうがいいです、と申し上げたいです。
 からだに対して適切なトレーニングであれば、2週間も続けていれば必ず変化が現れると思います。そして、不適切なトレーニングであれば、速ければその場で、遅くても2週間で、悪い影響が現れると思います。
 今回の舌のトレーニングは、後者(2週間)の方だと思いますが、喉元や顎周辺や顔が硬くなったり、首や肩にコリを感じるようになると思います。

 さて、舌(舌筋)はからだの中でも非常に複雑な筋肉の一つです。
 筋肉には腕や足の筋肉などのように骨格を動かして動作を生み出す「骨格筋」と、食道や胃や小腸・大腸といった内臓系の「平滑筋」があります。
 カエルやカメレオンは舌を長く伸ばして獲物を捕獲しますので、その舌は私たちの手と同じような働きをしています。ですから、舌は骨格筋の側面を持っていると考えることができます。私たちは喋るときに舌を操りますが、それも骨格筋としての性格を現しています。ところが、食べ物を口に入れた後、そしゃくにともなって舌を巧みに使います。そして食塊を嚥下して食道~胃に送りますので、その意味では、舌は消化系の内臓の働きも担っています。ですから舌筋は内臓系の筋肉としての側面も持っています。
 
 ちょっと話は難しくなりますが、手や足を動かす骨格筋は、意志によってコントロールできる随意神経によって支配されています。一方、内臓系の筋肉は意志に影響されない自律神経によって支配されています。ですから舌筋は、随意神経と自律神経の両方の支配を受けている筋肉になります。
 舌筋を鍛えるためのトレーニングで舌を動かし続けたとします。それは随意神経のコントロールですが、舌からしますと普通とは違う種類の随意神経系です。普通は発声したり、喋ったりする種類の神経信号ですが、大きく舌を出し、その状態で大きく動かすのは舌からしますと不自然な神経信号であり行為です。
 このようなトレーニングを続けていますと、やがて舌はその運動を「普通の行為」にするために少し変質するようになります。舌先でいろいろな技をする人がいますが、舌には順応性と可能性があるのだと思いますが、舌筋は変化する可能性に富んでいる筋肉であるとも言えます。

舌を大きく出す行為は舌筋を強く収縮させる行為です。

 舌のトレーニングによる舌筋の強い収縮行為が1回、1日、1週間、あるいは2週間であれば、まだ大きな問題を起こすようなことにはならないかもしれません。ところが、半年、1年と続けていますと、それはある種の変化を固定化してしまう危険性があります。形状記憶に似た状態をもたらしてしまうとも考えられます。
 毎日のようにトレーニングを継続していますと、舌筋はこわばった状態になり、それがやがて固定化してしまいます。そして、そのこわばりはやがて周囲の組織に影響を及ぼすようになり、喉(甲状軟骨、甲状腺)や顎関節周辺や顔面の筋肉にこわばりをもたらすことになります。そして、それがからだのいろいろな不快感や不調を招いてしまう可能性があります。
 舌が強くこわばったり、あるいは反対にゆるんだりして働きが悪くなりますと、それは当然、自律神経経にも影響を及ぼします。スムーズな嚥下ができなくなったり、呼吸が不調になったりする可能性も考えられます。(現に、舌の問題で呼吸が悪くなっている人はたくさんいます)

 わざわざ無理なトレーニングをしなくても、普通に食べて、普通に喋っているだけで舌はたくさん動きますので、それで十分だと私は思います。本来、私たちのからだはそのようにできているはずです。
 誰とも会話することなく、食事でのそしゃくも不足しているのであれば、舌のトレーニングは或る程度必要かもしれませんが、そうでないのであれば全く必要ないと、私は考えています。

舌のトレーニングより、舌の位置が大切

 無呼吸症候群に関して、舌が気道を塞がないようにするためには、舌の位置とむくみの無い状態の方がよほど大切であると私は考えています。そして、現に、そのような結果がもたらされています。
 以前に取り上げたことですが、舌の位置は呼吸と喋りにとって重要です。舌が正しい位置にある人は、口を閉じてリラックスした状態でも口蓋(口の中の天井)を少し押し上げるような状態になっています。それは上顎骨を微力ながら持ち上げている状態ですので、鼻骨も上がり副鼻腔に空気を通しやすい状態にします。また、そしゃく筋など顎に関係する筋肉を作動させなくても口を閉じていられますので、頭部もゆるんだ状態なり、呼吸に合わせて頭蓋骨が拡がることを可能にします。つまり、静かでゆったりとした呼吸が可能な状態になります。

 これとは反対に舌の位置が下がって下の歯を押してしまうような場合(低位舌)は、そしゃく筋を脱力させた状態では、口が開いてしまいますので口呼吸になってしまいます。口呼吸を避けるために口を閉じようとしますと、顎先やそしゃく筋を収縮させることになりますが、それは顔に力が入った状態であり、頭部も硬くなります。上顎骨も下がり鼻骨も下がりますので、副鼻腔には空気が入らず、ゆったりリラックスした良質の呼吸は望めなくなります。
 また、舌の位置が下がっていることは、舌に締まりがなく、ゆるんでいることでもあり、そのゆるんだ舌筋が気道に落ちて無呼吸になる可能性も考えられますし、イビキをかく可能性も高まります。

 さらに、無呼吸症候群を考えるときに、舌のむくみも気になるところです。
 東洋医学では「舌の大きさ」を体質を診断するときの尺度の一つとしています。舌は心臓と関連性のある器官とされていますが、体質が弱くなりますと舌が腫れて大きくなり、口からはみ出すようになると考えられています。そしてその目安が「歯痕(しこん)」と言いまして、舌が歯を押してしまうために舌の縁に歯型がついてしまう状況です。鏡の前でご自分の舌をだして観察したときに、歯型があるようでしたら注意が必要です。
 舌がむくんで大きくなった状態は、当然気道を塞ぎやすくなりますので無呼吸症候群やイビキの原因になります。
 ですから、舌のむくみを解消しなればなりませんが、舌だけのむくみを改善することは不可能です。東洋医学では舌と心臓が密接な関係にあると申し上げましたが、即ち、心臓の働きも含めて全身的にむくみを改善する必要があります。
 (参照 循環のポイント‥‥鎖骨下静脈と鼡径部
 あるいは、口の中で「舌が邪魔」なほどに余っているように感じるのであれば、心臓の状態についても確認する必要があるかもしれません。

舌や周辺の動きに関して大切な首の筋肉

 何年も舌の動きと喋りに関して苦しんでいる青年がいます。まともに喋ることができなくなってしまったきっかけは、英語の発音練習をしていて、かなり舌に無理を強いてしまったことだと本人は仰っていますが、確実なところはわかりません。
 喋ることができなくなって、病院(言語聴覚士)やボイストレーニングのところなどを頼ったそうですが、何の改善も見られなかったようです。
 現在は、舌の動きも戻って言葉は普通に喋ることができるのですが、喋りながらのブレス(息継ぎ)ができないので、息苦しくなって喋れなくなるといった状態です。
 この青年は、長年の苦労によってか、あるいはトラブルを起こしたときのトラウマによるものか、舌や喉を動かすときに、どうしても口先から喉元にかけての部位しか動かさない癖になっています。

 ここで構造的な話題になりますが、学問的な見解として、舌と喉を動かす筋肉は舌骨を境にして二つの群に分かれています。舌骨は喉仏(甲状軟骨)のすぐ上にありますが、舌骨から頭蓋骨の下顎にかけての筋肉群を舌骨上筋群、舌骨から胸にかけて筋肉群を舌骨下筋群と言います。



 顎を開いて開口する場合、顎を閉じる働きをするそしゃく筋がゆるんで伸びますが、同時に、舌骨から下顎骨に繋がっている顎二腹筋(前腹)と顎舌骨筋、そしてオトガイ舌骨筋が収縮して下顎を舌骨の方に引き寄せます。
 また、食物を嚥下して食道に送る際は、食塊を飲み込む最初の段階で一度喉仏(甲状軟骨)が上にあがり、そして下がって「ゴクン」という嚥下動作が完了します。
 この嚥下動作では舌骨上筋群と舌骨下筋群が協働して舌骨と喉仏(甲状軟骨)を動かすことになります。そして唾を飲み込んだり、発声で声帯を動かしたりするときにも、同じように舌骨上筋群と舌骨下筋群が協働して甲状軟骨を動かします。(声楽家の喉仏が大きく上下に動くのはビックリしますが、これらの筋肉の働きによるものです)
 ですから、舌骨上筋群と舌骨下筋群、そして口を閉じる働きをするそしゃく筋の状態が良ければ、舌に関係する動作は滞りなく行えるという理屈が成り立ちます。
 ところが、実際は、それだけでは事足りません。

 舌と喉を動かすためには、僧帽筋や頭板状筋など首の背面の筋肉がしっかり働ける状態にあることが必要になります。

 頚部(首)を前後二つに分けたとき、舌や舌骨や喉、舌骨上筋群や舌骨下筋群は前側にあります。そして僧帽筋や頭板状筋、肩甲挙筋は後側に属しています。(胸鎖乳突筋も後側に属している筋肉と考えます)
 舌や舌骨、甲状軟骨に直接繋がっている筋肉のすべては前側にありますので、前側の筋肉の働きだけで、そしゃく、しゃべり、嚥下などの動作は完了できると理屈ではそうなります。しかし、実際は後側の筋肉が働かないと前側の筋肉がスムーズに働くことはできません。

 話を青年に戻しますが、彼は現在、毎日そしゃく筋や舌骨上筋群や舌骨下筋群を意識的に動かすように努力しています。顎の使い方を工夫したり、息の吸い方や吐き方を自分なりに調整しながら、昨日より今日、今日より明日、ちょっとずつでも前進しようと努力し続けていますが、どうしても首の前側だけに意識を向かわせてしまいます。
 「もっと首の後側を意識して顎を動かしてみて」とアドバイスするのですが、首の後側の感覚が乏しいので、使い方がまったく解らないと言います。

 通常、口を開いて下顎を下げるとき、鼻から息が入ってきますが、この時に同時に僧帽筋がゆるんで肩甲骨が少し下がります。そして頭板状筋は収縮して首の後面をしっかり支える働きをします。もし、頭板状筋が収縮できなかったり、あるいは僧帽筋(上部線維)がゆるまず肩甲骨が下がらない状態になりますと、顎を上手くゆるめることができず、顎を開いても鼻から息を取り入れることができません。

 この状態をそしゃく動作で説明しますと、一般的にそしゃくは「モグ・モグ」ですから、口を閉じた状態のままで顎だけ上下左右に動かしています。
 例えば「モグ」の「モ」のときに顎を開いて、「グ」の時に顎を閉じたとします。普通であれば、「モ」のときに鼻から息が入り、「グ」の時に鼻から息が出ていきます。このような仕組みになっていますので、口を閉じたまま「モグ・モグ」していても息苦しさを感じません。
 しかし、これができない状態ですと、「モグ・モグ」していると苦しくなってしまいますので、口を開けて「クチャ・クチャ」そしゃくするようになってしまいます。

 喋るときも同様です。私たちは喋りながら(=息を吐きながら)、無意識に、合間合間で瞬間的に吸気を行っています。それをブレスと言いますが、効率よいブレスを可能にするためには、首の後側の筋肉の働きが不可欠になります。その他に舌や鼻が下がっていないこと、舌骨筋群の状態が良いこと、頭皮や頭部の筋筋膜が硬すぎないことなどが条件になりますが、僧帽筋をはじめとして、後頚部の筋肉の状態が隠れた要となります。

 この青年が、どうアドバイスしても上手くブレスができず、すぐに息苦しくなってしまい、喉元の動きばかりを気にするようになってしまいますので、究極の策としまして、ベッドにうつ伏せになった状態で顔だけ上げた状態になってもらいました。普通に見ますと姿勢の悪い格好ですから、良いことだと思われませんが、後頚部の筋肉を収縮した状態にしたかったので、あえてこの格好をしてもらいました。

 すると、これまで長い間の苦しみが何処かに行ってしまったかのように、ごく普通に喋ることができるようになりました。後頚部の筋肉を収縮したままの状態にしたわけですが、それによって前頚部の舌骨上筋群、舌骨下筋群、舌筋がリラックスして使えるようになり、ブレスもごく普通にできるようになりました。そして長い時間喋り続けることが可能になりました。
 後頚部の筋肉を収縮させたことで、頭部と頚部をしっかり支えることができる状態になったのですが、それによって鼻腔が拡がり、自然と顎から力が抜くことができるようになったことも要因の一つだと思います。そしておそらく、頭板状筋を収縮させたことで僧帽筋をゆるめることが可能になり、開口と同時に息が吸える状態になったのだと思います。

 「この首の後側の使い方を、からだで覚えて‥‥!。これまでとは全く違った感覚だと思うけど、今までの使い方の癖を脱するために、うつ伏せになり、声を出して本を朗読するなどして、首全体を使って舌を動かす感覚を覚えて欲しい。」と申し上げました。

 その後、うつ伏せ状態を解除して、座った状態になりますと、やはり上手く使えなくなり、息苦しさが戻ってしまいました。しかし、また一つ、前進のための光明が見えました。
 後頚部の状態がこんなにも舌やその周辺の動作に影響を与えるとは私自身思っていませんでした。良い発見ができたと思っています。



 これまで舌についても何度か取り上げてきましたが、私はやはり、とても重要なものだと考えていますし、舌の重要性を益々感じるようになっています。
 舌は味を感じる感覚器官の一つであると同時に、喋りやそしゃくや嚥下の要ともなる大切な行為器官でもあります。
 ですから、大切に、大切にしてください。
 妙なトレーニングなどして舌を壊さないでください。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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 私は神奈川県小田原市在住ですし、店舗も同市内にあります。小田原名物は小田原城と蒲鉾かもしれませんが、箱根の玄関口のような場所でもありますので、観光に来られる人達がかなり多い街です。
 小田原駅前で土産物店を経営している50歳代の男性Hさんは、夏休みや年末年始など繁盛時期になりますと、忙しさにからだが悲鳴を上げてしまい疲れを癒したいと来店されます。平成30~31年に掛けての年末年始には、かなり体調を悪くして病院通いをするようになってしまいました。私のところにも例年になく、毎週のように来店されていました。一月が終わる頃になりますと、体調も回復され、来店することもなくなりましたが、先週に電話が入りました。
 「夏休みになったので忙しくなったのかな?」とも思いましたが、例年はお盆明け頃に来店されることが多いので、ちょっと不思議に思っていました。
 昨日(7/30)、Aさんが来店されました。すると「6月に入って自律神経がおかしくなったのか、全然ご飯が食べられなくなり、激痩せして非常に辛く、仕事をずっと休んでいる状態です。」「今月の半ば頃になって、やっと病院で処方される栄養剤が飲めるようになり、体重が少し戻ってきたのですが、ご飯は全然食べる気になれなくて‥‥。心療内科にもかかったんですが、薬を処方されても全然良くならなくて。」と話されました。

 Hさんはビックリするほど生気に乏しく、顔色も顔つきも悪く、今にも倒れ込みそうな感じでした。私の店から徒歩で5分くらいの所にお住まいですが、何とか私のところまで歩くことができ、「ようやくたどり着いた」という感じでした。

 このような場合、何をどうしてあげれば良いだろう? と、一瞬躊躇するような思考が湧き上がります。
 しかし、「ともかく、からだをよく観察するところから始めよう」と考え直して施術を開始しました。
 うつ伏せの状態になっていただき、首肩周りをじっくり揉みほぐすことから施術を始めましたが、揉みほぐしながら背中の状態、肋骨の動き、そして何より呼吸の状態を慎重に細かく観察していきました。
 ところで、「ご飯が食べられない」というキーワードは「胃の不調」を連想させます。胃の不調は背中の張りとなって現れることが多いのですが、背中の張りはそれほどではありませんでした。ですから、胃自体が悪いということではないように思いました。
 「自律神経」は内臓を動かす神経のことです。世の中の多くの人は「自律神経の不調=ストレスや精神的問題」と連想されるようで、Hさんも当初受診された内科で自律神経の問題を指摘されたために、心療内科を受診するに至りました。自律神経と心理や精神は直接的に結びつく関係にはありません。自律神経と胃の不調は直接結びつく関係にあります。なぜなら自律神経は内臓をコントロールする神経のことだからです。このあたりの認識につきましては、お医者さんがもっとしっかりと周知させなければならないことだと思います。自律神経失調=心理的ストレス、精神安定、鬱、心療内科などと結び付けて認識している人が多いのは巷の情報が誤っているからですが、大事なことなので、積極的に誤りを正し、正確な情報が広まるようにしていただきたいと思います。

 ところで、Hさんの呼吸は非常に悪い状態でした。「この呼吸では自律神経は不調になってしまう」と私は感じました。
 自律神経は、その字の現すように、私たちの意志の影響を受けることなく、言わば「勝手に動いている神経」のことです。(不正確な表現ですが)興奮状態をもたらす交感神経とリラックス状態をもたらす副交感神経のバランスによって血管や内臓をコントロールして私たちの生理機能を維持している神経ですので、原則的に私たちの意志ではどうにもできません。血圧のコントロールも自律神経の担当ですが、「血圧を下げたい」、あるいは「血圧を上げたい」と念じたところで、そのようには働いてくれません。
 ですから、おそらく現代医学の領域では「薬によって自律神経をコントロールする」ということが定説になっているのだろうと思われます。
 ところが、伝承とか伝統医学的考え方に立ちますと「呼吸や生活習慣によって自律神経のバランスを整えることは可能である」ということになります。
 ヨガ、丹田呼吸、剣術や武術、合気道、気功、太極拳‥‥、これらは呼吸の可能性を追求する側面を大いに持っています。ですから、伝統的に自律神経を整えて健康を実現する手段でもあると言うことができます。

 話題をHさんに戻します。からだを観察した結果、私が感じたのは、まず何よりも呼吸の状態を良くすることから始める必要があるということでした。
 呼吸の状態が良くなれば「全身がダメ」という状況から脱して、「どこが大元の原因になっているのか?」という肉体面でのウイークポイントが見えてくると思ったからです。今はともかく全身的に活力をアップすることが大事で、食事が摂れて、眠ることができる状態になってもらうことが何よりも必要なことだと感じました。
 そして、そのためには一にも二にも「呼吸」を整えることから始めるべきだと思いました。

よい呼吸とは

 ところで、どんな呼吸が良くて、理想的なのでしょうか?
 生まれたときから死ぬときまで、心臓の働きと呼吸は一時も止むことがありません。そのくらい身近なものですから、普段は呼吸について考えることはないと思います。
 ところが喘息や過呼吸や息苦しさなど、呼吸系のトラブルを経験しますと、私たちは呼吸について考えるようになります。そしてインターネットやテレビや雑誌や本などからいろいろな情報を得て「どれが最も良いのだろう?」と考え始めます。そして迷いが生じるかもしれません。

 「やっぱり腹式呼吸が最も大切で、そのためには横隔膜の働きが重要で、横隔膜を鍛えるにはどうしたらよいのだろう?」と質問してきた青年がいました。
 「腹式呼吸ができていれば、胸式呼吸はおろそかになっていても良いと考えているのですか?」と聞いてみました。
 すると「胸式呼吸よりも、いろんな意味で腹式呼吸を優先させるべきだと本にありましたよ。横隔膜はどう鍛えたらいいのですか?」と仰いました。
 このような思い込みを持たれている人は、もしかしたら多いのかもしれません。私自身、この仕事に携わっていなければ、そう思っていたかもしれません。
 「腹筋は鍛えてもよい筋肉ですが、横隔膜は鍛える必要のある筋肉ではないですよ。働きが良い状態になるように整える、というのが正解だと思います。」
 「腹筋を鍛えるように筋力トレーニングなどをして、万一こわばった状態になってしまいますと、横隔膜がゆるむことができなくて息を深く吐き出せなくなるかもしれません」
 「息が深く吐き出せないということは、古い空気(二酸化炭素)が肺に残ってしまったままの状態になるということなので、それはそれでからだに悪い影響を与えることになりますよ」と申し上げました。

 私が呼吸を観察するポイントは下記のように5つくらいあります。

  1. 頭蓋骨が呼吸に合わせて動くかどうか? 副鼻腔に吸気は通っているか?
  2. 鎖骨や胸郭の上部(肋骨)が吸気に合わせて大きく緩やかに動いているかどうか?
  3. 胸郭下部と横隔膜がうまく連動して腹式呼吸が行われているかどうか?
  4. 呼吸に合わせて骨盤が動いているかどうか?
  5. 吸気と呼気の流れが頭から足ま連動性をもって一繋がりになっているかどうか?

 呼吸運動が肺に酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する、ガス交換を行うためだけの役割であれば、上記の5項目の中の1つでも行われていれば、それで大丈夫です。窒息することはありません。
 ところが、それでは決して健康とは言えません。5項目を全部達成できないとしても、健康を維持したいと考えるのであれば①~③までは必ず実現しなければならないと私は考えています。

 一つ一つを要点だけ簡単に説明してみます。

  1. 本来、吸気の過程に合わせて頭蓋骨と骨盤は拡がる仕組みになっています。鼻から吸った空気は副鼻腔を通過しますが、それに合わせて側頭部が拡がります。そして、この頭が拡がる動きに合わせて脳内の血流がアップするように私は感じます。
     目の疲労や噛みしめなどによって側頭部の筋肉(=側頭筋)や頭皮(筋膜)が硬くなっていますと、頭蓋骨は動きませんので、副鼻腔に吸気を通すこともできませんし、脳内の血流もアップしないと思われます。すると脳が酸欠状態に近づきますので、頭がボーッとしたり、常に眠気に襲われたり、集中力がないために考え事ができなかったりという状態になってしまう可能性があります。


  2. 胸式呼吸のスタートは、鎖骨と胸郭上部(第1~第3肋骨)が上がりながら拡がる動作から始まるのが正しい状態だと思います。
     長い会話での瞬間的な息継ぎ、テンポの速い歌を歌っているときの一瞬のブレス、それらを行うためには瞬時に鼻腔を通して肺に空気を入れる必要があります。ゆっくりと腹式呼吸をしていたのではタイミングが遅れてしまいます。この意味でも、腹式呼吸だけでなく胸式呼吸も同じように重要であると言うことができます。


      100メートル走やマラソンなどで一生懸命走った直後は、息を切らせてしまったためにゼイゼイと肩を揺らした激しい呼吸を行いますが、それがここで言う胸式呼吸というわけではありません。安静時でも、息を吸ったときに鎖骨や第1~第3肋骨あたりが盛り上がるように動いて拡がるようになるのが望ましい状態です。

     胸式呼吸が上手くできない状態では、喋っていてもすぐに息苦しくなりますので「長い会話はしたくない」と思ってしまうかもしれませんし、すぐに溜め息をついてしまうようになるかもしれません。

  3. 肋骨と横隔膜と腹式呼吸
     腹式呼吸の中心は横隔膜です。横隔膜を動かす神経は頚椎にあります。
     カエルは息を吸うときに首を大きく膨らませますが、私たちの場合、その仕組みが胸の下まで降りてきて横隔膜になっているということです。


      横隔膜は胸部と腹部の境界ですが、ゆるんだ状態では天井が高いドーム状になっています。息を吸う動作に合わせて横隔膜は収縮しますが、すると天井が下がってきて横隔膜の上にある肺は膨らむようになります。この仕組みを利用して肺に空気が入る仕組みになっています。そして吸気時にドーム状の天井が平らになるように下がるわけですから、横隔膜の下にある胃と肝臓と大腸(横行結腸)などの内臓器官は圧迫されることになります。ですから、息を吸うときにお腹が膨らんで、息を吐くときにお腹が凹むようになるのが普通の腹式呼吸の正しい在り方であると言えます。(特殊な腹式呼吸もあると聞きます。)

     ところで、横隔膜は胸郭(肋骨)を足場にして伸縮を繰り返す筋肉です。ですから、肋骨や胸椎が歪んでいますと筋肉の働きが悪くなることがあります。

     腹式呼吸が上手くできない人に対しては、神経的な面で頚椎の歪み、筋肉の働きの面で肋骨、胸骨、胸椎を確認しますが、第7胸椎あたりの歪みは腹式呼吸に強い影響力があるようです。座った状態で第7胸椎を整えますと、スーッと大きく肺に空気が入って腹式呼吸が上手くできるようになることが多いです。

     尚、腹式呼吸で息を吐くときには腹筋が収縮して胸郭を下げる動作が必要になります。ですから腹筋の働きが悪い状態ですと、最後まで息を吐き出すことができない、長く息を吐き続けることができない、などの状態になってしまう可能性があります。そしてお腹の冷えは腹筋の働きを悪くする最も多い理由ですし、人によっては筋力不足が原因である場合もあります。


  4. 呼吸と骨盤の動き
     呼吸(肺呼吸)運動の中心は胸ですから、上記の①~③までの状態に問題がなければ、「呼吸に問題がある」といった状況にはなりません。ところが、「しっかり寝ているのに疲れが取れない」「ストレスを解消することができない」「からだがスッキリしない」「リラックスできない」という症状を感じてしまうかもしれません。

     からだの中心は骨盤です。そして骨盤は上半身と下半身の交流場所でもあります。骨盤が固かったり、歪みが大きかったりしますと、上半身と下半身の連絡が分断された状態になりやすくなります。

     例えば、デスクワークで一日の長い時間を座り続けた状態で過ごしますと、骨盤が椅子の座面に接する坐骨周辺や骨盤底(会陰)が固くなってしまいます。すると骨盤は後傾気味になってお尻は下がりますが、上半身が呼吸に合わせて大きく動いていても骨盤は無関係な状態、「上半身だけ勝手にやってて」というような状態になってしまいます。

     このような状態の人に対しては骨盤底や坐骨周辺がゆるむような施術を行いますが、そうしますと速やかに呼吸の波に合わせて骨盤が躍動する感じになります。そして呼吸のリズムが変わります。それまでは「息を吸って~、吐いて~」という呼吸の往復運動が鼻~お腹までで折り返していたものが、鼻(頭)~骨盤までに伸びますので、リズムがゆったりとしてきます。そして、この状態がしばらく続きますと、からだはどんどんリラックス状態になっていきます。

     いつもこのような状態でいることは難しいかもしれませんが、なるべくこのような状態を保ったまま眠り続けることができれば、疲れは解消し、頭もスッキリして、ストレスも何処かに消えてしまうかもしれません。

     赤ちゃんや幼い子供たちは、スヤスヤと気持ちよさそうに眠りますが、呼吸に合わせて骨盤もきっと動いていることでしょう。


  5. 頭~足まで、一繋がりの呼吸
     本来、呼吸運動は「波」です。そして理想的な呼吸の波は、頭の天辺から足先まで一繋がりで流れていきます。
     鼻孔~副鼻腔を通して取り入れた吸気は脳下垂体の前面をかすめるようにして咽頭に送られ気管をとおして肺に入っていきますが、この一連の運動は胸鎖乳突筋が収縮して鎖骨と胸郭を持ち上げ、外肋間筋を作動させて胸郭を拡げる一連の運動を誘発します。同時に横隔膜が収縮して腹筋がゆみ、お腹が膨れる腹式呼吸が行われますが、その流れは骨盤に拡がり、足先やふくらはぎに溜まっている静脈血やリンパを骨盤の方に引き上げる働きを誘発するようになります。

     股関節(鼡径部)や膝関節や足関節(足首)などに問題がなければ、?の骨盤の動きに合わせて、下半身の血液やリンパが動いて鼡径部まで戻る道を進みます。その状況は観察眼を鍛えることでしっかり把握することができますが、このような状態こそ理想的であり、呼吸によって「リラックス→浄化」が実現できる段階だと思います。

     足先にあった古い血液や古いリンパ液が他の老廃物などと一緒に回収されることになりますが、外呼吸(肺呼吸)と内呼吸(細胞呼吸)が一体化した状態であり、私たちに生来内在している「呼吸の力」の偉大さや深遠さを感じることができると、私は感じています。

頭の硬さ

 私はHさんの呼吸状態がまず上記①~③をクリアできる状態になることを目指して施術を行いました。自律神経を整えるための第一歩は呼吸を整えることだと考えているからです。
 しかし、頭の側頭部と後頭部が異様に硬い状態で、①の頭が呼吸に合わせて拡がるような動きはなかなか実現できません。
 側頭部が硬い理由は「食いしばり」です。この一月間、よっぽど辛かったのだと思います。肉体的辛さに耐えるために歯を食いしばって頑張っていたのだと思いました。
 後頭部~首のつけ根に掛けての異様な硬さはかなりのもので、普段はなかなかお目にかかることのできないほどのものでした。「どうしたら、こんなに硬くなるのだろう?」と思いながらも、この硬さがゆるまない限り頭に血液が行き渡らないような感じがしました。
 20分間くらいは、側頭部と後頭部の硬さをゆるめるためだけの施術を行いましたが、本人も痛かっただろうと思います。

 今回は60分間の施術でしたが、施術を終えると顔色はだいぶ良くなっていました。目つきや顔つきも戻ってきて、普通の状態の時の雰囲気になっていました。
 ただ、心はまだ落ち込んだままで、光の見えない暗闇の中にいるような、そんな感じに見えました。
 「また、近いうちに必ず来てください。まだまだ調整しなければいけないので。」と申し上げました。

翌日の来店

 翌日の夕方、Hさんから電話が入りました。「今日も、昨日のような施術をお願いしたいのですが‥‥」という内容でした。
 来店された時の様子は、昨日の施術直後の感じとは違っていました。
 「その後、どうでしたか? 今日はどんな調子でしたか?」と私は最初に尋ねました。
 冴えない様子で
 「今日は一日中頭(後頭部)が痛くて‥‥」
 「そして、いろいろな感情が湧き上がってきて‥‥。友人から電話が入ると、それだけで泣けてきたり‥‥、ともかく自分の感情を抑えるのが大変で」
 と仰いました。精神的落ち込みが強まったとも考えられましたし、あるいは、うつ状態で無感情に近かった状態から少し解放されて、感情が表に出てきたとも考えられました。そのあたりにつきましては何が正解か、私はよく解りませんし、担当分野でもありませんので、早速昨日と同じように首肩を揉みほぐすことから施術を開始しました。
 相変わらず後頭部から首にかけては張りが強かったですが、その他のところ、肩、背中、腰部から殿部、下半身などは、前日の状態とは変わっていて緊張感がかなり緩和していました。当然呼吸についても観察していましたが、「まあまあできている」と言った感じでした。
 そして昨日と大きく違っていたのは、Hさん自ら施術を受けながら会話を始めたことです。6月28日に真鶴(車で30~40分くらいの所)までラーメンを食べに行き、楽しみにしていたラーメンの味がまったく感じられないことに気づいたことから症状を認識し始めたということです。味覚がわからなくなり、頭がボーッとし始め、時々記憶が飛んでしまう症状が現れ、どんどん体調が悪くなり食事もできなくなって、あっという間に10㎏以上痩せてしまった、というような話をうつ伏せ状態で施術を受けながらしてくれました。
 その後、仰向けになっての施術を行いましたが、会話は途切れることなく、合計40分間くらいは会話をしていた感じでした。
 ここまで会話が継続してできるようになったということは呼吸状態も良くなってきたと判断することができます。私の見解では、自律神経回復のための第一歩はクリアできたということです。
 味覚の問題、頭痛の問題、記憶がところどころ飛んでしまう認知症に近い状態、食欲の問題、不眠の問題などを考えますと脳神経、脳幹、脳への血流などが頭に浮かんできます。また、食いしばりによるそしゃく筋の強いこわばりは頭痛の原因の一つであり、脳への血流にも関係ある事柄ですが、「どうして食いしばってしまうのか?」という課題も解決していかなければなりません。

 施術のおわりに、顎関節周辺がコチコチに硬くなっていることを認識していただき、指圧して、あるいは大きなあくびをして、硬くなっているそしゃく筋を少しずつでもストレッチしてほしいと申し上げました。



 今は3日目の8月1日、18時ですが、Hさんからの電話はありませんので、本日の来店はないと思います。状態が少しでも落ち着いていれば良いのですが‥‥。

 この度は具体例としてHさんを引き合いに出しましたが、私が申し上げたかったことは、「自律神経と呼吸は関係が深いですよ」ということです。
 自律神経系のトラブルに対し、現代医学では脳や血管の活動に働きかける薬で対応していますが、その他にも呼吸状態を良くすることで対応できることも知っていただきたいと思いました。
 薬は飲み続けているうちに、からだに耐性ができ「量を増やさなければ効かない」という状態を招く可能性があります。それは、漢方薬であっても同じだと思います。
 薬の効きが悪くなるという状況になりますと、「自分の状態が悪化しているのではないか」という不安に襲われるかもしれません。そうしますとマイナス思考に陥って負のスパイラルにはまり込んでしまう危険性さえ出てきます。
 ですから、別のアプローチとして「呼吸状態を良くする」という手段があることを知っていただき、薬と呼吸の両面で対応していただくのが良いのではないかと思います。

足つぼ・整体 ゆめとわ
電 話  0465-39-3827
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 今年の梅雨はここ数年とは違った様相で、梅雨入りする直前は気温の高い日も続き「今年も猛暑なのかな~」とガッカリした気持ちになりました。ところが梅雨入りしてからは気温がガクンと下がり、肌寒い日が何日か続きました。この気温の大きな変化にからだが適応しきれず、体調を壊した人も多かったようです。
 今回は「天候不順によって感覚と呼吸状態が悪くなってしまった」という話題です。

 毎週来店されています女性のAさんは、「胸の周りが突っ張って苦しく、肩こりもいつもより酷く、体調が悪い」と訴えました。細身のAさんは日頃から胸回りが不快になりやすい傾向がありますが、今回はいつもより状態がかなり悪いということでした。
 からだを観察しますと、呼吸をしていても胸郭はほとんど動かない状態でした。そして肩甲骨がいつもより下がっていて骨盤方向に近づいていました。僧帽筋を触りますとゆるんだまま収縮しない状態でした。

 肩甲骨が本来の位置よりも下にあるということは、首筋の筋肉(肩甲挙筋)や背中の筋肉(菱形筋)に辛い状態をもたらしますので、肩甲挙筋と菱形筋は緊張してこわばります。そして、それが「辛い肩こり」として感じられたのだと思います。

脳神経の中の副神経

 脳神経は脳幹僧帽筋をコントロールしている神経を副神経と呼びます。副神経は脳幹にあります脳神経の一部ですが、僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配しています。

 Aさんの場合、副神経の働きが悪かったようで、僧帽筋の収縮力が乏しい状態になっていて肩甲骨が下がっていました。そして胸鎖乳突筋の働きも悪かったので鎖骨も胸郭も下がった状態になっていましたが、胸鎖乳突筋と連動して胸郭を動かす外肋間筋と内肋間筋がほとんど働かない状況でした。ですから胸式呼吸がほとんどできない状態でした。
 私たちは普通の状態では無意識のうちに呼吸を行っていますが、それは横隔膜を中心とする腹式呼吸と外肋間筋と内肋間筋を働かせて胸郭を拡げたり狭めたりする胸式呼吸の両方を行っています。そしてどちらかがうまく行かなくても息苦しさを感じますし、実際、酸欠状態のような症状をもたらすこともあります。

 Aさんは胸式呼吸が行えず息苦しさを感じていましたので、普段以上に息を吸い込むことに意識を向けて胸を開こうとします。ところが肋骨は反応してくれませんので、Aさんの思いからしますと「胸(胸郭)の周りの筋肉や筋膜が突っ張っているために息が気持ちよく吸えない」と感じてしまったのだと思います。
 そしてこれらの問題を解決するためには、副神経の働き、つまり脳幹の働きが本来の状態になるように整えることが必要です。それによって僧帽筋の働きが戻って肩甲骨の位置が整い、胸鎖乳突筋の働きが戻って鎖骨と胸骨の位置が整うのと同時に、外肋間筋と内肋間筋が働きが戻ってくると私は考えました。
 Aさんが訴える症状、すなわち「首肩の強いコリや張り」「胸回りが突っ張って苦しい」の二つは脳幹の働きを整えることで一挙に解消されると感が増して、そのような施術を行いました。

仙骨周辺への施術‥‥オステオパシーと自然現象

 私たちの業態の一つにオステオパシーと呼ばれる考え方と方法(技術)があります。オステオパシーの詳細につきましては、私は無知に等しい状態ですので語ることはできませんが、その技術の一つに「頭蓋骨調整法」があります。説明によりますと「頭蓋骨にやさしく触れ、縫合を整復し、脳脊髄液の流れを促進させ、中枢神経系の働きを高めることにより、様々な効果を期待できる技術です」とあります。
 そして、今回のAさんのケースではこの「頭蓋骨調整法」が頭をよぎりました。そして私は、「もしかしたら大きな気温の変化で骨盤が冷え、脳脊髄液の流れが悪くなったために脳幹の働きが低下しているのかもしれない」と考えました。そこで頭蓋骨ではなく仙骨と尾骨の境辺りを中心に、手を当てたり擦ったりしてみました。5分間くらい施術を続けていましたが、すると僧帽筋と胸鎖乳突筋の働きが戻り、肩甲骨と胸郭の位置が整っていきました。ベッドにうつ伏せの状態でしたが、呼吸の度に胸郭が動くようにもなりました。

 仙骨部への施術を行った理由についてもう一度整理して説明させていただきます。

  1. 肩甲骨が下がり、胸式呼吸ができない原因は、脳神経の中の副神経(僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配)の働きが鈍っているからだと考えました。
  2. 脳神経は脳幹の働きに依存していますので、脳幹全体の働きを本来の状態に戻そうと考えました。そのために私ができる範囲のことは、血流(椎骨動脈→脳底動脈)と脳脊髄液の流れを整えることですが、今回は自然現象(天候)による影響が怪しかったので、脳脊髄液の方に的を絞りました。
  3. 脳脊髄液の流れを整えるための考え方と方法論としましてオステオパシーがあります。その技術の中の頭蓋仙骨療法を参考にしまして、仙骨と尾骨の境目辺りを中心に仙骨部を手当てしたり、擦ったりしました。

 Aさん以外にも、同じように僧帽筋と胸鎖乳突筋の働きが鈍っていて呼吸状態が悪い人が何人か来店されました。目の見え方が悪かったり、顔がたるんでいたり、耳の調子が悪かったりと脳神経の働きに関係する症状を訴えておりましたが、これだけ天候がおかしくなりますと脳に対する影響が具体的に見える形で現れることを知りました。

エアコンによる初夏の冷えに注意

 もう初夏の季節ですから、湯船にゆったり浸かることもなくシャワーだけで済ませてしまう人が多くなってきたと思います。施術後、皆さんに入浴について尋ねますが、高齢でないほとんどの人は「シャワーだけ」と答えます。
 もしかしたら湯船に浸かってゆっくり過ごすという習慣を持っているのは私たち日本人だけかもしれませんが、それ故に私たちは湯船に浸かって一日の疲れを癒すとともに、からだを温める必要があるということでもあります。
 今回、私は仙骨部分を擦って温めるような施術をしましたが、それでかなりの改善が見られましたので、からだ(お腹と腰部)を温めれば、天候不順など自然界から受ける悪影響も緩和されると考えることができます。
 そして、エアコンからの風はからだを冷やしますが、この時期はギックリ腰になりやすい時でもあります。また、オフィスでの仕事でむくみが増えたり、目の見え方が悪くなったり、耳や喉の調子が悪くなったりすることが感じられたのであれば、それはからだの冷えに関係があるかもしれません。

 エアコンによるからだの冷えが気になったり、天候不順や気圧変化による影響が気になったりしたときには、意図的にゆっくりと湯船に浸かってみてはいかがでしょうか。脳脊髄液の流れが良くなって不調が緩和されるかもしれません。


 この原稿を書こうと思い始めたのは先週の木曜日(6/13)にAさんが来店され、その終末にかけて来店された人達の何人かが同じような状態だったからです。
 最近は天候も良くなり気温も安定していますので、もう同じような状態の人はそれほど来店されないと思っていました。しかし状態はAさんほどではありませんが、同じような傾向の人がその後も来店されています。
「梅雨時って、こうなのかなぁ?」などと感じているところです。

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 少し前に呼吸のついての文章(「うつ症状‥‥呼吸の改善を」)を投稿しましたが、それを読まれて来店されたのか、遠くから若い青年が来店されました。
 現在抱えている主な症状は以下の通りです。
 ①手のひらと足裏の汗
 ②顔と背中の肌荒れ
 ③唾液が出にくい
 ④のぼせ‥‥イライラすると頭に血が上り苦しくなる
 ⑤話しにくい‥‥ボイストレーニングに通っている

 症状の発症はだいたい同じ時期で、中学性の頃ということです。
 現在の仕事では接客の業務も行っているため、手のひら汗が中でも気になるということでした。
 体型は長身で痩せています。
 過去のケガとしましては、中学性の時の左腕(橈骨)の骨折、高校時代の数々の足首周辺の捻挫などです。

 さて、手のひらと足裏に汗をかきやすいという問題は若い人にけっこう多いのですが、根本的な原因として考えられるのは体質の弱さによるエネルギー不足、あるいは体内エネルギーの廻り方が普通ではない、といったところです。
 「エネルギー不足」と言いますと、対策としては、食事やサプリメントを考えて適切な栄養を摂る、あるいは筋トレなどで体を鍛える、といったことを連想されるかもしれませんが、それは違うと私は考えています。現在の私たちに足りないもの、そして若い人や子供さんにとっては特に気をつけていただきたいことの一つに「ご飯をよく噛むこと」がありますが、哺乳動物である私たちにとっては、“そしゃく”は生命力に直結する大切な大切なことです。
 そして脊椎動物としての私たちにとって最も大切なことは“呼吸”です。生命の灯火が消えると同時に呼吸が止まりますが、呼吸の在り方は生命を維持するためだけではなく、健康を増進して快適に生きることに直結します。
 ですからエネルギー不足を改善して体質を強めるためには、よく噛んで、快適な呼吸状態を維持することが必要不可欠であると私は考えています。特定の栄養摂取や筋トレは、そしゃくをしっかり行い、快適な呼吸が実現できている上で、更にからだを強めるために行われる、という順番が大切だと思います。そしゃくと呼吸が軽視された状態でサプリ摂取や筋トレを行っても上手くいかないのではないかと思います。

 「エネルギーの廻り方が普通ではない」という表現は中途半端に聞こえるかもしれませんが、「異常という状態ではないけれど、正しいとは言えない」といったところです。大きな関節での歪みが悪化しますとこのような状態になります。たとえば、体幹と四肢をつなぐ肩関節と股関節の歪みは全身の循環に影響を与えます。それによって本来渇いているはずの手のひらから水分が出てしまったり、反対に常に潤っているはずの鼻腔や口腔が渇いてしまったりすることがあります。
 そして「精神的緊張が強くなると手のひらから汗がにじむ」ということが起こりますが、精神的な要因でエネルギーの廻り方がおかしくなることはあります。

 以上のことから、この青年を施術するに際し、まず呼吸とそしゃく筋の面から観察し始めました。

 ③唾液がでにくい、④のぼせ、といったことから連想されるのは噛みしめによるそしゃく筋のこわばりです。唾液腺の一つ、耳下腺は咬筋のところにありますので咬筋がカチカチに硬くなりますと耳下腺から唾液が出にくくなります。さらにエネルギーの廻り方がおかしい状態では、本来潤っているはずの口腔が渇いたりしますので益々唾液不足の状態になると思います。

耳下腺01

 のぼせは頭蓋骨の動きが悪いことが原因として考えられます。頭蓋骨は本来、息を吸う時に少し(横に)拡がり、息を吐くときに少し縮むように動きます。ところがそしゃく筋の一つである側頭筋が強くこわばっていたり、頭皮が硬くなっていたりしますと頭蓋骨が動かなくなります。さらに呼吸が悪い状態が重なりますと、脳内の血液の動きも悪くなりますので、頭が血で一杯の状態になってしまうと考えることができます。

 呼吸の面では、腹式呼吸の要である横隔膜がほとんど動かない状態でした。胸郭は薄く、横に広がった状態で全部の肋骨が下を向いていました。呼吸をしていても肋骨はほとんど動かない感じで「息が吸えない」といった感じでした。
 「ともかく息がたくさん吸える状態にすることから始めなければ‥‥」というのが私の直感でした。
 「横隔膜が十分に働けるようになるには、どうすれば良いのだろうか?」そんな思いを持ちながら胸郭を触っていきました。すると左側の第4と第5肋骨が胸骨から少し離れた感じになっているのがわかりまして、それを胸骨に近づけるように私の手で動かしてみました。するとその瞬間に、横隔膜が作動し始め胸郭が大きく開らきました。そして、ここが大事なところなのですが、横隔膜が作動して胸郭が自然に開くことから吸気の動作が始まるようになりました。無理に息を吸い込むのではなく、自然に息が気持ちよく入ってくる状態です。
 呼吸に関しては「肋骨のズレに根本的な原因がある」ことが分かった瞬間です。

 次に「どうして左側の肋骨が胸骨から離れた状態になっているのだろう?」という本質的な原因を探すステップになります。いろいろな症状が出始めたのは中学性の頃で、左腕を骨折したのも中学性の頃、という関連性が疑わしく思えてきました。
 「中学性の時の骨折は、具体的には左腕の何処だったのですか?」と質問をしました。すると橈骨の肘付近と手首付近の2箇所という返事でしたので、早速その辺りを探っていきますと確かに骨折した痕のような感じの弱いところが見つかりました。そしてその部分に手をあてがって補助しますと、胸骨から離れていた肋骨が少し戻って十分とは言えませんが、横隔膜が働き出し胸郭が大きく動く呼吸ができるようになりました。
 私が手を当てていたのは5~6分くらいだと思いますが、その間の呼吸が改善されましたので、顔色が良くなり、リラックスして楽な感じになりました。頭の方も“詰まり感”がなくなったようで、「楽になりました。」と仰いました。

 胸郭が下がっていたことで喉が下に引っ張られ、さらに呼吸が悪かったことで声の出も悪かったのですが、それも改善され“地声”が出て言葉がしっかりするようになりました。
 これまでにも発声や滑舌などに問題があってボイストレーニングに通われたりしている人が来店されましたが、整体的観点での問題が解消されないとなかなか成果が現れないという実態があります。

 この青年が訴えていた五つの症状は、それぞれを別に考えて、一つずつ片付けていこうとしますと迷路にはまっていくような感じになると思います。
 実際のところ今回は、呼吸のみにだけ集中して施術を行いました。「呼吸が浅い、呼吸が悪い」というのは訴えられた症状には入っていませんでしたが、私は、すべての症状は呼吸が悪いことから派生したものだろうと判断しました。そして120分のほとんどを、横隔膜がちゃんと機能するように整える時間に費やしましたが、施術が終わったときには本人が一番気にしていた手のひらの汗の問題はほとんど解消されていました。
 このブログでは、しつこいくらいに何度も何度も呼吸に関する話題を取り上げてきましたが、それは私たちの健康にとって呼吸は何よりも大切なことの一つだからです。

 私たちは常に無意識下で呼吸を行っていますので、「今の呼吸が普通の状態」と考えてしまいがちです。ですから「呼吸が良くなったとしても、それがどれくらい効果的なの?」と思っている人が多いと思います。あるいは「ヨガやストレッチやその他の運動で呼吸については訓練しているし‥‥」とか、「毎日深呼吸しているし‥‥」ということで私が話題に出している鼻呼吸、副鼻腔、横隔膜、肋間筋などといったキーワードには興味を抱かれないかもしれません。しかし、「真に快適な呼吸」を経験されますと毎日普通に行っていた自分の呼吸がとても非効率だったことが理解できると思います。

横隔膜と肝臓
 現在、遺伝性の糖尿病で悩んでいる人が定期的に来店されています。糖尿病の段階にもいろいろあるようですが、まだ合併症に苦しんだり、痩せてやつれたようになっている状態ではありません。少し太り気味で、食欲もあり、外見的にはごく普通に見える感じで、本格的な糖尿病になる何歩か手前の状態だと思います。ただ血糖値はかなり高く、尿タンパクも良い状態とは言えませんので、本人は何とか今より少しでも良い状態を保って、本格的な糖尿病にならないようにと当院を利用されています。
 糖尿病といいますと、膵臓からのインシュリン分泌不良、腎臓の働き低下などが連想されると思います。それらは足と手の反射区を利用して施術を行うことで対応するとしまして、私がこの方に対して最も気になってしまうのは呼吸の状態です。
 生きているわけですから、もちろん息はしています。ところが胸郭が殆ど動かないような呼吸で、息を吸うと下腹だけがプーッと膨らみパッと吐いてしまうような呼吸でした。腹式呼吸と言えば、一見そのような感じではありますが、リズムが本来の腹式呼吸はかけ離れていますし、胸郭が動かないのでは横隔膜を効率的に使う腹式呼吸ではありません。

肝臓の働き2

 以前にも申しましたが、胸郭の右側、つまり胃の右側には肝臓があります。肝臓があって、そのすぐ上に横隔膜があり、その上に肺があります。詳細は省きますが、肝臓は静脈系の臓器です。静脈系ということは自身の力では血液を運ぶことができないという側面があります。肝臓には小腸で吸収された影響が静脈血に混じって全部送られます。そして健康を維持するために必要なあらゆる処理が肝臓でおこなわれるわけですが、その処理された血液は心臓に戻らなければなりません。胃は自らの筋肉を収縮させて食物を次の段階(十二指腸)に送ることができますが、肝臓はそのようなことができません。吸気の時に横隔膜が収縮して肝臓を上から圧迫するわけですが、この原理も利用して血液を前に進め、心臓に戻しています。ですから、肝臓の働きが順調に行われるためには横隔膜の収縮と弛緩が必要です。つまり“ちゃんとした呼吸”がとても大切であると私は考えています。

横隔膜の圧迫による肝臓と大腸

 インシュリンはホルモンの一種ですが、ホルモンはアミノ酸の集合体です。そしてアミノ酸は肝臓でつくられます(タンパク質の分解)ので、肝臓が大切です。からだの維持に必要なあらゆる物質が肝臓で合成されます。血液に混じったあらゆる毒物を解毒するのは肝臓です。
 そういうことから、この方に対しては呼吸、呼吸、呼吸、といった感じで、理想的な呼吸ができるように施術を行っています。
 最初の来店から半年が経過していますが、呼吸の状態も「まあまあ」という感じになりました。血糖値は安定して下がっているというわけではありませんが、けっこう良い数値がつづくこともあるとのことです。尿タンパクの方も改善傾向にあるようです。そのような数値のことは私にはよくわかりませんが、立ち姿がスーッして背が高くなったように感じられ、素肌の血色も良くなって、当初の、重力に押しつぶされているような姿がすっかり変化していることが頼もしく思えています。遺伝性の症状(病気)ということで、克服するのはなかなか大変なことだとは思いますが、少しずつでも改善への道を進んでほしいと思っています。

横隔膜が働くために
 腹式呼吸の主役は横隔膜ですから、大概の人の横隔膜は働いています。しかし多くの人の腹式呼吸では、横隔膜の動きは、言わば「後付け」の感じです。これは正確な表現ではありませんが、横隔膜が積極的に働いて呼吸動作を主導している状態が理想的なのですが、そのような人はそれほど多くはありません。
 呼吸を整えるための施術を行いながら、私は実際に、横隔膜が大きく動き出すことから無理のない深い呼吸が始まる瞬間を見ていますし、よく知っています。冒頭に登場していただいた青年は、ただ肋骨を胸骨に近づけただけで「いきなり横隔膜が動き出す」という感じでした。本人の意志とはまったく関係なく、深い腹式呼吸が始まります。「この状態が理想!」と心の中で思いました。
 ですから、すべての人にこの状態になっていただきたいとの思いを込めながら施術を行っています。

 ところでカエルの呼吸を見たことはありますでしょうか? カエルは両生類、つまり水陸両用の要素を持った動物ですが、その呼吸の特徴を首のところがペコペコ膨らませることにあります。(You Tube で見てください。)
 そして私たちの横隔膜は、このカエルの呼吸で膨らむ首の筋肉が胸の下に降りてきたものだと言われています。ですから、横隔膜を動かす神経(横隔神経)は首から出ています。つまり横隔膜の働きに頚部の状態は関係があるということです。そういう意味で、老化により頚椎の状態が悪くなってしまった人や頚椎ヘルニアの疑いがある人は、もしかしたら横隔膜の働きが不十分で呼吸が悪くなっているという面があるのかもしれません。
 さらに、呼吸運動には肋骨を動かす肋間筋や大胸筋、胸郭を引き上げる首の筋肉(斜角筋、胸鎖乳突筋)と胸の筋肉(小胸筋)、息を吐くときに働く腹筋なども関わってきますので、良い呼吸を実現するためにはこれらの筋肉や関係する骨格の状態を整えることが不可欠になってきます。
 また、横隔膜が作動し始める合図となるのは、鼻骨のところに吸気を通すことなのかもしれないと思うようになってきました。鼻骨の上には前頭洞という副鼻腔があります。鼻から息を入れてスーッと前頭洞に通過させるような仕草を行いますと自ずと横隔膜が動きだし、胸郭が開いて肺に空気が入ってきます。鼻から息を入れても副鼻腔を通過させずに喉(咽頭)の方に空気を送ってしまうと胸郭の拡がり方は中途半端になってしまいます。鼻呼吸ではなく口呼吸になってしまいますと、肩で息をするような状態になり、胸は上がりますが反対に横隔膜の動きが制限された状態になってしまいます。息を吸っているのに胸が苦しくなってしまうのです。首や肩に力が入ってしまい、いつも肩こりを感じている人はそうなっていませんでしょうか?

 先ほども申しましたが、呼吸のリズムは生理活動のリズムに繋がります。ゆったりとリラックスして時を過ごしたいと願うのであれば、まず呼吸のリズムがそうなっている必要があると思います。
 だからといって、気合いを入れて「ゆったりした腹式呼吸をしよう」「ヨガで意図的に呼吸のリズムを整えよう」としてみても、その場は快適になるかもしれませんが、常にその快適な状態を保つことはなかなか難しいことです。
 ですから、特別な思いを抱いて取り組んだりするのではなく、ごく普通の状態が、快適な呼吸になるように工夫をしてみてください。そしてなかなか上手くいかないと思われるのであれば、ご来店ください。

 
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 「うつ病と診断されたわけではないけど、うつ症状が長引き、このままではうつ病になってしまうのではないかと思って。整体で少しでも良くなるといいのですが‥‥」と来店される人が時々いらっしゃいます。
 “うつ症状”と言われても、私の専門外ですし、症状や病態についての知識もそれほどありません。ですから施術に際しては、心理的な面とか、生活環境のこととか、症状や病態のこととか、そういうことは一切考えることなく単純にからだを観察して、必要な施術を行うようにしています。
 ただ多くの人を観察し、施術してきた経験で申しますと、うつ症状を訴える人、心理的に弱っている人に共通している状態があります。それは呼吸が悪く、脳が酸素不足、つまり酸欠状態ではないかと思われる状態です。
 医学的に酸欠状態をどのように定義しているのかは知りませんが、脳に酸素が足りなくて頭の働きが鈍っていたり、ドヨ~ンとしてスッキリしていなかったりする状態は明らかに存在します。思考が停止状態に陥っていたり、あるいはいつも同じ思考回路ばかり使っていてそこから抜け出すことができなかったり、そんな経験は多くの人にあると思います。精神的ダメージが強かったり、押し寄せるストレスに耐えられないような状況が続きますと「どうしていいかわからない」「物事が手につかない」などの状況になるかもしれませんが、脳の酸欠状態もそんな感じになるのではないかと、そんなふうに思います。

 そして施術を行い、呼吸のあり方を改善して血液循環が良くなるように整えますと、多くの人がその場で楽な状態になります。
 酸欠状態の人に「酸欠状態で‥‥」と申してもピンときませんが、酸欠状態が改善された状態になったときに「酸欠状態だったのだと思います」と申しますと皆さん合点がいくようです。酸素が行き渡った頭の思考は、それまでのうつ症状の時とは違ったものになっているからです。
 
 酸欠状態=酸素不足ですから、その原因を単純に考えますと“呼吸が悪い”となります。そして実際、その通りです。ならば大きな深呼吸を繰り返して肺にたくさん酸素を取り入れれば解決するのではないかと思われるかもしれませんが、それは、そう簡単ではありません。
 今回はこのことについて掘り下げて考えてみます。

要は“内呼吸”
  生理学の言葉になりますが、呼吸には“外呼吸”と”内呼吸”があります。
 外呼吸は誰もがイメージしています、肺で息を吸って血液中に酸素を取り入れ、不要な二酸化炭素(炭酸ガス)を吐き出す呼吸のことです。肺と呼吸運動に関係する筋肉と骨格(胸郭)が主役の呼吸です。
 一方、内呼吸は、血液(動脈血)中の酸素を細胞内に取り入れ、細胞内で不要となった炭酸ガスや老廃物を静脈血へ排出する作業のことです。細胞の中にはミトコンドリアがいますが、ミトコンドリアが動脈から取り入れた酸素を利用してエネルギー物質を生産し、そのエネルギーを利用して細胞は様々な活動を行っています。ですから細胞に動脈血が十分に届かなければエネルギー不足の状態となり細胞の機能は低下してしまいます。こんな状態が広範囲に及びますと、からだの生理機能は低下してしまいます。
 さらに、ミトコンドリアが消費した酸素は炭酸ガスとなって細胞から排出され、静脈に乗って一端心臓に戻ります。そして肺に送られて口や鼻から体外に放出されるという仕組みになっています。仮に何らかの理由で静脈の流れが悪くなりますと、炭酸ガスの心臓への戻りと肺への運搬が不十分な状態になってしまいますので、体内に炭酸ガスが溜まった状態になってしまいます。つまり内呼吸にとっては、動脈と静脈の両方の流れが重要な要素になっているということです。“血圧”や”コレステロール”や”動脈硬化”など、動脈系のことばかりに着目する傾向がありますが、それでは片手落ちの状態だと言えると思います。

 血圧は動脈の流れと関連性が深いですから、血圧の低い人は動脈血不足になりやすい傾向があると考えられます。しばしば脳貧血の症状になってしまうのは低血圧に原因があると考えられます。“冷え”は動脈、静脈にかかわらず血管の働きを弱め細胞の働きも弱めますので、内呼吸の働きを低下させる原因になります。動脈硬化、自律神経失調、それらも動脈の循環に影響を与えます。

 整体的に重要なことだと私は思っていますが、”静脈血が出ていかないと動脈血が入ってこない”という原理があります。ですから整体の施術において静脈の流れを整えることは非常に重要なことだと考えていますが、それを少し説明させていただきます。
 細胞は毛細血管によって運ばれてきた血液を内部に取り入れ、ミトコンドリアがそれを消費します。消費された酸素は炭酸ガスに変わって細胞から排出されますが、それらがまとまって水分に溶け込み静脈血となります。そして静脈血は血管(静脈)の中に戻って心臓への道を進むわけですが、もしその流れが停滞してしまいますと細胞に出入りする毛細血管からの血液の流れも止まってしいますので、「酸素が細胞に届けられない」という現象が起きてしまいます。
 毛細血管の血液の流れにはもはや血圧は関係ありません。ですから「血圧の力を利用して血液を細胞内に押し込む」ということはまったく期待できません。「静脈血がどんどん流れ去っていくので、動脈血がスムーズに細胞内に取り込まれていく」といったイメージの方が現状に近いのだと思います。
 そして静脈は動脈と違い、血圧や血管の弾力性を利用して血液を流しているのではなく、周りの筋肉の働きを利用して血液を運んでいます。動脈の流れが能動的であるのに対して静脈(リンパも含めて)の流れは受動的であると表現できます。筋肉が疲れ果てて働けない状態ですと、その周辺の静脈血は前に進むことができなくなってしまいます。ふくらはぎや足がむくみやすい理由の一つです。ですから骨格筋の働きと運動は静脈の流れにとって非常に重要だと言えます。その
意味で、整体の施術は内呼吸にとって価値のあるものとなってきます。

 “脳の酸欠状態を改善する”ということで考えたとき、まず「脳細胞に十分な動脈血が届いているか?」という視点があります。そして脳内の血液循環を停滞させないために「静脈の流れが滞っていないか?」という視点が出てきます。
 十分な動脈血を供給するという視点では、血圧、動脈硬化、首肩のコリや捻れといったキーワードが登場します。
 静脈の流れを整え血液循環を活発にするという視点では、鎖骨下静脈、鎖骨と肋骨の歪みというキーワードが登場します。
 そして血液(動脈血)の中に十分に酸素を取り込むために、外呼吸、肺、鉄分というキーワードが登場します。鉄分は血液中で酸素を運搬するヘモグロビンに関係しますが、それは食事で、あるいはサプリや薬で補うことができます。肺の病変については医療機関に頼ることが最善です。
 そして外呼吸につきましては、医療機関や薬などよりも整体的なアプローチが最も適していると私は考えます。

外呼吸を改善するときに着目するポイント
 私たちの様々な生理機能にとって内呼吸は最も重要な問題ですが、そのためにも外呼吸がしっかり行える状態にすることは重要なことです。
 胸式呼吸と腹式呼吸のどちらが良いか? あるいは他の呼吸法の方が優れているとか、外呼吸に対しての考え方は幾つかあるようですが、それらはそれとして、方法論ばかりに目を奪われますと肝心なポイントを外してしまうと私は考えています。
 おそらく殆どの人は鼻から息を吸って肺に空気を取り入れ、そして肺から空気を吐き出すことの繰り返しが“呼吸(外呼吸)の殆どである”と考えていると思います。それは間違いではありません。しかし、その外呼吸の効率を高め、外呼吸と内呼吸にリズム的な繋がりを持たせ、さらに外呼吸によって快適な状態を維持するためには、整えておかなければならないポイントがいくつかあります。
 それは、頭部の柔軟性、副鼻腔(鼻呼吸)、胸郭と肋間筋、首の筋肉、喉と舌、腹筋になります。

頭部の柔軟性と呼吸
 今の世の中、頭と目(感覚器官)の使い過ぎで頭部がガチガチに硬くなり、頭の中がパンクしそうにたくさん詰まっている人がたくさんいます。そのような人は頭蓋骨の柔軟性に乏しいのですが、すると呼吸が中途半端な状態になってしまいます。
 以前にも取り上げましたが、頭蓋骨は一般に「硬いもの」とイメージされていると思いますが、そんなことはまったくありません。本来は柔軟に動くものです。もちろん動ける範囲は非常に小さいですが、骨同士が関節(縫合)で繋がれているということは、「動くようにできている」ということです。
 さて本来であれば、私たちが息を吸うとき、後頭部が上方に動き、側頭部が膨らみます。耳の上部に軽く手を当てて繊細に観察しますと、呼吸動作における頭蓋骨の動きが感じられると思います。
 ところが頭(頭皮など)が硬く、その中がパンパン状態の人は、呼吸における頭蓋骨の動きがほとんど感じられません。

呼吸と頭蓋と骨盤の動き

 年度の切り替え時期になりますと事務職の人はパソコン仕事で大忙しになりますが、目と頭を酷使するためこのような状態になる人も多くいます。「マッサージしても疲れが取れなくて‥‥」「寝ても全然疲労感が抜けていかない」と感じている人は、頭のマッサージをすることで改善されるかもしれません。
 「頭が硬くなっている」というのは具体的には頭皮や頭部の筋膜が張っていたり、側頭筋や額や鼻周り筋肉がこわばっている状態のことですが、疲れているにもかかわらず仕事をしなければならないので歯を食いしばって頑張っていたり、目を酷使しているためにそのようになってしまったのかもしれません。
 また「頭が詰まった状態」というのは頭をたくさん使うため血液(動脈)がたくさんやって来たのですが、静脈の流れが悪く頭の中が血液過剰の状態になっている、つまり脳内がむくんだようになっている状態のことです。これは鎖骨下静脈の流れと密接に絡み合うことですが、詳細については過去の記事をご覧になってください。
 この二つの状態=“頭が硬くなって詰まっている状態”がありますと頭蓋骨は動きにくくなりますので、結論的に申しますと吸気が中途半端な状態になってしまいます。するとからだや頭は酸素不足の状態になってしまいますので、「からだをマッサージしても、休めても疲労がとれない」となってしまいます。
 これまでの経験で申しますと、頭を柔らかい状態にして静脈の流れを改善しますと何分もしないうちに呼吸状態が良くなり、間もなく活力が戻ってくるようになります。

副鼻腔
 私たちが息を吸うときは鼻孔で行うのが本来の在り方です。しかしながら、昨今は口呼吸、つまり口から息を吸ってしまう人が大変多くなっています。口呼吸ばかりの人は口の形にその特徴が現れます。鼻の下を人中(じんちゅう)と呼びますが、そこが短くなっていたり上唇が上を向いていて前歯がすぐに見えてしまう口の形がそれです。激しくハアハアと呼吸を繰り返さなければならないために鼻で吸っていたのでは間に合わない、たとえばサッカー選手などはどうしても口呼吸になりやすいですが、口呼吸には弊害があります。
 鼻孔を通して取り入れた空気は、副鼻腔を通過させることで健康を維持することに貢献します。副鼻腔は頬のところ(上顎洞)と額のところ(前頭洞)にあります。鼻でスーッと吸った空気を頬や額の副鼻腔を通過させますと顔の中に風が通るような感じになりますが、それによって空気は汚れを除かれ、温度と湿度を調整されます。1秒も掛からない短時間の間に外気をからだにとって最適な状態に調整する能力が副鼻腔にはあります。調整された空気はそのまま気管や肺に入っていっても安全で臓器に負担をかけることはないと言います。

副鼻腔2

 一方、口呼吸によって鼻孔や副鼻腔を通さずに取り入れた空気は、このような調整機能をまったく受けることなく咽頭や気管や肺の中に入っていきますので、からだに負担を掛けることになります。口の中には扁桃腺などがあって汚れやバイ菌をある程度除去してくれますが、それらは本来は食物に対するものですので、副鼻腔の空気浄化力にはかないません。扁桃腺が腫れやすい人は口呼吸を改めることを積極的に考える必要があると思います。
 また副鼻腔炎になりやすい人もおりますが、それは副鼻腔に新鮮な空気が通っていない、つまり、副鼻腔の中の空気が停滞してしまっていることが原因かもしれません。
 鼻孔で呼吸をしていても副鼻腔に空気を通さずにそのまま咽頭の方に空気を通過させている人もいます。鼻(鼻骨)が下がっていますと額の副鼻腔には空気が通りにくくなってしまいます。目元や鼻の周りが硬くこわばっている人、あるいは顔の骨格が歪んでいる人は頬の副鼻腔に空気が入りにくい状態になっていますが、このような人はせっかく鼻呼吸をしているのに、鼻呼吸の恩恵が半減している状態です。

胸郭と肋間筋
 胸郭は12本の肋骨と背骨でできています。その中には肺と心臓が収まっていて底面に横隔膜があります。肺にはほとんど筋肉がありませんので、肺は自らの力で膨らんだり縮んだりすることはできません。胸郭が拡がり、横隔膜が収縮して胸の底面が下がることによって袋である肺に空気が入ってくる仕組みになっています。
 さて、私たちのからだには鼻孔と副鼻腔を通して息を吸う動作に合わせて胸郭が拡がり横隔膜が収縮して肺に空気が入る連動性が備わっています。鼻のつけ根、鼻骨のところにスーッと音を立てて空気を吸い上げるように吸い込みますと、自然に肋骨が上がって胸が拡がり空気がたくさん肺に入ってきます。この一連の流れは呼吸独特のリズム感を生み出しますが、それに伴ってからだは次第にリラックスするようになります。
 ところが、口で息を吸う場合はこのような連動性は生じません。すぐに胸やお腹が詰まったような状態になってしまいます。

 ベッドに横たわっている人の呼吸を観察していますと幾つかのパターンがあります。胸郭の下部だけが動いて胸式呼吸をしている人、お腹だけが上下に動いて、胸郭の動かない腹式呼吸をしている人、喉元だけで呼吸をしているように見える人、その様子は様々です。理想は鼻孔~副鼻腔を通して吸気行い、一連のリズムで胸郭が拡がり横隔膜が下がって腹式呼吸をしている状態になることですが、そのためには肋間筋が整っている必要があります。また、胸鎖乳突筋や斜角筋、肩甲挙筋といった頚部の筋肉がしっかり働ける状態になっている必要もあります。

呼吸時における外肋間筋と横隔膜の動き

 肋骨は12本あります。そして肋骨と肋骨の間には2種類の肋間筋があります。内側にある内肋間筋(ないろっかんきん)は収縮することによって上部の肋骨を下方に引っ張りますが、全体の内肋間筋が働きますと胸郭全体が下がって平たく(薄く)なります。私たちが息を吐くとき、このような状態になりますが、それによって肺が縮まり中の空気が外に吐き出されます。
 外側にあります外肋間筋(がいろっかんきん)は収縮することによって下部の肋骨を上方へ引き上げますが、全体の外肋間筋が働くことによって胸郭全体が引き上げられ更に膨らみます。ちょうど内肋間筋と反対の働きをしますが、それによって肺も膨らんで空気がたくさん入ってくることになります。
 ところで外肋間筋も内肋間筋も正常な状態であれば、私たちが息を吸うときには内肋間筋がゆるんで伸張し、外肋間筋が収縮します。息を吐くときには内肋間筋が収縮して外肋間筋がゆるみます。ところが、内肋間筋がこわばっていてゆるむことができないために胸郭が拡がらず、心地良く肺に空気を入れることができない、つまり吸気が不十分な状態になっている人がいます。あるいは反対に、外肋間筋がこわばったままでゆるむことができないために、常に胸郭が拡がったままの人もいます。「鳩胸」ということで、単に個性的な特徴と捉えられるかもしれませんが、それは外肋間筋がこわばった状態になり続けているということなのかもしれません。このような人は息を吸ったままの状態と同じ状態ですので、いわゆる過呼吸状態であり息を吐き出すことが苦手な人だと言えます。首肩から力が抜けない緊張状態、ストレス一杯の状態であるとも考えられます。

 呼吸運動は波のような大きなリズム感を伴った一連の流れです。砂浜に海の波が心地良く押し寄せるようなリズムと臨場感に似た状態が理想ですが、そのためには肋間筋の状態が良くなければなりません。

 また肋間筋は使い過ぎによってこわばったり変調を起こすような類の筋肉ではありませんので、肋間筋の状態を整えるために胸郭に対して直接施術するようなことはほとんどありません。手先の使い方、目を開けるときに眉間辺りに力が入る癖などによってこわばってしまいます。ですから、その辺りをほぐして肋間筋の状態を整えることになります。

胸郭を引き上げる首の筋肉
 呼吸運動においては、吸気の時に胸郭が引き上げられて拡がるのですが、そのために働く筋肉が頭部と頚部から出ています。
 僧帽筋(そうぼうきん)の上部線維は頭部と肩甲骨及び鎖骨を繋いでいますが、収縮することで肩甲骨と鎖骨の外側部を引き上げる働きをします。
 頚部から肩甲骨に繋がっている肩甲挙筋(けんこうきょきん)は肩甲骨の内側部を引き上げる働きをします。僧帽筋の上部線維と肩甲挙筋は直接胸郭を引き上げるわけではありませんが、肩甲骨と鎖骨も引き上げられないと胸郭は上がってきませんので、呼吸運動においてこの二つの筋肉は脇役ながら重要な働きをしています。

吸息時に働く首周りの筋

 そして鎖骨を引き上げるもう一つの筋肉は胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)です。胸鎖乳突筋は鎖骨と胸骨の関節付近に付着していますので、収縮することで鎖骨の内側部と胸郭(胸骨)を引き上げる働きをします。
 そして首から胸郭の上部肋骨につながっていて胸郭を直接引き上げる働きをしている筋肉があります。それは斜角筋(しゃかくきん)のことですが、斜角筋には第1肋骨に繋がっている前斜角筋と中斜角筋、第2肋骨に繋がっている後斜角筋の3つがあります。斜角筋は首の側面にありますので、首の側面がガチガチで痛みを感じたり首を倒すと突っ張ったりする人は斜角筋がこわばっている可能性があります。そして斜角筋はそしゃく筋と関係が深い筋肉ですので、歯ぎしりや噛みしめの癖を持っている人は斜角筋がこわばった状態になっています。
 本来は吸気動作の時に斜角筋が収縮して胸郭が引き上げられ、呼気の動作の時に斜角筋がゆるみ同時に腹筋が働いて胸郭が下がるようになっています。ところが噛みしめの癖、歯ぎしり癖、首や顔に力の入りやすい癖の人などは斜角筋がこわばっているために常に胸郭が上がった状態になっていたりします。
 そして、それは息を吸ったときの状態ですので、その人は息苦しそうに見えます。本人の自覚ではそうは思っていないかもしれませんが、「過呼吸状態の人」であると考えることができます。胸郭が下がっていかないので息を吐き出せないのですが、その状態でさらに息を吸いますので、肺の中は常に空気でいっぱいの状態です。ですからしばしば溜め息をついて処理しなければならなったりします。
 「頭の中も(ストレスなどで)いっぱい、肺の中も空気でいっぱい。どうして溜め込んでばかりなんだろう?」と思われる人は、斜角筋をはじめとして首の筋肉をチェックする必要があるのかもしれません。

喉と舌の状態は隠れたポイント
 性格が内向的で、思っていることがなかなか言葉にできなかったり、うつむき加減で顎を引いた状態で喋る癖になっている人は、構造的に息継ぎが上手くできない可能性があります。瞬間的な息継ぎが苦手なので、苦しくなって言葉を続けることが億劫になっているかもしれません。
 お喋りが得意な人は、次から次にと言葉が続いて出てくるわけですが、そのためには息継ぎがポイントになります。言葉を発することは息を吐き続けるということですから、瞬間的な息継ぎをして空気を吸わないと苦しくなってしまいます。素速い息継ぎのためには肋間筋が素速く働いて胸郭が拡がり、肺に空気が瞬時に入る必要がありますが、それ以外に舌と喉など内部の筋肉の連携が上手くいっている必要もあります。
 食物や唾を飲み込むときの舌や喉の動きを観察しますと、まず舌を使って口の中を塞ぎ、次に舌を口蓋(天井)に押しつけながら舌と喉の筋肉を連動させて食道内に食物や唾を送り込みます。正常であれば、この動作に合わせて喉仏が上下に大きく動きます。もし喉仏の上下運動が何かの原因で障害されるようですと、飲み込む動作が不自然な感じになってしまいます。タイミングを見計らってからでないと飲み込めないような人は舌と喉の連携に問題がある可能性があります。
 息継ぎをすることと食物や唾を飲み込むことは、気管に空気を通すか食道に食物を通すかという違いはありますが、舌と喉の連携、喉仏の上下運動という点では共通点があります。

甲状軟骨と舌骨筋群

 さて、喉仏の上下運動は左右の胸鎖乳突筋の間で行われます。ですから、頭部や首が歪んでいたり、鎖骨の位置が狂っていたりして左右の胸鎖乳突筋のバランスが悪い状態ですと、あるいは頚椎に捻れがあって喉も捻れている状態ですと、喉仏の上下運動が胸鎖乳突筋に当たってしまい十分にできない可能性があります。あるいは、顎を引いた状態で喋ることは、それだけで喉の動きを制限しますので、息継ぎが苦手になってしまい言葉を続けることが難しくなります。
 また、舌は非常に微妙な動きをすることができますが、そのために幾つもの筋線維が複雑に絡み合ってできています。さらに舌には食物を取捨選択するための非常に鋭く繊細な感覚が備わっていますので、舌そのものを壊してしまいますと本人がすっかり満足するほど完全な状態に戻すことにとても苦労します。「まぁまぁ」の状態に戻すことは速やかにできても、息継ぎなど他の筋肉との緊密で繊細な連携を必要とするような繊細さを取り戻すまでには、私の経験から申しますと時間がかかります。ですから舌は大切に、大切にしてください。

腹筋は呼吸筋でもある
 人体模型など見ますと、胸郭と骨盤との間には背骨しかありませんので、大切な内臓をおさめる腹部は無防備で頼りない感じに思えます。しかし私たちには4種類の腹筋があって骨格的に弱点となっている腹部をしっかりと守っています。

腹部の4つの筋

呼気に働く腹筋02


 腹部のセンターラインには腹直筋(ふくちょくきん)がありますが、ちょうど背骨と相対するようにして腹部の“芯”になっています。そして腹直筋と背骨をつなぐように一番深部に腹横筋(ふくおうきん)があります。その表層部に斜め方向クロスするように走っている内腹斜筋(ないふくしゃきん)と外腹斜筋(外腹斜筋)があります。腹直筋も内腹斜筋も外腹斜筋も収縮することによって胸郭を下げる働きをしますので、呼吸運動においては呼気(息を吐き出す)の時にこれらの腹筋が働くことになります。そして吸気の時は、これらの腹筋が伸びることで胸郭がスムーズに上方に動くので肺が大きく膨らむことを可能にしています。
 もしこれら腹筋群の働きが弱い状態ですと最後まで息を吐き出すことが難しくなります。呼吸をして新鮮な空気をたくさん取り入れたいのに古い空気が肺の中に残ったままの状態になっているので呼吸の効率が悪くなります。
 また、腹筋群がこわばった状態の人は胸郭が上に動きにくい状態ですので、吸気が十分にできません。呼吸が浅くなってしまいますので、すぐに息苦しくなったり、しばしば動悸に襲われたりするかもしれません。

その他の呼吸に関わる要素
 「胸はセンサー」と前にも申しましたが、呼吸運動の舞台である胸部は精神的なことや環境からの要素などいろいろな事象に反応して状態を刻々変化させます。心理的ストレスによって胸は塞がったりしますが、具体的な現象としては、肋骨が胸骨のほうに巻き込むように向かっていき、息を吸っても胸郭が拡がらなくなってしまったりします。そのような時には“胸腺”を主眼に、胸骨上をほぐしてみたり、肋骨を胸骨方向に引っ張っている大胸筋がゆるむような施術を行ったりします。
 また、呼吸に合わせて頭蓋骨が動くように、骨盤も拡がったり縮んだりしますが、この動きが起こらないと呼吸が全身的なものになりません。一つの呼吸リズムが全身に拡がって「呼吸が心地良いもの」と感じ、芯からリラックスするためには骨盤の柔軟性が必要になります。
 骨盤の柔軟性を奪うのは腹筋や殿部の筋肉であり、足や下半身からの影響が考えられますので、足やふくらはぎを施術したりします。

 呼吸の理想は、鼻の上部、鼻骨のところでスーッと吸い込んだ空気が副鼻腔を通過しながら頭部と骨盤を拡げ、同時に胸郭を引き上げながら拡げて、ゆったりと肺に空気が十分に静かに入っていくこと。そして次に呼気の段階では、横隔膜がゆるみだし腹筋が働いて息をゆっくり吐き出しながら胸郭が下がって骨盤が閉まるようになりますが、その波とリズムが太股を伝わり、ふくらはぎを伝わって足裏から出て行くようになることです。
 このような状態が理想ですし、私のところでの施術ではそこまで実現しようと常に思っていますが、普段はここまで実現できなくても、今回取り上げた項目の半分以上ができている状態になっていただきたいと考えています。

 さて、うつ症状(うつ病ではない)に対する対応として「酸欠状態を解決すること」が有効だと私は考えていて、そのためには呼吸のあり方を見直して改善する必要がある、というスタンスで長々と書いてきました。
 私たちのからだの中で、脳は最も酸素を必要としている臓器です。考え事をする=思考を展開するためには非常にたくさんの酸素が必要だと言います。脳内が常に十分な酸素で満たされていれば、脳神経の伝達がスムーズで、思考を素速く思い通りに展開することができると思います。しかし頭に疲労(物質)が溜まってしまい、酸素の供給が不十分な状態になってしまいますと「考えたいけど‥‥考えられない!」というような状況になってしまいます。そして、これは誰もが経験していることではないでしょうか。
 もし慢性的に、つまり常に脳内の酸素が不十分な状態であれば、心で思ってもそれを頭にイメージとして構築することができないので実際の行動に移すことができなくなってしまうかもしれません。「思ってはいるけど、からだがついていかない」、このようなうつ状態は、このようにしてもたらされるのかもしれません。

 インターネットなどの情報によれば、うつ症状を改善するための方法の一つとして「深呼吸で酸素不足を解消する」というのがあります。それは上記の理由からも理にかなっていることだと思います。しかしながら、深呼吸をすることによって実際に脳内の酸素が満たされた状態になるかどうかという問題が残ってきます。
 今回取り上げましたいろいろな要素―頭蓋、副鼻腔、首の筋肉、肋間筋、腹筋など―に問題がありますと、深呼吸の動作は「単なるポーズで効果薄し」となってしまいます。ハッキリとした効果が感じられなければ、日課として始めた深呼吸の習慣もいつの間にか続かなくなり、うつ症状というマイナスループから抜け出すことがなかなかできないという状態になってしまうでしょう。
 実際、うつ症状を抱えて困っている人は、何とか改善したいと思っているはずです。ところが、その思いを実際の行動に移すことができないので、うつ状態なのだと思います。
 そんな方は、どうぞご来店いただければと思っています。

足つぼ・整体 ゆめとわ
電 話  0465-39-3827
メールアドレス info@yumetowa.com
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