ゆめとわのblog

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カテゴリ: 呼吸

 今回はほとんどの人が信じないだろうと思われる、“眉唾”に受け取られる話題です。

 過去に経験した肉体的な大ケガやそれに基づく精神的な恐れやトラウマ、それらを克服することはなかなか困難のようです。鬱、ストレス、それらから抜け出せない人もかなりいると思います。このブログで「首肩から力が抜けない」というの話題を幾度か取り上げましたが、実際、首肩から力が抜けない状態を克服することもなかなか大変です。
 私の母はリウマチを患い膝関節が変形してしまったため、常に膝が締めつけられているように感じていますし、長く歩くと膝が痛くなります。しかし、時々からだに何の痛みや違和感を感じなくなる時があります。すると「なぜか意識がからだをチェックしだし、何処かに悪いところはないかと探し始めてしまう」と言います。「何かに夢中になり、意識がそちらにとられていると痛みのことなど一切忘れてしまうのに‥‥」というのは誰もが実際に体験していることではないでしょうか。
 何度も何度も”ぎっくり腰”を繰り返し、常に腰に不安を抱えている人は、実際には筋肉の状態が良くなって腰を使うことができるのに、なるべく腰部を使わないようにガッチリ腰を固めて動作しようとする傾向があります。すると腰や背中はピンと張った状態になりますので、捻ったり曲げたりすることができないばかりか、ちょっとしたことでまたピリッ、グキッとなってしまいます。心理の深い部分に「もう腰をケガしたくないので腰をガチッと固めておきたい」というのがあるのは理解できます。しかし、これでは自分で自分自身に制限をかけているのと同じこと、つまり自分で症状の改善をストップしているのと同じことですので、そこから先には一歩も進めなくなってしまいます。いつもいつも同じことの繰り返しで、少し状態が良くなったとしても、またちょっとしたことで腰部が傷つき、腰痛状態に戻ってしまいます。

不安、恐れ‥‥負の思考回路
 「マイナス思考」「ネガティブ」という言葉はよく耳にしますが、それを克服することは実際なかなか難しいことです。
 私の仕事に関連して例をあげてみます。
 何度も何度もギックリ腰を繰り返して腰の状態が非常に悪くなった人は、ちょっとしたことですぐにピリッ、ギクッ、グキッとなってしまう経験が身にしみていますので、常にその状態にならないようにと気を使っています。そしてそれは“腰部を固めてなるべく動かないようにする”という対処方法です。布団に入る時、布団から起き上がる時、椅子に座る時、椅子から立ち上がる時、必ず背中や腰を固めて動かない状態にしてから動作を行おうとします。“固める”ということは”息を止めた状態”で動作するということです。「腰をゆるめながら動作しないと危ないですよ!」と注意するのですが、どうしてもそれができません。不安や恐れの気持ちが根深くあるので、本人が「ゆるめなくては‥‥」と思っていてもそれができないのです。
 そしてこのような人はすべての動作において警戒心が働いてしまうようです。自分の意に反して常に腰部が固まった状態になってしまいます。家事で洗い物をするとき、包丁を使う時、洗濯物を干す時、入浴で髪やからだを洗う時、誰かに呼ばれてふり向く時‥‥、あらゆる動きで腰や背中を固めてしまいますので筋肉のしなやかな連係プレイは望むことができず、すべての動作がロボットの動きのようになってしまいます。そして何よりも、すべての動作でピリッとかギクッとか筋肉を傷める確率が高くなってしまいます。

 筋肉や骨格の状態も改善してきて、普通にしているだけではそれほど腰痛を感じる状態ではないのに、散歩をしてくると腰部や殿部がカチッとなってしまい痛みを感じる部分ができてしまいます。すると、その後の家事がやりづらくなったり、肩や腕などに痛みを感じるようになってしまうことがあります。「朝は普通に包丁が使えたのに、夕方は肩がカチッと固まってしまい包丁が使えなくなった。」というのは腰が固まっているからかもしれません。
 右手を使う時、普通は左腰に体重を預けて動作を行います。椅子に座った状態で、右のお尻(坐骨)に重心を乗せた状態で右手を動かそうとすると、どことなく不自然な動きになります。ところが左のお尻に体重を移すと途端に右手の動きが楽になります。重心を掛けた側とは反対側の腕や脚がフリーになるからです。からだはこのようにできています。ですから右手で包丁を使うならば左脚に体重を乗せるようにしたり、あるいはキッチン台に左腰を預ける(ぶつける)ようにして斜に構えて右腕を操作するのが自然な在り方であると言えます。ところが左腰に痛みを感じたり、左腰が固まっている時はそれができませんので、両足で突っ立ったまま、あるいは右側に体重をかけて右腕を操作してしまいます。すると包丁が上手く使えないばかりか、右肩や右腕の負担が増し、痛みを感じるようになってしまうかもしれません。包丁を使った後、字を書いた後、手や腕がとても疲労してしまう人は、重心のかけ方を工夫するだけで問題が解決するかもしれません。

 「左腰がカチッとしているので体重を掛けられない」という心理は解ります。しかし私はあえて「工夫をして左腰に体重を乗せてください」と言います。ゆっくり軽く足踏みをしたり、ゆっくりからだを捻ったりして左腰が固まった状態を解除してくださいと言います。「左側に体重を掛けられる状態にしてからでないと包丁は使ってはいけない」と言っていますが、からだの改善を図っている人にとってはこの微妙な重心移動がとても重要な要素であると考えています。

 ここからが謎めいた話になりますが、私の母は考え事をするとき必ず頭を動かして右下やや後方に視線を向けます。こういう仕草をしないと脳の思考回路のスイッチが入らないのかもしれません。一方で“右下やや後方”ということは、脳の右端、“右耳辺り”の場所を使って思考を展開していると解釈することもできます。人それぞれに脳の中で思考を展開する特定の場所というものがあるようです。
 ある人は額(前頭葉)の右側寄りを使って思考を展開しています。何を考えるにもそこを使っていますので、しばしばその部分が頭痛に襲われますし、頭蓋骨もそのように歪んでいます(頭部が右側にずれている=頭の右側が大きい)。それだけならまだ良いのですが、観察していますとその部分を通過する思考は必ずマイナス思考になってしまうようで、それが問題です。「できない」「恐い」「慎重」「不安」というフィルターがそこに存在しているかのようです。例えばこれまで30㎝くらいしか動かすことができなかった動作を35㎝に拡げようとします。筋肉の状態は十分にその動作が可能な状態です。ところがこれまでよりも5㎝動作が大きくなると考えただけで息が上がりだし、緊張感が生まれ、不安に襲われてからだが硬直してしまいます。当然動作は上手くできません。
 「首肩から力を抜いてゆったりと腹式呼吸をしてください。」とやってもらいますと、始めの2~3回は上手くできます。余計なことを考えることなく、単にそのリズムと雰囲気を継続してもらうだけでからだはどんどんリラックスしていくのですが、こういうタイプの人はすぐさま頭の“いつもの場所”を使い始めてしまいます。「このやり方でいいのだろうか?」とマイナス思考の回路が台頭し始めます。すると腹式呼吸をしているはずが、次第に呼吸が上がってきて息苦しくなり首肩の緊張が増してしまいます。
 そうなった場合でも、「そこ(額の右側)に意識やイメージを持っていかないでください。額の中央にイメージを持っていき、“単に吐くこと”だけに集中してください。」と言いますと、すっかり息苦しく感じていた呼吸が急に楽になり始め、腹式呼吸ができるようになります。
 呼吸に限らずどんな運動を開始する時も、この方は先ず身構えてから動作を始めようとします。慎重に体勢を整えてから動作を開始しようとする姿は“集中する”という面では長所です。ところが知らず知らずのうちに額の右側を使ってしまので、それは大きなマイナスです。「そこ(額の右側)で何を考えているのですか?」と尋ねても「別に何も考えていない」と応えます。もう何十年もこの癖を持って生きてきたので本人にはごく自然のことであり、「何がいけないのか?」まったくわからないのかもしれません。
 「では、そこ(額の右側)に意図的に意識を持っていかないようにしてください。何を思うにも額の真ん中で行ってください。」とやっていただくと身構えることなく動作を開始することができるようになります。あるいは動作をしながら意識を額の中央に持っていっていただくと、最初はぎこちなかった動作が次第にスムーズにできるようになります。
 この方のご両親は大変しつけが厳しかったようで、幼少の頃から“ミスしてはいけい”という思いを抱いていたということです。これは私の想像ですが、怯えが常にあったのでご両親を真正面から見ることが出来なかったのかもしれません。そうであるならば、それが知らず知らずのうちに視線と意識を額の右側に寄せてしまう癖をつくってしまったのかもしれません。

 「上手くやろうとしないでください。気持ち良くなるようにやってください。」私が今、この方に言い続けている言葉です。たとえば最初から上手く歩くことができなくてもかまいません。歩き続けているうちに、歩みの一歩一歩が次第に心地良く感じられ、腰やお尻の筋肉が働いていることが気持ちよく感じられるようになれば、歩き方は自ずと良くなっていきます。そして気持ちよく歩けている時は額の右側の思考回路は停止しています。自然に顔が上を向き出し、視線がしっかりと前方を捉えるようになります。背も高くなったように感じられます。「この感覚をしっかり覚えてください。からだに染み付かせてください。」とそう言っています。
 しかし、一端止まって再び歩き始めてもらおうとすると、例によって、“上手く再現しよう”という思いが額の右側を占有し始め、身構えることから始めてしまいます。すると、たった今できたことが何秒か後にはできなくなってしまう状態になってしまいます。

 ピアノや楽器の練習、スポーツの練習、あるいは何かの習い事などを真剣にやってきた経験のある人たちには理解できると思いますが、「上手くやろう」という邪心が芽生えますと、それが自分自身を制限し始め、それまで普通にできていたことが突如できなくなってしまったりします。また反対に、その時の技量では「なかなか難しい」と思われていたことも一生懸命トレーニングを繰り返し、頭の中にしっかりとしたイメージが出来上がれば、いざ本番という時に無心(余計なことを思わない集中した状態)になって取り組むことができるようになり、自分の限界を超えることができたという経験をお持ちの人も多くいると思います。これをメンタルトレーニングなどと言って心理学的に考えることもできるのかもしれませんが、頭の使う場所、つまり脳のどの思考回路を使うかという観点で考えることもできると私は思っています。

 四十肩や五十肩で肩関節が思うように動かせないのに「関節が固まってしまうから‥‥」という私から見ればとても不合理な理屈でオモリを持たせ強制的に関節を動かすようなトレーニングをさせたり、膝が痛むのに太もも(大腿四頭筋)にかなりの負荷をかけて筋力をアップさせようとするトレーニングなどを推奨している専門家がたくさんいます。こういうことは私のところでは一切やりませんが、時々、その時点でのご自分の限界点をその方が超えようとするとき、どのような息づかい(呼吸)、どのような気持ちや頭の使い方をしているかを観察するために、「動かせる限界から、もう少しだけ動かそうとしてみてください。」とお願いすることがあります。
 限界点を超えて動かそうとするので痛みを感じます。ですから誰もが一瞬不安な気持ちに襲われます。この時、もしその方がこの症状でとても辛い思いや痛みを経験したことがあったり、あるいはトラウマが頭に甦ったりしますと、その方の呼吸は突如として変わり、からだが硬直して手に冷や汗が出てくるかもしれません。「少し痛くてもリラックスして、息を吐きながらもう少しだけ動かしてみてください」と言われたところで、「わかってはいるけど、できない!」ときっと思われることでしょう。
 そして「できない!」という思いがどこかにあれば、実際、それ以上は動かすことはできません。“恐い”、“できない”という否定的な感情や思考はとても強力です。瞬時に呼吸を悪くし、筋肉を硬直させてしまいます。
 限界を超えて何かに挑戦するためには集中力が何よりも大切です。腕が30㎝しか上がらなかったものを35㎝に拡げようとするなら、肩関節や腕のつけ根の筋肉に全意識を集中させて取り組む必要があります。ところが頭の中に否定的な思考が生まれますと、意識の力が分散してしまい集中力が消え失せてしまいます。ご自分では肩関節や腕に意識を集中させているつもりでも、実際には頭の中にある「できない!」という恐怖心に意識がとられてしまいます。ですから実際、“できない状態”になるばかりか、痛みを感じたり、呼吸が荒くなって息苦しさを体験することになります。

 この時の「できない!」「恐い!」という感情は思考回路だと私は考えています。
 腕が30㎝しか上がらないなら、30㎝上げることをゆっくりと幾度か繰り返してもらいます。この時に意識を肩関節あるいは腕のつけ根に持っていってもらうのですが、それは実際には頭の中にイメージを作りあげるという作業です。頭に肩関節のイメージを描いて、そこに意識を集中するということですが、この作業をいつもの右側ではなく額の中央で行ってもらいます。ゆっくりと幾度か(30㎝動かす)動作を繰り返していると集中力が増していき、無心の領域に近づいていくのが感じられます。するとやがて30㎝だった可動域が自然に35㎝になり、それを超えていくようになったりします。(但し、肉体的状態として”動かすことができない”というのはあります。こういう状態の時に「もっと動かして!」と強要するのはからだを更に壊す原因になりますので、それはダメです。)

 少々乱暴な言い方になりますが、誰でもプラス思考やマイナス思考を持っています。額は脳の前頭葉の場所ですが、そこで私たちはイメージを形成して思考を展開していきます。仮にその方の前頭葉の右側で視覚化されたイメージはマイナス思考に結びつき、前頭葉の中央で視覚化されたイメージはプラス思考に結びつくと考えるならば、額の右側を無視して欲しいと思います。長年の癖は引力がとても強いものです。実際、額の中央に集中しようとしても動作が限界点に近づくと額の右側から“引っ張り”がやってきます。一連のトレーニングが終了して“ふっ”と安心して気を許すとすぐに思考の場所が右側に戻ってしまったりします。ですから、額の中央で視覚化することが“ごく普通”、“当たり前”になるまで自分の思考の在り方を注視し続けなければなりません。

集中するということ
 ほとんどの人は今回の話に疑問や疑いを持たれていることと思います。実際に体験しなければ“誰もわからないだろう”ということを承知の上であえて話題にしました。その理由は、私のところに来られる方々の中には肉体的な不調だけでなく、それに関連して精神的にも苦しんでいる方々が多くいらっしゃいまして、「何か良い手立てはないだろうか?」と毎日のように考えているからです。
 これらの方々は、施術を終えたときは症状も軽快して心理的にも明るくなるのですが、何日かしますとまた元の悪い状態に戻ってしまいます。肉体的な問題だけでそうなるのであれば、私の見立てが見当違いだったのか、私の技術力が未熟だったのか、という問題としてとらえることができるのですが、明らかにそうではなく、本人の心理状態が不調を改善することに対して邪魔になっている場合があります。“呼吸が悪く首肩から力が抜けない人”はこの傾向の人だと思われます。

 “疑いの心”、“恐れ”、“不安感”は、からだを改善することだけでなくいろいろな面で“邪魔者”です。何かを達成しようとするとき、私たちはそのことに集中して取り組まなければなりません。集中力が欠如した状態では思いを現実化することはできません。好きな楽器を練習するとき、趣味やスポーツに没頭するとき、商談で話し合うとき、美味しい食事を口にするとき、私たちは自然とそのことに集中し、瞬間的であったとしても他のことは頭から消えてしまいます。それが私たちに本来備わっている“集中力”という能力です。「どうせできないさ」とか「自分にできるだろうか?」とか「できなかったらどうしよう?」といった邪心(疑い、不安、恐れ)が頭にある状態では物事に集中することはできません。
 ですから、からだの状態が悪い「今」を、良い状態に変更しようと考えるならば‥‥つまり健康な自分を現実化しようとするならば、邪心をどこかに放り出して集中力を最大限に発揮する必要があるという理屈になります。

 たとえば痛みの出ない範囲でゆっくりと腕を動かし始めることは、不安感や恐怖心が表に現れませんので、集中力を発揮しやすい状態で運動を開始するということです。そして何度か同じ運動を繰り返していますと、集中が次第に深まっていき、他のことは何も頭になくなるという領域に心がシフトしていきます。するとからだの細胞は頭(脳)の状態を反映するかのように動きが良くなり始め、可動域が少しずつ大きくなっていきます。(ゆっくり、じっくり動かすということが大切です。)
 観察していますと 不思議なことですが、頭(脳)はギアチェンジするかのように違う領域へと状態をシフトしていきます。それを“脳波の移行”(α波、β波、θ波、Δ波)というとらえ方で説明できるのかもしれませんが、それについては私はよく知りません。
 ミュージシャンや歌手が音楽に集中するとき、野球選手が最大限に集中力を発揮しているとき、サッカー選手が集中しているとき、顔つきが普段とは違って「集中しているなぁ!」とわかりますが、ここに来られる方々も集中しているときは、顔つきが変化しますので私にはわかります。それは“わざとらしい集中”や“大げさな集中”ではなく、地味で”静かな集中”という様相ですが、確実に呼吸の状態も良くなっています。ですから、自分自身の変革、変化に取り組んでいるときは「いつもこうあってほしいなぁ!」と思っています。
 そのためには、先ず邪心の入らない状態に自分をおくことから始め、少しだけの進歩や変化でもいいですから、それを”良し”と思っていただき、毎日着実に前に進んでいることを実感していただくことが大切だと思います。

 また、からだの不調をいつも気にしている人は、ここで取り上げた”静かな集中”、“邪心のない集中”が苦手な傾向にあります。からだの不調とは関係のない、例えばお喋りに夢中になる、テレビ番組に集中する、といったことに対しては何の邪心もないままにストレートに集中することができますが、からだや心の気になることに関しては「単に集中して観察する」ということができないようです。どうしても“自分の想い‥‥不安、恐れ、疑い”というフィルターを通して観察してしまうようです。疑いのフィルターを通してからだを観察すれば、「今は良くてもまた駄目になってしまうのではないか」という思考が形成されます。恐れのフィルターを通して観察すれば、「この運動でまたグキッと筋肉を傷めたらどうしよう」となります。
 そしてこれらの邪魔なフィルターは“思考回路”だと私は考えています。道路を走る自動車に例えるならば、目的地に着くまでにどうしても寄りたくなってしまう「道の駅」みたいなものです。道の駅を無視して真っ直ぐに目的地に向かうなら余計な買い物をすることもなく、時間を浪費することもありません。道の駅に寄って一服してしまいますと、トイレを済ました後突然、「やっぱり行くのは止めて家に戻ろうかな?」などという心が芽生えてしまうかもしれません。朝目覚めたときに思いついた「今日は遠出をして気分転換しよう!」という素晴らしい計画は道の駅に寄ったがために「遠出して本当に気分が変わるだろうか? やっぱり家に帰ってのんびりしよう」という尻つぼみの結果になってしまうかもしれません。
 邪魔なフィルターの回路とは、この道の駅のようなものです。そこを思考が通過してしまいますと、当初の目的とは別の結果が導き出されてしまうのです。ですから、その思考回路に思考を通過させないようにと、苦しんでいる方々にはお伝えしたいのです。

 上記に例として取り上げた方は、この邪魔な思考回路のある場所が額の右側です。ですから何を考えるにも「額の右側に持っていかないでください」と注意し続けています。それでも何十年にもわたる癖ですから、そう容易く克服することはできません。ふとした瞬間に、油断した瞬間に、額の右側は思考を引っ張り込んでしまうのです。

意識の向け方とからだの変化
 やはり首肩から力が抜けずに顎、首、肩が不調で苦しんでいる別の人がいます。「私は二人で並んで歩く時、左側(連れの人が右側) に居ないと落ち着かない」と仰います。つまり誰かが自分の左側にいると落ち着かなくなると解釈することができます。また同時に「赤面症の気があるようで、正面で相対して仕事の話しなどをすると顔が火照ってきて緊張してしまう」とも仰っていました。そこで実際に、私がその方の左側と右側に立ってからだの変化を観察してみました。すると実際には本人の思いとは反対に、私が左側に立つと首肩から力が抜けてからだはリラックスした状態になり、右側に立つと首肩に力が入りだし呼吸も荒くなってしまいました。そしてその方の正面に相対して眼を見ながら会話を始めると、ここでも二つの状態が現れました。私が正面やや右側で相対すると首肩に力が入り出し息が荒くなりますが、私が少し移動して正面やや左側の位置になりますと、それまでの緊張感はスッと消えました。
 この反応を私は、意識を右側に向けるとからだが緊張する、つまり自律神経の交感神経が優位になる傾向があると解釈しました。からだが自然と防御体制になってしまうと考えました。
 「これまでの人生でトラウマになるような出来事はありましたか?」と尋ねますと、なかなか思い出せなかったのですが、しばらくしてから「そういえば随分前だけど、子供の友人のお母さんから激しく苦情を言われたことがあって、その時のことがずっと心に残っているのかもしれない。赤面症のようになったのもそれからかもしれない。」と仰いました。
 赤面症を医学的どう捉えているのかは知りませんが、単純に考えますと“顔の表面に血液がたくさん集まる”ということですから、顔の血管をコントロールしている交感神経が活発に働き出すということであると考えることができます。また火照りなども感じるのであれば、顔だけでなく脳も含めて頭部全体の交感神経が活発化するということです。自律神経のうち交感神経は、本来“防御体制をとっていつでも逃げられる”準備をするためのものですし、副交感神経はこれとは反対にリラックスしてからだを休めるためのものです。
 こう考えますと、この方が誰かと並ぶ時は右側にいて欲しいと願うのは、何かあったらいつでも逃げ出せる状態に自分を置いておきたいという深層心理なのかもしれません。
 これを“意識の向け方”という観点で考えますと、意識を右側に向けておけばいつでも防御できる状態なので安心感が生まれ、意識を左側に向けることは、どこか無防備に感じてしまい、からだはリラックスするかもしれないけど心は落ち着かなくなる、ということであると考えることもできます。

 意識がいつも頭や首や肩にある人はそこから力を抜くことがなかなかできません。つまり悩み続けている時や、いつも頭で考え続けている人は自然と顔首肩に力が入ってしまうということです。こういう人に「肩の力を抜いてください」と言ったところで、実際のところそれは難しいことです。意識がそこ(首・肩・頭)から離れないので力の抜き方がわからなくなってしまうのです。ですから私は「意識を足の方に向けてください」とか、腰を捻る運動や下半身を使う運動をやってもらったりします。すると意識がそちらの方に移動するので自然と首肩から力が抜けるようになります。
 なかなか首肩から力を抜くことができない人に対して、稀にとても抽象的な質問ですが、「今、この瞬間、あなたはどこで生きていますか?」と尋ねることがあります。つまり意識をどこに集中させていますか? ということなのですが、上記の”思考回路”のことも含めて、その方の癖を自分自身で実感していただきたい、そしてその癖を克服することに挑戦していただきたいという願いを込めて、こんな突飛な質問をすることがあります。

 私は心理学者でも心理セラピストでもありませんので、トラウマや上記で取り上げたような状況を根本的に解決するためにどうすればよいかということは知りません。ですからここに記してきたような事柄はもしかしたら単なる対処法に過ぎないかもしれません。しかしながら色々な病院を巡っても曖昧な応えしか得られず、挙げ句の果てに心療内科に回され、結局のところ薬を出されて釈然としない思いを抱いている人達の話を聞きますと、このようなアプローチ方法も有効な手段ではないかと思っています。

 思考回路のことに話を戻せば、私の仕事上での思考回路は「からだは全部つながっている」というものです。この思考回路を通して皆さんのからだを観察し、施術の方針を決めています。ですから骨盤を調整するために足先や手指を施術したり、噛みしめや目のコリを解消したりすることは、からだは全てつながっていて影響し合っていると考えている私にとっては何ら不自然ではなくごく当たり前のことです。ところが現代医学ではほとんどそのような考え方やアプローチはしませんし、テレビや本や雑誌などから情報を得ている皆さんも同様だと思います。これは大雑把に言ってしまえば、私とお医者さんとは思考回路がまったく異なっているということです。私もかつてはお医者さんや皆さんと同じような思考回路を使ってからだを観察していました。「腰痛の原因は椎間板が云々で、神経が圧迫されて云々」と勉強していましたので、そのような目(思考回路)で腰痛を捉えていました。ところがそれでは解決しない、“腑に落ちない”ことをたくさん経験しましたので、根本的に考え方を変えようと決心しました。つまり、それまでコツコツと勉強して築き上げてきた思考回路を全く別のものに取り替える作業に取り組んだのです。新しい思考回路が確立するまで2~3年は掛かったと思います。その間は、元々の思考回路からの攻撃(引力)をたくさん受けました。腰痛の方が来店されると、つい“神経の圧迫”とか“椎間や腰椎”などと頭に浮かんできてしまうのです。
 ですから思考回路を変更するということ、これまでの思考回路を使わずに新たな思考回路を築き上げるという作業が如何に大変で、粘り強い忍耐力が必要なことはよく理解しています。決して一朝一夕にできることではありません。しかし思考回路が変われば、からだが変わり、からだの使い方が変わります。
 顔・首・肩から力が抜けずに辛い思いをしている人、呼吸が苦しくて生きているだけでも辛いと感じている人、そういう人達は肉体的な調整だけでは不十分です。肩こりをほぐしても、楽に感じるのはその時だけです。
“今の自分”を抜け出して、心地良い自分、新たな自分になることを目指すのであれば、忍耐することを心に決めて”考え方を変えること”、つまり新たな思考回路を築き上げることに取り組んでみてはいかがかと思います。

 首と肩が緊張している人がたくさんいます。このような人は体型的に、猫背であったり、首が短く見えるようになっています。体型的なことだけであれば、さして云々する必要はないかもしれませんが、首・肩の緊張は体の働きにも悪い影響を与えますし、精神的にもリラックスできないのでなんとか改善していただきたい問題です。
 首を触ったときに硬くなったスジ(筋)がはっきりわかるようであれば、それは筋肉がこわばっていて緊張状態にあるということです。筋肉のこわばりが解消すると首はしなやかでなめらかな状態に感じられるようになります。

 さて、肉体を動かすことより考え事をたくさんする傾向にある現代の私たちは、どうしても意識が頭の方に向かいます。一日の活動を、頭を中心に行っていると言ってもよいでしょう。そうしますと“気”がどんどん上の方に上がってしまいますので、胸から下がおろそかになってしまいます。こういう生活を長く続けていますと“気を下ろす”ことができない体になってしまい、呼吸で言えば、“吸ってばかりで吐くことのできない体”、つまり“過呼吸状態の体”になってしまいます。この状態では自律神経が交感神経優位になってしまいますので、芯からリラックスすることは難しくなります。子供の頃とは違って、朝目覚めても疲れが残ったままで一日を始めなくてはいけない状態になってしまいます。

 ところで、簡単なテストをやってみましょう。手や腕のどこか、指圧すると痛みを感じる部分を、痛みを我慢しなければならないほど強く押してみてください。
 この時、痛みをこらえるために体のどこに力を入れていますでしょうか?
 臍から下の下腹部あたりに力をいれてますでしょうか。あるいは胸、あるいは首や肩の方でしょうか。
 これは体のどこを中心に使っているのか、つまり重心がどこにあるのかを知るための簡単なテストです。

 痛みをこらえるために思わず首・肩に力が入ってしまうようですと、それは重心が上にあるということで、私たちの本来の状態とは違っています。痛みをこらえるときは無意識に息を止めますが、下腹部の方に力をいれて息を止めている人は吐いた状態で止めていると思います。首・肩に力を入れて息を止めている人はで、吸った状態で止めているはずです。私たちの体は息を吸っている過程では無防備(すきだらけ)になり筋肉に意志が通じず傷める可能性が高い状態になります。つまり、首肩につい力を入れてしまうようなときは体を壊しやすということです。ギックリ腰を度々経験する人は思い当たる節があるのではないでしょうか。

 私たちの体の本来の状態は、骨盤が中心ですべての動作が行われるようになっています。しかし、日々の生活では本来の状態を保てない状況がかなりあります。 
パソコンの姿勢
 例えばパソコンのキーボードを操作するのは指先ですが、指先を動かすための力は骨盤(下腹部)から来ることが理想です。そのためには肘を下に降ろし、手首(手根部)は床面に着いた状態でなければなりません。この状態であれば肩に力を入れることなくリラックスした状態でキーボードを操作できますし、実際に文字を打っているときに下腹部に力が入っているのが確認できると思います。ところが肘を浮かせ、手首も浮かせますと途端に肩に力が入ってしまい、息を吐き出すことが困難になってしまいます。仕事上、書類を見ながら腕を前に出した状態でキーボードを操作しなければならない状況が何時間も続けば、肩に力が入りっぱなし、息を止めっぱなしの時間がとても長くなってしまうということです。こんな日常を続けていますと、動作の重心が首・肩の方に上がってしまうのは仕方のないことかもしれません。
 社会生活を続けている以上、首・肩に力が入り重心が上がってしまう傾向にあるということを知った上で、その状態を解除し、重心を下腹部に戻すためにはどうすればよいか、ということを考えてみましょう。

骨盤が中心である理由
 ところで、骨盤中心で動作を行うことが何故重要なのかということについて考えてみます。
 私たち人間は生物学的に哺乳類になりますが、もう一つ大きい枠では脊椎動物に属します。脊椎動物というのは背骨がある動物のことです。太古の時代、脊椎動物の先祖に背骨がまだできていないとき、体には頭も尻もありませんでした。丸い袋状のような形をして海の中で生活していました。袋には穴が開いていて、その穴からプランクトンなどの食物を摂取しては、同じ穴から尿や便を排泄していました。つまり最初は口と肛門、頭と尻(骨盤)はくっついていたのです。それが億年単位というとても長い間海中の波に揺らされ、流されていると、次第に体に長さができ、頭らしきものができるようになりました。頭らしきものには鼻ができ、エサを嗅ぎ分ける能力ができたのかもしれません。すると頭に相当する部分はエサに向かって進みたいと考えるようになったのか、やがて頭が尻(骨盤)から分離するようになります。これを“頭進”と言うそうですが、尻(骨盤)から分離した頭部(頭脳)は、その本能として前に前に進みたいという欲求があり、やがて頭が尻を従えるようになったのかもしれません。
 やがて進化が進むと頭と尻がすっかり分かれ、その間に背骨ができた脊椎動物となりますが、それは魚の姿です。その後、魚が陸に上がり、手と足ができて爬虫類(ワニなど)になり、哺乳類に進化が進み、私たち人間が誕生するのですが、骨盤と頭の関係を考えるとき私はいつもこのことを思います。
 つまり、骨盤が最初にできて、次に頭ができて体幹となり、手と足は最後にできて四肢と呼ばれるようになりましたので、筋肉の流れもこのようになっているのです。全身の筋肉は収縮するとき骨盤に向かいます。筋肉が伸びるときは骨盤から遠ざかる方向に向かいます。この現象が私の整体の基本中の基本なのですが、筋肉だけでなくエネルギーの流れも同じなのではないかと考えています。
 骨盤(下腹部)から力をもらって手足や指先などが動いているのであれば何の問題も起こりませんが、そうではない動作をしていますと、いろいろと体に不具合が生じてくるのではないかと思っています。激しいギックリ腰になり、骨盤部の力をまったく使えない状態になりますと、体を動かすことができなくなってしまうことがあります。そういう経験をされた方は、骨盤や腰部の力が体にとっていかに大切かということがよく解るのではないでしょうか。

首・肩から力を抜いて重心を下げるには呼吸しかない
 またまた呼吸の話になってしまいますが、首・肩に力が入って常に緊張状態にある状況を解除するためには呼吸を利用するしかないように思います。
会陰中心部上面

 「意識はエネルギー」ですから、意識が下腹部に向かっているときは、エネルギーは下腹部に集まります。そして意識を下腹部に向かわせるためには、息をゆっくり吐き出しながら下腹部に集中するのが簡単な方法です。ところで、下腹部とか下丹田とか骨盤とかの言葉は範囲も広く曖昧な受け取られかたをするかもしれませんので、これからは“会陰”と改めます。骨盤底で尾てい骨のすぐ前にあるのが肛門で、そのすぐ前にあるのが会陰中心部です。息をゆっくり吐きながら会陰中心部に意識を集めます。呼吸は普通にしていれば良いです。そうしながら5回、10回と呼吸をしていると次第に首・肩から力が抜けていくと思います。そしていつの間にか精神的な緊張もほぐれ、会陰が息づき始めるのを感じることができるかもしれません。
 はじめのうちは会陰を明確にイメージすることができないかもしれません。そんな時は下腹部とか尾骨に意識を集めることから始めてください。やがて馴れてくると、会陰中心部が明確にイメージできるようになり、そこへの集中も簡単になります。

 会陰に意識が集まるということは、エネルギーが会陰に集まることと同じです。何の動作をするにも会陰をイメージながら行っていれば、それは骨盤の力を使って動作を行っていることになります。会陰で座り、会陰で立ち上がり、会陰で歩く、こんなことが無意識に自然に行うことができるようになれば、それまで首・肩中心に行っていた様々な動作が骨盤中心の動作に変わるようになります。そうなりますと、肘と手首を浮かせた状態でキーボードを打つことが、いかに不自然な動作であるかに気づくことでしょう。仕事場の配置を変えたりして、自分がリラックスして作業を行えるよう工夫するようになるかもしれません。

 「体を変えることは、使い方を変えること」これは私の整体に対する理念の一つです。肩が凝りやすい、膝が痛みやすい、股関節がすぐに痛くなる、等々、多くの人が自分の傾向を把握しています。そしてそれをなんとか改善したいと私のところにきます。私はその症状を改善することと併せて、その症状になりやすい原因をその方に明らかにするようにしています。そして体の使い方が変わるように施術を行い、その方にもアドバイスをさせていただいています。それでもなかなか“使い方の癖”を一朝一夕に改善することは難しいことがほとんどだと思います。「右側ばかりで噛まないでください。」「いつも同じ場所でテレビを見ないようにしてください。」「一日の終わりには肩甲骨を後に引くストレッチをして脇の下の筋肉を伸ばしてください」などと申し上げますが、後ほど確認すると「つい忘れてしまって‥‥」などと、“ついつい‥‥”という返事が多く返ってきます。
 使い方が偏りますと、筋肉の状態がバランスを失い、体や顔が歪むようになります。施術で整えたとしても、使い方が変わらなければやがて元の状態に戻ってしまいます。それが道理です。

 今回テーマの首・肩に力が入ってしまう状態に対しては、施術で、自然に骨盤に力が集まり首肩から力が抜けるように整えるのが私の仕事です。一回の施術では無理にしても、数少ない施術で骨盤が中心になって体を使えるように整えようといつも考えています。体が上手く使えない状態なのに、“こうしては駄目”とか“こうしてください”など使い方を無理やり矯正するようなことは強要しません。しかし、一定期間は日常生活での体の使い方に注意を払っていただかなければなりません。
 頭の“思い込み”の思考回路はなかなか頑固で、考え方を変えるのはなかなか難しいですが、体の使い癖もそれなりに頑固です。自分では気をつけているつもりでも、油断するとすぐに以前の癖に戻ってしまうことでしょう。しかし、それでも忍耐強く挑戦し続けていただきたいと願っています。

 まとめになりますが、首肩の力が抜けない人は、全身の動作を行う中心(起点・重心)が体の上の方にあって、意識(=エネルギー)も上にありますので、胸から下がおろそかな状態になっています。本来、私たちのあらゆる動作の中心は骨盤(会陰)になるように体ができていますので、首肩に力が入っているときは体を壊す可能性が高い状態であると言えます。
 それを改善するための一番簡単な方法は呼吸であり、会陰に意識が集まるようにゆっくり息を吐くことを中心にした呼吸を行っていくことで、重心を上部から骨盤部に移すことができます。無意識に、自然にこの呼吸ができるようになれば、それまで首肩あるいは胸にあった動作の中心が骨盤部に定着しますので、体は理に合った、省エネの動作をすることができるようになりますし、体を壊しにくい状態になります。
 そしてそのためには、重心が骨盤部に安定するまでの間、体の使い方の癖を変化させるために、いつも会陰を意識するように忍耐強く頑張る必要があります。
 こうして首肩から力が抜ける状態が定着しますと、それまで交感神経優位で肉体的に緊張状態にあったものが解消されますので、体をリラックスさせることがいとも簡単にできるようになると思います。

 ストレス社会と言われている今日、それは環境や外部の状況から受けるストレス要因だけでなく、ご自分の体が緊張しやすい状態にあることも大きな要因だと思います。外側の状況を変えることはなかなか思うようには行かないと思いますが、ご自分の体を変えることは努力一つでできることです。是非試してみてください。
 この文章だけでは理解できなと思われる方は、一度来ていただければ体験を通して理解できるようになると思います。

「かけ算が苦手になった」「物事の理解力が弱くなった」「頭がいつもボーッとしている」「思ったことがなかなか言葉にならない」等々、頭の回転(脳の働き)が悪くなったと感じている人は結構いるようです。あるいは“自分は子供の頃から頭が鈍い”、”他者からとろい人だと思われている”、と自覚されている人もいます。
 それが病気、あるいは先天的なものであるならば、整体の出る幕はないかもしれません。しかし後天的な何かの要因で、あるいは”最近なんとなく頭の働きが悪くなった”と感じているようであるならば、整体で良くなる可能性は高いと考えています。

 頭の回転が悪いということは、脳内の血流が悪くなっていると考えることができます。実際、施術で頭を触ると、頭の中が詰まっていて流れが滞っているように感じることがあります。そのような時はいくつか質問をしたり、暗算で九九をしてもらったりします。頭の中で暗算をしている時は内部で血流が活発になるのを感じることができます。ところが状態の悪い人は血流が上がりません。そして九九の途中でつかえてしまったりします。あるいは4の段とか7の段とかになりますと暗算が終わるまでにかなり時間がかかってしまうかもしれません。
 こういう時は思考回路の神経伝達がうまくいっていないと考えることができます。何かを考えようとしても思考回路の働きが悪いために、考えがまとまらなくなり途中で挫折してしまうかもしれません。あるいは頭には思い浮かぶのだけど、いざそれを言葉にしようとしても、その回路の働きが悪いためにうまく言葉にできず、自己嫌悪を感じて人と話すことがものすごいストレスになってしまったり、あげくは自分は鬱なのではないかと疑うようになってしまったりする人もいます。
 小学生のお子さんをお持ちの親御さんは、お子さんが算数をはじめ勉強の成績が悪く、言っていることも支離滅裂で“とろい子”と感じているかもしれませんが、それは単に脳内の血流が悪いだけかもしれません。血液の流れが戻れば“とろい子”から“普通の子”にすぐにでも戻ると思います。
 
脳の働きと蝶形骨の歪み

 脳内の血流が悪くなっている一番の原因は頭蓋骨の歪みになりますが、その他にも片噛みの癖、噛みしめの癖、口呼吸、横寝、目の凝りなども原因としてあげられます。また、呼吸の状態が悪ければ酸欠状態になり当然脳の働きも悪くなります。
 頭蓋骨の中で脳は蝶形骨という骨を台座としておさまっています。ですから蝶形骨の位置が悪くなりますと脳の働きに影響が出ます。(学者やお医者さんは認めないと思いますが)
 脳の血流をアップさせるために私が試みることの第一は蝶形骨の位置を整えることです。蝶形骨は頭蓋骨の内部にあって、外側からは目尻の少し上のところで少し触れることができます。この場所はいわゆる“こめかみ”に相当する部分であるため、目が凝っていると硬く腫れたようになってしまい直に骨を感じることが難しくなる部分でもあります。
 蝶形骨は頭蓋骨の内部で、上顎骨・側頭骨・前頭骨・後頭骨などと接していますし、内部のそしゃく筋(内側翼突筋、外側翼突筋)とつながっていますので、片噛みや噛みしめの癖、顔の歪み、骨盤~背骨の歪み、肩甲骨の歪みなどをはじめ、体の歪みの影響を受けます。蝶形骨をすっかり整えることはおそらく難しいだろうと思いますが、一定の許容範囲内に位置を整え、骨がグラグラしないようにしっかりさせることで頭蓋骨内の血流をアップさせることができますし、そうすることで脳の働きを高めることが可能になります。
 また蝶形骨の歪み以外では、例えば目の使いすぎなどで眼球の働きに関係する筋肉が強くこわばりますと、そこで血流が滞ってしまい、やはり脳内の血流は悪くなります。目は脳の一部が外に飛び出したものですから、目の働きや瞳の輝き具合などを目安に脳の血流状態を把握することもできます。目がかすむ、目が疲れやすい、視力が悪くなった、目の奥が痛む等々、これらは近視や乱視、老眼など一般的に眼球そのものの問題と考えられていますが、脳の血流が悪くなったことが原因である場合もあります。私の顔や頭蓋骨に対する整体の特徴の一つは、施術の後「目がはっきりする」というのがありますが、それは脳の血流が良くなったからではないかと考えています。

噛み合わせの問題で頭の回転が鈍ることもある
 30歳代の、働き盛りの女性がしばしば計算間違いをして、会社の上司から「かけ算できるの?」と言われ少しショックを受けて来店されました。「考え事ができないし、計算していても全然頭が回らなくて‥‥」と仰っていました。「私、馬鹿になってしまったんですかね?」と落ち込んでいました。
 頭を触ると、中身が詰まりきったような感じで、血の流れがほとんど感じ取れませんでした(もちろん生命を維持する血流はしっかりしているのでしょうけど)。それで九九をしてもらいました。3の段を最初に声を出してしていただきましたが、3×8のところでつかえてしまい「答えが出てこない」と言いました。頭蓋骨を確かめますと、右側のこめかみがこわばっていて目が疲れていることの他に、下顎が大きく右側にずれていました。また噛み合わせを確認すると、左側が浮いていて噛み合わない状態でした。左側で噛むことができないため、いつも右側ばかりで噛んでいるので右側の咬筋ばかりがこわばり、さらに噛のみしめの癖もあって頭蓋骨への血液の流れが滞ってしまっていたのだと思います。目も右側ばかりを使っている偏りがあって、それも影響していました。その他には右側の脇の下(前鋸筋)もこわばっていましたが、それも血流を悪くする大きな原因です。思考回路がうまく働かないだけでなく、右耳の聞こえ方も悪く、右目の見え方も悪かったです。
 それらを全部整えましたが、そうしますと頭の中もスッキリしたようで、九九の暗算もスラスラできるようになりました。九九の暗算は脳の働きを確かめる目安になります。脳の働きが快調であれば、スピーディーに答えがどんどん浮かんできますが、働きが鈍いときはスピードがかなり遅くなってしまいます。

頭部が捻れている人は多い
 多くの人が頭が右側に傾いていたり捻れています。見るにしても噛むにしても顔の右半分ばかり使っていることが原因であることが多いのですが、その他にも右手ばかりを使って作業をしているというのもあります。
 自然界は渦を巻きながら成長と維持を行っているのが法則ですから、誰でも多少はねじれを持っています。まったく捻れていないというのは、自然界の法則に反しますので、おそらくあり得ないだろうと思います。しかし、捻れ方が度を越えますと体の働きにいろいろと不都合が現れるようになります。
 頭蓋骨が範囲を越えて捻れますと当然蝶形骨も歪みます。そして最初は目の見え方や疲れ方、耳の聞こえ方などから違和感や症状が感じられるようになるかもしれません。そして状態が進みますと思考回路への影響が自覚されるようになるかもしれません。仕事中にそれまではなかった睡魔が襲ってきたり、集中力がなくなってきたり、何かを考えようとしても面倒に感じるようになったり、という症状が一番先に感じられるのかもしれません。
 転んで顔周辺にケガをしたとか、ムチウチになったりという外傷の後は頭部が歪んでしまっている可能性が高いのですが、それ以外に内臓の不調で頭蓋骨が歪んでしまうこともよくあります。その他には日頃の噛み癖、噛みしめ癖、目の使い癖など感覚器官の使い方の偏りに起因していることが一番多いのですが、イヤホンで音楽をよく聴いているというのも原因になり得ます。
 歪みの原因が外傷か、内臓か、使い癖か、という点をしっかりと把握して適切に対処することが症状改善の要になりますので、施術をご希望の時はそのあたりの情報を正確に教えていただく必要があります。特に内臓の不調と顔の歪みの関係は、多くの人が「まさか‥‥」と思うところですが、胃腸の不調やそれに対する内服薬の影響で顔が歪んでしまうことはよくあることです。
 顔のことを専門用語では「内臓頭蓋」と呼んだりしますが、つまり顔は内臓の延長線上にあるもの、もっと言えば、“内臓が表に飛び出したものが顔”であるとも言えるからです。ですから内臓の調子が悪いときは肌が荒れたり、目の下にクマができたり、噛み合わせが合わなくなったり、舌を噛みやすくなったり、口内炎ができたり、鼻の調子が悪くなったりしますが、それらは顔が歪むことと関連し合っていると私は考えています。私の母は思い込みから鎮痛剤としてエキセドリンを飲むことがよくありますが、すると決まったように翌朝顔が歪んでいて、「頭がスッキリしない」と言い出します。頭の中(思考)では鎮痛剤が自分に良い効果をもたらすと思い込んでいますが、胃や腸はその薬が嫌いなので、小さな子供が体をくねらせて嫌がるのと同じように内臓がくねってしまい、それが顔を歪ませているのではないかと思っています。

呼吸が悪く、頭に酸素が行き渡らない
 口呼吸は頭の回転を鈍らせる原因の一つです。私たちは表向きには肺で呼吸をしています。鼻から取り入れた空気は副鼻腔を通過するときにバイ菌や汚れを除かれ、湿度と温度が調整されて肺に送られます。副鼻腔を通過することによって肺で効率よくガス交換できるようになりますし、肺や気管支がバイ菌類から守られる仕組みになっています。また私の個人的な感じ方としては、空気が副鼻腔を通過するときの電気的な刺激が脳下垂体の活性化に何らかの役割を果たしているのではないかと思っています。(鼻から吸った空気を額の中央部―前頭洞という副鼻腔・眉間の上―まで引き上げると、そこを中心に頭蓋骨に振動のようなものが広がります。)
 口呼吸では、副鼻腔を活用することはできません。口から入った空気は扁桃腺などのリンパ節はあるものの、ほとんど汚れなどが除去されないまま気管支~肺に入ってしまいます。喫煙はしていなくても、汚れた空気は肺に入ってしまうのです。それは体に余計な負担をかける結果を招いてしまいます。口呼吸は何とか改善しなければならない癖です。

 また、肺呼吸ばかりが呼吸ではありません。呼吸の目的は空気中から酸素を取り出して血液の中に溶かし込み、それを全身の細胞に届けて細胞の活動を維持することです。ですから、呼吸運動に合わせて頭~足先まで酸素が届けられるような感覚を感じられるような状態になることが大切です。息を静かに吐いていったとき、頭の天辺まで血液が昇り、足先の血管が拡がるような感覚が得られる状態が理想です。私はお客さんに対して「頭の中に注目してください。息を吐いたときに頭の中が拡がり、血液が巡る感じがしますか?」「目を閉じて心の目で足先をしっかり見ることができますか? そして息を吐いたときに、それが足先までしっかり届けられますか?」などと抽象的な問いかけをしますが、これができているかどうかはとても重要だと思います。

足先まで意識が届くか

 意識が届けば呼吸は届きます。股関節や膝や足首などの何処かに捻れがあると足先まではっきりと意識を届けることはできません。同様に首や頭蓋骨に歪みがあったり、どこかで流れが滞ってしまうところがあると、頭の中が詰まっているように感じられ頭をスッキリさせることはできません。
 頭の中の果てしなく複雑な活動は神経の働きによって行われています。そして神経を活発に働かすためには酸素が必要です。酸素は血液が運びますので、血の巡りが悪くなりますと酸欠状態になってしまい、脳の力を十分に発揮することができなくなってしまうという理屈です。

 誰もが知っていることですが、私たちの生命を維持するために呼吸は何よりも大切です。しかし呼吸は生命維持だけでなく、私たちの感覚器官を正常に、快適に働かすためにもとても重要です。体の器官の中で脳は一番酸素を消費しています。それは各器官の中で一番細胞の働きが活発であり、私たちの感覚の及ばないところで膨大な仕事をこなしているということです。目を働かせる、耳や鼻、口を正常に機能させるために、あるいは思考を巡らすために脳は非常にたくさんの酸素を必要としていますので呼吸の状態が悪くなって酸素が不足気味になりますと、感覚器官の働きが鈍るとともに頭の回転も悪くなってしまいます。ですから毎日を、頭がスッキリとクリアな状態で過ごすためには、体が正しい呼吸ができる状態にある必要があります。

血圧と頭の働き
 血圧は心臓から上、つまり頭部に血液を送るために必要なポンプ(心臓)の圧力であると考えることもできます。高血圧になってしまうのは、首や頭部の血管が硬くなったり細くなったりして血液の通りが悪くなってしまったため、心臓が普通以上に圧力を高めないと頭部に血液が行き渡らなくなってしまうからだとも考えることができます。動脈硬化の他、首や肩の凝りが強くなって血管が筋肉の圧迫を受けて細くなってしまうことも原因の一つとして挙げられます。この場合は、マッサージなどで凝りを解消することで高血圧が改善されます。あるいは血管は交感神経(自律神経)の働きで締まりますので、交感神経の働きを刺激する精神的緊張状態を解除し、リラックスして副交感神経が優位になるようにすることで高血圧の改善を図ることもできます。
 また、“頭になかなか血が届かないから心臓は血圧を上げてしまう”と考えますと、高血圧の人は脳内の血液循環が悪い傾向にあるという結論にいたります。
 低血圧の場合は、程度によりますが、やはり脳への血液供給が不足しやすく酸欠状態になりやすいと考えることができます。通常は120~130の圧力で脳内への血液供給が順調になされているわけですから、血圧が100に満たないような状態では脳貧血状態となってしまい、脳の働きが不十分になってしまうという理屈になってしまいます。低血圧は心臓の働きが弱いということになりますが、私は「もしかしたら心臓が十分に働くことのできない状態なのかもしれない」と考えて低血圧に対処しています。
 心臓は胸郭の下側、中央の少し左側に位置しています。肋骨の籠の中、左右を肺に挟まれ下には横隔膜があります。肺も横隔膜も呼吸の要となる器官ですので“心臓の働きと肋骨”、“心臓の働きと呼吸運動”はともに密接な関係があると考えることができます。
 これまでの経験では、低血圧や不整脈、動悸などは肋骨の状態を修正することで改善されることが多くありました。胸郭が右方向に捻れているため、左側の肋骨が常に心臓を圧迫しており、心臓が十分に働くことができなくて低血圧になっているというのはけっこう多いと感じています。
 本日、会社の健康診断で血圧が90-48という女性が来店されましたが、肋骨の状態を改善し呼吸の状態を改善すると速やかに124-70になりました。脈も弱々しかったものが力強くなりました。(但し、脈搏が健康診断では40そこそこだったようですが、それは施術後も53までしか上がりませんでした。)
 低血圧のため毎朝起き上がることがなかなかできず、さらに頭も一日中ボーッとしたままで楽しくない毎日を送っているような方は肋骨の状態を修正してみる価値は十分にあると思います。

 先日、お客さんから「右脳を使って、絵で記憶すると脳の力を十分に発揮することができて驚くべき状態になる」という話を聞きました。その方はどこかで講習を受けられたようです。記憶に関しては、左脳の百倍以上のポテンシャルが右脳にはあるということです。私は頭の回転が鈍くなっていそうな方には「身近な方の顔を額にイメージしてみてください」とやってもらうことがあります。そして「額のどこにイメージができましたか?」と尋ねます。そのイメージが額の中央であれば問題はないと考えますが、左側だったり、右側だったりするようであれば頭蓋骨を修正する必要があると判断します。これには学術的根拠はありません。ただ私の感覚として額の中心でイメージが展開されるのが本来の状態であると感じているからです。
 九九を暗算すれば答えが次々と額の中心に浮かび上がり、何かを記憶するときには、それが絵としてクリアに額の中心で処理され頭の中に入っていくようになることが理想のように思います。そしてそれは頭蓋骨を整えることで可能だと考えています。

 今回は筋肉の話です。
 私たちが通常「腹筋」と呼んでいる筋肉は腹直筋を指すことがほとんどですが、腹筋には4つの筋肉があります。腹直筋と外腹斜筋と内腹斜筋、そして腹横筋です。これに内臓を保護するための腹壁をつくるという意味で腰方形筋をその仲間に入れることもあります。今回はこの中で内腹斜筋について取り上げてみます。

腹筋群_側面
 
 私のところに時々声楽家の方がいらっしゃいます。声楽家ですから腹式呼吸は得意とするところです。ところが内腹斜筋の働きが悪いと息を最後まで吐き出すことがスムーズにできなくなります。そして、どことなく声を出すにも背筋に力が入りきらないとおっしゃいます。
 私たちは普段、内腹斜筋を意識することはほとんどありません。普通に息をしているくらいではほとんど働いていないかもしれません。しかし、私たちが下腹部に重心を持っていくためには、つまり「下っ腹に力を入れる」ためにはとても大切な筋肉です。
 息を最後までフーーっと吐き出し続けます。すると横っ腹の骨盤に近い部分がジーンとするような筋肉の収縮感が得られます。その筋肉が内腹斜筋です。

内腹斜筋01


腰痛と内腹斜筋との関係
 内腹斜筋の働きが悪いと骨盤と胸郭の間が広くなり、胸が上がって体幹が不安定になります。腰部に痛みをもたらす筋肉は主に脊柱起立筋ですが、肋骨と骨盤の間が離れるので脊柱起立筋は張ってしまいます。仰向けで眠ることができない、横向きでないとリラックスできないという場合は、内腹斜筋の働きが悪く脊柱起立筋がパーンと張ってしまうからかもしれません。息を最後まで吐き出しきることができないで腰部や背中にいつも張り感がある場合は、内腹斜筋の働きを疑う必要があります。
 また、内腹斜筋の働きが悪いと胸腹部と骨盤部の一体感が失われますので、歩く時でもなんとなく骨盤がフニャフニャした感じになり、下半身に体重を乗せて歩くことができなくなります。重心の位置が胸に近くなってしまいます。この傾向は現代の人に多いと思います。
 下半身の安定感にとぼしく背中や腰がいつも張っているように感じる時は内腹斜筋が関係していると考えられます。

呼吸と内腹斜筋の関係
 息を吸うとき胸は拡がり胸郭は上がります。腹式呼吸では、これに加えてお腹が前に膨らみます。この時、腹筋は伸びてゆるんだ状態になります。腹筋がゆるまないと息を深く吸うことはできません。
 息を吐く時は、これとは反対に腹筋が収縮して胸郭を引き下げます。腹筋の働きが悪いと息を吐く動作が不十分で途中までしか息を吐き出せないため呼吸が浅くなります。
 さて、内腹斜筋の働きが悪く収縮する能力が弱くなりますと、自然な腹式呼吸ができなくなります。自然な腹式呼吸とは、意識せずともゆったりしていて、腹部が滑らかに寄せては返す波のように動いている状態です。しかし、現代の多くの人たちがハアハアと胸を動かすだけの呼吸だったり、お腹がペコペコするだけの呼吸だったりしています。何かに集中することが多かったり、精神的な緊張状態が続いたりすると私たちは呼吸を止めて息を吐き出すことを忘れてしまい、しばらくして溜め息をつくように息を吐き出すわけですが、ストレスの多い現代社会ではそれも仕方のないことなのかもしれません。しかしそれでは内腹斜筋はほとんど働きませんので、筋肉としての能力は落ちてしまいます。浅い呼吸が内腹斜筋の働きを弱め、働きの弱った筋肉はさらに呼吸を浅くしてしまうという悪循環になってしまいますので、一日に何回かは意図的に息を最後まで吐き出して内腹斜筋を鍛えるような時間をつくる必要があると思います。

重心と内腹斜筋の関係
 私のところに来られる方々はほとんどが体に不調や不具合を抱えていますが、そのような方々に共通しているのは重心の位置が高いことです。ここで”重心”と表現しているのは、体を動かすときの中心部という意味です。体のどこを支えにして歩いたり、手を動かしたり、呼吸をしたりしているかということです。
 理想的な重心の位置は下腹部だと思います。臍から骨盤にかけての部分が支点となってあらゆる動作が行えるのが効率的ですし、体を壊さない秘訣かもしれません。しかし、その重心がお腹の上部から胸、つまりみぞおち付近にある人がたくさんいます。そこが硬くこわばっているのです。胃の調子が悪い人が多い理由はここにあるのではないかと思っています。硬くなったみぞおち(腹直筋の上部)が常に胃を圧迫していますし、胃のすぐ下を通っている大腸の横行結腸の動きも悪くなりますので、便秘や下痢といった不調を招いているのではないかと考えています。
 安定していて、楽に立ったり、歩いたりするためには重心の位置が下腹部に来る必要があります。立っていても、座っていても、息を抜いて楽に骨盤に上半身を乗せることができることが正しい姿勢をつくるためのポイントですが、そのためには重心が下腹部になければなりません。重心の位置が高いと骨盤で上半身を支えることができませんので、すぐに背もたれに寄りかかりたくなったり、あるいは座ることが苦痛なのですぐに横になったりしてしまいます。体がこんな状態なのに、「姿勢良くしなさい!」などと強要したところで、本人にとっては苦痛以外の何物でもなく、反発を招くだけの結果に終わってしまうでしょう。
 そして、重心を下腹部に下げるためには内腹斜筋の働きを良くすることが欠かせません。姿勢を正して、ともかく骨盤にしびれを感じるくらい最後まで息を吐き出し続けます。それを何回か繰り返していると、腹筋の下の方が硬くしまっていく感じがつかめると思います。肛門も自然と締まってくることでしょう。内腹斜筋に限らず腹筋の全部が最大限に力を発揮している状態です。
 このようなトレーニングをしていると、これまで体験したことのないような力が自分の内にあるのが体感できるようになると思います。これは筋トレの腹筋運動では得ることのできない、腹筋の鍛え方です。

 先日、大学の陸上競技部の選手が腰痛の改善に来られました。立派でしなやかな体型をしているのですが、「腰が痛くて仰向けで寝ることができない」ということでした。いろいろ体を調整しましたが、私がとても気になったのは、重心の位置が胸にあることでした。ハイジャンプの選手ですが、筋トレでベンチプレスをはじめ上半身を鍛えることをかなりやっているとのことです。この選手に「ともかく息を吐いて重心を降ろしてください」と言っても、本人はその感覚がなかなかつかめません。ベンチプレスなどで腕の筋肉や胸筋や前鋸筋を鍛えすぎているため重心が上がってしまい、さらに体の内側ではなく外側に重心が分散してしまっているのだろうと私は思いました。もっと効率の良い体の使い方ができるはずですし、そうなれば記録も上がっていくだろうと感じました。

 運動選手や特殊な仕事に従事する人は別として、普通の人が内腹斜筋を鍛えるために何かのトレーニングをする必要はないと思います。ともかく、一日に何回か、息を吐き出しきって骨盤がジーンとなるような呼吸を1~2分行ってもらえれば、それで十分だと思います。そうすることで呼吸も改善し、重心の位置も改善し、「横向きでないと眠れない」という状態も改善するかもしれません。

 専門的に、内腹斜筋の状態を整える方法はいくつかあります。内腹斜筋は下半身では長内転筋、後脛骨筋、母趾内転筋と、腕では上腕筋、母指内転筋などと連動しますので、それらの筋肉の状態を整えることによって調整します。 

 内腹斜筋はあまり語られることのない地味な筋肉ですが、体の芯を支えるインナーマッスルであると私は考えています。ここに取り上げた、腰痛、呼吸、重心、という項目では必ず状態を調整しなければならない筋肉です。 

 この方は長年建設関係のお仕事に従事され、毎日長時間の肉体労働をしています。だいたい2ヶ月に1度くらいの割合で来店され、全身の揉みほぐしと不調箇所の調整をしています。いつも肩の揉みほぐしから施術を始めるのですが、3分もしないうちに眠りに落ちてしまい施術時間のほとんどを眠った状態で過ごされます。
 そんな方なのですが、今回は「夜中の2時頃に必ずと言っていいほど目が覚めてしまい、それからウトウトするのだが、朝方まで何度も目を覚ましてしまう。それを何とかして欲しい。」ということで来店されました。“こんなにいつも寝入ってしまう人が、実は睡眠障害なのか‥‥”と思いましたが、以前に息子さん(父と同じ仕事)が来店され不眠を訴えていたことを思い出し、なんとなくイメージが湧いてきました。息子さんは20代前半ですが、その後睡眠の調子も良いようで、同じようにして欲しいという要望だと感じました。

 さて、睡眠に関して整体で調整できることの一番は呼吸を整えることです。そして次には頭の血流が良くなるように整えることです。心理的な事柄で眠れなくなることは誰もが経験することですが、直接的にそれをどうにかすることはできなくても、呼吸と血流を整えて頭の中がスッキリするようになれば、意外に心理的な要因での睡眠障害に効果があるかもしれません。

呼吸を整える
 呼吸の調整はなかなか奥深いものがありまして、単に規則正しいリズムで息を吸って吐いているかだけでは不十分です。呼吸は波でありリズムです。そして呼吸の波とリズムが全身に拡がっていくことが、本当の意味でのリラクゼーションだと考えています。ですから呼吸の調整において私が目標とすることは、ゆったりとしたリズムで、あたかも“全身で呼吸をしているような状態”を実現することです。
 呼吸運動において要となるのは横隔膜と胸郭の動きです。肺は自分自身では膨らんだり縮んだりすることができません。横隔膜がお腹の方へ下がることによって、さらに胸郭が拡がることによって肺の中が陰圧になり外気が肺の中に流入する仕組みになっています。
 
横隔膜_呼気吸気

 息を吸う動作では胸と腹の境界となっている横隔膜が腹部の方へ下がりますが、それに連動するように肋骨が上に動き胸郭が拡がります。ですから普通は息を吸う時にお腹が膨れ、それに合わせるように胸が顔の方へ近づきます。ところが実際にそうできている人は多くありません。お腹だけがペコペコ動いていたり、胸だけがハアハアしていたり、という場合が多く見受けられます。呼吸が浅い状態です。これでは全身に拡がるような“波”は生まれません。
 また息を吐き出す時には、胸が下がるとともに膨らんでいたお腹が平に戻ります。そしてこの動作がスムーズに行われるためには腹筋の働きが重要になります。腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の3つの腹筋が協働して上がっていた胸郭を引き下げますので、仮にこれら腹筋の働きが悪いと胸が下がらない、つまり胸が上がったままの状態になってしまいます。この状態は“息が詰まった状態=過呼吸状態”といえます。
 
呼気に働く腹筋

 ごく自然に、フーーッと長く息を吐き出し続けていくことができれば、そしてこの動作の最後の方で下腹部の腹筋が硬くなる(収縮する)のが確認できるようであれば問題はありませんが、動作が途中までしかできなかったり、あるいはゆっくり吐き出すことができなかったり、途中で一端動作が途切れてスムーズさに欠けるようであれば、腹筋の働きに問題があると考えられます。尚、「息をゆっくり吐き出してください」と言ったとき、深呼吸をするように一度大きく息を吸ってからでないと吐き出せない人がいます。こういう人は過呼吸状態であると考えられますし、腹筋の働きが良くない状態であると考えることができます。
 私たちは緊張したり驚いたりするとき、息を吸った状態で止めてしまうことが多いです。“ハッ”とするという言葉はまさにそれを、つまり息を吸った状態を物語っています。そして体から息を吐き出すとき、緊張感から解放されるとともに“何か”が体中に行き渡ります。この“何か”を“気”と表現してよいかもしれません。
 溜め息は息詰まり状態からの瞬間的な解放、つまり緊張状態からの解放手段です。つまり、息を吐き出すことによって緊張感から解放されるように私たちの体はできているということです。

 “不眠”を呼吸在り方という面で考えるとき、「ゆったり吐き出せているだろうか?」ということが最初の着目点になります。
 そしてそれができていないのはどうしてなのか?
 それは吸気に問題があるのだろうか? つまり胸郭の状態や鼻や喉の状態。
 あるいは、腹筋の働きに問題があるのだろうか?
 といった感じで観察していき、調整していきます。

 (大胸筋や前鋸筋などの)胸をとりまく筋肉のこわばりが肋骨の動きを制限していて吸気の動作が上手く行えない場合があります。あるいは鼻の通りが悪くて、あるいは舌や喉の問題で吸気が上手くできない場合もあります。その他に胸郭自体が閉じていて、つまり胸がふさがっていて息が吸えない場合もあります。
 腹筋の働きが悪くてゆったりと息を吐き出すことができない場合、腹筋自体に問題がある場合もありますが、多くはそれ以外の理由で腹筋の働きが悪くなっています。手や腕の使いすぎで、それらの筋肉がこわばり、その連動性で腹筋の働きが悪いこともあります。足の指先が強くこわばっていて腹筋の働きが悪いということもあります。

 これらの不具合を一つずつ調整していきますと、はじめは胸だけがハアハア動いていたり、お腹だけがペコペコ動いていた呼吸状態が次第にゆったりとしていき、やがて胸から下腹部にかけて呼吸運動の一体感と連動性が生まれるようになります。呼吸運動が波にかわり、全身がそのリズムにあわせて波打つような状態になっていきます。こうなりますと呼吸の影響による不眠の状態は改善されると思います。

 頭部の血流に関しましては、噛みしめや歯ぎしりによるそしゃく筋のこわばりや、目の疲労による影響などが考えられます。頭蓋骨が歪んでいたり首が捻れていて血流が悪くなっていることもあります。

 睡眠に関して、その他に申し上げておきたいことが一つあります。これは理屈だけでは理解できないこと、実際に体験しないと実感できないことですが、胸が開放的であるか、閉鎖的であるか、というのがあります。呼吸とも深く関わりますが、胸が閉じているようなときは、どこか息苦しそうです。眠っていても眉間に縦皺がよっているような感じです。このような場合、それを何とか改善し、胸が環境(自然界)に対し開放的な状態にするのも私の仕事だと思っています。そうなれば、自然界のリズムと体のリズムが通じ合い、安らかな眠りが実現できるのではないでしょうか。

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