ゆめとわのblog

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カテゴリ: からだの使い方

 お一人お一人顔が違って個性があるように、歩き方にもその人その人の特徴があります。ですから“これが正しい歩き方だ”というような絶対的なものはありません。しかし、ある観点、例えば“健康になるための歩き方”とか“故障しない歩き方”、“スタイル良くなる、見栄えの良くなる歩き方”ということで考えますと、原理原則のようなものが浮かび上がってきます。
 私たち(二足歩行)は重力のある地球上に立って、つまり重力に対抗して歩かなければなりませんので、その理に叶うように歩き方を考える必要があります。背の高くなる植物は重力に逆らって真っ直ぐ上に成長するわけですが、そのためには表には見えずとも地中にある根(土台)がしっかりしていなければなりません。同じように、重力に対抗して歩くためには足元がしっかりしていなければならないわけですが、「何をもって“しっかりしている”と言えるのか?」という素朴な疑問が生じす。
 また、“歩くことが健康に良い”とか(今は死語になっていますが)「歩けなくなったら終わりだ」と、かつてしばしば言われていた根拠は何なのか? という素朴な疑問もあります。
 今回はこれらについて考えてみます。

足元をしっかりさせるためには全身の力をしっかり足に伝えること
 私が歩き方を観察する時、一番最初に着目するところは上半身が前に突っ込むようにして歩いているのか、あるいは下半身が主導してからだを前に進めているのか、といった点です。

歩き方03

 上半身が前に突っ込むようにして歩いているとは、顔や首や胸を前に出す、あるいは上半身を前傾することによって歩いているということです。上半身が前のめりのままでは倒れてしまいますので自然と脚を前に出してからだのバランスを保ちますが、そのような仕組みを利用して歩いていることです。つまり先に上半身が前に進み、後から下半身がついてくるような歩き方で、このような人は“つまずきやすい人”、“足が上がらない人”と言えます。足先(足趾)は前のめりになった上半身の重みを支えるために必要以上に力を入れて(収縮させて)踏ん張らなければならなりません。ですからこのような人は足趾が曲がっているのが特徴で、足趾を揉むとすごく痛がります。
 「足趾に力を入れて踏ん張っているのだから足元はしっかりしているはずだ」という誤解が生じるかもしれませんが、それは間違いで、バランスの悪くなった状態を足趾で踏ん張ることで倒れないようにしているということなので、足元がしっかりしているというのとは違います。

歩き方02

 一方、良い歩き方は“先に脚が前に出る”歩き方、つまり下半身主導の歩き方です。体重が軸足(後方の脚)の方に長く乗っていられますので、前脚は軽く感じられ自由に動かすことができます。地面に凹凸があっても、小石や砂利などの障害物があっても、軽々と対応することができます。着地する前足は“上から”地面を踏むことができますので、足裏はセンサーのように働き地面からの情報を瞬時に把握することができます。段差に足が乗ってしまったとしても転んだりすることはほとんどありません。(上半身主導で歩いている人は足が後からついてきますので、足裏がセンサーとして働くことは難しい)
 下半身主導で歩く動作は、脚を前に踏み出して体重を支える時も、次に軸足となって地面を蹴ってからだを前に進ませる時も、下半身の筋肉が直接地球の重力と対抗することになります。ですから、ただ歩くだけで筋肉が鍛えられるという効果をもたらします。一方上半身主導で歩いている場合は、自分の意志で下半身を使っているという感覚にはなりませんし、長く歩くと疲れを感じてしまうと思います。ふくらはぎや足や足趾ばかりが頑張り続けるため、「歩くことが心地良い」とはなりません。

 足元をしっかりさせれば重力に対抗する力が増しますので自ずと“からだは背の伸びた状態”になります。歩き始めの時よりも、歩き続けていると次第に背筋が伸び、腰の位置も高くなったように感じるような歩き方が理想です。しかし、そのためにはからだの力をしっかり足元に伝える必要があります。

 からだを動かすことを分析的に観察しますと“重心を移動させる”ことに置きかえることができます。からだを前傾する動作は、重心を前に移動することによって行うのが自然な在り方です。重心を移動させることなく前傾しようとしますと猫背のように背中や首を丸めるだけの形になってしまいます。同様に、歩く動作の一歩一歩は重心を足元に移動させる動作にならなければなりません。前脚として前方に踏み出した足は着地とともに軸足に変わり、やがてからだを前に移動させる蹴り足になりますが、この一連の動作は股関節周りの筋肉の収縮から始まります。股関節周りの筋肉が動き、次に太股、ふくらはぎ、足、足趾へと動作の主体が移っていきますが、この流れに伴って重心が股関節から足へと移っていくことで、からだをしっかり支え重力に対抗する力となります。
 足踏み運動で、持ち上げた脚(太股)を地面に降ろす動作を“自然に”しっかり“力強くグイッグイッと”行うことができれば、重心の移動が実感できます。そして、それに伴って重力に対抗する力が増していくのが実感できると思います。(降ろした脚の膝裏が伸びず、お尻がキュッと締まらなければ、この感覚は実感できません)
 これが、からだの力を足に伝え“足元をしっかりさせる”ということの意味です。足踏み運動をした時の“この感覚”を実際の歩行時にも実現できれば、それが心地良い歩き方、スマートな歩き方に近づくための第一歩だと言えます。

良い歩き方のために重要な中殿筋と大内転筋と大腰筋
 これまで多くの人たちの歩き方を観察してきました。歩き方教室などに通われている人もいましたが、私の場合は“からだに不具合を起こさない歩き方”、“歩くことで健康を維持増進させる”という観点で考えますので、ヒールの高い靴を使いこなす、美脚に見えるなど、歩き方教室などで指導していることとは見方も申し上げることも違うと思います。

 “歩くことは片脚立ちの連続動作”というのが基本中の基本だと私は考えています。ですから歩き方を修正するためには、先ず“しっかりとした片脚立ちができる状態”を築かなければなりません。“しっかりとした片脚立ち”というのは、何秒間か片脚立ちの状態が保てるとか、からだの何処かに不自然な力を入れて我慢すれば片脚立ち状態が維持できる、というのとは違います。重心をしっかり片方の脚や腰に乗せることができた状態であり、上げた方の脚がフリーな状態になることであり、思いのままに楽々と前後左右に動かすことができる状態です。この状態になりますと、軸脚がしっかり「からだを支えている」という感覚が得られます。


歩き方01

 そして、そのためには何よりもバランスを保つ必要があります。バランスが良ければ無理なくこの状態が保てますので、筋力よりもバランスの方が大事です。
 軸脚にからだを乗せ、反対側の脚を上げてバランスを取るためには上半身が上げた脚とは反対側に少し傾かなければなりません。直立不動のままで片方の脚だけを上げ続けることは不可能です。仮に何秒間かできたとしても、軸足の足裏や足趾にはその状態を保つためにモゾモゾしたりして無理な力がかかってしまいます。

中殿筋と大内転筋の収縮

 例えば左脚を軸として右脚を上げた場合、上半身を少し左に傾けなければなりません。そしてこの姿勢をつくるためにはお尻の側面にある中殿筋がしっかり働かなければなりません。左側の中殿筋が収縮することによって上半身は自然と少し左側に傾きます。そして中殿筋がしっかり収縮することができれば“お尻にエクボ”が発生します。
 ところで中殿筋を働かせずに脇腹の筋肉を収縮させて上半身を傾けることもできます(上半身が折れた状態)が、それは重心が左脚に移動したのとは違いますので、片脚立ちのバランスを保つことはできません。正しい片脚立ちの状態は、背面から見ますと、股関節のところでからだが少し折れて傾き(背中は伸び)、軸脚のお尻の上部が盛り上がって、そのすぐ下にエクボのような凹みができている状態です。

 また、軸脚には全体重が乗りますし、やがては地面を蹴ってからだを前に移動させる働きをしなければなりません。ですから軸脚はしっかりしている必要がありますが、この時に要となるのは大内転筋の働きです。大内転筋の働きが悪いと片脚立ちの状態でお尻を持ち上げ軸脚を真っ直ぐに保つことができなくなります。膝が折れ、お尻が下がってしまいますので中殿筋の収縮(お尻のエクボ)も望むことができませんし、地面を蹴ってからだを前に押し出す働きを望むこともできなくなります。大内転筋の働きが悪い人は、膝が少し曲がったまま地面を擦るような歩き方になってしまいますので、“重力に負けているような歩き方”に見えるかもしれません。
 そして大内転筋は筋連動の関係で大腰筋と深い関連性があります。大内転筋の働きが悪いと大腰筋の働きも悪くなりますので腰椎の前弯がなくなり骨盤は後に傾いてしまいます。それは腰が悪くてからだを真っ直ぐに伸ばすことができない状態に似ています。
 このような人はとてもたくさんいますが、極端な例として、腰の曲がった人の歩き方を想像してみてください。上半身が前のめりになっていますので、からだが倒れないようにと、すかさず脚を前に出さなければなりません。歩幅は狭くなり、チョコチョコ、パタパタ、あるいはバタンバタン、ドスンドスンと歩かざるを得ません。本来、歩くということは下半身の力でからだを前方に移動させることですが、このような人はそれとは反対で、上半身が前に前に行ってしまうので、それを支えるために脚を前に出しているといった感じです。ゆったり歩くことを望むことはできません。

 ところで、滑らかな歩行動作は腹筋を含めた骨盤周りから下半身全体の筋肉の連係プレイで実現できることですから、例えば足趾に創傷ができただけでもバランスが崩れてしまいます。ですから歩行の問題に対して施術を行う場合は、たくさんの筋肉や骨の状態をチェックする必要がありますが、最初に確認するのは大内転筋、中殿筋、大腰筋になります。

大腰筋で歩き始めるか、大腿筋膜張筋で歩き始めるか
 大腰筋につきましては前回の記事で取り上げましたので、そちらも参考にしてください。
 “歩き方”を観察するとき、私は先ず二つに分けて見ます。下半身主導で脚が前に出て後からからだが付いてくるような歩き方か、それとも上半身が前に出ることによって後から下半身が付いてくるような歩き方か、どちらの傾向かを観察します。

大腰筋か筋膜張筋

大腰筋と大腿筋膜張筋
 
 ここで筋肉の話になりますが、股関節で大腿骨を引き上げ脚を前方に出す働きをする筋肉がいくつかあります。体育の授業で行った膝を水平まで高く上げるような足踏み運動は別にして、歩行動作に限って考えますと股関節の内側(大腿骨の内側)には恥骨筋と大腰筋があります。股関節の外側面には大腿筋膜張筋と縫工筋があります。恥骨筋と縫工筋は補助的な作用ですので、脚を前方に出す働きをする筋肉は、股関節の内側は大腰筋、外側は大腿筋膜張筋であると考えていただければよいと思います。
 下半身主導でゆったり歩くためには内側の大腰筋を使って歩き出す必要があります。大腰筋は股関節より上部の腰椎から始まっていますので、大腰筋が収縮しますと大腿骨だけでなく骨盤(腸骨)も動かします。ですから大腰筋をしっかり使って歩いている人の歩き方は骨盤も良く動いて実際の脚の長さより脚の動きが長く大きく見えます。 

座位からの腿上げ比較

 ここで筋肉の働き方を観察するためにテストをしてみます。
 椅子に座った状態で左の腰(骨盤)に重心を移します。重心がしっかり左側に乗りますと右脚のつけ根はフリーな状態になって微かに浮く感じになると思います。その状態で右太股を5㎝上げて保持し、股関節の内側と外側に筋肉の収縮(緊張)を観察します。正しく行えていれば内側の方が外側より収縮しているはずです。つまり大腰筋を使って太股を5㎝上げているということです。
 次に、座った状態で左右均等に、あるいは少し右側に重心を乗せた状態で右脚を5㎝上げてみます。すると股関節の外側から太股の外側にかけて筋肉が緊張しているのがわかると思います。これは主に大腿筋膜張筋を使って太股を上げているということです。
 つまり、重心を上げる脚(右)とは反対側(左)の腰(骨盤)にしっかり乗せることができますと大腰筋を使うことができますが、重心の移動ができない状態では大腿筋膜張筋を使わざるをえなくなってしまうという現実があります。そして座った状態でのこの現象は立った状態でも同じですから、大腰筋を使って歩き始めるためには「最初に重心の移動(=軸脚にからだを乗せる)を行わなければならない」という理屈になります。
 両脚を揃えて立った状態から右脚から前に歩き出すためには、脚を踏み出す前に左脚(腰)に重心を移動することから始めなければなりません。
 左脚に重心を移動してしっかり立つことができれば自ずと右足のかかとが少し浮いて膝が軽く曲がった状態になります。そしてそのまま自然の流れで右脚を踏み出すことができます。(左脚の踵側などに重心がある場合は無理ですが)
 “できる人”にとっては普段やっていることですから何の苦労も要らない自然の動作ですが、“できない人”にとっては、実は修得が難しいことの一つです。

 “できない人”の多くは、先ず重心を前方に移動することによって脚を前に出さざるを得ない状況をつくり、それを利用して歩き始めています。立った状態から首を少し前傾したり、お腹を前に出したりする動作を、脚を出す動作よりも先に行ったり、あるいは同時に行ったりします。つまり上半身主導型で脚が後から付いてくる歩行動作です。このような人の特徴は足の指が曲がっていることです。重心が前方にあるため足指(足趾)は必要以上に踏ん張ってからだが前に倒れないように支えなければなりません。歩く一歩一歩に、足趾はこのように頑張らざるをえなくなりますので、指の筋肉がこわばってしまい指が曲がってしまうのです。一方、大腰筋を使って下半身主導で歩いている人の足趾はほとんど真っ直ぐです。体重を足裏全体で支えることができますので、足趾を収縮させて我慢する必要がないからです。

股関節外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を使って歩き始めることの弊害
 上記の椅子に座って脚を上げるテストで、大腿筋膜張筋を使って太股を上げている状態をよく観察しますと、足の甲の小趾側や全体が反った状態になっていると思います。足首を脱力した状態では太股を上げることができませんので、まず小趾を浮かせるように反らすことから動作を始めてしまいます。これが筋肉連動の仕組みなのですが、最初に小趾を浮かせる筋肉(第3腓骨筋)を収縮させないと大腿筋膜張筋が収縮しないので太股を上げることができないのです。

前脛骨筋と第3腓骨筋02

 一方、大腰筋を使って脚を上げる場合は太股の内転筋~前脛骨筋に連動が起こりますので、母趾の中ほどの骨(母趾中足骨)が浮くようになりますが、足首を脱力したまま動作を行うことができます。

前脛骨筋と第3腓骨筋01

 つまり太股の外側の筋肉を使って歩いている人は、足首に力を入れて足を反らせることから歩行動作を始めますので足首周辺やふくらはぎの筋肉が疲労すると言えます。太股の内側の筋肉を使って歩いている人は股関節→太股→ふくらはぎ→足へと筋肉が連動していきますので、足首を曲げる(背屈)こともなく脱力した状態で自然と母趾が持ち上がるように足を踏み出すことができます。ですから歩行で疲労を感じるのは股関節周辺ということになります。

 少し長く歩くと股関節の外側やスネの外側や足の小趾側が疲れてしまう人は大腿筋膜張筋を使って歩いているということになりますが、その弊害について幾つか説明します。

①外反母趾と内反小趾の危険性
 臨床的に見ますと、内反小趾も外反母趾も同じような理由で起こっていることがほとんどです。小趾側に力が入って歩くということは、母趾に力が伝わらないので地面を蹴るのも小趾が主体となって行っているということになります。小趾と母趾では骨の太さがまったく違うように力の強さも大きく違います。

母趾外転筋と小趾外転筋の変調

 小趾側の力だけでは地面を蹴ってからだを前に移動させることは難しいので、小趾に必要以上に力を加えなければなりません。足裏には地面を蹴るために足趾を曲げる筋肉(屈筋)がありますが、小趾にはふくらはぎからつながっている長趾屈筋と短い短小趾屈筋があります。そして、この二つの屈筋だけではからだの重さを持ち上げるだけの力がありませんので、本来は小趾を開くために存在している小趾外転筋までも動員してその仕事をしようとします。小趾外転筋は小趾を捻る働きもしますので、その結果小趾が捻れて内反してしまいます。これが幅の狭い靴を履いているわけでもないのに小趾が内反してしまう主な理由だと考えられます。
 また母趾が機能していない状況ではまともに歩くことはできませんので、地面を蹴るときにはどうしても母趾を使うようになります。靴の中で浮き気味になっている母趾を使うためには母趾先を強く曲げたり捻ったりしなければなりません。その結果、母趾が第一関節のところで曲がってしまったり、外反母趾のようにねじれた状態になってしまいます。高いヒールや幅の狭い靴を履いているわけでもないのに外反母趾になり、炎症や痛みを招いてしまうのは、靴の中で母趾を捻っているからです。歩く度に母趾を捻るので、靴と間で摩擦が生じ、炎症や痛みといった状況を招いてしまいます。また母趾を捻る働きをするのは、小趾外転筋同様、本来は母趾を開くために存在している母趾外転筋ですが、この二つの外転筋(母趾外転筋と小趾外転筋)がこわばりますと筋連動の仕組みで、長内転筋、中殿筋などもこわばってしまうため、その他の弊害が現れます。

②くるぶしの位置が変わって足首が痛くなる

外果の位置と筋肉

 大腿筋膜張筋はふくらはぎで腓骨筋と長趾伸筋に連動していますので、大腿筋膜張筋で歩いている人はこれらの筋肉がこわばります。足首の外側にあるくるぶしは腓骨の下端ですが、腓骨と小趾を結んでいる第3腓骨筋や長趾伸筋がこわばってしまいますとくるぶしを前下方に引っ張ってしまいます。あるいは小趾全体が浮いたような状態になります。それは足首の中で外くるぶしの位置が変わってしまうということですので、足首が回しづらい、くじきやすい、歩くとかかとの外側が痛むなどの症状を招く原因になります。足首周辺がいつもスッキリしていない人はくるぶしの位置がずれている可能性がありますので、単なる“むくみ”とは考えず、歩き方を見直したり、あるいは整体で整えることをおすすめします。むくみに対する手段を行ってもほとんど意味はありません。

③O脚になる可能性、脚が外側に太くなる可能性
 大腿筋膜張筋は太股の一番外側にある腸脛靱帯と一体化していますので、使えば使うほどに力は外側外側へと加わります。ですからやがて膝の間が広がったO脚になってしまうのは当然の理屈になります。
 そして大腿筋膜張筋を使って歩いているということは、太股の内側の筋肉をあまり使っていないということですので、太股の内側は痩せ、外側は太くなるという現実が訪れます。それはふくらはぎでも同様で、膝下も外側ばかりが太くなるということになります。このような状況もO脚も、私たち日本人によく見られる体型であるとのことですが、それはつまるところ、私たちの多くは股関節の外側の筋肉を使って歩く傾向があるということです。
 
④つまづきやすくなる
 大腰筋を使って歩き始める人は下半身主導型であり、特別な力を使うこともなく自然と前足の母趾が上がります。そして地面を“上から踏む”ことができますので、少しの段差でつまずいたり、地面の多少の凹凸につまづいたりすることは考えにくいことです。(但し前脛骨筋の状態が悪ければ別ですが)
 大腿筋膜張筋を使って歩き始める人は、上半身主導型の場合が多く、脚を振り子のように使ってしまいますし、足首で足の甲を反らなければならなくなります。この一連の動作は小趾側が主体となって行われますので母趾はあまり上がりません。足の運び方も“足を引きずる”、”脚を回して前に出す”、“ガニ股や内股”のような感じになってしまいますので、足裏にセンサーとして役割を持たせる余裕が生まれず、つまづいたり、引っ掛かっかりしやすくなったりします。加齢に伴い筋肉の働きが弱くなりますと足首を背屈(甲の方に曲げる)する能力も低下しますので、何もない平らなところでもつまずいてしまうということが起こりやすくなります。高齢になって転んだりしますと大きなケガに発展することもありますので、高齢になるほどに歩き方を見直すことを是非考えてください。

 その他、股関節や膝の痛みや変形、腰痛、背中のハリなども含めて、いろいろなからだの不具合を招く可能性があります。また体型的にスマートな美脚を目指すのであれば、大腿筋膜張筋を使って歩いていては永遠に実現不可能だと思いますので、歩き方を根本的に見直すことから初めていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩くために
 大腰筋をあまり機能させずに歩いている人にとっては、“大腰筋を使う”ことがどういう感じなのか、まったくわかないと思います。実際、皆さんに練習方法を教えていて、大腰筋を使う感覚を感じて認識していただくことが、私が一番苦心するところです。そして私が観察しながらアドバイスしているときにはできても、自宅で一人で練習するときには“よくわからない”となってしまうところです。

 歩行で大腰筋を使うためには原則があります。

①重心を軸脚側の脚や腰にすっかり乗せてバランスをとる。
 例えば立った状態で左脚に体重をすっかり乗せてバランスを取りますと、上半身は少し左に傾き、右脚が浮くか右かかとが少し上がって膝が少し前に出るような感じになります。この状態を私は「右脚がフリーになった状態」と呼んでいますが、この状態をつくることができなければ先には進めません。

重心移動_座位

 そして座位でも立位でも共通していることですが、重心を左側に移しますと上半身(腰部や脇腹)の左側は少し伸びた状態になっているのが正しい姿です。「重心が左側にしっかり移れば左の背中は伸びます」
 皆さんが間違いやすいことですが、ご自分では左側に重心を移すつもりで上半身を左側に傾けますが、それを左の脇腹を収縮させて行いますと、単に「からだを左に曲げている」ということになってしまい、重心を移動したのとは違います。その他には、骨盤を左側に突き出して片脚立ちの状態をつくろうとする人もいますが、この場合、上半身は右側に傾いてしまいますので、これも間違いです。
 イメージとしては“やじろべえ”を思い浮かべていただきたくと良いと思います。左脚を軸としてバランスを取るために上半身を左に傾け右脚を右側に開きますが、軸脚の左足裏は小趾側にも母趾側にも重心の傾きがなく楽に立っていられる状態です。フラフラしたり、足趾や足裏で頑張ってこらえたりするようでは駄目です。
 くれぐれも「上半身を曲げて重心移動を試みてはいけない」を頭に入れてください。

②軸脚のお尻にエクボができる
 軸脚にからだを乗せたとしても膝が曲がっていたり、かかと重心になっていてはいけません。軸脚はしっかりと地面をとらえ重力に対抗しなければならないからです。
 正しい状態の特徴を挙げますと、
 ①お尻にエクボができていること=中殿筋がしっかり収縮している、
 ②膝裏が伸びて体重をしっかり支えていること、
 ③重心が足首の前側にあること、
などです。そして、これらの状態をつくりあげる要は中殿筋と大内転筋の働きです。
 先にも申しましたが、中殿筋が収縮することによって上半身は股関節のところで横に曲げることができますので、踏み出す方の脚を浮かせてもバランスを保つことができます。中殿筋の働きが悪いとこの状態が作れませんので、踏み出した脚はすぐに着地しなければならなくなります。
 また、片脚立ちの状態を軸脚の膝が折れたような状態で行いますと、重力に負けたような恰好になりますので、お尻も下がり地面を這うような歩き方になってしまいます。
 そして重心の位置が軸足のかかと側に来てしまいますと、前に進むというよりは後に下がるような状態になってしまうので足を踏み出すことができなくなります。しっかりと足首(足関節)やや前目に重心が乗るのが良い状態だと言えます。
 このような状態を築くことができれば、踏み出す足はなんの苦労もなく自然とゆったり前に向かうことができますし、長い時間軸足に重心を保つことができますのでしっかりと地面を蹴ることができるようになります。

 以上の二つが原則として大事なことになりますが、軸脚側ばかりの内容になっていて大腰筋そのものをどう使うかという内容はありません。つまり大腰筋を働かせて歩くためには軸脚が何よりも大切だということです。
 軸脚側にしっかりとからだを乗っけ(重心を移し)て、軸脚を重力に負けないようにしっかりさせることによって、反対側の脚はフリーな状態になりますので大腰筋を使って前に踏み出すことができるという仕組みになっています。

 大腰筋を使って歩くことが上手くできないような人は、練習として、
①先ず軸脚側にからだを乗っける
(その状態がしっかりできてから)、
②反対側の膝を少し(10㎝くらい)上げる
(それ以上上げると大腰筋以外の腸骨筋や長内転筋、大腿直筋などが作動してしまうので、大腰筋の動きを認識できなくなります。)
というのを交互に繰り返すことから始めていただきたいと思います。

移してから上げる(歩行練習)

 「移してから、上げる」というかけ声を心の中で唱えながら行ってください。そうしないと、重心を移しながら膝を上げてしまったり、上げてから移してしまったりするからです。何故なら、そのような人たちには「歩くことは足を前に出すことだ」というような固定観念が絡みついていますし、からだの動きにも染みついていますので、それを脱却して欲しいと思うからです。
 実際、この練習をした直後に歩いていただくと、上手く歩ける時と歩けない時が混在します。それは習い事と一緒で、できないことに挑戦する時は「頭では解っているけど、からだが上手く動いてくれない」状態がしばらく続くからかもしれません。からだがちぐはぐになって右足を前に出すときに右肩を前に出してしまったりすることもあるかもしれません。これまでと違った歩き方をからだに覚えさせるということは、考えている以上に忍耐のいることです。それでも忍耐強く「移してから、上げる」を繰り返し練習してください。すると街中を普通に歩いている時に、突如、「ああ、こういうことか!」という“気づき”がやって来たりするかもしれません。思い(意志)とからだの整合する時は、思いがけない時にやってくるものです。

 また、大腰筋はお腹の深部にある筋肉ですから、膝を少し上げる動作のときにお腹の中で動く筋肉を意識してみてください。その筋肉は股関節の内側につながっています。何十回か「移して、上げる」というのを繰り返していますと、やがてお腹の中が温まり、股関節の内側に疲労感を感じるようになると思います。それは練習が上手くいっているということです。その感覚を大切にしてください。
 
大腰筋を使う感覚を養う
 身体能力をアップさせる必要のあるアスリート達の場合は、大腰筋を鍛えるための特別のメニューがあると思います。ところが、そのような練習をしなくても歩き方を改善し、スマートな体型を目指すことはできます。筋肉は使う(収縮と伸張を繰り返す)ことによって鍛えられます。ですから大腰筋をたくさん使えば、自ずと大腰筋は鍛えられます。器具や用具を使って負荷を掛ける必要はないと考えます。
 大腰筋を鍛えるための第一歩は、大腰筋を意識して認識することすることから始めるのがよいと思います。大腰筋は背骨の腰部(腰椎)からお腹の中を通って股関節の内側(大腿骨の小転子)につながっていますので、先ずはそれをイメージしてください。
 次に座位であれば、座った状態でどちらかの骨盤に重心を移します。左側の骨盤であれば、左の坐骨にすっかり体重が乗った状態にします。すると右の股関節内側太股のつけ根から力が抜けてフッと少し浮き上がる感じがします。右太股がフリーな状態になる感じです。そして右股関節の内側と背骨につながっている筋肉を作動させて右膝を5~10センチ程度ゆっくり持ち上げます。そしてゆっくり下ろします。この動作を連続して10回ほど行ってみてください。股関節の内側や背骨(腰椎)の右側に手を添えてみると、膝の上げ下げに合わせて筋肉が収縮したり伸張したりするのが感じられます。その筋肉が大腰筋です。

座位_大腰筋練習のコピー

 右側の上げ下げを10回行ったら、右側の骨盤に重心を移して左膝の上げ下げを10回行います。左右10回ずつを1セットとして3セットほど行いますと、大腰筋のイメージがしっかりと感じられるようになるのではないかと思います。そしてゆっくりと歩いてみてください。歩き方に大なり小なり変化が現れると思います。
 この練習で大切なことは、必ず最初に重心を移すことから始めることと、膝を上げすぎないことです。膝を高く上げますと別な筋肉まで働き出しますので、大腰筋のイメージがぼやけてしまいます。さらに太股の別な筋肉も作動しますので「股関節の内側」がわからなくなってしまうと思います。
 また、立位でも練習することはできますが、そのためには片脚立ちがしっかりできることが必要条件です。軸脚にしっかりからだを乗せることができますと反対側の脚はフリーになり大腰筋を意識して使うことができます。この場合も膝を上げすぎないように気を付けながら、じっくり太股を上げたり下げたりします。
 もし、片脚立ちがしっかりできないのであれば、大腰筋ではなく他の筋肉を使って動作することになってしまいますので、練習することの意味はなくなってしまいます。その点だけ注意してください。

しっかりして片脚立ちができるようになるために‥‥中殿筋を鍛える
 中殿筋のしっかり働いている人は一歩一歩歩く毎に、お尻に交互にしっかりとしたエクボができます。それは、自分でお尻の側面に手を当てながら歩いてみることで確認することができます。
 典型的なO脚の人や内股の人はエクボをつくることが苦手です。立った時に両足が「ハの字」のようにかかとより足先の方が内側を向いている状態ではお尻の筋肉が伸びた状態になってしまうからです。そのような人でも両足のかかとをくっつけ、つま先を少し開いて「逆ハの字」にした状態でお尻をキュッと持ち上げるように力を加えるとエクボができやすくなります。ですから、このような人は中殿筋を鍛えることに合わせて立ち方を変えることも練習してください。女性の人にとってつま先を開くことは「ガニ股になってしまう?」というイメージが湧いてくるかもしれませんが、O脚や内股を矯正する上でも大事なことです。「ハの字」のままでは永遠に脚の形を直すことは不可能です。
 さて、片脚立ちをして上半身の重みをしっかり支えるためにはお尻の筋肉がしっかり収縮して働かなければなりませんが、殿筋の中でも中殿筋と小殿筋は外転筋と言いまして脚を外側に開く働きをします。それは、脚を固定した状態では上半身を外側に傾けることと同じですので、片脚立ちでバランスを取るためにはこの二つの筋肉の働きが重要になります。(左軸脚の場合、上半身を左に傾けることによって右脚を上げてもバランスが取れる。この状況では中殿筋の方がより重要だと思います。)

中殿筋トレーニング

 ですから中殿筋を鍛えるためには、立った状態で、お尻の筋肉を使って脚を横に開く運動を行います。例えば右の中殿筋を鍛えるためには、壁などの横に立ち、左手で壁を押さえてからだが左に傾かない状態にした上で右脚を中殿筋を使ってゆっくり開いていきます。そしてゆっくり閉じます。これを何回か繰り返します。中殿筋が収縮したり伸張したりするのを確認する意味で、右手を中殿筋(股関節の上、斜め後辺り)に当ててみるのもよいと思います。
 整体的な観点で考えますと筋肉を鍛える運動の目的は「筋肉をしっかりさせ働きが十分できる状態にすること」です。ですから運動はすべて「無理せず、じっくり、粘り強く」が基本です。意識を筋肉に集中させて、自分の意志を筋肉に伝えることが大切だと考えています。アスリート達にとっては瞬発力や爆発力が必要なので、鍛え方は変わってきますが、この辺りを混乱しますと「どのトレーニングをしたら選んだらよいのだろうか?」という迷いが生じてしまいます。
 またこの運動の注意点は、足の小趾側の力を使って脚を広げないようにすることです。中殿筋の働きが悪い状態でも大腿筋膜張筋を使うことで脚を広げることができます。ここで大腿筋膜張筋を使ってしまっては本末転倒になってしまいますので、あえて「お尻の筋肉(中殿筋)を使って脚を広げてください」と言っています。
 中殿筋を使ってこの動作を行っているときは足の「母趾が中心になって広げているような感じ」がしますが、大腿筋膜張筋を使って動作しているときは「小趾側に力を入れて広げている感じ」になりますので、この点はよく注意してください。中殿筋の働きが悪い人は思いの外、上手くできないかもしれません。最初はそれでも良いです。意識を中殿筋に集中してください。意志が筋肉に伝わるだけでも進歩です。何日か練習している内に筋肉が働き出し、そのうち大きく広げられるようになると思います。

 片脚立ちと大腰筋と中殿筋を説明するだけでこのような長い文章になってしまいましたが、からだを健康にする歩き方を考えたときには、「重心移動、片脚立ち、大腰筋」の三つのキーワードが最も大切なことだと思います。
「ランニングの時、からだを前傾させて走った方が前に進みやすくなる」というような指導を受けているという方から「どう思うか?」と質問されました。「正しいけれど、誤解しやすい」というのが私の答えでした。ここにも記しましたが、からだを前傾させますと脚を出さざるを得なくなりますので、その原理を利用してランニングを行うことは、正しいことのように思えて実は間違っていると私は考えます。これでは筋肉は、主体的な意味では鍛えられません。我慢する力が増すという意味ではプラス効果はあると言えばあるのですが、反対にマイナス面はたくさん出てきます。上半身が前に突っ込むような歩き方と一緒で、足の指先にかなりの負担がかかります。その負担はふくらはぎ、ハムスト(太股の裏)、腰へとつながりますので、下半身がパンパンに張ってしまうのではないかと思います。現に、私に質問された方の下半身はパツンパツンに張っていました。
 ランニングの際に前傾して欲しいのは「仙骨」です。仙骨を前傾させることによってからだは推進力が高まります。躍動感がでます。仙骨が前傾すると背筋は自ずと伸びます。ですからアスリートの人たちの走る姿は一様に背筋が伸びています。そして仙骨を前傾する筋肉は大腰筋であり腸骨筋、骨盤底筋ですから、これらの筋肉を鍛えることによって躍動感のあるランニング姿が実現し、走力も増します。こういう状態のランニングやジョギングはからだを健康にしれくれると思います。
 指導者の言葉をそのまま受けて「前傾すればいいのなら頭や胸を前に出そう」と誤解してしまいますと、上半身が突っ込んだ走り方になってしまいますので、ランニングやジョギングが健康のためのものではなくなってしまいます。

スリッパを利用して練習する
 スリッパが苦手な人がいます。スリッパを履いて歩くと、スリッパがすぐに脱げたり、どこかに飛んで行ってしまったり‥‥。こういう人は足先が上がっていない人であって、つまずきやすい人です。
 軸脚にしっかり体重を保持した状態で反対側の足を前に出しますと自然に母趾先が上がります。ですからスリッパをしっかりと足の母趾に引っ掛けることができます。ところが軸脚にからだを乗せた片脚立ちの状態を保つことができない人、上半身が前に突っ込んでしまう人は、あわただしく前脚を運ばなければいけなくなりますのでスリッパを蹴ってしまうような状況になってしまいます。あるいは足先が上がらないので、スリッパが滑り落ちてしまいます。
 スリッパが苦手な人は、はっきり申し上げれば“歩き方の悪い人”です。「裸足で生活するのが好き」という人も多くいると思いますが、その理由が“スリッパが苦手”なことであれば、“裸足の生活が健康的”ということにはなりません。
 例えば狭いキッチンの中で家事をするためにチョコチョコ動かなければならない状況だったとします。足の動きは10~20㎝が中心です。そんな時でもスリッパをしっかり引っ掛けることができて苦もなく足を動かすことができるのであれば、それは軸脚に重心がしっかり残っているということです。軸脚に重心を残したまま足を運ぶことができるというのが歩き方の基礎ですから、歩き方を改善したいと考える人は一つの方法としてスリッパを活用してみてください。

歩くことは「足を上げること?」それとも「足を降ろすこと?」
 今回はたくさんの絵を交えて歩き方について私の考え方をお伝えしました。“歩き方を直したい”という目的のために私のところに来られる方はおりませんが、からだの状態を改善する上で、からだの使い方を理解していただく上で、“歩き方、立ち方”から取り組む必要があると思われる人はたくさんいます。
 ところで歩くことをイメージしたとき、それは“足を上げる=前に出す”ことでしょうか? それとも“足を降ろす=地面を踏む”ことでしょうか? このことは端的に歩き方が外側の筋肉主導か内側の筋肉主導かを物語っていると思います。
 歩くたびに首や胸に圧迫感を感じる人、息詰まりを感じる人、普段あまり気にしていなくても、実際はそのような状況になっている人は多いです。このような人は歩くことが“足を上げて前に出す”ことだと感じているのではないでしょうか。
 股関節の外側(大腿筋膜張筋)で脚を上げている人は、筋連動が足の小趾側(第3腓骨筋や長趾伸筋)から始まります。足の小趾~ふくらはぎの外側~太股の外側へ、下から上への流れで股関節を曲げているわけですが、その流れは股関節で止まるわけではなく、上半身~首~頭へと続いていきます。このような人は「歩くと息が上がってきてしまう」と感じます。
 反対に、大腰筋を使うことから歩き始めるときは、筋肉の使い方が上から下へ向かいます。歩き方が“上げた足を降ろして地面を踏む”動作になっていますので、息を容易に吐き出すことができ、それだけで“心地良い”と感じると思います。考え事やストレスで頭の中が一杯だったとしても、歩く動作を利用してそれらを下へ下へと追いやり、足先から地面に解放してしまうことすらできるのではないかと思います。そんな歩き方を目指していただきたいと、そして歩くことが健康にも精神的にも良いものであることを実感していただきたいと思います。

 先日「たかが歩き方が悪いだけで、こんなにからだが不調になるなんて‥‥」と率直な感想を聞きました。私自身、施術をしたりアドバイスをしながら、内心「こんなところにも影響が及ぶのか?」と思うこともしばしばです。しかし現実は現実です。
 魚が水の中で泳ぎ続けることは、私たちが歩かなければならないことの大いなるヒントを与えてくれます。これからパラリンピックが始まりますが、膝から下がなかったり、下半身が動かない人たちが「どうして並外れた能力を発揮できるのか?」。専門的に考えると不思議で一杯になります。
 そんなことも踏まえて“歩き方”や“歩くことの意味”について、また続きを書いていきたいと考えています。

 オリンピック代表の女子バレーボール選手の中にはスラッとして背の高い選手がいますが、脚もとても長く見えます。しかしアフリカ代表の選手は更に脚が長く、お尻もキュッと上がってスタイルが日本の選手とはまったく違って見えます。お臍のすぐ下から脚が始まっているようにさえ感じますが、それはどうしてなのでしょうか。骨格が私たち日本人とは違うというのは確かにあると思いますが、どうも骨格だけの差ではないようです。

大腰筋01

 大腰筋という筋肉があります。文字が表現しているように腰の筋肉ですが、腹筋や太股の筋肉のように体表から触ることはほとんどできない内部の筋肉(インナーマッスル)です。腰部の背骨(腰椎)の前面から起こり、お腹や骨盤の内部を通って太股の骨(大腿骨)の内側につながっています。ですから大腰筋は“お腹と脚をつなげている筋肉”であるということになります。股関節は骨盤と脚との関節で、脚を動かすための筋肉が幾つもありますが、大腰筋は骨盤のもっと上、背骨と脚をつないでいます。そしてこの筋肉の発達具合が、私たち日本人と諸外国の人たちでは違っています。それがスタイルの差となって現れ、からだ全体の動きに差が生じる原因であると考えられます。極端に表現すれば、私たち日本人の歩き方は“ヒョコヒョコ”に近く、欧米人、特に黒人の歩き方は“ゆったり”して颯爽としているように見える原因であると思います。

アフリカと日本の選手の体型
 

大腰筋の働き
 大腰筋の主な働きは「股関節を屈曲する。股関節を僅かに外旋する。」と学問的にはなっています。しかし実際には、このような働きが主であるとして大腰筋を捉えますと間違ってしまいます。
 大腰筋は腰椎そのものにつながっている大きな筋肉ですから、まず第一に“腰椎の安定”に関係していると考えます。すると腰痛との関連性を考えることができます。
 第二に、大腰筋が収縮すると腰椎を前下方に動かしますので、腰部の前弯(からだの左側面から見て「C」字型の弯曲)に関係します。骨盤が前傾してお尻がキュッと上がっていることがスタイルがよく見える条件の一つだと思いますが、そのためには腰椎がしっかり前弯していなければなりません。ところが私たち日本人は腰椎前弯が小さい(弱い)傾向にあって、更に加齢とともにほとんど前弯がなくなってしまうような傾向にあります。ということは骨盤自体の前傾も望めなく、さらに加齢にともない骨盤の後傾が進むため、お尻は下がって見えるばかりの状況になってしまいます。おしゃれなジーンズも「お尻が決まらない」というのは“大腰筋の働き”に原因があるのかもしれません。
骨盤を前傾する大腰筋と腸骨筋
 
 また、大腰筋は大腿骨の内側(小転子)につながっていますので、大腿骨を腹部の方に引き寄せる働きをします。これを「股関節を屈曲させる働き」として定義しているようですが、実際には「脚をお腹の方に引き寄せて持ち上げる」までの働きであると考えた方が正確だと思います。それ以上に股関節を屈曲(太股を持ち上げる)する主動筋は腸骨筋や大腿直筋など骨盤から大腿骨につながっている筋肉の働きです。
 それでも、大腰筋のこの働きは、ゆったり、颯爽と歩くためにはとても重要です。骨格としては、脚は股関節から始まりますが、大腰筋が脚を持ち上げる最初の筋肉であると考えますと、歩く、あるいは走るという動作は”お腹の奥”から始まると考えることができるからです。大腰筋のとても発達している、例えば黒人の選手が走り出すととても脚が長く見えるのは、彼らの脚はお腹から動き出しているからです。

大腰筋を使って歩き始める
 

大腰筋と腰痛
 大腰筋には腰椎の前弯を維持する役割と腰椎を安定させる役割があります。大腰筋がしっかりしていれば、腰椎はしっかり安定します。腰痛の多くは腰部や殿部の筋肉が張って伸びなくなることによってもたらせれますが、腰椎が不安定な状態になっていることも原因の一つです。
 また股関節の筋肉の中で大腰筋は大内転筋と深い関係にあります。大腰筋の働きが悪いと大内転筋の働きも悪くなるため骨盤に歪みが生じ、それが腰痛の原因になることもあります。
 私が腰痛に対する施術を行う時には、まず大腿骨の頭(大転子)と骨盤の状態を確認し、痛みを発している腰部や殿部の筋肉を確認しますが、それと同時に大内転筋を操作します。手動で大内転筋をしっかりさせると骨盤や腰椎がしっかりして腰部のハリが取れるのであれば、それは大腰筋の状態をしっかりさせる必要があるということと同じですので、そのようにして施術の手順を決めていきます。
 
大内転筋

大腰筋とお腹の冷え
 実際のところお腹の冷えている人はたくさんいます。「お腹の奥や腰が冷たい」と感じる時はほとんど間違いなく大腰筋の働きが悪いか、大腰筋が使われていないと考えられます。 「お腹の冷え=血流が悪い」というのはその通りですが「体熱の多くは骨格筋が生み出す」という観点で考えますと腹部の筋肉の働きが悪いか、腹部の筋肉が効率よく使われていないということも考える必要があります。
 腹部の筋肉といえば腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)がすぐに連想されると思いますが、その他に大腰筋(+小腰筋)、腰方形筋があります。そしてこの二つはお腹の深部、背中側に近いところにありますので、お腹の奥や腰部に冷えを感じるといった場合は、大腰筋、腰方形筋の状態や使われ方を確認する必要があります。そして大腰筋と腰方形筋の“使われ方”という観点では、“歩き方”の善し悪しが決め手になります。良い歩き方をしている人は自ずと大腰筋と腰方形筋をよく使っています。ですから、少し散歩するだけでもお腹の中が温まります。反対に歩き方の悪い人は、たくさん歩いて体中が温まったように感じたとしても「なぜかお腹の奥は冷たい」というように感じるかもしれません。
 
内臓を囲む筋肉

 大腰筋の前方には胃、十二指腸、小腸、膵臓、腎臓などの内臓がありますが、大腰筋がよく働いて熱を産生すれば、これら内臓に熱が伝わってその働きが良くなります。反対に大腰筋がほとんど熱をつくっていないような状態であれば、内臓は冷たくなって働きが悪くなります。それは様々な病気の原因にもなりますので、「大腰筋を働かす」ということを是非頭の中に入れていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩く
 これまで大腰筋を使わずに歩いている人にとって、大腰筋を使って足を上げて踏み出すという動作はとても難しいようです。理屈は非常に簡単です。しかし実践は難しいと皆さんが仰います。
 歩くことに関する詳細は後日別の記事として投稿しますが、歩く動作は「片脚立ちの連続である」と簡単に表現することができます。小学校の体育などでやった腿上げ運動、足踏み運動です。
 正しい”片脚立ち”は、片方の脚(腰)にからだ全体を乗せて保持することができるということです。中途半端な乗り方では、上げた脚をすぐに降ろさざるを得なくなります。
 例えば、右脚にしっかりとからだを乗せることができれば左脚は自由になります。すると自由になった左脚は軽々と前方に出すことができますが、この“前に出す”動作の最初に働くのが大腰筋です。
 
歩行動作大腰筋01

 右側に重心が移ると左の太股がフッと少し持ち上がりますが、それは股関節の内側の筋肉(=大腰筋)が働くことによって行われます。仮に、右側に重心が乗り切らないのに左脚を出そうとしますと(これは歩き方の悪い人の特徴ですが)、股関節の内側ではなく外側の筋肉で太股を上げてしまいます。長く歩くと太股の外側の筋肉が疲れる人は、このような人です。
 文章で表すことはとても難しく伝わりにくいことですが、歩行の時、どの筋肉を使って脚を前に出しているかはとても重要です。大腰筋を使って股関節の内側を機能させている場合は、その後出した前脚が軸足となってからだを支え、地面を踏みしめる(蹴る)ことも脚の内側の筋肉を使って行うようになりますので、O脚になったりする可能性は低くなります。

歩行時に使う筋肉

 股関節の外側(大腿筋膜張筋)を使って脚を上げている人は、その後の動作を脚の外側の筋肉を使って行うようになってしまいますので、ふくらはぎの外側が張り、小趾側重心で着地して地面を蹴るようになってしまいます。ですから足首の外側(外踝周辺)に問題が起きたり、母趾の使い方もおかしくなるため内反小趾、外反母趾といった状態を招く可能性がとても高くなります。もちろんO脚へと進んでしまいます。

 大腰筋を使って脚を上げ始めるのか、外側の大腿筋膜張筋を使って脚を上げ始めるのか、ちょっと見ただけでは見分けがつきませんし、どちらでも大差ないように思われるかもしれません。しかし筋肉の連動関係や連携関係上、この違いは非常に重要なポイントです。
 散歩するだけで他に特別な運動をすることもなく健康を維持でき、健やかに暮らすことができる人もいます。一方、からだをシェイプアップして健康を実現するために様々なトレーニングや運動を行いながらも「すっきりしない!」といつも感じている人もいます。ピラティス、加圧トレーニング‥‥、毎週一生懸命通い続け、トレーナーの指示に従っても「まったく進歩しているように感じない」という人がいますが、それは根本的なからだの使い方に問題があるからです。内転筋が弱いと指摘され、内転筋を強くするトレーニングを行っても、内転筋がうまく機能できない状態であれば意味をなしません。股関節の外側の筋肉を使って脚を上げ始めてしまう人はこのような人です。立った時、足裏と地面(床)との間に違和感を感じてしまうので、歩いても気持ちよくなりません。

 大腰筋はからだの深部にあるインナーマッスルです。つまり骨格を保持し、体幹を支えるための筋肉です。ジムに通い、たくさんのアウターマッスル(体壁筋)を鍛えてもインナーマッスルの力が弱かったり働きが悪かったりしますと、からだ全体としてのバランスや連携が上手くとれないので、強くなったアウターマッスルもその能力を十分に発揮することができません。
 では、どうやって大腰筋を鍛えるのか? という質問が浮かぶと思いますが、これについては近々投稿したいと考えている“歩き方”のところで考えたいと思います。私たち一般人はアスリートのようにタイムを競ったり、からだの能力アップを追求するわけではありませんので、大腰筋そのものに的を絞ったトレーニングなどは必要ないと考えます。使えば必要な筋力はついてきますので、一般人にとっては「どのようにして使うか?」がポイントになります。太股を上げる筋肉だからといって腿上げ運動をたくさんしたところで、別の筋肉(腸骨筋や大腿四頭筋など)を使ってトレーニングをしていたのでは何の意味もありません。そこは注意しなければなりません。
 大腰筋が上手く使えるようになれば、歩くことが心地良くなります。歩くだけでお腹は温まります。もちろん腰痛も軽減します。体型も良くなります。大腰筋とはそういった筋肉です。

 私たちは疲労しますと筋力が弱くなりますが、そんな時でも力を振り絞らなければ状況では奥歯を噛みしめたり食いしばって、つまりそしゃく筋を収縮させて力を増強しようとします。ペットボトルの蓋を開ける時、重たい物を持つ時、噛みしめている人は多くいます。
 ところが、これとは反対に噛みしめると力が弱くなってしまう人がいます。そんな方から質問を受けまして、このことは多くの人の参考になるかと思いブログに書くことにしました。

その方は抜歯による歯列矯正を行いました。更に「矯正の時間を短くするために歯茎にクギを刺した」ということです。私はその意味を正確に把握することはできませんが、おそらく固定されたクギを利用して歯を半ば強制的に動かしたということかもしれません。この方の現在の状況は以下の通りです(原文のまま)。

「歯茎を見ると痩せて下がり薄くなっています。
特に奥歯の物を噛んだり噛み締める歯の歯茎を触るとブヨブヨした感触です。
噛む力が普通より大分弱い事に最近気付きました。
あと重い物を持ち上げたりするとき歯と歯が付いていない、噛み締めていません。
瓶の蓋やペットボトルを開けられないことがあるので力が入らないとは感じています。
食べたり、咀嚼筋に力が入っている状態が続くと側頭筋がすぐ凝ってしまい揉むと痛いです。」

 歯茎が弱いことがわかりますが、歯列矯正に限らず歯槽膿漏などで歯茎が弱くなっている人にも共通している状況かもしれません。
 歯茎に限らず筋肉や筋膜や組織は、弱くなって働きが悪い時に負荷が掛かると耐えられなくなりからだの力が弱くなったり他のところにしわ寄せがいって不調を招きます。
 寝苦しかったり、朝起きた時に首肩や背中が張ってしまうのは「枕が合わない」からだと思っている人はたくさんいて、幾つも枕を買い換えている人がいます。ところがその原因は枕が合わないことではなく、首や後頭部の、枕に接する筋膜がゆるんでいることだと思います。ゆるんで働きが悪くなっているところに自分の頭の重さという負荷が掛かりますと、そこが耐えられないために寝苦しく感じたり、首肩、背中にしわ寄せが及び凝ったり張ったりしてしまうのだと思います。ですからこれを解決するためには枕を換えることではなく、自分の筋膜を整えることが必要です。簡単に言ってしまえば、「元気な人はどんな枕で大丈夫」ということになります。
 さて、この方の場合、歯茎が荷重に耐えられない状態ですから、歯茎に負担が掛かるとからだから力が抜けてしまいます。これが重い物を持ち上げる時に歯を合わせない理由だと考えることができます。そして食事をして歯茎に負荷が掛かったり、そしゃく筋を収縮させて(=噛んだ状況を続けて)いるとからだの別の場所=側頭筋(側頭部)がこわばってしまい頭痛を招く仕組みであると考えることができます。

 ここで、この方にとって大きな矛盾が生じます。この方は歯茎以外にも問題を抱えており、からだに力が入らない状態ですので、(全身筋肉の司令塔としての)そしゃく筋の力を借りなければならない状態です。常にそしゃく筋は緊張状態(収縮状態)ですし、寝ている間も噛みしめていることがわかっています。起きている間は歯と歯を合わせないように注意し続けることはできるかもしれませんが、寝ている間は不可能です。ですから少なくとも寝ている間と食事の時は歯茎に負荷が掛かってしまうことになります。歯茎を治癒するためには負担を掛けないようにする必要があるのに、負担を掛けざるを得ない状況という矛盾に直面してしまいます。

 また、この方は表情筋のこわばりという問題も抱えていますが、それも歯茎の弱さと関係があることは確かです。今週末に来店され施術を行いますが、①歯茎を如何に回復させるか、②そしゃく筋の緊張状態を如何に改善するか、というのがこの問題に対するアプローチになりますが、上記の矛盾を超えて忍耐強く取り組まなければならないことだと思います。

 膝の悪い人は、良くなるまでは膝をあまり使って欲しくないのですが、仕事上そういうわけにはいかない。腱鞘炎の人は手を使って欲しくないのですが、赤ちゃんを育てている間はそういうわけにはいかない。このような矛盾の状況はいろいろありますが、忍耐強く取り組んでいればやがて解決の光が差してくると思います。
 私のこれまでの経験ではそうでした。困り果てた状況では、一進一退の状態から抜け出すことがなかなかできないように感じてしまうかもしれませんが、ちょっとの進歩でも、その進歩の方に目を向けて、疑いの心を遠ざけていけば、そう遠くない将来に一気に改善に向かうと思います。精神論のような話になってしまいましたが、これが現実であり真実だと思います。
 この方に関して言えば、まず歯茎を強くすることに集中することだと思います。そのためには硬いものを噛むことは今は避けることです。そして意識を込めてじっくり噛み、一噛みごとに歯茎の筋肉を鍛えるつもりで使って欲しいと思います。筋肉は使わなければ強くなりませんので、言うなれば「痛まない程度に負荷を掛けて鍛えて欲しい」とアドバイスします。

 「物をつかむ基本は小指側で行う」というと驚かれるかもしれません。正確に表現するなら「小指側で支えて他の指を使う」となります。ぺんを使う、コーヒーカップを持つなど、何かをつかむ時はほとんどの場合、親指と人差し指をで行いますので“小指側”という表現に疑問がでるのは当然のことです。しかし不調のからだを改善しようとする時、この“小指側を中心に手を使う”ことは重要なポイントになってきます。
 動作や運動を行う時には原則があります。例えば自転車や自動車が道路を走る時には道路がしっかりしていないとタイヤは上手く動いてくれません。歩く時にも砂浜のように足場がしっかりしていないところでは、道路を歩くようには上手く歩けませんし非常に疲れます。道路が私たちの動きをしっかり支えてくれるので、思いのままに歩くことができ走ることができます。からだの動作も同様で、その動作を支えるものがしっかりしていないと楽に動くことができません。反対に言えば、しっかりとした支えがあれば動作がとても楽にスムーズにできるようになる、ということになります。
 ペンで字を書く時、小指を少し曲げて、つまり小指側の筋肉を少し収縮させてしっかりとした支えをつくることによって実際にペンを握って操作する親指と人差し指の動きが軽快で自由になります。ペンを握る親指と人差し指にギュッと力が入ってしまい筆圧が強くなってしまう人は、しばらく字を書いていると手が痛くなりますが、それは動作を行う指も動作を支える指も同じになってしまうからです。すらすらと字を書くためには小指側の筋肉をしっかりした状態にした上で字を書き続けることがポイントになります。

小指側が中心の人は手のひらが上を向き、親指側中心の人は手の甲が上を向く
 小中学生の頃、運動会でリレーをやった時、バトンをどの指で握っていたでしょうか。雑巾を絞る時、どの指に力を入れて絞っていますでしょうか。これらはからだの使い方の癖を表すとともに、壊れやすいからだか、壊れにくいからだかを予測するポイントにもなり得ます。
 
カップを持ち上げる動作

 たとえばコーヒーカップを持とうとしてカップの穴に人差し指をかける時、手の甲が上を向いた状態で穴の縁を親指と人差し指で挟むようにして持つ人は、小指側の筋肉を使っていない傾向の人です。穴の中に人差し指を入れると同時に小指を曲げて、どちらかというと手のひら側を上向き加減でカップを持ち上げる人は、小指側を中心に動作を行っている人です。
体の中心部ライン・外側部ライン

 これは以前にも記しましたが、からだを“中心”と“外側”に分けて考えた時、手では小指側が中心で、下半身では親指側が中心になります。つまり手の親指側と足の小趾側は外側です。“中心がしっかりしていると外側の動作がスムーズになる”と考えますと、中心部分をしっかりさせることが楽に動作するためのコツになります。
 からだの筋肉は必ず連動して作用するという特徴がありますが、その一つに拮抗関係があります。それは一方の筋肉が収縮する時は必ず他方の筋肉が弛緩伸張するという筋肉のシステムです。手の小指を曲げて小指球を収縮させますと母指球がゆるんで親指や人差し指側の筋肉が解放されるような感覚が得られます。親指と人差し指を曲げて母指球を収縮させると小指球がゆるんで小指、薬指、中指が解放されます。そして解放された指が自由に動けるようになります。ですから手首を柔らかくして太鼓を叩く、箸を使う、ペンを使うためには親指と人差し指が自由に動けるように小指球を収縮させる必要があるということになります。
 バトンを持って走るとき、落とすまいとして親指や人差し指に力を入れてギュッと握りしめてしまうと速く走ることはできません。そして自分の思いとは反対にバトンを落としやすくなってしまいます。走る姿が、“肩に力が入っている”ように見える人は、きっとこのような人でしょう。
 小指を中心に中指・薬指・小指の3指でバトンを握るようにしますと、手首や肩から力が抜けて脚が上がり速く走ることができます。

 感覚的には“小指でつかむ”、“小指で握る”というのが自然な在り方です。例えば皿を持ち上げて自分の方に引き寄せようとした時、実際には親指と人差し指で皿の縁をつまんで持ち上げるのですが、この時に小指を曲げて小指球を収縮させていないと皿が不安定になってしまい中の物を落としそうになります。食器を洗うとき、小指を伸ばしたままの状態で洗っていますと腕や肩がとても疲れます。肩こりの原因です。そしてこのような人はけっこう多いようです。手指を器用に動かして細かい作業をすのは親指と人差し指の役割ですが、つかんだものを安定させるのは小指の働きです。そう考えますと、あまり大した役割はしていないように見えてしまう小指が、実は非常に重要な働きをしていると言うことができます。
 つい親指と人差し指に力をいれて作業をしてしまう人は、その癖を直すために小指を曲げてから物をつかみ上げるような練習をするのが良いかもしれません。
 
小指と小指球を使う練習_カップ

肘から先が内側に捻れている人が多い
 ベッドに仰向けで寝たとき、からだの横に置いた手はどのようになっていますでしょうか。手の甲がすっかり上を向いた状態が楽であれば、それは肘から手にかけて内側に捻れている歪みの状態です。手のひらがすっかり上を向いた状態が楽であるという人はあまりいないかもしれませんが、少し手のひらが開き気味の状態であれば問題はありません。

手の使い方と腕の捻れ

 パソコンのキーボードで作業する姿勢は手の甲が上を向いた状態ですので、パソコン作業の多い人は肘から先(前腕)が内側に捻れている可能性が高いです。また、先に説明したように字を書くときに親指と人差し指にたくさん力を入れて筆圧が強くなってしまう人も前腕が内側に捻れています。それ以外にも、実際、前腕が内側に捻れている人がたくさんいます。
 からだの仕組みとして、前腕が内側に捻れているときは上腕(肘から肩にかけての骨)が外側に捻れます。自分で前腕を内側に捻ろうとしてもこうはなりませんが、骨格が歪んでいる場合はこのようになっています。そしてこのような人は肩関節に違和感や問題を抱えていることが多いです。四十肩や五十肩がなかなか治らない理由の一つでもあります。

 そして前腕が内側に捻れている状態では、小指側を中心(軸)に手を使うことはできません。からだの仕組み上、手の小指側を中心に動作ができないということは足の親指側つまり下半身の内側を中心に動作をできないということですから、からだの力は外側に流れてしまいます。これを体型的に表現しますと、脇が開いて肘が張り、肩が前に出て猫背になり、骨盤が開いてお尻が下がり、O脚またはガニ股になりやすく、足の小指が捻れてマメができ外反母趾になりやすい、となります。スマートさからはかけ離れてしまいます。
 ほとんどの事務作業がパソコンになっている今日の社会では、私たちのからだはこうなりやすいという現実があります。だからといって対策方法がないわけではありません。手首や前腕の内側への捻れを改善することが対処方法ですが、そのための一番単純で簡単な方法は、小指側の筋肉(小指球)を収縮させる訓練を行うことです。
 
小指球の収縮と母指球の解放

小指球の収縮

 例えば仰向けに寝た状態で手の甲が上になっている人は、親指と人差し指軽く延ばした状態で力を抜いてジワーッと小指球を収縮させるように小指を曲げます(この時手首を曲げてしまう人がいますが、そうならないように注意してください)。それと同時に母指球から力が抜け親指と人差し指が解放されていく感覚を味わいます。次第に前腕の筋肉も伸びて肘が楽になると思います。この動作を10回くらい繰り返しますと次第に手の甲が横を向き出し、甲を上にして寝ていることに違和感を感じるようになるはずです。前腕の捻れが少し改善された状態です。そして下半身や背中を観察しますと、背中から力が抜けて背骨自体の存在感が増し、下半身が伸びてリラックスできる状態になっているのではないでしょうか。
 手の小指側の筋肉がしっかりすることによってからだの中心部の筋肉がしっかりするため背骨がしっかりします。ですから背骨の存在感が増し、からだの芯を感じやすくなります。

 今、“もっと楽に効率よく歩ける”ようになるために、からだを整えるとともに歩き方の練習をしている人がいます。この方の癖は、ついつい首肩に力が入ってしまい動作の中心がからだの上の方になってしまうことです。ちょっとだけ歩く分にはいいのですが、長く歩いていると呼吸が上がってしまい、腰やお尻が痛くなってしまいます。この方の前腕は内側に捻れていて肩関節に痛みがあります。
 この方には、前述した小指球を収縮させる練習と、座った状態で背骨と背筋だけに集中して力を集める練習をいていただき、その後で歩いてもらいました。すると首肩から力がすっかり抜けて、しかし背筋はしっかりと伸び、うつむき加減だった視線がしっかりと前を向くような歩き方に変わりました。外から見ますと背が高くなったように感じますし、本人の印象としては「視界が高くなった」となりました。
 からだの中心に力が集中するようにしただけです。それも施術ではなく、自分の意識の向け方を変え、簡単な練習をしただけです。とても単純なことですが、この練習を毎日、それが自分の自然な状態になるまで根気強く行っていただければ、この問題は施術の必要がなく解決してしまうことでしょう。

 ある若い学生が「腕の外側の筋肉が痛くて‥‥」と訴えてこられたので、私は“手の親指側~肩の外側にかけての筋肉”の問題だと予想しました。ところが話を聞きますと、それは小指側の筋肉~肘の内側にかけての問題でした。この方は常に脇が開き、肘が張って腕が内側に捻れている状態なので、この方の意識では私が内側だと考えている方が外側になっていたのです。
 先にも記しましたが、腕が内側に捻れる問題、それに付随して起こる猫背、O脚、外反母趾や体調不良の問題は隠れた現代病であるとも言えます。本来の自然なからだの在り方には反しています。スマホやパソコンが大きなウエイトを占める今日の社会生活ではこういった方々が増えてしまうのでしょう。

 手の使い方が不自然でも、腱鞘炎やバネ指以外で直接的に手指や手首に不調が現れることは少ないかもしれません。ですからほとんどの人は普段、手の使い方については何も気にしていないと思います。ところが実際には手指の使い方の問題で腰痛や膝痛の原因になっていたり、ここで説明しましたように体型のくずれから首肩の張り、むくみ、体調不良の原因になっていることもあります。たかが“手の使い方一つの問題”と受け取られるかもしれませんが、施術において何かの症状を改善するときの最後の決め手になるのは手指の問題であったりします。
 字を書き続けると手が疲れたり、箸がうまく使えなかったり、食器洗いが苦手だったりする人は手指に問題があったり、手の使い方に問題がある可能性が高いと思います。
 からだに不調のある方は、どうぞご自分の手の使い方について検証してみてください。

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