ここからかなり遠くにお住まいのOさんが来店されました。2年ぶりくらいの来店です。以前は膝の不具合でしたが、今回は坐骨神経痛で、かなり症状が悪化した状態でした。当院までは新幹線を使って4時間近くかかるところにお住まいですので、症状がではじめた当初はお住まいの近くの接骨院や治療院に通われていたとのことです。ところが次第に症状が悪化していき、坐骨神経痛の痛みもかなりきつくなったということで来店されました。

 坐骨神経痛につきましては前回の投稿でも取り上げましたが、症状が軽いうちは「時々シビレを感じることがある」「皮膚を触ると何か表面に膜が一枚あるような感じの感覚異常を感じる」というものです。しかし症状が進みますと、シビレを感じる頻度も多くなり、更に症状が悪化しますとシビレが痛みに変わって、歩くことや座ることができなくなるほど辛くなります。

 Oさんの症状は「やや重症」ぐらいの段階でしたが、とても一度の施術で解決できる状態ではありませんでした。
 いろいろ経緯をうかがいますと、接骨院や治療院では電気を掛けたり、揉みほぐすことが主体の治療を行っていたようです。
 「坐骨神経痛なので、背中から殿部、そして太ももにかけてたくさん揉んでもらったけど良くならなくて‥‥」と仰っていましたが、今回も対処の間違いで症状が悪化してしまった事例でした。

 揉みほぐしたり電気を掛けたりすることで筋肉や筋膜はゆるみますが、それも程度が大切です。筋肉や筋膜が耐えられる範囲を超えてゆるめる施術ばかりを行いますと、やがてそれらは損傷状態になって本来の機能ができない状態になってしまいます。
 筋肉であれば収縮できない筋線維ができてしまい、筋膜であればブヨブヨと腑抜けの状態になり正常な機能が果たせない部分ができてしまいます。

 Oさんの場合、背中(腰部)~殿部を超えて太ももの裏側までの筋膜全般と、殿筋や腰部の筋線維に「ゆるみ過ぎの損傷状態」ができていました。
 この坐骨神経痛を改善するためには、これらの損傷状態を回復させる必要があります。
 おそらく最初は「単純な坐骨神経痛」だったと思います、ところが間違った対応を続けたことによって腰部から大腿部にかけての広い範囲で筋膜が機能低下状態になり、収縮することのできなくなってしまった筋線維ができてしまたのだと思います。この状態では骨盤や下半身を安定して保つことができませんので、からだは別の筋肉を強制的に収縮させて骨格を保つように働きます。そしてその収縮を強いられて硬くなった筋肉によって坐骨神経がさらに圧迫を受け、坐骨神経痛の症状が悪化してしまったのだと思われます。
 ですから、解決のための段取りは損傷状態にある筋線維や筋膜を本来の状態に戻し、坐骨神経を圧迫している筋肉の過緊張状態が自ずと解消されるように促すことになります。
 この時に、坐骨神経を圧迫している筋肉をゆるめようとして、直接筋肉を伸ばしたりほぐしたりするような対処を行いますと、さらに状況は悪化していくということになってしまうことでしょう。

損傷状態を回復するために

 ところで、損傷状態になっている筋肉や筋膜を回復させることは、硬くなっている筋肉をほぐすよりも何倍も労力と時間が要ります。
 私はしばしば「伸びきってしまったゴム」を例えに説明させていただいていますが、ゴムが疲労したり、負荷が掛かりすぎて伸びきった状態になりますと収縮力を失います。筋線維で言えば、収縮ができない状況です。そうなってしまいますとゴムの収縮力を回復させることは不可能になりますが、私たちの筋線維には再生力がありますので、許容範囲内の損傷であれば元の状態に戻すことができます。ただし、それは簡単にはいきません。

 このような場合、わたしは文字通り「手当て」の施術を行います。筋線維や筋膜に手指を当てていき、先ずは損傷部位を確認していきます。損傷部位は簡単に表現しますと「ヘニョッ」としています。いわゆる「ハリがない」状態ですが、エネルギーが足りない状態、力が乏しい状態と表現することもできます。
 その部位に丁寧に心を込めて手指を当て続けていますと、そのうちに血液が流れてくるのが感じられるようになり、そしてモコモコと反応し始め、やがてハリが戻ってきます。そうなるまで根気強く静かな施術を続けます。

 この手当ての施術は次のようなイメージです。
 たくさんの楽器で構成されているオーケストラの中で、楽器のいくつかが故障してしまい正確な音が出せない状態だったとします。(=筋線維のいくつかが収縮できない状態)
 この状態では音楽になりませんので、楽器を直す職人が一人やってきて、故障してしまった楽器の一つを調整しはじめます。やがてその楽器はチューニングされ正確な音を発することができるようになります。すると職人は次の故障した楽器を調整していきます。すると二つの楽器が直り、互いに音を発しては呼応し合うことができるようになります。しかしそれだけでは、まわりの楽器たちはまだやる気がでませんので、ただ見ているだけです。
 やがて職人が3つ、4つ、5つと楽器を直していきますと、それらは呼応し合い、きれいな和音を奏で始めるようになります。するとそれまではただ見ているだけだった楽器たちの中に自ずと共鳴して反応するものが現れはじめます。そして、その輪が次第に拡がりはじめます。音の共鳴がさらなる共鳴へと拡がり、やがてすべての楽器が音を奏でるようになります。するといつの間にか、一つの意志をもった音の躍動的なうねりを生じるようになります。全体がその流れの中で一体化します。オーケストラが本来のエネルギーを取り戻した状態です。

 このオーケストラの中の楽器の一つ一つが私たちの筋細胞です。損傷によって働けなくなった細胞を手当てすることで細胞の機能が戻ってきますが、そのような施術を幾つもの細胞に行います。すると、ある瞬間を境に休憩中だった周辺の細胞群がやる気を取り戻し、そしてヘニョッとしていた部分が様相を変えて活力を取り戻すようになります。時にそれはとても躍動的な動きとして私の手に感じられることがあります。
 皆さんから見ると何気なしに手を当てているだけに映るかもしれませんが、私はこのような想いを込めて手当ての施術を行っています。

 さて、Oさんに話しを戻しますが、Oさんの損傷部位はとても広い範囲でした。ですから手当ての施術にとても時間を要しました。
 結論を申しますと、120分の時間をとりましたが一回の施術では不十分な状態に終わってしまいました。しかしOさんは手応えを感じたようで、再び来店されたいと仰いました。翌日は仕事があるので一端で自宅に戻らなければならなけど、改めて予約する仰いました。そして、当日の夜に予約が入りまして、翌々日に再び来店されることになりました。施術時間は180分の希望でした。
 手当ての施術は静的なものですが、私自身は集中力をずっと継続しますのでかなり消耗します。「はたして180分も持つだろうか?」とも思いましたが、遠くから来てくださるOさんのことを思えば「頑張るしかない」と思い、体調を整えることを心がけました。

 翌々日に来店されましたが、やることは唯一つ「手当て」のみです。Oさんもずっと寝続けなければなりませんので、それなりに大変でしたが頑張って耐えてくれました。そして結局150分間の施術になりましたが、私はずっと神経を集中して、ひたすら細胞を触り続けていました。
 状態はかなり良くなったと思います。
 その数日後、Oさんから「軽いシビレ感は残っているものの、耐えがたい痛みは消えた」と
メールがありました。
 Oさんの坐骨神経痛はけっこう重症状態でしたから、2度の施術だけで「すべて解決」とはいきませんでしたが、「まあまあ合格」と自分自身評価しました。
 あれから3週間程度経っていますが何の連絡もありませんので、苦痛なく暮らされているのだろうと思います。

ゆるめるのは簡単

 私の属する業界は、傾向として、こわばってしまった筋肉、硬くなってしまった筋肉や筋膜をゆるめることを得意にしています。指圧、揉みほぐし、マッサージ、鍼、電気治療(低周波)、ストレッチ、体操など、手法もいろいろとあります。ですから専門家の多くは、ゆるめることを得手にしていると言えます。
 しかしながら反対にゆるんだ状態、疲弊した状態、損傷した状態を元の活力ある状態に戻すことはあまり得意ではないようです。

 ところが、痛みや不具合や不調の根本的な原因が、筋肉や筋膜や靱帯の損傷による場合もあります。ギックリ腰、寝違え、肉離れ、捻挫、骨折などはその類ですが、これらに対して「硬いところをゆるめる」ような対処法を用いることは間違いです。「損傷部位を回復させる」ための手法を用いなければなりません。

 疲労や疲弊部位の回復、損傷部位の回復するための方法は下記ぐらいしかなく、それほど多くはありません。そしてこれらは自然治癒力(自己治癒力)活躍を促す方法であるとも言えます。

  • 温める‥‥血行を良くして細胞の働きを活性化する。
  • じっくりとした運動‥‥筋線維などを意識的にじっくり、ゆっくり収縮させる運動をすることで、その働きを取り戻す。
  • 体内電気の流れを整える‥‥電気治療機なども含めて、やり方次第で筋線維の働きを回復させることができる。磁気治療(エレキバン)などもこの類。
  • 手当て‥‥上記で説明済み

 これらの手法は地味であり、効果が実感できるまでに時間がかかります。そして施術する側にも忍耐が要求されます。
 私の仕事は「接客業」でもありますし、お客さんは実感できる効果を期待しますので、施術者としてはその期待に応えたいと考えます。肩こりを揉みほぐすとか、手足のむくみを軽減したり、顔の歪みを整えたりするのは、その場ですぐに変化が実感できますので、私にとっては容易い部類の作業になります。ところが、損傷してしまった部位を修復する作業は地味であり、Oさんのように損傷範囲が広い場合は多時間で効果を実感できる状態にすることは困難です。幸いにしてOさんの場合は、120分とか、180分とかという長い時間を私に与えてくれましたので、効果を実感できる状態まで回復させることができました。もし、60分間の時間しか与えられなかったとしますと、「なんだか、変化がよくわからない」という感想になっていたと思います。

 赤ちゃんや幼児が転んだり、どこかに打撲したりして痛みを感じたときに、お母さんがすかさず手を当てて「痛いの、痛いの飛んでいけ!」とするのが、「手当て」のイメージだと思いますが、それは「気を紛らわす」など心理的な効果が高いといった見解があるかもしれません。
 しかし、心理的な側面(副交感神経)だけでなく、肉体的な側面でも確かに効果があります。私は長年の経験から断言します。
 「手当て」に似たようなものとして、「手かざし」「ヒーリング」「(外)気功」などもありますが、それらと「手当て」は違う手法であり、目的が異なります。
 昔のいわゆる「お医者さん」は診断と治療の手段として普通に手指を患部に当てていたと思います。機械化が高度に進んだ現代では「手当て」というのは迷信の類に受け取られるかもしれませんが、それこそ偏見であると私は思います。

 もっとたくさんの人に、手を当てることの効用を知っていただきたいと私は思っています。お腹に手を当てれば頭痛が消えるかもしれませんし、打撲やムチウチで損傷した後頭部に手を当てるケアを続けることで歩き方が良くなったり、腰の痛みが消えたりすることが起こります。
 私はセルフケアとして、手当てが必要だと思う人には、その方法を教えています。ところが皆さん半信半疑で、ほとんどの人が三日坊主状態です。
 湿布をペタペタ貼ったり、エレキバンを幾つも貼ったりすることは毎日欠かさず行うのに、手当てのケアは行ってくれません。とても残念に思います。

 「手当て」は確かに原始的な療法です。でも、私たちが世の中に出現したときから現在まで途切れることのなく続けられている療法です。確かな療法であるからこそ、これまでも続いて来ましたし、この先も永遠に続く療法です。
 もっともっと活用していただきたいと思っています。

足つぼ・整体 ゆめとわ
電 話  0465-39-3827
メールアドレス info@yumetowa.com
ホームページ https://yumetowa.com
web予約 https://yumetowa.com/sp/reserve2.html