花粉症の時期も終盤にさしかかりましたが、この時期(春先)は季節的な要因で胸に変化が起こりやすくなっています。
花粉症に関係するからだの変化としては、胸(胸骨)が下がり、それに合わせて鼻(鼻骨)も下がってしまうことがあります。東洋医学では「鼻は肺の煙突」と表現されるほど、鼻と肺にはとても深い関係性があるとされています。アレルギー性の症状として鼻炎(花粉症)と気管支喘息がありますが、ともに肺と関係があると考えますと、肺―胸―胸腺―免疫という一連の関係性が浮かび上がってきます。そして実際、胸骨や胸郭を整えますと鼻骨が上がり、鼻の通りが良くなることがあります。
花粉症の人も、そうでない人も、多くの人が春先は胸が下がり鼻が下がるわけですが、それは季節的な要因であり、季節の変わり目の影響であり、三寒四温など自然現象による“からだの変化”と捉えるのが妥当かもしれません。
そして胸骨が下がるだけでなく、胸の筋肉(大胸筋と小胸筋)がこわばって胸郭が狭くり、肋骨の動きが悪くなっている人がたくさんいます。これらの変化は動悸や息切れ(浅い呼吸)などの症状をもたらすかもしれません。
“肋骨の帯”のように働く二つの後鋸筋
さて、「胃の調子が冴えず、背中に辛さを感じる」という症状の原因の一つとして、背中の筋肉が張っていて肋骨の動きが制限されているというのがあります。これまでの投稿で、背中の辛さや痛みについて、肩甲骨の内側、胃の裏側、肋骨下部など場所別に説明してきましたが、今回はそれらに加えての説明になります。
背中の深いところに後鋸筋(こうきょきん)と呼ばれる筋肉があります。肩~肩甲骨辺りの深部に上後鋸筋(じょうこうきょきん)があり、肋骨の下部に下後鋸筋(かこうきょきん)があって胸郭の背面を支える働きをしています。学問的には、その働きは「肋骨(胸郭)を上下に動かし、呼吸を補助する」とされていますが、実際は胸郭の上部と下部を“帯で縛る”ようにして安定させたり、動きを制限したりしているのではないかと私は感じています。
上後鋸筋と大胸筋(だいきょうきん)の関係
強い肩こりや背中のこりを持っている人は左右の肩甲骨の間が盛り上がったように硬くなっている場合があります。肩甲骨周りには表層から僧帽筋(そうぼうきん)、菱形筋(りょうけいきん=大菱形筋と小菱形筋)という筋肉がありますが、通常の肩こりや背中のハリでは、この二つの筋肉が施術の対象となります。しかし、その奥が硬くなっていて指圧しても、揉みほぐしてもなかなかコリが解消しない場合があります。「難治性の肩こり」と表現している施術者もいるようですが、その筋肉が上後鋸筋です。
この筋肉が硬く盛り上がっている人の多くは胸郭の厚みが増していますが、それは上後鋸筋のこわばりが肋骨を背骨の方に引きつけているからだと考えられます。
からだの個性として、「胸板の厚い人」「丸っこい胴体の人」「胸が平たく薄い人」「鳩胸の人」「お腹は出ているのに胸は薄い人」等々、いろいろなタイプの人がいます。こういった個性が本来的なものか、それとも胸の変化による一時的なものかを判断しなければなりませんが、胸はいろいろな要素によって刻々変化します。そして、その変化をもたらすのは肋骨に関係する筋肉になるわけですが、上後鋸筋はその一つです。
胸の骨格である胸郭は前面中央にあります胸骨と肋骨と背面中央にあります背骨(胸椎)でできています。胸部(前面)には大胸筋という力強い筋肉があります。大胸筋は鎖骨と胸骨と肋骨など胸郭前面の骨と腕のつけ根(上腕骨大結節稜)を繋いでいますので、胸骨や鎖骨が変化することで大胸筋の状態が変わったり、あるいは大胸筋の状態によって胸郭の状態が変わったりします。
そしてこの時期(春先)は大胸筋がこわばっている人が大変多くなるのですが、それによって胸郭の前面が狭くなり、息苦しさや動悸などを招いてしまうことがあります。私の感覚では、このような状態の人の胸は「内側に落ち込んでいる」と感じます。
両腕も肩のつけ根のところで内側に入り込んでいたり(内旋)、あるいは腕のつけ根の辺り(大胸筋停止部=上腕骨大結節稜)を強めに触ると痛みを感じたりしますが、それは大胸筋がこわばっているからです。
「春先は胸骨が下がり、胸郭が内側に落ち込んでいる人がたくさんいる」というのが私の率直な印象です。そして「背中や首のつけ根辺りにツッパリ感を感じる」という人も多くいます。
そして、この背面上部の突っ張りは上後鋸筋のこわばりによるものだと考えられます。
胸郭の前面にある大胸筋のこわばりによって肋骨が胸骨の方に引きつけられますが、それは胸骨が相対的に落ち込んだようになるのと同時に、肋骨が内向きに回旋しますので背面では背骨から肋骨が離れるような状態になります。それを阻止しようと上後鋸筋は収縮するわけですが、この状態が常態化して上後鋸筋の慢性的なこわばり状態を招くと考えることができます。
そして、このこわばり状態が「すっきりしない背中の上部」「帯で締められたような感じ」「呼吸で息が深く入いらない」「仰向けで寝ると首のつけ根から背中にかけて嫌な感じがする」などといった症状をもたらすことになります。
「強情な肩こりや背中のこり」だと思って、道具を使って一生懸命叩いてみたり、誰かに揉んでもらったりしても、一時的に解放されて気持ち良くなったと感じるかもしれませんが、スッキリ解決することはほとんどないと思います。なぜなら原因の多くは胸の前面にあるからです。
さて、大胸筋や胸骨の問題で上後鋸筋がこわばっている場合の対処方法について考えてみます。
繰り返しになりますが、この季節は誰もが、胸の状態が程度の差こそあれおかしくなります。胸はいろいろな事象に反応して変化しやすい部位です。季節の移り変わりを感じますし、精神的なことでももちろん変化します。そして「変化する」というのは、具体的には骨格の形が変化するということですが、それを行うのは筋肉であり、筋膜です。ですから、筋肉と筋膜を整えることで対応することができると考えることができます。
実際、大胸筋のこわばっている人がたくさんいます。大胸筋は鎖骨の下から腕にかけての広い部分にありますが、その部分を少し強めにマッサージすると痛みを感じると思います。特に腕の近く、腋の下の部分は筋線維が集まっていますので、かなり痛く感じると思います。
その痛みが軽減するまでマッサージしたり、筋束を掴んでゆるめたりしていただきたいと思います。そうしますと次第に胸が解放されるような感じになり、実際に胸が広がるわけですが、同時に背面の上後鋸筋のこわばりも改善しますので、呼吸が楽になるなどの変化が現れると思います。
また普段の顎の使い方として、顎先に力を入れて口を動かしている人も多くいますが、そういう人は顎先(オトガイ)から顎ラインに掛けて硬くなっています。オトガイが梅干しのようになっている人は確実にこの状態だと言えます。このような人は、指圧などでこれらの硬さを解消しますと、胸のこわばりも解消しやすくなり、セルフケアが効果的になると思います。
下後鋸筋のこわばりは背骨を整える
肋骨の下部には「腹部の帯」のような感じの下後鋸筋があります。解剖学的には息を吐くときに働く呼吸筋、あるいは呼吸補助筋として取り扱われていますが、それよりも上後鋸筋同様、肋骨を安定させる意味合いの方が強いと思います。
時々「背中の下の方が辛い」と訴える人がおりますが、下後鋸筋のある肋骨下部には腎臓があります。からだに疲れが溜まると腎臓が腫れてしまう人が少なからずおりますので、まずこの部位の「ハリ感」や「辛さ」は下後鋸筋のこわばりによるものか、腎臓の膨大によるものかを識別しなければなりません。
その上で、下後鋸筋のこわばりによって「背中の下部が張って辛い」「寝ていても背中が反っているように感じる」などの場合は、背骨(下位胸椎と腰椎)を整えることが解決策だと私は考えています。
下後鋸筋がこわばっている人の多くは、腰部の背骨が「真っ直ぐ棒のような感じ」です。背骨は椎骨(頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個)が椎間板をクッションにして連結してできていますので柔軟性があり、普通は一つ一つの椎骨を触り分けることができます。ところが時々、椎骨間が詰まっていて一本の棒のように感じることがあります。「背骨に余裕がない」と私は思ってしまうのですが、腰部の背骨がそのような状態の人は大抵、下後鋸筋がこわばっています。
腰部の椎骨に関係する筋肉には大腰筋(だいようきん)と腰方形筋(ようほうけいきん)があります。背骨全体にわたって脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)は関係しますが、下後鋸筋の変調に関係するという意味では、大腰筋と腰方形筋に着目すべきではないかと私は考えています。
そして腰方形筋は殿部の中殿筋(ちゅうでんきん)と連動しますので、中殿筋が硬くこわばってしまいますと腰方形筋もこわばり腰椎が詰まった感じになります。あるいは、中殿筋の働きが悪くなりますと、太股の骨(大腿骨大転子)が下がってしまうので、大腰筋が緊張して張ってしまい、腰部の背骨に余裕がなくなり、下後鋸筋がこわばって「お腹に帯が巻かれている」ように感じたりすることがあります。そして、実際はこちらの方が多いかもしれません。
下後鋸筋のこわばりに対しては、脊椎、大腰筋、中殿筋、腰方形筋などの専門的な知識を要しますので、一口にセルフケアを説明することはできません。
下後鋸筋がこわばっていたとしても、「腹部が帯で巻かれているように感じる」とか、「仰向けで寝ると反っているようで落ち着かない」といった程度の不快感を感じる症状ですから「大きな問題ではない」とも言えます。ですから、実際は無視している人がたくさんいると思います。気になる人は専門家へ相談されることをお勧めします。
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