「上部頚椎を整える」ことを専門にしているカイロプラクティックや整体院があります。上部頚椎というのは頚椎1番と頚椎2番のことですが、意味するところは頭蓋骨の基部である後頭骨と首との接続部分を整えると全身に影響が及び、からだが元から改善される可能性があるということだと思います。
後頭骨と頚椎1番の関節部分は、その周りに筋肉を含め軟部組織が分厚くありますので直接触って状態を観察するのはなかなか難しいところです。また、歪みの状況が解ったとしても、それを素速くきれいに修正するのはなかなか難儀だと私は感じています。カイロプラクターや骨を直接動かす施術を行う整体師は「コツン」と軽く一撃することで歪みを修整するということですが、私はそういう技を持っていませんので修正に時間を要してしまいます。
しかしながら、この部分が歪んでいるために首の動きが制限されていたり、「痛くて首を動かせない」状況だったり、さらには目や耳など感覚器官の働きが「今一」だったりすることがありますので、からだの能力を十分に発揮できるようになるためには、整えておかなければならないところだと考えています。
目の働き、舌の動きに影響する環椎後頭関節
頚椎1番のことを専門用語として環椎(かんつい)と呼びます。私たちが軽くうなずいたり、少しだけ顎を上げたりする動作は、頭蓋骨(後頭骨)と環椎の間の関節(環椎後頭関節)で行われています。後頭骨は環椎の上で前後に滑るように少し動きますので、頭を少しだけ動かす時にはほとんどこの関節だけを使っている感じです。
あるデザイナーの人は一日中パソコンを使ってデザインの仕事をしていますが、瞼が重たくなってしまい目を開けていることが辛い状態です。それでも目を開けていないと仕事になりませんので、頭の筋肉を使って瞼を引き上げているため頭もカチカチに硬くなっています。そんな辛い状況でも頑張らなければならないため噛みしめ癖も持つようになってしまい、更に辛い思いをする日々を過ごしています。
私が施術を行った直後は、症状は軽快します。しかし、1分くらい座ったままでいますとまた瞼が重たくなってしまいます。原因について、いろいろな可能性を考えて対処しましたが「うまくいったようで‥‥、やっぱり駄目か」という状況が続きました。
私も悩みまして「あと残った可能性は?」などと自問していましたが、すると「もしかしたら頭が乗っている位置が狂っているのかも」という思いが浮かび上がってきました。そこで、座った状態で頭を少しだけ後に引いてみました。すると“どよ~ん”としていた眼や瞼が開き出しました。そして私が頭から手を離して、再び元の状態(少し頭が前に出た状態)に戻ってしまうと、また“どよ~ん”としてしまいます。
「頭の位置が悪くて脳の血流が悪くなっている」と私は思いました。
椎骨動脈(ついこつどうみゃく)
心臓から頭(脳や顔面)に動脈血を運ぶルートには“頚動脈”と呼ばれて多くの人が知っている内頚動脈と外頚動脈がありますが、それ以外に頚椎に沿って進む椎骨動脈があります。
椎骨動脈は鎖骨下動脈から枝分かれして頚椎6番の横突孔に進み、そのまま環椎(頚椎1番)の横突孔まで昇っていきますが、その後ほぼ直角に後方に曲がり、さらに大きく前方に曲がって後頭骨の中に入り脳へと進んでいきます(脳底動脈)。血流という面で、頚椎2番(軸椎)と環椎と後頭骨の関係性は気になるところです。
椎骨動脈は左右2本ありますが、後頭骨に入ると1本に合して脳底動脈という名前になります。脳幹や小脳に血液を供給し、大脳の後頭葉に進みますので、脳の後方循環系と呼ばれます。脳幹には脳神経の核がありますが、鼻、眼、耳、舌といった感覚器官を司っているほか、表情筋とそしゃく筋の働き、嚥下の働きなども司っています。ですから、椎骨動脈の流れが悪化すると視力や視界が悪くなり、瞼の動きも悪くなるということは説明がつくことです。
先ほどのデザイナーの人は、首に対して頭がちょっとだけ前に出た状態でした。つまり環椎後頭関節にズレが生じている状態ですが、それによって椎骨動脈の流れが悪くなり眼や瞼の動きが悪くなってしまった可能性があります。私が手で頭を後方に少し引っ張ると眼や瞼の状態が良くなったのは、その現れだと思います。
頭(後頭骨)のずれが舌の動きに影響を与える
「しゃべると顎先が上下に動き、息苦しくなって舌の動きも悪くなる」と訴える人がいます。顎を下げた状態(顎先がからだに近づいた状態)では口を大きく動かすことができなくなってしまうので、言葉をしゃべるときは頭を上向き加減にして顎先を上げるようにしてしまいます。しかしそうなりますと気道がふさがってしまい呼吸が苦しくなって言葉を続けることができなくなってしまうということです。顎を下向き加減にすると呼吸ができて楽になるのですが、すると口が開かず喉が詰まるようになってしまいます。ですから結局この人は、言葉をしゃべりながら顎先を上下に揺らすようにしています。
その他、この人は舌が硬く思い通りに動かせないという症状を抱えていました。現在、この問題はほとんど解決されましたが、動かない舌を無理して動かし続けていたことが今回の問題につながっているのかもしれません。
頭蓋骨と首の骨(頚椎)との接点は後頭骨と環椎(第1頚椎)で、環椎後頭関節と言います。環椎後頭関節は、環椎に対して後頭骨が前後に滑ることができる構造になっています。私たちがうなずいたり、ちょっと頭を上げたりする動きは後頭骨が環椎の上を滑ることによって行われますが、その動きをもたらす主な筋肉は頭長筋(とうちょうきん)と後頭下筋群です。頭長筋を収縮させることによって後頭骨の底部が前下方に引っ張られ、うなずく動作が行われます。スマホを見る、読書をするなど“ちょっと下を向き続ける”動作は頭長筋を収縮し続けることになりますので、頭長筋がこわばる可能性が高まります。(頭長筋がこわばったことによって頭部が下を向いた状態では後頭下筋群は張ってしまい、後頭部の頭痛や首後面の張りをもたらす可能性があります。)
さて、この人は頭長筋も、その下にある頚長筋(けいちょうきん)もこわばっていました。動きづらい舌を無理して動かしていたたために喉周辺の筋肉も強くこわばっていましたが、合わせて頭長筋も頚長筋もこわばってしまったのだと思います。それによって常に頭や顔は下向き状態になっていますので、舌骨を含め喉が下顎に近づいた状態になっています。下顎を大きく開けようとしても舌骨や喉のところで詰まってしまうので、しゃべるときには自然と顎先を上げてこの状態を回避するのだと思います。
顎先を上げる動作では後頭下筋群を収縮させることになりますが、張ってこわばった状態の筋肉をさらに収縮させなければならないということもあって、気道がふさがってしまう状況になってしまうのかもしれません。
今回、この人に対する施術はこわばっている頭長筋と頚長筋をゆるめることでした。頚長筋は頚部から胸部までつながっていますが、そこそこ触ることができますので、こわばりを解消することが、まあ可能です。一方、頭長筋は一部しか触ることができません。ですから満足するほどこわばりを解消することはできませんでしたが、それでもまずまず成果がありました。下向き状態だった頭蓋骨はほぼまっすぐな状態になり、張っていた後頭下筋群もゆるみ後頭部に余裕が生まれました。そして、顎先を上げずとも口を大きく開くことができるようになり、頭を上下に揺らすことなくしゃべり続けることできるようになりました。
後頭骨と上部頚椎と椎骨動脈
椎骨動脈は頚椎の横突起にあります横突孔という穴の中を通って頭部に昇っていきますが、第3頚椎から軸椎、そして環椎のところで弯曲が生じ、環椎の横突孔を抜けた後はほぼ直角に後方に曲がります。その後、上関節窩(椎骨動脈溝)を大きく回り込み後頭骨に入って前方に進みます。後頭骨と環椎と軸椎は頭を動かす度に動きますので、椎骨動脈は大きくうねった状態で常に伸び縮みを強いられていることになります。
仮に頭長筋がこわばって後頭骨が前下方に引っ張られた状態になりますと、環椎の上関節窩(椎骨動脈溝)を回り込む辺りが圧迫を受け、血流が悪くなる可能性があります。
先ほど例として取り上げたデザイナーの人は、頭部を後側に少しずらすことによって眼の働きが良くなったわけですが、それは環椎に対して前方にずれていた後頭骨を正しい位置に戻したので椎骨動脈の流れが回復し、脳の働きが良くなったからだと考えることができます。
上部頚椎と後頭骨を整えることの意味
冒頭の話題に戻りますが、上部頚椎を整える専門家は「上部頚椎を整えると全身に影響が及び、からだが快適になる」というようなことを仰います。「首を整えると脳が体を治しだす」という題名の本もあります。
私は、この方々が提唱されていることを「そうかもしれない」と思いながらも具体的にはどういうことを意味しているのか理解できないでいました。理屈を聞かされても今一、なんとなく漠然としているように感じられて腑に落ちませんでした。上部頚椎を整えることで確かに骨格の歪みは改善され、首の動きが良くなって肩こりが改善するというようなことは想像しやすいことですが、だからといって大したことではないと感じていました。ところが、ここにきてやっとその意味がわかりかけてきました。まだ途中の段階で、日々検証している最中ですが、上部頚椎と後頭骨の関係が整いますと椎骨動脈の流れが良くなる可能性があって、そのことがからだに様々な良い影響を及ぼすからなのではないかと思い始めています。
左右の椎骨動脈は合流して脳底動脈となり、脳幹に血液を供給し、小脳と後頭葉へ血液を供給します。ですから椎骨動脈の流れが良くなりますと脳幹と小脳の働きが良くなるという理屈になります。
脳幹には脳神経の核があります。脳神経は嗅覚、視覚、聴覚、味覚、そしゃく、嚥下、表情筋(顔面神経)などを司っています。ですから、脳幹の働きが良くなりますと、視界が広がってよく目が見えたり、耳の働きが良くなったり、嚥下や舌の動き、しゃべりが楽になったり、顔のたるみが軽減したり‥‥という現象が現れるはずです。
そして実際、後頭骨と上部頚椎の関係性を整えますと、そのような現象が現れました。
また、「座っているときは頭やからだがふらついたりすることはないのだけれど、立ち上がるとからだがふらついてしまって前に倒れそうになる」と訴える高齢者の人に対して、後頭骨の位置を整える施術を行いますとふらつきがなくなり、安定して立っていられるようになりました。これは小脳の働きが良くなったからなのではないかと思っています。
脳幹や小脳の働きは勿論これらのことだけではありませんので、これからもいろいろ観察していきたいと考えていますが、からだを根本的に変えていくための方法や可能性が少し見えてきたような気がしています。
「首を整えると脳が体を治しだす」という意味は、具体的には脳幹と小脳、そして後頭葉の働きがパワーアップするということかもしれません。それによってからだが自然と自らを治癒して改善し、より高いレベルの健康を実現できるようになるのかもしれません。
「小脳」は私たちにとってまだまだ未知の領域ですが、私にとっては魅惑的に感じる存在です。そんなことも含めて、改めて投稿したいと考えています。
足つぼ・整体 ゆめとわ
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