ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

2016年09月

 私のような仕事をしている人は解剖学をある程度学ばないと、できることがとても限られてしまいます。しかし、実際のところ解剖学の本は退屈です。(少なくとも私には) 実際の問題に遭遇したときは、筋肉や骨格を確認するために参考にしますが、普段から読みたいとは思いません。「自分が好きな仕事に関することなのに何でだろう?」と思ったりしますが、そこには心を引き込むようなストーリーがないからかもしれません。
 ところが三木成夫(故人)先生の本に巡り会ってからは考え方がすっかり変わりました。三木先生の著されている本は一見解剖学とは関係のないような本が多いのですが、普通の人が「何故?」「どういうこと?」と思われるような素朴な疑問にわかりやすく答えてくれています。
 なんで赤ちゃんは哺乳瓶より母乳で育てた方が良いのか? なんで赤ちゃんは畳を舐め回すことが好きなのか? 顔は私たちにとってどういう意味を持っているのか? 舌は生命にとってどういう位置づけなのか?  植物と動物は何が違うのか? 自律神経の本質は何か? そういったことについて魚から人間にまで進化を続けてきた変遷と変化を考察しながら具体的に教えてくれています。
 私は直接お目にかかったこともありませんし、講演を聴いたこともありません。そして残念ながら三木先生の著した文献をたくさん持っているわけでもありません。しかし私にとって未知の症状を抱えた人が来られたときには、「三木先生の観点ではどのように考えるだろうか?」とまず考えてしまいます。

 三つ前のブログで投稿した舌の問題を抱えた若者に対しては、三木先生の言葉を多いに参考にさせていただいています。そして実際、施術を続けていく過程で変化を感じるたびに、三木先生が著していたことを自分が実際に体験しているのだと知ることになります。(ちなみに、おかげさまで彼の症状は順調に良くなっています。)
 この7年半、いろんな病院、最新設備を整えた大学病院、様々な治療院を巡ってもらちがあかなかった状態は、三木先生の言葉をヒントに毎日同じような施術を忍耐強く行っていた結果、大きな変化をもたらしています。施術はとてもシンプルです。毎回60分の間、そのシンプルな施術をじっと続けているだけですが、舌が徐々に本来の状態を取り戻し、そしゃく筋が働き出し、喉の筋肉が働き出すと、筋肉の連係プレイが復活し始め、状態は確実に進展しています。

 私はよく知りませんが、おそらく三木先生は解剖学の世界では有名な学者だったのではないかと思います。そうであれば、現在、医学の最前線で活躍されている医師の中には、三木先生のお弟子さんのような先生方もいらっしゃると思います。そうであるならば、どうぞ医療の現場で三木先生の智恵を活かしていただきたいと思います。

 三木先生が著された書籍や文献の中から、皆さんの実生活に参考になると思われる文章を時折掲載させていただきます。
 解剖学的に顔は内臓(腸管)が表に露出したものだと考えられています。そして顔のあらゆる筋肉や組織は、元々は魚の鰓(エラ)に相当する部分だったと考えられています。そのことを予備知識として下記の内容をお読みください。


 「顔は内蔵の前端露出部だが、唇から舌にかけての感覚はとくに鋭敏で、これら尖端部の構造は食物を選別する精巧無比の内蔵の触覚となる。この機能は正常な哺乳によって日々訓練されていくが、やがて赤ん坊はすべてを舐め回し、将来の『知覚』の成立に備える」

顔と口と舌
 われわれの内臓は、手で腹壁を通してわずかに触れることができるだけです。この中の出来事は、だからおぼろにかすむ、遠い世界の出来事です。しかし、その入り口と出口は当然外に開かれて、この現実世界と交流していないといけない。
 出口のところは、体壁がきんちゃくのようになって内臓は露出しないようにできている。
 だいたい腸の内容がS状結腸、直腸あたりにまでこないと、本当の便意は起こらない。
(中略)
 ところが我々が実際に意識できるのはノド元までで、ノド元過ぎたら熱さを忘れる。ここから下の感覚は大脳皮質までのぼってきません。これに対し、前端部分の顔面、とくに目玉とその周辺、さらに耳、鼻など穴の開いている場所は敏感です。その中でも口の穴、すなわち唇から舌にかけての感覚はさらに敏感です。
 ですから、内臓感覚といった場合、私たちはこの感覚がもっとも高度に分化した場所として、この唇と舌を考えればいいわけです。
 なぜここがこんなに敏感かというと、この入口こそ、食物を取り込む、つまり毒物と栄養物とを選択する“触覚”に相当する場所だからです。いってみれば、大切な秘密工場の厳重な守衛所ですね。

 この中でも、とくに舌は、脊椎動物が魚類から両生類になって、水から上陸して、ものを食べるときにどうしても必要な手となってくるんです。
 こういった舌の運動のはっきり見られるのがカエルです。舌でハエなどをパッと捕らえますね。それから異常に発達したのがカメレオン、さらにアリクイ。
 ですから舌というのは、早く言えば、生命を維持するための大切な触覚と捕食器官を兼ね備えているということになります。
 ただ、舌の筋肉だけは、さすがに鰓の筋肉、すなわち内臓系ではなくて、体壁系の筋肉です。
 顔面の表情筋が全部鰓の筋肉であるのに対し、舌の筋肉だけは手足と相同の筋肉です。舌といえば、ノドの奥にはえた腕だと思えばいい。ただし感覚の方は、体壁系の皮膚感覚とは違って、あくまでも内臓系の鰓の感覚です。ですから舌というものは、内臓感覚が体壁運動で支えられたものだと思えばいい。
 非常に鋭い精巧無比の触覚によって我々脊椎動物の祖先は、営々と五億年の間、食物を取り込んできたわけです。それが哺乳動物になると、大抵は首が発達して、首で襲いかかれるようになります。しかし、それは大人になってからで、子どものときは、すべての哺乳動物はやはり両生類以来の舌を使って母親の乳首から吸い取ります。ですから「この精巧無比の内臓触覚の機能は、正常な哺乳によって日々訓練されてゆく」ということになります。これが非常に大切なことです。
正常な哺乳
 正常な哺乳とは、母親の乳首から直接吸うことです。この唇と舌の、もっとも鋭い内臓感覚でもって、母親の乳首のあの感触を味わい尽くす。哺乳瓶のゴムは、あれこそ子どもだましです。まったく異質です。
 その上、赤ん坊は鰓の感覚が一面に拡がった“顔面”のすべてを動員して、乳房まるごとの肌触りを、一日中来る日も来る日も味わい尽くすわけですが、哺乳瓶ではもう味もそっけもない。
 それからもっと大切なのは、初めて吸うときです。赤ん坊と母親は、まるで死にものぐるいです。最初はうまく出ないものですから‥‥。母親はイライラするわ、赤ん坊は吸えないわ、でもう大変です。
 やはり赤ん坊の時には、まず哺乳動物であることの最低の条件を満たすためにも、母親を経験させないといけない。それで育ってきた赤ちゃんと、なんだかモルモットに水をやるようにして育てた赤ちゃんと、いったいどちらが幸せだと思いますか。
 ところで、これに協力しないといけないのは世の男性です。ストレスを家庭に持ち込むとピタッと止まる。これは汗腺が分化したものだから。カンガルーよりももっと古いカモノハシは、腹の汗の中に脂肪球が出てくるのですが、その汗をペロペロなめて育つ。これが哺乳のはじまりです。緊張すると汗がサッと引くでしょう。それと同じことです。ストレスで瞬間にお乳が出なくなる。男の責任は大きい。もっとも現代は世相そのものがストレスの塊のようなものですから。お乳の少ない母親がずいぶん多いでしょうね。

なめ廻し
 “なめる”ということは学問的に見て大切な意味があります。このときに鍛え抜いた感覚と運動があとになって、どのような形でいかされてくるか。
 心理学のことはわかりませんが、たとえばコップを見て“丸い”と感じるでしょう。これは類人猿には見られない、まさに、ホモ・サピエンスの特徴です。この“丸い”と感じる、その奥には、この“なめ廻し”のものすごい記憶が、それは根強く横たわっているのです。コップの縁に沿って、ゆっくりゆっくり、そして何度も何度も、それこそ丹念に舌を這わせ続けた、その時の記憶です。もちろん、そこには手のひらの“なで廻し”の記憶も混然一体となっているはずです。手と舌とは“年子”のようなものですから。

 六ヶ月をすぎてから、畳の目をどれだけなめさせたか‥‥。“なめる”という世界は大切です。決しておろそかにしてはいけない。

 さらに“なめる”ことには命に関わる重大な意味もあります。畳には適度のバイ菌がいます。そのバイ菌を入れてやると、腸管のリンパ系が心地よく刺激されて、過不足ない防御体制ができあがるからです。
 少々の毒物は、ですから舌を通してどんどん入れてやることです。それを衛生だとかなんとかやりますと無菌動物になる。世の荒波にもまれたらひとたまりもありません。
 このように、畳の目をなめるというのは、形態の把握と外敵の防御の基礎訓練という。二重の意味をもったものになります。

胃袋感覚
 胃は膀胱型の収縮を営むが、一方、手足の骨格筋と同じく日リズムに乗って、夜は眠り、昼間は収縮して食物をねだる。こうした波は年間を通しても見ることができるが、これら宇宙的な要因による収縮は、内臓感覚の、もう一本の柱をつくる。

 この胃袋感覚が非常に大切です。同じ袋でも、膀胱感覚とはかなり勝手が違うからです。膀胱の場合は中身の圧を受け、それに対する逆圧として収縮が起こる。ところが胃袋の場合は、なんと空っぽのとき収縮するのです。この空っぽの収縮はちょうどさっきの大腸や膀胱にも起こります。そのときの尿意と便意にわれわれは欺かれますが、胃袋の空っぽの収縮は、食物を催促するための、それは大切な営みです。もちろん、いっぱいになって中身を十二指腸の方に送るためにも収縮します、膀胱と同じように。
 胃袋は空っぽの時に収縮する。いわゆる“ハラが鳴る”、これが健康な空腹感です。

 ‥‥いわゆる夜型と朝型。胃袋というものは、からだと一緒になって眠ったり、起きたりしている。ですから、朝ご飯の時など、両者とも胃の中は空っぽでも、胃袋そのものの顔つきはまるで違います。一方は、寝ぼけ眼で嫌々ですが、もう一方は身をくねらせて待ち構えている。もっともこれが夜食だと話しは逆ですが。
 そこで、私どもの日常生活を見ておりますと、とうぜん問題になってくるのが、この、いわゆる「夜型人間」ですね。夜は夜で、寝しなに腹一杯食べ、無理に寝かしつける。朝は朝で、食べないと身体に悪い、といって無理やり詰め込まされる。胃袋の方は半分寝ているものだから、ひどいときにはだらりと骨盤まで垂れ下がる。かの有名は胃下垂です。そして、こういうことが度重なってくると、ついに胃袋は自衛手段にでる。つまり胃袋の方から朝食拒否を起こすのです。

以上 内臓のはたらきと子どものこころ (みんなの保育大学)より抜粋

 お一人お一人顔が違って個性があるように、歩き方にもその人その人の特徴があります。ですから“これが正しい歩き方だ”というような絶対的なものはありません。しかし、ある観点、例えば“健康になるための歩き方”とか“故障しない歩き方”、“スタイル良くなる、見栄えの良くなる歩き方”ということで考えますと、原理原則のようなものが浮かび上がってきます。
 私たち(二足歩行)は重力のある地球上に立って、つまり重力に対抗して歩かなければなりませんので、その理に叶うように歩き方を考える必要があります。背の高くなる植物は重力に逆らって真っ直ぐ上に成長するわけですが、そのためには表には見えずとも地中にある根(土台)がしっかりしていなければなりません。同じように、重力に対抗して歩くためには足元がしっかりしていなければならないわけですが、「何をもって“しっかりしている”と言えるのか?」という素朴な疑問が生じす。
 また、“歩くことが健康に良い”とか(今は死語になっていますが)「歩けなくなったら終わりだ」と、かつてしばしば言われていた根拠は何なのか? という素朴な疑問もあります。
 今回はこれらについて考えてみます。

足元をしっかりさせるためには全身の力をしっかり足に伝えること
 私が歩き方を観察する時、一番最初に着目するところは上半身が前に突っ込むようにして歩いているのか、あるいは下半身が主導してからだを前に進めているのか、といった点です。

歩き方03

 上半身が前に突っ込むようにして歩いているとは、顔や首や胸を前に出す、あるいは上半身を前傾することによって歩いているということです。上半身が前のめりのままでは倒れてしまいますので自然と脚を前に出してからだのバランスを保ちますが、そのような仕組みを利用して歩いていることです。つまり先に上半身が前に進み、後から下半身がついてくるような歩き方で、このような人は“つまずきやすい人”、“足が上がらない人”と言えます。足先(足趾)は前のめりになった上半身の重みを支えるために必要以上に力を入れて(収縮させて)踏ん張らなければならなりません。ですからこのような人は足趾が曲がっているのが特徴で、足趾を揉むとすごく痛がります。
 「足趾に力を入れて踏ん張っているのだから足元はしっかりしているはずだ」という誤解が生じるかもしれませんが、それは間違いで、バランスの悪くなった状態を足趾で踏ん張ることで倒れないようにしているということなので、足元がしっかりしているというのとは違います。

歩き方02

 一方、良い歩き方は“先に脚が前に出る”歩き方、つまり下半身主導の歩き方です。体重が軸足(後方の脚)の方に長く乗っていられますので、前脚は軽く感じられ自由に動かすことができます。地面に凹凸があっても、小石や砂利などの障害物があっても、軽々と対応することができます。着地する前足は“上から”地面を踏むことができますので、足裏はセンサーのように働き地面からの情報を瞬時に把握することができます。段差に足が乗ってしまったとしても転んだりすることはほとんどありません。(上半身主導で歩いている人は足が後からついてきますので、足裏がセンサーとして働くことは難しい)
 下半身主導で歩く動作は、脚を前に踏み出して体重を支える時も、次に軸足となって地面を蹴ってからだを前に進ませる時も、下半身の筋肉が直接地球の重力と対抗することになります。ですから、ただ歩くだけで筋肉が鍛えられるという効果をもたらします。一方上半身主導で歩いている場合は、自分の意志で下半身を使っているという感覚にはなりませんし、長く歩くと疲れを感じてしまうと思います。ふくらはぎや足や足趾ばかりが頑張り続けるため、「歩くことが心地良い」とはなりません。

 足元をしっかりさせれば重力に対抗する力が増しますので自ずと“からだは背の伸びた状態”になります。歩き始めの時よりも、歩き続けていると次第に背筋が伸び、腰の位置も高くなったように感じるような歩き方が理想です。しかし、そのためにはからだの力をしっかり足元に伝える必要があります。

 からだを動かすことを分析的に観察しますと“重心を移動させる”ことに置きかえることができます。からだを前傾する動作は、重心を前に移動することによって行うのが自然な在り方です。重心を移動させることなく前傾しようとしますと猫背のように背中や首を丸めるだけの形になってしまいます。同様に、歩く動作の一歩一歩は重心を足元に移動させる動作にならなければなりません。前脚として前方に踏み出した足は着地とともに軸足に変わり、やがてからだを前に移動させる蹴り足になりますが、この一連の動作は股関節周りの筋肉の収縮から始まります。股関節周りの筋肉が動き、次に太股、ふくらはぎ、足、足趾へと動作の主体が移っていきますが、この流れに伴って重心が股関節から足へと移っていくことで、からだをしっかり支え重力に対抗する力となります。
 足踏み運動で、持ち上げた脚(太股)を地面に降ろす動作を“自然に”しっかり“力強くグイッグイッと”行うことができれば、重心の移動が実感できます。そして、それに伴って重力に対抗する力が増していくのが実感できると思います。(降ろした脚の膝裏が伸びず、お尻がキュッと締まらなければ、この感覚は実感できません)
 これが、からだの力を足に伝え“足元をしっかりさせる”ということの意味です。足踏み運動をした時の“この感覚”を実際の歩行時にも実現できれば、それが心地良い歩き方、スマートな歩き方に近づくための第一歩だと言えます。

良い歩き方のために重要な中殿筋と大内転筋と大腰筋
 これまで多くの人たちの歩き方を観察してきました。歩き方教室などに通われている人もいましたが、私の場合は“からだに不具合を起こさない歩き方”、“歩くことで健康を維持増進させる”という観点で考えますので、ヒールの高い靴を使いこなす、美脚に見えるなど、歩き方教室などで指導していることとは見方も申し上げることも違うと思います。

 “歩くことは片脚立ちの連続動作”というのが基本中の基本だと私は考えています。ですから歩き方を修正するためには、先ず“しっかりとした片脚立ちができる状態”を築かなければなりません。“しっかりとした片脚立ち”というのは、何秒間か片脚立ちの状態が保てるとか、からだの何処かに不自然な力を入れて我慢すれば片脚立ち状態が維持できる、というのとは違います。重心をしっかり片方の脚や腰に乗せることができた状態であり、上げた方の脚がフリーな状態になることであり、思いのままに楽々と前後左右に動かすことができる状態です。この状態になりますと、軸脚がしっかり「からだを支えている」という感覚が得られます。


歩き方01

 そして、そのためには何よりもバランスを保つ必要があります。バランスが良ければ無理なくこの状態が保てますので、筋力よりもバランスの方が大事です。
 軸脚にからだを乗せ、反対側の脚を上げてバランスを取るためには上半身が上げた脚とは反対側に少し傾かなければなりません。直立不動のままで片方の脚だけを上げ続けることは不可能です。仮に何秒間かできたとしても、軸足の足裏や足趾にはその状態を保つためにモゾモゾしたりして無理な力がかかってしまいます。

中殿筋と大内転筋の収縮

 例えば左脚を軸として右脚を上げた場合、上半身を少し左に傾けなければなりません。そしてこの姿勢をつくるためにはお尻の側面にある中殿筋がしっかり働かなければなりません。左側の中殿筋が収縮することによって上半身は自然と少し左側に傾きます。そして中殿筋がしっかり収縮することができれば“お尻にエクボ”が発生します。
 ところで中殿筋を働かせずに脇腹の筋肉を収縮させて上半身を傾けることもできます(上半身が折れた状態)が、それは重心が左脚に移動したのとは違いますので、片脚立ちのバランスを保つことはできません。正しい片脚立ちの状態は、背面から見ますと、股関節のところでからだが少し折れて傾き(背中は伸び)、軸脚のお尻の上部が盛り上がって、そのすぐ下にエクボのような凹みができている状態です。

 また、軸脚には全体重が乗りますし、やがては地面を蹴ってからだを前に移動させる働きをしなければなりません。ですから軸脚はしっかりしている必要がありますが、この時に要となるのは大内転筋の働きです。大内転筋の働きが悪いと片脚立ちの状態でお尻を持ち上げ軸脚を真っ直ぐに保つことができなくなります。膝が折れ、お尻が下がってしまいますので中殿筋の収縮(お尻のエクボ)も望むことができませんし、地面を蹴ってからだを前に押し出す働きを望むこともできなくなります。大内転筋の働きが悪い人は、膝が少し曲がったまま地面を擦るような歩き方になってしまいますので、“重力に負けているような歩き方”に見えるかもしれません。
 そして大内転筋は筋連動の関係で大腰筋と深い関連性があります。大内転筋の働きが悪いと大腰筋の働きも悪くなりますので腰椎の前弯がなくなり骨盤は後に傾いてしまいます。それは腰が悪くてからだを真っ直ぐに伸ばすことができない状態に似ています。
 このような人はとてもたくさんいますが、極端な例として、腰の曲がった人の歩き方を想像してみてください。上半身が前のめりになっていますので、からだが倒れないようにと、すかさず脚を前に出さなければなりません。歩幅は狭くなり、チョコチョコ、パタパタ、あるいはバタンバタン、ドスンドスンと歩かざるを得ません。本来、歩くということは下半身の力でからだを前方に移動させることですが、このような人はそれとは反対で、上半身が前に前に行ってしまうので、それを支えるために脚を前に出しているといった感じです。ゆったり歩くことを望むことはできません。

 ところで、滑らかな歩行動作は腹筋を含めた骨盤周りから下半身全体の筋肉の連係プレイで実現できることですから、例えば足趾に創傷ができただけでもバランスが崩れてしまいます。ですから歩行の問題に対して施術を行う場合は、たくさんの筋肉や骨の状態をチェックする必要がありますが、最初に確認するのは大内転筋、中殿筋、大腰筋になります。

大腰筋で歩き始めるか、大腿筋膜張筋で歩き始めるか
 大腰筋につきましては前回の記事で取り上げましたので、そちらも参考にしてください。
 “歩き方”を観察するとき、私は先ず二つに分けて見ます。下半身主導で脚が前に出て後からからだが付いてくるような歩き方か、それとも上半身が前に出ることによって後から下半身が付いてくるような歩き方か、どちらの傾向かを観察します。

大腰筋か筋膜張筋

大腰筋と大腿筋膜張筋
 
 ここで筋肉の話になりますが、股関節で大腿骨を引き上げ脚を前方に出す働きをする筋肉がいくつかあります。体育の授業で行った膝を水平まで高く上げるような足踏み運動は別にして、歩行動作に限って考えますと股関節の内側(大腿骨の内側)には恥骨筋と大腰筋があります。股関節の外側面には大腿筋膜張筋と縫工筋があります。恥骨筋と縫工筋は補助的な作用ですので、脚を前方に出す働きをする筋肉は、股関節の内側は大腰筋、外側は大腿筋膜張筋であると考えていただければよいと思います。
 下半身主導でゆったり歩くためには内側の大腰筋を使って歩き出す必要があります。大腰筋は股関節より上部の腰椎から始まっていますので、大腰筋が収縮しますと大腿骨だけでなく骨盤(腸骨)も動かします。ですから大腰筋をしっかり使って歩いている人の歩き方は骨盤も良く動いて実際の脚の長さより脚の動きが長く大きく見えます。 

座位からの腿上げ比較

 ここで筋肉の働き方を観察するためにテストをしてみます。
 椅子に座った状態で左の腰(骨盤)に重心を移します。重心がしっかり左側に乗りますと右脚のつけ根はフリーな状態になって微かに浮く感じになると思います。その状態で右太股を5㎝上げて保持し、股関節の内側と外側に筋肉の収縮(緊張)を観察します。正しく行えていれば内側の方が外側より収縮しているはずです。つまり大腰筋を使って太股を5㎝上げているということです。
 次に、座った状態で左右均等に、あるいは少し右側に重心を乗せた状態で右脚を5㎝上げてみます。すると股関節の外側から太股の外側にかけて筋肉が緊張しているのがわかると思います。これは主に大腿筋膜張筋を使って太股を上げているということです。
 つまり、重心を上げる脚(右)とは反対側(左)の腰(骨盤)にしっかり乗せることができますと大腰筋を使うことができますが、重心の移動ができない状態では大腿筋膜張筋を使わざるをえなくなってしまうという現実があります。そして座った状態でのこの現象は立った状態でも同じですから、大腰筋を使って歩き始めるためには「最初に重心の移動(=軸脚にからだを乗せる)を行わなければならない」という理屈になります。
 両脚を揃えて立った状態から右脚から前に歩き出すためには、脚を踏み出す前に左脚(腰)に重心を移動することから始めなければなりません。
 左脚に重心を移動してしっかり立つことができれば自ずと右足のかかとが少し浮いて膝が軽く曲がった状態になります。そしてそのまま自然の流れで右脚を踏み出すことができます。(左脚の踵側などに重心がある場合は無理ですが)
 “できる人”にとっては普段やっていることですから何の苦労も要らない自然の動作ですが、“できない人”にとっては、実は修得が難しいことの一つです。

 “できない人”の多くは、先ず重心を前方に移動することによって脚を前に出さざるを得ない状況をつくり、それを利用して歩き始めています。立った状態から首を少し前傾したり、お腹を前に出したりする動作を、脚を出す動作よりも先に行ったり、あるいは同時に行ったりします。つまり上半身主導型で脚が後から付いてくる歩行動作です。このような人の特徴は足の指が曲がっていることです。重心が前方にあるため足指(足趾)は必要以上に踏ん張ってからだが前に倒れないように支えなければなりません。歩く一歩一歩に、足趾はこのように頑張らざるをえなくなりますので、指の筋肉がこわばってしまい指が曲がってしまうのです。一方、大腰筋を使って下半身主導で歩いている人の足趾はほとんど真っ直ぐです。体重を足裏全体で支えることができますので、足趾を収縮させて我慢する必要がないからです。

股関節外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を使って歩き始めることの弊害
 上記の椅子に座って脚を上げるテストで、大腿筋膜張筋を使って太股を上げている状態をよく観察しますと、足の甲の小趾側や全体が反った状態になっていると思います。足首を脱力した状態では太股を上げることができませんので、まず小趾を浮かせるように反らすことから動作を始めてしまいます。これが筋肉連動の仕組みなのですが、最初に小趾を浮かせる筋肉(第3腓骨筋)を収縮させないと大腿筋膜張筋が収縮しないので太股を上げることができないのです。

前脛骨筋と第3腓骨筋02

 一方、大腰筋を使って脚を上げる場合は太股の内転筋~前脛骨筋に連動が起こりますので、母趾の中ほどの骨(母趾中足骨)が浮くようになりますが、足首を脱力したまま動作を行うことができます。

前脛骨筋と第3腓骨筋01

 つまり太股の外側の筋肉を使って歩いている人は、足首に力を入れて足を反らせることから歩行動作を始めますので足首周辺やふくらはぎの筋肉が疲労すると言えます。太股の内側の筋肉を使って歩いている人は股関節→太股→ふくらはぎ→足へと筋肉が連動していきますので、足首を曲げる(背屈)こともなく脱力した状態で自然と母趾が持ち上がるように足を踏み出すことができます。ですから歩行で疲労を感じるのは股関節周辺ということになります。

 少し長く歩くと股関節の外側やスネの外側や足の小趾側が疲れてしまう人は大腿筋膜張筋を使って歩いているということになりますが、その弊害について幾つか説明します。

①外反母趾と内反小趾の危険性
 臨床的に見ますと、内反小趾も外反母趾も同じような理由で起こっていることがほとんどです。小趾側に力が入って歩くということは、母趾に力が伝わらないので地面を蹴るのも小趾が主体となって行っているということになります。小趾と母趾では骨の太さがまったく違うように力の強さも大きく違います。

母趾外転筋と小趾外転筋の変調

 小趾側の力だけでは地面を蹴ってからだを前に移動させることは難しいので、小趾に必要以上に力を加えなければなりません。足裏には地面を蹴るために足趾を曲げる筋肉(屈筋)がありますが、小趾にはふくらはぎからつながっている長趾屈筋と短い短小趾屈筋があります。そして、この二つの屈筋だけではからだの重さを持ち上げるだけの力がありませんので、本来は小趾を開くために存在している小趾外転筋までも動員してその仕事をしようとします。小趾外転筋は小趾を捻る働きもしますので、その結果小趾が捻れて内反してしまいます。これが幅の狭い靴を履いているわけでもないのに小趾が内反してしまう主な理由だと考えられます。
 また母趾が機能していない状況ではまともに歩くことはできませんので、地面を蹴るときにはどうしても母趾を使うようになります。靴の中で浮き気味になっている母趾を使うためには母趾先を強く曲げたり捻ったりしなければなりません。その結果、母趾が第一関節のところで曲がってしまったり、外反母趾のようにねじれた状態になってしまいます。高いヒールや幅の狭い靴を履いているわけでもないのに外反母趾になり、炎症や痛みを招いてしまうのは、靴の中で母趾を捻っているからです。歩く度に母趾を捻るので、靴と間で摩擦が生じ、炎症や痛みといった状況を招いてしまいます。また母趾を捻る働きをするのは、小趾外転筋同様、本来は母趾を開くために存在している母趾外転筋ですが、この二つの外転筋(母趾外転筋と小趾外転筋)がこわばりますと筋連動の仕組みで、長内転筋、中殿筋などもこわばってしまうため、その他の弊害が現れます。

②くるぶしの位置が変わって足首が痛くなる

外果の位置と筋肉

 大腿筋膜張筋はふくらはぎで腓骨筋と長趾伸筋に連動していますので、大腿筋膜張筋で歩いている人はこれらの筋肉がこわばります。足首の外側にあるくるぶしは腓骨の下端ですが、腓骨と小趾を結んでいる第3腓骨筋や長趾伸筋がこわばってしまいますとくるぶしを前下方に引っ張ってしまいます。あるいは小趾全体が浮いたような状態になります。それは足首の中で外くるぶしの位置が変わってしまうということですので、足首が回しづらい、くじきやすい、歩くとかかとの外側が痛むなどの症状を招く原因になります。足首周辺がいつもスッキリしていない人はくるぶしの位置がずれている可能性がありますので、単なる“むくみ”とは考えず、歩き方を見直したり、あるいは整体で整えることをおすすめします。むくみに対する手段を行ってもほとんど意味はありません。

③O脚になる可能性、脚が外側に太くなる可能性
 大腿筋膜張筋は太股の一番外側にある腸脛靱帯と一体化していますので、使えば使うほどに力は外側外側へと加わります。ですからやがて膝の間が広がったO脚になってしまうのは当然の理屈になります。
 そして大腿筋膜張筋を使って歩いているということは、太股の内側の筋肉をあまり使っていないということですので、太股の内側は痩せ、外側は太くなるという現実が訪れます。それはふくらはぎでも同様で、膝下も外側ばかりが太くなるということになります。このような状況もO脚も、私たち日本人によく見られる体型であるとのことですが、それはつまるところ、私たちの多くは股関節の外側の筋肉を使って歩く傾向があるということです。
 
④つまづきやすくなる
 大腰筋を使って歩き始める人は下半身主導型であり、特別な力を使うこともなく自然と前足の母趾が上がります。そして地面を“上から踏む”ことができますので、少しの段差でつまずいたり、地面の多少の凹凸につまづいたりすることは考えにくいことです。(但し前脛骨筋の状態が悪ければ別ですが)
 大腿筋膜張筋を使って歩き始める人は、上半身主導型の場合が多く、脚を振り子のように使ってしまいますし、足首で足の甲を反らなければならなくなります。この一連の動作は小趾側が主体となって行われますので母趾はあまり上がりません。足の運び方も“足を引きずる”、”脚を回して前に出す”、“ガニ股や内股”のような感じになってしまいますので、足裏にセンサーとして役割を持たせる余裕が生まれず、つまづいたり、引っ掛かっかりしやすくなったりします。加齢に伴い筋肉の働きが弱くなりますと足首を背屈(甲の方に曲げる)する能力も低下しますので、何もない平らなところでもつまずいてしまうということが起こりやすくなります。高齢になって転んだりしますと大きなケガに発展することもありますので、高齢になるほどに歩き方を見直すことを是非考えてください。

 その他、股関節や膝の痛みや変形、腰痛、背中のハリなども含めて、いろいろなからだの不具合を招く可能性があります。また体型的にスマートな美脚を目指すのであれば、大腿筋膜張筋を使って歩いていては永遠に実現不可能だと思いますので、歩き方を根本的に見直すことから初めていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩くために
 大腰筋をあまり機能させずに歩いている人にとっては、“大腰筋を使う”ことがどういう感じなのか、まったくわかないと思います。実際、皆さんに練習方法を教えていて、大腰筋を使う感覚を感じて認識していただくことが、私が一番苦心するところです。そして私が観察しながらアドバイスしているときにはできても、自宅で一人で練習するときには“よくわからない”となってしまうところです。

 歩行で大腰筋を使うためには原則があります。

①重心を軸脚側の脚や腰にすっかり乗せてバランスをとる。
 例えば立った状態で左脚に体重をすっかり乗せてバランスを取りますと、上半身は少し左に傾き、右脚が浮くか右かかとが少し上がって膝が少し前に出るような感じになります。この状態を私は「右脚がフリーになった状態」と呼んでいますが、この状態をつくることができなければ先には進めません。

重心移動_座位

 そして座位でも立位でも共通していることですが、重心を左側に移しますと上半身(腰部や脇腹)の左側は少し伸びた状態になっているのが正しい姿です。「重心が左側にしっかり移れば左の背中は伸びます」
 皆さんが間違いやすいことですが、ご自分では左側に重心を移すつもりで上半身を左側に傾けますが、それを左の脇腹を収縮させて行いますと、単に「からだを左に曲げている」ということになってしまい、重心を移動したのとは違います。その他には、骨盤を左側に突き出して片脚立ちの状態をつくろうとする人もいますが、この場合、上半身は右側に傾いてしまいますので、これも間違いです。
 イメージとしては“やじろべえ”を思い浮かべていただきたくと良いと思います。左脚を軸としてバランスを取るために上半身を左に傾け右脚を右側に開きますが、軸脚の左足裏は小趾側にも母趾側にも重心の傾きがなく楽に立っていられる状態です。フラフラしたり、足趾や足裏で頑張ってこらえたりするようでは駄目です。
 くれぐれも「上半身を曲げて重心移動を試みてはいけない」を頭に入れてください。

②軸脚のお尻にエクボができる
 軸脚にからだを乗せたとしても膝が曲がっていたり、かかと重心になっていてはいけません。軸脚はしっかりと地面をとらえ重力に対抗しなければならないからです。
 正しい状態の特徴を挙げますと、
 ①お尻にエクボができていること=中殿筋がしっかり収縮している、
 ②膝裏が伸びて体重をしっかり支えていること、
 ③重心が足首の前側にあること、
などです。そして、これらの状態をつくりあげる要は中殿筋と大内転筋の働きです。
 先にも申しましたが、中殿筋が収縮することによって上半身は股関節のところで横に曲げることができますので、踏み出す方の脚を浮かせてもバランスを保つことができます。中殿筋の働きが悪いとこの状態が作れませんので、踏み出した脚はすぐに着地しなければならなくなります。
 また、片脚立ちの状態を軸脚の膝が折れたような状態で行いますと、重力に負けたような恰好になりますので、お尻も下がり地面を這うような歩き方になってしまいます。
 そして重心の位置が軸足のかかと側に来てしまいますと、前に進むというよりは後に下がるような状態になってしまうので足を踏み出すことができなくなります。しっかりと足首(足関節)やや前目に重心が乗るのが良い状態だと言えます。
 このような状態を築くことができれば、踏み出す足はなんの苦労もなく自然とゆったり前に向かうことができますし、長い時間軸足に重心を保つことができますのでしっかりと地面を蹴ることができるようになります。

 以上の二つが原則として大事なことになりますが、軸脚側ばかりの内容になっていて大腰筋そのものをどう使うかという内容はありません。つまり大腰筋を働かせて歩くためには軸脚が何よりも大切だということです。
 軸脚側にしっかりとからだを乗っけ(重心を移し)て、軸脚を重力に負けないようにしっかりさせることによって、反対側の脚はフリーな状態になりますので大腰筋を使って前に踏み出すことができるという仕組みになっています。

 大腰筋を使って歩くことが上手くできないような人は、練習として、
①先ず軸脚側にからだを乗っける
(その状態がしっかりできてから)、
②反対側の膝を少し(10㎝くらい)上げる
(それ以上上げると大腰筋以外の腸骨筋や長内転筋、大腿直筋などが作動してしまうので、大腰筋の動きを認識できなくなります。)
というのを交互に繰り返すことから始めていただきたいと思います。

移してから上げる(歩行練習)

 「移してから、上げる」というかけ声を心の中で唱えながら行ってください。そうしないと、重心を移しながら膝を上げてしまったり、上げてから移してしまったりするからです。何故なら、そのような人たちには「歩くことは足を前に出すことだ」というような固定観念が絡みついていますし、からだの動きにも染みついていますので、それを脱却して欲しいと思うからです。
 実際、この練習をした直後に歩いていただくと、上手く歩ける時と歩けない時が混在します。それは習い事と一緒で、できないことに挑戦する時は「頭では解っているけど、からだが上手く動いてくれない」状態がしばらく続くからかもしれません。からだがちぐはぐになって右足を前に出すときに右肩を前に出してしまったりすることもあるかもしれません。これまでと違った歩き方をからだに覚えさせるということは、考えている以上に忍耐のいることです。それでも忍耐強く「移してから、上げる」を繰り返し練習してください。すると街中を普通に歩いている時に、突如、「ああ、こういうことか!」という“気づき”がやって来たりするかもしれません。思い(意志)とからだの整合する時は、思いがけない時にやってくるものです。

 また、大腰筋はお腹の深部にある筋肉ですから、膝を少し上げる動作のときにお腹の中で動く筋肉を意識してみてください。その筋肉は股関節の内側につながっています。何十回か「移して、上げる」というのを繰り返していますと、やがてお腹の中が温まり、股関節の内側に疲労感を感じるようになると思います。それは練習が上手くいっているということです。その感覚を大切にしてください。
 
大腰筋を使う感覚を養う
 身体能力をアップさせる必要のあるアスリート達の場合は、大腰筋を鍛えるための特別のメニューがあると思います。ところが、そのような練習をしなくても歩き方を改善し、スマートな体型を目指すことはできます。筋肉は使う(収縮と伸張を繰り返す)ことによって鍛えられます。ですから大腰筋をたくさん使えば、自ずと大腰筋は鍛えられます。器具や用具を使って負荷を掛ける必要はないと考えます。
 大腰筋を鍛えるための第一歩は、大腰筋を意識して認識することすることから始めるのがよいと思います。大腰筋は背骨の腰部(腰椎)からお腹の中を通って股関節の内側(大腿骨の小転子)につながっていますので、先ずはそれをイメージしてください。
 次に座位であれば、座った状態でどちらかの骨盤に重心を移します。左側の骨盤であれば、左の坐骨にすっかり体重が乗った状態にします。すると右の股関節内側太股のつけ根から力が抜けてフッと少し浮き上がる感じがします。右太股がフリーな状態になる感じです。そして右股関節の内側と背骨につながっている筋肉を作動させて右膝を5~10センチ程度ゆっくり持ち上げます。そしてゆっくり下ろします。この動作を連続して10回ほど行ってみてください。股関節の内側や背骨(腰椎)の右側に手を添えてみると、膝の上げ下げに合わせて筋肉が収縮したり伸張したりするのが感じられます。その筋肉が大腰筋です。

座位_大腰筋練習のコピー

 右側の上げ下げを10回行ったら、右側の骨盤に重心を移して左膝の上げ下げを10回行います。左右10回ずつを1セットとして3セットほど行いますと、大腰筋のイメージがしっかりと感じられるようになるのではないかと思います。そしてゆっくりと歩いてみてください。歩き方に大なり小なり変化が現れると思います。
 この練習で大切なことは、必ず最初に重心を移すことから始めることと、膝を上げすぎないことです。膝を高く上げますと別な筋肉まで働き出しますので、大腰筋のイメージがぼやけてしまいます。さらに太股の別な筋肉も作動しますので「股関節の内側」がわからなくなってしまうと思います。
 また、立位でも練習することはできますが、そのためには片脚立ちがしっかりできることが必要条件です。軸脚にしっかりからだを乗せることができますと反対側の脚はフリーになり大腰筋を意識して使うことができます。この場合も膝を上げすぎないように気を付けながら、じっくり太股を上げたり下げたりします。
 もし、片脚立ちがしっかりできないのであれば、大腰筋ではなく他の筋肉を使って動作することになってしまいますので、練習することの意味はなくなってしまいます。その点だけ注意してください。

しっかりして片脚立ちができるようになるために‥‥中殿筋を鍛える
 中殿筋のしっかり働いている人は一歩一歩歩く毎に、お尻に交互にしっかりとしたエクボができます。それは、自分でお尻の側面に手を当てながら歩いてみることで確認することができます。
 典型的なO脚の人や内股の人はエクボをつくることが苦手です。立った時に両足が「ハの字」のようにかかとより足先の方が内側を向いている状態ではお尻の筋肉が伸びた状態になってしまうからです。そのような人でも両足のかかとをくっつけ、つま先を少し開いて「逆ハの字」にした状態でお尻をキュッと持ち上げるように力を加えるとエクボができやすくなります。ですから、このような人は中殿筋を鍛えることに合わせて立ち方を変えることも練習してください。女性の人にとってつま先を開くことは「ガニ股になってしまう?」というイメージが湧いてくるかもしれませんが、O脚や内股を矯正する上でも大事なことです。「ハの字」のままでは永遠に脚の形を直すことは不可能です。
 さて、片脚立ちをして上半身の重みをしっかり支えるためにはお尻の筋肉がしっかり収縮して働かなければなりませんが、殿筋の中でも中殿筋と小殿筋は外転筋と言いまして脚を外側に開く働きをします。それは、脚を固定した状態では上半身を外側に傾けることと同じですので、片脚立ちでバランスを取るためにはこの二つの筋肉の働きが重要になります。(左軸脚の場合、上半身を左に傾けることによって右脚を上げてもバランスが取れる。この状況では中殿筋の方がより重要だと思います。)

中殿筋トレーニング

 ですから中殿筋を鍛えるためには、立った状態で、お尻の筋肉を使って脚を横に開く運動を行います。例えば右の中殿筋を鍛えるためには、壁などの横に立ち、左手で壁を押さえてからだが左に傾かない状態にした上で右脚を中殿筋を使ってゆっくり開いていきます。そしてゆっくり閉じます。これを何回か繰り返します。中殿筋が収縮したり伸張したりするのを確認する意味で、右手を中殿筋(股関節の上、斜め後辺り)に当ててみるのもよいと思います。
 整体的な観点で考えますと筋肉を鍛える運動の目的は「筋肉をしっかりさせ働きが十分できる状態にすること」です。ですから運動はすべて「無理せず、じっくり、粘り強く」が基本です。意識を筋肉に集中させて、自分の意志を筋肉に伝えることが大切だと考えています。アスリート達にとっては瞬発力や爆発力が必要なので、鍛え方は変わってきますが、この辺りを混乱しますと「どのトレーニングをしたら選んだらよいのだろうか?」という迷いが生じてしまいます。
 またこの運動の注意点は、足の小趾側の力を使って脚を広げないようにすることです。中殿筋の働きが悪い状態でも大腿筋膜張筋を使うことで脚を広げることができます。ここで大腿筋膜張筋を使ってしまっては本末転倒になってしまいますので、あえて「お尻の筋肉(中殿筋)を使って脚を広げてください」と言っています。
 中殿筋を使ってこの動作を行っているときは足の「母趾が中心になって広げているような感じ」がしますが、大腿筋膜張筋を使って動作しているときは「小趾側に力を入れて広げている感じ」になりますので、この点はよく注意してください。中殿筋の働きが悪い人は思いの外、上手くできないかもしれません。最初はそれでも良いです。意識を中殿筋に集中してください。意志が筋肉に伝わるだけでも進歩です。何日か練習している内に筋肉が働き出し、そのうち大きく広げられるようになると思います。

 片脚立ちと大腰筋と中殿筋を説明するだけでこのような長い文章になってしまいましたが、からだを健康にする歩き方を考えたときには、「重心移動、片脚立ち、大腰筋」の三つのキーワードが最も大切なことだと思います。
「ランニングの時、からだを前傾させて走った方が前に進みやすくなる」というような指導を受けているという方から「どう思うか?」と質問されました。「正しいけれど、誤解しやすい」というのが私の答えでした。ここにも記しましたが、からだを前傾させますと脚を出さざるを得なくなりますので、その原理を利用してランニングを行うことは、正しいことのように思えて実は間違っていると私は考えます。これでは筋肉は、主体的な意味では鍛えられません。我慢する力が増すという意味ではプラス効果はあると言えばあるのですが、反対にマイナス面はたくさん出てきます。上半身が前に突っ込むような歩き方と一緒で、足の指先にかなりの負担がかかります。その負担はふくらはぎ、ハムスト(太股の裏)、腰へとつながりますので、下半身がパンパンに張ってしまうのではないかと思います。現に、私に質問された方の下半身はパツンパツンに張っていました。
 ランニングの際に前傾して欲しいのは「仙骨」です。仙骨を前傾させることによってからだは推進力が高まります。躍動感がでます。仙骨が前傾すると背筋は自ずと伸びます。ですからアスリートの人たちの走る姿は一様に背筋が伸びています。そして仙骨を前傾する筋肉は大腰筋であり腸骨筋、骨盤底筋ですから、これらの筋肉を鍛えることによって躍動感のあるランニング姿が実現し、走力も増します。こういう状態のランニングやジョギングはからだを健康にしれくれると思います。
 指導者の言葉をそのまま受けて「前傾すればいいのなら頭や胸を前に出そう」と誤解してしまいますと、上半身が突っ込んだ走り方になってしまいますので、ランニングやジョギングが健康のためのものではなくなってしまいます。

スリッパを利用して練習する
 スリッパが苦手な人がいます。スリッパを履いて歩くと、スリッパがすぐに脱げたり、どこかに飛んで行ってしまったり‥‥。こういう人は足先が上がっていない人であって、つまずきやすい人です。
 軸脚にしっかり体重を保持した状態で反対側の足を前に出しますと自然に母趾先が上がります。ですからスリッパをしっかりと足の母趾に引っ掛けることができます。ところが軸脚にからだを乗せた片脚立ちの状態を保つことができない人、上半身が前に突っ込んでしまう人は、あわただしく前脚を運ばなければいけなくなりますのでスリッパを蹴ってしまうような状況になってしまいます。あるいは足先が上がらないので、スリッパが滑り落ちてしまいます。
 スリッパが苦手な人は、はっきり申し上げれば“歩き方の悪い人”です。「裸足で生活するのが好き」という人も多くいると思いますが、その理由が“スリッパが苦手”なことであれば、“裸足の生活が健康的”ということにはなりません。
 例えば狭いキッチンの中で家事をするためにチョコチョコ動かなければならない状況だったとします。足の動きは10~20㎝が中心です。そんな時でもスリッパをしっかり引っ掛けることができて苦もなく足を動かすことができるのであれば、それは軸脚に重心がしっかり残っているということです。軸脚に重心を残したまま足を運ぶことができるというのが歩き方の基礎ですから、歩き方を改善したいと考える人は一つの方法としてスリッパを活用してみてください。

歩くことは「足を上げること?」それとも「足を降ろすこと?」
 今回はたくさんの絵を交えて歩き方について私の考え方をお伝えしました。“歩き方を直したい”という目的のために私のところに来られる方はおりませんが、からだの状態を改善する上で、からだの使い方を理解していただく上で、“歩き方、立ち方”から取り組む必要があると思われる人はたくさんいます。
 ところで歩くことをイメージしたとき、それは“足を上げる=前に出す”ことでしょうか? それとも“足を降ろす=地面を踏む”ことでしょうか? このことは端的に歩き方が外側の筋肉主導か内側の筋肉主導かを物語っていると思います。
 歩くたびに首や胸に圧迫感を感じる人、息詰まりを感じる人、普段あまり気にしていなくても、実際はそのような状況になっている人は多いです。このような人は歩くことが“足を上げて前に出す”ことだと感じているのではないでしょうか。
 股関節の外側(大腿筋膜張筋)で脚を上げている人は、筋連動が足の小趾側(第3腓骨筋や長趾伸筋)から始まります。足の小趾~ふくらはぎの外側~太股の外側へ、下から上への流れで股関節を曲げているわけですが、その流れは股関節で止まるわけではなく、上半身~首~頭へと続いていきます。このような人は「歩くと息が上がってきてしまう」と感じます。
 反対に、大腰筋を使うことから歩き始めるときは、筋肉の使い方が上から下へ向かいます。歩き方が“上げた足を降ろして地面を踏む”動作になっていますので、息を容易に吐き出すことができ、それだけで“心地良い”と感じると思います。考え事やストレスで頭の中が一杯だったとしても、歩く動作を利用してそれらを下へ下へと追いやり、足先から地面に解放してしまうことすらできるのではないかと思います。そんな歩き方を目指していただきたいと、そして歩くことが健康にも精神的にも良いものであることを実感していただきたいと思います。

 先日「たかが歩き方が悪いだけで、こんなにからだが不調になるなんて‥‥」と率直な感想を聞きました。私自身、施術をしたりアドバイスをしながら、内心「こんなところにも影響が及ぶのか?」と思うこともしばしばです。しかし現実は現実です。
 魚が水の中で泳ぎ続けることは、私たちが歩かなければならないことの大いなるヒントを与えてくれます。これからパラリンピックが始まりますが、膝から下がなかったり、下半身が動かない人たちが「どうして並外れた能力を発揮できるのか?」。専門的に考えると不思議で一杯になります。
 そんなことも踏まえて“歩き方”や“歩くことの意味”について、また続きを書いていきたいと考えています。

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