ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

2016年04月

 私たちは疲労しますと筋力が弱くなりますが、そんな時でも力を振り絞らなければ状況では奥歯を噛みしめたり食いしばって、つまりそしゃく筋を収縮させて力を増強しようとします。ペットボトルの蓋を開ける時、重たい物を持つ時、噛みしめている人は多くいます。
 ところが、これとは反対に噛みしめると力が弱くなってしまう人がいます。そんな方から質問を受けまして、このことは多くの人の参考になるかと思いブログに書くことにしました。

その方は抜歯による歯列矯正を行いました。更に「矯正の時間を短くするために歯茎にクギを刺した」ということです。私はその意味を正確に把握することはできませんが、おそらく固定されたクギを利用して歯を半ば強制的に動かしたということかもしれません。この方の現在の状況は以下の通りです(原文のまま)。

「歯茎を見ると痩せて下がり薄くなっています。
特に奥歯の物を噛んだり噛み締める歯の歯茎を触るとブヨブヨした感触です。
噛む力が普通より大分弱い事に最近気付きました。
あと重い物を持ち上げたりするとき歯と歯が付いていない、噛み締めていません。
瓶の蓋やペットボトルを開けられないことがあるので力が入らないとは感じています。
食べたり、咀嚼筋に力が入っている状態が続くと側頭筋がすぐ凝ってしまい揉むと痛いです。」

 歯茎が弱いことがわかりますが、歯列矯正に限らず歯槽膿漏などで歯茎が弱くなっている人にも共通している状況かもしれません。
 歯茎に限らず筋肉や筋膜や組織は、弱くなって働きが悪い時に負荷が掛かると耐えられなくなりからだの力が弱くなったり他のところにしわ寄せがいって不調を招きます。
 寝苦しかったり、朝起きた時に首肩や背中が張ってしまうのは「枕が合わない」からだと思っている人はたくさんいて、幾つも枕を買い換えている人がいます。ところがその原因は枕が合わないことではなく、首や後頭部の、枕に接する筋膜がゆるんでいることだと思います。ゆるんで働きが悪くなっているところに自分の頭の重さという負荷が掛かりますと、そこが耐えられないために寝苦しく感じたり、首肩、背中にしわ寄せが及び凝ったり張ったりしてしまうのだと思います。ですからこれを解決するためには枕を換えることではなく、自分の筋膜を整えることが必要です。簡単に言ってしまえば、「元気な人はどんな枕で大丈夫」ということになります。
 さて、この方の場合、歯茎が荷重に耐えられない状態ですから、歯茎に負担が掛かるとからだから力が抜けてしまいます。これが重い物を持ち上げる時に歯を合わせない理由だと考えることができます。そして食事をして歯茎に負荷が掛かったり、そしゃく筋を収縮させて(=噛んだ状況を続けて)いるとからだの別の場所=側頭筋(側頭部)がこわばってしまい頭痛を招く仕組みであると考えることができます。

 ここで、この方にとって大きな矛盾が生じます。この方は歯茎以外にも問題を抱えており、からだに力が入らない状態ですので、(全身筋肉の司令塔としての)そしゃく筋の力を借りなければならない状態です。常にそしゃく筋は緊張状態(収縮状態)ですし、寝ている間も噛みしめていることがわかっています。起きている間は歯と歯を合わせないように注意し続けることはできるかもしれませんが、寝ている間は不可能です。ですから少なくとも寝ている間と食事の時は歯茎に負荷が掛かってしまうことになります。歯茎を治癒するためには負担を掛けないようにする必要があるのに、負担を掛けざるを得ない状況という矛盾に直面してしまいます。

 また、この方は表情筋のこわばりという問題も抱えていますが、それも歯茎の弱さと関係があることは確かです。今週末に来店され施術を行いますが、①歯茎を如何に回復させるか、②そしゃく筋の緊張状態を如何に改善するか、というのがこの問題に対するアプローチになりますが、上記の矛盾を超えて忍耐強く取り組まなければならないことだと思います。

 膝の悪い人は、良くなるまでは膝をあまり使って欲しくないのですが、仕事上そういうわけにはいかない。腱鞘炎の人は手を使って欲しくないのですが、赤ちゃんを育てている間はそういうわけにはいかない。このような矛盾の状況はいろいろありますが、忍耐強く取り組んでいればやがて解決の光が差してくると思います。
 私のこれまでの経験ではそうでした。困り果てた状況では、一進一退の状態から抜け出すことがなかなかできないように感じてしまうかもしれませんが、ちょっとの進歩でも、その進歩の方に目を向けて、疑いの心を遠ざけていけば、そう遠くない将来に一気に改善に向かうと思います。精神論のような話になってしまいましたが、これが現実であり真実だと思います。
 この方に関して言えば、まず歯茎を強くすることに集中することだと思います。そのためには硬いものを噛むことは今は避けることです。そして意識を込めてじっくり噛み、一噛みごとに歯茎の筋肉を鍛えるつもりで使って欲しいと思います。筋肉は使わなければ強くなりませんので、言うなれば「痛まない程度に負荷を掛けて鍛えて欲しい」とアドバイスします。

 現在、顎(そしゃく筋)、喉、首、肩など上半身の上部に力が入ってしまい下腹部や下半身があまり機能していない方が二人定期的に来店されています。お二人に共通している点は以下の通りです。
①子供の頃からずっとこの状態が続いているので、それが普通なのかと思っていた。
②呼吸状態が悪い。
③ムチウチの経験がある。
④歯列矯正をした。
⑤骨盤や股関節に問題を抱えている。

 お二人とも腰に力が入らないため、座った時に骨盤にからだをあずけることができません。ですから普通の人がやっているような背もたれにからだを委ねるような座り方は苦手です。背中をピンと張って座らざるを得ないので、一見姿勢が良い人のように見えますが、実は上半身、特に胸から上の部分に力を入れないと座る姿勢を保つことができないのです。腰を使って背筋を伸ばしているのではなく、首や肩の力を使って背中を張っているため、すぐに疲労してしまい長く座ると腰が痛くなってしまいます。
 「からだの中心は骨盤であり、会陰である」と過去のブログに書きましたが、骨盤を中心に、下腹部・腰部の力を使って姿勢を保ち、動作を行っていればからだを壊すようなことはそうありません。しかしこの方々のように、動作の中心が首肩周辺になってしまいますといろいろと問題が起きてきます。そして共に子供の頃からずとその状態で生きてきましたので、そのこと(首肩中心)が不自然なことだとは思っていませんでした。“常に息苦しい”、“すぐに息が上がってしまう”、“腰が弱い”というような点が他者との違いとして感じてはいるものの、それが“からだがおかしい”こととは結びつかなかったようです。
 (私の目から見て)お二人の性格に共通している点があります。それは不安に襲われやすい、心配性である、恐れている、といったことです。お二人とも神経質ではありませんが、これらの不安、心配、恐れといった感情は胸の圧迫感や頭の圧迫感と関係しているのではないかと思います。
  また、お二人とも呼吸の仕方が良くないのですが、仰向けで寝た状態で「息を吸うことは考えずに(自然にできるので)単に吐き出してください」とやってもらいますと、最初の1~2回はできるのですが、その後それを続けることができなくなります。息をたくさん胸に入れないと吐き出すことができませんし、その吐き出し方も胸中心でかろうじて腹部が少し動いているのが観察できる程度です。
 このテストは呼吸の中心を胸から下腹部の方に移動できるかどうかを確認するものですが、単にゆっくり吐き出すことをするためには腹筋をじっくり使わなければなりませんし、横隔膜がスムーズにゆるんでいかなければなりません。
 腹筋と横隔膜の状態が悪いと、息をゆっくり吐き出しながらリラックスすることができません。普通の人は首や肩や頭に力が入ってしまったり、息を止めたために肺の中に空気が溜まった状態になったりしますと、“溜め息”のようなことをして息を吐き出し、その状態を無意識的に解除するのですが、このような人達の“溜め息”は形だけで終わってしまい目的を達成することはできません。

 ここで筋肉と骨格の関係から首肩に力が入ってしまうことと呼吸の関係を説明してみます。
肩甲骨を引き上げる筋

 首の筋肉で気になるのを専門用語であげれば、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、斜角筋、胸鎖乳突筋、肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋などです。僧帽筋と肩甲挙筋は肩甲骨と鎖骨を引き上げますので首の長さの見え方に関係します。実際は首が長さが変わったわけではないのですが、これらの筋肉が緊張状態になりますと首が短かくなったように見えます。時々、中年の太ったおじさんはワイシャツの襟に隠れて首がないように見えたりしますが、それは僧帽筋、肩甲挙筋の張りによるものかもしれません。(トレーニングなどでこれらの筋肉がすごく発達した人も同様に見えますが)

頚部前面の筋

 斜角筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋などの緊張(収縮)は胸郭を引き上げます。胸郭が上がった状態というのは息を吸った状態ですから、これらの筋肉がいつもこわばっている人は「常に息を吸った状態」であり、過呼吸になりやすい傾向にあります。息苦しい人、息が荒い人、頭に圧迫感を感じている人などは、これらの筋肉を整えて胸郭を下げることで状態が改善することがあります。
 そして肩甲骨や鎖骨、胸郭を引き上げるこれらの筋肉はそしゃく筋と関係しますので、噛みしめる癖があったり、そしゃく筋が収縮してしまう状態にありますと、これらの筋肉も収縮状態になるため首肩が張り、胸が上がった状態になってしまいます。腹式呼吸はできなくなり胸でハアハア呼吸する状態になりますし、力の中心(重心)が首肩の方に上がってしまうことになります。その他、“目の疲労”などによって首肩に力が入ってしまうこともありますが、多く見受けられるのはそしゃく筋の状態に関連してもたらされているものです。ですから“そしゃく筋のこわばり”(頬の内側にある噛む筋肉の緊張状態)を如何に解除するかが、首肩から力を抜くための有力な方法になります。
 ただ、ほとんどの人は自分のそしゃく筋がこわばっていることに気がつきません。いつも意識してそしゃく筋を観察している人は「今、噛みしめてきた」「こわばりがゆるんできた」ということに気づきますが、“奥歯が合っていなければ噛みしめた状態ではない”と思っている人がほとんどですので、「首肩から力を抜くためには、まずそしゃく筋をダラーッと脱力してください。」とアドバイスしてもすんなり納得できないようです。

 一生懸命になって首肩から力を抜こうとしてみても、それは一時的なものになってしまいます。その時は力が抜けます。しかし次の瞬間、何かが起こったり、感情が変化したりしますと、また首肩に力が入った状態になってしまいます。なぜならそしゃく筋が収縮したままの状態であるからです。

 骨盤や腰部・下腹部に力が入らない状態であれば、からだを支える中心は首肩の方に移ってしまいます。ギックリ腰の経験のある人はおわかりになると思いますが、椅子から立ち上がる時に腰や下半身の力を使えないので腕の力を使って立ち上がるようになります。単に座るだけでも腰に体重をゆだねることができませんので、肩甲骨周辺や首肩に力をいれ続けて姿勢を維持しなければならなくなります。それは非常に疲れる状態ですのですぐに寝転びたくなってしまうかもしれません。極端な例ではありますが、これに近いような状態が内在しているのが首肩から力が抜けない人の傾向かもしれません。腰部を強打した、尻もちをついた、ぎくり腰を何度か繰り返した、このような人は腰部の働きが悪くなっているため、それを補うように首肩周辺に力を入れている可能性があります。
 ムチウチは後頭部の首のつけ根辺りを損傷することが多いのですが、頭痛や首の痛みが改善されるとそれでムチウチは「治った」と判断しているかもしれません。病院の判断もそのような感じかもしれません。しかし、後頭部や首の損傷で、筋肉や筋膜の状態が悪いまま何十年も経っている人が多くいます。「なんとなく腰周りがスッキリせず、ついつい前屈み気味になってしまう」あるいは「無理して腰を反った状態にしないと座り続けたり歩いたりすることができない」というような方は、ムチウチの損傷がすっかり改善したわけではないと思われます。「ムチウチを経験してから首肩に力が入ってしまい息苦しさを感じるようになったのかもしれない」と、思い当たる節があるのであれば、今一度後頭部から後頚部にかけて治療する必要があるのかもしれません。
 ムチウチは後頭部から首後側の筋肉の働きを弱めてしまいますが、それは当然腰部の筋肉にも影響を及ぼします。腰を支えて動かす力が弱くなりますので、腰痛持ちの人と同じように首肩背中の上部に力を入れて姿勢を保つようになってしまいます。ですから自ずと重心は上部になってしまいます。

 私は“歯”については専門家ではありませんので確かなことは言えません。しかし現実に、歯科矯正の影響でからだの働きが悪くなっている人を見てきました。“歯”そのものよりも“歯茎”が弱々しくなっていて、その影響でそしゃく筋がこわばったり、舌や喉が硬くなって常に首肩に力が入った状態になっていたりします。
 歯茎は上顎骨の一部です。顔面を強打して歯茎が弱くなったために顔が歪んだり、感覚器官がなんとなく不調に感じたりすることはよくあることです。抜歯を伴う歯列矯正は、“上顎骨の健康度”という観点で考えると、やはりマイナス要因です。私たちには生まれながらに決められている歯の本数とそれぞれの役割があるわけですから、そのことの大切さを慎重に考えて歯列矯正の方法を選んでいただきたいと願っています。
 からだの不調がなかなか改善しない方々からの問い合わせの中で、「歯を削られてから‥‥」「歯列矯正をしてから‥‥」という言葉も多く聞きます。上歯と下歯は上顎骨と下顎骨であり、その関係はからだにおける陰(腹側)と陽(背側)の接点ですので、噛み合わせも含めて上歯と下歯のバランスが崩れますと、からだ全体のバランスが崩れる可能性があります。
 定期的に来店されている方で、歯を削られすぎてから体調がガタガタになってしまった人がいます。歯科の先生は歯の削りすぎによる噛み合わせ不良と体調不良との因果関係を認めないようで、理解ある歯科医院を求めて苦労しています。私のところに来て、顔やからだの歪みを修整しますと、その場では状態が安定します。しかし日が経つにつれ、徐々に元の悪い状態に戻ってしまいます。私もいろいろ考えて対応していますが、物理的に歯の高さが足りない状態は整体ではどうにもできませんので、良い歯科医の先生に巡り会うことを願っています。
 “歯”にまつわるいろいろな状況を目の当たりにしていますと、安易な考えで歯列矯正を選んで欲しくはないと思ってしまいます。

重心のホームポジション
「舌のホームポジション」については以前に取り上げましたが、からだの重心にもホームポジションがあります。ホームポジションという意味は、必ずそこになければならないということではなく、動作とともに重心は前後・左右・上下といろいろ動きますが、動作が一段落したときには、重心がその位置に戻るということです。重心のホームポジションが首肩周辺にあるのか、下腹部・腰部辺りにあるのかでは、動作の起点が何処にあるのかという意味で大きな差となります。
 なお、自分のホームポジションが何処にあるのかを知る一番簡単な方法は、“痛みをこらえるとき何処に力を入れているか”でわかります。ご自分の腕などを強めにつねったとき、どこに力を入れて痛みに耐えていますでしょうか。顔を歪めたり首に力が入ってしまう人は、首肩周辺にホームポジションがある人だと思います。下っ腹に力が入って痛みに対抗する人は下腹部にホームポジションがある人です。
 そして重要な点は、首肩タイプの人は息を吸った状態で動作を停止しやすい傾向があり、からだが無防備でスキだらけの状態になりやすいということです。「ビックリすると途端にからだにきてしまう」といった感じでしょうか。
 ホームポジションが下腹部タイプの人は、例えば人混みで前方から来る人とすれ違いながら歩くことも苦と思わず、たとえからだが少々ぶつかったとしても動じることはありません。そんな感じだと思います。武道をやっている人は、如何に相手にスキを見せないかというのが大切なことですが、そのためには吸気を悟られないようにする必要があります。何故なら息を吸う動作の時、私たちは無防備になってしまうからです。

 “からだを動かすこと”は“重心を動かすこと”に等しいとも言えます。
 私たちは無意識に重心を動かしています。椅子から立ち上がろうとすれば、まず頭部や首を前に出して重心を前に動かしてから上体を屈めて立ち上がり、椅子から離れます。しかし、よく観察しますと一番先に動くのは舌先です。舌先が微妙に動くのあわせて頭や首が前に動きます。もし舌が強くこわばっていて前に出すことができない状態であれば重心移動がスムーズにできないため、椅子から立ち上がる動作でさえ余計な負担をからだに強いることになります。試しに、舌を奥に引っ込めたままの状態で椅子から立ち上がろうとしてみてください。動作がスムーズにいかないばかりか、足腰にすごく負担がかかってしまいます。このことから解りますように、重心を動かさずにからだを動かすとすぐにからだは故障してしまうかもしれません。

重心の移動

 からだの動作に合わせて重心は大小様々に動きます。たとえば座った状態から横になろうとすれば、下腹部のところにあった重心はからだの傾斜に合わせて喉元まで動きます。しかし動作が一段落して体勢が落ち着くと重心は再び下腹部のところに戻ります。これがからだの自然な動きです。自分は首肩に重心があるからといって、それを下腹部にもってこないといけないと思い込み、常に下腹部ばかりを意識して重心をそこから動かさないようにして動作をしますと、それは自然の動きに反していますので、やはりからだを壊す原因になってしまいます。からだの動きに合わせて重心は行ったり来たりします。そして戻る場所がホームポジションであり、そこが首肩周辺ではなく下腹部であることが望ましいということです。
 筋肉は使うことによって鍛えられます。ホームポジションが下腹部・腰部にある人は、特に何をするわけでなくても下腹部・腰部の筋肉をたくさん使っていることになりますので、下腹部・腰部の筋肉が強くなります。首肩周辺がホームポジションの人は首や肩の筋肉をたくさん使ってしまうことになりますので、首肩のこり、喉や舌のこわばり、顔のこわばりなどを招く反面、下腹部・腰部はおろそかになりますので、腹式呼吸が苦手で腰痛に悩まされる可能性が高くなります。
 ですから慢性腰痛に悩んでいる人、呼吸が浅くて息苦しい人、首肩のこりやハリに苦しんでいる人、さらに胃腸の調子がおかしい人などは、重心のホームポジションを首肩周辺から下腹部にもってくる訓練をしていただきたいと思います。

 腰が重症の方から「文字を書く時、重心をどうすればよいか?」という質問を受けました。文字を書くのもからだの動作ですから、重心は動かなければなりません。小さな文字を書くのでは解りづらいと思いましたので、大きな文字や大きな「○」を書くことで本人に確認しもらいながら試してみました。
 椅子に座った状態では坐骨が座面に着いています。何もしなければ左右の坐骨にほぼ均等に体重が乗っているはずです。
 大きめの「○」を左側から書き始めるには右手に持ったペンを最初にからだの左方向に持っていきます。そして紙にペン先を置き「○」を書き始めるのですが、この時左の坐骨に体重を乗せるようにしていただきました。つまり重心を左側に移動させたということです。そして「○」の上部の膨らみを書き始める時には重心を左側から中央に戻しながら下腹部を少し前に出すようにし、「○」の右側を書く時には重心を右の坐骨に乗せるようにしていただき、「○」の手前側の膨らみを書く時には重心を坐骨の後側に移すようにしていただきました。文章で説明するのは難しいのですが、要するに、手の動きに合わせて坐骨で文字を書くように重心移動をしていただきました。そして「あ・い・う・え・お」と紙に書く時も同じような感じで重心を動かしながらゆっくりと書いていただきました。
 この微妙な重心移動は普通の人にとっては、何を考えることもなくごく自然にできる動作です。しかし、腰が重症の人にとっては“自然な重心移動”が難しいのです。そしてこういう練習を通して、私が日頃からアドバイスしてきた“重心移動”の意味が実感として理解していただけたようです。
 重心移動は動作のリズムでもあり、リズム感のある動作は重心移動が伴っています。食器を洗うにしても、掃除機をかけるにしても、何をするにも微妙に重心移動をさせながら動作を行っていればからだは楽です。そして腰部は自然と鍛えられますので、腰痛も楽になると思います。
 ところが横着をして、寝転んだまま手だけを伸ばしてテレビのリモコンを取ろうとした瞬間や、思いも掛けぬ出来事にビクッとして息が上がった瞬間に、ピリッと腰や背中を損傷してしまうことがあります。重心移動の伴わない動作はとても危険です。

 重心のホームポジションが首肩周辺にある人は首肩から力が抜けにくい人ですが、そのような人に「肩から力を抜いて下さい」と言ってみたところで、なかなか上手くできません。ですから私は「力を抜く」ことではなく「力を移動させる」ようにアドバイスすることもあります。
 「では最初に首肩に力を入れて首肩を硬直させて下さい。 次にその力を胸に移動して下さい。 では力を下腹部に移動して下さい。 膝に移動して下さい。 最後は足首に移動して下さい。」と、こんな感じです。普通の人は首肩からいきなり腰や足首に重心を移動させることが容易にできるかもしれません。しかし“首肩中心”が根強い人には難しいこのなので、首肩 → 胸 → 下腹部(腰部)→ 膝 → 足首と重心を一つずつ実感しながら移動させて、からだの感覚として覚えていただきたいと思います。足首までしっかり重心を移動させることができますと、首肩からすっかり力が抜けていることが実感できると思います。
 根のしっかり張った植物は背を高くすることができますが、私たちも同様です。足元がしっかりして力強い状態であれば重力に負けることなく地面を踏みしめることができます。すると背筋がスッと伸び、軽やかで背が高くなったように感じます。そして不思議なことに重心がある足首や足は硬くなってしまうのではなく、反対に動きが良くなります。意識と重心とが合致して一体になると、そういう現象が起きます。
 「足首まで重心が降りたら歩き始めて下さい」
 これは私が首肩に力を入れながら歩いている人にアドバイスしていることですが、これだけで本当に歩き方がゴロッと変わってしまいます。ただし首肩中心の人は、重心を移動させることも、そう簡単なことではありません。本人は「足首に移動できた」と思いたいのかもしれませんが、私が見たところ移動できていないことが多々あります。

重心の移動_首から下腹部へ

 これまでたくさんの人を施術してきましたが、“癖”を改善することは互いに根気を必要とする作業です。その癖がからだに大きな影響を及ぼすものでなければ、それは一つの個性として深く考える必要はないとも思います。ところが今回取り上げましたような、首肩に力が入り続けてしまうような癖は必ずからだの不調につながります。体力のあるうちは影響が表に現れないかもしれません。ところが加齢やいろいろなことで体力が弱った状況になりますと、一気に「あっちも、こっちも、何処もそこも、おかしくなった」という事態になってしまうかもしれません。
 重心の位置を改善するという施術は、顔の歪みを修整する、首肩の張りを軽減する、腰痛や膝痛を解消する、頭痛を解消するといった、結果がわかりやすい施術とは趣が異なります。つまり急を要するものとは違いますので、ある程度良くなり、抱えていた症状が気にならなくなる程度になるとほとんどの人が来店されなくなります。呼吸が浅くて少し息苦しくても、その状態に馴れてしまうと「こんなものかも」と思ってしまうのかもしれません。
 もっと楽なからだになって人生を楽しみたいのなら、頭をスッキリとして脳の働きを良くしたいと思うのなら、首肩に力を入れてしまう癖を解消することに取り組んで、成功していただきたいと思います。

 あるところから寄稿の依頼を受けました。
 これからの季節、女性にとって気になるダイエットと日焼けトラブルについて、日常生活でできるケアについて書いて欲しいとのことでした。以下がその原稿ですが、参考になればと思いブログに投稿します。

 ダイエットや日焼けによるトラブルを考える時、“新陳代謝”と“細胞の修復”というキーワードが登場します。新陳代謝は古い細胞が新しい細胞に入れ替わる変わることですが、それによって若々しいからだを保つことができます。単に体重を落とすとか、痩せるということではなく、健康的なダイエットを目指すなら活発な新陳代謝を維持することが必要になります。細胞が古いままでは脂肪を燃焼させる力も弱いですから体脂肪を落とすことが難しくなります。
 また紫外線は皮膚のメラニンを黒色に変化させますが、それは表皮で起こります。表皮は28日周期で入れ替わります(ターンオーバー)ので、理屈の上では日焼けしたとしても28日後には元の皮膚に戻るということになります。しかし実際は表皮のターンオーバーができない部分が皮膚に残るため“日焼け後のシミ”が所々にできてしまい、女性を悩ますことになります。
 紫外線はメラニンを黒色に変化させるだけでなく、細胞そのものを傷つけます。表皮やその下の真皮細胞が傷つきますと、その部分のターンオーバー機能は失われてしまいます。ですから傷ついた細胞を修復されなければなりません。そして、新陳代謝と細胞の修復を順調に機能させるためには、肝臓、核酸、タンパク質、血液循環というキーワードが現れます。
 新陳代謝は古い細胞が新しい細胞に入れ替わることですが、それは細胞分裂という方法によって行われます。細胞は自身の寿命が訪れますと自分と全く同じ情報を持った細胞、つまり自分自身のコピー(分身)を作ります。一時的に自分自身が二つになるわけですが、その後自分自身は死んで新しい細胞をその場に残します。これを生涯繰り返しているわけですが、この時に必要な物質が核酸でありタンパク質です。

 ところで、私たちが食べる食べ物は消化器官を通過したながら分解されて、小腸で吸収されて血液の中に栄養物質として入ります。その後その栄養豊かな血液は肝臓にそのまま送られ、肝臓でからだの細胞が必要とする様々な物質に合成されます。肝臓はからだの中の「化学工場」に喩えられますが、そこでは分解、合成、解毒など、様々な処理が行われています。新陳代謝に必要な核酸やタンパク質は肝臓で合成されますし、細胞の修復に必要なタンパク質も肝臓で作られます。またアルコールや有害物を解毒して血液を無害の状態に保つのもの肝臓の働きです。ですから健康で若々しいからだを維持するためには、肝臓を万全の状態に保つ必要があるということになります。
 たとえばアルコールを飲み過ぎて、肝臓が解毒作業ばかりに力を取られるようになりますと、新陳代謝や細胞の修復に必要な物質を合成する能力が低下してしまうと考えられますので、皮膚は荒れたままになったり、ダイエット食品をたくさん摂ったところで何の効果も現れないという結果を招いてしまいます。新陳代謝も鈍くなりますので若々しさが失われ老化が進んでしまいます。
 そして肝臓の働きを弱める要素はアルコールだけではありません。毎日飲み続けている合成薬や摂り続けているサプリメントが肝臓の働きを弱めているかもしれません。また、東洋医学では肝臓と目は関連性が深いと考えられていますが、眼精疲労は肝臓の疲労に直結しているかもしれません。さらにある種の感情(怒り)は肝臓の働きを弱めてしまうと考えられています。
五行色体表

 スマホ、パソコン、テレビなど、私たちが毎日多くの時間接しているものは目に疲労をもたらすものばかりです。同じ場所をずっと見続けることは目を動かす筋肉や焦点を調整する筋肉を硬直させます。ですから、画面に集中しすぎないように、しょっちゅう目を左右上下に動かしたり、遠くを見たりして目に関係する筋肉が偏らないようにしていただきたいと思います。さらに一日の終わりには、コメカミを強めの力で持続的に指圧したり、目のすぐ下、でっぱっている頬骨の下際の硬くなった筋肉を指圧してゆるめていただきたいと思います。また目を動かす筋肉をストレッチする意味で非常にゆっくりと大きく、瞳で八の字を描くような“目の運動”をしてケアしていただきたいと思います。筋肉が硬くなっていますとストレッチ運動を始めた最初のうちは少し痛みを感じるかもしれませんが、時間とともに筋肉がゆるみだし心地よさがやってくると思います。そこまでやってください。
 
目のストレッチ

 新陳代謝と細胞の修復のために肝臓でつくられたタンパク質やアミノ酸など、即戦力としての物質は心臓に戻り、酸素を含んだ血液(動脈血)となって全身を巡り目的の細胞に届けられるわけですが、血液循環が悪いとからだの隅々まで到達することができなくなってしまいます。動脈血は心臓(ポンプ力)と血管の働き(搏動)で全身を巡るわけですが、末端の毛細血管まではその力は及びません。
 実際に細胞が血液から必要な物質を受け取るのは毛細血管からになるわけですが、ここでの循環で重要になってくるのは静脈の流れです。新陳代謝を終えて死んだ細胞や二酸化炭素や老廃物は静脈やリンパの流れによってその場から去って行くのですが、静脈もリンパも自身の力で流れることはできません。周りの筋肉の働きによってゆっくりと流れていきます。ですから筋肉の働きが悪いと流れが停滞してしまいます。これがデスクワークや立ち仕事の多い人が夕方になると膝下のむくみが悪化する主な原因です。時々歩くなどして足やふくらはぎの筋肉を動かすことが静脈とリンパの流れにとって重要な理由です。
 細胞レベルでの循環は“動脈血が入り静脈血が出て行く”ことに他なりませんが、静脈血がそこから去って行かなければ動脈血が入っていく余地ができません。有酸素運動やいろいろな体操をして筋肉を鍛え、心肺機能を高めて動脈の働きが良くなるようにしてみたところで静脈が停滞してしまっていては努力が無駄になってしまいます。ですから全身の血液循環を考えるときには多くの場合、静脈とリンパの流れを改善することを優先させて対処する方が効率的です。私は血液循環を整えようとするときには、まず静脈の流れを整える作業からはじめます。その上で不十分であれば、心臓の働きを考えながら胸郭を整えたりして、動脈系の循環に対応するようにしていますが、多くの場合、静脈系を整えるだけで事足りてしまいます。

 静脈とリンパの流れを良くするために整えるポイントはいくつかありますが、普通の人が日常の生活で行うセルフケアとしてやっていただきたいのは、足と手の指の間をマッサージしてゆるめることです。手も足も表に出ている指は骨格としての指の一部ですが、マッサージしていただきたい筋肉は手の中や足の中にあります。パソコンでキーボードをたくさん使っている人は、手のこの筋肉(骨間筋)がとても硬くなっています。一日中立っているような人や歩き方の悪い人は足の骨間筋が非常に硬くなっています。
 手のひらを上に向けて手を大きくストレッチするように広げていますと手の骨間筋が引き伸ばされ、やがてジワーッとしだし気持ちよい開放感が感じられるようになります。30秒くらい続けていますと足の指がムズムズしだし、からだの血液が回り出すのが感じられるようになると思います。
 
足の骨間筋ストレッチ

 足の中にある足の指を一つずつ掴んで広げていますと足がジワーッとしてきませんでしょうか。特に足の親指と人差し指(2趾)の間と小指と薬指(4趾)の間を念入りにやっていただきたいと思います。
 このようなことでからだの血液循環は良くなります。それは検査の数値とかではなく、体感として感じられると思います。

 冒頭に申し上げましたとおり、活発な新陳代謝と細胞の修復のためには肝臓の働きと血液循環と食物としてはタンパク質と核酸が必要です。サプリメントを利用すると考えるなら、是非核酸を摂っていただきたいと思います。また大豆をはじめ良質なタンパク質を摂取することが良いと思いますし、白子など高核酸食を積極的に摂取するのも良いと思います。そして肝臓の健康を維持する意味で、アルコールや薬を飲み過ぎないようにすること、目の疲れを蓄積しないこと、ストレスを溜め込んで感情の起伏が大きくならないようにすることなどに注意していただきたいと思います。さらに全身の血液循環を順調に行うためにセルフケアとして手と足へのマッサージや指圧をおすすめします。

以下は、以前に中国の伝統中医学の先生に教えていただいたことです。「寒性・熱性」という言葉が出てきますが、それは体質をあらわしています。

【目は肝臓の窓】
 中国の諺に「目から心を洞察する」があります。
 黄帝内経にも「五臓六腑の精気はすべて目に注がれ、目の精となる」という言葉があります。漢方においては、これらの考え方からもわかる通り、目の観察はとても重要であります。
 まず目の結膜部。我々は暑い部屋の中に長くいると目が赤くなります。なぜならば身体が外からの熱によって「受熱」した状態になったからです。逆に云うならば、目の結膜部が赤いということは熱の体質であるということになります。
 また、直接熱を受ける「受熱」ばかりでなく、例えば夜勤・疲労・情緒の波動などによって目が赤くなることがあります。これらも熱の体質と考えなければなりません。
 以上の反対、結膜部が清く澄み切っている状態は寒の体質と考えられます。臨床においては熱性の目より寒性を判断することは難しく、かなりの経験を要します。
 以上のようなことから、熱性の場合は「目赤(モクセキ)」、寒性の場合は「目白(モクハク)」と云いますが、ここでいう目とは、目の全体ではなく結膜部のことです。
 例えば「目赤」の場合、熱性の生薬や食物を即時に止めなければなりません。また、仕事の疲労や徹夜のために目が赤くなったのならば注意を要します。それは内臓から訴えられた赤信号とも考えられるからです。もしもそれを無視して続けているならば、身体に何かが起こる危険性は十分にあることでしょう。
 飲酒についても当然考えなければなりません。酒は大熱という性質です。つまり、飲酒には身体を温めたり熱くしたりする効能があります。しかし、飲酒によって目が赤くなるということに関しては、それほど恐れることではありませんが、通常の場合、翌日ないしは2・3日で赤みが取れなければなりません。もしその赤みが消えないならば飲酒を中止してください。なぜならば体内にその熱が蓄積されているからです。そうしなければ目の問題だけではなく、肝臓が侵されることになります。
 「目は肝臓の窓」です。「目赤」という信号は無視してはなりません。

 また、「目の色」以外、目の分泌物も寒熱を探知する情報のひとつです。例えば、朝起きた時きに目が乾燥していて開けようと思ってもなかなか開けられなく、ネバネバした粘液ができた経験は多くの人がもっているでしょう。これは熱の症候です。この場合は寒性である緑茶やウーロン茶を飲んだりして、その熱を抑えなければなりません。漢方療法で行われることに、緑茶や菊花茶の汁で目を洗うことがあります。
 これらの反対に、何のきっかけもなくして涙を流すならば、それは寒性として考えることになります。

 その方のケガは30年以上前の小学生の時、自転車と衝突した時に強打し、上歯の左側を損傷したことでした。歯が折れたわけではありませんが、強い痛みとともにかなりの出血があったそうです。病院に行くほどのことではないとご両親が判断したのか、自然治癒に任せて傷を回復させたようです。症状が現れ始めたのは数年経った高校生の頃で、それから次第に症状が強くなり現在は常に左の顎関節に不具合と痛みがあり、顔面全体が痛く意識がそちらに取られてしまい、対象に真っ直ぐ向かって行かないということです。
 これまであらゆる治療を試みたとのことですが、一時改善の兆しを感じたこともあったものの結局は駄目で、私のブログを見て“どんなものか?”と電話がかかってきました。遠方の方ですから容易に来店していただくこともできませんので、とりあえず現在の顔を写真に撮っていただきメールしていただきました。
 もうたくさんの顔を見ていますので、写真とある程度の情報(やはり過去のケガや損傷の情報が一番)があれば施術が可能かどうか判断することも出来ます。そして先日来店していただきました。

 他の治療院や整体院、病院などではどのように考えて対処しているのか知りませんが、私は過去の“ケガ”・“手術”・“尻もちなどの打撲”についてはとても気になります。それらが症状の出発点になっている可能性が高いと感じているからです。
 ベッドに横になっていただき真っ先に歯茎を、顔の外側から手をあてて観察しました。案の上、左上顎骨の歯茎はゆるんでいて歯が頼りなく歯茎に付いているような状態でした。打撲による損傷で歯茎が30年以上もゆるんだままの状態だったことがわかります。その部分がゆるんでいるために、そのすぐ左上の部分に強くこわばった(収縮した)部分が発生したため、その部分に顔全体が引きつけられた状態になっていました。左目尻は下がり、左耳も下がって前に出、鼻先も左に寄って、口を動かしても左側の口角が不自然に左上に偏ってしまいます。また、右の顎関節周辺と右側頭部が大変こわばっていましたので、その理由を尋ねたところ、「いつも顔が痛いので、つい食いしばってしまう」とのことでした。

歯茎の打撲による顔の歪みと痛み

 他には記憶に残るケガもなく、普段調子悪いと感じることもないということでしたので、今回の施術の対象は歯茎を含めた左側の上顎骨と右側のそしゃく筋に絞られました。
 途中、二度くらい座っていただき、意識が対象に真っ直ぐに向かうか、開口や閉口が上手くいくか、というようなことを確認しながら施術を続けました。これはよくあることですが、ベッドに寝た状態で確認すると大丈夫でも、座ったり立ったりしますと状況が変わったりします。この方の場合も一度目に座った後は状態が変わりました。座って骨盤に体重がかかると状態が悪くなる、ということは骨盤に歪みがあるということなのですが、その骨盤の歪みは左側の鎖骨のズレが原因であり、その原因は右目のこわばりによるものでした。それを施術し、再度座っていただき意識や顎関節について確認していただくと、どうやら本人も納得できる状態になったようです。私が確認したところでは、若干左側のこわばりが残り、口を動かすと左口角の動きに微妙な不自然さが残ってはいるものの、歯茎の状態が良くなれば自ずと改善されると判断しました。そして日々行っていただきたいセルフケアをアドバイスして施術を終えました。(120分)

 サクラが私たちの心を豊かに晴れやかにしてくれるこの頃、サクラを眺めると自然に意識が花びらや様々なものに向かっていきます。目で見ているものの中で、意識を向けたものがクローズアップされて頭や心に入ってくる能力を“フォーカス力”と言うのかもしれませんが、私たちには本来その能力が備わっています。その能力によってイメージが頭に浮かび、じっくり考える(思考を展開する)ことができるわけですが、この方のように意識が真っ直ぐに向かうことができないのであれば“深く考える”ことができなくなってしまいます。頭で思いを巡らすことができなければ、人生が味気ないものになってしまうかもしれません。

 顔面には感覚器官が全部集まっていますから、顔が歪んだり、損傷したり、おかしくなりますと感覚に異常が現れる可能性が高まります。その違和感や不快感は私たちの心に直接作用し、日常生活を不快なものにしてしまうかもしれません。
 たまにDVで顔に問題を抱えた方が来店されますが、精神的ダメージだけでなく身体的感覚異常というダメージも残っています。顔も含めて頭部は生命体にとって本当に重要なところです。ですから子供さんをしかるときに頭を叩いている光景を目にしますと、私はゾッとしてしまいます。「叩くならお尻にして欲しい」と心の中で思いますし、暴力は精神的にも肉体的にも傷を残す行為なので慎まなければなりません。
 顔は大切にしてください。「気に入らないから」といって簡単に整形手術などしてしまうのは止めてください。後々必ず後遺症が残ると私は思っていますし、そんな方も来店されています。

 「朝、目が覚めたとき、からだがべとーっと布団にへばりついているようで、なかなか起き上がることができない。」「朝、目が覚めたときが一日の中で一番疲れを感じ、起き上がってから1~2時間しないとからだの重みが取れない」というような症状をお持ちの方が時々来店されます。
 「その原因は何?」と問われたときに、私は応えに躊躇するときがあります。冷えや寝ている間の血行不良が原因であると考えられるのですが、「冷えや血行不良だと思います。」という応えがあまりにも一般論的で空々しく思えてしまうからです。テレビやインターネットには情報が溢れていますので、皆さんは実際は知識をお持ちだと思います。それを私を通して再確認したいのかもしれません。しかし、一般的な情報はどこか肝心なところが抜けているように思えてなりませんので、なんとなく躊躇してしまいます。
 「冷えが原因」と応えれば「腹巻きをすればいいのか?」などという言葉が返ってきたり、「血行不良が原因」と応えれば「運動すればいいのか?」などという言葉が返ってきます。もちろん、それらのことをしていただければ症状は多少なりとも緩和するでしょう。しかし、ほとんどの場合、決定的な解決策にはなりません。
 とは言え、根本的な原因として考えられるのはやはり“寝ている間の血行不良”です。

 さて、寝ている間の血行、つまり夜中の血液循環について考えるとき、キーワードとなるのは“内臓の働きと副交感神経”です。(正確ではありませんが)非常に大雑把に申しますと、昼間私たちが行動している時には交感神経が優位で、心臓が活発に働き、血管は締まっています。そして血液は脳と筋肉(骨格筋)に集まり大量の酸素を消費します。反対に夜中寝ている間は副交感神経が優位になって血管や筋肉はゆるみ、血液は脳ではなく内臓に集まり、その日食べたものを吸収して栄養化し、肝臓でさまざまに処理されます。つまり夜中は小腸と肝臓が活躍する時間帯です。
 昼間血液が脳や骨格筋に集まるのは酸素を燃焼して細胞を活動させるためのエネルギーを得ることが主目的ですが、夜中に小腸や肝臓に血液が集まるのは、血液の中に含まれている有効成分(=栄養)を得て、次の日にからだがフレッシュな状態で活動できるように細胞を修復し新陳代謝を行うためです。これも大雑把ですが、そう考えても良いと思います。
 ですから、朝フレッシュな気分で爽快に目覚めたいのであれば、夜中に血液が小腸や肝臓に集まり、さらに小腸や肝臓が大いに活躍できる状態が必要です。そこで出てくるのが自律神経の問題です。胃や十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、腎臓といった内臓は副交感神経の働きによって機能します。心臓は見方を変えれば血管が膨らんでポンプの働きをするものになったと考えることもできますが、血管の働きを支配する神経と同じ交感神経によって機能しています。
 ですから、寝ている間に小腸や肝臓の活動を高めたいと考えるなら、寝ている間は副交感神経が優位に働いている状態になっていなければなりません。眠りが浅く、寝ている間も脳が活動しつづけているような状態は交感神経が働いているということですから内臓の働きは弱まります。一般に言われる「ストレスで自律神経失調状態になる」状況の一つです。

食物の消化吸収と血液循環の流れ

 また、内臓が十分に働ける状態になるためには“熱”が必要です。
 私たちが食べたものは胃で消化され、十二指腸で更に消化され分解されて小腸に送られます。そして小腸で栄養が吸収されて血液の中に入ります。その栄養豊かな血液は肝臓に真っ直ぐ送られ、肝臓で解毒され、からだを健康に維持するために必要な物質(ペプチド、タンパク質など)に合成されます。つまり究極的には、食べた物質がからだを維持するために必要な物質に変換され場所は肝臓であると考えることができます。肝臓の入口から入る血液は栄養で満たされ、肝臓の出口から出る血液は即戦力に満たされた状態です。その後血液は心臓に戻り、肺に送られてガス交換がなされ酸素を含んだ新鮮な動脈血として全身の細胞に行き渡ることになります。
 (副交感神経にコントロールされている)内臓の働きの柱の一つは食べたものを消化・吸収・栄養化し、からだを維持するために必要な物質に変換することですが、その作業を実際に行っているのは各器官や細胞内にに存在している“酵素”です。“酵素入り洗剤”というCMで、どなたも“酵素”という名前はご存じだと思いますが、酵素は物質をまったく違った物質に換えてしまう職人であり、魔法使いのような存在です。赤ちゃんを産んだお母さんからは母乳がでますが、母乳の元は血液です。血液が乳腺を通過した瞬間、あっと言う間にそれは血液とはまったく違う白いミルクに変わるわけですが、その技を行っているのは酵素です。タンパク質をアミノ酸にまで分解したり、炭水化物をブドウ糖にまで分解するのは酵素の働きによるものです。そして肝臓や細胞内でアミノ酸をタンパク質に合成するのも酵素です。脳から分泌されてからだの各部分に働き促すホルモンも酵素の働きによってつくられます。ですから体内の酵素がしっかりと働いてくれることが、からだを健康に保つための秘訣になりますが、酵素は温度(体温)がないと十分に働くことができません。
 私たちの平熱は36~36.5℃かもしれませんが、お腹の中や脳内の温度は37℃に厳密に管理されているといいます。37℃が酵素の働きに最適だからです。このことを私たちはもっともっと重く受け止める必要があると思います。学校教育の現場でももっとしっかり教えて欲しいと思います。今は、お腹を冷やすことを平気で行っている人たちがたくさんいます。その一方で、若い年代から成人病のような症状になったり、婦人科系の病気に悩まされたり、うつ症状が現れる人が増えています。内臓や脳の働きが機能不全に陥っていると考えることもできますが、その原因は「酵素の働きが悪いのかもしれない」という視点に立つなら「お腹を冷やしてはいけない」という“教え”がもっともっと浸透しなければならないと思います。
 お子さんやお孫さんがアイスクリームが好きだからといって頻繁に食べるのを許してしまうのは間違いです。冷たいビールが好きだからといってガボガボ飲んで直接胃を冷やしてしまうのは間違いです。

 “朝スッキリと目覚める”ためにはどうすれば良いか? という話題に戻ってもう一度考えてみます。
 仮に睡眠時間が6時間だったとして、目覚めたときから眠りにつくまでの18時間を私たちのからだ(骨格筋)や頭(脳)は何らかの活動を行っていることになります。すると骨格筋の筋細胞や脳細胞や血液細胞は疲労します。その疲労を翌日に持ち越さないために、6時間の睡眠時間の間に私たちのからだは傷ついた細胞を修復したり、新しい細胞と交換(新陳代謝)する作業を行っています。そしてその作業で必要な原材料は、その日や前日に食べたものから得た栄養やそれを肝臓で加工した物質(ほとんどはタンパク質)です。
 もし交感神経系に抑圧されて副交感神経系の働きが悪かったとしますと、小腸は栄養を十分に吸収できず、肝臓は修復や新陳代謝に必要な材料を十分につくり出すことができません。お腹が冷えていても同様です。そうなりますと次の朝は古いからだ、傷ついたままのからだで目覚めなければなりません。これが根本的な原理であると私は考えています。
 副交感神経の働きと内臓の適切な温度という必要条件を外したままで、いろいろなサプリメントなどを摂取したところで大きな効果は期待できないと思います。何故なら、そのサプリの有効成分を小腸が吸収できなければ本当の意味で体内に入っていかないからです。
 もちろん私たちのからだは、0か、100か、という感じで機能しているわけではありませんので、副交感神経の働きが悪かったとしても、お腹が冷えていたとしても、20とか30、あるいは50とかの効果はあるかもしれません。それは個人差の領域です。(100%近く効き目がある“薬”というのはどういう仕組みなのでしょう? それはそれで怖い気もしますが)

 ストレスは交感神経系の働きを亢進させる、つまり副交感神経系の働きを抑圧することがわかっています。ですからストレスをどう処理するかは“心地良い目覚め”に関係するでしょう。また、交感神経系は基本的に血管や血流をコントロールする神経ですので“からだの冷え”にも関わってきます。血液を体表の血管にまわして熱を放出するか、深部の血管にまわして体表は冷えても深部の熱が奪われないようにするかは交感神経系の働きなのかもしれません。(自律神経の働きについては改めて考察したいと思います。)

 マッサージなどでリラックスすることは副交感神経系の働きが高まったことを意味しますが、私は呼吸が整うことの方が効果が高いと感じています。
 “呼吸”については幾度となく取り上げ説明してきましたが、理想に近い呼吸状態を実現することは、思いの外難しいことでもあります。それが多くの人たちにアドバイスしてきた実感です。呼吸が整うと即座にからだは温まり出します。なんとか自宅でも良い呼吸をしていただきたいと思い、時々、一切からだに触れることなく言葉を掛けるだけでリードし、自分の力で呼吸を調整していただくことがありますが、「ここ(ゆめとわのベッド)では出来ても、何故か自宅では出来ない」とほとんどの方が仰います。
 自律神経系は私たちの思いや意志とは関係なく勝手に働いていますので、自律神経の調整を意図的に行うことなかなか難しいことです。しかしながら一番手軽な手段として“呼吸を調整して自律神経のバランスを回復させる”ことができると考えています。ただし、“その時”だけでなく、“いつも”良い呼吸ができていなければなりません。ゆっくりと息を吐き出す過程(解放)は副交感神経系、息を止めてしまう(息詰まり)のは交感神経系です。そんな風に感じています。

 日々のストレスをなくすことはほとんど無理でしょう。ですから頭をすっかり切り換えられる何かを持っていただきたいと思います。音楽を聴くだけではなく、実際に楽器を弾いてみてはいかがでしょうか。
 お腹が冷えていると感じている人は、あるいはそう感じていなくても目覚めが悪いと感じている人は、ゆっくり歩いてみてはいかがでしょうか。地面に立つ自分をたくさん感じながら、足裏が地面を踏みしめていることを実感しながら歩くことは開放感につながると思います。するとお腹が温まってくるかもしれません。
 自律神経系は私たちの意図、思考とは関係なく動いています。「そんなことで良くなるはずはない!」と私たちの頭が思ったとしても、それとはまったく関係なく、バランスが良くなるかもしれません。

 今回のテーマ「寝起きが調子悪い」につきましては、確実な解決策や「施術によって改善される」という結論的な説明にはなりませんでした。
 しかしながら私がこれまで携わってきた経験で申し上げますと、ここに記しましたとおり改善のためのキーワードは副交感神経とお腹の熱だと感じています。この問題で悩まれている方がいらっしゃいましたら、一度考えてみていただければと思います。

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