ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

2016年03月

 口呼吸がからだに悪影響を及ぼすことはだいぶ知られるようになったかもしれません。しかし舌の位置と口呼吸とに関連性があることはあまり知られていないと思います。無呼吸症候群やイビキと舌の状態は深い関係性があります。その他にも滑舌の善し悪しや発声、嚥下(食物の飲み込み)にも舌の状態は関係します。
 舌は主に筋肉ですが、舌骨(喉のところにある宙に浮いた状態の骨)や口の中のいろいろな場所につながっていて支えられ、思い通りに動かすことができます。また、舌は味を感じる大切な感覚器官でもあります。
 今回は、味覚を除いた舌の状態がからだに及ぼす影響について考えてみたいと思います。

好ましい舌の定位置
 普通にリラックスしている時、舌先が上歯のすぐ後のスポットと呼ばれるところにくっついている状態が望ましい舌の定位置です。軽く上顎骨を押し上げる力が働きますので、顔は下がりにくくなり、上顎を広げるようになりますので鼻の通りもよくなり鼻呼吸がしやすくなります。
 もし普通にしている状態で舌先が下の歯を押しているような状態であれば、反対咬合(受け口)になる可能性が出てきます。もし普通にしている状態で舌先が上の歯を押しているような状態であれば、出っ歯になる可能性が出てきます。(参考までにhttp://hanoblog.com/tongue-position-9212
舌の位置

 また、例えば座った状態で重心を前に出すように前傾しますと舌先が上顎を押す力が強まり(舌も前に出ようとする)、重心を後ろに移動するようにからだを反りますと、それまで上顎に接していた舌先が下に移動することがわかります(舌が引っ込む)。ですから重心の位置と舌先の位置には関係性があることがわかります。

 滑舌が悪いとか、舌足らずや舌余りの話し方になってしまう、ラ行やサ行が話しづらいなどと舌の動きに対する問題を抱えている人がいます。イビキや無呼吸症候群なども舌との関連性を無視することはできません。
 いつも喉元に力をいれている人、つまり緊張しているような人は舌骨の動きが制限されてしまうため舌足らずや舌余りの状態になっていると考えられます。猫背で首や顎先を前に出してパソコン作業をしている人は舌先が下がっていますので、鼻呼吸では苦しくなってしまうため口呼吸になり慢性的な体調不良を抱えているかもしれません。腹筋の働きが悪い人は舌筋の働きも悪くなりますので、寝ると舌筋が気管をふさぐ状態になりやすいのと考えられます。つまり無呼吸症候群になってしまう可能性が高まります。

舌のホームポジションと骨格・筋肉の関係
 好ましい舌のホームポジションがスポットと呼ばれる上歯のすぐ後の天井部分だからといって故意にそこにおさめようとしてみても、それは不自然ですし、別の筋肉に余計な力が入ってしまいますので良いことではありません。首や喉の筋肉が緊張状態になってしまいます。また、普段はそこにおさめておくことができても喋りだすと舌のホームポジションを正しくキープすることができなくなってしまいます。
 舌を鍛えるトレーニング情報などには、このホームポジションについての記述もあると思いますが、私は、あくまでもからだがリラックスした自然な状態のときに舌先がどこにあるかが重要だと考えています。

①頚椎が後にあると舌が引っ込む‥‥ホームポジションに届かない
 舌(舌筋)は舌骨から出ているとして考えるのがわかりやすいと思います。ですから舌骨の位置によって舌の状態は左右されると考えられます。そして舌骨は頚椎3~4番の前にありますので、頚椎3~4番が後に下がっている人は舌骨の位置が後方にある、つまり舌が後にあると言うことができます。このような状態の人は舌が前に出てこなくなってしまいますが、つまり舌足らずの状態です。
 首肩の凝りが強くて整形外科を受診した人は“ストレートネック”と診断されることが多いのですが、それは頚椎の弯曲(前弯)が無いような状態、つまり頚椎3~5番くらいが後にずれているような状態です。ですからストレートネックと診断されている人は、舌足らずに近い状態だと考えられます。
後頭下筋群と上部頚椎

 頭蓋骨の後頭部(後頭骨)と首の境には後頭下筋群と呼ばれる筋肉があります。この筋肉群は後頭骨と上部頚椎(頚椎1~2番)につながっていますので、筋肉がこわばっていますと上部頚椎の動きが制限されるとともに後に引きつけられますのでストレートネックの状態になってしまいます。あるいは下を向いている時間が長い人は後頭部から肩甲骨につながっている僧帽筋がこわばってしまい頚椎全体を後方に引っ張ってしまうためストレートネックになってしまう可能性が高まります。
 舌足らずの状態になりますと舌は正しいホームポジションの位置をとることができず下歯のところに舌先がきてしまうと考えることができます。

②喉のこわばっている人はホームポジションが下の歯にきていしまう
 いつも緊張していたり、首肩から力が抜けないような人は喉の筋肉もこわばって硬くなっています。するとやはり舌先は正しいホームポジションではななく、下歯のところにきてしまいます。そしてこのような人は同時に後頭下筋群もこわばっていますが、首を触っても筋肉が筋張って硬くなっていることが多く見受けられます。
 このような人はからだを使う時の中心が下腹部や腰部ではなく首や肩や胸にありますので、当然噛みしめの癖をもっていますし、呼吸は浅くなり、リラックスとは程遠い状態と言えます。以前にも記しましたが、首肩から力が抜けるようにからだを改善していただきたいと思います。
 しかしながら、知らず知らずのうちに首・肩に力が入ってしまう人が、一時的に首肩から力を抜くことはできたとしても、力が抜けた状態を長く保つことはなかなか大変です。
普段どこを中心にしてからだ全体を使っているかという問題ですので、その人の意識の場がどこにあるか、思考の中心が何なのかという問題とも絡みあうことでもあります。ですから、時にはすっかり思い込みや性格を変えてしまうくらいの取り組みであると言えるかもしれません。
 そしてそれは残念ながら“肩から力を抜くぞ!”という意志や“気をつける”ことだけではまったく無理です。からだを使う中心を下腹部の方に移動しなければなりません。
 私たちのからだは意識を置いたところを中心に動くようにできていますので、首肩から“力を抜こうと意識を置く”よりも、下腹部を使って動作をするように意識を置いた方が結果として首肩から力が抜けるようになります。健やかに楽に生きるためには首肩から力が抜けた状態で生活できるようにしなければなりません。
 頭ばかり使っている現代の私たちは自然に首肩に力が入ってしまうけいこうにあります。そしてその影響により喉元はこわばって硬くり、舌の状態に影響を与えていると考えられます。

③横隔膜と舌と呼吸
 私たちが呼吸を行うとき様々な筋肉が働きますが、その中で要となるのは横隔膜です。横隔膜は胸部と腹部を分ける境ですが、お椀を伏せたような、あるいは傘のような形をしています。息を吸う動作では横隔膜が収縮して逆さにしたお椀の天井が下がります。この働きによって肺は膨らみ空気が入ってきますが、同時に腹部が押し下げられお腹が前に膨らむようになります。息を吐き出すときは横隔膜がゆるんで腹部が広がり胸部が狭まります。肺自体には筋肉はほとんどありませんので、肺が膨らんだり縮んだりするのは横隔膜の運動=収縮・弛緩によるものだと考えてよいでしょう。息を吸うとき、つまり横隔膜が収縮するとき舌を観察しますと、舌が引っ込むのがわかります。反対に息を吐き出すとき横隔膜はゆるむのですが、この時舌は前にでて普通の人なら正しいホームポジションに戻ります。
 つまり横隔膜が収縮しているとき、舌は短くなるということです。これを反対に考えますと、舌が短い状態=舌先が下の歯のところにある状態は横隔膜が収縮した状態であり、それは緊張状態であるとも考えられます。横隔膜がゆるんでくれませんので息を最後まで吐き出すことが困難です。精神的緊張状態も含めて、息が上がったり、息を止めてしまうとき、横隔膜とともに舌の筋肉も緊張し、呼吸が浅くなって言葉がしゃべりづらくなってしまいます。
 このように考察しますと、舌と横隔膜と呼吸の善し悪しは密接に関係し合っていることがわかります。

④かかと体重
 先ほどからだを反る(重心を後ろに移動する)と舌が下がり引っ込むと記しましたが、重心の位置と舌の位置にも関係性があります。
 立位で少し前傾してつま先の方に体重を掛けますと舌が前方に動くのが実感できると思います。そして反対にかかとの方に重心をかけますと舌が後退するのも実感できると思います。ですから、かかと体重の人は自ずと舌が引っ込んでしまい、それによる弊害(=浅い呼吸、しゃべりづらい等)を抱えていることになります。また、反対に前のめりのように重心がつま先にある人の場合は、舌が前にでてしまいますので、舌を噛みやすい、上歯と下歯の間に舌が出てしまう、上歯を押してしまうので出っ歯になりやすいという弊害を招きます。
 好ましいホームポジションを維持するためには重心の位置も重要になりますが、それだけでなく、身体全体の動きや機能を快適に保つために重心の位置が正しい状態にあるよう整えることは大切なことです。

⑤噛みしめと舌
 たびたび登場する噛みしめや歯ぎしりの影響ですが、舌にも影響をもたらします。咬筋をはじめそしゃく筋がこわばりますと後頭下筋群もこわばります。すると上部頚椎が歪みますが、同時に舌も下がってホームポジションが下歯の方に移ります。
 噛みしめや歯ぎしりの癖はからだのいろいろなところに影響を与えますのでどうにか改善したいものです。

舌を好ましい位置にキープするために
 舌の位置が良くなかったとして、それを調整してきたこれまでの経験で言いますと、精神的にも肉体的にもリラックスできる状態になったとき、舌は自然と正しいホームポジションをとることができます。
 ここで私が大切だと思うことは、意図的に舌をスポットの位置に置こうとしても、それではほとんど意味がないということです。舌は意識していれば意図的にスポットの位置に保つことはでき、一時的に呼吸を改善することはできます。ところがそれではからだのどこかに力を入れ続けていなければなりません。リラックスした状態から離れてしまいますので、からだには別の緊張が生じます。そして、何か別のことに神経をとられて意識が舌のことからはずれてしまいますとホームポジションはスポットから外れてしまいます。ですから自然にリラックスしている状態の時のホームポジションをスポットの位置に保てるようにすることが大切です。そのためには先に挙げた五つの項目を中心にからだを整える必要があります。

 ベッドの上に仰向けになっていただき「からだから力を抜いてリラックスしてみてください」と申し上げますと、皆さんそれぞれ自分なりのやり方でリラックスした状態を試みてくださいます。しかし、いろいろなところに力が入ったままの人がほとんどです。ご自分ではそれが“いつもの普通の状態”ですから筋肉に緊張があるとは思っていないかもしれません。しかし、実際は緊張だらけの人がたくさんいます。(だから私のところに来られるのでしょうけど)
 そしてここからが私の仕事になりますが、肩こりや腰痛といった症状を改善することと同時に、私はからだから余計な緊張が取れて“真にリラックスして快適になるとはどういう状態か”を体験していただきたいと思いながら施術を行っています。その過程の中で、上記の後頭部と頚椎、噛みしめ、重心などが整うように施術を展開していきます。そして深くゆったりとした呼吸と全身の筋肉から緊張が取れた深くリラックスした状態の実現を目指しますが、その中での確認事項の一つとして舌のホームポジションがあります。からだ全体が整ったときに舌は自ずと正しい位置におさまる、と私は考えているからです。

舌の状態とからだの不調の関係性
 舌を長く出せる人と、舌があまり出せない人がいます。それは舌の状態を判断する一つの要素ではありますが、舌の長さよりも「出し切れた感じがするかどうか=しっかりだせるか、どこか中途半端な感じか」の方を私は重要視しています。また反対に舌を引っ込める力はどうかも参考にします。舌は筋肉ですが、舌がこわばった状態の時は舌を大きく出すことができても、引っ込める力は弱く上手く引っ込めることができません。舌の問題で滑舌が悪い、舌がたるんでいてイビキや無呼吸の原因になっているかどうかを判断する参考にしています。

 また、舌は口の中にありますから当然食物のそしゃくと飲み込み(嚥下)に関わります。私たちは食物をそしゃくすることをほとんど無意識に行っていますが、そしゃくは噛み砕いて、唾液と混ぜて、こねて飲み込みやすい状態にする一連の動作です。これらの作を、歯(と歯茎)、頬、口蓋、舌、そしゃく筋の共同作業によって実に上手く行っています。ですから舌先に傷や口内炎ができてしまうと途端にそしゃくが上手くできなくなってしまいます。
 またそしゃくして飲み込みやすい状態になった食物(食塊)は喉の方に送られ、喉の筋肉群の働きによって正確に食道に入っていきます(=嚥下)。この時舌は口の天井(口蓋)にピタリとへばりついて喉の中を陰圧にしますが、それと同時に気管が塞がれ食道への通り道が開きますので、食塊は間違いなく気管ではなく食道の方に入っていきます。
 私たちは時々むせることがあります。それは唾液の一部などが気管の方に入ってしまい、それを強制的に排除して表に出そうとする気管の反応ですが、お年寄りが餅を気管に詰まらせてしまい呼吸ができなくなってしまうことがあります。それは舌と絶妙に連動して行われる嚥下動作にずれが生じたからだと考えることができます。
 もし、しばしばむせてしまうのであれば、それは舌と嚥下動作の連動性に微妙なずれが生じているからなのかもしれません。舌の状態が悪く、嚥下のときに自然(自動的)に喉を陰圧にすることができなければ舌を意図的に口蓋に押しあてて陰圧を作らなければなりません。その動作によって嚥下のタイミングが微妙にずれ、気管と食道の切り替えがスムーズに行えないと考えることもできます。

無呼吸症の疑い_ガッテン

 イビキや無呼吸症候群に対しては、私は一番先に舌の状態を確認します。舌は、私たちが通常イメージしている表層部のよく動く部分だけではなく、実際は口の底まである厚い筋肉です。いわゆる“二重顎”や“顎がたるんでいる”の本態は“舌筋がたるんでいる”と考えてもよいと思います。仰向けで寝た時、この舌筋のたるみが喉の方に落ちてしまい気道を狭めたり塞いだりしてしまうのでイビキや無呼吸状態を起こしてしまうと考えますと、対策は舌筋のたるみ(=ゆるみ)を改善することになります。このことにつきましては別途取り上げますが、舌のホームポジションを正しい状態にすることはイビキや無呼吸症候群問題の改善策の一つになります。

 東洋医学(伝統中医学)には“舌診”という、舌を細かく観察して全身の状態を把握しようとする診断方法が重要項目としてあります。また、舌は心臓と関係が深い(=舌は心臓の状態を表している)と考えられており、舌が大きくなると虚弱の現れ(舌が大きくなって所定の場所に収まりきたなくなると歯形が舌先についてしまう)という考え方もあります。また同じ伝統医学であるインドのアーユルヴェーダは、舌の表層を掃除して健康を維持増進するというセルフケアを推奨します。毎朝の歯磨き同様、舌もきれいにする習慣が良いと考えられています。
 私はこれらの医学を深く勉強したことがありませんので、その根本的な考え方やメカニズムについては知りませんが、どちらの伝統医学も舌を大切に考えるという点は注目に値します。また解剖学的には、舌は内臓筋と骨格筋の両方の性質を併せ持ったものであるとの見解もあります。四つ足の爬虫類の動物にはまるで手と同じように舌を大きく伸ばしてハエなど獲物を捕獲するものがあるからです。
 これらのことを頭に入れながら舌の問題に接していますが、舌と横隔膜(=呼吸)と骨盤底(=からだの底力)と足底は密接に関係し合っていると私は考えています。
 同じところでじっと立ち続けて作業をしている人は足底が硬くなったりゆるんだりしますが、それは骨盤底を同じ状態にして腰痛を招き、さらに横隔膜の働きも悪くなって呼吸が浅くなり、イビキを招く可能性がある。あるいは、しゃべるのが好きで舌の使いすぎのため舌筋がゆるんでしまうと呼吸がハァハァと浅くなり、お尻も下がって歩くと足裏が疲れてしまう、などという状態を招くかもしれません。

 昔、中国の医学者から「“活”きるという言葉は舌が水で潤っている状態を表している」という話を聞かされたことがあります。また、霊性修行を行っている人にとって感覚器官のコントロールは大切なことですが、舌には言葉を発する仕事と味を感じる仕事の二つの役割があるので、舌をコントロールすることが一番難しく、しかし「舌を制することができれば他の感覚器官を制するのは容易なことだ」という話を聞いたことがあります。
 “舌”は私たちが認識して思い描いているよりももっと奥深い存在なのかもしれません。目・鼻・耳・皮膚という他の四つの感覚器官は体表に出ていて環境からの情報を処理していますが、唯一舌だけが口の中という内部に収まっていて護られています。そう考えますと“舌”は私たちの想像以上に重要な存在であり、からだの神秘が秘められているのかもしれません。また違った角度から舌について取り上げてみたいと思います。

 兵庫県在住の65歳の女性から問い合わせがありました。その方は強い肩こりを持っていまして、定期的に鍼灸治療院に通っております。なかなか肩こりが軽くならないので昨年10月から中国鍼(長くて太い)の治療院に週一回のペースで10回ほど通ったそうです。そこでの治療は首や肩に何本かの鍼を深めに刺して、少し強めの低周波をかけるというものだったようです。するとやがて頭痛にみまわれるようになり、一時軽くはなったものの年が明けてから耐えられないほどの頭痛になったとのことです。近所のいろいろな治療院や病院を廻ってみても楽になることはなく、そんな時に私のブログ(電気治療器などで損傷することもある)を読まれてお電話をくださいました。
 低周波治療器が影響して頭痛になったということは、どの病院でも治療院でも「あり得ない」と信じなかったようです。本当は近所で治したかったようですが、結局、先週、小田原のホテルに泊まって3日間来店されました。
 来店される日の前の晩は頭痛が激しく一睡もできなかったとのことでした。一人で新幹線に乗り小田原まで来るのは厳しいということでご主人が付き添って来られました。
 来店される前に電話でのお話しを聞いて、首や肩など鍼を刺して電気を流したところがやられてしまって、その影響で強く噛みしめてしまい頭痛になってしまったのではないかと予想しましたが、実際そうでした。
 頭と首と肩甲骨の位置を正常に保つための筋肉には僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋などがありますが、ことごとく全部ゆるんでいて肩甲骨がフワフワとぶら下がったような状態でした。何本かの鍼だけではこんなふうにはならないと思いますので、低周波による影響の方が強かったのかもしれません。
 兵庫県の方にも幾人か知り合いがいますが、皆さん親しみやすく、気さくで、よくお話しになります。ところが最初の施術を始めてからはしばらくは口もききたくないような状態だったと感じました。
 頭痛の直接的な原因は強い噛みしめによるそしゃく筋のこわばりによって頭が締めつけられていることですから、ともかく最初の1時間くらいは噛みしめや側頭部のこわばりを取ることばかりに専念しました。耳と顎のエラがくっついてしまうくらい咬筋がこわばって短くなっていました。
 その後うつ伏せになっていただき、ゆるんでしまった首肩周辺の筋肉や筋膜を修復することに専念しました。その頃から少しずつ会話をするようになり、電話で聞けなかったことをいろいろ伺いました。初回は120分施術でしたが、60分は噛みしめをゆるめること、40分くらいは首肩周りの修復、20分くらいはその他、頭痛の原因となる可能性のところを施術しました。
 初日の施術は以上の通りですが、施術後顔色が少し良くなっていましたので「なんとか今夜は眠れますように!」と祈りました。
 「頭痛が始まったら、もう駄目ですわ。何もできんくなります。おかげで料理がうまくなりましたわ。」というご主人の言葉が印象的でしたが、帰り際は本人もちょっと元気になっていましたので、私も少しホッとしました。

 次の日の夕方に再び来店されましたが、初日の晩は睡眠薬を飲んだもののぐっすり朝まで眠れたようです。まだ頭痛は残っているものの、昼頃から首肩が楽になって温かくなってきたということでした。小田原城址公園の周りをお二人でブラブラされたようです。
 初回の施術ではひどい頭痛をなんとか軽減するためにそしゃく筋をゆるめること主にしましたが、2回目は疲弊している筋肉や筋膜を回復させることが主です。最初に比べれば多少ゆるみは改善されていましたが、私の思いとしては「ともかくこのゆるみを短期間で回復させなければ」という感じでした。ですから最初からうつ伏せになっていただき1時間以上にわたって疲弊してゆるんでいる筋肉や筋膜に手を当てて修復させるだけの施術を行いました。
 その後仰向けになっていただき、元々肩こりだった原因として考えれるところを探しては施術を行いました。“噛みしめる癖があったから肩こりが強かったわけで、その原因はどこだ?”という感じです。今症状が緩和したとしても、噛みしめがなくならなければすぐまた頭痛になってしまうからです。過去のいろいろなことを伺いながら、そして他に気になるところを伺いながら原因探しの見当をつけていきます。その話しの中で、鍼灸が好きで、過去に一度に何十本も鍼を刺す治療院に通っていた経験もあることがわかりました。それはそれでやはり問題だと思いました。話がそれますが、膝痛や五十肩痛で痛み止めの注射を何度も何度も打っている人は、その針の傷が原因で症状が悪化している場合もあります。
 また、昔は力仕事もしていて右手を酷使したために人差し指が詰まったような状態になっていました。そしてその影響で右の咬筋がこわばってもいました。その他にも一通り考えられるところを調整して、頭の筋膜、そしゃく筋のこわばりをゆるめて2回目の施術を終えました。

 3日目はともかく最終日ですので、私自身緊張した気持ちでした。「今日で何とかしなければ‥‥」そんな感じでした。前回の施術後の状態を尋ねますと、私の願いとは違って、それほど眠れなかったようです。明け方3時半くらいまで悶々と過ごし、そのご7時過ぎまでは寝たということです。ただ、少し頭痛はするものの人と会話をしていてもうっとうしく感じることはなくなった、ということでした。精神的に楽になって、肉体的にも改善の兆しが現れ始めたのかもしれないと感じました。
 最後の施術も120分でしたが、総合的に行いました。噛みしめも取り、頭もゆるめ、首肩のゆるみを手当てし、手指を調整しました。そして残りの20分くらいは普段自宅でやって欲しいケアをご主人に教えました。帰りがけの顔が明るくなっていて、ご主人も明るかったので、私にとっては緊張の3日間でしたが、それなりに何とかできたという感じでした。
 「もうお会いすることのないように祈ってます。」と申し上げて見送りました。

 硬くこわばってしまったものをゆるめることは難しいことではありません。短期間ですみます。ところが疲弊して機能しなくなっている筋肉を元の状態に戻すのは時間がかかります。前にも記しましたが、それが点や小さい範囲であればそれほど厄介ではありませんが、電気治療器で疲弊してしまった場合は範囲が広くなります。今回の方の場合もそうです。確かに鍼を刺したのは数カ所かもしれませんが、そこに電気を流すことによって、その周辺全体が損傷状態になっていました。それを数少ない施術ですっかり元の状態に戻すことはとても難しくなってしまいます。(特殊能力を持った人はできるかもしれませんが)
 最初にこの方の筋肉を触ったとき、直感として7~8回の施術が必要かもしれないと感じました。しかし事情が許しませんので、自分なりに気合いを入れて、3回の施術で日常生活が支障なく送れる程度にはしたいと考えました。
 施術を終えてから一週間になろうとしています。その後の状態がどうなのか気になるところですが、それよりも“楽になってほしい”との祈りの方が強いかもしれません。

 これまでこのブログには、来店された方の施術内容についてはあまり細かく触れないようにしてきました。しかし帰り際、「ブログに書いてもいいよ!」と仰いましたので、このような施術日記風な内容になりました。
 この方と同じような悩みを持たれた方が情報の一つとして“参考になれば”という想いから、そう仰ったのかもしれません。

追記(3/12)
 本日午前中、ご本人から電話が入りました。(早速ブログを読んで下さいました。)
 外出なのか外泊なのかは聞きませんでしたが、お嬢さんにところにいらっしゃるということで、私は内心「出かけられる状態なんだ」と一安心しました。
 先週の土曜日(3/5)に兵庫に戻られて一日二日すると首がしっかりしてきたということでした。現在はご主人のケアで順調な経過をたどっているようです。私が施術中でしたので長話はできませんでしたが、とても嬉しかったです。 

 「物をつかむ基本は小指側で行う」というと驚かれるかもしれません。正確に表現するなら「小指側で支えて他の指を使う」となります。ぺんを使う、コーヒーカップを持つなど、何かをつかむ時はほとんどの場合、親指と人差し指をで行いますので“小指側”という表現に疑問がでるのは当然のことです。しかし不調のからだを改善しようとする時、この“小指側を中心に手を使う”ことは重要なポイントになってきます。
 動作や運動を行う時には原則があります。例えば自転車や自動車が道路を走る時には道路がしっかりしていないとタイヤは上手く動いてくれません。歩く時にも砂浜のように足場がしっかりしていないところでは、道路を歩くようには上手く歩けませんし非常に疲れます。道路が私たちの動きをしっかり支えてくれるので、思いのままに歩くことができ走ることができます。からだの動作も同様で、その動作を支えるものがしっかりしていないと楽に動くことができません。反対に言えば、しっかりとした支えがあれば動作がとても楽にスムーズにできるようになる、ということになります。
 ペンで字を書く時、小指を少し曲げて、つまり小指側の筋肉を少し収縮させてしっかりとした支えをつくることによって実際にペンを握って操作する親指と人差し指の動きが軽快で自由になります。ペンを握る親指と人差し指にギュッと力が入ってしまい筆圧が強くなってしまう人は、しばらく字を書いていると手が痛くなりますが、それは動作を行う指も動作を支える指も同じになってしまうからです。すらすらと字を書くためには小指側の筋肉をしっかりした状態にした上で字を書き続けることがポイントになります。

小指側が中心の人は手のひらが上を向き、親指側中心の人は手の甲が上を向く
 小中学生の頃、運動会でリレーをやった時、バトンをどの指で握っていたでしょうか。雑巾を絞る時、どの指に力を入れて絞っていますでしょうか。これらはからだの使い方の癖を表すとともに、壊れやすいからだか、壊れにくいからだかを予測するポイントにもなり得ます。
 
カップを持ち上げる動作

 たとえばコーヒーカップを持とうとしてカップの穴に人差し指をかける時、手の甲が上を向いた状態で穴の縁を親指と人差し指で挟むようにして持つ人は、小指側の筋肉を使っていない傾向の人です。穴の中に人差し指を入れると同時に小指を曲げて、どちらかというと手のひら側を上向き加減でカップを持ち上げる人は、小指側を中心に動作を行っている人です。
体の中心部ライン・外側部ライン

 これは以前にも記しましたが、からだを“中心”と“外側”に分けて考えた時、手では小指側が中心で、下半身では親指側が中心になります。つまり手の親指側と足の小趾側は外側です。“中心がしっかりしていると外側の動作がスムーズになる”と考えますと、中心部分をしっかりさせることが楽に動作するためのコツになります。
 からだの筋肉は必ず連動して作用するという特徴がありますが、その一つに拮抗関係があります。それは一方の筋肉が収縮する時は必ず他方の筋肉が弛緩伸張するという筋肉のシステムです。手の小指を曲げて小指球を収縮させますと母指球がゆるんで親指や人差し指側の筋肉が解放されるような感覚が得られます。親指と人差し指を曲げて母指球を収縮させると小指球がゆるんで小指、薬指、中指が解放されます。そして解放された指が自由に動けるようになります。ですから手首を柔らかくして太鼓を叩く、箸を使う、ペンを使うためには親指と人差し指が自由に動けるように小指球を収縮させる必要があるということになります。
 バトンを持って走るとき、落とすまいとして親指や人差し指に力を入れてギュッと握りしめてしまうと速く走ることはできません。そして自分の思いとは反対にバトンを落としやすくなってしまいます。走る姿が、“肩に力が入っている”ように見える人は、きっとこのような人でしょう。
 小指を中心に中指・薬指・小指の3指でバトンを握るようにしますと、手首や肩から力が抜けて脚が上がり速く走ることができます。

 感覚的には“小指でつかむ”、“小指で握る”というのが自然な在り方です。例えば皿を持ち上げて自分の方に引き寄せようとした時、実際には親指と人差し指で皿の縁をつまんで持ち上げるのですが、この時に小指を曲げて小指球を収縮させていないと皿が不安定になってしまい中の物を落としそうになります。食器を洗うとき、小指を伸ばしたままの状態で洗っていますと腕や肩がとても疲れます。肩こりの原因です。そしてこのような人はけっこう多いようです。手指を器用に動かして細かい作業をすのは親指と人差し指の役割ですが、つかんだものを安定させるのは小指の働きです。そう考えますと、あまり大した役割はしていないように見えてしまう小指が、実は非常に重要な働きをしていると言うことができます。
 つい親指と人差し指に力をいれて作業をしてしまう人は、その癖を直すために小指を曲げてから物をつかみ上げるような練習をするのが良いかもしれません。
 
小指と小指球を使う練習_カップ

肘から先が内側に捻れている人が多い
 ベッドに仰向けで寝たとき、からだの横に置いた手はどのようになっていますでしょうか。手の甲がすっかり上を向いた状態が楽であれば、それは肘から手にかけて内側に捻れている歪みの状態です。手のひらがすっかり上を向いた状態が楽であるという人はあまりいないかもしれませんが、少し手のひらが開き気味の状態であれば問題はありません。

手の使い方と腕の捻れ

 パソコンのキーボードで作業する姿勢は手の甲が上を向いた状態ですので、パソコン作業の多い人は肘から先(前腕)が内側に捻れている可能性が高いです。また、先に説明したように字を書くときに親指と人差し指にたくさん力を入れて筆圧が強くなってしまう人も前腕が内側に捻れています。それ以外にも、実際、前腕が内側に捻れている人がたくさんいます。
 からだの仕組みとして、前腕が内側に捻れているときは上腕(肘から肩にかけての骨)が外側に捻れます。自分で前腕を内側に捻ろうとしてもこうはなりませんが、骨格が歪んでいる場合はこのようになっています。そしてこのような人は肩関節に違和感や問題を抱えていることが多いです。四十肩や五十肩がなかなか治らない理由の一つでもあります。

 そして前腕が内側に捻れている状態では、小指側を中心(軸)に手を使うことはできません。からだの仕組み上、手の小指側を中心に動作ができないということは足の親指側つまり下半身の内側を中心に動作をできないということですから、からだの力は外側に流れてしまいます。これを体型的に表現しますと、脇が開いて肘が張り、肩が前に出て猫背になり、骨盤が開いてお尻が下がり、O脚またはガニ股になりやすく、足の小指が捻れてマメができ外反母趾になりやすい、となります。スマートさからはかけ離れてしまいます。
 ほとんどの事務作業がパソコンになっている今日の社会では、私たちのからだはこうなりやすいという現実があります。だからといって対策方法がないわけではありません。手首や前腕の内側への捻れを改善することが対処方法ですが、そのための一番単純で簡単な方法は、小指側の筋肉(小指球)を収縮させる訓練を行うことです。
 
小指球の収縮と母指球の解放

小指球の収縮

 例えば仰向けに寝た状態で手の甲が上になっている人は、親指と人差し指軽く延ばした状態で力を抜いてジワーッと小指球を収縮させるように小指を曲げます(この時手首を曲げてしまう人がいますが、そうならないように注意してください)。それと同時に母指球から力が抜け親指と人差し指が解放されていく感覚を味わいます。次第に前腕の筋肉も伸びて肘が楽になると思います。この動作を10回くらい繰り返しますと次第に手の甲が横を向き出し、甲を上にして寝ていることに違和感を感じるようになるはずです。前腕の捻れが少し改善された状態です。そして下半身や背中を観察しますと、背中から力が抜けて背骨自体の存在感が増し、下半身が伸びてリラックスできる状態になっているのではないでしょうか。
 手の小指側の筋肉がしっかりすることによってからだの中心部の筋肉がしっかりするため背骨がしっかりします。ですから背骨の存在感が増し、からだの芯を感じやすくなります。

 今、“もっと楽に効率よく歩ける”ようになるために、からだを整えるとともに歩き方の練習をしている人がいます。この方の癖は、ついつい首肩に力が入ってしまい動作の中心がからだの上の方になってしまうことです。ちょっとだけ歩く分にはいいのですが、長く歩いていると呼吸が上がってしまい、腰やお尻が痛くなってしまいます。この方の前腕は内側に捻れていて肩関節に痛みがあります。
 この方には、前述した小指球を収縮させる練習と、座った状態で背骨と背筋だけに集中して力を集める練習をいていただき、その後で歩いてもらいました。すると首肩から力がすっかり抜けて、しかし背筋はしっかりと伸び、うつむき加減だった視線がしっかりと前を向くような歩き方に変わりました。外から見ますと背が高くなったように感じますし、本人の印象としては「視界が高くなった」となりました。
 からだの中心に力が集中するようにしただけです。それも施術ではなく、自分の意識の向け方を変え、簡単な練習をしただけです。とても単純なことですが、この練習を毎日、それが自分の自然な状態になるまで根気強く行っていただければ、この問題は施術の必要がなく解決してしまうことでしょう。

 ある若い学生が「腕の外側の筋肉が痛くて‥‥」と訴えてこられたので、私は“手の親指側~肩の外側にかけての筋肉”の問題だと予想しました。ところが話を聞きますと、それは小指側の筋肉~肘の内側にかけての問題でした。この方は常に脇が開き、肘が張って腕が内側に捻れている状態なので、この方の意識では私が内側だと考えている方が外側になっていたのです。
 先にも記しましたが、腕が内側に捻れる問題、それに付随して起こる猫背、O脚、外反母趾や体調不良の問題は隠れた現代病であるとも言えます。本来の自然なからだの在り方には反しています。スマホやパソコンが大きなウエイトを占める今日の社会生活ではこういった方々が増えてしまうのでしょう。

 手の使い方が不自然でも、腱鞘炎やバネ指以外で直接的に手指や手首に不調が現れることは少ないかもしれません。ですからほとんどの人は普段、手の使い方については何も気にしていないと思います。ところが実際には手指の使い方の問題で腰痛や膝痛の原因になっていたり、ここで説明しましたように体型のくずれから首肩の張り、むくみ、体調不良の原因になっていることもあります。たかが“手の使い方一つの問題”と受け取られるかもしれませんが、施術において何かの症状を改善するときの最後の決め手になるのは手指の問題であったりします。
 字を書き続けると手が疲れたり、箸がうまく使えなかったり、食器洗いが苦手だったりする人は手指に問題があったり、手の使い方に問題がある可能性が高いと思います。
 からだに不調のある方は、どうぞご自分の手の使い方について検証してみてください。

↑このページのトップヘ