世の中がまぶしすぎてサングラスをかけないと目が開けられない、視界に黒いものが見えてしまう(飛蚊症)、目の奥が痛い、乱視や目やに等々、目の症状はいろいろですが、眼科では解決できない状態があります。今回は首の斜め前面にある前斜角筋の強いこわばりによってもたらされてしまう目の症状について、これまでの経験からお話しさせていただきます。
腋の下にある前鋸筋は、肩甲骨の内側縁と肋骨のほとんどを結びつけている筋肉です。肩と腕を前方に突き出す働きをしますが、パソコン業務の多い今日、キーボードを操作するために多くの人が腕を前に出していますが、それによって前鋸筋が強くこわばっている人が大変多くなっています。そして前鋸筋は第1肋骨にもつながっていますので、そのこわばりは第1肋骨を外側にずらすことになります。噛みしめの癖によって前斜角筋はこわばり、前鋸筋のこわばりによってさらに前斜角筋は強くこわばってしまうという状態になってしまいます。
前斜角筋から腋の下にかけてのラインにこわばりがあると目が不調になる
首の骨(頚椎)から鎖骨の直下にある第1肋骨につながっている斜角筋という首の運動と呼吸に関係する筋肉があります。(頚椎から第1肋骨につながっているのは前斜角筋と中斜角筋、頚椎から第2肋骨につながっているのは後斜角筋)
斜角筋の中で前面にあるのが前斜角筋ですが、この斜角筋のラインを延長していきますとちょうど腋の下の前鋸筋につながります。目がまぶしくてサングラスがないと日中外に出られない、目やにが出てくる、視界に黒いものが現れてしまう(飛蚊症)、目が乾くなどの症状があって、さらにこの前斜角筋のラインがこわばっているようなら、それは施術経験的に言って、斜角筋のこわばりに根本的な原因がある可能性が高いです。
本日、飛蚊症の方が来店されました。右目の斜め右上方向に黒いものがかなり大きく現れているということでした。座っていただき骨格や筋肉の状態を確認すると、案の定、右側の前斜角筋が強くこわばっていました。その部分を軽く押さえただけでも痛がります。前斜角筋がこわばっていたのは第1肋骨の位置が悪いことと頚椎の中ほどが左側にずれていたからです。第1肋骨のずれによって前斜角筋と中斜角筋はこわばり、さらに頚椎がずれていることで前斜角筋がさらにこわばってしまったため、軽く圧するだけで痛みを感じるほど強いこわばりとなってしまったのだと思います。
試しに私の手で、こわばっている前斜角筋を(手動で)ゆるめますと、視界の黒いものが動き出しました(本人の弁)。それに加えて腋の下の前鋸筋のこわばりをゆるめますと更に黒いものは視界の上の方に移動していき、視界から遠ざかるようになるということでした。これで、前斜角筋から前鋸筋にかけてのラインに原因があることがわかりましたので、その後の施術においてそれを整えました。
この方の職業は画家ですが、右手で筆を持ち、左手にはドライヤーを持って絵の具を乾かしながら色を重ねていく方法で絵を描いていくとのことです。「絵を描いているときに、首の右側にピキッと音がして、それから数時間後に視界に黒いものが現れた」ということでしたので、施術するポイントも的を絞ることができ、一度の施術で症状は改善しました。「飛蚊症は治りにくい」という通説があるので、画家という職業上のこともあって、改善までに時間がかかるのではないかと配していらっしゃいましたが、すんなりと改善しましたので、とても安心した様子でした。
また、目がまぶしくて昼間は外に出たくないという方が月1~2度のペースで一年間ほど来店されていました。症状は10年ほど前からとのことでした。この方も結局は前斜角筋から前鋸筋にかけてのライン上に根本的な原因がありました。しかし、長い年月で眼球の運動に関係する筋肉も硬くこわばっていましたし、その影響で首や肩~背中にかけて慢性的な非常に強い凝りもありました。全身の血流が停滞している感じでしたので、その分、改善までに時間がかかってしまいました。「時はエネルギー」ということなのでしょうか、症状を長く患っている人は、やはりその症状自体が力を持っているようで、なかなかすぐに改善できないこともあります。「形状記憶」のように器質的に変化してしまうと、その時は良くなったとしても時間の経過とともに元の状態に戻ってしまう力が働くようです。「三歩進んで二歩下がる」状態がしばらく続くことがあります。
この方の場合、しばらくはそんな感じでした。施術が終わって帰られるときには、太陽が燦々と輝いていてもサングラス無しで普通に目を開いて外に出ることができましたが、2週間後に来店されるときにはやはりサングラスをかけて来られるという状態が半年ほど続きました。その後は来店されるペースが3週間に一度となり、やがて用事ができると優先順位が逆転し、来店を1週間延ばされるようになったりして、最後の三ヶ月は月一度のペースになりました。そして最後の時はサングラスをかけずに来店されるようになりましたが、それ以来もう三ヶ月以上来店されていませんので、症状は改善されたのでははないかと思います。
前斜角筋から前鋸筋にかけてのライン
斜角筋は前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋の3本がありますが、首と肋骨を結んでいて、首の運動や呼吸時に胸郭を引き上げる働きを行っています。噛みしめの癖を持っている人は斜角筋がこわばりますので、首が硬くなって動かしづらくなります。「首が凝って動きが悪い」と感じる時は大方斜角筋のこわばりが原因です。
斜角筋の中で前斜角筋と中斜角筋は頚椎と第1肋骨をつないでいます。ですから前斜角筋のこわばりを考えるときには噛みしめと第1肋骨の状態をまず考える手順になります。
また右利きの人は、右側の胸郭(肋骨)が下がる傾向にあります(腹直筋のこわばりによって)ので、第1肋骨は下方向に引っ張られることになり、それらが重なって前斜角筋及びその周辺の組織はとても固くなってしまいます。すると下顎の底面、舌のつけ根辺りから鎖骨の内側の凹みにかけて突っ張った状態となり、それが目の働きに大きく影響を与えてしまうのではないかと私は考えています。こうなってしまいますとコメカミを押して目の疲労を取ったところで、あるいはいろいろな目薬をさしたところで、それらは何の効果ももたらさない単なる気休めになってしまいます。
前斜角筋のこわばりによるその他の影響
斜角筋は、それ自体が多少変調をおこしたとしても首の運動が少し突っ張る程度で、腰や股関節が痛む、膝が痛む、腕の自由がきかないなどとは違い、日常生活での動作にそれほど大きな影響を与えることはありません。しかしながら、頭部や全身の血流にとっては非常に重要な筋肉です。前斜角筋のすぐ前面を鎖骨下静脈が通っています。鎖骨下静脈には頭部からの静脈、ほとんど全身の体表の静脈、そして全身のリンパが合流します。鎖骨と第1肋骨の狭い隙間を静脈が流れて心臓に還りますが、前斜角筋がこわばりますと、肋骨と鎖骨の関係に歪みが生じ鎖骨下静脈の流れに影響を及ぼします。顔がむくんだり、場合によってはふくらはぎや足先のむくみまでもがこの静脈の滞りによってもたらされることがあります。
また、前斜角筋のすぐ後に中斜角筋がありますが、その二つの筋肉の間に神経(腕神経叢)と鎖骨下動脈が通っています。腕神経叢は腕~手先にかけての神経の大元です。頚椎ヘルニアやムチウチなど頸部の損傷によって手先にしびれが出ることがありますが、それはこの神経の状態が悪くなったからです。筋肉はこわばると太く固くなりますので、前斜角筋の強いこわばりによって神経が圧迫されてしまう可能性は十分に考えることができます。
“首・肩の凝りと目の不調”は関係性が深いと思われている方は多いと思います。ですから、目の調子が悪いときには「肩こりをほぐさなければ」と体操をしたり、自分でマッサージをしたり、あるいは私と同業者のようなところに行き施術を受けることもあるかもしれません。ところが今回取り上げた“前斜角筋や第1肋骨が関係する”ような場合は、いくら揉みほぐしたり、ストレッチをしたりしても、その効果はきわめて一時的なものになってしまうことでしょう。
根本的な原因をしっかりと突き止め、適切に対処すれば、それまで何カ所もの眼科医院や治療院を訪れても症状が改善しなかったものも確実に改善されていくと考えています。