手のひらに汗をかいてしまい、人と握手するのが恐怖に感じたり、ペンを使うだけでダラダラ汗をかいてしまい非常に辛い思いをしている人がいます。寒い季節でも足裏に汗をかいてしまい、靴下が濡れてそれが冷えとても辛い思いをしている人もいます。最近は十代という若い世代でもこういう人が増えています。
東洋医学では、手のひらと足裏の汗を虚弱体質の現れとして重要な診断ポイントにしています。実際、このような人たちは持久力や粘り強さに欠けています。
こういう人たちの体の特徴は、肩や肘、股関節や膝、足首などの関節がゆるんでいることと、呼吸が悪いことと、噛む力が弱いことです。ご飯をあまりよく噛んでいない感じです。
関節がゆるむというのはイメージしにくいかもしれませんが、腕や脚がグラグラしていて頼りなく、力を入れようとしても力が入りきらない感じがしてしまいます。
このような人たちは筋肉の連動性や共働性が悪いため、手で何か物を持つ場合、腕の力だけで行わなければならないため普通の人よりも非常に疲れます。普通の人が例えば包丁を使う場合、包丁を握っている手や腕の筋肉だけでなく、足先までの筋肉を働かせて作業を行います。仮に、足が地面に届かない椅子に座った状態で包丁を使うことを想像してみてください。立った状態で作業するようには上手くいかないし、腕や肩に余計な力が入ってしまいます。つまり、足がしっかり地面について踏ん張りながら包丁を使えるので軽やかに作業ができるわけです。足の筋肉も共働して働いているということです。
関節がグラグラしていますと、この共働性が上手く機能しない状態になります。確かに腕や脚は胴体につながっていて一つの体になっていますが、機能性としては腕と脚と胴体がバラバラになっていて本来の能力を発揮できない状態であるということが言えます。そして手のひらや足裏に汗をかいてしまう人は、このような状態であると考えてよいと思います。
私はこういうことが疑わしいと感じたときには最初に筋力テストを行います。人差し指の力と薬指の力を確認します。これはあくまでも私個人の尺度ですが、人差し指は表の力、薬指は芯の力を現していると考えています。手のひらや足裏に汗をかく人、歯ぎしりをする人、階段の下りや下り坂を歩くのが苦手な人、中腰での作業が辛く感じる人、すぐに疲れてしまう人、このような人たちは往々にして人差し指には力が入っても薬指には力が入りません。そして施術に際しては、薬指に力が十分入るようにすることが最初の目標になります。
ただ、それだけで手のひらや足裏の汗が改善するかというと、実際はそんなに甘くありません。他の要因も絡んでいることがほとんどです。しかしながら、芯の力が高まるようにしなければ状態は改善に進まないと考えています。
今来ている高校生は、小学校の低学年の頃から手のひらに汗をかくようになり、ずっとその状態が続いているということです。他の症状としては軽いアレルギーと皮膚炎、仰向けで寝ると腰が痛くなる、むくみがあります。いろいろな話を聞くと、体育は大の苦手、数学も苦手、睡眠が悪いということです。私にはうなずけることばかりです。
この方はまず呼吸の状態が良くありませんでした。汗のことも気になりましたが、それをどうにかする以前に呼吸がちゃんとできる状態にすることが先決だと考えました。ですから初回の施術は呼吸ができて、空気が大きく体の中に入ってこられる状態にすることでした。呼吸運動ができていなければリラックスして眠ることはできないし、脳の血流も良くないので計算問題が苦手になります。計算間違いをよくするということです。
1週間後に再び来店していただきました。その間の様子を聞くと、呼吸が楽にできていたし、睡眠もまあまあということでした。ただ計算間違いはしてしまったということです。
今回から本格的に汗の問題に取り組みます。“汗”は水ですから、体内水分の流れ、という観点で体を観察する必要があります。精神的緊張状態とかなどの理由以外では、本来は手のひらや足裏に汗をかくことはありません。乾燥した季節では反対に手のひらの水分が足りないので、手を湿らせたいくらいです。ということは、何らかの理由で体が水の処理を上手く行えていないと考えることができます。一つはリンパや静脈の流れが悪いことが考えられます。この方の下半身はむくんでいます。もう一つは筋肉や筋膜に変調があって皮膚(体表)と深部との間の連絡が悪く上手く水が処理できていないことが考えられます。この方は手のひらも足裏も両側とも筋膜がゆるんでいました。そして観察の結果、右手のひらの筋膜のゆるみが大元の原因であるとわかりました。
小学生低学年の頃から手汗をかいていたということは、幼い頃に何かがあってそうなってしまったと考えることができます。そしてこの方は右肘がゆるんでいましたので、小さい頃脱臼でもしたのかと思い、母親に尋ねてみました。すると赤ちゃんの頃、歳のはなれたお兄さんに両手を引っ張れブランブランぶら下がる遊びをよくやっていたということです。母親は肩が抜けてしまうのではないかと心配したそうですが、二人は楽しそうにいつもやっていたということです。これでこの方の右肘がゆるんでいる原因がわかりました。脱臼と同じように靱帯が伸びてしまったのだと思います。靱帯が伸びてゆるんでしまった関節を元の状態に戻すためには何回かの施術が必要ですが、それでも施術をしたことによって手のひらは乾いた状態になりました。
この方は、長年の経験から自分が意志すれば簡単に手のひらから汗を出すことができます。「では、手のひらから汗を出してください。」と言いまして出していただきましたが、会話をしているうちに汗はすぐに引いてしまう状態になりました。“肘の状態を改善すること”、これがこの方の悩みを改善する方向性であると考えることができます。
さらにこの方が“体育が苦手”なのは、体に思い通り力が入らないからだと考えました。食事の噛み方について質問をすると「餅を食べるのが嫌」という応えが返ってきました。顎が疲れるというのです。今の若い人にありがちな“そしゃく不足”です。普段からそしゃく筋をよく使っていないので、粘り強く噛まなければならない食物は顎が疲れて嫌になってしまうのです。それで、ガムを使って噛み方の練習を行いました。何度か練習を繰り返しているうちに体の筋肉がしっかりしてきました。膝に力が入らなかったものが、しっかりと入るようになりました。そしゃく筋は全身筋肉の司令塔のような役割りをしていますので、ちょっと鍛えるだけで全身がしっかりするようになります。ということは、鍛え方をおろそかにするとすぐに筋肉の働きが悪くなるということでもあります。ですから毎日、しっかりと噛んで食べて欲しいのです。
2度目の今回は肘を施術し、そしゃく筋の使い方を練習して終えましたが、呼吸の状態もかなり良くなりました。10日後にもう一度来店していただきますが、その時どうなっているか楽しみです。
手のひらと足裏に汗をかいてしまうケースは一通りのパターンというわけではありませんが、呼吸、そしゃく筋のたるみ、関節のゆるみというのが共通の問題としてあります。人それぞれ治り方の速さは違うと思いますが、原因さえ把握できれば必ず改善することができるはずです。お困りの方は是非一度ご来店ください。