腰痛の原因は様々です。そんな数多くある原因の中で、骨盤周辺を打撲したり損傷したことが原因で腰痛になってしまっているケースについてシリーズ化して取り上げてみます。いわゆる「ギックリ腰」もこの中に分類されます。
 
 その一回目としまして、尻餅をつくなど尾骨やその周辺を打撲したケースについて説明させていただきます。


仙骨を揉むと痛みを感じる=筋膜のこわばり

 尻もちをつくケースはいろいろあります。階段を踏み外したり足を滑らせて尻もちをついたり、スケート・スキー・スノーボードなどで尻もちをついたりした経験をお持ちの人も多いのではないでしょうか。
 そして、尻もちをついた経験のある人は仙骨・尾骨を中心に、その周辺部を打撲して損傷している可能性があります。


 
 仙骨は骨盤背面の中心部になりますが、その表層には筋膜があります。筋膜の状態が良好であれば、そこを揉みほぐしますと心地良さを感じると思います。ところが、この部分が硬くなっていたり、ゴリゴリしていたりして少し強めの力で揉みますと「痛い!」と感じる場合があります。
 それはは仙骨表層の筋膜がこわばった状態になっているということですが、その筋膜のこわばりによって仙骨と腸骨との関節(仙腸関節)が固まった状態になっていることがあります。

 通常の場合、椅子などに座りますと仙腸関節の柔軟性により骨盤下部が少し拡がります。それによって骨盤全体がクッションのように働いて上半身の重みを分散して緩和しますが、仙腸関節が固まっているような状態ではそれが叶いません。
 ですから、骨盤自体のクッション作用を使うことができないので、腰(腰椎)を丸めるようにして対応することになります。骨盤に柔軟性がないので、それを腰椎を丸めることで代償する自然な反応です。

 このような状態が恒常的になりますと本来は前弯しているはずの腰椎がストレート状態になったり、あるいは反対に後弯した状態になってしまいます。そうなりますと、正しい姿勢を保つことは苦痛になりますし、常に腰部にハリ感や重みなどを感じるようになってしまいます。多くの人たちが言うところの「姿勢が悪い」状態の典型です。

打撲と仙腸関節

 そして、この仙骨表層筋膜のこわばりと殿部の打撲には深い関係があります。
 たとえば尾骨の左側を打撲しますと、左側の尾骨筋とよばれる骨盤底筋が損傷状態になって働きが悪くなります。すると仙骨・尾骨と坐骨の関係に狂いが生じますので骨盤が歪んだ状態になってしまいます。骨盤はからだの中心ですから、その歪みの影響は全身の機能に及んでしまうと考えられます。それはからだにとって好ましくないことですから、からだは自らの修正機能を発揮して骨盤のバランスを可能な限り良い状態に保つように働くと考えられます。その一つの在り方として、働きの悪い尾骨筋を補うように仙骨左側の筋膜をこわばらせて腸骨及び坐骨が仙骨から離れないようにするのではないかと考えられます。

 仙骨表層の筋膜がこわばりますと仙腸関節は柔軟性を失いますが、その影響で腰部の筋肉は硬くなり、腰痛を感じたり、脊椎(腰椎)の変位(捻れ)を招くようになります。
 実際、私の娘も同様の症状を持っています。おそらく幼い時の打撲によるものだと思いますが、腰椎が捻れ、それが元の原因となって脊椎が側弯状態になってしまいました。
 子供たちは、よく転ぶし、尻もちもよくつくし、打撲もしばしばです。そしてその時は大変痛がりますが時間が経てば何事もなかったかのように元気になりますので、私自身も含めて親はその打撲による影響を深く考えないと思います。ところが、私の娘のようにその打撲による損傷によって脊椎の側弯が始まる可能性もあります。

 私たちの肉体には自然治癒力が備わっていますので、多くの場合、自然治癒力によって損傷が修復され、ほとんど影響が見受けられない状態になると思います。しかしながら損傷によるダメージが強くて、自然治癒力の能力を超えてしまいますと、損傷は癒されないままその影響は残ることになります。そして私の知るところでは、時間の経過に関係なく何十年でもその影響は残り続けます。
 ですから、幼い頃の殿部の打撲によって仙骨表層の筋膜がこわばり、仙腸関節の柔軟性が失われたことの影響は、30歳になっても、50歳になっても少しも改善されることなく、それによる症状が現れ続ける場合も少なからずあると言うことができます。

骨盤底筋の働きを回復させる

 膝の状態が悪い人が「膝をかばって歩いていたら腰が痛くなった」というようなこと言うことがあります。おそらくそれが、その人にとっての実感だと思いますが、それは理屈上も合理的な見解であると言うことができます。
 私たちの筋肉システムには、どこか一部分の働きが悪くなるとそれを他の部分が補うという仕組みが備わっています。それは素晴らしいことなのですが、その状態を長く続けていますと、補っている方の筋肉や筋膜がおかしな状態になってしまい、痛みや不具合などの症状を発することがあります。
 たとえば膝の力が乏しいので、それを補うように膝の分まで腰が頑張り続けています、腰は大きな負荷に耐え続けなければ成りませんので、やがて疲弊して腰痛になってしまうという具合です。

 今回の件に、この仕組みを当てはめて説明しますと以下のようになります。

  1. 仙骨・尾骨周辺の筋肉(=骨盤底筋)が打撲によって損傷し、働きが悪くなりますと仙骨・尾骨と腸骨や坐骨との関係に歪みが生じます。
  2. その状態では全身の働きに影響が及びますので、仙骨表層の筋膜がいつも以上に頑張って骨盤の歪みが最小限になるように働きます。それは筋膜にこわばりを生じさせますので、筋膜は硬くなってコリコリ状態になります。
  3. そして、この状態は仙腸関節の柔軟性が失われた状態ですので、骨盤のクッション作用が乏しくなる他、腰部の脊柱起立筋が硬くこわばってしまいます。それによって腰痛を招いたり、腰椎に捻れを生じさせる可能性が生じます。

 ですから、この状態を改善する正当な方法は、①の損傷した部位(骨盤底筋)の働きを回復させることです。それによって仙骨表層の筋膜や靱帯のこわばりが自ずと消滅するように仕向けることが道理に合ったやり方です。

骨盤底筋

 骨盤の上部は大きく開いて受け皿のような形になったいます。そして、小腸がそこに収まるようになっていますが、骨盤は内臓を支える骨格としも機能しています。
 また、骨盤の底面も穴の開いた構造になっていますが、その穴(骨盤下口)をふさぐように骨盤底筋があります。尿道や生殖器、肛門は骨盤底筋の中にありますが、骨盤底筋はこれら内臓や骨盤臓器が下に落ちないように支える役割をはたしており、そのためにとても丈夫な構造になっています。

 丈夫にできている骨盤底筋は、通常は硬くなることはあっても疲弊して働きが悪くなることは考えにくいのですが、今回話題にしていますように打撲による損傷や、出産後のケア不良、あるいは会陰切開などの影響で働きが悪くなることは十分に考えられます。
 また、本来は頑丈にできている骨盤底筋ですから、加齢などの要因を除いてなかなか疲弊しにくい特徴をもっている反面、一度働きが悪くなりますと回復させるまでに手間と時間がかかってしまうという特長もあるようです。これは私の感想ですが、施術経験における実感として、そのように感じています。

 ですから骨盤底筋の機能回復に取り組む場合は忍耐が必要になります。施術しますと機能が回復することは実感できるのですが、一週間後に確認したときには、また機能低下の状態に戻ってしまっている、という過程を何度か繰り返します。それは一種の「形状記憶状態」とも受け取れる感じです。
 しかしながら、めげることなく同じ施術を何度か繰り返していますと、形状記憶のベクトルがはずれるときがやってきます。するとベクトルが機能回復に向うようになり、やがて施術が実を結ぶ段階がやってきます。

硬いこわばりをゆるめるのは邪道

 仙骨表層の筋膜が硬くこわばっているが故に、姿勢が悪くなったり、腰痛に悩まされたりしている場合、筋膜を指圧やマッサージなどでゆるめますと、その場で姿勢が良くなったり腰痛が消失するようになります。しかし、それは極めて一時的なものです。「施術後は良くなったけど、翌日にはすっかり元の状態に戻ってしまった」ということになってしまいますが、それは元の原因にアプローチしているわけではないので、当然のことです。

 しかしながら、私がお客さんたちから聞いている話を総合しますと、他の治療院や鍼灸院などでは「硬いところをゆるめる」手法をとっているところが多いようです。整形外科などにおける低周波治療も同様です。
 この方法は上記で説明しましたように、正当な方法ではないと私は考えています。そして何度も何度もゆるめる手法ばかりを行っていますと、確かに仙骨表層の筋膜のこわばりは完全に解消するかもしれませんが、すると、骨盤底筋でも支えられず仙腸関節でも支えられないという状況になりますので、腰痛に加えて坐骨神経痛や別の症状が現れるようになる可能性があります。
 現にそのような人たちが来店されていますし、それは「こじらせて悪化した状態」ですから、回復させるのが益々大変になります。

 多くの人たち、それは専門家も含めてですが、「硬い緊張状態を和らげれば、症状は治まる」との先入観念を持っているようです。

  • 腰痛であれば、一生懸命腰をもんだり、指圧したり。
  • 五十肩で関節が廻らなければ「固まらないように」と痛みをこらえてでも無理に可動域を拡げるように肩を廻してみたり。
  • ふくらはぎが張って辛くなれば、ふくらはぎを一生懸命揉んでみたり。

 これらは直接的であり、パフォーマンス的に正しいように見えますが、ほとんどの場合、それは適切な手段ではないと考えられます。
 手や指先などをはじめ「使いすぎて硬くなってしまった」という筋肉のこわばりに対しては揉みほぐすなどゆるめることで対応することは正しい手段です。しかしながら、今回のように「どこかの働きが悪くなったのを補うために硬くなっている」というこわばりに対しては、それをゆるめる手段は間違いとなります。
 ちょっと解りづらい内容になってしまいましたが、そのことを是非知っていただきたいと思っています。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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