もうだいぶ前のことですが、家族の者が部屋のドアノブを換えてくれと言い出しました。ドアノブを回すのが痛くて辛いということでした。
 まだ私が今の仕事を始める前のことでしたから、「なんでそれくらいのことが痛いのかな?」と内心思っていました。

 ところが、今はこのことがしっかりと理解できます。ドアノブを回すはたらきをする筋肉が上手く働かない状態だったわけです。
 今回の話題は、肘から先(前腕)や手首を回す働きをする筋肉についてですが、パソコン業務の人、テニス肘の人、腱鞘炎で苦しんでいる人、そのような人達には参考になる話だと思います。

前腕を捻る回内動作と回外動作

 肘から手首までを専門用語で前腕(ぜんわん)と言いますが、前腕を内側に捻る動作を回内(かいない)、外側に捻る動作を回外(かいがい)と専門用語で言います。

回内に働く筋肉
 前腕の回内動作に関わる筋肉は三つほどあります。
 動作の主動筋は回内筋は円回内筋(えんかいないきん)です。
 そして手首の辺りで前腕を回内させる方形回内筋(ほうけいかいないきん)があります。
 また、主たる働きは手首を内側に曲げる動作ですが、前腕の回内を補助する橈側手根屈筋(とうそくしゅこんくっきん)があります。

 前腕には二つの骨があります。肘関節から親指側にある骨を橈骨(とうこつ)と言い、小指側にある骨を尺骨(しゃっこつ)と言いますが、回内動作は尺骨を軸にして橈骨が尺骨に対して回旋して近づき、そして交叉していく形で行われます。
 ですから尺骨側(上腕骨)に足場を置いて、橈骨を強く引きつけ交叉させる筋肉である円回内筋の働きがとても重要になります。

 たとえば、円回内筋が上手く収縮できない状態になったとします。円回内筋は肘の近くで前腕を回内させますが、それが上手くできなくなりますと、手首近くの方形回内筋を必要以上に使って前腕を回内することになります。あるいは、前腕の回内運動を補助する程度に使われる橈側手根屈筋が必要以上に収縮して前腕の回内を行おうと試みるようになります。
 すると以下のような状況になります。

  1. 円回内筋が働かないので肘部分での回内が鈍くなり、
  2. 方形回内筋がこわばるので、いつも手首が内側にひねれた状態になり、
  3. 橈側手根屈筋がこわばるので、前腕の内側(屈側)がパンパンに張った状態になって肘付近が硬くなる。

 そして、実際このような状態の人が非常に多いのです。

回外に働く筋肉

 前腕を外側に捻ること回外と言いますが、上腕にあります上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)と肘関節近くにあります回外筋(かいがいきん)が協働して前腕の回外運動を行います。
 その他にも前腕の後面(伸筋側)にあります筋肉(長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、腕橈骨筋、長母指外転筋など)も回外運動を補助しています。



回内と回外のバランス
 ところで、前腕を回内する主動筋である円回内筋は肘関節の近いところにありますので、作動させて収縮しますと肘関節で前腕が内側に捻れる回内運動が行われます。そしてこれが正しい在り方です。
 仮に回外筋がこわばった状態になっていたとします。
 これは肘関節付近で前腕には外側に捻る力が働いているということですから、円回内筋を働かせて前腕を内側に捻ろうとしても、なかなかスムーズに回内運動を行うことができません。
 しかし、ドアノブを回したり、パソコンのキーボードを叩いたり、ペットボトルのキャップを開けたりと、前腕を回内させなければならない状況はたくさんあります。
 そして、このような状況では、円回内筋が上手く働けない状況をカバーするために方形回内筋や橈側手根屈筋、あるいは手指の筋肉を使って前腕を内側に捻るようになってしまいます。
 しかし、これらの筋肉の本来の仕事は別にありますので、これらの筋肉は酷使状態となり、腱鞘炎などの問題を引き起こす可能性が生じるようになります。

 また、反対に方形回内筋や円回内筋がわばった状態になりますと、前腕を外側に捻る回外動作を邪魔することになります。「外側に回したくても内側に引っ張られてしまう」という状況になってしまいます。
 私たちの日常動作では腕を内側に捻る回内運動の方が外側に捻る回外運動よりも多いです。ですから回内運動に関わる筋肉がこわばりやすいのですが、それによって「回外動作の力が入らない」状況になることがあります。
 そして、力が入らないのに無理して回そうとしますと、回外筋や周辺の筋肉が耐えられなくなって痛みを発するようになることがあります。

 これが「ドアノブを回すのが痛くて辛い」ということの根本的な原理です。
 ですから、この問題を解決するためには、円回内筋や回外筋の働きを邪魔する状況を解消することと、円回内筋と回外筋の働きがしっかりと行えるように筋肉の状態を調整することが必要になります。

 ところで、回内と回外に関わる問題を解決しようとするとき、打撲やケガなどにより回外筋や前腕の伸筋群を損傷したなどの場合を除き、臨床的には回内に関わる筋肉や骨格を調整する方法をとることが多くなります。それは回内に関係する筋肉の影響力が強いということでもあります。ですから、以降は回内に関わる筋肉の問題に絞って説明を進めていきます。

円回内筋の働きを邪魔する要因

 回外筋は前腕の外側(伸筋側)にありますが、同じ伸筋側にある筋肉は前腕の回外に協力したり、それらの筋肉と連動関係にありますので、前腕の伸筋側が硬く張っているような場合は、円回内筋の働きを邪魔する状態になっていると判断することができます。

 ところで、回外筋は手の第1背側骨間筋と連動関係にあります。
 第1背側骨間筋は親指と人差し指の間にありますが、私たちが物を掴む作業では必ず使いますのでこわばりやすく、そのこわばりが強く慢性化してい傾向が強い筋肉です。
 ですから、第1背側骨間筋がこわばっている状況が回外筋に連動して、回外筋がこわばっている状態になっています。

 また親指を操作する筋肉はいくつかありますが、たとえばスマホのゲームや文字入力で親指を上げたり(=伸ばしたり)下げたり(=曲げたり)する動作を頻繁に行いますと、これらの筋肉(短母指外転筋、短母趾屈筋、長母指外転筋、長母指伸筋など)がこわばります。それによって前腕の伸筋がこわばって円回内筋の働きを邪魔するようになりますが、このような状態の人もたくさんいます。

 以上、円回内筋の働きを邪魔する要因について説明しましたが、その多くは手の使い方による筋肉の変調状態(コリやこわばり)が根本的な原因になっています。ですから、第1背側骨間筋や長母指外転筋や短母指外転筋などをよく揉みほぐすことでこの状況を改善することが出来ます。
(その他に、足の方からの影響で円回内筋の働きを邪魔している状況もあります。)

円回内筋の働きを高めるために

 作業で前腕の回内動作をたくさん行っているなどの事情や、あるいは円回内筋を損傷したというようなことのない限り、円回内筋そのものの働きが悪くなることは考えにくいことです。
 ですから、円回内筋の働きが悪い場合、それは連動関係にある筋肉の影響によるものである可能性が高いと言えます。

 手のひらの親指のつけ根には母指球と呼ばれる膨らみがあります。親指を動かすための筋肉がいくつか密集しているので、厚みが増して膨らんだ状態になっているわけですが、最も深い部分に母指対立筋(ぼしたいりつきん)があります。

 母指対立筋はとても地味ですが、小指の先と親指の先をくっつけるような動作をするときに働く筋肉です。手のひらにおいて母指を内側に捻る(回内させる)筋肉であるとも考えられますが、この筋肉は円回内筋と連動関係にあります。ですから、母指対立筋の状態を良くすることで円回内筋の状態を良くすることが可能になります。
 そして実際、母指対立筋の状態が悪くて円回内筋の働きが悪くなっているケースがたくさん見受けられます。

 また、方形回内筋も前腕を回内する働きをする点で円回内筋と共通していますが、同じような働きをする筋肉は、場合によっては拮抗関係になることがあります。
 方形回内筋がこわばったことによって、円回内筋がゆるんで働きの悪い状態になってしまうことがあるのですが、このような状態の人も多くいます。

 回外筋がこわばっていて円回内筋の働きを邪魔している場合、それでも腕を内側に捻らなければならないとき、私たちは方形回内筋を酷使して手首を内側に捻るようになります。
 すると方形回内筋はこわばった状態になりますが、それが理由で円回内筋の働きが悪なります。ですから、円回内筋の働きを回復するためには方形回内筋のこわばり状態を解消する必要があるということになります。

 さらに、円回内筋は肩関節では肩甲下筋と連動しますが、四十肩・五十肩の症状を持っている一部の人の場合、それが理由で円回内筋の働きが悪くなっている場合もあります。

 ですから、円回内筋の働きや状態を整えるためには、母指対立筋や肩甲下筋を良い状態にし、前腕の回内運動を邪魔する回外筋や伸筋群のこわばり状態を改善する必要があるという結論になります。
そして、実際、私はそのように施術を行っています。

円回内筋の働きが悪い人は脇が開いているのが特徴

 円回内筋は肘関節のところで前腕を内側に捻る働きをしますので、筋肉の働きが悪い状態では肘関節のところではなく、手首のところで腕を内側に捻る動作をすることになってしまいます。それは方形回内筋や手指の筋肉を使っているということなのですが、腱鞘炎などのトラブルを招く可能性が生じます。

 たとえば、コーヒーカップを口元に持っていき、飲もうとする動作をしたとき、肘が開いて脇があいてしまうのであれば、それは円回内筋の働きが悪く、肩関節で腕を内に捻ることで円回内筋の働きを代償しているということです。
 円回内筋の働きが良い状態であれば、コーヒーカップを口元に持っていく段階で既に肘関節で前腕が回内するのと同時に、肩関節でも(円回内筋と連動する)肩甲下筋が働きますので、脇を締めて肘が下がった状態でも腕を内側に捻ることができるようになります。
 そしてこのような状態の人は、どんな動作をしても肘が地面を指すように、脇が締まった状態でいることができますので、からだを壊す可能性も低く、効率の良いからだの使い方をすることができます。

その他の症状

 「ドアノブを回すと痛みを感じて辛い」という話から話題がだいぶ拡がりましたが、前腕の回内も回外も肘関節のところで行われるのが正しい在り方です。

 たとえば、赤ちゃんを抱えたお母さんは、抱っこをしながら手首を捻っていろいろな作業をしたりします。赤ちゃんを抱いている状態では肘関節で腕を捻ることは出来ませんので、方形回内筋を酷使する状態になります。そしてこのような状況を続けていますと手首の関節を歪めてしまう可能性が高くなりますが、それによって腱鞘炎になってしまうかもしれません。

 また、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は肘付近の伸筋(長橈側手根伸筋や短橈側手根伸筋や指伸筋)の炎症であるとされていますが、私の見方ではそれらの筋肉の損傷です。ギュッとラケットを握るときにはこれらの筋肉が収縮するのですが、その収縮が上手くできないために痛みを発してしまう状況がほとんどだと思います。
 そして、これらの筋肉が損傷してしまう原因として円回内筋や回外筋の酷使や使い方の間違いが考えられます。親指と人差し指を中心にラケットを握る癖になっていますと、第1背側骨間筋がこわばりますが、それが回外筋に連動します。
 また、サーブなどでスライスをかける動作は肩関節での内旋、肘関節での回内動作ですので円回内筋の酷使になります。
 ですからテニス肘を改善するためには、損傷した筋肉の回復と、回外筋と円回内筋などの調整の両方を行う必要があります。安静などによって損傷部位の回復を促すだけでは、片手落ちで、またすぐにテニス肘の状態になってしまう可能性があります。



 今回の話題は肘関節で前腕を捻ることに関してでしたが、ほとんどの人は普段、何も気にしていないと思います。
 それはそれでけっこうなことだと思いますが、手首や肘の痛み、腱鞘炎、腕のだるさなどの症状が現れたときには、今回説明させていただいたような要因が内在していますので、そのことを頭の片隅に入れていただければ幸いに思います。

 そうすれば、ちょっとしたことができない状況を見て、「そんなこともできないのか?」などという誤解をいだくこともないと思いますし、「根性で頑張れ」などという考えにも至らないと思います。
 スポーツや、からだの動きを指導するような立場の人には是非、理解していただきたいと考えています。
 

足つぼ・整体 ゆめとわ
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