当院では、まずベッドに伏臥位(うつ伏せ寝)になっていただいた状態から施術を始めることが多いのですが、それは症状の別に関わらず、全身の状況を確認するところから施術に入りたいと考えているからです。
 背面の歪みを観察し、軽く擦ってからだを揺らしながら背骨の状況、筋肉の大きな変調、骨盤の状態などを確認していきます。
 そして時々、「この人は今、胴体(上半身)が本来よりも長くなっていて短足に見える状態だ」と思うことがあります。

 骨盤の位置が本来より下がってしまい、お尻も垂れてしまっているために短足に見えることもあります。
 あるいは、骨盤と胸との間が間延びしたようになっていて胴が長くなっていると感じる場合もあります。
 今回は、からだの歪みの一つとして、胴(上半身)が本来よりも長くなっている状態について取り上げてみます。

筋骨格系の問題で上半身が長く見える

 私たち日本人は欧米人やアフリカ系の人達と比べますと、お尻が下がって短足に見える傾向があります。実際に脚の長さが違う面もありますが、お尻(=骨盤)の在り方次第で見栄えといいますか印象がかなり違ってきます。

 骨盤が前傾していてお尻がプリッと上がっている人達は、やはり脚が長く見えます。反対に骨盤が後傾していてお尻の肉も下がっている場合は、実際以上に脚が短く見えてしまいます。
 ですから傾きも含めて骨盤のあり方はスタイルにとって重要です。

 そしてもう一つ、骨盤の傾きにも関係することですが、実際に骨盤の位置が下がってしまう場合があります。
 それは、お尻の筋肉である小殿筋と中殿筋に関係しています。

 小殿筋も中殿筋も骨盤(腸骨)から始まり、大腿骨の大転子というところに繋がっています。ですから、股関節で大腿骨を外側に開く(外転)働きがあると、解剖学などの専門書には記載されています。書物によっては股関節の内旋など違う働きをするとの記述もありますが、概して、小殿筋も中殿筋も同じような働きを行い、股関節を支え、歩行を支えるために働く筋肉であるとされています。

 ところが、私はまったく別の見方をしています。
 それは連動する筋肉のことを知ることでわかります。
 小殿筋は中殿筋に比べて短い筋肉ですが、膝関節では膝裏にある短い膝窩筋(しつかきん)と連動します。上半身の肩関節ではやはり短い棘上筋(きょくじょうきん)と連動し、肘関節でも短い肘筋(ちゅうきん)と連動します。
 短い筋肉は大きな動作に関わるよりも、関節において骨と骨の関係を正しい状態に整える役割を有していると私は考えています。
 ですから小殿筋は、股関節で骨盤と大腿骨の関係を適切な状態に保つ役割として重要です。

 一方、小殿筋より大きくて筋の長さも長い中殿筋は動作を支え、姿勢を保つ働きをします。理想的な状態で立つことのできる人は、立った時にお尻にエクボができますが、それは中殿筋の働きによるものです。

 そして、歩行の時に片脚立ち状態をしっかりした状態に支える役割を担っていますが、上半身で歩行運動に関わる腰方形筋(ようほうけいきん)と連動関係にあります。歩くときにお尻(=骨盤)がプリッ、プリッと左右交互に持ち上がるようになりますが、それは中殿筋と連動して上半身の腰方形筋が収縮することで骨盤を引き上げている姿です。
 ですから、中殿筋の働きが悪い状態になりますと、腰方形筋も収縮力を発揮することができませんので、骨盤の動きが感じられないトボトボとした、脚だけで歩いているような歩き方になってしまいます。

 さて、小殿筋も中殿筋も股関節を支える重要な筋肉ですが、互いに拮抗する関係になることがあります。つまり小殿筋が収縮してこわばった状態になりますと、中殿筋はゆるんで伸びた状態になります。そして、このような状態の人がたくさんいます。

 小殿筋と連動する筋肉の一つに膝裏の膝窩筋がありますが、膝裏がボーン膨らんで張っているような人のほとんどは膝窩筋がこわばった状態になっています。

 膝窩筋がこわばってしまう理由はいくつかありますが、踵重心やO脚で膝の裏側にテンションが掛かってしまう人(反張膝など)はこわばっている可能性が高いです。また、足首が硬くなっていて上手く軽やかに回すことのできない人も膝窩筋がこわばっています。
 足首の問題はもっと詳しく説明しなければならないと考えていますが、簡単に概要だけ申し上げます。

 足首(足関節)にはいくつもの大きな靱帯があります。捻挫の症状はその靱帯が損傷して伸びてしまったためにもたらされますが、足首の運動が足りなくなったり、あるいはしゃがみ込んだ姿勢や重心の掛かり方が偏ったりしますと、捻挫とは反対に靱帯が縮んで硬くなってしまいます。
 足首を回すと痛みを感じたり、あるいは一部(足首より前)は動くけど踵も含めた足全体を回旋することができないような人は足首の靱帯が硬くなっていると考えられます。
 足首の靱帯が縮んで硬くなりますと、ふくらはぎの骨(脛骨と腓骨)を足の方(=下方)に引っ張る状態になります。
 そしてこの時、膝関節に注目しますと、脛骨が下方に引っ張られたことによって大腿骨との関係で微妙に隙間が大きくなってしまいます。すると大腿骨と脛骨の関係を適切に保とうと働いている膝窩筋は自身を収縮させて関節を保持しようと頑張るようになりますが、これが膝窩筋のこわばり状態を招いてしまいます。

 膝窩筋のこわばりは筋連動の関係にある小殿筋をこわばらせますが、それによって拮抗する中殿筋はゆるんで働きの悪い状態になります。そして、それがお尻のたるみに繋がります。
 さらに、中殿筋と筋連動の関係にある腰方形筋もゆるんでしまいますので、肋骨と骨盤との間(距離)が拡がってしまい、胴が間延びしたような状態になりますし、骨盤が下がった状態になってしまいます。

 以上がよく見かける、小殿筋と中殿筋の関係による胴が間延びした状態の例ですが、小殿筋がこわばってしまう理由は膝窩筋のこわばりによる以外にもありますし、中殿筋がゆるんで腰方形筋の働きが悪くなる理由もいくつかあります。
 ですから、お尻を上げて脚が長く見えるようにしたいと考えるのであれば、小殿筋と中殿筋の状態に着目して、からだを整えることが筋骨格系での施術方法になります。

エネルギー不足で上半身が長くなってしまう

 上記で説明しました筋骨格系の問題で”胴長に見える”状態を整えることは、たいして難しいことではありませんが、なかなか手強い状況もあります。
 それは骨盤を中心とした、からだの中心部が力不足の状態になっていて、腹筋や腰部背筋の働きが悪いために胴長になっている状況です。

 からだを上半身と下半身に分けて考えたとき、肋骨(胸郭)から上を上半身、骨盤から下を下半身として、骨格のない(背骨はありますが)お腹と腰部をその繋ぎ役として見ることができます。
 繋ぎ役である腹筋と腰部背筋がしっかりしているのであれば、それは体幹がしっかりしているということであり、全身が一繋がりのものとして一体的に機能できます。

 例えば、手先を動かして作業するときでも、筋肉連動の仕組みによって足元や下半身からの力を利用することができますので、手先や手の筋肉はたいして疲れません。(同じ仕事をしても、疲れをあまり感じないような人はこのタイプに入ります。)
 ところが繋ぎ役である腹筋と腰部背筋の働きが悪い状態になりますと、上半身と下半身の動きに連動性がなくなってしまいます。手先を動かすときなど、足や下半身の筋肉はその動きに関わることができなくなりますので、腕や肩の力だけで作業を行うようになってしまいます。すると必要以上に力を入れなければならない状態になりますので顔や首に余計な力が入ってしまい、首肩のコリが強くなってしまう可能性が高くなります。もちろん手や腕の筋肉もこわばります。

 ときどき、このような状態の人を見ますが、その原因を私は「エネルギー不足の状態」と考える時があります。
 からだが「エネルギー不足」という状態を論理的に説明することは難しいのですが、感覚的に、やはり「体幹のエネルギーが足りない状態」というのが一番しっくりきます。

 それは仕事や作業のしすぎなどオーバーワークによってからだが疲れ、力が足りなくなってしまったという状態とは異なります。そうであれば休息をとることで解決することができます。
 あるいは、冷えなどの理由で筋肉の働きが悪くなったり、血流やリンパやエネルギーの循環が悪くなって力不足の状態になってしまうことがありますが、それとも違います。

 例えば風邪など引いて高熱がでてしまい、一日中布団の中で寝ていたとします。やがて高熱が治まり、頭も軽快になってきたので布団から出て何か食べようと起き上がろうとしたときに、何となくお腹や腰に力が入らなくなり、歩き方もフラフラしてしまうことがありますが、それに近い状況かもしれません。
 からだのエネルギーが高熱と闘うことに総動員されていたので、体幹のエネルギーがスカスカの状態になってしい、しばらくはエネルギー不足の状況になってしまう、そんな状況です。

 このように考えますと、この状態を解消するためには、本来体幹にあるはずのエネルギーが別の場所に行ってしまったのを(体幹に)呼び戻さなければならないということになります。
 東洋医学の「気の世界」に「導引」という手法がありますが、このことを指しているのかな? などと思ったりします。

 さて、ではどのような施術によって体幹のエネルギー不足状態を解消するかということになりますが、私は「筋肉を使える状態にすること」が肝心だと考えています。
 抽象的な表現ですが、この表現が最も正しいと思います。そして「使えない状態を、使える状態にする」というのは、私の仕事の核心的なところでもあります。

 からだに潜んでいる秘密の一面ですが‥‥、不思議なことに筋肉は、周辺環境を整えて、その筋肉が働きやすい状況になりますと、自ずと働くようになります。そして、その状態で働きだしますと自然とエネルギーが増大するようになります。(ただし、その筋肉にダメージがあったり、よほど疲労したり体力が衰えてしまったりした場合は違います。)
 つまり、エネルギーを高めるためには筋肉が適度に使われることが必要で、そのためには骨格が整っていて重心移動がスムーズに行える状況にあるなど、周辺環境が整っている必要があるということです。
 反対から申しますと、周辺環境など含めて筋肉が働ける条件が整っていませんと、働かせたくても働くことができないということです。

 ほとんどの人は、筋肉は「使えば、使えるようになる」と思っています。例えば腹筋が使えない状態なら、腹筋運動などトレーニングをすることによって腹筋の筋力が強くなりますので、腹筋が使えるようになるだろうと考えていると思います。
 ところが、それは誤解です。このブログでは何度となく申し上げてきましたが、重心移動が正しく行えないと目的の筋肉は作動することができません。

 少し前のブログで取り上げましたが、例えば座った状態で上半身を前傾させる運動では、腹筋が働いて下腹部の踏ん張りによって上半身の前傾を保てている状況が本来のあり方です。ですから、上半身を前傾するに従って恥骨付近に力が溜まってきます。

 しかし、これができない人がいます。上半身を前傾させる動作を背骨や腰部の筋肉で支えてしまうような人です。坐骨に重心(前傾運動の支点)が残ったままで上半身を屈めてしまうので、背中側の筋肉で動作を行ってしまうのです。
 腹筋を使って前傾動作のできる人は、動作の最初に重心を坐骨付近から恥骨の方に移しながら前傾動作を行います。ですから見かけ上は、恥骨や下腹部が前方に出るような感じで上半身を前傾させるようになります。

 重心の在り方によって作動する筋肉は厳密に限定されます。ですから、いくら腹筋を鍛えて筋力をアップしようとも、恥骨に重心が移らなければ腹筋は効率よく作動しません。「腹筋を使おう」「腹筋を使いたい」と意識しても、願っても、それは無理なのです。

 そして上半身の前傾運動だけでなく、私たちの日常生活の動きのほとんどで腹筋と背筋は交互に使われるようになっています。
 例えば歩く動作においては、上げた前足を着地するまでの過程では腰部が少し反って重心が後側(軸足)にありますので、背筋が主に働いています。しかし着地した前足が軸足に変わり、地面を蹴るようにからだを前方に移動する段階では、骨盤の前側に重心が移動して腹部前面の筋肉が仕事をするようになります。
 デスクワークにおいては、椅子に座り続けていますと腰が疲労しますので、しばしば姿勢を変えて座面に当たる場所を前後左右にちょこちょこ動かしたりします。それは無意識的な行為ですが、重心の掛かっている場所を変えることで、働く筋肉が特定の筋肉に偏らないようにしているということです。腹筋を使ったり、腰部の筋肉を使ったり、腹筋でも右側を使ったり、左側を使ったりして、特定の筋肉が疲労しないようにしているわけですが、それができるためには重心移動が思い通りにできる状態になっていなければなりません。腰や殿部を傷めたりして、ある一部分が体重の負担に耐えられない状態になっていますと、思い通りの重心移動は実現しなくなってしまいます。

 また、筋肉には特性がありまして、収縮し続けたり、伸ばされ続けたりと、同じ状態を長く続けていることが苦手です。
 収縮し続けたり、過度に使われ続けますと、こわばったり、あるいは疲弊して働きの悪い状態になってしまうことがあります。
 反対に、使われない状態が長く続いたり、伸ばされたまま長時間放って置かれますと、伸びきって戻らなくなったゴムやバネのような状態になって上手く収縮することができなくなってしまうことがあります。
 仮に、骨盤の後側(坐骨)にある重心を前方(恥骨)に移動することができない状態だったとしますと、それは腹筋を上手く使うことができない状態ということです。本人の感覚では「お腹に力が入らない」と感じるかもしれません。
 すると腹筋ではなく背筋ばかりを使ってしまうようになりますので、背筋は疲弊し、腹筋は収縮できない状態を招く可能性があります。

 実際、私が体幹のエネルギー不足と感じるタイプの人の姿勢は、背中が丸まって猫背気味で、骨盤が後ろに倒れている傾向があります。
 骨盤が後ろに倒れているということは、座った時に坐骨より後側に重心が掛かっているということですから、座った状態では常に背中側の筋肉ばかりに負担が掛かるようになってしまいます。
 ですから、体幹の背中側は背筋が使われすぎて疲労し、働きが悪くなって伸びた状態になっています。また、お腹側の腹筋はほとんど使われませんのでゆるんで伸びた状態になっています。
 この状況を言葉で表現しますと「腹筋と背筋の働きが悪いので骨盤と胸が離れて胴が長くなってしまった」ということになりますし、私は「エネルギー不足で胴長の状態になっている」と感じて表現しています。

 ですから、この状況を脱して体幹を本来の状態に戻すためには、恥骨側に重心を乗せることができる状態にして、腹筋を使えるようにすることが必要です。
 腹筋が使えるようになれば背筋に掛かる負担も減りますので、背筋の疲弊状態も解消することができます。体幹において腹筋と背筋のバランスが良くなりますので、エネルギー不足と感じた状態は解消されることになります。

 「おなかに力が入らず、内臓の働きも今一で、背中や腰の辺りがいつも張っている」と感じ、何となく胴も長くなったと感じるようであれば、以上のような状態なのかもしれません。



 以上、本来の姿よりも胴長に見えてしまう状況につきまして、筋骨格系の観点と、エネルギー不足の観点で説明させていただきました。

 先日、高校時代のクラブ仲間と忘年会を行いました。私以外は会社勤めの仕事をしています。来年は私たちは60歳になりますので定年が間近に迫っています。再雇用を考えている友人、別の会社への就職を考えている友人など、それぞれですが、平均寿命が延びた現在は60歳を超えても皆、まだまだ働かなければなりません。
 こんなことを思いますと、みんな歳をとっても若々しく元気でいてほしいと思います。そして、歳をとっても顔の皺は少なく、背中もスッと伸びた状態でいることは、生き甲斐と活力に満ちた生活を送る上で重要なことだと思います。

 これまで「上昇する力」や「舌の在り方」について取り上げてきました。そして、今回の「エネルギー不足」の話も含めて、私たちのからだに潜んでいる見えざる仕組みを知っていただき、活用していただき、人生100年時代を生き抜いていただきたいと思っています。90歳まで背筋の伸びたからだでいて欲しいと思います。

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