(過去に投稿した記事を修正加筆したものです)

 噛み合わせや舌に関係する症状などについては過去に取りあげましたが、悩んでいる人が度々来店されますので、改めて整理してみます。

噛み合わせと噛み方

 過去に歯科治療で歯を削ったり、歯列矯正を行ったり、あるいは片噛みの癖など影響で噛み合わせがおかしくなったと感じている人がいます。噛み合わせが気になり出しますと心理的にもスッキリしませんし、体調もなんとなく悪くなりますので、都心の専門的な歯科クリニックに遠くから通われている人もいます。
 実際、噛み合わせが合わないことは、単に「噛み合わせがおかしくて不快」という心理的な問題を超えて、必ずからだに悪い影響を及ぼすと私は考えています。

 自然界には陰陽・表裏という原理原則があります。陰と陽、表と裏はまったく性質の違う存在ですが、二つを切り離すことは不可能で、陰があるから陽があり、表があるから裏があるという考え方です。そして陰と陽、表と裏は互いに従属しあい、依存し合う関係になっていますが、それが自然界の在り方であるという原理原則です。

 私たちのからだにおける陰陽の原理は腹側と背側の関係にあてはまります。
 尾骨の近くにあります“会陰”を境に陰(腹側)と陽(背側)が始まりますが、その帰着するところは上顎と下顎の接点です。つまり顎関節であり、歯の噛み合わせです。
 ですから噛み合わせが合いませんと「陰と陽の境界がずれる」ということが起こりますが、そこから派生するいろいろな症状が現れます。
 その一つが「不快感」であり「落ち着かない心」であると考えられます。その症状を軽減したいがために、噛みしめたり、横向きで寝たり、顎を突き出したりと、いろいろな癖を持ってしまう可能性は高いと思います。

 私の知る限り、顔が下がっていますと噛み合わせや噛み方が「どうもしっくりこない」と感じる可能性が高くなります。歯科治療で微妙に歯を削ってみたり、マウスピースで調整してみて、その場では快適になったように感じても、時間が経つとまた噛み合わせが気になりだしたり、ご飯を食べていても顎や口周りが疲れたり、噛むこと自体が不快に感じたりするようになってしまうことがあります。
 「歯を削って噛み合わせをいくら調整しても解決しないのになぁ」と私は思っています。

 からだが捻れていたり頭蓋骨が歪んでいたりして、その状態が許容範囲(からだの対応範囲)を超えますとますと顎関節がおかしくなります。ですから順番としては、からだや頭蓋骨の歪みを改善した上で歯の調整に進むべきだと思います。
 さらに、顔(上顎骨、鼻骨、頬骨、前頭骨など)が下がった状態では、口元から力を抜くことができません。口を閉じたときにオトガイ(顎先)に“梅干し”のような筋肉の塊ができてしまう人は、このような状態の人です。口角も下がってしまうことでしょう。

 からだをいろいろ調整して顔の下がった状態を解消しますと、噛み方がすっかり変わります。言葉で表現することは難しいのですが、それは根本的な変化です。
 「顎からただ力を抜くだけで口(顎)が開く」状態になりますので、口を開くのに力を使いません。ですから、ご飯の噛み方も噛むとき(顎を閉じるとき)だけ力を使えばよくなります。ところが顔の下がった状態では、顎を開くときも力を使わなければなりません。下顎の底面や喉、首前面の筋肉を意図的に使わないと口を開くことができませんので、その辺りがこわばってしまいます。

下顎を引き下げる筋

 顔の下がっていない人は顎を開くとき“ただ脱力する”だけで顎のロックが外れますが、同時に鼻から自然と空気が入ってきますので、口を閉じてモグモグしながらでも呼吸が苦しくなりません。
 一方、顔の下がっている人はそのようにはなりませんので、口を閉じたままモグモグそしゃくを続けることができず、口を開けてクチャクチャ噛むようになってしまいます。

 眼の下に頬骨があります。手先を使って頬骨を軽く上に押し上げなら顎を動かし見てください。すると顎関節を脱力する感じで顎を開くことができますし、同時に鼻から空気が入ってくるのが感じられると思います。
 次に、頬骨を軽く下に下げるようにして顎を開く動作を何回か繰り返してみてください。顎関節を脱力する感じではなくなり、喉元の筋肉を使い、顎先の筋肉を使って顎を開いているのが感じられると思います。そして鼻からの空気の流入量も減り、何度かモグモグしていると息苦しくなってしまうのが感じられると思います。

舌の動き

 自分の喋り方に納得がいかない、滑舌に不満を感じている、発声に不満がある、喋ると疲れてしまう、そんな症状に共通しているのは舌の状態です。
 舌は筋肉の塊ですが、幾つもの筋層が複雑に絡み合って、微妙で、複雑で、独特な動きができる仕組みになっています。

 舌のおかしな状態としては、「舌足らず」の状態と「舌余り」と呼べる状態があります。
 舌足らずは、舌が引っ込んでいて前に出ない状態です。舌先を大きく出して上下に動かし、鼻先に向けてみたり、顎先に向けてみたりしたとき、うまく力が入らず思うように動かせない状態は舌足らずと言えます。
 確実にそうだとは言い切れませんが、舌筋がゆるんで働きが悪くなり、力が入りにくくなりますと舌足らずの状態になります。このような状態では、寝ている時に舌がたるんで気道をふさぎやすくなります。無呼吸症候群になったり激しいイビキをかいたりする原因になることもあります。

 また反対に舌が余った状態は、舌が長くなっていたり、大きくなっていたりする状況です。この状態の人は舌先で歯を押してしまいますので、歯列が前に動く可能性もありますし、舌に歯型の痕が残ったりします。
 舌の動きが少し緩慢になりますので、滑舌に影響したり、舌を噛んだりしてしまうかもしれません。

 喉元や顎の底面を触ったときに奥が硬くなっているようでしたら、それは舌筋がこわばった状態です。噛み方のところで説明しましたが、顔が下がった状態で顎を開くときにはこの辺りの筋肉をたくさん使わなければなりませんので、必然的に舌がこわばってしまいます。ですから顔の下がっている人は、喉元が硬くなり、舌が余った状態で滑舌が悪くなる、という傾向があります。

声の出し方に不満がある

 発声は、吐く息が気道を通るときに声帯を揺らすことによって行われます。吸う息の時でも発声することは可能ですが、それはとても限定的で、普通は言葉を発することはできません。ですから、息を長く吐き続けることができませんと言葉を続けて話すことができなくなります。

 「出だしの音は聞こえるのに、尻切れトンボのようで、何を話しているのかよく聞き取れない」という人が時々います。自分の発言に自信がない、という心理的な影響もあるかもしれませんが、息をうまく吐くことができないことが理由でこのようになっている人もいます。
 また、このことを自覚している人は言葉を発する度に緊張しますので、さらに声が出しづらくなるという悪循環に陥ってしまうこともあります。

 息を長く吐き出すこのできない人は、一般的には腹式呼吸がうまくできないタイプの人と思われているかもしれませんが、それだけではないようです。歌を歌うときに「ブレス」(息継ぎ)がうまくできないと声が続かなかったり、リズムに乗り遅れてしまったりしますが、喋りにおいても瞬間的に息を吸う「ブレス」は重要です。
 腹式呼吸を意識的に練習している人は、「胸式呼吸」をおろそかにする傾向があるようです。腹式呼吸の要である横隔膜やお腹のことばかりを重要視している人が多いようです。
 「腹式呼吸」とか「丹田呼吸」など、呼吸法を実践しているときにはそれで良いかもしれませんが、一般的な日常生活では胸郭(肋骨)を動かして息を入れる胸式呼吸も併用しないと息苦しくなってしまいます。

 私たちが呼吸をして、空気を出し入れしている肺にはほとんど筋肉がありません。ですから、肋骨を動かして胸郭を広げ、横隔膜を下げることによって肺を膨らませるのが吸気の動作であり、反対の動きをして息を吐いているのが呼気の動作の実際です。
 したがって、肋骨を動かす筋肉(外肋間筋と内肋間筋など)と胸郭を引き上げる筋肉(斜角筋と胸鎖乳突筋など)、胸郭を引き下げる筋肉(腹筋群)の状態が芳しくないと胸式呼吸がうまくできなくなってしまいます。



 「ブレス」は一瞬のうちに空気を肺に取り入れる動作ですが、それは胸式呼吸です。そして要になるのは肋骨を上下させる肋間筋(外肋間筋の収縮、内肋間筋の弛緩)と胸郭や鎖骨を引き上げる働きをする斜角筋と胸鎖乳突筋です。その他にも肩甲骨を引き上げる筋肉や胸の筋肉(大胸筋と小胸筋)も快適な状態に保っておく必要があります。

 内肋間筋(呼気の時に肋骨を下に向けて胸郭を下げる働きをする)がこわばっていて肋骨が持ち上がらないために瞬間的な息継ぎが苦手な人がいます。時間を掛けて、あるいは大げさな動作で空気を吸い込むことはできるのですが、瞬間的に鼻から「フッ」と息を入れることができません。できないのを無理してやろうとしますと、背中の筋肉を使って肋骨を持ち上げようとしますので背骨を反るような動作になり、緊張感が現れます。
 カラオケなどでテンポの速い曲を歌うのが苦手なのは瞬間的な胸式呼吸ができないので「ブレスが間に合わないから」という理由かもしれません。

 さて、息を長く吐くことができなくて言葉が続けられない人や言葉尻が聞き取りにくい人の対処法として次の練習を薦めています。
 まず呼吸は、吐くことから始めます。長く吐き出すことができない人は心理的にか、たくさん空気を吸い込んでからゆっくり吐こうとします。しかし、日常生活で言葉を話すときはこのような順番にはなりません。ですから呼吸を息を吐くことから始める練習をしていただきたいと思います。
 そして、それに加えて、一息で「あ・い・う・え・お‥‥た・ち・つ・て・と‥‥」と言葉を続ける練習をします。最初はカ行かサ行までしか息が続かないかもしれません。しかし、息が続かなくなるほど吐き出しますと、からだは苦しさのあまり自然と胸やノドを動かして「ブレス」を行います。この無意識の動きが大切です。そして休むことなくすぐにまた「あ・い・う・え・お‥‥」と続けます。これを何回か繰り返しますと、次第に長く言葉を続けることが出来るようになりますし、発声のコツと息継ぎ(ブレス)を会得することができるようになると思います。

 噛み合わせ、噛み方、喋り方、滑舌、舌の位置と動き、これらは関連性があって繋がっています。ですから、それぞれを単独で修正することは合理的な方法だとは思えません。
 噛み合わせを直すために歯科クリニック、滑舌をよくするための舌のトレーニング、喋り方を直すための練習、舌の位置を意図的に良いところに保持する練習、それらを単独で行ったところで、効果はそれほど期待できないと思います。それよりも変な癖がついたりして、かえってマイナスに働いてしまうかもしれません。

 インターネットなどでは、手軽に「自分でできる○○トレーニング」などの情報を得ることができるようです。しかし、実際に実践する際は慎重に行っていただきたいと思っています。

 過去に眼輪筋を鍛えるトレーニングをやり過ぎたせいで眼輪筋がこわばり、眼の下のシワが目立つようになった人もいました。
 舌に負担をかける練習をしすぎて思わぬ不調を抱えてしまった人もいます。
 また、自己流で顔をいじり、トラブルを抱えてしまった人はたくさんいます。


 今回取り上げました、噛み合わせ、喋り、滑舌、舌などの不調や不快感は生活する上で非常に気になるところですから、何とか快適に保ちたいところです。
 ところが、先ほども申しましたが、これらのそれぞれは密接に関係し合っていてますので、どれか一つだけを調整すれば問題が解決するというものではありません。
 これらの問題を“一繋がりの症状”として考え、対応することのできる専門家に相談されることをお勧めします。
 「噛み合わせを調整するためには歯を削ることが一番」と考えている歯科医は避けた方が宜しいかと思います。

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