長年、介護の現場で働いている男性がいます。一口に介護職といってもいろいろな作業内容がありますが、この男性は責任者であり、かつ、現場ではかなりの力を要求される仕事をされています。
 その過酷な作業によってギックリ腰もしばしば経験されていますが、今の一番の悩みは腕と手に十分な入らないことです。数年前に右肩を損傷しました。毎日毎日、多くの人を抱える作業をしていて腕の筋肉が耐えられなくなり、肩の腱(上腕二頭筋長頭腱)を損傷してしまいました。悩まれた挙げ句、手術によって治療されたのですが、術後は以前ほど力を使うことができませんので、左腕の方に負担が掛かるようになってしまいました。
 本人は右腕を損傷した経験もありますので慎重に作業をしていたようですが、やがて左腕も疲弊してしまい右腕と同じ運命をたどるようになってしまいました。結局、両肩を手術することになってしまったのです。

 今は左肩の手術から1年ほど経過したところですが、すっかり現場の仕事に復帰されています。ところが二月ほど前に、両方の前腕の筋肉が痛みだしたということで来店されるようになりました。そして同時に、これまで不安を感じたことのない膝にも不安を感じるようになっていました。
 週一回のペースで3回来店されました。それで前腕の問題は解決しましたが、私は違う面で不安を感じていました。
 「手術によって両方の肩周辺に十分な力が入らなくなってしまったので、手と腕の力に頼って作業をするようになってしまったようで、前腕や手の筋肉に疲労がたくさん蓄積してしまったようです。その影響で腕に痛みが現れたり、膝に力が入らなくなって不安を感じるようになってしまったのだと思います。」と申し上げました。
 そして「ですから、難しいかもしれませんが、腕への負担を可能な限り減らすようにして欲しいですし、疲労回復のケアも毎日ちゃんとやって欲しい。」と申し上げました。

 それから2週間ほどした頃、今度は「ギックリ腰になったしまった」ということで来店されました。ギックリ腰に対する施術を行い、それは一度ですみましたが、やはり私が感じたのは腕と手への負担でした。
 そして、その後2週間経って「左膝が全然曲げられなくなって、歩くこともまともにできない。足を地面に着くと痛い。」ということで来店されました。
 「ギックリ腰はその後すっかり良くなったのでその影響ではないと思うし、筋を伸ばしたり打撲したわけでもないのに急に膝かおかしくなって、あれよあれよという間にどんどん悪化してこんな状態になってしまった。何かの病気にでもなったのかな?」と不安な表情でした。
 この後、膝が曲がらなくなってしまった仕組みについてはお話ししますが、結局、施術したところは左手と左前腕が中心でした。手と腕の筋肉が使いすぎや疲労によってバランスを失い、その影響が骨盤と大腿骨との関係を歪め、それによって膝がほとんど曲げられない状態になってしまったのです。
 結局、60分の施術ですっかり症状は消えましたが、「残念ですが、もう肩や腕は仕事内容に耐えられない状況になってしまったと思うので、2週か3週に一度は来店されて、施術を受けた方がいいですよ。そうしなければ、同じことを繰り返すことになると思います。」と申し上げました。

膝が曲がらなくなる理由

 「膝が曲がらない」という症状は大きく3つに分けて考えます。

 一つは関節がずれていることです。変形性膝関節症が典型的ですが、そこまで状態が悪くなくても膝関節がずれた状態になりますと、膝を曲げるときに「膝の内側が痛む」、あるいは「膝の外側が痛む」状況になることがあります。そして、この状態を長引かせますと「膝に水が溜まる」症状が現れますが、それによって更に膝が曲げられなくなることがあります。

 二つ目は「膝を曲げることはできるけど、正座をすることができない」といった症状です。正座は単に膝を曲げることだけでなく、自分の体重がふくらはぎに乗っかりますので、その重さを柔らかく受けとめるように、ふくらはぎの筋肉がゆるまなければなりません。ふくらはぎの筋肉がこわばったままの状態でゆるむことができなければ、長く正座をすることはとてもできませんが、この時に要になるのは膝裏にあります膝窩筋(しつかきん)であったり、足首周辺の靱帯であったりします。

 三つ目はふくらはぎや太股裏の筋肉が収縮しない、あるいは伸びないために膝を曲げることができない状態です。
 専門書等によりますと、あるいは専門家の一般的な認識では、膝を曲げる動作においてははふくらはぎの筋肉(腓腹筋)とハムストリング(太もも裏の筋肉)は収縮することになっています。

 確かにそれは大きな意味では正しいことです。しかし、もっと細かく観察しますと、腓腹筋外側頭と半腱様筋は収縮しますが、腓腹筋内側頭と大腿二頭筋長頭は伸びることになります。もし、腓腹筋内側頭や大腿二頭筋長頭がこわばっていて上手く伸びることができない状態になっていますと、膝を曲げることができなくなってしまいます。そのこわばり具合によってどれだけ膝を曲げることができるかは変わってきますが、この状態の特徴としましては、上記の二つと違って痛みを感じることはないのですが、単に「それ以上曲げることができない」という状況になります。(もちろん、無理してそれ以上曲げようとしますと非常に強い痛みを感じますが。)
 そして状態が酷い場合は、歩く動作程度の膝の小さな屈曲もできなくなりますので、「歩くことができない」あるいは「足を地面につくこともできない」などとなってしまうこともあります。

 さて、この度登場していただいた人は、三つめの理由によって少しも膝が曲がられなくなっていました。
 その具体的な理由は上記でも説明しましたように大腿二頭筋長頭が強くこわばっていて連動する腓腹筋内側頭もこわばっているために、少しも伸びることができなかったからです。ですから「ほとんど膝を曲げられない」状態になっていました。
 そして大腿二頭筋長頭が強くこわばっていた理由は、骨盤の右側が歪んでいて大腿二頭筋長頭の出発点である坐骨結節が内側に入っていたからですが、その理由を追っていきますと、やはり左肩の不安定性からくる左手と左前腕の筋肉の問題が根本的な原因でした。ですから膝の症状ではありましたが、重点的に施術を行ったのは左手でした。

 膝に違和感を感じてから短時間のうちに膝を曲げることができなくなり、「足を着くことができないくらい膝を少しも曲げることができない」状態になってしまったのですから、本人はとても不安に感じたようです。「何か、膝が重い病気にでもなったしまったのか?」と思ったそうです。そして、その原因が左手周辺の問題であり、左手や左前腕を施術することで症状がすっかり消えてしまったことにも驚いていました。

膝裏を伸ばして、膝が曲げられなくなってしまった

 今回の主題であります「腕と膝の関係」とはかけ離れますが、今回登場していただいた人と同じように、三つ目の筋肉の問題で膝が曲げられなくなってしまった別のケースがありましたので紹介したいと思います。

 その人の場合はズリッと右足を滑らせて転んでしまったことがきっかけですが、「転ぶまい」として踏ん張ったときに右膝の裏を伸ばしたような気がしたということでした。その場では、特に症状が現れたわけではなかったそうですが、夜ベッドに入るために膝を曲げたときに「ズキッ」と驚くような痛みに襲われ、それ以来膝を深く曲げることができなくなってしまったとのことでした。
 この人の場合は、半腱様筋が伸びてしまったことが原因でした。膝を曲げるときに半腱様筋は収縮するのですが、筋線維を傷めてしまったために収縮できない部分ができてしまったのです。膝を深く曲げる動作では、半腱様筋全体がしっかり収縮できる状態になっていることが必要ですが、筋線維の一部に収縮できない部分ができてしまったので半腱様筋の収縮が不完全な状態になってしまいました。ですから、膝を途中までしか曲げることができませんし、それ以上曲げようとしますと、「収縮できない部分を強制的に収縮させる」ことになりますので、突然強い痛みに襲われることになります。イメージとしましては「余った肉が挟まれて潰される」ような感じの痛みです。
 ですからこのような場合は、損傷して収縮できなくなってしまった筋線維を丁寧に手当てして回復を促すしかありません。もしこの時、方法を間違えてストレッチしたり、揉みほぐしたりしますと、益々筋線維は収縮できない状態になってしまいますので、症状を悪化する可能性が高くなります。


 今や人生100年の時代となりました。20歳代までは「からだに不安を感じたこともなく」、30歳代では「疲労や肩こりを感じ、時々腰痛も感じ」、40歳代以降はスッキリしない日々が多くなったり、からだの不具合や不調に悩まされる日々が訪れたりします。
 そして五十肩や腰痛や膝痛に悩まされる日々も増え、70歳頃になりますと体力の低下を感じ、病院を訪れる日々も増えますが、さらに人生は30年近く残っているというのが現実となっています。
 高齢者になりますと、人生に対するいろいろな欲はかなり減るとは思いますが、「最後まで自分の足で歩き続けていたい」というのがせめてもの願いとなるのかもしれません。そして、そのためには腰や股関節や膝や足首などの状態を快適な状態に保っておくことが大切です。中でも膝は、女性にとっては加齢にともなって壊しやすい部位ですから、常日頃から良い状態に保っていただきたいと思っています。
 何度も何度も申していますが、変形性膝関節症にならないように、既になってしまった人は症状を悪化させないように、十分に注意をしていただきたいと思っています。

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