この地球上における“生物”あるいは”生命体”という見方をしたとき、私たち人類は脊椎動物であり、その中の哺乳動物であるということになります。脳の発達に伴って精神性が最も進化しているだろうとされている私たちは、地球上で最も進化した存在でありますが、肉体的には脊椎動物の中の哺乳動物であるという制限を日々強いられています。ですから肉体的な面で「からだの健康」を考えるときに最も基礎となるのは、“脊椎動物”、“哺乳動物”というキーワードであると言うことができます。

 おそらくほとんどの人が、カゼをひいたり健康を害して病気になったとして、病気の治癒について、あるいは健康の維持について考えたとしても、自分たちが実は脊椎動物であり、哺乳動物であるという視点から考えることはないことでしょう。現代医学においても、あるいは長い年月伝承されてきた伝統医学の分野においても、学術的な理論として考察されることはあっても、実際にそれを臨床の現場で有効に活かして治療にあたっているということはほとんどないと思います。
 ところが、実際に整体の分野で私たちのからだを眺めますと、私たちが実は脊椎動物であり、哺乳動物であるということがとても重要になってきます。それは、からだの機能の根本的なシステムが、脊椎動物として、哺乳動物として厳然と存在しているからです。

 ところで生物界は植物界と動物界に分けられますが、一番の違いは栄養摂取の方法です。植物は大地に根を生やし、大地からの養分と水分、空気中の窒素などを材料に太陽光線によって光合成を行い、自らの栄養として生長します。一方、動物は光合成を行うことができませんから、栄養を食物として口から摂取しなければなりません。食物を追い求めて移動するために手足を持っているわけですし、嗅覚・視覚・聴覚・触覚・味覚という感覚と感覚器官(鼻・目・耳・皮膚・舌)もまた、その根本的な必要性は「食物を追い求めるためである」と言えると思います。

 地球上の生命はおよそ38億年前の太古の海で誕生したと考えられていますが、5億年ほど前に脊椎動物が誕生したとされています。そして今から2億年ほど前に哺乳動物が脊椎動物の進化の形態として誕生したとされています。
 脊椎動物は単純に表現すれば背骨をもった動物ということになりますが、脊椎動物ではないものにはカニや昆虫があります。彼らは背骨という内骨格を持たず皮膚(殻)に相当する部分を硬くして自分の形を維持しています。ですから「大きくなることができない」という制限があります。大きくなると自分の皮膚(殻)の重さでつぶれてしまうからです。
 一方、骨格として背骨をからだの内部に持つように進化した脊椎動物は大きくなることができるようになりました。さらに、骨格に支えられているので強い筋肉をもって素速く動くことができるようになりました。海の中を縦横無尽に素速く動く魚を連想していただければ、カニの動きよりはよほど俊敏であることがわかります。その理由は筋肉の発達の違いによるものであると言えます。

 ところで脊椎動物の第一の革命は、歯と顎を持ったことだと言われています。それまでは、口はあったものの歯がなかったので海中のプランクトンなど小生物を流れに任せて口の中に流し込むだけの捕食でしたが、歯と顎を持ったことによって、より積極的に獲物を捕らえることができるようになりました。大きな魚が小さな魚をガブッと噛みついて捕らえる光景が生まれました。
 脊椎動物の第二の革命は、海からの上陸に関連する大きな変革です。
 まず呼吸が変わりました。それまでは水の中に含まれている酸素を海水ごと口の中に取り込み、エラ(鰓)で酸素を取り出し、不要な水はエラ孔から外に出すというエラ呼吸でしたが、陸上の世界では水中呼吸に対応するエラは役に立ちません。そこで空気呼吸に対応するために肺を持ち、肺呼吸を行うための筋肉(首から胸腹部)が発達しました。さらに、陸上では重力が水中の6倍にもなりますので、血圧を上げなければ血液が循環しなくなってしまいます。そこで血圧を上げるための仕組み、すなわち心臓を中心とする循環系が発達しました。その他にも重力に負けない骨格をつくるために、それまでは骨といっても軟骨だったものが硬い骨に変わりました。さらに陸上を移動する必要性が、ヒレを手足に進化させていきました。この上陸による大きな変容・進化のためにおよそ1億年の年月がかかったと考えられています。

 そして、哺乳動物に進化する第三の革命では、“そしゃく”するシステムを獲得したことが大きな変化です。
 私たちは食事に際して、食物を口の中で噛み砕き、唾液と混ぜてこねりながら柔らかい食塊にして食道~胃へと送り込みます。それをそしゃく(咀嚼)と嚥下と言いますが、それは私たちにとっては“ごく普通のこと”です。私たちと同じ哺乳動物である牛や馬も草を口の中でモグモグとそしゃくしています。ところが爬虫類である、例えばヘビは、獲物をそしゃくすることはありません。丸呑みです。ワニにしても、あの恐ろしい歯でかみ切ることはあっても、モグモグそしゃくすることはありません。

 哺乳動物というのは「乳を吸う動物」という意味でもあるわけですが、生まれたばかりで目も見えないうちであっても子は母親の乳首に吸いついて一心に乳を吸います。乳を吸うためには唇を使って口をすぼめなくてはなりません。また、舌も上手に使わなくてはなりません。頬の筋肉も上手く使わなくてはなりません。ですから哺乳動物は唇をもち、舌が細かく微妙に動き、頬を巧みに操れる顔を持つようになりました。さらに、歯も切歯・犬歯・臼歯の三種類を持つのが特徴です。そして私たち人間は臼歯が一番多いのですが、それは米や麦や雑穀などを奥歯と舌と頬を使ってこねるようにしてそしゃくするのに適応するためだと考えることができます。肉食である犬、猫、ライオンなどと、穀物を主食とする私たちとは歯の構成が異なるのはこのような理由であると考えることができます。

 また、私たち人間が他の動物たちと一番異なる点のひとつは言葉を話すことです。そのために人間は脳の働きが優れていて知性が発達しているということになりますが、それに加えて舌と頬と唇と顎を巧みに使えるようになっていると言えます。
 ですから、私たちのからだについて考えるとき、この口周辺を中心とした“顔の機能と在り方”は非常に重要なポイントであると言うことができます。

 以上、大雑把に脊椎動物~哺乳動物~人間までの流れを見てきましたが、機能と形態とは表裏の関係で、切っても切れない関係であるという見方があります。それは機能に適するように形態が変化するという意味でもあります。思考し、言葉を語り、手を自由に動かして行為をするのが、他の動物にはない私たち人間の機能の大きな特徴です。ですからこの機能に適するように哺乳動物から今日の私たちまで形態を変化・変革させてきたのが人類の進化であるとも言えます。
 重力に対抗して二足歩行ができるようになったことで手を自由に動かせるよう解放しました。知性を発達させ、考えるための大きな脳を入れるのに適した頭蓋骨を持つようになりました。言葉を話し、いろいろな物を食べられるように舌と唇と頬と顎を自在に微妙に使えるようになりました。
 これらを反対から考えますと、歩くこと、考えること、そしてそしゃくを中心とした口周りの機能を使い続けること、これらが私たち人間の機能を健全に保つための要であると言えるのではないでしょうか。

 特にそしゃくに関していえば、ほんの少し前(数十年前)まで「一口30回噛みましょう」と大人達や学校の先生は子供たちに指導していました。ところが、今では医療の現場でさえ、そしゃくについては軽視されているように感じます。実際、整体の現場では、そしゃく筋がゆるんでいたり、偏りがあることが原因でからだに不調を訴える人がたくさんいます。そのような人たちは、まず”よく噛む”ことから始めなければなりません。「早食い」はまったく良くありません。

 “呼吸”と“循環”と“栄養の消化吸収”と“不要物の排出”が生命維持の要です。これらの機能を象徴する肺・心臓・小腸・肝臓・腎臓‥‥といった、いわゆる五臓六腑は、動物が脊椎動物に進化する以前は、細かく分化していたわけではなく、一つの腸が全てを担当していたということです。腸の中に全ての機能が含まれていて、その中心はエラ呼吸の場所にあったと考えられています。
 つまり私たちのからだで言えば、顔~喉にかけてが中心であり、頭部が骨盤部と分かれて前方に伸びる(頭進)ことによって胴体(体幹)ができ、内臓の臓器や器官がそこに効率良く配置されたということです。
 頭と顔の骨のことを頭蓋骨と言いますが、解剖学的に顔の骨のことを内臓頭蓋と表現することがあります。つまり顔は内臓が表に露出したものであるということを示唆する表現です。胃腸の調子が悪いと顔色がさえない、ということからも顔の色艶や表情には自然と内臓の状態が反映されます。それは発生学的に顔が内臓(腸)の延長線上であるからです。さらに顔には心の状態や精神(脳の働き)の状態も重なるようにして反映されますので、顔をよく観察することで肉体的なことだけでなく、いろいろな情報を読み取ることができるのでしょう。
 このように顔~喉にかけてはとても重要なところですから、化粧や美容などによって容姿を整えれば「それで良い」というものではありません。顔は全身機能の要であるという観点で考えることが、本当はとても重要なことだと言えます。

そしゃくは命の要
 太古の昔、エラ呼吸を行うエラの筋肉の運動リズムが、その生命体のリズムでした。そしてそのリズムは海の寄せては返す波のリズムと同調しており、地球の、そして自然界のリズムと同調したものであると言ってもよいのかもしれません。
 つまり、自然界のリズムに則って腸の蠕動運動のリズムがもたらされ、そのリズムに合わせてエラが動いていたので、呼吸や血液循環のリズムも自ずと自然界のリズムに同調していたということになります。
 そのエラ呼吸の要であるエラ孔は太古の魚には6個ありました。それぞれのエラ孔には筋肉と軟骨が付属しているのですが、進化とともに、耳とその機能器官、扁桃腺、胸腺、副甲状腺、肺、そしゃく筋、顔面表情筋、嚥下筋、発声筋などに変化していきました。
 現在、私たちの顔にあります表情筋やそしゃく筋は、自然界のリズムに支配されていたエラ呼吸の頃の筋肉(内臓平滑筋)とは違って、自分の意思によって動かすことができる筋肉に変わっています。肺を中心にした呼吸運動もある程度意思でコントロールすることが可能なシステムに変わっています。ということは反面、自然界のリズムに“お任せ”しておけば良いというものではなくなってしまったということです。意図的にコントロールしなければからだのリズムに支障をきたすようになってしまうということです。
 私たちは食べ物を食べるとき、食物を口の中に入れてモグモグとそしゃくし、それが飲み込んでも大丈夫な状態になった後、ゴクンと飲み込んで食道~胃に送ります。この一連の動作では、そしゃく筋と嚥下筋が連動するわけですが、それ以外にも唾液腺から唾液が分泌され、頬の筋肉や舌が協働して働きます。唾液には酵素が含まれていて食物を分解する働きをするわけですが、それ以外にも発ガン物質の毒性を抑える働きがあることもわかってきています。この強い味方の唾液をたくさん分泌するためには、そしゃく筋を働かせなければなりません。たくさん噛めば噛むほど唾液が分泌されるのです。余談ですが、中国漢方の教えに、活力の「活」という字は「舌」が「水」を伴っている状態だというのがあります。舌が常に湿った状態、つまり、舌が唾液で潤っている状態が「活」であり、唾液の分泌は健康にとても重要だと考えられています。

 そしゃく筋には四つの筋肉があります。主に顎を上下に動かす咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)。下顎を前後左右に動かす働きをする内側翼突筋(ないそくよくとつきん)、外側翼突筋(がいそくよくとつきん)です。私たちの奥歯は臼歯で、穀物をすりつぶすのに役立つ臼の形になっています。そして、このすりつぶす動作に翼突筋が深く関与します。つまり穀物を主食として食べるようなシステムに、歯もなっていますし、筋肉も用意されているということです。反対から考えますと、穀物を食べなければそしゃく筋はバランスを失い、筋力不足になってしまう可能性が高くなるということです。
 かつてのエラ呼吸に関係する腺や筋肉や軟骨が、今日の私たちの扁桃腺、胸腺、副甲状腺、肺の機能、表情筋、そしゃく筋、嚥下筋、発声筋、耳の機能などになっているわけですから、これらの働きは当然連動しますし、腸の蠕動運動、すなわち内臓の働きに影響を与えると考えることができます。
 「連動する」ということは、影響し合うということであり、どれか一つが駄目になると他のものにも不具合が生じるということです。あるいは、どこかに不調があったとしても、連動の仕組みを利用して不調を改善させる可能性があるということです。
 そして、これらの中で私たちが意図的にコントロールできるものは、そしゃくと呼吸と発声です。ですから健康法や芸や武術(スポーツ)などの分野で“正しい呼吸”が上達のための鍵であるといわれているわけですし、歌を歌って発声筋を動かすことが健康のために良いことだと考えられています。そして同様に、そしゃく筋をよく使うこと、つまり穀物をよく噛んで食べることも健康のためにはとても重要なことです。

 現在は、「一口30回噛みなさい」と指導する声は聞こえなくなってしまったかもしれません。そして噛むことは面倒で時間もかかるという考え方の上に、「飲む栄養」「かじる栄養」「ゼリーの様な栄養」が市販されているのかもしれません。「早食い」が要求されるほど時間に追われている私たちの社会、“食物さえ、栄養さえ、バランス良く摂っていれば大丈夫だ”とみんなが思い込んでいるのかもしれません。
 しかし原点を振り返って、私たちのからだは脊椎動物であり哺乳動物である、ということに着目しますと、“そしゃく”がこの肉体にとって“とても大切である”という結論が導き出されます。
 現に整体の現場では、そしゃく筋がゆるんでいること、あるいは片噛みの癖や噛みしめの癖によって顔が歪み、その歪みがからだにつながり、不具合になっていることがとてもたくさんあります。“噛めば解決してしまう”ということもたくさんあります。呼吸を整えることがあらゆる面での基礎であると同様に、そしゃく筋を鍛えることも健康のための必要条件であり基礎です。そのように意識を変えて、日々の食事の時間を大切に過ごしていただきたいと思います。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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