発達障害を疑われるお子さんがお母さんと一緒に時々来店されます。
 私は、このように診断される症状や病態のことをよく知りませんので、あくまでも整体的な観点でからだを観察し、修正すべきところを修正することで対応しています。それでもある程度改善が見られるのか、口コミで紹介されて来店される方がおられます。
 今回来店されたのは小学校高学年の男子です。多動性の発達障害と母親が仰ってましたが、椅子にじっと座っていることができず、いつもからだをくねらせていて、集中力が散漫、お母さんも困り果てているような感じでした。「2歳くらいから他の子と違っているように感じ、幼稚園の年中の頃からは完全に孤立した感じで、その状態が今も続いている」と仰っていました。
 
 施術ベッドの上に仰向けになってもらい、からだを観察しながら施術を始めました。後頭部と首との境界にあります後頭下筋群(こうとうかきんぐん)がとても硬くなっていました。
後頭下筋群と上部頚椎

 「乳児の頃、腹ばいになった状態で頭(首)を反らすことばかり好んでやっていた」ということでしたので、その影響で後頭下筋群や背面の筋肉が強くこわばってしまい、今日まで至っているのかもしれません。その他には足の小趾側の縁にウオノメになりそうなマメがありました。足の形から想像しますと、内側(親指側、踵の内側)を浮かせ、外側(小趾側)ばかりを使って立っているのかもしれません。つまり、“ちゃんと立つことができない”状態だということです。

 まず後頭下筋群のこわばりをゆるめることから施術を始めました。最初は少々痛がりましたが、気持ち良さも感じるようになったのか、ベッドの上でバタバタ動かしていたからだも静かになり、10分くらい続く同じ施術を静かに耐えていました。
 次に足の方の施術を行いました。小趾側で立つ癖があるということは、確実に長趾屈筋(ちょうしくっきん:この前の投稿記事)がこわばっていますので、それをゆるめ、足裏も揉みほぐしました。そして、この施術を行いながら息を吐き出す練習を行いました。
 「落ち着きがない」「頭がすっきりしない」「頭が詰まっている」等々、頭の働きに関する問題を持っている人は往々にして息が吐き出し切れない傾向があります。この男子のしゃべり方は言葉の最初の音は大きいのですが、最後の音が聞きとりにくいくらい小さい音です。ですから何を言っているのか理解できないと周りの人は思ってしまうでしょうし、それが周囲から孤立してしまった原因の一つであり、発達障害と診断された要因の一つなのかもしれないと私は思いました。
 「10秒間『ウー』と静かに声を出し続けてみて」と言ってやってもらいましたが、最初は3秒間も続きません。足を揉みほぐしながらこの練習を何度も何度も繰り返しました。そうしているうちに自然と集中力が出てきたのか、お母さんが「苦手だ」と言っていた仰向け寝の状態でも落ち着きが出てきて、「ウー」の発声時間が少しずつ長くなってきました。
 結局10秒間続けることができるようになりましたが、そうなりますと尻切れトンボだった言葉が、しっかり発せられるようになりました。

 息を吐き出す動作は腹筋を使う動作ですが、それによって、また、ふくらはぎや足を揉みほぐし、後頭部(後頭下筋群)のこわばりをゆるめたことなどによって全身の血流も良くなり、頭もスッキリしたのだと思います。眼差しに落ち着きが見られるようになり、椅子にしっかり座れるようになりました。まだ「姿勢が良くなった」とまではいきませんが、このような施術を何回か繰り返していけばかなり良くなるのではないかと感じました。

 発達障害という病態がどういうものであるのかはよく知りませんが、「じっとしていることができない」要因の中には、「骨盤で座り続けることができない」「しっかり足裏全体で立ち続けることができない」というものも含まれているのではないでしょうか。そうであるならば、発達の問題、頭の問題、精神的問題、性格的問題ということに焦点を当てるだけでなく、肉体的な面(骨盤や下半身、首や背中など)も視野に入れて対応することも必要だと思います。

 椅子に座ったとき、骨盤が安定していなければ”落ち着いて座る”ことができません。そこに大人も子供も区別はありません。ソワソワしたり、左右の殿部を往ったり来たりするように体重を乗せ換えたり、あるいは心地良くないのを我慢して座り続けたりと「座っているだけでストレス」となってしまう身体的状況というものがあります。本人はまったく気にしていないかもしれませんが、骨盤で体重を支えられないため、内股や首肩や背中に力を入れて座る癖になっている人はかなりいます。
 実際、左右の殿部に均等に体重を乗っけていられる人はそれほど多くはなく、多くの人がどちらかに偏っているという状況です。この状態が悪化しますと落ち着きがなくなりますが、更に悪化して、どちらの殿部(骨盤)にも体重を乗せることができない状態になれば、この男子のように「食事中も、好きなゲームをしている時も、一時もじっと座っていることができない」となってしまいます。

 また、この男子のように足の外側で立っている癖の人も結構います。椅子に座った時の足の状態、つまり足癖を観察しますと、つま先立ちのようにしている人、足を内返しして外くるぶしのところを伸ばすようにしている癖の人などがいます。そして、いわゆる“貧乏揺すり”の癖を持っている人もいますが、これらは腰部や骨盤などに問題がある可能性があります。そして、本人も周りの人も気がつきにくいかもしれませんが、こういう癖のある人は、しっかり安定して立つことができません。

 この男子に対しては骨盤を整えるための施術を行ったわけではありません。施術内容は上記に記したとおりです。しかし、施術を終えるとドカンと椅子に腰を下ろして座ることが出来るようになりました。また、あちらこちらに彷徨っていた視線もじっと私の顔を見続けることができるように変わりました。集中力が向上したのだと思います。
 私は、後頭部の硬くなった筋肉をゆるめ、呼吸がしやすく舌の動きが良くなるような状態にすることと、足の硬くなった筋肉をほぐして足裏でしっかり立てる状態になるよう施術を行っただけです。あとは息を長く吐き出す練習を行いましたが、これはとても重要だと思っています。

 昔から「動作は息を吐きながら行わなければならない」という教えがあります。からだの仕組みとして、息を吸っているときはスキだらけになってしまいますので、吸気の時に動作を行うとケガをしやすくなるからです。ギックリ腰などからだを壊すのも、吸気しながら動作を行ったり、あるいは息を吸い込んで止めた状態で動作を行う時が多いのですが、それは吸気時や息を止めたときは意識が通わず無防備状態になってしまうからです。
 抑圧を受けてストレスを感じるとき、緊張でからだが硬くなるとき、その時私たちは無意識に息を止めてしまいます。抑圧とストレスと緊張の溢れている現在の社会環境で暮らす私たちは、つまり息を止める傾向が強く、吐き出すことが苦手な状態になっているということです。実際、呼吸のリズムが「スー・ハー スー・ハー」ではなく「スー・フッ スー・フッ」となっている人がたくさんいます。吐くことがおろそかになっているのです。

 息を吐ききる動作は腹筋をしっかり使う動作です。ですから腹筋運動を何十回かするよりも、息をしっかり吐き出す癖をつけることの方がからだに無理なく腹筋を鍛えることになると思います。
 言葉を発することは、吐く息が声帯を通過することによって起こります。息を吸いながら言葉を発することは不可能ではありませんが、とても難しいことです。ですから、しっかり喋ることができない状態を改善するための第一は、息を吐き出すことがしっかりできるようになることだと私は考えています。

 この男子は多動性や発声の症状以外に、癇癪を起こしやすい、怒りやすい、漢字が苦手(形の認識が苦手)という症状があると母親から聞きました。私は後頭下筋群が強くこわばっていること、腕や首~腰部まで背面の筋肉がこわばっていること、下半身が硬くこわばっていることなどによって頭蓋骨がずれており、それによって脳の働きが不調なのではないかと考えています。それはこれからの施術によって明らかになっていくと思いますが、またお知らせしたいと思っています。
 お子さんが「発達障害かもしれない」と思われている親御さんは「息を吐き出す」ことに着目して観察してみてください。スマホやタブレットなどのゲームに熱中することは「息を止める動作」です。子供達が好むゲームの多くは「時間との競争」の類だと思います。息を止めて集中しないと負けてしまうので、息を止めてばかりいるのだと思います。
 大声を出して楽しそうにからだを動かして遊ぶ動作は「息を吐く動作」です。小さいお子様であれば、脇腹を擦るだけでとてもくすぐったがり、からだをよじらせて大声で騒ぐと思いますが、それによってからだはバランスを取り戻し、自然に息を吐き出すことを覚えます。
 ですから本人が好きだからと言ってゲームばかりさせるのではなく、面倒でも一緒になって、大声で騒ぐように遊んであげてください。
 私の子供時代は、外でからだを使って遊ぶことが日課でした。今の子供達はゲームや勉強など、からだではなく頭を使うことが日課になっているようです。それはそれで進歩なのかもしれませんが、ここに記しました通り、息を吐き出すこと、からだの筋肉をたくさん使うことは、からだや脳の働きにとって必須のことだと思います。
 「勉強やゲームばかりでなく、からだを動かし、大声を出すこともやって欲しいな」と一整体師として思います。
 

足つぼ・整体 ゆめとわ
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