いくつか前の記事で、帝王切開などの手術で腹側の正中線である任脈にメスを入れたりしますと内臓の働きや体調に影響がでるというお話しをさせていただきました。
 今回は背中側の正中線上にメスを入れたりすることの影響について取り上げます。東洋医学(中医学)では背側の正中線を督脈(トクミャク)と呼び、腹側(陰)の任脈同様、からだのエネルギーの通り道として、またエネルギーの調整場所として大切にされています。
 
督脈

 私たちのからだは、腹側(陰)と背側(陽)、内臓系と体壁系という分け方に大別することができます。腹側には内臓があって、それは主として自律神経の働きによってコントロールされています。背側には背骨がありますが、背骨の中には脊髄が通っています。脊髄の先端が膨らんだものが脳であるわけですが、脳と脊髄は私たちも含めた脊椎動物の活動にとってなくてはならないものです。
 「頭をたくさん使う仕事をすると首や背中が張る」、「頭脳労働者は背中が張っている」という現象があります。脳をたくさん使うことは一体となっている脊髄もたくさん使われるので、背骨を中心にその周りの筋肉が張ってしまうことを現しています。オフィスでパソコン仕事ばかりしている人は、姿勢に問題があるだけでなく、目や頭、すなわち脳・脊髄を使い過ぎているので、首や肩や背中が凝りやすいですし、張りやすいと言うことができます。

督脈を傷つけると脳の働きが鈍る?
 側弯症を改善するために手術された若い女性が来店されました。7年ほど前に手術されたとのことですが、その後、思考力が低下し、計算が苦手になり、会話中に言葉がすんなり浮かんでこない、頭の中が真っ白、という症状に悩まされているとのことです。手術を選択したわけですから側弯も強かったのだと思いますが、手術前にはこれらの症状はなく、学業も優秀だったようです。
 背中を拝見しますと、骨盤の上7~8㎝のところから首のつけ根(頚椎6番くらい)までメスで切開した痕がありました。この時点での症状としてはには、頭の中が定まらない、全体的にボーッとした感じがしている、ということでした。そこで、背中の手術痕と頭の関係を確認するために、メスを入れ縫合したところに粘着力の弱い幅2㎝の絆創膏を貼ってみました。すると頭部全体がボーッとした感じ、つまり何処がボーッとしているのか解らない状態だったものが、「頭のこの辺りがおかしい」と指を差して示せるようになりました。症状を出している“元の部分”を絞ることができたことも収穫ですが、背中の縫合部分を何らかの方法で補うことができれば、頭(脳の働き)は変化するということが解りましたので、症状改善のための道筋が見えてきたということです。(この方に対する施術については後述します)

 その他に背中の督脈にメスを入れる手術としては、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などがあります。今は内視鏡を使用して傷口を最小限にする手術方法もあるようですが、それでも傷は付きますし、場合によっては脊椎の棘突起を切除してしまうこともあるようですので、督脈が乱れる可能性は否定できません。
 また、脳脊髄液を採取したり、液量の調節をしたりする検査法や治療法もあるようですが、やはり督脈の大切さを思うと慎重に考えていただきたいと思います。
 私と同業者の施術方法に脳脊髄液にアプローチする頭蓋仙骨療法がありますが、人によって様々な反応が出るようです。劇的に症状が改善する人、変化がほとんど感じられない人、マイナス方向に反応が出てしまう人、いずれにしても督脈に関係する脊髄、脳、脳脊髄液などに対しては慎重に考えて対処すべきだと私は思います。

尾てい骨付近の打撲によって頭や目などに違和感
 その方は60才代です。常に目に違和感を感じていて「自分の目ではないように感じる」と言います。さらに頭の中も「常にボーッとしている」と言います。目の違和感は20年以上続いているとのことで、今年になって100万円以上の高いお金を払って目の手術を受けました。手術から2ヶ月以上経過していますが、やはり違和感は消えないようです。
 「頭がボーッとして、目がおかしい‥‥」ということは脳の働き、つまり督脈に問題がある可能性も考えられます。もちろん他に原因がある可能性も考えられますが、今回は督脈でアプローチしてみました。

陽谷・腕骨・少沢

 手に「陽谷(ヨウコク)、腕骨(ワンコツ)」というツボがあります。説明は省きますが、陽谷と腕骨が位置している小指外転筋は背骨の際を通る脊柱起立筋と密接な関係があります。つまり仙骨・尾骨と関連しますので、督脈に関係するとツボであると考えることが出来ます。
 この方の場合、この陽谷付近の深い深い部分にコリッとした硬い塊がありました。それをジーッと長い時間指圧しました。途中「目が飛び出しそうな感じがする」と仰いましたが、塊が取れるまで我慢していただきました。そして塊がほぐれますと指圧による痛みも消えて、同時に目が飛び出しそうな感じもなくなったとのことです。
 「そういえば思い出したわ! ちょうど20年ほど前、体調をすごく悪くして吐き出すものがなくなっても吐き続けるような‥‥。とても苦しかったけど、その時目が飛び出しちゃうかもしれないと感じたけど、今、同じような感じだった。」「今、思い出しけど、あのとき以来、目が自分のものではないような感じになって‥‥。」と仰いました。
 その後座っていただき、目や頭の状態を確認していただいたところ、目が自分のものではない感じは消えたとのことですが、目の前がぼやけた感じは少し残っているとのことでした。座った姿勢を観察しますと、骨盤が少し傾いて背骨も少し歪んでいました。尾骨付近を探っていきますと、弱い部分があって、それが原因で骨盤に歪みが生じているのがわかりました。その弱い部分に手を当てて補いますと、クシャッとなっていた骨盤がしっかりし、背骨がスッと伸びました。「これは、かつて尾骨付近を打撲したりケガした可能性が考えられるのですが‥‥」(私)
 そういう記憶は残っていないとのことでした。しかし、座った状態でお尻の溝が右に傾くほど尾骨が歪んでいる状態でしたので、「間違いなく打撲、それも強く打撲したに違いない」と私は感じました。そして、いつもそうするように、その弱くなっている部分にダイオードを貼って自然治癒力を促しました。すると目の前のぼやけた感じも消えたとのことです。(ダイオードについては過去の記事を)

 尾骨は督脈の出発点と言ってもよい部分です。「階段で足を滑らせて尾てい骨を強打した」「スキー(スノボ)で転んで尻もちをついた」「たびたびギックリ腰をしてしまう」「出産後腰の調子が悪い」というような経験をお持ちの人で「どうも頭がはっきりしない」と感じている人は、もしかしたら尾骨付近の問題が絡んでいるのかもしれません。

側弯症を手術した方への施術
 上記で取り上げました側弯症を手術された方についてですが、手術後も側弯症の状態は残ったままになっていました。手術前よりは見た目は当然改善されていると思いますが、側弯症の傾向、つまり背骨の捻れる力は解消されていませんでした。
 手術前は、捻れは大きかったものの、その“流れ”を邪魔する要素はなかったので頭は正常に働いている状態だった。それが、手術で器具を填め、捻れを強制的に修正したものの、捻れる力はそのままなので、“流れ”という面では器具によって邪魔される状況になっている。うまく流れないので、脊髄(脳)の働き方が悪くなってしまった。そんな風に考えることもできます。
 ここで言う“流れ”は、督脈のエネルギーと考えても良いと思いますし、脳脊髄液の中の電気的エネルギーと考えてもよいかもしれません。

側弯症(小菱形筋「こ」)

 さて、肩甲骨と背骨を結ぶ筋肉の一つに小菱形筋があります。この方の場合、左側の小菱形筋が非常に強く収縮した状態でした。その収縮によって頚椎7番、胸椎1番、2番が左側に大きく捻れた状態になっていました。私はこの捻れが側弯症の最初の原因ではないかと判断しました。小菱形筋は筋肉の連動として内転筋の一つ、薄筋と関連性があります。薄筋がこわばり、それが小菱形筋のこわばりとなって背骨の上部を捻れさせ、それによって背骨全体が歪み、時の経過や普段の姿勢(勉強をたくさんしていたようです)の影響で側弯症と診断されるほどになってしまったのではないかと想像します。
 左側の薄筋がこわばっている理由は左側の股関節がおかしかったからです。「小さい頃、股関節脱臼したとか、強い尻もちをついたとか、ケガした記憶はありますか?」と尋ねますと、尾てい骨を強く打ったことがあるということでした。そして調べていきますと、尾骨の本当に深い部分におかしな部分を発見しました。その部分に手を当てますと薄筋・小菱形筋のこわばりも軽減し、強く歪んでいた頚椎や胸椎の捻れが軽減しました。
 「幼少の頃の尾骨付近の強い打撲が原因で背骨が歪み始めた。」私はそう考えました。そして尾骨のその部分にダイオードを貼って傷の回復を促し、さらに歪みを改善すべく頭蓋骨の状態の確認作業に進みました。
 頭蓋骨は頭頂部が右に寝ているように歪んでいて、奥歯がしっかり噛み合わない状態でした。この方は学生の頃たくさん勉強をしていたようです。そんな話しを聞きますと、いつもペンを握っていて、右脇を開けた(肘を張ったような状態)姿勢が多かったことが予想されます。つまり右手の母指先や示指先が強くこわばり、右の前鋸筋がこわばって右肩甲骨が外側にずれ、それが原因で頭蓋骨が歪んでいることが連想できます。そして実際、そうでした。さらに毎日長い時間、カナル型のイヤホンで音楽を聴いているとのことでした。耳の穴はゆるんだ状態で、上顎骨が不安定なのはイヤホンの影響です。施術においてそれらを改善していきましたが、その頃になりますとぼやけていた頭の状態もだいぶ良くなったようです。
 この時までの施術状況を整理しますと、以下の通りです。
①背中の縫合部分である正中線上には幅2㎝の絆創膏が腰部から首のつけ根まで貼られています。
②尾骨の深い部分には打撲による影響を回復させるためにダイオードが貼ってあります。
③右手の主に母指先のこわばりをとって頭蓋骨の歪みを修整し、
④ゆるんでいた耳穴をしっかりさせることによって上顎骨がしっかりし噛み合わせが良くなった。

 それから座っていただき、脳の働きがどうなったかを確認していきました。計算が苦手なこと、そして言葉を聞いてもそれを頭の中でしっかり理解することが難しい、という本人の訴えがどうなったかを確認しました。
 計算については九九を暗算していただきました。額の中央(脳の前頭葉)辺りを作業場として、例えば「3×1=3」「3×2=6」‥‥というのを絵として素速く描くことができるのであれば理想的だと私は思っています。人によって作業場が額の右側だったり、頭の後の方だったり、まちまちかもしれませんが、頭の特定の場所を作用場として絵を描くことができるのであれば計算に対する集中力は大丈夫だと思います。頭がボーッとしたり、真っ白な状態では、頭の何処にイメージを浮かべればよいかが定まりません。計算する作業場ができない状態です。
 暗算していただいた結果、大丈夫だということでした。
 次に、私が声を出して本を読みまして、その言葉の内容がすんなり理解できるかどうかを確認しました。いろいろ微調整しながら、しっかり、すんなり理解できる状態になりました。

 これで施術としては終了になりますが、懸念材料が一つ残っています。この方は一人住まいなので、背中に絆創膏を貼ることが困難です。また、お住まいは東京の東の方ですので、神奈川の西の端である私のところまではかなりの距離があり頻繁に来店されることは難問です。ダイオードを貼った尾骨部分は毎日触ってもらえればそれでケアになりますし、母指先のこわばりも、その他のこわばりも揉みほぐしていただくことで対応できますが、背中のケアをどうすればよいか‥‥。
 それを考えるために背中に貼った絆創膏を一度全部剥がしまして、本の朗読をもう一度やってみました。絆創膏がまったくない状態では少し理解しづらい状態になってしまいました。次に私が背中の上の方や真ん中や腰の方に手を当てながら朗読をしてみました。すると腰部に手を当てたときは理解しやすい状態になりました。手を当てることの意味は、弱っていてエネルギーの流れが悪くなっている部分を“補ってあげる”ということです。絆創膏を貼る意味も同様です。
 背中の手術痕は腰部から首のつけ根まで50㎝以上の長さがありますが、影響が強い部分は腰部の15㎝くらいかもしれません。その部分であれば、他者の手を借りずとも自分の手探りで絆創膏を貼ることができます。現に、そのようにやっていただきました。15㎝くらいの長さに切った絆創膏を手探りで背骨に沿って貼っていただき、再度私が本を朗読して理解しやすいかどうかを確認していただきました。「大丈夫です」という返事でした。

 側弯症の手術は、背中を切って背骨に器具を装着して歪みを矯正するものですが、「いつも背中に板が入っているように感じる」と仰いました。まだ若い方ですが、生涯その違和感とともに過ごさなければなりません。
 仕方がないことと言ってしまえばそれまでですが、学者の先生方には違うアプローチの可能性について真剣に追求していただきたいと願う気持ちです。東洋医学や漢方には、科学的に非合理で迷信じみた部分があるかもしれませんが、現代医学にとって役立つ大事な情報もたくさんあると思います。それらにも耳を傾け、からだの構造とエネルギーの流れ方の関係についてもっと知っていただきたいと思います。
 本来の意味での“病気としての側弯症”以外の側弯症は、必ず捻れの出発点があるはずです。それを探しだして修正することが改善のためのポイントだと思います。ただ単に毎年検査測定して、歪みが大きくなっていく経過を観察しているだけでは医学的治療とは言えないはずです。コルセットを装着したり、手術をすれば”側弯が進行しない”という対処法では、“芸がない”といいますか、進歩的ではないと思います。

 整体の現場で、さまざまな状態のからだと毎日接していますと、私たちのからだはとても神秘的で、「秘密がたくさん隠されているなぁ」と感じます。今回もそんな話になりました。現代医学では、背中にメスを入れることが脳の働きに多大な影響を及ぼすとは考えることもないかもしれません。しかし、現実は上記の通りです。「なるべく切らないこと」(手術は極力避ける)と、私もそうお勧めします。

 私の整体は東洋医学系のツボや経絡や陰陽説ではなく、現代医学の解剖学を基盤とした筋と筋膜、骨と骨格を頼りにからだを整える手段をとっています。ところが時々施術に迷いが生じたりするときツボを利用することがあります。今回は陽谷、腕骨を利用しましたが、その他にも合谷、足三里など有名なツボを使うことがあります。そして、それらは確かに有効ですし、それは解剖学では説明できない効用をもたらすこともあります。今後は少しずつ東洋医学系の施術も取り入れていこうと考えています。そして投稿していきたいと思っています。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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