手先を動かしたり、からだを捻ったり、私たちの意志の力で筋肉を働かせる神経を随意神経と呼びます。反対に私たちの意志がほとんど通じない、例えば血圧をコントロールしたり、食物を消化・栄養・吸収したり、汗をかいて体温調整したりしている、からだの生理活動を自動的に行っている神経を自律神経と呼んでいます。
 自律神経は内臓を働かせる神経ですから、自律神経のバランスが乱れた状態が続きますと私たちは病気になります。そして病気になった時に処方される薬は、自律神経に働きかけて血圧を下げたり、血管を拡張したり、炎症を抑えたりしますので、「薬は自律神経を調整するためのもの」と言っても過言ではないと思います。
 私たちが普段口にしている食べ物(栄養)にもそういう側面がありますが、食べ物や薬以外では、呼吸が自律神経系をコントロールする窓口の一つです。
 自律神経は植物にもありますので別名、植物神経と呼び、随意神経は動物特有なので別名、動物神経と呼んだりすることがあります。

 さて、自律神経系は意志の力ではコントロールできませんので、実際のところ私たちは薬物を用いて調整しています。血圧をコントロールする薬は自律神経系をコントロールする薬です。血糖値やコレステロールをコントロールする薬は自律神経系をコントロールする薬です。
 ところで、これらの薬が存在していなかった時代、私たちの祖先は食物によって自律神経をコントロールしようとしていました。その名残は今でもたくさん残っていて、「ショウガは冷えに効く」とか「キュウリやトマトなど夏の野菜はからだの熱を冷ましてくれる」、「○○は血液をサラサラにする効果がある」などと、多くの人が食生活の中で実際に実践しています。また、さまざまにある呼吸法やヨガなどは、それぞれの表向きの目的もありますが、その根底には自律神経系のコントロールという目的が潜んでいます。からだをリラックスさせるのは自律神経の副交感神経系の働きですから、ゆったりとした深い呼吸が思いのままに実現できるようになるということは、いつでも自律神経をコントロールしてリラクゼーションを獲得することができるということに他なりません。
 その他、ペットと時を過ごすことによって「癒される」と感じるなら、それは自律神経のバランス回復にペットが役に立っているということです。海や山を眺めたり、波や水の音を聞いて癒されるなら、それも自律神経系が調整されているということです。

 これらのように自律神経系を調整する方法はいくつもありますが、「そんな気分になれない」と心理的に落ち込んでいる時や、もはや病気の域に突入していてペットや自然の力ではどうにもならないと感じている時は、今の時代、薬に頼ることになってしまうのでしょう。

片頭痛と自律神経の関係‥‥噛みしめと血管の収縮
 側頭部がズキンズキンと痛み出す耐えがたい片頭痛、頭部に“孫悟空の輪”が填められたかのように感じる慢性頭痛、これらは二つの側面から考える必要があります。

側頭筋と咬筋

 一つは筋肉の強い収縮によって頭が締めつけられている状態です。側頭部にはそしゃく筋である側頭筋がありますが、歯ぎしりや噛みしめの癖がありますと側頭筋が強く収縮した状態(筋肉のこわばり)になってしまいます。そのこわばりが頭部を締めつけますので頭痛をもたらします。
 もう一つは血管の収縮です。血管は自律神経の交感神経がコントロールしています。
 仮に、歯ぎしりや噛みしめを行う癖があったとします。その行為を行うためには側頭筋や咬筋への血流量を増やす必要があります。ところが側頭筋の血管がスムーズに拡張してくれなかった場合、心臓の働きで血液はどんどんやって来るのにホースである血管が拡がってくれないので内圧はどんどん高まってしまいます。この状態が長引きますとやがて血管は圧に耐えられなくなってしまうことでしょう。その反応が片頭痛であり、耐えがたい痛みをもたらすのかもしれません。
 あるいは、自律神経は正常に働いているのに“血液が流れにくい状態”になっているのかもしれません。筋肉には“収縮すると硬く太くなる”性質があります。側頭筋が強くこわばって筋線維が太くなりますと、筋肉内の血管を圧迫して血液が流れにくい状態になってしまいます。そこに心臓のポンプ力で血液がどんどんやってきますと、“狭い穴を無理やりこじ開けて通過する”ような状態になります。心臓の拍動に合わせて“ズキン、ズキン”と痛むような片頭痛は、このような状態なのかもしれません。

 この場合の対処しましては、まず噛みしめ状態を解除して側頭筋の収縮を弱めることから始めます。その上で、自律神経系をコントロールして血管の状態が整うようにするのがよいと思います。私のやり方としては、そしゃく筋をゆるめたり、手や足の指先を揉みほぐすことから施術を始めます。そして次に呼吸が整うようにからだ全体を調整していきます。

少商・母指先への施術

 以前に「本人の自覚に関係なく噛みしめ状態が存在する」ということを記しました。そしてそれは手の親指の先の部分(写真)のこわばりと深い関係があります。この部分が強くこわばって非常に硬くなっている人がいますが、そのような人はそしゃく筋が自動的にこわばっています。ですから、この手先のこわばりをほぐすことによってそしゃく筋のこわばりも弱まりますし、顎もゆるむようになります。それは片頭痛をもたらしている側頭筋もゆるむということでもあります。

老廃物や邪気が溜まりやすい部分・井穴

 そして、自律神経の働きを調整する意味で、手指の第一関節より先、爪との間を中心に指先の甲側をよく揉みほぐします。皆さんもやっていただくとわかると思いますが、揉みほぐしの最初のうちは痛みを感じることはありませんが、次第に痛みを感じるようになり、指によってはかなり痛く感じるようになるかもしれません。(非科学的な表現と受け取られるかもしれませんが、)この部分には老廃物やあるいは邪気が溜まりやすく、それが自律神経の乱れに関係している可能性がある私は思っています。指によっては爪と第一関節の間がプクッと膨らんでいるかもしれませんが、それは不必要な“老廃物(や未消化物)の溜まり”である可能性が高いと考えています。
 この指先の部分は東洋医学では井穴(セイケツ)とよばれるツボ(経穴)を含んでいますが、井穴は体内の気と外気の気とのやりとりをする部分であると考えられています。仮に井穴での通りが滞っていますと、体内の邪気や使い古された気を外に出して、自然界からの新鮮な気を取り入れることが不十分になってしまいますので、からだのバランスが乱れてしまうということになります。
 井穴については、もっともっと情報を集めて研究しなければならないと思っていますが、実際、指先への施術は有効です。

 さらに「頭が詰まったように感じる」タイプの頭痛もありますが、多くの場合、それは頭部の血液が心臓へ戻りにくい状態になっていることが原因だと思います。結果として頭に血がたくさん溜まった状態になってしまい、その圧迫によって頭が詰まったように感じているのだと思います。

外頚静脈と鎖骨下静脈の停滞

 このような場合、注目すべきは鎖骨下静脈の流れです。鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨(一番上の肋骨)の間の狭い隙間を通っていますので、鎖骨が埋もれているような人をはじめ、鎖骨と第1肋骨の関係が歪んでいる人は流れの悪い状態になっています。鎖骨下静脈の流れが停滞しますと脳から心臓に戻る道筋の一つ(外頚静脈)が停滞しますので、「頭が重くスッキリしない」状態を招いてしまうのではないかと思います。
 埋もれた鎖骨を前に出すことによって鎖骨下静脈の流れを改善しようとした時、先ほどの手の親指の先を伸ばすことは有効です。
 親指先のこの部分は東洋医学では“少商”という肺経の井穴の部分になりますが、深部が硬くなっている人が多く、(自動的な)噛みしめ状態や鎖骨の後退をもたらしています。
 かなり痛みを感じますが、深いところにあるコリッと硬くなっている部分をほぐすことによって噛みしめ状態が改善し、鎖骨が前にでてきます。それによって“カカト重心”が改善し、鎖骨下静脈の流れも良くなりますので“頭がスッキリ”したり、自律神経のバランスにも影響して“片頭痛が楽になる”という複合的な効果を期待することができます。

呼吸と手指の先端(井穴)との関係
 呼吸の状態が悪いと首肩に力が入り、からだはなかなかリラックスできないということは以前に記しました。ここで言う“呼吸の状態が悪い”状態は、横隔膜をゆっくりゆるめながら息を吐き出すことができない状態、と受け取っていただいてもよいと思います。普通の人は、普段の呼吸が胸式で浅かったとしても「腹筋をじっくり使いながら、吐いたところから更に吐き出す感じで最後まで息を吐ききってください。」とやってもらいますと、大概できます。しかし、呼吸の悪い人はこれができません。「フッ」と短い時間で息を吐き出すことはできても「フーーーッ」と長い時間を掛けて吐き出すことができないのです。「横隔膜をゆるめるイメージで腹筋をじっくり使って吐いてみてください」とやっていただくのですが、全然できない人がいます。しかし、このような人でも声を長く発し続けることはできたりします。長い時間にわたって「フウゥゥー」と声を出し続けることができるということは横隔膜がゆるみながら腹筋が使われているということですので、呼気(息を吐く)の動作がちゃんとできている状態です。しかし、声を出さないとそれができません。声を出すとできるのに、声を出さないとできない、というのはちょっと不思議に感じますが、現実としてそういうことがあります。
 ところがこのような人に対して、両手の指先、さらに両足の指先を揉みほぐす施術を行いますと、自然と呼気ができる状態になることがあります。ベッドに仰向けになっていただきながら施術をし始めるのですが、最初のうちはほとんどお腹の部分に動き(腹式呼吸による腹筋の運動)が見られなかったものが、施術が進んでいきますといつの間にか腹式呼吸をし始め、息を吐いている時間が次第に長くなったりします。指先への施術は痛みを伴うのですが、からだはリラックスした状態になっていくのです。それは、指先への施術によって自律神経の状態が調整されているからだと私は考えています。

井穴(セイケツ)は自律神経系を整えるツボ?
 東洋医学の世界では自律神経系を整えるためのツボとして井穴を捉えているようです。特に薬指の井穴に注目している治療家も多いようですが、薬指は別の面で私も注目しています。
 私の臨床経験では「井穴は自律神経を整えるための効果的なツボである」ということに完全に同意できる段階ではまだありません。しかし、井穴あるいは指先の状態が間違いなくからだに影響を及ぼしていることは知っています。
 「邪気や老廃物(未消化物)が溜まって腕が重たい」という表現を現代医学ではどう捉えるのか知りませんが、現実としてそういうことはあります。そんなときに、膨らんでいる爪と第一関節の間を中心に指先を(かなりの痛みをこらえながら)揉みほぐしますと、腕がスッキリして軽くなります。鎖骨が埋もれていてカカト重心の時に、あるいは本人の意志に関係なく噛みしめている状態(咬筋が収縮している)の時に親指の先を揉みほぐしますと鎖骨が前に出てきて、噛みしめ状態が緩和されます。カカト重心が改善し、血流も良くなり、頭がスッキリして顔から力が抜け、真にリラックスできる状態になります。
 私は毎日、湯船の中で両手の指先を揉みほぐしていますが、皆さんにも是非やっていただきたいと思っています。それだけで10分近く湯船の中にいるようになりますが、今の時期はからだが芯から温まります。
 揉み始めは痛みを感じません。しかし表層が柔らかくなり、揉んでいる指先が奥の方に届くようになりますと次第に痛みを感じ出します。ある指はものすごく痛くなるかもしれません。しかし許せる範囲で痛みをこらえながら揉み続けてください。一つの指は少なくとも30秒は揉んでください。さらっと揉んだだけでは効果は期待できません。

 病気から縁遠くなり、健康的なからだを維持するためには自律神経の働きがとても重要だと私は考えています。栄養について考えたり、薬やサプリメントを摂取したり、ウォーキングをしたりする目的の半分以上は、実は自律神経を整えるためだと思っています。
 植物は人工的な操作をしない限り、ほぼ100%、自然界のリズムに従って生きています。 自律神経は植物神経と呼ばれることもありますが、それは本来、宇宙や自然界のリズムと完全に調和した存在であるという意味です。
 自律神経失調=自律神経がバランスを失っているということは、からだのリズムが自然界のリズムと調和していない状態であるということです。自然の風景を眺めたり、風に触れ、波や水の流れる音に接することが自律神経を整える上で役に立つのは、それらの行為によってからだのリズムが自然界のリズムに同調して修正されるからだと思います。そして自己努力で自律神経を整えようと考えるのでしたら、規則正しい生活習慣を築き、呼吸を見直し、日々のケアとして手や足の指先をマッサージしていただきたいと、そう思います。

 大脳がとても発達した私たち人間は、自律神経が担当する領域を脅かすほどに随意神経系、つまり意志や思考や感情の力の方が強くなっています。怒りや不安や心配事に頭が支配されますと、それまで正常だった血圧は一瞬にして異常な状態になってしまったりします。
 精神的に不安定な状態では、ゆったりした呼吸は実現できませんし、指先を揉みほぐしてもたいして効果は期待できません。ですから「自律神経を整えよう!」と実践する時には頭の中(随意神経系)を静かな状態にした上で、呼吸やマッサージを行ってください。これは大事なポイントだと思います。