現在、顎(そしゃく筋)、喉、首、肩など上半身の上部に力が入ってしまい下腹部や下半身があまり機能していない方が二人定期的に来店されています。お二人に共通している点は以下の通りです。
①子供の頃からずっとこの状態が続いているので、それが普通なのかと思っていた。
②呼吸状態が悪い。
③ムチウチの経験がある。
④歯列矯正をした。
⑤骨盤や股関節に問題を抱えている。

 お二人とも腰に力が入らないため、座った時に骨盤にからだをあずけることができません。ですから普通の人がやっているような背もたれにからだを委ねるような座り方は苦手です。背中をピンと張って座らざるを得ないので、一見姿勢が良い人のように見えますが、実は上半身、特に胸から上の部分に力を入れないと座る姿勢を保つことができないのです。腰を使って背筋を伸ばしているのではなく、首や肩の力を使って背中を張っているため、すぐに疲労してしまい長く座ると腰が痛くなってしまいます。
 「からだの中心は骨盤であり、会陰である」と過去のブログに書きましたが、骨盤を中心に、下腹部・腰部の力を使って姿勢を保ち、動作を行っていればからだを壊すようなことはそうありません。しかしこの方々のように、動作の中心が首肩周辺になってしまいますといろいろと問題が起きてきます。そして共に子供の頃からずとその状態で生きてきましたので、そのこと(首肩中心)が不自然なことだとは思っていませんでした。“常に息苦しい”、“すぐに息が上がってしまう”、“腰が弱い”というような点が他者との違いとして感じてはいるものの、それが“からだがおかしい”こととは結びつかなかったようです。
 (私の目から見て)お二人の性格に共通している点があります。それは不安に襲われやすい、心配性である、恐れている、といったことです。お二人とも神経質ではありませんが、これらの不安、心配、恐れといった感情は胸の圧迫感や頭の圧迫感と関係しているのではないかと思います。
  また、お二人とも呼吸の仕方が良くないのですが、仰向けで寝た状態で「息を吸うことは考えずに(自然にできるので)単に吐き出してください」とやってもらいますと、最初の1~2回はできるのですが、その後それを続けることができなくなります。息をたくさん胸に入れないと吐き出すことができませんし、その吐き出し方も胸中心でかろうじて腹部が少し動いているのが観察できる程度です。
 このテストは呼吸の中心を胸から下腹部の方に移動できるかどうかを確認するものですが、単にゆっくり吐き出すことをするためには腹筋をじっくり使わなければなりませんし、横隔膜がスムーズにゆるんでいかなければなりません。
 腹筋と横隔膜の状態が悪いと、息をゆっくり吐き出しながらリラックスすることができません。普通の人は首や肩や頭に力が入ってしまったり、息を止めたために肺の中に空気が溜まった状態になったりしますと、“溜め息”のようなことをして息を吐き出し、その状態を無意識的に解除するのですが、このような人達の“溜め息”は形だけで終わってしまい目的を達成することはできません。

 ここで筋肉と骨格の関係から首肩に力が入ってしまうことと呼吸の関係を説明してみます。
肩甲骨を引き上げる筋

 首の筋肉で気になるのを専門用語であげれば、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、斜角筋、胸鎖乳突筋、肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋などです。僧帽筋と肩甲挙筋は肩甲骨と鎖骨を引き上げますので首の長さの見え方に関係します。実際は首が長さが変わったわけではないのですが、これらの筋肉が緊張状態になりますと首が短かくなったように見えます。時々、中年の太ったおじさんはワイシャツの襟に隠れて首がないように見えたりしますが、それは僧帽筋、肩甲挙筋の張りによるものかもしれません。(トレーニングなどでこれらの筋肉がすごく発達した人も同様に見えますが)

頚部前面の筋

 斜角筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋などの緊張(収縮)は胸郭を引き上げます。胸郭が上がった状態というのは息を吸った状態ですから、これらの筋肉がいつもこわばっている人は「常に息を吸った状態」であり、過呼吸になりやすい傾向にあります。息苦しい人、息が荒い人、頭に圧迫感を感じている人などは、これらの筋肉を整えて胸郭を下げることで状態が改善することがあります。
 そして肩甲骨や鎖骨、胸郭を引き上げるこれらの筋肉はそしゃく筋と関係しますので、噛みしめる癖があったり、そしゃく筋が収縮してしまう状態にありますと、これらの筋肉も収縮状態になるため首肩が張り、胸が上がった状態になってしまいます。腹式呼吸はできなくなり胸でハアハア呼吸する状態になりますし、力の中心(重心)が首肩の方に上がってしまうことになります。その他、“目の疲労”などによって首肩に力が入ってしまうこともありますが、多く見受けられるのはそしゃく筋の状態に関連してもたらされているものです。ですから“そしゃく筋のこわばり”(頬の内側にある噛む筋肉の緊張状態)を如何に解除するかが、首肩から力を抜くための有力な方法になります。
 ただ、ほとんどの人は自分のそしゃく筋がこわばっていることに気がつきません。いつも意識してそしゃく筋を観察している人は「今、噛みしめてきた」「こわばりがゆるんできた」ということに気づきますが、“奥歯が合っていなければ噛みしめた状態ではない”と思っている人がほとんどですので、「首肩から力を抜くためには、まずそしゃく筋をダラーッと脱力してください。」とアドバイスしてもすんなり納得できないようです。

 一生懸命になって首肩から力を抜こうとしてみても、それは一時的なものになってしまいます。その時は力が抜けます。しかし次の瞬間、何かが起こったり、感情が変化したりしますと、また首肩に力が入った状態になってしまいます。なぜならそしゃく筋が収縮したままの状態であるからです。

 骨盤や腰部・下腹部に力が入らない状態であれば、からだを支える中心は首肩の方に移ってしまいます。ギックリ腰の経験のある人はおわかりになると思いますが、椅子から立ち上がる時に腰や下半身の力を使えないので腕の力を使って立ち上がるようになります。単に座るだけでも腰に体重をゆだねることができませんので、肩甲骨周辺や首肩に力をいれ続けて姿勢を維持しなければならなくなります。それは非常に疲れる状態ですのですぐに寝転びたくなってしまうかもしれません。極端な例ではありますが、これに近いような状態が内在しているのが首肩から力が抜けない人の傾向かもしれません。腰部を強打した、尻もちをついた、ぎくり腰を何度か繰り返した、このような人は腰部の働きが悪くなっているため、それを補うように首肩周辺に力を入れている可能性があります。
 ムチウチは後頭部の首のつけ根辺りを損傷することが多いのですが、頭痛や首の痛みが改善されるとそれでムチウチは「治った」と判断しているかもしれません。病院の判断もそのような感じかもしれません。しかし、後頭部や首の損傷で、筋肉や筋膜の状態が悪いまま何十年も経っている人が多くいます。「なんとなく腰周りがスッキリせず、ついつい前屈み気味になってしまう」あるいは「無理して腰を反った状態にしないと座り続けたり歩いたりすることができない」というような方は、ムチウチの損傷がすっかり改善したわけではないと思われます。「ムチウチを経験してから首肩に力が入ってしまい息苦しさを感じるようになったのかもしれない」と、思い当たる節があるのであれば、今一度後頭部から後頚部にかけて治療する必要があるのかもしれません。
 ムチウチは後頭部から首後側の筋肉の働きを弱めてしまいますが、それは当然腰部の筋肉にも影響を及ぼします。腰を支えて動かす力が弱くなりますので、腰痛持ちの人と同じように首肩背中の上部に力を入れて姿勢を保つようになってしまいます。ですから自ずと重心は上部になってしまいます。

 私は“歯”については専門家ではありませんので確かなことは言えません。しかし現実に、歯科矯正の影響でからだの働きが悪くなっている人を見てきました。“歯”そのものよりも“歯茎”が弱々しくなっていて、その影響でそしゃく筋がこわばったり、舌や喉が硬くなって常に首肩に力が入った状態になっていたりします。
 歯茎は上顎骨の一部です。顔面を強打して歯茎が弱くなったために顔が歪んだり、感覚器官がなんとなく不調に感じたりすることはよくあることです。抜歯を伴う歯列矯正は、“上顎骨の健康度”という観点で考えると、やはりマイナス要因です。私たちには生まれながらに決められている歯の本数とそれぞれの役割があるわけですから、そのことの大切さを慎重に考えて歯列矯正の方法を選んでいただきたいと願っています。
 からだの不調がなかなか改善しない方々からの問い合わせの中で、「歯を削られてから‥‥」「歯列矯正をしてから‥‥」という言葉も多く聞きます。上歯と下歯は上顎骨と下顎骨であり、その関係はからだにおける陰(腹側)と陽(背側)の接点ですので、噛み合わせも含めて上歯と下歯のバランスが崩れますと、からだ全体のバランスが崩れる可能性があります。
 定期的に来店されている方で、歯を削られすぎてから体調がガタガタになってしまった人がいます。歯科の先生は歯の削りすぎによる噛み合わせ不良と体調不良との因果関係を認めないようで、理解ある歯科医院を求めて苦労しています。私のところに来て、顔やからだの歪みを修整しますと、その場では状態が安定します。しかし日が経つにつれ、徐々に元の悪い状態に戻ってしまいます。私もいろいろ考えて対応していますが、物理的に歯の高さが足りない状態は整体ではどうにもできませんので、良い歯科医の先生に巡り会うことを願っています。
 “歯”にまつわるいろいろな状況を目の当たりにしていますと、安易な考えで歯列矯正を選んで欲しくはないと思ってしまいます。

重心のホームポジション
「舌のホームポジション」については以前に取り上げましたが、からだの重心にもホームポジションがあります。ホームポジションという意味は、必ずそこになければならないということではなく、動作とともに重心は前後・左右・上下といろいろ動きますが、動作が一段落したときには、重心がその位置に戻るということです。重心のホームポジションが首肩周辺にあるのか、下腹部・腰部辺りにあるのかでは、動作の起点が何処にあるのかという意味で大きな差となります。
 なお、自分のホームポジションが何処にあるのかを知る一番簡単な方法は、“痛みをこらえるとき何処に力を入れているか”でわかります。ご自分の腕などを強めにつねったとき、どこに力を入れて痛みに耐えていますでしょうか。顔を歪めたり首に力が入ってしまう人は、首肩周辺にホームポジションがある人だと思います。下っ腹に力が入って痛みに対抗する人は下腹部にホームポジションがある人です。
 そして重要な点は、首肩タイプの人は息を吸った状態で動作を停止しやすい傾向があり、からだが無防備でスキだらけの状態になりやすいということです。「ビックリすると途端にからだにきてしまう」といった感じでしょうか。
 ホームポジションが下腹部タイプの人は、例えば人混みで前方から来る人とすれ違いながら歩くことも苦と思わず、たとえからだが少々ぶつかったとしても動じることはありません。そんな感じだと思います。武道をやっている人は、如何に相手にスキを見せないかというのが大切なことですが、そのためには吸気を悟られないようにする必要があります。何故なら息を吸う動作の時、私たちは無防備になってしまうからです。

 “からだを動かすこと”は“重心を動かすこと”に等しいとも言えます。
 私たちは無意識に重心を動かしています。椅子から立ち上がろうとすれば、まず頭部や首を前に出して重心を前に動かしてから上体を屈めて立ち上がり、椅子から離れます。しかし、よく観察しますと一番先に動くのは舌先です。舌先が微妙に動くのあわせて頭や首が前に動きます。もし舌が強くこわばっていて前に出すことができない状態であれば重心移動がスムーズにできないため、椅子から立ち上がる動作でさえ余計な負担をからだに強いることになります。試しに、舌を奥に引っ込めたままの状態で椅子から立ち上がろうとしてみてください。動作がスムーズにいかないばかりか、足腰にすごく負担がかかってしまいます。このことから解りますように、重心を動かさずにからだを動かすとすぐにからだは故障してしまうかもしれません。

重心の移動

 からだの動作に合わせて重心は大小様々に動きます。たとえば座った状態から横になろうとすれば、下腹部のところにあった重心はからだの傾斜に合わせて喉元まで動きます。しかし動作が一段落して体勢が落ち着くと重心は再び下腹部のところに戻ります。これがからだの自然な動きです。自分は首肩に重心があるからといって、それを下腹部にもってこないといけないと思い込み、常に下腹部ばかりを意識して重心をそこから動かさないようにして動作をしますと、それは自然の動きに反していますので、やはりからだを壊す原因になってしまいます。からだの動きに合わせて重心は行ったり来たりします。そして戻る場所がホームポジションであり、そこが首肩周辺ではなく下腹部であることが望ましいということです。
 筋肉は使うことによって鍛えられます。ホームポジションが下腹部・腰部にある人は、特に何をするわけでなくても下腹部・腰部の筋肉をたくさん使っていることになりますので、下腹部・腰部の筋肉が強くなります。首肩周辺がホームポジションの人は首や肩の筋肉をたくさん使ってしまうことになりますので、首肩のこり、喉や舌のこわばり、顔のこわばりなどを招く反面、下腹部・腰部はおろそかになりますので、腹式呼吸が苦手で腰痛に悩まされる可能性が高くなります。
 ですから慢性腰痛に悩んでいる人、呼吸が浅くて息苦しい人、首肩のこりやハリに苦しんでいる人、さらに胃腸の調子がおかしい人などは、重心のホームポジションを首肩周辺から下腹部にもってくる訓練をしていただきたいと思います。

 腰が重症の方から「文字を書く時、重心をどうすればよいか?」という質問を受けました。文字を書くのもからだの動作ですから、重心は動かなければなりません。小さな文字を書くのでは解りづらいと思いましたので、大きな文字や大きな「○」を書くことで本人に確認しもらいながら試してみました。
 椅子に座った状態では坐骨が座面に着いています。何もしなければ左右の坐骨にほぼ均等に体重が乗っているはずです。
 大きめの「○」を左側から書き始めるには右手に持ったペンを最初にからだの左方向に持っていきます。そして紙にペン先を置き「○」を書き始めるのですが、この時左の坐骨に体重を乗せるようにしていただきました。つまり重心を左側に移動させたということです。そして「○」の上部の膨らみを書き始める時には重心を左側から中央に戻しながら下腹部を少し前に出すようにし、「○」の右側を書く時には重心を右の坐骨に乗せるようにしていただき、「○」の手前側の膨らみを書く時には重心を坐骨の後側に移すようにしていただきました。文章で説明するのは難しいのですが、要するに、手の動きに合わせて坐骨で文字を書くように重心移動をしていただきました。そして「あ・い・う・え・お」と紙に書く時も同じような感じで重心を動かしながらゆっくりと書いていただきました。
 この微妙な重心移動は普通の人にとっては、何を考えることもなくごく自然にできる動作です。しかし、腰が重症の人にとっては“自然な重心移動”が難しいのです。そしてこういう練習を通して、私が日頃からアドバイスしてきた“重心移動”の意味が実感として理解していただけたようです。
 重心移動は動作のリズムでもあり、リズム感のある動作は重心移動が伴っています。食器を洗うにしても、掃除機をかけるにしても、何をするにも微妙に重心移動をさせながら動作を行っていればからだは楽です。そして腰部は自然と鍛えられますので、腰痛も楽になると思います。
 ところが横着をして、寝転んだまま手だけを伸ばしてテレビのリモコンを取ろうとした瞬間や、思いも掛けぬ出来事にビクッとして息が上がった瞬間に、ピリッと腰や背中を損傷してしまうことがあります。重心移動の伴わない動作はとても危険です。

 重心のホームポジションが首肩周辺にある人は首肩から力が抜けにくい人ですが、そのような人に「肩から力を抜いて下さい」と言ってみたところで、なかなか上手くできません。ですから私は「力を抜く」ことではなく「力を移動させる」ようにアドバイスすることもあります。
 「では最初に首肩に力を入れて首肩を硬直させて下さい。 次にその力を胸に移動して下さい。 では力を下腹部に移動して下さい。 膝に移動して下さい。 最後は足首に移動して下さい。」と、こんな感じです。普通の人は首肩からいきなり腰や足首に重心を移動させることが容易にできるかもしれません。しかし“首肩中心”が根強い人には難しいこのなので、首肩 → 胸 → 下腹部(腰部)→ 膝 → 足首と重心を一つずつ実感しながら移動させて、からだの感覚として覚えていただきたいと思います。足首までしっかり重心を移動させることができますと、首肩からすっかり力が抜けていることが実感できると思います。
 根のしっかり張った植物は背を高くすることができますが、私たちも同様です。足元がしっかりして力強い状態であれば重力に負けることなく地面を踏みしめることができます。すると背筋がスッと伸び、軽やかで背が高くなったように感じます。そして不思議なことに重心がある足首や足は硬くなってしまうのではなく、反対に動きが良くなります。意識と重心とが合致して一体になると、そういう現象が起きます。
 「足首まで重心が降りたら歩き始めて下さい」
 これは私が首肩に力を入れながら歩いている人にアドバイスしていることですが、これだけで本当に歩き方がゴロッと変わってしまいます。ただし首肩中心の人は、重心を移動させることも、そう簡単なことではありません。本人は「足首に移動できた」と思いたいのかもしれませんが、私が見たところ移動できていないことが多々あります。

重心の移動_首から下腹部へ

 これまでたくさんの人を施術してきましたが、“癖”を改善することは互いに根気を必要とする作業です。その癖がからだに大きな影響を及ぼすものでなければ、それは一つの個性として深く考える必要はないとも思います。ところが今回取り上げましたような、首肩に力が入り続けてしまうような癖は必ずからだの不調につながります。体力のあるうちは影響が表に現れないかもしれません。ところが加齢やいろいろなことで体力が弱った状況になりますと、一気に「あっちも、こっちも、何処もそこも、おかしくなった」という事態になってしまうかもしれません。
 重心の位置を改善するという施術は、顔の歪みを修整する、首肩の張りを軽減する、腰痛や膝痛を解消する、頭痛を解消するといった、結果がわかりやすい施術とは趣が異なります。つまり急を要するものとは違いますので、ある程度良くなり、抱えていた症状が気にならなくなる程度になるとほとんどの人が来店されなくなります。呼吸が浅くて少し息苦しくても、その状態に馴れてしまうと「こんなものかも」と思ってしまうのかもしれません。
 もっと楽なからだになって人生を楽しみたいのなら、頭をスッキリとして脳の働きを良くしたいと思うのなら、首肩に力を入れてしまう癖を解消することに取り組んで、成功していただきたいと思います。