以前に、大学の陸上競技部に所属する走り幅跳びの選手が来店されました。反対咬合気味で、「地面を蹴るとき、どうも蹴り足がしっかりしない。反対咬合が影響しているかもしれないと思って‥‥。」ということでした。当時、4年生で最後の競技会に臨むに際して反対咬合を直したいという目的での来店でした。

 からだを見ますと、案の上、左の足首はグラグラしていました。これではしっかりした蹴り出しはできません。
 反対咬合と左足首のぐらつきが関係するのかどうか判断するために、反対咬合に対する施術から入りました。それほどの反対咬合ではなかったので、初回の施術で咬合は正しくなりました。左足首を確認しますと、最初よりはぐらつき感は改善されたものの、”カチッとした”しっかりした状態にはなりませんでした。
 そこでもう一度顔に戻って筋肉の状態を確認していきますと、左側咬筋のちょうど下顎のエラに近いところがゆるんでいました。ここは食物を(牛が草を噛むように) モグモグと噛むとき、キュッキュッと縮んで力こぶができるところです。この人は左側でモグモグと噛んでいないことがわかりました。
 そこで本人に右側ばかりで噛んでいる“片噛み癖”を指摘し、改善するようにアドバイスしました。また、試しに「左側のエラのところ、そこに力こぶができるようキュッと噛んでみて」とやってもらいますと、左側の足首がしっかりしました。
 この人は反対咬合が影響して地面をしっかり蹴ることができないのではなく、左側で噛んでいないため左足首や左足に力が入りきらない状態にある、ということがわかりました。そこで両方の奥歯でよく噛むことをアドバイスするとともに、マグレインという小さな粒があるのですが、それを「左側のエラのところに貼って幅跳びの練習をしてみて」と言いました。
 再度来店された時に蹴り足の具合を確認しますと、「バッチリです! すごいですね、この粒」と言っていました。競技会にはマグレインを貼って臨むと言っていました。
 
噛みしめと正しい咀嚼の咬筋

 噛むことと噛みしめることは違います。咬筋でいいますと、モグモグと噛むとき、上記の通りエラ(下顎角)の近くの部分に噛む度に力こぶができます。それがとても大切だと思います。ガムを噛むのは、どちらかというとクチャクチャに近いですから力こぶはできません。噛みながらしゃべっている人はクチャクチャと噛んでいる人ですから、たくさん噛んでいるからといって咬筋をしっかりさせていくことにはつながりません。その違いはとても大切です。
 また、噛みしめるとき力が入るのは咬筋の上の方、耳周辺部になりますのでそれはよくありません。食事でモグモグと噛む動作は筋肉を縮めたり伸ばしたりすることなので、筋肉は鍛えられます。噛みしめる動作は持続的に筋肉に刺激を入れ続けることなので、こわばりをつくってしまいます。つまり噛むことは筋肉をしっかりさせ、噛みしめることや歯ぎしりは筋肉をこわばらせてしまう傾向があるという違いがあります。からだに与える影響という意味で、この差は大きいです。
 しかし噛むことが大切だからといって、硬いものをたくさん噛むのも弊害が出ます。スルメや硬い煎餅などの食べすぎは、そしゃく筋に負担をかけることにつながりますので、こわばりをつくってしまいますし顎関節にも負担をかけてしまいます。

 さて、そしゃく筋は全身筋肉の司令塔のような役割をしているということを幾度となく取り上げていますが、今回は咬筋がゆるんでいると足に力が伝わりきれない状態になってしまうという例を挙げました。
 マグレインというのは1㎜くらいの小さな金属の粒を絆創膏で皮膚に貼り付けるものです(インターネットで検索できます)。ツボを刺激するという意味で使っている治療家が多いのかもしれませんが、私は筋肉や筋膜のゆるんでいるところを補ってしっかりさせるために使っています。ギックリ腰や過去のギックリ腰などで骨盤の筋膜が損傷していて筋力が発揮できなかったり、骨盤が歪んでいる場合などに使うことが多いのです。小さな粒ですが、普通の人からするとビックリするような変化がもたらされると感じられると思います。
 今回のケースではゆるんでいる咬筋の部分にポチョッと1つ貼っただけで足首がしっかりしました。ギックリ腰の場合は損傷部分の皮膚(仙骨・尾骨周辺が多い)に貼るだけで、それまで歩くこともままならなかったものが、普通に歩けるようになったりします。筋肉、筋膜、皮膚の不思議さが感じられる現象ですが、とても役に立つものです。

 今回はそしゃく筋のからだに対する役割が以下に大切かという一例を挙げましたが、かつて私が子供の頃、小学校の給食時間に先生が何度も何度も言っていた「一口30回、しっかり噛んで食べなさい」という言葉の大切さが本当にありがたい教育だったと思えます。
 冷え症、手汗、活力が出ない、姿勢が保てない、集中力が持続しない等々、今の私たち(特に気になるのは若い人たち)に多く見られる症状の大元は、もしかしたら単に“噛んでいない”ことからもたらされている可能性もあると思います。私たちの内に内在しているエネルギーを発揮するためにもよく噛んで食べて欲しいと思います。