首に痛みをもたらし動きを悪くする要因として、①頚椎自体の捻れと②肩甲骨のズレについて記してきましたが、もう一つ考えられる大きな要因として胸郭の歪みがあります。
 
斜角筋と胸鎖乳突筋01

 胸郭の上部と頚椎を結ぶ筋肉に3本の斜角筋と胸鎖乳突筋があります。胸鎖乳突筋は頭蓋骨の側面後部(耳のすぐ後=側頭骨)と胸郭の中心である胸骨、鎖骨につながっていますので、首の運動に関わるほか、喉の動きに関わります。「喉がスッキリしない」といったときには胸鎖乳突筋が喉の動きを制限しているかもしれません。
 そして大事なことは、胸鎖乳突筋も斜角筋もそしゃく筋と密接な関係にありますので、片噛み・噛みしめ・歯ぎしり・食いしばりなどの癖によって強くこわばってしまうことです。

斜角筋と肋骨(胸郭)
斜角筋02

 胸郭は12本の肋骨と背部の胸椎(背骨)、前面中央の胸骨でできていますが、一番上(第1肋骨)とその下(第2肋骨)の肋骨から前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋の三つの斜角筋が出ていて頚椎につながっています。大雑把に言えば、首側面の深い部分や鎖骨と首の間の凹んだ部分を押したときに痛みを感じるのであれば、それは斜角筋がこわばっているということです。
 からだにおける斜角筋の役割として大事なことの一つに“呼吸を助ける”ことがあります。息を吸ったときに胸郭は上がるのですが、斜角筋が収縮してこの動作を補助しています。つまり斜角筋は息を吸ったときに収縮し、息を吐いたときに伸張する性質を持った筋肉です。
 ということは、仮に斜角筋がこわばった状態にありますと、胸郭は上がったままの状態で下がることができなくなります。つまり息を上手く吐き出すことができなくなってしまうということです。吸うことはできても吐き出すことができないということは過呼吸状態です。過呼吸については心理的な問題とか、原因としていろいろ考えられているかもしれませんが、もしかしたら単に斜角筋がこわばっているだけなのかもしれません。噛みしめや歯ぎしりの癖を持っていて過呼吸状態にあるのであれば、ほとんど間違いなく斜角筋の問題が絡んでいるものと考えられます。
 そして斜角筋のもう一つの役割は、首を支え、運動を助けることです。
 以前に「首が落ち着かなくて辛く、手で首を支えていないと立っていることも座っていることもできない」という方が来店されました。原因は斜角筋がゆるんでいて働きが悪く、頚椎を支えることができなかったからです。この方は斜角筋自体に問題があったわけではなく、腹筋の働きが大変悪く胸郭が上がったままの状態になっていました。前にも記しましたが、筋肉は骨と骨を結んでいて、その間の距離が遠ざかるとこわばり、近づくとゆるんでしまいます。胸郭を下に下げるのは腹筋の働きによるものですが、腹筋の働きが悪いために胸郭が上に上がってしまい、第1肋骨、第2肋骨と頚椎との距離が短くなってしまったために斜角筋がゆるんで働けなくなってしまったのです。
 また首を動かす筋肉はいくつかありますが、斜角筋は首の運動を補助する働きを持っています。補助する筋肉ですから、斜角筋がゆるんで働きが悪くなったとしても首の運動ができなくなるということはほとんどありません。しかし反対に斜角筋がこわばってしまいますと、伸びづらくなりますので首の運動に制限がかかるようになったり、首を動かすと痛みを発するようになってしまいます。
 これらをまとめますと、次のようになります。
①斜角筋がゆるんでしまうと首を支えるのが辛くなり、肩や他の首の筋肉に負担がかかるようになってしまう。
②斜角筋がこわばってしまうと首の動きに制限がかかり、首の運動で痛みを発するようになってしまう。
③斜角筋がこわばってもゆるんでも呼吸が悪くなる。

胸鎖乳突筋と胸郭
 頭蓋骨で耳のすぐ後の下部に出っ張りがあります(乳様突起)。そこと胸骨の上部、鎖骨を結んでいる筋肉を胸鎖乳突筋といいます。前面から見ると、耳の後部から首前面を斜め下に走って胸郭の上端中央につながっている筋肉です。首の運動に関わる筋肉で、横を向いたときに首の前面に大きく張り出すのが特徴です。(左を向くとき右側の胸鎖乳突筋が収縮して張り出す)横を向いたり、首を後に傾けるときの主動作筋で強い力を持っています。
胸鎖乳突筋_側面01

 この筋肉のこわばりによる直接的な症状としては、耳の下から下顎角(エラ付近)の奥にかけての痛み、気管が詰まったような感じや飲み込み(嚥下)に引っかかりを感じる症状などがあります。胸鎖乳突筋が走行しているラインの深部には気管や甲状軟骨(喉仏)がありますが、筋肉がこわばることによって胸骨も鎖骨も気管の方に引きつけられますし(軽く首を絞められた状態)、筋肉が太くなって張ってしまうため、気管や食道が圧迫されてしまいます。常にノドがスッキリしないと感じている人は、もしかしたら恒常的に胸鎖乳突筋がこわばっているのかもしれません。
胸鎖乳突筋_前面

 首の動作に対する直接的な影響としては、例えば右側の胸鎖乳突筋がこわばっていますと、右側が向きづらくなります。普通にしていても少し左を向いているような状態にあるときは、右側の胸鎖乳突筋がこわばっているのかもしれません。(斜頸の場合は別)
 また間接的な影響としては乳様突起の位置をずらします。つまり側頭骨を歪ませますので耳の調子が悪くなったり顔や頭部の歪みの原因となります。

 胸鎖乳突筋は鎖骨と胸骨に付着していますので、鎖骨と胸郭の影響を受けます。
 こんな例があります。右手をたくさん使う仕事をしている人は、手~腕のこわばりによって鎖骨が右側にずれます。すると左側の鎖骨はノドの前あたりまでせり出してきますが、これによって左側の胸鎖乳突筋はこわばって硬くなり、左側の筋肉や気管を直接圧迫するようになります。首前面から左肩にかけてとノドの左側がいつも圧迫されているように感じ、ツバを飲み込んでも左側に引っかかりを感じるので常に不快感を感じる状態になってしまいます。
 胸骨は肋骨と一体になって胸郭を形成していますので、胸郭の歪みは即胸骨の歪みにつながります。そして胸郭は簡単に歪んでしまいますので、胸鎖乳突筋が変調をおこし側頭骨を歪ませて左右で耳の位置が違うといった人が多くいるという実態があります。

そしゃく筋と斜角筋と胸鎖乳突筋
 細かい連動関係については私もまだ把握しきっているわけではありませんが、そしゃく筋と斜角筋と胸鎖乳突筋はとても深い関係にあることはわかっています。片噛み、噛みしめ、歯ぎしり、食いしばりといった癖によってそしゃく筋がこわばりますと、連動して斜角筋や胸鎖乳突筋もこわばります。
 ですからこれらの癖を持っている人は、顔が歪み、首が捻れ、鎖骨や胸郭が捻れるといった状態を当然持ってしまいます。そして首の動きが悪くなったり、肩関節の動きが悪くなったり、膝の状態がおかしくなったりという状態を招くことになる可能性もあります。

 斜角筋、胸鎖乳突筋と胸郭の状態が首の痛みや運動制限につながるということで説明してきましたが、施術の上で実際に修正する部位は、手の筋肉、脇の下(前鋸筋)、そしゃく筋が主なところです。これらを整えることによって胸郭、鎖骨、頚椎をなるべく正しい状態にもどします。多くの場合は、これで今回取り上げた首の痛みや運動制限を改善することができます。