骨盤の歪みが原因で顕著に自覚できる症状は、腰部の張り、腰痛、下肢のしびれ(坐骨神経痛)、股関節の不調、殿部の痛みなど腰部と下半身に現れる不調です。しかし、それ以外にも頭痛、肩甲骨周辺の張りや痛み、お腹の張り、手の不具合など上半身にも影響が及ぶことがあります。また、骨盤の歪みが原因して太る、胃腸の調子が悪くなる、などということも指摘されています。
 ところで、多くの整体院では「脚の長さが左右で違うのは骨盤が歪んでいるから」ということで、脚の長さを揃えるために骨盤や背骨や股関節をグイッとやって骨盤を矯正するようですが、私はそのようなことをしたことがありません。それは一種のパフォーマンスにすぎないと思っているからです。
 私が整体を学んでいた学校でも、そのような手技を教えていましたが、先生は「ま、一時的な効果だけど‥‥」と言っていましたので、そんな手技は信用できませんでした。
 骨盤矯正も、その他の骨格矯正も、理屈をちゃんと理解した上で行わなければ本当の意味での“矯正”ではありません。そして骨格矯正は“バランス”が大きなキーワードになると考えています。骨盤に繋がっている多くの筋肉のバランス、からだに捻れをもたらせている筋膜のバランス、それらを整えてはじめて“骨盤矯正”の目的が達成されるのだと考えています。

骨盤で確認するポイント
 骨盤の構造のところで説明したとおり、骨盤の骨格は腸骨、恥骨、坐骨が一体となった一対の完骨と仙骨と尾骨でできています。“骨盤が歪む”ということは関節で骨と骨の関係がおかしくなるということですが、一番影響力が大きいのは完骨(腸骨)と仙骨の間にある仙腸関節です。この関節は外側も内側も強力なじん帯でガッチリかためられていますので、一昔前まで「仙腸関節は固定して動かない」という定説もあったようです。ところが実際は、仙腸関節が歪んでいることがとても多いです。

骨盤背面

①左右の腸骨と仙骨の関係
 骨盤上部を背側から見ますと仙骨の上部(専門用語では仙骨底といいます)を挟んで左右に腸骨があります。右利きの多くの人は、仙骨底が右側(時計回り)に少し傾いていて、左側の腸骨が後に傾き、右側の腸骨が外側前方に傾いている傾向にあります。そして左側股関節の伸びが悪いため、うつ伏せになったとき、左側のお尻が右側よ少し高くなっています。腰部も右側より左側がこわばっています。これは右手ばかりを使っていることと、右足に体重を乗せて立っていることが原因だと考えられます。からだには重心を掛けた方の筋肉が伸びるという原理がありますので、右足に体重をかけて立つ癖のある人は、右半身の筋肉がゆむみ、左半身の筋肉がこわばってしまいます。
 この歪みを修整する作業の第一段階は、腸骨を正しい位置に戻せば仙骨の歪みが改善されるのか、あるいは仙骨を正せば腸骨の歪みが改善されるのか、どちらであるかを把握することです。それによって調整しなければならない筋肉がまったく違ってくるからです。

②骨盤の捻れ
 スカートやジーンズなどを履くと、どうもどちらかの骨盤が前に出ているように感じるとか、動いているとスカートが回ってしまう、などというときは骨盤全体が捻れているからかもしれません。
 骨盤が捻れてしまうのは、①の腸骨と仙骨の関係に歪みがあることの他、上半身や下肢からの捻れが原因となっていることも考えられます。
 上半身の捻れが原因となっている場合、多く見られるのは胸郭の上部が利き腕の方に引っ張られ、その反動で胸郭の下部が反対方向に捻れを起こし、その捻れの流れによって骨盤が捻れてしまうことです。鎖骨も注意深く観察すると左右対称でなかったり、脇腹の肋骨を触った感じが左右で違うと感じるときは確実に上半身が捻れています。この捻れは、筋肉で云えば腹斜筋、腹横筋、前鋸筋、大胸筋などのバランスが悪いことでもたらされている可能性が高いです。
 下半身(下肢)からの影響で骨盤が捻れている場合は、原因として考えられることはたくさんあります。膝や足首の不調、O脚、外反母趾、内反小趾、足趾の捻れや曲がり‥‥、ともかくたくさんあります。
 このような場合、仰向けで寝たときに左右の脚の開き具合が股関節で違っていることが見受けられますが、骨盤の捻れを手動で直すと足の開き具合が少し改善するのか、あるいは脚の開き具合を手動で修正すると骨盤の捻れが少し改善するのかによって骨盤の捻れが下半身に影響しているのか、下半身の捻れが骨盤に影響しているのかを把握する目安になります。

③骨盤の開き
 「骨盤が開いている」とはよく使われる言葉ですが、正確には、骨盤の上部が開いているのか、下部が開いているのか、両方が開いているのか、ということを把握しなければなりません。
 女性の場合、出産のときに骨盤が開き、出産後時間をかけてゆっくりと元の状態に戻っていきますが、産後のケアが悪いと骨盤が開いたままの状態になっていることがあります。その場合は、上部も下部も開いた状態の場合が多く見受けられます。
 出産や生理時以外の通常の場合、骨盤は上部と下部がシーソーのように一方が開けば他方が閉じるという動き方をします。例えば、太りすぎや腹筋の働きが悪くなって骨盤の上部(上前腸骨棘=腰骨に手を開いて当てたときに人差し指が当たる部分)が開いてからだの真横近くに来ている場合、骨盤の下部が閉じて左右の坐骨の間が短くなっています。また反対に骨盤底部がゆるんだままで坐骨間が開いていますと、骨盤上部は狭くなって窮屈になってしまいます。
 良いスタイルとかダイエットとかを目指す場合は、大抵骨盤上部の開きを改善したいということになりますが、そのためには骨盤底部の筋肉のこわばりを改善しなければなりません。それをせずに骨盤上部をバンドやコルセットなどで締めつけたところで、それは骨盤の動きの道理に合っていませんので、効果を期待するのは難しいことになります。
 “骨盤の開き”は次に説明する“骨盤の傾き”と表裏一体の関係にありますので、「開きを直したいなら傾きを直さなければならない」ということになります。

④骨盤の傾き
 骨盤の傾きは骨盤矯正にとって非常に重要なポイントだと私は考えています。
 私たち日本人は諸外国の人たちに比べると骨盤が後ろに傾いている(後傾)傾向にあると云われています。その結果、お尻が下がって脚の長さも実際より短く見えてしまいます。また、若い頃に比べて歳を重ねていくとお尻がたれてくる傾向がありますが、それは骨盤の傾きが変わった影響による可能性が考えられます。
 骨盤は背面から見ますと、仙骨を挟むようにして左右の完骨が両側に配置され股関節で下肢とつながっています。そして骨盤の傾きでカギを握るのは仙骨です。仙骨が後に傾きますと、仕組みとして両側の完骨は下部が狭まり上部が開いて骨盤全体が後に傾きます。また両側の完骨の下部(坐骨部分)の間が狭まるか、上部が開きますと仙骨が下がるか後傾してしまい同様に骨盤全体が後に傾いてしまいます。
 仙骨は前傾しすぎても、出っ腹、出っ尻になってしまうのでよくありませんが、実際に前傾している人は太りすぎてお腹が大きく張り出している人ぐらいで、多くの場合、仙骨の後傾を修正するようになります。

仙骨の角度と脊椎の状態

・仙骨後傾の場合
 仙骨の状態は頭部の後頭骨、背骨の際にある脊柱起立筋(脊柱固有筋群)、下肢の内側の筋肉、そして腹直筋の状態によって決まります。

後頭骨と仙骨に影響を与える脊柱起立筋と下肢の筋肉

 頭部の後頭骨との関係で云えば、後頭骨が上がると仙骨は下がります。呼吸で息を吸うときは頭部が膨らむとともに後頭骨が上がりますが、その時仙骨は下に動きます。息を吐くときは反対に後頭骨が下がり、仙骨は上がります。
 いつも下を向き加減、あるいは背中を丸めて作業をしている時間が多い人は、仙骨~背中~首後面とつながって後頭部に達している脊柱起立筋が伸び気味になっていますので後頭骨が上にずれた状態になっています。つまり仙骨は下がった状態になっているということになります。

腹側から見た骨盤の歪み_1

 また、腹直筋は解剖学的には恥骨から始まり肋骨につながっている筋肉ですから、直接的には仙骨とは関係ないと考えられがちですが、現実には腹側の直筋は下顎~首の前面~胸骨~腹部、恥骨を越えて骨盤底~尾骨までつながっています。ですから腹直筋がこわばりますと尾骨を腹側に、つまり前下方に引っ張ることになります。そうなりますと尾骨とつながっている仙骨は後に傾いてしまうことになります。
 時々、喉の周辺から下顎にかけてとても硬くこわばっている人をみかけますが、それは舌筋などがこわばっているということです。このこわばりはそのまま腹直筋につながり、尾骨と仙骨を後傾させる原因となります。また、次に説明しますが、腹直筋のこわばりは恥骨を頭部の方へ引っ張りますので、骨盤全体が後傾する原因になります。
 
 原理について確定的なことは云えませんが、実際の現象として、下肢内側の筋肉の働きが悪くなりますと仙骨は下がってしまいます。足の母趾の内側から踵にかけて、ふくらはぎの内側(ヒラメ筋内側)、太もも裏側の内側(半膜様筋)、これらの筋肉がゆるんでいますと仙骨は下がってしまいます。

・完骨が後傾する場合
 完骨は腸骨(腰骨)と恥骨と坐骨の合体したものですので、骨盤の中で後面中央の仙骨・尾骨を除いたものです。
 腹側では恥骨が腹直筋とつながっていますので、腹直筋がこわばりますと恥骨が頭部の方に引きつけられ骨盤が後傾します。仰向けで寝たとき、恥骨部分が盛り上がっているように見える場合は、このような状態である可能性があります。あるいは、腹直筋が大丈夫でも外腹斜筋や内腹斜筋がこわばりますと、それらは腸骨の傾きに影響を与えますので、片方の骨盤が前傾して反対側が後傾するといった捻れを生じる可能性があります。
 また、内腹斜筋や腹横筋の働きが悪くなりますと骨盤上部は開いてしまいますので骨盤は後傾してしまいます。

腹側から見た骨盤の歪み_2

 骨盤は下部(骨盤底)が狭まると上部が開くとともに完骨自体が後傾する仕組みになっています。骨盤底(尾骨と恥骨と二つの坐骨の間)には幾つかの筋肉と強靱な筋膜がありますが、それらがこわばってしまうと骨盤底が狭くなります。また、加齢によって骨盤底は柔軟性を失う傾向がありますので、年齢とともに骨盤底が狭くなり骨盤が後傾するようになってしまいます。高齢者のお尻がすぼんで下がり、貧弱に見えてしまうのはこのためだと考えられます。また、若くても、いつも座ってばかりの作業をしていますと、やはり骨盤底はこわばってしまい骨盤が後傾してしまいます。

骨盤矯正の考え方
 骨盤はからだの中心ですから、からだ全体を考えたとき、中心である骨盤を整えることが、からだ全体を整える上での基礎となります。あらゆるところを整えたとしても骨盤が歪んでいれば、やはり歪みが残ってしまいます。慢性腰痛、慢性的な首・肩の張り、慢性的な足のだるさ、血行不良、冷え、‥‥あらゆる慢性的な不調は骨盤の歪みが関係している可能性があると思います。
 しかしながら――これが私たちのからだが部品を組み合わせたロボットと一番違う点ですが――中心である骨盤もまたからだの各部分との依存関係にあります。骨盤が歪めば手にも足にも歪みが現れますが、反対に手や足が歪んでも骨盤が歪んでしまうのが私たちのからだです。ロボットは手の調子が悪くなったとしても骨盤に相当する部分に影響を及ぼすことはありませんので、頭部がおかしくなったり、足がおかしくなったりすることはありません。不具合になった手の部品を修理したり交換すれば事足ります。しかし私たちのからだはすべて繋がっていますので、手がおかしくなると骨盤が影響を受け、その歪みによって頭痛になったり、歩き方がおかしくなったり、と骨盤の歪みによる影響が全身に現れます。ただ歪み方が一定の範囲内におさまっていて、なおかつ筋肉の働きに粘りと対応力があれば、歪みが不調として自覚される程にはならないというだけです。
 ですから骨盤矯正に際しては、骨盤だけに着目するのではなく、からだの各部位との関連性、特に普段たくさん使っている部位=手や足や顔との関連性の中で骨盤を修正するように考えることが正しい在り方だと思います。あるいは、お腹の冷えは直接骨盤に影響を与えますし、精神的緊張など心理面との関連性もあると思います。

 私は通常、腰痛などに対する施術では、はじめに足趾やふくらはぎを整えることからはじめます。そして骨盤底の筋肉を整え、下半身の筋肉状態がより正常に近づくようにして、その後で骨盤自体を改めて検査し、歪みの状態を確認した上で手や肩や頭部といった上半身への施術を行っていきます。ギックリ腰、肉離れ、筋肉を損傷したなど、明らかにケガと思われることが原因でないかぎり、骨盤を歪ませているのは他に原因があると考えているからです。
 脚の長さが左右で違っているのは確かに骨盤が歪んでいるからです。だからといって骨盤や股関節や背骨をグイッと矯正したところで、極めて一時的に脚の長さは整うかもしれませんが、骨盤に歪みをもたらせている原因を修正しなければすぐに元の状態に戻ってしまいます。イメージ的に、確かにグイッとやると整体っぽいかもしれません。私のようにじっくりやっていると整体っぽくないかもしれません。しかし、理屈を一つ一つ考えていくとこういう施術になるのだと思います。
 「ひとつながりの身体」というのが私の店の看板ですが、本当にからだは頭の天辺からつま先まで、ひとつながりに繋がっているのです。

 今回は骨盤の歪みの実際と骨盤矯正に対する考え方について記しました。次回は施術の実際について記します。