「背中が痛くて辛い」「背中が痛くて仰向けで寝ることができない」と訴えてこられた方を施術するに際して最初に確認することは、背中のどの部分が張っていて辛いのかということです。そして実際にどの筋肉が張りや痛みの原因となっているのかを細かく正確に把握することが重要です。“だいたいこの辺り”のような大雑把なとらえ方では、施術を行ってもまったくかいぜんされないという結果に陥ってしまうことがあります。

背中の張りや痛みの区分

 肩甲骨の内側を中心に、肩甲骨から肩にかけて張りや痛みであれば、それはたいがい肩甲骨のずれによる筋肉の張りが原因となっています。
 肩甲骨の下部から肋骨の下部にかけて腫れや張りや硬さが見られる時は、胃・膵臓などの消化器系や腎臓など内臓の不調が原因となっていることが多いですが、猫背や背骨の弯曲が強いことなどが原因となっていることもあります。
 そして、その下、肋骨の下縁から骨盤にかけての部分に張りや痛みがある場合は腰痛として対応しますが、施術者として一番気を使うのは、図に示した②の“肩甲骨下部の張りや痛み”に対する対応です。

内臓の影響による背中の張りと痛み
 肩甲骨下部から肋骨下部にかけての張りや痛みの場合、胃などの消化器系の不調や腎臓の腫れが原因となっている場合があります。実体験として実感している人も多いと思いますが、胃の調子が悪くなるとなんとなく背中が張ってしまったり重くなって息苦しさを感じたりすることがあります。
 胃、膵臓、十二指腸、小腸、大腸など内臓器官も筋肉でできていますので、収縮したり伸張したりすることはもちろん、硬くなったり柔らかくなったりします。筋肉はこわばると太くなりますので、例えば何らかの理由で胃の筋肉がこわばりますと硬くなって太くなるため背中側の胸郭(肋骨)を圧迫することになります。胸郭が内側から圧迫されますと胸郭の外側にある骨格筋はその圧迫に抵抗するように緊張しますが、これが背中の筋肉がこわばりであり、背中の筋肉が張ってしまう理屈ではないかと思います。
 こうなりますと胸郭の内側では胃が硬くなって動きも悪いので消化機能が不十分な状態になり、胃もたれや逆流性食道炎などの症状をもたらすかもしれません。胸郭の外側では一つ一つの肋骨を結び付ける筋肉(外肋間筋、内肋間筋)や肋骨に付いている脊柱起立筋などがこわばるため張りと痛みを伴うようになります。するとこれら骨格筋のこわばりは肋骨の動きをさらに制限しますので、胃は益々動かなくなるし呼吸もしづらくなります。このような悪循環に陥りますと、この状態が慢性化してしまうため、“辛くて夜も眠れない”などという状態になるのではないかと思います。
 背中をマッサージして骨格筋の張りやこわばりを改善することで、一時的に楽な状態になることはできますが、元々が内臓の不調から始まった症状であれば、内臓の不調が改善しない限り同じ状態を繰り返すことが考えられます。ですから胃の不調が原因で背中に張りができたと考えられるのであれば、一時的に断食をして胃を休ませるようにした方が良いのかもしれません。

 本日、まさにこのような方が来店されました。肩甲骨下部の背筋(脊柱起立筋など)はゴリゴリにこわばって太くなっていました。肋骨に張り付いているような深層にある筋肉はコリコリでした。すぐに胃の不調を疑いましたので、本人に胃の調子を尋ねますと、逆流性食道炎でかなり調子が悪いとのことでした。「病院の薬では背中の張りと痛みは取れない」ということで私のところにきたのだということです。
 こういった場合、整体の施術でできることは限られます。東洋医学的な“ツボ”や手と足裏にある内臓の反射区を利用することが主な対応策になります。その他には腹筋の状態を整え、胸郭の動きを制限する筋肉の状態を整えることが施術内容になります。

反射区と内臓
 いわゆる“足つぼマッサージ=足リフレ”では、足裏にある反射区を刺激することで内臓の働きを整え体調を改善するという理屈がよく説明されます。私のところでも30分くらいの足リフレをやっていますが、正直なところ、この施術を単発に行ったところで内臓の働きが良くなるとは思えません。むくみを取って足をスッキリさせるには足リフレはとても良い施術だと思いますが、単発的な施術ではそれ以上は望めないと考えています。例えば週に一度、あるいは二週に一度くらいのペースで定期的に繰り返すのであれば、それは内臓の働きを全体的に整える効果は多いに期待できますが。
 ただし、反射区の一つ一つは確かに効果があると考えています。このブログでも幾度か紹介させていただきましたが、腎臓の反射区、小腸の反射区、そして今回対象となる胃・膵臓・十二指腸など消化器系の反射区は私もよく施術に取り入れています。そして、その施術方法は学校で習ったとおりではありません。学校では一つの反射区を数回指圧して刺激するように教えられましたが、私が現在実際に行っているのは、反射区にある“凝り”や”しこりのようなもの”が改善するまで入念に刺激し続けることです。一箇所の反射区を1~3分くらい指圧し続けることもよくありますが、そうしていると、ある瞬間にしこりがフワッと緩み始めるようになります。この状態にもっていくことが反射区の効果を実際の内臓に期待できる段階だと考えています。
 今回来店された方の胃・膵臓・十二指腸の反射区は本当に硬かったです。腎臓の反射区もかなり硬かったです。手と足裏のこれらの反射区をかなり入念に施術しまして、ふくらはぎにある足三里(胃経のツボ)も入念に指圧しました。それによって背中の張りは緩んできて、呼吸に合わせて胸郭が動ける状態にまではなりました。その後は、お腹側で胃と呼吸の動きを制限する腹筋の変調を改善して施術(60分)を終えました。
 ご本人は「楽になった!」と仰ってましたが、私としてはもう少し時間があれば、もっと楽にできたのではないかと感じました。
 内臓の不調に由来する今回のような背中の張りや痛みは、内臓が絡んでいるだけに「必ず改善する」とは言い切れません。しかし、病院の治療では顕著な改善が感じられないと思われている人も多いと思います。そんな場合は整体でも“やりよう”はあるということをお知らせしたいと思います。

内臓の不調以外の肩甲骨下部から肋骨にかけての背中の張り
 単純に骨格と骨格筋の関係でこの部分に張りができるもありますが、それは姿勢による影響が一番多いかもしれません。いわゆる“猫背”も度合いが強くなりますと、萬年「背中の張りがとれない」となってしまいます。
 背骨は横から見ますとゆるやかなS字のカーブ描いていて、ちょうど肩甲骨の下部が後弯の頂点になっています。猫背の姿勢では、この頂点部分に重みが強く掛かるため、それに対抗するように背中の筋肉がこわばって頑張るようになります。それが背中の張りとなり、痛みや辛さを招くことになるのだろうと思います。
 この場合も、マッサージなどで背中の筋肉の張りを改善すれば状態は一時的に良くなりますが、しかしそれは、あくまでも一時的な効果しか期待できません。根本的に改善するためには“猫背の改善”が不可欠になりますが、それについてはまた後日触れたいと思います。

 胃が不調になるから背中が張るのか? 背中が張るから胃の調子が悪くなるのか?
 それは、どちらもあり得ると思いますし、消化器系の調子と背中のこの部分の張りとは互いに関係し合っていると考えた方が良いと思います。
 「病院で胃の治療を行い調子が良くなってきたら、自然と背中の張りも取れてきた」ということもあるでしょうし、「背中の張りが取れてきたら胃の調子も良くなった」ということもあり得ます。
 もし、慢性胃炎などで長く病院での治療や薬に頼ってきたがなかなか状態が改善しないということであれば、一度整体の施術などを試みることをお奨めします。