施術に際して私がとても気にするのは、手術歴やケガ、ムチウチ、捻挫、脱臼などの経験です。
 医師は手術が成功すれば、その縫い痕がどう体に影響を与えるかについて気にしていないと思います。ムチウチや捻挫も、患部の状態が良くなり痛みがなくなってしまえば、それで治療は終了になります。しかし、それらは後々まで体の働きに影響をもたらし続けていることがほとんどです。
 最近は出産を帝王切開で行う人が増えています。お腹を切るわけですが、どの方向にメスを入れるかはとても重要なことです。帝王切開をされた若い方々に尋ねますと、多くが下腹部を横方向に切っています。ビキニやショーツを着けたときに縫い痕が目立たないようにするためだと言います。しかし、整体的に見ると横にはメスを入れて欲しくはないのです。

 体にはいろいろなエネルギーが流れています。熱エネルギーや電気エネルギーは体温測定や心電図測定などで計ることができますが、その他の質量のないエネルギーは現在の測定器では測ることができません。東洋医学で言う“気”やインド医学で扱う“プラーナ”などのエネルギーは現代科学や医学では無視されているも同然の扱いです。
 さて、これらのエネルギーは原則として体を縦方向に流れています。体の中心は骨盤ですから、骨盤と頭部の間を遠位方向(骨盤から離れる方向)、近位方向(骨盤に向かう方向)にエネルギーが行き交い、体が機能するようにできています。上肢(腕と手)と下肢(脚と足)はその延長線上にあるので、やはり縦方向の流れです。体には皮膚、皮下筋膜、筋肉、骨という組織の層がありますが、それぞれにエネルギーは流れています。手術をして皮膚や皮下筋膜を切開した場合、それはメスを入れた部分でエネルギーの流れが一時的に遮断される状況になります。その後、縫合によって切開部分を修復するのですが、それは分断されてしまった部分を接着剤で繋ぎ合わせたようなものだと考えていただきたいと思います。見かけ上は繋がっていますが、機能的には十分に繋がった状態ではないと言えます。つまり、メスを入れたところでエネルギーの交流が分断されてしまっているのです。
 エネルギーの流れ方は縦方向ですから、メスを縦方向に入れれば、エネルギーの分断はとても狭い範囲に限定されますが、横方向にメスを入れた場合は分断される範囲が広くなります。そのため、筋膜や筋肉の力が十分に発揮できない状態になってしまいます。
 私は18歳の時、スポーツをしていてベルトのバックルがお腹を擦り、でき物ができました。それまでは、でき物ができたとしても薬剤を塗って膿を吸い出していましたが、その時はトレーナーの勧めもあり、ある有名な病院で処置をしてもらいました。その処置は、でき物にメスをいれて膿を取り出すというものでした。臍下の部分に横方向に3㎝足らずのメスを入れただけですが、正中線上であるということもあって、その傷は今でも体に影響を及ぼし続けています。

 以前に肝臓ガンを手術した後、体に力が入らなくなってしまったという方が来店されました。それは仕方のないことですが、その方の手術では腹部を縦と横に大きくメスを入れていました。その影響で、まったくと言っていいほど腹筋に力が入らなくなっていたのです。その時はいろいろと考えられる手を尽くしましたが、人体活動の要である腹筋が働けない状態であるならば、結果的に私の施術は単なるごまかしでしかなくなってしまいます。ちょっと良くなったかな? と思っても、すぐに元の状態に戻ってしまうのです。

縫合した部分は毎日ケアして欲しい
 例えば、帝王切開によって下腹部に横方向15㎝の縫合部分があったとします。この部分の影響で腹筋の働きが悪くなり、呼吸が浅くなったりします。呼吸が浅くなると眠りが浅くなったり、動悸や息切れを感じたりするようになるかもしれません。体のどこかに常に力が入ってしまい、だらーっとリラックスできる感じを味わうことができなくなってしまうかもしれません。そんな時、縫合した部分に優しく手を当てていますと次第に腹筋の働きが回復し始め、体が楽になっていきます。手を当てることによって分断されていたエネルギーの流れが再開されるからです。
 あるいは、粘着力の弱い絆創膏を貼ると、手ほどではありませんがエネルギーは流れ出します。(キネシオテープは目があるので、伸び縮みする方向を縦に貼る)このようなケアを毎日行っていますと徐々にではありますが縫合部分の細胞の働きが良くなり、やがて手当てや絆創膏はいらなくなるかもしれません。
 帝王切開に関わらずメスをいれた部分は、このように手当てしていただきたく思います。乳がんの手術で胸にメスを入れ、その後足のむくみが強くなり、足リフレに通われていた方も絆創膏を貼っていただくことによってむくまなくなり、足リフレが必要なくなった。アキレス腱を断裂して手術したところにテープを貼ることによって足の動きがスムーズになった。そのようなことをたくさん経験しています。

捻挫やケガの痕は完全に良くなるまでケアする
 病院では腫れや痛みがなくなり、運動機能が回復すると治療を終えてしまうことが通常のようです。ところが捻挫してから度々足をくじくとか、歩き方がなんとなく不安定のままである、ということはよくあることです。それは、私から見ますと傷がしっかり治っていないということです。
 私は整体師ですから痛みがなくなっただけでなく、その後骨格がカシッとしっかりしているかどうか、筋肉の働きがちゃんと戻っているかどうかに着目します。すると、かつて大きな捻挫や突き指を経験した方は、治癒が不十分である場合がほとんどです。そしてそれによって腰痛になったり、ギックリ腰になりやすかったり、いろんな不具合を招いていることがあります。乳幼児の頃の脱臼やそれに近い状態によって四十肩や五十肩になっている人もいます。肩のこりや張りがそれらの影響に夜場合もあります。軽微なケガや損傷を除いて、これらは何十年経っても自然に回復するものではないと考えています。
 若い頃は体力がありますので、体のどこかにこれらの不具合があったとしても、それを補うだけの力があります。ところが加齢とともに体力が衰えてきますと、カバー力が足りなくなりますので不具合の影響がダイレクトに現れ、様々な症状をまねいてしまうと考えています。
 ですから「昔の傷だから関係ない」などと考えず、その傷やケガについてちゃんとケアすることを試みて欲しいと思います。かつてのギックリ腰や肉離れの影響が残っていることは本当におおいです。ケアの方法は手当てが一番ですが、絆創膏やテープを使うのもよいと思います。