ペンや箸の持ち方は“個性”という面もありますので、一概にどうこう断言することはできません。しかし、ご自分が“本当はちゃんと持ちたいのに、それでは上手く使いこなすことができない”と思っているのであれば、それは筋肉の働きに問題があるからかもしれません。
 
ペンの持ち方

 先日来店された若い女性は、写真下のようにペンを人差し指と中指の間に挟んで使っていました。箸も上手く使いこなすことができないとも言っていました。そしてこの方は人差し指の延長線上、手首を越えたところにガングリオンができていました。
 この方の手や腕を調べていくと、橈骨の手首側が少し浮いていました。そして人差し指には全然力が入らない状態でした。この橈骨のずれはおそらくガングリオンと関係が深いと思います。
 浮いている橈骨を私が手動で沈め正常な位置に戻しますと、途端に人差し指に力が入るようになり、ペンを写真上のように持って使うことができるようになりました。本人は、幼い頃からペンも箸も上手く持つことができずにいたし、字を速く書くことができなかった、と言っていました。
 その後、施術によって橈骨の状態をしっかりさせ、ペンを持って字を書いていただくと、持ち方はごく普通になり、人差し指に力が入るため、しっかりとした字をスラスラ書くことができるようになりました。そして面白いことに、この状態で以前のような持ち方(写真下)をしていただき字を書いていただくと違和感を感じると言っていました。写真上の持ち方の方が自然な感じになるということでした。
 これは使い方が変わるように整体施術を行ったということです。浮いてた橈骨を浮かない状態に修正した結果、人差し指に力が入るようになったので、人差し指と親指でペンを挟む持ち方の方がしっくりし、自然の形になったということです。もし橈骨の状態を直すことなく人差し指にばかりにとらわれ、いろいろ施術してみたところで、普通の持ち方で自然と上手く使える状態にすることはできません。

 箸の使い方も同様だと思います。箸を上手く使えるよう練習してもなかなか使いこなすことができないと思っている方は、骨格的に修正すべき点があるのだと思います。親が子供の箸の使い方に不満があり、それを矯正するために口うるさくしつけたとしても、本人の手や腕の骨格に問題があるなら、何度練習しても上手くできないため、それは“しつけ”ではなく“しごき”になってしまい、強い精神的ストレスになるのだろうと思います。
 また、大人であってもこの方のように「箸の持ち方も‥‥」と思われている人は、マイナス思考を抱いているよりも“骨格を整えるだけで上手くできるようになりますから”と一度骨格を修正することをおすすめします。
 
前腕の骨と屈筋

親指・人差し指と中指・薬指・小指は役割が違う
 肘より手首にかけてを前腕と言いますが、前腕には二つの骨があります。小指側を尺骨、親指側を橈骨と呼びます。手首付近では橈骨の方が太く親指側にありますので、一般的なイメージでは橈骨が前腕の中心であると思われているかもしれませんが、実際は小指側にある尺骨が中心になっています。筋肉の働きも同様で、尺骨に付着する筋肉が“力を出す働き”をし、橈骨に付着する筋肉が“細かい動き”を行います。そしてざっくり区分けしますと、親指と人差し指を曲げる筋肉は橈骨側にあり、中指・薬指・小指を曲げる筋肉は尺骨側にあります。ですから、何かを力強く握るとき、小指を中心に中指・薬指を合わせた三本の指で握るのが正しい在り方です。野球のバットを握る。テニスのラケットを握る。車のハンドルを握る。これらの動作は小指・薬指・中指の三本を中心に行わなければ体は崩れてしまいます。ところが緊張したりリキんだりしますと思わず親指と人差し指に力が入ってしまいます。すると手が細かい動作をすることができなくなるばかりでなく、肩にも力が入ってしまい肩こりを招く原因となります。
 字を書くとき、ペンを親指と人差し指でつまみますが、その時小指を軽く曲げます。小指を伸ばしたままだとペン先に力が入らないため、字を書く動きが頼りなくなり遅くなります。小指を曲げること、すなわち尺骨側の筋肉を収縮させることによって支えがしっかりするため、ペン先の細かい動きがスムーズにできるようになります。

 親指と人差し指は字を書いたり、箸を使ったり、針を使ったりと細かい作業を行うための指です。そしてその他の三本の指はその動作を支えるための指です。それが一般的な動作の基本だと考えます。
 先日、趣味でミュージックベル(ハンドベル)を長年されている女性が親指の腱鞘炎で来店されました。施術後、「どのようにベルを持っているのですか?」と再現してもらいました。すると柄を親指と人差し指でギュッと握り締めました。その状態でベルを動かし演奏しているとのことです。
 「その持ち方では腱鞘炎にもなるし、肩も凝るし、体に良くありません」と申し上げました。親指と人差し指に力を入れてしまうと肩に力が入った状態になり体の動きは制限されます。その状態で音楽演奏のような繊細な動きを行うことは体にとって非常に迷惑なことです。「小指を中心に中指・薬指の三本で柄を握り、親指と人差し指は軽く握って遊びを持たせた状態にすることで、繊細な動きが自在にできるようになるはずです。」と申し上げました。
 
 “小指を握ることで動作の支えとし、その土台があって親指と人差し指が自由に動けるようになる”

 そんなふうに考えていただければと思います。

 今回の話題を“些細なこと”と思われるかもしれませんが、体には使い方の道理があります。道理に従って使っていれば、体に不具合を招く可能性は低くなります。ところが道理に反して使っていますと、それは部分的な不具合だけでなく、体全体を歪ませ、思わぬところに不調を招く原因となります。
 目・口・手、これらは体の歪みの出発点になるところです。体の歪みが気になる方は、これらの使い方を見直してみてください。