朝洗面するとき少し前屈みになりますが、それができなくて辛い。掃除機を掛けると腰が痛くなる。椅子から立ち上がるとき、膝や椅子に手を置いて支えないと立ち上がることができない。これらの症状は前屈みや中腰ができない状態であるからです。
 前屈みができない状態を単純に考えますと、腰や背中の筋肉がこわばっていて伸びてくれない状態であるという答えになります。確かにこれも原因の一つです。ふくらはぎや太ももの裏の筋肉が張ってしまい、その張りが殿部や背中につながり、伸びが悪くなれば前に屈むことができづらくなります。そして坐骨神経痛でも同じような状態になることはよくあります。これは床に長座をして前屈運動をしてみればわかります。
 ところが長座での前屈は問題ないけど、立った状態では前屈みができない、中腰もできないという状態があります。この理由の一つはギックリ腰のように骨盤付近の筋肉を伸ばしたり損傷してしまった場合です。これは骨盤自体に力が入らなくなるので、前屈みで上半身を支えることができなくなったということです。
 理由のもう一つは膝や足首に問題があることです。私は施術の結果を確認するために、最初は椅子に座った状態で前屈みをしてもらい、次に立った状態で前屈みをしてもらっています。座った状態では大丈夫だったのに立った状態では腰に張りができたり、なんとなく心もとない様子のときは、最初に膝の状態を確認します。座った状態では膝に体重は掛かりませんが、立ち上がると膝に負荷がかかります。その負荷に膝が十分に耐えられる状態であれば、腰に負担はきませんが、膝が耐えられない状態ですと負担が腰に掛かってしまうため腰痛になってしまいます。そしてこういうことはとてもよくあることです。本人は膝に痛みを感じないので膝が悪いとは全然思っていませんが、実際は膝が悪くて前屈みや中腰ができない状態だということです。
 理由の三つ目は、少し専門的になりますが、ある角度の時だけ背筋が上半身を支えることができない状態であることです。例えば洗面時の前屈みの角度だけ駄目で、それを過ぎてもっと屈んだときは大丈夫だとか、反対に洗面は大丈夫だけど、深く体を曲げて床の物を拾おうとすると痛くてできない、などといった場合です。
 
前屈での力点の移動

 体を前屈する動作では、背中の筋肉が自動的に上半身がそれ以上倒れないように調整してくれています。つまり、上体を前屈するとき背筋はただ伸びているだけでなく、上体の角度によって対応する背筋の部分を収縮させて体がガクンと前に落ちないように調整しています。体が直立に近い上体では、骨盤に近い部分の背筋が頑張り、もう少し曲げて洗面やお辞儀の姿勢では背中のところが頑張り、もっと曲げて90°くらいになると肩のところ、もっと曲げると首や頭のつけ根のところが頑張って体を支えている仕組みになっています。仮に、背筋の背中の部分がうまく働けない状態だったとすると、洗面やお辞儀の角度を保つことができなくなり痛みを発します。膝を曲げて脚をすぼめたり、何かに寄っかかったりして、その弱点を補おうと私たちは自然にいろいろなことを行います。首のところの筋肉が働けない状態であれば、物を拾うことができなかったり、椅子から立ち上がる最初の動作がロボットのように首を立たしたまま行わなければできなくなったりします。(椅子から立ち上がるとき、最初に首を曲げるのが自然な動作ですが、それができないため)背骨の一部(脊椎)が捻れていたりするとこのようなことが起こります。あるいはムチウチなどで首の筋肉を伸ばしてしまった場合や首を寝違えてしまった場合などにも。
 私たちは手を使うことが大変多いのですが、使いすぎや使い方の偏りによって頚椎が歪んでしまい、それによって前屈がつらくなってしまうということは大変多いことです。

 その他にも骨盤が歪んでしまい前屈や中腰がつらくなることもあります。この場合は、前屈だけでなくその他の動作でも、あるいはじっと座っているだけでも腰が痛くなったりすでしょう。また歩き方や立ち方が悪く、いつも足の指先に強く力が入っているため指先が硬くこわばってしまい、それによって中腰の姿勢がつらくなることもよくあることです。股関節の状態が影響して中腰ができなくなることもあります。
 その他の症状と同様、腰に痛みが出るからといって腰自体に問題があるとはかぎりません。割合としては非常に少ないです。ですから、腰をマッサージしたところで問題が解決することはほとんどないと思います。