建設現場や土木作業に長年従事している人の腰痛には特徴があるという話です。
 普通、腰痛になると痛みが辛いため身体を休めたり、痛みが少ないように動作するようになります。それが身体の自然な反応です。
 ところが、肉体労働をして家族を養わなければならないお父さんの腰は、少々痛みを感じても耐えられる腰つきに変化しています。痛いけど頑張れちゃうんです。畑仕事をしている農家の方も同様です。
 こういう方が「腰が痛くなった」と来店されると、一瞬私の中に迷いが生じます。
 腰痛にならないように身体を改善したいのだろうか?
 それとも、とりあえず今の腰痛の痛みを楽にしてほしいのだろうか? 

 多くの場合、「とりあえず今の痛みを楽にしてほしい」を選択されます。すると私は、少し不本意な思いを感じながらも、頭を切り換えてなんとかお客さんの要望に応えようと施術に入ります。
 こういう方々の腰の筋肉は一般の人のそれとは明らかに異なります。筋肉の芯の部分がガチッと硬くなってまるで骨のようです。ですから身体に柔軟性はありません。腰部の筋肉を硬くこわばらすことによって、負担の多い労働に耐えうる身体に変化していると言っていいかもしれません。
 このような方々もはじめは普通の人の腰痛と同じだったはずです。前屈みや中腰が辛く、重たい物や重労働になると腰が悲鳴をあげるほど辛くなったりしたのだと思います。ところが仕事を休むわけにもいかず、痛みに耐えながら毎日の仕事を繰り返しているうちに筋肉の方が質を変化させて労働をこなせる身体になったのだと思います。ですから「腰はいつも痛いよ! でも大丈夫!」という身体なのです。
 今回来店されたのは、その上で「もうかなり辛くなってきた」ということでしょう。
 こういう場合の施術は揉みほぐしが中心になります。手から足まで全身をほぐしていき、血液の流れを良くすることで硬くこわばっている腰部の筋肉が少しゆるむようにします。腰部への施術では、その骨のように硬くなっている芯の部分にグイッと指を入れていきますので、とても痛いはずです。お尻の深い部分も揉まれるとけっこう痛みを感じていると思います。
 揉みすぎてしまいますと、こわばらせて頑張っている筋肉が頑張れなくなってしまいます。そうなると今度は“力が入らない腰”になってしまいますので、ほぐしどころを見極めるのに神経を集中します。
 
 通常の施術では腰痛を起こしている筋肉を探し出し、その原因を特定して、筋肉を調整しながら骨格の歪みを解消して腰痛が改善されるようにしています。しかし、こういう方々の筋肉はそういうアプローチではその場で満足を得られる結果は出せません。筋肉の質が普通とは違うからです。
 「しばらくは良いんだけど、また戻っちゃうんだよね」と言われると少し悲しい気持ちになるのですが、「三日おきに何回か来てください」というのも金銭的な負担を考えるとなかなか言い出せません。坐骨神経痛を伴う腰痛であれば、必ずそう言うのですが‥‥。
 それでも「ああ楽になった!」と言ってもらえると嬉しいことですし、心の中で「一月後か二月後にまた会いましょう」とつぶやきながら「ありがとうございました!」と言って見送らせていただいています。