腕が上がらない、後に回らない、重たいなど、四十肩、五十肩と呼ばれる肩関節痛の問い合わせが多いので私の考え方と施術について説明させていただきます。
 肩関節痛の初期の段階は、肩から腕にかけて違和感を感じる、筋肉に張りを感じる、肩先を触ると痛みを感じる、何となくしっくりしない、腕が重たく感じるというものです。手を使いすぎたり、普段あまり歩かないのに歩きすぎたり、体に捻れが生じたりすることが原因でこのような症状になることがあります。
 この段階では、無理をせず疲労がとれて体が元の状態に戻ればやがて症状は解消されていくものと考えられます。ところが肩がしっくりしないので肩や腕を回したり、ストレッチをしたり、あるいは違和感を感じつつも使い続けているとある時、洗濯物を干すのに腕が上がらなくなったり、ドライヤーをかけることが辛くなったりします。肩がジンジンしたりして腕を大きく上げることができなくなってしまうかもしれません。こうなると本格的な四十肩・五十肩の段階になったと考えられます。
 ひと月くらいしても症状が改善されないと整形外科を訪れ、そこでリハビリ運動を教えられます。痛みを感じながらもリハビリ運動を続けているのに期待を裏切ってますます症状が悪化してしまうという経過をたどっている人は意外に多いのかもしれません。そして「五十肩は治るのに1年とか1年半とかかかる」というのが定説になってしまったのかもしれません。
 私のところに肩関節痛のためにやってこられる方々は、だいたい3ヶ月以上症状が改善されない人が多いのですが、中には5年くらいという人もいてビックリすることがあります。

 さて、肩関節痛は基本的に鎖骨と肩甲骨と肋骨の関係と、これらの骨に関係する筋肉の変調が直接的な原因で起こります。ですから症状を解消するためには、おかしくなっているこれらの要素を整えることが必要です。単に腕が上がらないとか、何かの動作で肩や腕が痛む、肩先が痛むなどの段階であれば一回施術するだけでほとんど改善してしまうでしょう。ところが、腕が重たくてジッとしているだけでも痛む、腕をちょっと動かすだけでも痛い、フライパンが持てないなどの段階は、2~4回くらいの施術が必要になると思われます。何故なら、ある筋肉が損傷あるいは疲弊した状態になっていて力を発揮することができない状態になっているため、それを修復しなければならないからです。疲弊して働きの悪くなった筋肉を元の状態に戻すのは何回かの施術と時間が必要です。
 さらに状態が悪化している場合、あるいは一年以上症状が続いている場合は、もう少し施術回数と時間がかかると思います。

 長年にわたって症状が治まらない、あるいは「一時に比べればだいぶ良くなったけど、ある動作をすることができない」というような場合は、状態をこじらせてしまっていることが考えられます。
 例えばAという筋肉の働きが悪く肩関節痛になったとします。整形外科がすすめるリハビリ運動を無理をしながら継続していますと、A筋肉の状態は悪くなるばかりですが、体が本来持っている対応力によってAに隣接するBやCの筋肉がAの働きを代替するようになります。するとBとCの筋肉は本来の働き以上に頑張ることになります。それによってB、Cの筋肉はコチコチこわばってしまいます。これらの筋肉は自らを硬くして肩関節を保つようにしようとするのです。この理由で、一時に比べれば腕も上がるようになったし、力も入るようになったけど、ドアノブを回したり、腕を内側に捻ると痛む。あるいは腕が後に回らなくなってしまったなど、何かの動作ができなくなってしまいます。これが、こじれた状態の一例です。
 こうなりますとAの筋肉を修復しながら、BとCの筋肉のこわばりも解消していかなければなりません。体にも変な癖がついている可能性が高いので、それも調整しなければならなくなります。施術経験から言いますと、長年にわたってこわばり続けていたBとCの筋肉はそう簡単には本来の状態に戻りません。無理して戻そうとすると筋肉を傷める結果を招く恐れもでてきます。
 ですから、早く良くしてあげたいと思いますが、実際のところ6~10回程度の施術を要する場合が多いです。

 整形外科で勧めるリハビリ運動の詳細は知りませんが、お客さんからの話を聞くと、1㎏くらいの重りをぶらさげて一日200回くらい腕を回すように指導されているとのことです。そうしなければ肩関節が固まってしまうという理由だそうですが、私は逆だと思います。痛いのを無理してそのような運動をしていると、上記のB・Cのように筋肉がこわばってしまうため、それこそ肩関節が固まってしまうのではないかと思うのです。

肩甲下筋と前鋸筋がポイント
 さて、肩関節痛にも原因やきっかけや経過は様々ありますが、多くを見てきた経験で言いますと、最後の決め手になるのは“肩甲下筋の疲弊”と“前鋸筋(ぜんきょきん)のこわばり”を改善することです。その他にも鎖骨や肋骨が捻れているとか、肩甲骨の位置が悪いだとかありますが、それらを整えたとしても肩甲下筋と前鋸筋を整えないと症状は改善しないと考えています。

肩甲下筋と前鋸筋

 肩甲下筋は肩関節において腕(上腕骨)を肩(肩甲骨)にくっつけておく筋肉(回旋腱板)の一つですが、ボールを投げたりする動作で働きます。野球の投手が肩を壊すといった場合、この筋肉が損傷していることが多いです。例えばベッドに仰向けで横になり、腕を真横にベッドの縁を越えるように開いてみます。180°を超えて開くということです。この時、ダラ~っと腕や肩の力を抜くことができるのであれば大丈夫ですが、肩や腕に力が入ってしまったり、この動作ができないようであれば肩甲下筋に問題があるということになります。
 
肩甲下筋のテスト

 前鋸筋は肩甲下筋と同じく肩甲骨の内側(肋骨側)にある筋肉ですが、肩甲骨を前方と外側に出す働きをします。パソコン作業の多い今日、多くの人が猫背で肩が前に出ていますが、それは前鋸筋のこわばりによるものです。
 どうも肩甲下筋の働きが悪くなると前鋸筋がこわばるという関係にあるようです。前鋸筋には肩甲骨が体幹(肋骨)から浮かないようにする働きもありますので、こわばることによって肩が体から離れないようにしているのかもしれません。
 前鋸筋がこわばり肩甲骨が外や前に動きますと鎖骨の位置はおかしくなるし肋骨も捻れます。それによって肩関節の動きに影響がでます。

 以上のように肩甲下筋と前鋸筋の状態を改善することが肩関節痛を改善するためには欠かすことのできない要素です。それを抜きにしていろいろなことをしたとしても、それは不完全な解決策でしかないと私は思います。