今日は電車で2時間以上かかる距離のところから31歳の男性が来ました。職業は造園業で、ハサミをたくさん使っているということです。骨格も筋肉もしっかりしているのですが、首から上がつらく頭痛がして、笑い続けると左の頬が引きつり言葉がしゃべりづらくなるという訴えです。そして息が浅く、深呼吸ができない状態でした。
 「これでは、ただ生きているだけでも辛いですね」と話しかけますと、「何もしなくても息苦しくて、これまで幾度となく死にたくなったこともあります」と言われました。
 「大きく息をしてください」と促しても胸(肋骨)が全然動かなくて、空気を少ししか入れることができません。首や頭痛や左頬のことよりも、この呼吸を何とかすることが先決だと判断しました。
 呼吸運動は、簡単に表現すれば、肺を膨らませたり縮めたりするすることです。ただ肺はそれ自身筋肉をほとんどもっていないただの袋のようなものなので、横隔膜を使ったり、胸郭(肋骨)を拡げたり縮めたりして、肺の容積を増やしたり減らしたりしながら私たちは呼吸を行っています。この人の場合、肋骨がほとんど動かないために、肺に空気を満足に取り入れることができないでいます。常時酸欠状態です。頭が重くなったり頭痛がしたりするのは当たり前の状態ですし、体にも力が湧かないでしょうから、見た目とは裏腹に本人は本当に辛いだろうと思います。

 さて、肋骨を動かないようにしている筋肉でまず注目すべきは前鋸筋です。このことはホームページにも記載していますので詳しくはこちらをご覧ください。前鋸筋がこわばっていますと肋骨が身動き取れない状態になってしまいますので、まず前鋸筋のこわばりをとりました。これで少し空気が入ってくるようになりましたが、まだ深呼吸ができる状態ではありません。
 もう少し細かく肋骨を見ますと、上から2・3・4番目とみぞおちのすぐ上あたりの肋骨が内側に入っていました。2番目の肋骨を少し拡げますと、息を吸ったとき、それまで全然動かなかった胸郭が上に動くようになります。2番目の肋骨は手の親指や人差し指と関係します。この方はハサミをたくさん使っているため、右手が非常にこっていました。それを強めに揉みほぐし、親指がしっかりするようにしました。(これは職人技のようなものです)
 すると胸郭の動きがよくなり、額や後頭部にまで鼻から吸った空気を通すことができるようになりました。ところが深呼吸はやはりできません。残るは、みぞおちの少し上の部分の狭くなっているところです。ここが拡がってくれれば深呼吸ができるはずです。
 ここは「胸に手を当ててください」と言ったときに自然と手が行くところです。とても敏感なところで、“心”のある場所と言いますか、いろいろなものを感じるところです。開放的になればこの部分が開くし、内向的になればこの部分が閉じてしまうようなところと考えてもいいでしょう。この方はたくさんの精神的ストレスを抱えているのか、この部分が開かなかったのです。こういうときは手を当てるのが一番です。私はそっとその部分に手を当てました。すると何秒か後に、急に大きく息をすることができるようになりました。そのまま2分くらいずっと手を当てていました。これで深呼吸ができるようになり、顔色もよくなりました。

 その後、座っていただき首や頭の状態を確認してもらいました。まだ頭の落ち着きが悪いということでしたので、腹筋を調整しました。それは足の親指の先がガチガチに硬くなっていたのをほぐす方法です。かなり痛みを感じたようですが我慢していただきました。
 これで完全ではありませんが、本人が納得できるくらいにはなりました。今日はここまでの施術でしたが、次は一月後の来店ということで終了しました。

 元気な人には「呼吸ができない」ということは理解できないことかもしれませんが、実際に“呼吸はしているけど、呼吸ができない”という状態はあります。それを“精神的なもの”ということで片付けてしまうお医者さんも多々いるようですが、私はそうではなく、フィジカル的にもっとよく検討して改善に導く方法があると考えています。
 不眠症、頭重、胃の膨満感、悪い顔色等々、心理的なことではなく、単に呼吸が悪いことによってもたらされている症状がたくさんあると思っています。