ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

 私のような仕事をしている人は解剖学をある程度学ばないと、できることがとても限られてしまいます。しかし、実際のところ解剖学の本は退屈です。(少なくとも私には) 実際の問題に遭遇したときは、筋肉や骨格を確認するために参考にしますが、普段から読みたいとは思いません。「自分が好きな仕事に関することなのに何でだろう?」と思ったりしますが、そこには心を引き込むようなストーリーがないからかもしれません。
 ところが三木成夫(故人)先生の本に巡り会ってからは考え方がすっかり変わりました。三木先生の著されている本は一見解剖学とは関係のないような本が多いのですが、普通の人が「何故?」「どういうこと?」と思われるような素朴な疑問にわかりやすく答えてくれています。
 なんで赤ちゃんは哺乳瓶より母乳で育てた方が良いのか? なんで赤ちゃんは畳を舐め回すことが好きなのか? 顔は私たちにとってどういう意味を持っているのか? 舌は生命にとってどういう位置づけなのか?  植物と動物は何が違うのか? 自律神経の本質は何か? そういったことについて魚から人間にまで進化を続けてきた変遷と変化を考察しながら具体的に教えてくれています。
 私は直接お目にかかったこともありませんし、講演を聴いたこともありません。そして残念ながら三木先生の著した文献をたくさん持っているわけでもありません。しかし私にとって未知の症状を抱えた人が来られたときには、「三木先生の観点ではどのように考えるだろうか?」とまず考えてしまいます。

 三つ前のブログで投稿した舌の問題を抱えた若者に対しては、三木先生の言葉を多いに参考にさせていただいています。そして実際、施術を続けていく過程で変化を感じるたびに、三木先生が著していたことを自分が実際に体験しているのだと知ることになります。(ちなみに、おかげさまで彼の症状は順調に良くなっています。)
 この7年半、いろんな病院、最新設備を整えた大学病院、様々な治療院を巡ってもらちがあかなかった状態は、三木先生の言葉をヒントに毎日同じような施術を忍耐強く行っていた結果、大きな変化をもたらしています。施術はとてもシンプルです。毎回60分の間、そのシンプルな施術をじっと続けているだけですが、舌が徐々に本来の状態を取り戻し、そしゃく筋が働き出し、喉の筋肉が働き出すと、筋肉の連係プレイが復活し始め、状態は確実に進展しています。

 私はよく知りませんが、おそらく三木先生は解剖学の世界では有名な学者だったのではないかと思います。そうであれば、現在、医学の最前線で活躍されている医師の中には、三木先生のお弟子さんのような先生方もいらっしゃると思います。そうであるならば、どうぞ医療の現場で三木先生の智恵を活かしていただきたいと思います。

 三木先生が著された書籍や文献の中から、皆さんの実生活に参考になると思われる文章を時折掲載させていただきます。
 解剖学的に顔は内臓(腸管)が表に露出したものだと考えられています。そして顔のあらゆる筋肉や組織は、元々は魚の鰓(エラ)に相当する部分だったと考えられています。そのことを予備知識として下記の内容をお読みください。


 「顔は内蔵の前端露出部だが、唇から舌にかけての感覚はとくに鋭敏で、これら尖端部の構造は食物を選別する精巧無比の内蔵の触覚となる。この機能は正常な哺乳によって日々訓練されていくが、やがて赤ん坊はすべてを舐め回し、将来の『知覚』の成立に備える」

顔と口と舌
 われわれの内臓は、手で腹壁を通してわずかに触れることができるだけです。この中の出来事は、だからおぼろにかすむ、遠い世界の出来事です。しかし、その入り口と出口は当然外に開かれて、この現実世界と交流していないといけない。
 出口のところは、体壁がきんちゃくのようになって内臓は露出しないようにできている。
 だいたい腸の内容がS状結腸、直腸あたりにまでこないと、本当の便意は起こらない。
(中略)
 ところが我々が実際に意識できるのはノド元までで、ノド元過ぎたら熱さを忘れる。ここから下の感覚は大脳皮質までのぼってきません。これに対し、前端部分の顔面、とくに目玉とその周辺、さらに耳、鼻など穴の開いている場所は敏感です。その中でも口の穴、すなわち唇から舌にかけての感覚はさらに敏感です。
 ですから、内臓感覚といった場合、私たちはこの感覚がもっとも高度に分化した場所として、この唇と舌を考えればいいわけです。
 なぜここがこんなに敏感かというと、この入口こそ、食物を取り込む、つまり毒物と栄養物とを選択する“触覚”に相当する場所だからです。いってみれば、大切な秘密工場の厳重な守衛所ですね。

 この中でも、とくに舌は、脊椎動物が魚類から両生類になって、水から上陸して、ものを食べるときにどうしても必要な手となってくるんです。
 こういった舌の運動のはっきり見られるのがカエルです。舌でハエなどをパッと捕らえますね。それから異常に発達したのがカメレオン、さらにアリクイ。
 ですから舌というのは、早く言えば、生命を維持するための大切な触覚と捕食器官を兼ね備えているということになります。
 ただ、舌の筋肉だけは、さすがに鰓の筋肉、すなわち内臓系ではなくて、体壁系の筋肉です。
 顔面の表情筋が全部鰓の筋肉であるのに対し、舌の筋肉だけは手足と相同の筋肉です。舌といえば、ノドの奥にはえた腕だと思えばいい。ただし感覚の方は、体壁系の皮膚感覚とは違って、あくまでも内臓系の鰓の感覚です。ですから舌というものは、内臓感覚が体壁運動で支えられたものだと思えばいい。
 非常に鋭い精巧無比の触覚によって我々脊椎動物の祖先は、営々と五億年の間、食物を取り込んできたわけです。それが哺乳動物になると、大抵は首が発達して、首で襲いかかれるようになります。しかし、それは大人になってからで、子どものときは、すべての哺乳動物はやはり両生類以来の舌を使って母親の乳首から吸い取ります。ですから「この精巧無比の内臓触覚の機能は、正常な哺乳によって日々訓練されてゆく」ということになります。これが非常に大切なことです。
正常な哺乳
 正常な哺乳とは、母親の乳首から直接吸うことです。この唇と舌の、もっとも鋭い内臓感覚でもって、母親の乳首のあの感触を味わい尽くす。哺乳瓶のゴムは、あれこそ子どもだましです。まったく異質です。
 その上、赤ん坊は鰓の感覚が一面に拡がった“顔面”のすべてを動員して、乳房まるごとの肌触りを、一日中来る日も来る日も味わい尽くすわけですが、哺乳瓶ではもう味もそっけもない。
 それからもっと大切なのは、初めて吸うときです。赤ん坊と母親は、まるで死にものぐるいです。最初はうまく出ないものですから‥‥。母親はイライラするわ、赤ん坊は吸えないわ、でもう大変です。
 やはり赤ん坊の時には、まず哺乳動物であることの最低の条件を満たすためにも、母親を経験させないといけない。それで育ってきた赤ちゃんと、なんだかモルモットに水をやるようにして育てた赤ちゃんと、いったいどちらが幸せだと思いますか。
 ところで、これに協力しないといけないのは世の男性です。ストレスを家庭に持ち込むとピタッと止まる。これは汗腺が分化したものだから。カンガルーよりももっと古いカモノハシは、腹の汗の中に脂肪球が出てくるのですが、その汗をペロペロなめて育つ。これが哺乳のはじまりです。緊張すると汗がサッと引くでしょう。それと同じことです。ストレスで瞬間にお乳が出なくなる。男の責任は大きい。もっとも現代は世相そのものがストレスの塊のようなものですから。お乳の少ない母親がずいぶん多いでしょうね。

なめ廻し
 “なめる”ということは学問的に見て大切な意味があります。このときに鍛え抜いた感覚と運動があとになって、どのような形でいかされてくるか。
 心理学のことはわかりませんが、たとえばコップを見て“丸い”と感じるでしょう。これは類人猿には見られない、まさに、ホモ・サピエンスの特徴です。この“丸い”と感じる、その奥には、この“なめ廻し”のものすごい記憶が、それは根強く横たわっているのです。コップの縁に沿って、ゆっくりゆっくり、そして何度も何度も、それこそ丹念に舌を這わせ続けた、その時の記憶です。もちろん、そこには手のひらの“なで廻し”の記憶も混然一体となっているはずです。手と舌とは“年子”のようなものですから。

 六ヶ月をすぎてから、畳の目をどれだけなめさせたか‥‥。“なめる”という世界は大切です。決しておろそかにしてはいけない。

 さらに“なめる”ことには命に関わる重大な意味もあります。畳には適度のバイ菌がいます。そのバイ菌を入れてやると、腸管のリンパ系が心地よく刺激されて、過不足ない防御体制ができあがるからです。
 少々の毒物は、ですから舌を通してどんどん入れてやることです。それを衛生だとかなんとかやりますと無菌動物になる。世の荒波にもまれたらひとたまりもありません。
 このように、畳の目をなめるというのは、形態の把握と外敵の防御の基礎訓練という。二重の意味をもったものになります。

胃袋感覚
 胃は膀胱型の収縮を営むが、一方、手足の骨格筋と同じく日リズムに乗って、夜は眠り、昼間は収縮して食物をねだる。こうした波は年間を通しても見ることができるが、これら宇宙的な要因による収縮は、内臓感覚の、もう一本の柱をつくる。

 この胃袋感覚が非常に大切です。同じ袋でも、膀胱感覚とはかなり勝手が違うからです。膀胱の場合は中身の圧を受け、それに対する逆圧として収縮が起こる。ところが胃袋の場合は、なんと空っぽのとき収縮するのです。この空っぽの収縮はちょうどさっきの大腸や膀胱にも起こります。そのときの尿意と便意にわれわれは欺かれますが、胃袋の空っぽの収縮は、食物を催促するための、それは大切な営みです。もちろん、いっぱいになって中身を十二指腸の方に送るためにも収縮します、膀胱と同じように。
 胃袋は空っぽの時に収縮する。いわゆる“ハラが鳴る”、これが健康な空腹感です。

 ‥‥いわゆる夜型と朝型。胃袋というものは、からだと一緒になって眠ったり、起きたりしている。ですから、朝ご飯の時など、両者とも胃の中は空っぽでも、胃袋そのものの顔つきはまるで違います。一方は、寝ぼけ眼で嫌々ですが、もう一方は身をくねらせて待ち構えている。もっともこれが夜食だと話しは逆ですが。
 そこで、私どもの日常生活を見ておりますと、とうぜん問題になってくるのが、この、いわゆる「夜型人間」ですね。夜は夜で、寝しなに腹一杯食べ、無理に寝かしつける。朝は朝で、食べないと身体に悪い、といって無理やり詰め込まされる。胃袋の方は半分寝ているものだから、ひどいときにはだらりと骨盤まで垂れ下がる。かの有名は胃下垂です。そして、こういうことが度重なってくると、ついに胃袋は自衛手段にでる。つまり胃袋の方から朝食拒否を起こすのです。

以上 内臓のはたらきと子どものこころ (みんなの保育大学)より抜粋

 お一人お一人顔が違って個性があるように、歩き方にもその人その人の特徴があります。ですから“これが正しい歩き方だ”というような絶対的なものはありません。しかし、ある観点、例えば“健康になるための歩き方”とか“故障しない歩き方”、“スタイル良くなる、見栄えの良くなる歩き方”ということで考えますと、原理原則のようなものが浮かび上がってきます。
 私たち(二足歩行)は重力のある地球上に立って、つまり重力に対抗して歩かなければなりませんので、その理に叶うように歩き方を考える必要があります。背の高くなる植物は重力に逆らって真っ直ぐ上に成長するわけですが、そのためには表には見えずとも地中にある根(土台)がしっかりしていなければなりません。同じように、重力に対抗して歩くためには足元がしっかりしていなければならないわけですが、「何をもって“しっかりしている”と言えるのか?」という素朴な疑問が生じす。
 また、“歩くことが健康に良い”とか(今は死語になっていますが)「歩けなくなったら終わりだ」と、かつてしばしば言われていた根拠は何なのか? という素朴な疑問もあります。
 今回はこれらについて考えてみます。

足元をしっかりさせるためには全身の力をしっかり足に伝えること
 私が歩き方を観察する時、一番最初に着目するところは上半身が前に突っ込むようにして歩いているのか、あるいは下半身が主導してからだを前に進めているのか、といった点です。

歩き方03

 上半身が前に突っ込むようにして歩いているとは、顔や首や胸を前に出す、あるいは上半身を前傾することによって歩いているということです。上半身が前のめりのままでは倒れてしまいますので自然と脚を前に出してからだのバランスを保ちますが、そのような仕組みを利用して歩いていることです。つまり先に上半身が前に進み、後から下半身がついてくるような歩き方で、このような人は“つまずきやすい人”、“足が上がらない人”と言えます。足先(足趾)は前のめりになった上半身の重みを支えるために必要以上に力を入れて(収縮させて)踏ん張らなければならなりません。ですからこのような人は足趾が曲がっているのが特徴で、足趾を揉むとすごく痛がります。
 「足趾に力を入れて踏ん張っているのだから足元はしっかりしているはずだ」という誤解が生じるかもしれませんが、それは間違いで、バランスの悪くなった状態を足趾で踏ん張ることで倒れないようにしているということなので、足元がしっかりしているというのとは違います。

歩き方02

 一方、良い歩き方は“先に脚が前に出る”歩き方、つまり下半身主導の歩き方です。体重が軸足(後方の脚)の方に長く乗っていられますので、前脚は軽く感じられ自由に動かすことができます。地面に凹凸があっても、小石や砂利などの障害物があっても、軽々と対応することができます。着地する前足は“上から”地面を踏むことができますので、足裏はセンサーのように働き地面からの情報を瞬時に把握することができます。段差に足が乗ってしまったとしても転んだりすることはほとんどありません。(上半身主導で歩いている人は足が後からついてきますので、足裏がセンサーとして働くことは難しい)
 下半身主導で歩く動作は、脚を前に踏み出して体重を支える時も、次に軸足となって地面を蹴ってからだを前に進ませる時も、下半身の筋肉が直接地球の重力と対抗することになります。ですから、ただ歩くだけで筋肉が鍛えられるという効果をもたらします。一方上半身主導で歩いている場合は、自分の意志で下半身を使っているという感覚にはなりませんし、長く歩くと疲れを感じてしまうと思います。ふくらはぎや足や足趾ばかりが頑張り続けるため、「歩くことが心地良い」とはなりません。

 足元をしっかりさせれば重力に対抗する力が増しますので自ずと“からだは背の伸びた状態”になります。歩き始めの時よりも、歩き続けていると次第に背筋が伸び、腰の位置も高くなったように感じるような歩き方が理想です。しかし、そのためにはからだの力をしっかり足元に伝える必要があります。

 からだを動かすことを分析的に観察しますと“重心を移動させる”ことに置きかえることができます。からだを前傾する動作は、重心を前に移動することによって行うのが自然な在り方です。重心を移動させることなく前傾しようとしますと猫背のように背中や首を丸めるだけの形になってしまいます。同様に、歩く動作の一歩一歩は重心を足元に移動させる動作にならなければなりません。前脚として前方に踏み出した足は着地とともに軸足に変わり、やがてからだを前に移動させる蹴り足になりますが、この一連の動作は股関節周りの筋肉の収縮から始まります。股関節周りの筋肉が動き、次に太股、ふくらはぎ、足、足趾へと動作の主体が移っていきますが、この流れに伴って重心が股関節から足へと移っていくことで、からだをしっかり支え重力に対抗する力となります。
 足踏み運動で、持ち上げた脚(太股)を地面に降ろす動作を“自然に”しっかり“力強くグイッグイッと”行うことができれば、重心の移動が実感できます。そして、それに伴って重力に対抗する力が増していくのが実感できると思います。(降ろした脚の膝裏が伸びず、お尻がキュッと締まらなければ、この感覚は実感できません)
 これが、からだの力を足に伝え“足元をしっかりさせる”ということの意味です。足踏み運動をした時の“この感覚”を実際の歩行時にも実現できれば、それが心地良い歩き方、スマートな歩き方に近づくための第一歩だと言えます。

良い歩き方のために重要な中殿筋と大内転筋と大腰筋
 これまで多くの人たちの歩き方を観察してきました。歩き方教室などに通われている人もいましたが、私の場合は“からだに不具合を起こさない歩き方”、“歩くことで健康を維持増進させる”という観点で考えますので、ヒールの高い靴を使いこなす、美脚に見えるなど、歩き方教室などで指導していることとは見方も申し上げることも違うと思います。

 “歩くことは片脚立ちの連続動作”というのが基本中の基本だと私は考えています。ですから歩き方を修正するためには、先ず“しっかりとした片脚立ちができる状態”を築かなければなりません。“しっかりとした片脚立ち”というのは、何秒間か片脚立ちの状態が保てるとか、からだの何処かに不自然な力を入れて我慢すれば片脚立ち状態が維持できる、というのとは違います。重心をしっかり片方の脚や腰に乗せることができた状態であり、上げた方の脚がフリーな状態になることであり、思いのままに楽々と前後左右に動かすことができる状態です。この状態になりますと、軸脚がしっかり「からだを支えている」という感覚が得られます。


歩き方01

 そして、そのためには何よりもバランスを保つ必要があります。バランスが良ければ無理なくこの状態が保てますので、筋力よりもバランスの方が大事です。
 軸脚にからだを乗せ、反対側の脚を上げてバランスを取るためには上半身が上げた脚とは反対側に少し傾かなければなりません。直立不動のままで片方の脚だけを上げ続けることは不可能です。仮に何秒間かできたとしても、軸足の足裏や足趾にはその状態を保つためにモゾモゾしたりして無理な力がかかってしまいます。

中殿筋と大内転筋の収縮

 例えば左脚を軸として右脚を上げた場合、上半身を少し左に傾けなければなりません。そしてこの姿勢をつくるためにはお尻の側面にある中殿筋がしっかり働かなければなりません。左側の中殿筋が収縮することによって上半身は自然と少し左側に傾きます。そして中殿筋がしっかり収縮することができれば“お尻にエクボ”が発生します。
 ところで中殿筋を働かせずに脇腹の筋肉を収縮させて上半身を傾けることもできます(上半身が折れた状態)が、それは重心が左脚に移動したのとは違いますので、片脚立ちのバランスを保つことはできません。正しい片脚立ちの状態は、背面から見ますと、股関節のところでからだが少し折れて傾き(背中は伸び)、軸脚のお尻の上部が盛り上がって、そのすぐ下にエクボのような凹みができている状態です。

 また、軸脚には全体重が乗りますし、やがては地面を蹴ってからだを前に移動させる働きをしなければなりません。ですから軸脚はしっかりしている必要がありますが、この時に要となるのは大内転筋の働きです。大内転筋の働きが悪いと片脚立ちの状態でお尻を持ち上げ軸脚を真っ直ぐに保つことができなくなります。膝が折れ、お尻が下がってしまいますので中殿筋の収縮(お尻のエクボ)も望むことができませんし、地面を蹴ってからだを前に押し出す働きを望むこともできなくなります。大内転筋の働きが悪い人は、膝が少し曲がったまま地面を擦るような歩き方になってしまいますので、“重力に負けているような歩き方”に見えるかもしれません。
 そして大内転筋は筋連動の関係で大腰筋と深い関連性があります。大内転筋の働きが悪いと大腰筋の働きも悪くなりますので腰椎の前弯がなくなり骨盤は後に傾いてしまいます。それは腰が悪くてからだを真っ直ぐに伸ばすことができない状態に似ています。
 このような人はとてもたくさんいますが、極端な例として、腰の曲がった人の歩き方を想像してみてください。上半身が前のめりになっていますので、からだが倒れないようにと、すかさず脚を前に出さなければなりません。歩幅は狭くなり、チョコチョコ、パタパタ、あるいはバタンバタン、ドスンドスンと歩かざるを得ません。本来、歩くということは下半身の力でからだを前方に移動させることですが、このような人はそれとは反対で、上半身が前に前に行ってしまうので、それを支えるために脚を前に出しているといった感じです。ゆったり歩くことを望むことはできません。

 ところで、滑らかな歩行動作は腹筋を含めた骨盤周りから下半身全体の筋肉の連係プレイで実現できることですから、例えば足趾に創傷ができただけでもバランスが崩れてしまいます。ですから歩行の問題に対して施術を行う場合は、たくさんの筋肉や骨の状態をチェックする必要がありますが、最初に確認するのは大内転筋、中殿筋、大腰筋になります。

大腰筋で歩き始めるか、大腿筋膜張筋で歩き始めるか
 大腰筋につきましては前回の記事で取り上げましたので、そちらも参考にしてください。
 “歩き方”を観察するとき、私は先ず二つに分けて見ます。下半身主導で脚が前に出て後からからだが付いてくるような歩き方か、それとも上半身が前に出ることによって後から下半身が付いてくるような歩き方か、どちらの傾向かを観察します。

大腰筋か筋膜張筋

大腰筋と大腿筋膜張筋
 
 ここで筋肉の話になりますが、股関節で大腿骨を引き上げ脚を前方に出す働きをする筋肉がいくつかあります。体育の授業で行った膝を水平まで高く上げるような足踏み運動は別にして、歩行動作に限って考えますと股関節の内側(大腿骨の内側)には恥骨筋と大腰筋があります。股関節の外側面には大腿筋膜張筋と縫工筋があります。恥骨筋と縫工筋は補助的な作用ですので、脚を前方に出す働きをする筋肉は、股関節の内側は大腰筋、外側は大腿筋膜張筋であると考えていただければよいと思います。
 下半身主導でゆったり歩くためには内側の大腰筋を使って歩き出す必要があります。大腰筋は股関節より上部の腰椎から始まっていますので、大腰筋が収縮しますと大腿骨だけでなく骨盤(腸骨)も動かします。ですから大腰筋をしっかり使って歩いている人の歩き方は骨盤も良く動いて実際の脚の長さより脚の動きが長く大きく見えます。 

座位からの腿上げ比較

 ここで筋肉の働き方を観察するためにテストをしてみます。
 椅子に座った状態で左の腰(骨盤)に重心を移します。重心がしっかり左側に乗りますと右脚のつけ根はフリーな状態になって微かに浮く感じになると思います。その状態で右太股を5㎝上げて保持し、股関節の内側と外側に筋肉の収縮(緊張)を観察します。正しく行えていれば内側の方が外側より収縮しているはずです。つまり大腰筋を使って太股を5㎝上げているということです。
 次に、座った状態で左右均等に、あるいは少し右側に重心を乗せた状態で右脚を5㎝上げてみます。すると股関節の外側から太股の外側にかけて筋肉が緊張しているのがわかると思います。これは主に大腿筋膜張筋を使って太股を上げているということです。
 つまり、重心を上げる脚(右)とは反対側(左)の腰(骨盤)にしっかり乗せることができますと大腰筋を使うことができますが、重心の移動ができない状態では大腿筋膜張筋を使わざるをえなくなってしまうという現実があります。そして座った状態でのこの現象は立った状態でも同じですから、大腰筋を使って歩き始めるためには「最初に重心の移動(=軸脚にからだを乗せる)を行わなければならない」という理屈になります。
 両脚を揃えて立った状態から右脚から前に歩き出すためには、脚を踏み出す前に左脚(腰)に重心を移動することから始めなければなりません。
 左脚に重心を移動してしっかり立つことができれば自ずと右足のかかとが少し浮いて膝が軽く曲がった状態になります。そしてそのまま自然の流れで右脚を踏み出すことができます。(左脚の踵側などに重心がある場合は無理ですが)
 “できる人”にとっては普段やっていることですから何の苦労も要らない自然の動作ですが、“できない人”にとっては、実は修得が難しいことの一つです。

 “できない人”の多くは、先ず重心を前方に移動することによって脚を前に出さざるを得ない状況をつくり、それを利用して歩き始めています。立った状態から首を少し前傾したり、お腹を前に出したりする動作を、脚を出す動作よりも先に行ったり、あるいは同時に行ったりします。つまり上半身主導型で脚が後から付いてくる歩行動作です。このような人の特徴は足の指が曲がっていることです。重心が前方にあるため足指(足趾)は必要以上に踏ん張ってからだが前に倒れないように支えなければなりません。歩く一歩一歩に、足趾はこのように頑張らざるをえなくなりますので、指の筋肉がこわばってしまい指が曲がってしまうのです。一方、大腰筋を使って下半身主導で歩いている人の足趾はほとんど真っ直ぐです。体重を足裏全体で支えることができますので、足趾を収縮させて我慢する必要がないからです。

股関節外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を使って歩き始めることの弊害
 上記の椅子に座って脚を上げるテストで、大腿筋膜張筋を使って太股を上げている状態をよく観察しますと、足の甲の小趾側や全体が反った状態になっていると思います。足首を脱力した状態では太股を上げることができませんので、まず小趾を浮かせるように反らすことから動作を始めてしまいます。これが筋肉連動の仕組みなのですが、最初に小趾を浮かせる筋肉(第3腓骨筋)を収縮させないと大腿筋膜張筋が収縮しないので太股を上げることができないのです。

前脛骨筋と第3腓骨筋02

 一方、大腰筋を使って脚を上げる場合は太股の内転筋~前脛骨筋に連動が起こりますので、母趾の中ほどの骨(母趾中足骨)が浮くようになりますが、足首を脱力したまま動作を行うことができます。

前脛骨筋と第3腓骨筋01

 つまり太股の外側の筋肉を使って歩いている人は、足首に力を入れて足を反らせることから歩行動作を始めますので足首周辺やふくらはぎの筋肉が疲労すると言えます。太股の内側の筋肉を使って歩いている人は股関節→太股→ふくらはぎ→足へと筋肉が連動していきますので、足首を曲げる(背屈)こともなく脱力した状態で自然と母趾が持ち上がるように足を踏み出すことができます。ですから歩行で疲労を感じるのは股関節周辺ということになります。

 少し長く歩くと股関節の外側やスネの外側や足の小趾側が疲れてしまう人は大腿筋膜張筋を使って歩いているということになりますが、その弊害について幾つか説明します。

①外反母趾と内反小趾の危険性
 臨床的に見ますと、内反小趾も外反母趾も同じような理由で起こっていることがほとんどです。小趾側に力が入って歩くということは、母趾に力が伝わらないので地面を蹴るのも小趾が主体となって行っているということになります。小趾と母趾では骨の太さがまったく違うように力の強さも大きく違います。

母趾外転筋と小趾外転筋の変調

 小趾側の力だけでは地面を蹴ってからだを前に移動させることは難しいので、小趾に必要以上に力を加えなければなりません。足裏には地面を蹴るために足趾を曲げる筋肉(屈筋)がありますが、小趾にはふくらはぎからつながっている長趾屈筋と短い短小趾屈筋があります。そして、この二つの屈筋だけではからだの重さを持ち上げるだけの力がありませんので、本来は小趾を開くために存在している小趾外転筋までも動員してその仕事をしようとします。小趾外転筋は小趾を捻る働きもしますので、その結果小趾が捻れて内反してしまいます。これが幅の狭い靴を履いているわけでもないのに小趾が内反してしまう主な理由だと考えられます。
 また母趾が機能していない状況ではまともに歩くことはできませんので、地面を蹴るときにはどうしても母趾を使うようになります。靴の中で浮き気味になっている母趾を使うためには母趾先を強く曲げたり捻ったりしなければなりません。その結果、母趾が第一関節のところで曲がってしまったり、外反母趾のようにねじれた状態になってしまいます。高いヒールや幅の狭い靴を履いているわけでもないのに外反母趾になり、炎症や痛みを招いてしまうのは、靴の中で母趾を捻っているからです。歩く度に母趾を捻るので、靴と間で摩擦が生じ、炎症や痛みといった状況を招いてしまいます。また母趾を捻る働きをするのは、小趾外転筋同様、本来は母趾を開くために存在している母趾外転筋ですが、この二つの外転筋(母趾外転筋と小趾外転筋)がこわばりますと筋連動の仕組みで、長内転筋、中殿筋などもこわばってしまうため、その他の弊害が現れます。

②くるぶしの位置が変わって足首が痛くなる

外果の位置と筋肉

 大腿筋膜張筋はふくらはぎで腓骨筋と長趾伸筋に連動していますので、大腿筋膜張筋で歩いている人はこれらの筋肉がこわばります。足首の外側にあるくるぶしは腓骨の下端ですが、腓骨と小趾を結んでいる第3腓骨筋や長趾伸筋がこわばってしまいますとくるぶしを前下方に引っ張ってしまいます。あるいは小趾全体が浮いたような状態になります。それは足首の中で外くるぶしの位置が変わってしまうということですので、足首が回しづらい、くじきやすい、歩くとかかとの外側が痛むなどの症状を招く原因になります。足首周辺がいつもスッキリしていない人はくるぶしの位置がずれている可能性がありますので、単なる“むくみ”とは考えず、歩き方を見直したり、あるいは整体で整えることをおすすめします。むくみに対する手段を行ってもほとんど意味はありません。

③O脚になる可能性、脚が外側に太くなる可能性
 大腿筋膜張筋は太股の一番外側にある腸脛靱帯と一体化していますので、使えば使うほどに力は外側外側へと加わります。ですからやがて膝の間が広がったO脚になってしまうのは当然の理屈になります。
 そして大腿筋膜張筋を使って歩いているということは、太股の内側の筋肉をあまり使っていないということですので、太股の内側は痩せ、外側は太くなるという現実が訪れます。それはふくらはぎでも同様で、膝下も外側ばかりが太くなるということになります。このような状況もO脚も、私たち日本人によく見られる体型であるとのことですが、それはつまるところ、私たちの多くは股関節の外側の筋肉を使って歩く傾向があるということです。
 
④つまづきやすくなる
 大腰筋を使って歩き始める人は下半身主導型であり、特別な力を使うこともなく自然と前足の母趾が上がります。そして地面を“上から踏む”ことができますので、少しの段差でつまずいたり、地面の多少の凹凸につまづいたりすることは考えにくいことです。(但し前脛骨筋の状態が悪ければ別ですが)
 大腿筋膜張筋を使って歩き始める人は、上半身主導型の場合が多く、脚を振り子のように使ってしまいますし、足首で足の甲を反らなければならなくなります。この一連の動作は小趾側が主体となって行われますので母趾はあまり上がりません。足の運び方も“足を引きずる”、”脚を回して前に出す”、“ガニ股や内股”のような感じになってしまいますので、足裏にセンサーとして役割を持たせる余裕が生まれず、つまづいたり、引っ掛かっかりしやすくなったりします。加齢に伴い筋肉の働きが弱くなりますと足首を背屈(甲の方に曲げる)する能力も低下しますので、何もない平らなところでもつまずいてしまうということが起こりやすくなります。高齢になって転んだりしますと大きなケガに発展することもありますので、高齢になるほどに歩き方を見直すことを是非考えてください。

 その他、股関節や膝の痛みや変形、腰痛、背中のハリなども含めて、いろいろなからだの不具合を招く可能性があります。また体型的にスマートな美脚を目指すのであれば、大腿筋膜張筋を使って歩いていては永遠に実現不可能だと思いますので、歩き方を根本的に見直すことから初めていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩くために
 大腰筋をあまり機能させずに歩いている人にとっては、“大腰筋を使う”ことがどういう感じなのか、まったくわかないと思います。実際、皆さんに練習方法を教えていて、大腰筋を使う感覚を感じて認識していただくことが、私が一番苦心するところです。そして私が観察しながらアドバイスしているときにはできても、自宅で一人で練習するときには“よくわからない”となってしまうところです。

 歩行で大腰筋を使うためには原則があります。

①重心を軸脚側の脚や腰にすっかり乗せてバランスをとる。
 例えば立った状態で左脚に体重をすっかり乗せてバランスを取りますと、上半身は少し左に傾き、右脚が浮くか右かかとが少し上がって膝が少し前に出るような感じになります。この状態を私は「右脚がフリーになった状態」と呼んでいますが、この状態をつくることができなければ先には進めません。

重心移動_座位

 そして座位でも立位でも共通していることですが、重心を左側に移しますと上半身(腰部や脇腹)の左側は少し伸びた状態になっているのが正しい姿です。「重心が左側にしっかり移れば左の背中は伸びます」
 皆さんが間違いやすいことですが、ご自分では左側に重心を移すつもりで上半身を左側に傾けますが、それを左の脇腹を収縮させて行いますと、単に「からだを左に曲げている」ということになってしまい、重心を移動したのとは違います。その他には、骨盤を左側に突き出して片脚立ちの状態をつくろうとする人もいますが、この場合、上半身は右側に傾いてしまいますので、これも間違いです。
 イメージとしては“やじろべえ”を思い浮かべていただきたくと良いと思います。左脚を軸としてバランスを取るために上半身を左に傾け右脚を右側に開きますが、軸脚の左足裏は小趾側にも母趾側にも重心の傾きがなく楽に立っていられる状態です。フラフラしたり、足趾や足裏で頑張ってこらえたりするようでは駄目です。
 くれぐれも「上半身を曲げて重心移動を試みてはいけない」を頭に入れてください。

②軸脚のお尻にエクボができる
 軸脚にからだを乗せたとしても膝が曲がっていたり、かかと重心になっていてはいけません。軸脚はしっかりと地面をとらえ重力に対抗しなければならないからです。
 正しい状態の特徴を挙げますと、
 ①お尻にエクボができていること=中殿筋がしっかり収縮している、
 ②膝裏が伸びて体重をしっかり支えていること、
 ③重心が足首の前側にあること、
などです。そして、これらの状態をつくりあげる要は中殿筋と大内転筋の働きです。
 先にも申しましたが、中殿筋が収縮することによって上半身は股関節のところで横に曲げることができますので、踏み出す方の脚を浮かせてもバランスを保つことができます。中殿筋の働きが悪いとこの状態が作れませんので、踏み出した脚はすぐに着地しなければならなくなります。
 また、片脚立ちの状態を軸脚の膝が折れたような状態で行いますと、重力に負けたような恰好になりますので、お尻も下がり地面を這うような歩き方になってしまいます。
 そして重心の位置が軸足のかかと側に来てしまいますと、前に進むというよりは後に下がるような状態になってしまうので足を踏み出すことができなくなります。しっかりと足首(足関節)やや前目に重心が乗るのが良い状態だと言えます。
 このような状態を築くことができれば、踏み出す足はなんの苦労もなく自然とゆったり前に向かうことができますし、長い時間軸足に重心を保つことができますのでしっかりと地面を蹴ることができるようになります。

 以上の二つが原則として大事なことになりますが、軸脚側ばかりの内容になっていて大腰筋そのものをどう使うかという内容はありません。つまり大腰筋を働かせて歩くためには軸脚が何よりも大切だということです。
 軸脚側にしっかりとからだを乗っけ(重心を移し)て、軸脚を重力に負けないようにしっかりさせることによって、反対側の脚はフリーな状態になりますので大腰筋を使って前に踏み出すことができるという仕組みになっています。

 大腰筋を使って歩くことが上手くできないような人は、練習として、
①先ず軸脚側にからだを乗っける
(その状態がしっかりできてから)、
②反対側の膝を少し(10㎝くらい)上げる
(それ以上上げると大腰筋以外の腸骨筋や長内転筋、大腿直筋などが作動してしまうので、大腰筋の動きを認識できなくなります。)
というのを交互に繰り返すことから始めていただきたいと思います。

移してから上げる(歩行練習)

 「移してから、上げる」というかけ声を心の中で唱えながら行ってください。そうしないと、重心を移しながら膝を上げてしまったり、上げてから移してしまったりするからです。何故なら、そのような人たちには「歩くことは足を前に出すことだ」というような固定観念が絡みついていますし、からだの動きにも染みついていますので、それを脱却して欲しいと思うからです。
 実際、この練習をした直後に歩いていただくと、上手く歩ける時と歩けない時が混在します。それは習い事と一緒で、できないことに挑戦する時は「頭では解っているけど、からだが上手く動いてくれない」状態がしばらく続くからかもしれません。からだがちぐはぐになって右足を前に出すときに右肩を前に出してしまったりすることもあるかもしれません。これまでと違った歩き方をからだに覚えさせるということは、考えている以上に忍耐のいることです。それでも忍耐強く「移してから、上げる」を繰り返し練習してください。すると街中を普通に歩いている時に、突如、「ああ、こういうことか!」という“気づき”がやって来たりするかもしれません。思い(意志)とからだの整合する時は、思いがけない時にやってくるものです。

 また、大腰筋はお腹の深部にある筋肉ですから、膝を少し上げる動作のときにお腹の中で動く筋肉を意識してみてください。その筋肉は股関節の内側につながっています。何十回か「移して、上げる」というのを繰り返していますと、やがてお腹の中が温まり、股関節の内側に疲労感を感じるようになると思います。それは練習が上手くいっているということです。その感覚を大切にしてください。
 
大腰筋を使う感覚を養う
 身体能力をアップさせる必要のあるアスリート達の場合は、大腰筋を鍛えるための特別のメニューがあると思います。ところが、そのような練習をしなくても歩き方を改善し、スマートな体型を目指すことはできます。筋肉は使う(収縮と伸張を繰り返す)ことによって鍛えられます。ですから大腰筋をたくさん使えば、自ずと大腰筋は鍛えられます。器具や用具を使って負荷を掛ける必要はないと考えます。
 大腰筋を鍛えるための第一歩は、大腰筋を意識して認識することすることから始めるのがよいと思います。大腰筋は背骨の腰部(腰椎)からお腹の中を通って股関節の内側(大腿骨の小転子)につながっていますので、先ずはそれをイメージしてください。
 次に座位であれば、座った状態でどちらかの骨盤に重心を移します。左側の骨盤であれば、左の坐骨にすっかり体重が乗った状態にします。すると右の股関節内側太股のつけ根から力が抜けてフッと少し浮き上がる感じがします。右太股がフリーな状態になる感じです。そして右股関節の内側と背骨につながっている筋肉を作動させて右膝を5~10センチ程度ゆっくり持ち上げます。そしてゆっくり下ろします。この動作を連続して10回ほど行ってみてください。股関節の内側や背骨(腰椎)の右側に手を添えてみると、膝の上げ下げに合わせて筋肉が収縮したり伸張したりするのが感じられます。その筋肉が大腰筋です。

座位_大腰筋練習のコピー

 右側の上げ下げを10回行ったら、右側の骨盤に重心を移して左膝の上げ下げを10回行います。左右10回ずつを1セットとして3セットほど行いますと、大腰筋のイメージがしっかりと感じられるようになるのではないかと思います。そしてゆっくりと歩いてみてください。歩き方に大なり小なり変化が現れると思います。
 この練習で大切なことは、必ず最初に重心を移すことから始めることと、膝を上げすぎないことです。膝を高く上げますと別な筋肉まで働き出しますので、大腰筋のイメージがぼやけてしまいます。さらに太股の別な筋肉も作動しますので「股関節の内側」がわからなくなってしまうと思います。
 また、立位でも練習することはできますが、そのためには片脚立ちがしっかりできることが必要条件です。軸脚にしっかりからだを乗せることができますと反対側の脚はフリーになり大腰筋を意識して使うことができます。この場合も膝を上げすぎないように気を付けながら、じっくり太股を上げたり下げたりします。
 もし、片脚立ちがしっかりできないのであれば、大腰筋ではなく他の筋肉を使って動作することになってしまいますので、練習することの意味はなくなってしまいます。その点だけ注意してください。

しっかりして片脚立ちができるようになるために‥‥中殿筋を鍛える
 中殿筋のしっかり働いている人は一歩一歩歩く毎に、お尻に交互にしっかりとしたエクボができます。それは、自分でお尻の側面に手を当てながら歩いてみることで確認することができます。
 典型的なO脚の人や内股の人はエクボをつくることが苦手です。立った時に両足が「ハの字」のようにかかとより足先の方が内側を向いている状態ではお尻の筋肉が伸びた状態になってしまうからです。そのような人でも両足のかかとをくっつけ、つま先を少し開いて「逆ハの字」にした状態でお尻をキュッと持ち上げるように力を加えるとエクボができやすくなります。ですから、このような人は中殿筋を鍛えることに合わせて立ち方を変えることも練習してください。女性の人にとってつま先を開くことは「ガニ股になってしまう?」というイメージが湧いてくるかもしれませんが、O脚や内股を矯正する上でも大事なことです。「ハの字」のままでは永遠に脚の形を直すことは不可能です。
 さて、片脚立ちをして上半身の重みをしっかり支えるためにはお尻の筋肉がしっかり収縮して働かなければなりませんが、殿筋の中でも中殿筋と小殿筋は外転筋と言いまして脚を外側に開く働きをします。それは、脚を固定した状態では上半身を外側に傾けることと同じですので、片脚立ちでバランスを取るためにはこの二つの筋肉の働きが重要になります。(左軸脚の場合、上半身を左に傾けることによって右脚を上げてもバランスが取れる。この状況では中殿筋の方がより重要だと思います。)

中殿筋トレーニング

 ですから中殿筋を鍛えるためには、立った状態で、お尻の筋肉を使って脚を横に開く運動を行います。例えば右の中殿筋を鍛えるためには、壁などの横に立ち、左手で壁を押さえてからだが左に傾かない状態にした上で右脚を中殿筋を使ってゆっくり開いていきます。そしてゆっくり閉じます。これを何回か繰り返します。中殿筋が収縮したり伸張したりするのを確認する意味で、右手を中殿筋(股関節の上、斜め後辺り)に当ててみるのもよいと思います。
 整体的な観点で考えますと筋肉を鍛える運動の目的は「筋肉をしっかりさせ働きが十分できる状態にすること」です。ですから運動はすべて「無理せず、じっくり、粘り強く」が基本です。意識を筋肉に集中させて、自分の意志を筋肉に伝えることが大切だと考えています。アスリート達にとっては瞬発力や爆発力が必要なので、鍛え方は変わってきますが、この辺りを混乱しますと「どのトレーニングをしたら選んだらよいのだろうか?」という迷いが生じてしまいます。
 またこの運動の注意点は、足の小趾側の力を使って脚を広げないようにすることです。中殿筋の働きが悪い状態でも大腿筋膜張筋を使うことで脚を広げることができます。ここで大腿筋膜張筋を使ってしまっては本末転倒になってしまいますので、あえて「お尻の筋肉(中殿筋)を使って脚を広げてください」と言っています。
 中殿筋を使ってこの動作を行っているときは足の「母趾が中心になって広げているような感じ」がしますが、大腿筋膜張筋を使って動作しているときは「小趾側に力を入れて広げている感じ」になりますので、この点はよく注意してください。中殿筋の働きが悪い人は思いの外、上手くできないかもしれません。最初はそれでも良いです。意識を中殿筋に集中してください。意志が筋肉に伝わるだけでも進歩です。何日か練習している内に筋肉が働き出し、そのうち大きく広げられるようになると思います。

 片脚立ちと大腰筋と中殿筋を説明するだけでこのような長い文章になってしまいましたが、からだを健康にする歩き方を考えたときには、「重心移動、片脚立ち、大腰筋」の三つのキーワードが最も大切なことだと思います。
「ランニングの時、からだを前傾させて走った方が前に進みやすくなる」というような指導を受けているという方から「どう思うか?」と質問されました。「正しいけれど、誤解しやすい」というのが私の答えでした。ここにも記しましたが、からだを前傾させますと脚を出さざるを得なくなりますので、その原理を利用してランニングを行うことは、正しいことのように思えて実は間違っていると私は考えます。これでは筋肉は、主体的な意味では鍛えられません。我慢する力が増すという意味ではプラス効果はあると言えばあるのですが、反対にマイナス面はたくさん出てきます。上半身が前に突っ込むような歩き方と一緒で、足の指先にかなりの負担がかかります。その負担はふくらはぎ、ハムスト(太股の裏)、腰へとつながりますので、下半身がパンパンに張ってしまうのではないかと思います。現に、私に質問された方の下半身はパツンパツンに張っていました。
 ランニングの際に前傾して欲しいのは「仙骨」です。仙骨を前傾させることによってからだは推進力が高まります。躍動感がでます。仙骨が前傾すると背筋は自ずと伸びます。ですからアスリートの人たちの走る姿は一様に背筋が伸びています。そして仙骨を前傾する筋肉は大腰筋であり腸骨筋、骨盤底筋ですから、これらの筋肉を鍛えることによって躍動感のあるランニング姿が実現し、走力も増します。こういう状態のランニングやジョギングはからだを健康にしれくれると思います。
 指導者の言葉をそのまま受けて「前傾すればいいのなら頭や胸を前に出そう」と誤解してしまいますと、上半身が突っ込んだ走り方になってしまいますので、ランニングやジョギングが健康のためのものではなくなってしまいます。

スリッパを利用して練習する
 スリッパが苦手な人がいます。スリッパを履いて歩くと、スリッパがすぐに脱げたり、どこかに飛んで行ってしまったり‥‥。こういう人は足先が上がっていない人であって、つまずきやすい人です。
 軸脚にしっかり体重を保持した状態で反対側の足を前に出しますと自然に母趾先が上がります。ですからスリッパをしっかりと足の母趾に引っ掛けることができます。ところが軸脚にからだを乗せた片脚立ちの状態を保つことができない人、上半身が前に突っ込んでしまう人は、あわただしく前脚を運ばなければいけなくなりますのでスリッパを蹴ってしまうような状況になってしまいます。あるいは足先が上がらないので、スリッパが滑り落ちてしまいます。
 スリッパが苦手な人は、はっきり申し上げれば“歩き方の悪い人”です。「裸足で生活するのが好き」という人も多くいると思いますが、その理由が“スリッパが苦手”なことであれば、“裸足の生活が健康的”ということにはなりません。
 例えば狭いキッチンの中で家事をするためにチョコチョコ動かなければならない状況だったとします。足の動きは10~20㎝が中心です。そんな時でもスリッパをしっかり引っ掛けることができて苦もなく足を動かすことができるのであれば、それは軸脚に重心がしっかり残っているということです。軸脚に重心を残したまま足を運ぶことができるというのが歩き方の基礎ですから、歩き方を改善したいと考える人は一つの方法としてスリッパを活用してみてください。

歩くことは「足を上げること?」それとも「足を降ろすこと?」
 今回はたくさんの絵を交えて歩き方について私の考え方をお伝えしました。“歩き方を直したい”という目的のために私のところに来られる方はおりませんが、からだの状態を改善する上で、からだの使い方を理解していただく上で、“歩き方、立ち方”から取り組む必要があると思われる人はたくさんいます。
 ところで歩くことをイメージしたとき、それは“足を上げる=前に出す”ことでしょうか? それとも“足を降ろす=地面を踏む”ことでしょうか? このことは端的に歩き方が外側の筋肉主導か内側の筋肉主導かを物語っていると思います。
 歩くたびに首や胸に圧迫感を感じる人、息詰まりを感じる人、普段あまり気にしていなくても、実際はそのような状況になっている人は多いです。このような人は歩くことが“足を上げて前に出す”ことだと感じているのではないでしょうか。
 股関節の外側(大腿筋膜張筋)で脚を上げている人は、筋連動が足の小趾側(第3腓骨筋や長趾伸筋)から始まります。足の小趾~ふくらはぎの外側~太股の外側へ、下から上への流れで股関節を曲げているわけですが、その流れは股関節で止まるわけではなく、上半身~首~頭へと続いていきます。このような人は「歩くと息が上がってきてしまう」と感じます。
 反対に、大腰筋を使うことから歩き始めるときは、筋肉の使い方が上から下へ向かいます。歩き方が“上げた足を降ろして地面を踏む”動作になっていますので、息を容易に吐き出すことができ、それだけで“心地良い”と感じると思います。考え事やストレスで頭の中が一杯だったとしても、歩く動作を利用してそれらを下へ下へと追いやり、足先から地面に解放してしまうことすらできるのではないかと思います。そんな歩き方を目指していただきたいと、そして歩くことが健康にも精神的にも良いものであることを実感していただきたいと思います。

 先日「たかが歩き方が悪いだけで、こんなにからだが不調になるなんて‥‥」と率直な感想を聞きました。私自身、施術をしたりアドバイスをしながら、内心「こんなところにも影響が及ぶのか?」と思うこともしばしばです。しかし現実は現実です。
 魚が水の中で泳ぎ続けることは、私たちが歩かなければならないことの大いなるヒントを与えてくれます。これからパラリンピックが始まりますが、膝から下がなかったり、下半身が動かない人たちが「どうして並外れた能力を発揮できるのか?」。専門的に考えると不思議で一杯になります。
 そんなことも踏まえて“歩き方”や“歩くことの意味”について、また続きを書いていきたいと考えています。

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 オリンピック代表の女子バレーボール選手の中にはスラッとして背の高い選手がいますが、脚もとても長く見えます。しかしアフリカ代表の選手は更に脚が長く、お尻もキュッと上がってスタイルが日本の選手とはまったく違って見えます。お臍のすぐ下から脚が始まっているようにさえ感じますが、それはどうしてなのでしょうか。骨格が私たち日本人とは違うというのは確かにあると思いますが、どうも骨格だけの差ではないようです。

大腰筋01

 大腰筋という筋肉があります。文字が表現しているように腰の筋肉ですが、腹筋や太股の筋肉のように体表から触ることはほとんどできない内部の筋肉(インナーマッスル)です。腰部の背骨(腰椎)の前面から起こり、お腹や骨盤の内部を通って太股の骨(大腿骨)の内側につながっています。ですから大腰筋は“お腹と脚をつなげている筋肉”であるということになります。股関節は骨盤と脚との関節で、脚を動かすための筋肉が幾つもありますが、大腰筋は骨盤のもっと上、背骨と脚をつないでいます。そしてこの筋肉の発達具合が、私たち日本人と諸外国の人たちでは違っています。それがスタイルの差となって現れ、からだ全体の動きに差が生じる原因であると考えられます。極端に表現すれば、私たち日本人の歩き方は“ヒョコヒョコ”に近く、欧米人、特に黒人の歩き方は“ゆったり”して颯爽としているように見える原因であると思います。

アフリカと日本の選手の体型
 

大腰筋の働き
 大腰筋の主な働きは「股関節を屈曲する。股関節を僅かに外旋する。」と学問的にはなっています。しかし実際には、このような働きが主であるとして大腰筋を捉えますと間違ってしまいます。
 大腰筋は腰椎そのものにつながっている大きな筋肉ですから、まず第一に“腰椎の安定”に関係していると考えます。すると腰痛との関連性を考えることができます。
 第二に、大腰筋が収縮すると腰椎を前下方に動かしますので、腰部の前弯(からだの左側面から見て「C」字型の弯曲)に関係します。骨盤が前傾してお尻がキュッと上がっていることがスタイルがよく見える条件の一つだと思いますが、そのためには腰椎がしっかり前弯していなければなりません。ところが私たち日本人は腰椎前弯が小さい(弱い)傾向にあって、更に加齢とともにほとんど前弯がなくなってしまうような傾向にあります。ということは骨盤自体の前傾も望めなく、さらに加齢にともない骨盤の後傾が進むため、お尻は下がって見えるばかりの状況になってしまいます。おしゃれなジーンズも「お尻が決まらない」というのは“大腰筋の働き”に原因があるのかもしれません。
骨盤を前傾する大腰筋と腸骨筋
 
 また、大腰筋は大腿骨の内側(小転子)につながっていますので、大腿骨を腹部の方に引き寄せる働きをします。これを「股関節を屈曲させる働き」として定義しているようですが、実際には「脚をお腹の方に引き寄せて持ち上げる」までの働きであると考えた方が正確だと思います。それ以上に股関節を屈曲(太股を持ち上げる)する主動筋は腸骨筋や大腿直筋など骨盤から大腿骨につながっている筋肉の働きです。
 それでも、大腰筋のこの働きは、ゆったり、颯爽と歩くためにはとても重要です。骨格としては、脚は股関節から始まりますが、大腰筋が脚を持ち上げる最初の筋肉であると考えますと、歩く、あるいは走るという動作は”お腹の奥”から始まると考えることができるからです。大腰筋のとても発達している、例えば黒人の選手が走り出すととても脚が長く見えるのは、彼らの脚はお腹から動き出しているからです。

大腰筋を使って歩き始める
 

大腰筋と腰痛
 大腰筋には腰椎の前弯を維持する役割と腰椎を安定させる役割があります。大腰筋がしっかりしていれば、腰椎はしっかり安定します。腰痛の多くは腰部や殿部の筋肉が張って伸びなくなることによってもたらせれますが、腰椎が不安定な状態になっていることも原因の一つです。
 また股関節の筋肉の中で大腰筋は大内転筋と深い関係にあります。大腰筋の働きが悪いと大内転筋の働きも悪くなるため骨盤に歪みが生じ、それが腰痛の原因になることもあります。
 私が腰痛に対する施術を行う時には、まず大腿骨の頭(大転子)と骨盤の状態を確認し、痛みを発している腰部や殿部の筋肉を確認しますが、それと同時に大内転筋を操作します。手動で大内転筋をしっかりさせると骨盤や腰椎がしっかりして腰部のハリが取れるのであれば、それは大腰筋の状態をしっかりさせる必要があるということと同じですので、そのようにして施術の手順を決めていきます。
 
大内転筋

大腰筋とお腹の冷え
 実際のところお腹の冷えている人はたくさんいます。「お腹の奥や腰が冷たい」と感じる時はほとんど間違いなく大腰筋の働きが悪いか、大腰筋が使われていないと考えられます。 「お腹の冷え=血流が悪い」というのはその通りですが「体熱の多くは骨格筋が生み出す」という観点で考えますと腹部の筋肉の働きが悪いか、腹部の筋肉が効率よく使われていないということも考える必要があります。
 腹部の筋肉といえば腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)がすぐに連想されると思いますが、その他に大腰筋(+小腰筋)、腰方形筋があります。そしてこの二つはお腹の深部、背中側に近いところにありますので、お腹の奥や腰部に冷えを感じるといった場合は、大腰筋、腰方形筋の状態や使われ方を確認する必要があります。そして大腰筋と腰方形筋の“使われ方”という観点では、“歩き方”の善し悪しが決め手になります。良い歩き方をしている人は自ずと大腰筋と腰方形筋をよく使っています。ですから、少し散歩するだけでもお腹の中が温まります。反対に歩き方の悪い人は、たくさん歩いて体中が温まったように感じたとしても「なぜかお腹の奥は冷たい」というように感じるかもしれません。
 
内臓を囲む筋肉

 大腰筋の前方には胃、十二指腸、小腸、膵臓、腎臓などの内臓がありますが、大腰筋がよく働いて熱を産生すれば、これら内臓に熱が伝わってその働きが良くなります。反対に大腰筋がほとんど熱をつくっていないような状態であれば、内臓は冷たくなって働きが悪くなります。それは様々な病気の原因にもなりますので、「大腰筋を働かす」ということを是非頭の中に入れていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩く
 これまで大腰筋を使わずに歩いている人にとって、大腰筋を使って足を上げて踏み出すという動作はとても難しいようです。理屈は非常に簡単です。しかし実践は難しいと皆さんが仰います。
 歩くことに関する詳細は後日別の記事として投稿しますが、歩く動作は「片脚立ちの連続である」と簡単に表現することができます。小学校の体育などでやった腿上げ運動、足踏み運動です。
 正しい”片脚立ち”は、片方の脚(腰)にからだ全体を乗せて保持することができるということです。中途半端な乗り方では、上げた脚をすぐに降ろさざるを得なくなります。
 例えば、右脚にしっかりとからだを乗せることができれば左脚は自由になります。すると自由になった左脚は軽々と前方に出すことができますが、この“前に出す”動作の最初に働くのが大腰筋です。
 
歩行動作大腰筋01

 右側に重心が移ると左の太股がフッと少し持ち上がりますが、それは股関節の内側の筋肉(=大腰筋)が働くことによって行われます。仮に、右側に重心が乗り切らないのに左脚を出そうとしますと(これは歩き方の悪い人の特徴ですが)、股関節の内側ではなく外側の筋肉で太股を上げてしまいます。長く歩くと太股の外側の筋肉が疲れる人は、このような人です。
 文章で表すことはとても難しく伝わりにくいことですが、歩行の時、どの筋肉を使って脚を前に出しているかはとても重要です。大腰筋を使って股関節の内側を機能させている場合は、その後出した前脚が軸足となってからだを支え、地面を踏みしめる(蹴る)ことも脚の内側の筋肉を使って行うようになりますので、O脚になったりする可能性は低くなります。

歩行時に使う筋肉

 股関節の外側(大腿筋膜張筋)を使って脚を上げている人は、その後の動作を脚の外側の筋肉を使って行うようになってしまいますので、ふくらはぎの外側が張り、小趾側重心で着地して地面を蹴るようになってしまいます。ですから足首の外側(外踝周辺)に問題が起きたり、母趾の使い方もおかしくなるため内反小趾、外反母趾といった状態を招く可能性がとても高くなります。もちろんO脚へと進んでしまいます。

 大腰筋を使って脚を上げ始めるのか、外側の大腿筋膜張筋を使って脚を上げ始めるのか、ちょっと見ただけでは見分けがつきませんし、どちらでも大差ないように思われるかもしれません。しかし筋肉の連動関係や連携関係上、この違いは非常に重要なポイントです。
 散歩するだけで他に特別な運動をすることもなく健康を維持でき、健やかに暮らすことができる人もいます。一方、からだをシェイプアップして健康を実現するために様々なトレーニングや運動を行いながらも「すっきりしない!」といつも感じている人もいます。ピラティス、加圧トレーニング‥‥、毎週一生懸命通い続け、トレーナーの指示に従っても「まったく進歩しているように感じない」という人がいますが、それは根本的なからだの使い方に問題があるからです。内転筋が弱いと指摘され、内転筋を強くするトレーニングを行っても、内転筋がうまく機能できない状態であれば意味をなしません。股関節の外側の筋肉を使って脚を上げ始めてしまう人はこのような人です。立った時、足裏と地面(床)との間に違和感を感じてしまうので、歩いても気持ちよくなりません。

 大腰筋はからだの深部にあるインナーマッスルです。つまり骨格を保持し、体幹を支えるための筋肉です。ジムに通い、たくさんのアウターマッスル(体壁筋)を鍛えてもインナーマッスルの力が弱かったり働きが悪かったりしますと、からだ全体としてのバランスや連携が上手くとれないので、強くなったアウターマッスルもその能力を十分に発揮することができません。
 では、どうやって大腰筋を鍛えるのか? という質問が浮かぶと思いますが、これについては近々投稿したいと考えている“歩き方”のところで考えたいと思います。私たち一般人はアスリートのようにタイムを競ったり、からだの能力アップを追求するわけではありませんので、大腰筋そのものに的を絞ったトレーニングなどは必要ないと考えます。使えば必要な筋力はついてきますので、一般人にとっては「どのようにして使うか?」がポイントになります。太股を上げる筋肉だからといって腿上げ運動をたくさんしたところで、別の筋肉(腸骨筋や大腿四頭筋など)を使ってトレーニングをしていたのでは何の意味もありません。そこは注意しなければなりません。
 大腰筋が上手く使えるようになれば、歩くことが心地良くなります。歩くだけでお腹は温まります。もちろん腰痛も軽減します。体型も良くなります。大腰筋とはそういった筋肉です。

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 そしゃく筋は全身筋肉の司令塔のような役割をしているので、食事をよく噛んで食べることがとても重要であるという話はたくさんしてきました。それはその通りなのですが、もう一つ、とても潜在力を秘めた存在を発見したような気持ちになりました。それは“舌”です。
 舌やその周辺のトラブルで来店される方は時々いらっしゃいますが、このたびの方の場合は私もビックリしました。舌が強固にこわばってしまったのですが、そのこわばりを少しずつ弛めていく過程でからだが驚くべき反応をしました。現在、その驚くべき反応は通り越した段階ですが、それでも施術する度にいろいろな反応が現れています。今回はこのことを取り上げて改めて“舌の力”について考えてみます。

 その方が初めて来店されたのは3ヶ月ほど前です。今から7年半ほど前に、英語の発音練習をしていて、素速く舌を動かす訓練をしていたときに突然、発声やそしゃくや嚥下に異変が現れたということです。その後、顔の筋肉を動かすことができなくなり、呼吸も普通にはできない状態に陥ったとのことですが、7年半の間、あらゆる病院や治療院などを巡ったようです。ところが症状はほとんど改善さることもなく、改善の兆しも見つからなかったようです。おそらく私のところにもそれほど期待を持って来られたわけではないと思います。
 最初にお会いしたときは、会話することもままならない状態で、顔の筋肉はほとんど動かすことができない状態でした。顔の表情をつくる筋肉(表情筋)を動かす顔面神経は機能していませんでしたが、顎を動かしてそしゃくする筋肉(そしゃく筋)も動かせませんでした。そしゃく筋をコントロールしている三叉神経の働きも悪い状態だと見受けられました。また横隔膜も動きませんでしたので呼吸も大変浅く、「どうやって生きてきたのだろう?」と思わず思ってしまったほどです。
 非常に強くこわばっていた舌でしたが、その舌を上下に動かすことで顎を閉じたり開いたりして食物を噛み、舌の上下運動を使ってなんとか食塊を飲み込んで食事を行っていたということです。私たちのからだは“結構しぶとく”できているようです。顔の筋肉が全滅の状態でも舌の動きだけは確保できて、それで食べ物を食べて命を維持することができるのですね。
 会話することもままならない状態ですから、なるべく他人と会話をしない仕事を選び、夜間働いて昼間に来店されるという生活パターンで、最初の2ヶ月間はほとんど毎日来店されました。

 舌の硬結、顔面神経、三叉神経、横隔神経という四つの問題が先ず私の頭の中に浮かびました。この中でも一番最初に解決しなければならないと考えたのは横隔神経に関連して呼吸の問題でした。極端に表現すればこの方の呼吸は”口先呼吸”でした。肺まで空気を入れることができず口の中入れた空気を喉の力を使ってやっと肺に届かせるといった状態でした。「まず肺で呼吸できる状態にしなければ‥‥」と考えました。以前にも説明しましたが、舌と横隔膜は密接な関係があると私は考えています。舌が硬ければ横隔も硬くなっているはずです。また、横隔膜をコントロールしている横隔神経は首(頚神経)から出ていますので、頚椎の状態は横隔膜の働きに影響を与えます。
舌のつよいこわばり
(来店から2週間ほどしての画像、呼吸はまずまずできる状態になっている)

 この方は喉仏(喉頭隆起)がかなり上にあって、更に顎先(オトガイ)と喉仏の間隔が狭い状態でした。舌(舌筋)が不自然に巻くように硬くこわばっているため、舌骨と共に喉頭隆起を引き上げ、オトガイを引きつけていました。舌骨は頚椎3~4番の前方に位置していますが、それが舌筋や舌骨舌筋の強いこわばりによってオトガイの方に引っ張られているため、頚椎3~4番も前方に変位していました。これによって横隔神経の働きも鈍くなっているのではないかと考えました。ですから、まずは舌骨の位置が少しでも後退して、頚椎の並びが自然な状態に近づけるようにと施術を行いました。2~3回くらい施術しますと、次第に横隔膜が動かせるようになりました。まだまだ不十分な状態ですが、肺に空気が入るようになり浅いながらも胸呼吸はできる状態になりました。

 顔の表情筋を動かす神経は顔面神経です。顔の皮膚感覚を支配しているのは三叉神経で、そしゃく筋を動かす神経は三叉神経です。この方の表情筋は動かせないばかりか皮膚感覚も鈍くなっていましたので、そしゃく筋が動かせないことも合わせて考えますと、やはり顔面神経、三叉神経ともに状態が悪いと考えられました。顔面神経は頭蓋骨の表面上に現れていますので施術も可能ですが、三叉神経は深部にありますので直接触れることはできません。
顔面神経02
(顔面神経:耳のすぐ下から現れ、耳下腺の中を通って顔表面の表情筋をコントロールする)

 「どうやったらいいのだろう?」と思いながらも顔面神経の働きが良くなるようにすることから始めることにしました。とても硬くなっている耳下腺(顔面神経がその中を通っている)をゆるめ、すかっりゆるみきっている表情筋やそしゃく筋への施術を行いました。変化が現れるまで数回の施術を要しましたが、そのうち表情筋を動かせる部分が現れ、皮膚感覚もはっきりするところと鈍いところが混在するような状態になりました。少しの変化も本人には希望の光です。当初の2週間くらいはちょっとずつ変化が現れるという経過でした。毎回の施術はほとんど同じ内容でした。硬くなっている舌や周辺の筋肉をゆるめ、耳下腺をゆるめ、表情筋やそしゃく筋を施術するといった内容でした。

 すると突然大きな変化が現れました。舌をゆるめているときに、口の中で急に舌が暴れ出したのです。“暴れる”という表現がぴったりの現象です。そしてそんな状況が2~3日続いたと思いますが、舌の暴れ方がいきなり強くなり、それはからだ全体を大きく揺らすほどの力でした。首が激しく振れだし、肩が激しく前後に動きだし、腹部や足までがドタンバタンと動きだしました。その力があまりにも強いので、舌を施術している私の手が何度もはじかれてしまいました。すると、それまで顎の奥の方に引き込まれていた喉が前に出てきました。「喉が本来の位置に戻ろうと動いている」と施術をしながら私は感じました。そしてこの時に「舌にはこんなに強い力が内在しているんだ!」と私は驚くとともに新たな発見をした気分なりました。普段は喋ったり食べたりするときに動いているだけの舌ですが、その内在している力はからだ全体を激しく揺り動かしてしまうほどの力です。
 施術を終えると、明らかに喉仏の位置が下に下がっていることがわかりました。普通の人と比べるとまだまだコチコチに硬くなっている状態でしたが、私も本人も改善に向けて希望の光が大きくなったと感じた瞬間でした。

 この大きな変化によって、それまでは口先だけで言葉を発していた状態が、口を動かして会話ができる状態になったと私は感じました。ただそしゃく筋の働きは戻っていませんので、口を開けたり閉めたりするのはやはり舌で行っている状態でした。ですから舌にはものすごい負担がかかり続けています。私たちが「オ」を発音するときのように唇と舌を使って口を開き、舌を口蓋(口の天井)に押しつけるようにして口を閉じる動作を行っていました。表情筋が動かないので「イー」と口角を横に広げることはできません。「アー」と顎を開くこともできません。この状態で言葉を喋るのはとても疲れることです。
 せっかく舌や喉に大きな変化が現れたわけですから、この変化をバネに確実に前進していかなければならないと私は感じました。そのためには舌の負担を減らさなければなりません。酷使する状況が続けば舌がゆるむのを期待することはできません。
 本来、口を閉じる働きを担っているのはそしゃく筋です。そして口を開くのは頬の筋肉や喉周辺の筋肉(舌骨上筋・舌骨下筋)の役割です。ですからそれらの筋肉が働きを回復すれば舌にかかっていた余計な負担は減ることになります。
 そしゃく筋が動くように! 喉が上下に動くように! これが次の段階の課題です。

 普通の状態の人はそしゃく筋を使って食べているので、そしゃく筋が動かない状態で食物を噛むということがどういうものか私には想像できませんでした。
 そこで「どうやって食事しているの?」と尋ねますと、「口も開けないので、口先に食物を入れ、舌を上に押しつけるようにして下顎を動かして噛んでいる」ということでした。
 施術を続けていくうちに喉の方は少し動くようになり、下顎を引き下げる動作ができるようになってきました。「それでもやはり舌の力が主体となって顎を下げて口を開いている。もっと大きく開こうとすると、舌の奥の方が盛り上がってしまい、それ以上下げることができない」という状態がしばらく続きました。「咬筋(そしゃく筋)は少し動いているように感じる日もあれば、やはり動いていないと感じる日あるけど、少しずつは前進しているように感じる」とのことでした。

 7年半前に数日間発音練習(本人の弁では「吹き上げるように舌を使い続けた」ということです)をしたら突然舌が反乱を起こしたようにおかしくなり、顔がおかしくなってしまったわけですが、7年半という長い年月、舌を酷使し続けた結果このような状態になってしまったのだと私は感じました。
 それでも最初の来店から2ヶ月が経過する頃からは会話もかなりできるようになり、食事では「万全ではないけどそしゃく筋を使って噛んでいるように感じる」というほどになりました。
 2ヶ月間、毎日のように60分間ベッドに寝て、舌をゆるめ、耳下腺、表情筋、そしゃく筋をじっと施術することを繰り返しただけですが、外見上は普通の人と変わらないように感じるほどになりました。しかしその頃から、起き上がることができず施術時間に間に合わなくて来店できなくなる日が現れるようになりました。舌の回復とともに体調に大きな変化が現れ「ぐったり寝入ってしまい目覚まし時計が鳴っても起きることができない」ということでした。
 「舌はこんなにもからだに影響力が強いのか!」というのが私の感想です。
 現在、3ヶ月が経過しましたが、週に3日程度の来店ペースになっています。それでも確実に回復に向かって進んでいますし、来店される度に顔つきや顔色にも変化が感じられますので、私自身「なんとか役に立てている」と実感しています。

 これまでも舌や喉、発声や滑舌などに問題を抱えている人達が来店されました。その中には声楽家や声優さんや声を仕事にしているプロの人もいます。その人達は微妙な違和感にも敏感です。ですからとても繊細に相対してきましたが、ここまで重症の方は私にとって未知の領域でした。
 この方は目を動かすこともできませんでした。今でも「大きく動かそうとすると舌に引っ張られてしまう」という状態です。舌の奥の方に硬結部分がまだ残っているからです。私が勉強した領域、つまり現代科学の見解では目を動かす筋肉(外眼筋)を働かせる神経は脳神経の中の滑車神経と動眼神経です。前述した表情筋を動かす顔面神経、顔面の皮膚感覚とそしゃく筋を動かす三叉神経もまた脳神経です。そして舌の運動に関わる神経は舌下神経(脳神経)ですから、勉強した知識で考えますと「脳神経がおかしい」という結論が導き出されます。
 しかし実際には、横隔神経と顔面神経を除いて、神経の問題ではなく、舌そのものの異常がいろいろな不調や不具合の根本原因になっていると感じています。何故なら三叉神経は触れることができないので施術していませんし、目を動かす神経も触れることができません。私が行ってきたことは、そしゃく筋そのもの、表情筋そのもの、舌そのものへの施術であって、三叉神経、舌下神経を触ったわけではないからです。それでも、舌の硬結がゆるんでくると“神経異常が原因”と診断されそうな症状が改善してくるからです。
 以前に激しい頭痛に襲われ、病院で三叉神経痛と診断されて、手術しか解決法はないと告げられた方が来店されました。しかし、単に頭蓋骨の歪みと強い噛みしめによる頭部筋膜のこわばりが原因でした。一回の施術ですっかり頭痛は改善しましたが、もし手術など選択していたら大変なことになったな、と思ったことがあります。現代医学ではまだまだよく解っていないことがあるという一面です。

舌と舌骨
 普段、舌は口の中で歯列の内部におとなしく収まっていますので、イメージ的には単純な構造のように思えるかもしれません。しかしその筋繊維の走行はとても複雑で、舌はたくさんの筋肉が一塊になったような存在です。
 ほとんどの骨格筋は骨に付着していて、その骨を足場として伸びたり縮んだりして動作を生み出します。胃や心臓や腸といった内臓の筋肉は骨とは関係なく動いていますが、舌は両方の性質を併せ持った存在のようです。そして骨格筋として側面では舌骨が舌の動きの足場であると考えることができます。
 舌の状態が少しおかしいと思われる方に対して「舌を大きく出してみてください」とやってもらうことがありますが、その出し方、出す方向、舌先の状態などを観察します。本人は真っ直ぐ出しているつもりでも、舌骨の捻れている人は真っ直ぐに出すことができません。また、舌が強くこわばっている人は舌を出すことができなかったり、出してもすぐに引っ込めてしまったり(出した状態を保持できない)、舌先を鼻の方(上方)に向けることができなかったりします。つまり、舌の筋肉に伸びることのできない硬い部分があるため自由に動かすことができません。また、舌全体がゆるんでいる人は、舌を動かす力が足りなくて大きく前に出すことができません。舌足らずの喋り方になったり、イビキや無呼吸症候群を招く可能性があります。 
 反対に舌が大きく出すぎる人は、舌全体がこわばっている傾向にあって、舌を引っ込める動作がやりづらいです。このような人は舌が口の中で余った状態になってしまうため下の前歯を押してしまいます。ですから放置しておくと噛み合わせに影響が出て反対咬合になってしまう可能性があります。
 
顎二腹筋と茎突舌骨筋と舌骨
 舌は舌骨を基盤に動いていますので舌骨の状態の影響を受けますが、同時に、舌骨もまた舌の状態の影響を受けます。
 耳の下の内側から喉の奥(舌骨)に掛けてのライン、ちょうど首が絞まるラインが突っ張って辛い思いをしている人が時々来店されます。そこには茎突舌骨筋、顎二腹筋がありますが、それらがこわばっているために首が常に絞めつけられているように感じてしまうのです。
 舌が強くこわばってしまいますと舌骨を顎先(オトガイ)の方に引き寄せてしまうことがあります。オトガイのすぐ側に喉仏が硬くなって感じられる人、つまり他の人に比べて顎先からすぐに喉になっているような人はこのような状態の人です。舌骨が本来の位置よりも前方にあるため、茎突舌骨筋も顎二腹筋も張ってしまいこわばります。
 反対咬合の人も下顎が前方に出ている分、舌骨が前方に移動している可能性がありますので、このような傾向にあると思います。
 このような、首を絞められているように感じている状態の人は、何処に行っても良くならないのか、あるいは何処に相談に行けば良いかわからないのか、心痛で不安気な顔をして来店されます。
 大概は硬くなっている舌をゆるめ側頭骨の位置を修正すること、つまり茎突舌骨筋、顎二腹筋の緊張を解消するだけで状態は大幅に改善します。首を絞められているような状況は恐怖心を誘発しますので「大変なこと」のように感じると思いますが、施術はとてもシンプルです。

気をつけたい舌のトレーニング
 イビキや無呼吸症候群の改善方法として、あるいは顔の引き締め効果を狙ったトレーニングとして舌を動かすトレーニングが最近話題になっているようです。
 トレーニング自体は良いことだと思いますし、舌の働きを高めることは健康を維持する上でも有効な手段だと思います。ところがトラブルもあるようです。それはトレーニング自体に問題があるのではなく、トレーニングする側の認識不足が原因のようです。
 「半日、集中して舌のトレーニングをしていたら耳の下から喉元にかけて突っ張りが生じ、首が絞められているようになってしまった」という若い方が来店されました。普段とは違う使い方で舌を酷使した結果です。例えば一日に3~5分くらいでトレーニングを行っていればこのようなことにはならなかったと思います。上記の人もそうですが、一生懸命になりすぎて、休むことなく1時間、2時間、舌を酷使していれば舌がこわばってしまうのは当然のことと言えます。
 パソコン、IT社会の今日、若い人から高齢者まで不調を抱えた人が多くなり、いろいろなトレーニングが流行っていますが、どのトレーニングも適切な範囲で行わないとトラブルを招いてしまいます。
 ドライアイ対策に眼綸筋を鍛えるトレーニング、無呼吸対策に舌のトレーニング、有名サッカー選手がCMしていた首を振るトレーニング、これらには落とし穴があります。特に首から上のトレーニングは感覚器官に影響が出る可能性がありますので、注意事項を厳守して適切な範囲で行ってください。

骨格筋としての舌、内臓としての舌
 カエルがハエを捕食するとき、とても素速く舌を長く伸ばしてハエを瞬く間に口に入れてしまいます。ですからカエルにとっての舌は、私たちの手と同じ役割をしています。この意味で舌は骨格筋であると言えますし、私たちも自分の意志で舌を動かすことができますので、随意筋であり骨格筋の性質を持っていると言えます。一方で、舌は味覚を感じる感覚器官であり、そしゃくや嚥下(食物を飲み込む)の過程では喉の筋肉と連携して“食べる”という行為を行いますので、内臓であると言うこともできます。
 そしゃく筋もそうですが、舌は私たちが自己表現したり日常生活を営む役割(=骨格筋)と生命を維持する役割(=内臓)の二つを担っていますので、とても大切で、私たちの「存在としての要」であると考えることもできます。

舌の潜在力
 何もなく静かにしていれば、口の中にひっそりと控えめに収まっている舌ですが、私は今回の施術経験で、その潜在力の強さを思い知らされました。
 今回取り上げた方が、表情筋もそしゃく筋も眼も動かすことができなくなり呼吸も満足にできない状態になってしまったのは、神経がどうのこうのとか、それぞれの筋肉がどうのこうのというよりも、単に舌が異様に固まってしまったことが原因なのかもしれないとも思えます。強く固まってしまった舌はブラックホールのように引力が増大し、周りの筋肉の力を奪ってしまったのかもしれない、そんなふうにも感じます。
 そうでなければ、舌がおかしくなったことと顔の皮膚感覚が鈍くなったこと、そしゃくができなくなったこと、眼球を動かすことができなくなったこと、それらの因果関係を説明することが難しいと思います。現代医学における“神経と筋肉”、東洋医学における“経絡やツボ”、それらの理屈では筋の通った説明ができません。

 以前に「舌は神秘的」という表現をしたことがありますが、仙骨を中心にした骨盤力がからだ全体の中心であるとすれば、舌は感覚器官をはじめとする顔や頭の働きに強い影響力を持っていますので“舌は首から上の中心”ということができると思います。
 私自身の舌もこわばっています。舌を出して鼻先に向ける動作は舌を伸ばす動作ですが、すると右耳の耳鳴りが顕著になります。つまり舌と耳鳴りは関係性があるということですが、このことについては今後さらに追求していきたいと考えています。

舌の変調によるトラブル
 舌がこわばっていたり、反対にゆるんでいる場合のトラブルについて幾つか挙げてみます。

①顔、首、肩から力が抜けない
 顔・首・肩から力が抜けず、いつも肩が上がってしまうような人は、舌がこわばっている可能性が高いです。ご自分を振り返ってみて「胸から上で生きている」と感じるのであれば、息苦しく生きている人であって、舌のこわばりよる影響が大きいかもしれません。

②滑舌が悪い、発声の調子が悪い、歌唱力が落ちた
 声帯は喉にありますが、喉仏(後頭隆起)は舌骨と一体になっているようなものですから、舌の影響を大きく受けます。喉がこわばっても舌はこわばり、舌がこわばっても喉がこわばるという関係がありますので、声帯の動きが悪くなったり、声の出が悪くなったと感じる時は舌の状態を確認する必要があると思います。舌の状態が大丈夫であれば、舌を出して下方(顎先の方)にも上方(鼻の方)にも同じようにスムーズに動きます。上方に動かすことが苦手なときは舌がこわばっていると考えられます。
 また、舌がゆるんでいますと「舌足らず」の喋り方になってしまうでしょうし、舌がこわばっていますと舌を噛んでしまうような「舌余り」の喋り方になってしまいます。

③噛み合わせが不調、反対咬合
 噛み合わせが合わなくなる理由はいくつかありますが、舌がこわばっていますと舌先で下の歯を押してしまいます(舌先に歯型がついている)ので、下顎が前方に移動して噛み合わせが狂うほか、反対咬合(受け口)になってしまう可能性があります。

④そしゃく・嚥下の不調、飲み込みがスムーズにいかない
 顎を動かして食物を噛む筋肉の主体はそしゃく筋ですが、食物は噛み砕いただけでは喉を通っていきません。口の中で唾液と混ぜてドロッとした塊になるまでそしゃくしなければなりません。この時、舌と頬(の内壁)を絶妙に使いますので、舌の状態が悪いとしっかりそしゃくできないということになります。舌や頬に口内炎が生じますと途端に食べられなくなりますが、それは食塊をつくる作業がスムーズにできなくなるからです。
 また飲み込むことができる状態になった食塊は、実際に飲み込んで食道に送り込む(嚥下)とき、舌を口の天井(口蓋)にペタッとくっつけて空気の入らない状態(陰圧)にならないと喉を通っていきません。舌がゆるんでいて働きが悪い状態では陰圧をつくるのに時間がかかってしまうため、嚥下がスムーズにできなくなってしまいます。

⑤無呼吸症候群やイビキ
 舌がゆるんでいてハリがなくなりますと、仰向けで寝た時、舌が喉の方に落ちてしまい気道を塞いでしまいます。これが無呼吸症候群の一つの原因であり、イビキの原因でもあります。元々口呼吸の人はこの傾向がありますが、それは仰向けになって口を閉じた状態から口を開くと舌が気道の方に落ち込む現象をみればわかるかと思います。
 
⑥その他
 舌がこわばっている時の症状は認識しやすいのですが、舌がゆるんでいる時の症状はなかなかわかりにくいものです。舌がゆるんでいると活力が乏しくなりますが、単にからだ疲労しているだけでも活力は失われるからです。しかし「休養も十分取ったはずなのになかなか活力が戻らない」というような場合は、内臓の病気も疑われますが、舌がゆるんでいるからなのかもしれません。舌のトレーニングを幾日か行ってみてください。舌がしっかりすれば活力が戻ってくるかもしれません。
 また、東洋医学では舌と心臓は密接な関係にあると考えられています。舌の状態がなかなか良くならないと感じる場合は、一度循環器系の診察を受けてみることをお奨めします。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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メールアドレス info@yumetowa.com

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 今回はほとんどの人が信じないだろうと思われる、“眉唾”に受け取られる話題です。

 過去に経験した肉体的な大ケガやそれに基づく精神的な恐れやトラウマ、それらを克服することはなかなか困難のようです。鬱、ストレス、それらから抜け出せない人もかなりいると思います。このブログで「首肩から力が抜けない」というの話題を幾度か取り上げましたが、実際、首肩から力が抜けない状態を克服することもなかなか大変です。
 私の母はリウマチを患い膝関節が変形してしまったため、常に膝が締めつけられているように感じていますし、長く歩くと膝が痛くなります。しかし、時々からだに何の痛みや違和感を感じなくなる時があります。すると「なぜか意識がからだをチェックしだし、何処かに悪いところはないかと探し始めてしまう」と言います。「何かに夢中になり、意識がそちらにとられていると痛みのことなど一切忘れてしまうのに‥‥」というのは誰もが実際に体験していることではないでしょうか。
 何度も何度も”ぎっくり腰”を繰り返し、常に腰に不安を抱えている人は、実際には筋肉の状態が良くなって腰を使うことができるのに、なるべく腰部を使わないようにガッチリ腰を固めて動作しようとする傾向があります。すると腰や背中はピンと張った状態になりますので、捻ったり曲げたりすることができないばかりか、ちょっとしたことでまたピリッ、グキッとなってしまいます。心理の深い部分に「もう腰をケガしたくないので腰をガチッと固めておきたい」というのがあるのは理解できます。しかし、これでは自分で自分自身に制限をかけているのと同じこと、つまり自分で症状の改善をストップしているのと同じことですので、そこから先には一歩も進めなくなってしまいます。いつもいつも同じことの繰り返しで、少し状態が良くなったとしても、またちょっとしたことで腰部が傷つき、腰痛状態に戻ってしまいます。

不安、恐れ‥‥負の思考回路
 「マイナス思考」「ネガティブ」という言葉はよく耳にしますが、それを克服することは実際なかなか難しいことです。
 私の仕事に関連して例をあげてみます。
 何度も何度もギックリ腰を繰り返して腰の状態が非常に悪くなった人は、ちょっとしたことですぐにピリッ、ギクッ、グキッとなってしまう経験が身にしみていますので、常にその状態にならないようにと気を使っています。そしてそれは“腰部を固めてなるべく動かないようにする”という対処方法です。布団に入る時、布団から起き上がる時、椅子に座る時、椅子から立ち上がる時、必ず背中や腰を固めて動かない状態にしてから動作を行おうとします。“固める”ということは”息を止めた状態”で動作するということです。「腰をゆるめながら動作しないと危ないですよ!」と注意するのですが、どうしてもそれができません。不安や恐れの気持ちが根深くあるので、本人が「ゆるめなくては‥‥」と思っていてもそれができないのです。
 そしてこのような人はすべての動作において警戒心が働いてしまうようです。自分の意に反して常に腰部が固まった状態になってしまいます。家事で洗い物をするとき、包丁を使う時、洗濯物を干す時、入浴で髪やからだを洗う時、誰かに呼ばれてふり向く時‥‥、あらゆる動きで腰や背中を固めてしまいますので筋肉のしなやかな連係プレイは望むことができず、すべての動作がロボットの動きのようになってしまいます。そして何よりも、すべての動作でピリッとかギクッとか筋肉を傷める確率が高くなってしまいます。

 筋肉や骨格の状態も改善してきて、普通にしているだけではそれほど腰痛を感じる状態ではないのに、散歩をしてくると腰部や殿部がカチッとなってしまい痛みを感じる部分ができてしまいます。すると、その後の家事がやりづらくなったり、肩や腕などに痛みを感じるようになってしまうことがあります。「朝は普通に包丁が使えたのに、夕方は肩がカチッと固まってしまい包丁が使えなくなった。」というのは腰が固まっているからかもしれません。
 右手を使う時、普通は左腰に体重を預けて動作を行います。椅子に座った状態で、右のお尻(坐骨)に重心を乗せた状態で右手を動かそうとすると、どことなく不自然な動きになります。ところが左のお尻に体重を移すと途端に右手の動きが楽になります。重心を掛けた側とは反対側の腕や脚がフリーになるからです。からだはこのようにできています。ですから右手で包丁を使うならば左脚に体重を乗せるようにしたり、あるいはキッチン台に左腰を預ける(ぶつける)ようにして斜に構えて右腕を操作するのが自然な在り方であると言えます。ところが左腰に痛みを感じたり、左腰が固まっている時はそれができませんので、両足で突っ立ったまま、あるいは右側に体重をかけて右腕を操作してしまいます。すると包丁が上手く使えないばかりか、右肩や右腕の負担が増し、痛みを感じるようになってしまうかもしれません。包丁を使った後、字を書いた後、手や腕がとても疲労してしまう人は、重心のかけ方を工夫するだけで問題が解決するかもしれません。

 「左腰がカチッとしているので体重を掛けられない」という心理は解ります。しかし私はあえて「工夫をして左腰に体重を乗せてください」と言います。ゆっくり軽く足踏みをしたり、ゆっくりからだを捻ったりして左腰が固まった状態を解除してくださいと言います。「左側に体重を掛けられる状態にしてからでないと包丁は使ってはいけない」と言っていますが、からだの改善を図っている人にとってはこの微妙な重心移動がとても重要な要素であると考えています。

 ここからが謎めいた話になりますが、私の母は考え事をするとき必ず頭を動かして右下やや後方に視線を向けます。こういう仕草をしないと脳の思考回路のスイッチが入らないのかもしれません。一方で“右下やや後方”ということは、脳の右端、“右耳辺り”の場所を使って思考を展開していると解釈することもできます。人それぞれに脳の中で思考を展開する特定の場所というものがあるようです。
 ある人は額(前頭葉)の右側寄りを使って思考を展開しています。何を考えるにもそこを使っていますので、しばしばその部分が頭痛に襲われますし、頭蓋骨もそのように歪んでいます(頭部が右側にずれている=頭の右側が大きい)。それだけならまだ良いのですが、観察していますとその部分を通過する思考は必ずマイナス思考になってしまうようで、それが問題です。「できない」「恐い」「慎重」「不安」というフィルターがそこに存在しているかのようです。例えばこれまで30㎝くらいしか動かすことができなかった動作を35㎝に拡げようとします。筋肉の状態は十分にその動作が可能な状態です。ところがこれまでよりも5㎝動作が大きくなると考えただけで息が上がりだし、緊張感が生まれ、不安に襲われてからだが硬直してしまいます。当然動作は上手くできません。
 「首肩から力を抜いてゆったりと腹式呼吸をしてください。」とやってもらいますと、始めの2~3回は上手くできます。余計なことを考えることなく、単にそのリズムと雰囲気を継続してもらうだけでからだはどんどんリラックスしていくのですが、こういうタイプの人はすぐさま頭の“いつもの場所”を使い始めてしまいます。「このやり方でいいのだろうか?」とマイナス思考の回路が台頭し始めます。すると腹式呼吸をしているはずが、次第に呼吸が上がってきて息苦しくなり首肩の緊張が増してしまいます。
 そうなった場合でも、「そこ(額の右側)に意識やイメージを持っていかないでください。額の中央にイメージを持っていき、“単に吐くこと”だけに集中してください。」と言いますと、すっかり息苦しく感じていた呼吸が急に楽になり始め、腹式呼吸ができるようになります。
 呼吸に限らずどんな運動を開始する時も、この方は先ず身構えてから動作を始めようとします。慎重に体勢を整えてから動作を開始しようとする姿は“集中する”という面では長所です。ところが知らず知らずのうちに額の右側を使ってしまので、それは大きなマイナスです。「そこ(額の右側)で何を考えているのですか?」と尋ねても「別に何も考えていない」と応えます。もう何十年もこの癖を持って生きてきたので本人にはごく自然のことであり、「何がいけないのか?」まったくわからないのかもしれません。
 「では、そこ(額の右側)に意図的に意識を持っていかないようにしてください。何を思うにも額の真ん中で行ってください。」とやっていただくと身構えることなく動作を開始することができるようになります。あるいは動作をしながら意識を額の中央に持っていっていただくと、最初はぎこちなかった動作が次第にスムーズにできるようになります。
 この方のご両親は大変しつけが厳しかったようで、幼少の頃から“ミスしてはいけい”という思いを抱いていたということです。これは私の想像ですが、怯えが常にあったのでご両親を真正面から見ることが出来なかったのかもしれません。そうであるならば、それが知らず知らずのうちに視線と意識を額の右側に寄せてしまう癖をつくってしまったのかもしれません。

 「上手くやろうとしないでください。気持ち良くなるようにやってください。」私が今、この方に言い続けている言葉です。たとえば最初から上手く歩くことができなくてもかまいません。歩き続けているうちに、歩みの一歩一歩が次第に心地良く感じられ、腰やお尻の筋肉が働いていることが気持ちよく感じられるようになれば、歩き方は自ずと良くなっていきます。そして気持ちよく歩けている時は額の右側の思考回路は停止しています。自然に顔が上を向き出し、視線がしっかりと前方を捉えるようになります。背も高くなったように感じられます。「この感覚をしっかり覚えてください。からだに染み付かせてください。」とそう言っています。
 しかし、一端止まって再び歩き始めてもらおうとすると、例によって、“上手く再現しよう”という思いが額の右側を占有し始め、身構えることから始めてしまいます。すると、たった今できたことが何秒か後にはできなくなってしまう状態になってしまいます。

 ピアノや楽器の練習、スポーツの練習、あるいは何かの習い事などを真剣にやってきた経験のある人たちには理解できると思いますが、「上手くやろう」という邪心が芽生えますと、それが自分自身を制限し始め、それまで普通にできていたことが突如できなくなってしまったりします。また反対に、その時の技量では「なかなか難しい」と思われていたことも一生懸命トレーニングを繰り返し、頭の中にしっかりとしたイメージが出来上がれば、いざ本番という時に無心(余計なことを思わない集中した状態)になって取り組むことができるようになり、自分の限界を超えることができたという経験をお持ちの人も多くいると思います。これをメンタルトレーニングなどと言って心理学的に考えることもできるのかもしれませんが、頭の使う場所、つまり脳のどの思考回路を使うかという観点で考えることもできると私は思っています。

 四十肩や五十肩で肩関節が思うように動かせないのに「関節が固まってしまうから‥‥」という私から見ればとても不合理な理屈でオモリを持たせ強制的に関節を動かすようなトレーニングをさせたり、膝が痛むのに太もも(大腿四頭筋)にかなりの負荷をかけて筋力をアップさせようとするトレーニングなどを推奨している専門家がたくさんいます。こういうことは私のところでは一切やりませんが、時々、その時点でのご自分の限界点をその方が超えようとするとき、どのような息づかい(呼吸)、どのような気持ちや頭の使い方をしているかを観察するために、「動かせる限界から、もう少しだけ動かそうとしてみてください。」とお願いすることがあります。
 限界点を超えて動かそうとするので痛みを感じます。ですから誰もが一瞬不安な気持ちに襲われます。この時、もしその方がこの症状でとても辛い思いや痛みを経験したことがあったり、あるいはトラウマが頭に甦ったりしますと、その方の呼吸は突如として変わり、からだが硬直して手に冷や汗が出てくるかもしれません。「少し痛くてもリラックスして、息を吐きながらもう少しだけ動かしてみてください」と言われたところで、「わかってはいるけど、できない!」ときっと思われることでしょう。
 そして「できない!」という思いがどこかにあれば、実際、それ以上は動かすことはできません。“恐い”、“できない”という否定的な感情や思考はとても強力です。瞬時に呼吸を悪くし、筋肉を硬直させてしまいます。
 限界を超えて何かに挑戦するためには集中力が何よりも大切です。腕が30㎝しか上がらなかったものを35㎝に拡げようとするなら、肩関節や腕のつけ根の筋肉に全意識を集中させて取り組む必要があります。ところが頭の中に否定的な思考が生まれますと、意識の力が分散してしまい集中力が消え失せてしまいます。ご自分では肩関節や腕に意識を集中させているつもりでも、実際には頭の中にある「できない!」という恐怖心に意識がとられてしまいます。ですから実際、“できない状態”になるばかりか、痛みを感じたり、呼吸が荒くなって息苦しさを体験することになります。

 この時の「できない!」「恐い!」という感情は思考回路だと私は考えています。
 腕が30㎝しか上がらないなら、30㎝上げることをゆっくりと幾度か繰り返してもらいます。この時に意識を肩関節あるいは腕のつけ根に持っていってもらうのですが、それは実際には頭の中にイメージを作りあげるという作業です。頭に肩関節のイメージを描いて、そこに意識を集中するということですが、この作業をいつもの右側ではなく額の中央で行ってもらいます。ゆっくりと幾度か(30㎝動かす)動作を繰り返していると集中力が増していき、無心の領域に近づいていくのが感じられます。するとやがて30㎝だった可動域が自然に35㎝になり、それを超えていくようになったりします。(但し、肉体的状態として”動かすことができない”というのはあります。こういう状態の時に「もっと動かして!」と強要するのはからだを更に壊す原因になりますので、それはダメです。)

 少々乱暴な言い方になりますが、誰でもプラス思考やマイナス思考を持っています。額は脳の前頭葉の場所ですが、そこで私たちはイメージを形成して思考を展開していきます。仮にその方の前頭葉の右側で視覚化されたイメージはマイナス思考に結びつき、前頭葉の中央で視覚化されたイメージはプラス思考に結びつくと考えるならば、額の右側を無視して欲しいと思います。長年の癖は引力がとても強いものです。実際、額の中央に集中しようとしても動作が限界点に近づくと額の右側から“引っ張り”がやってきます。一連のトレーニングが終了して“ふっ”と安心して気を許すとすぐに思考の場所が右側に戻ってしまったりします。ですから、額の中央で視覚化することが“ごく普通”、“当たり前”になるまで自分の思考の在り方を注視し続けなければなりません。

集中するということ
 ほとんどの人は今回の話に疑問や疑いを持たれていることと思います。実際に体験しなければ“誰もわからないだろう”ということを承知の上であえて話題にしました。その理由は、私のところに来られる方々の中には肉体的な不調だけでなく、それに関連して精神的にも苦しんでいる方々が多くいらっしゃいまして、「何か良い手立てはないだろうか?」と毎日のように考えているからです。
 これらの方々は、施術を終えたときは症状も軽快して心理的にも明るくなるのですが、何日かしますとまた元の悪い状態に戻ってしまいます。肉体的な問題だけでそうなるのであれば、私の見立てが見当違いだったのか、私の技術力が未熟だったのか、という問題としてとらえることができるのですが、明らかにそうではなく、本人の心理状態が不調を改善することに対して邪魔になっている場合があります。“呼吸が悪く首肩から力が抜けない人”はこの傾向の人だと思われます。

 “疑いの心”、“恐れ”、“不安感”は、からだを改善することだけでなくいろいろな面で“邪魔者”です。何かを達成しようとするとき、私たちはそのことに集中して取り組まなければなりません。集中力が欠如した状態では思いを現実化することはできません。好きな楽器を練習するとき、趣味やスポーツに没頭するとき、商談で話し合うとき、美味しい食事を口にするとき、私たちは自然とそのことに集中し、瞬間的であったとしても他のことは頭から消えてしまいます。それが私たちに本来備わっている“集中力”という能力です。「どうせできないさ」とか「自分にできるだろうか?」とか「できなかったらどうしよう?」といった邪心(疑い、不安、恐れ)が頭にある状態では物事に集中することはできません。
 ですから、からだの状態が悪い「今」を、良い状態に変更しようと考えるならば‥‥つまり健康な自分を現実化しようとするならば、邪心をどこかに放り出して集中力を最大限に発揮する必要があるという理屈になります。

 たとえば痛みの出ない範囲でゆっくりと腕を動かし始めることは、不安感や恐怖心が表に現れませんので、集中力を発揮しやすい状態で運動を開始するということです。そして何度か同じ運動を繰り返していますと、集中が次第に深まっていき、他のことは何も頭になくなるという領域に心がシフトしていきます。するとからだの細胞は頭(脳)の状態を反映するかのように動きが良くなり始め、可動域が少しずつ大きくなっていきます。(ゆっくり、じっくり動かすということが大切です。)
 観察していますと 不思議なことですが、頭(脳)はギアチェンジするかのように違う領域へと状態をシフトしていきます。それを“脳波の移行”(α波、β波、θ波、Δ波)というとらえ方で説明できるのかもしれませんが、それについては私はよく知りません。
 ミュージシャンや歌手が音楽に集中するとき、野球選手が最大限に集中力を発揮しているとき、サッカー選手が集中しているとき、顔つきが普段とは違って「集中しているなぁ!」とわかりますが、ここに来られる方々も集中しているときは、顔つきが変化しますので私にはわかります。それは“わざとらしい集中”や“大げさな集中”ではなく、地味で”静かな集中”という様相ですが、確実に呼吸の状態も良くなっています。ですから、自分自身の変革、変化に取り組んでいるときは「いつもこうあってほしいなぁ!」と思っています。
 そのためには、先ず邪心の入らない状態に自分をおくことから始め、少しだけの進歩や変化でもいいですから、それを”良し”と思っていただき、毎日着実に前に進んでいることを実感していただくことが大切だと思います。

 また、からだの不調をいつも気にしている人は、ここで取り上げた”静かな集中”、“邪心のない集中”が苦手な傾向にあります。からだの不調とは関係のない、例えばお喋りに夢中になる、テレビ番組に集中する、といったことに対しては何の邪心もないままにストレートに集中することができますが、からだや心の気になることに関しては「単に集中して観察する」ということができないようです。どうしても“自分の想い‥‥不安、恐れ、疑い”というフィルターを通して観察してしまうようです。疑いのフィルターを通してからだを観察すれば、「今は良くてもまた駄目になってしまうのではないか」という思考が形成されます。恐れのフィルターを通して観察すれば、「この運動でまたグキッと筋肉を傷めたらどうしよう」となります。
 そしてこれらの邪魔なフィルターは“思考回路”だと私は考えています。道路を走る自動車に例えるならば、目的地に着くまでにどうしても寄りたくなってしまう「道の駅」みたいなものです。道の駅を無視して真っ直ぐに目的地に向かうなら余計な買い物をすることもなく、時間を浪費することもありません。道の駅に寄って一服してしまいますと、トイレを済ました後突然、「やっぱり行くのは止めて家に戻ろうかな?」などという心が芽生えてしまうかもしれません。朝目覚めたときに思いついた「今日は遠出をして気分転換しよう!」という素晴らしい計画は道の駅に寄ったがために「遠出して本当に気分が変わるだろうか? やっぱり家に帰ってのんびりしよう」という尻つぼみの結果になってしまうかもしれません。
 邪魔なフィルターの回路とは、この道の駅のようなものです。そこを思考が通過してしまいますと、当初の目的とは別の結果が導き出されてしまうのです。ですから、その思考回路に思考を通過させないようにと、苦しんでいる方々にはお伝えしたいのです。

 上記に例として取り上げた方は、この邪魔な思考回路のある場所が額の右側です。ですから何を考えるにも「額の右側に持っていかないでください」と注意し続けています。それでも何十年にもわたる癖ですから、そう容易く克服することはできません。ふとした瞬間に、油断した瞬間に、額の右側は思考を引っ張り込んでしまうのです。

意識の向け方とからだの変化
 やはり首肩から力が抜けずに顎、首、肩が不調で苦しんでいる別の人がいます。「私は二人で並んで歩く時、左側(連れの人が右側) に居ないと落ち着かない」と仰います。つまり誰かが自分の左側にいると落ち着かなくなると解釈することができます。また同時に「赤面症の気があるようで、正面で相対して仕事の話しなどをすると顔が火照ってきて緊張してしまう」とも仰っていました。そこで実際に、私がその方の左側と右側に立ってからだの変化を観察してみました。すると実際には本人の思いとは反対に、私が左側に立つと首肩から力が抜けてからだはリラックスした状態になり、右側に立つと首肩に力が入りだし呼吸も荒くなってしまいました。そしてその方の正面に相対して眼を見ながら会話を始めると、ここでも二つの状態が現れました。私が正面やや右側で相対すると首肩に力が入り出し息が荒くなりますが、私が少し移動して正面やや左側の位置になりますと、それまでの緊張感はスッと消えました。
 この反応を私は、意識を右側に向けるとからだが緊張する、つまり自律神経の交感神経が優位になる傾向があると解釈しました。からだが自然と防御体制になってしまうと考えました。
 「これまでの人生でトラウマになるような出来事はありましたか?」と尋ねますと、なかなか思い出せなかったのですが、しばらくしてから「そういえば随分前だけど、子供の友人のお母さんから激しく苦情を言われたことがあって、その時のことがずっと心に残っているのかもしれない。赤面症のようになったのもそれからかもしれない。」と仰いました。
 赤面症を医学的どう捉えているのかは知りませんが、単純に考えますと“顔の表面に血液がたくさん集まる”ということですから、顔の血管をコントロールしている交感神経が活発に働き出すということであると考えることができます。また火照りなども感じるのであれば、顔だけでなく脳も含めて頭部全体の交感神経が活発化するということです。自律神経のうち交感神経は、本来“防御体制をとっていつでも逃げられる”準備をするためのものですし、副交感神経はこれとは反対にリラックスしてからだを休めるためのものです。
 こう考えますと、この方が誰かと並ぶ時は右側にいて欲しいと願うのは、何かあったらいつでも逃げ出せる状態に自分を置いておきたいという深層心理なのかもしれません。
 これを“意識の向け方”という観点で考えますと、意識を右側に向けておけばいつでも防御できる状態なので安心感が生まれ、意識を左側に向けることは、どこか無防備に感じてしまい、からだはリラックスするかもしれないけど心は落ち着かなくなる、ということであると考えることもできます。

 意識がいつも頭や首や肩にある人はそこから力を抜くことがなかなかできません。つまり悩み続けている時や、いつも頭で考え続けている人は自然と顔首肩に力が入ってしまうということです。こういう人に「肩の力を抜いてください」と言ったところで、実際のところそれは難しいことです。意識がそこ(首・肩・頭)から離れないので力の抜き方がわからなくなってしまうのです。ですから私は「意識を足の方に向けてください」とか、腰を捻る運動や下半身を使う運動をやってもらったりします。すると意識がそちらの方に移動するので自然と首肩から力が抜けるようになります。
 なかなか首肩から力を抜くことができない人に対して、稀にとても抽象的な質問ですが、「今、この瞬間、あなたはどこで生きていますか?」と尋ねることがあります。つまり意識をどこに集中させていますか? ということなのですが、上記の”思考回路”のことも含めて、その方の癖を自分自身で実感していただきたい、そしてその癖を克服することに挑戦していただきたいという願いを込めて、こんな突飛な質問をすることがあります。

 私は心理学者でも心理セラピストでもありませんので、トラウマや上記で取り上げたような状況を根本的に解決するためにどうすればよいかということは知りません。ですからここに記してきたような事柄はもしかしたら単なる対処法に過ぎないかもしれません。しかしながら色々な病院を巡っても曖昧な応えしか得られず、挙げ句の果てに心療内科に回され、結局のところ薬を出されて釈然としない思いを抱いている人達の話を聞きますと、このようなアプローチ方法も有効な手段ではないかと思っています。

 思考回路のことに話を戻せば、私の仕事上での思考回路は「からだは全部つながっている」というものです。この思考回路を通して皆さんのからだを観察し、施術の方針を決めています。ですから骨盤を調整するために足先や手指を施術したり、噛みしめや目のコリを解消したりすることは、からだは全てつながっていて影響し合っていると考えている私にとっては何ら不自然ではなくごく当たり前のことです。ところが現代医学ではほとんどそのような考え方やアプローチはしませんし、テレビや本や雑誌などから情報を得ている皆さんも同様だと思います。これは大雑把に言ってしまえば、私とお医者さんとは思考回路がまったく異なっているということです。私もかつてはお医者さんや皆さんと同じような思考回路を使ってからだを観察していました。「腰痛の原因は椎間板が云々で、神経が圧迫されて云々」と勉強していましたので、そのような目(思考回路)で腰痛を捉えていました。ところがそれでは解決しない、“腑に落ちない”ことをたくさん経験しましたので、根本的に考え方を変えようと決心しました。つまり、それまでコツコツと勉強して築き上げてきた思考回路を全く別のものに取り替える作業に取り組んだのです。新しい思考回路が確立するまで2~3年は掛かったと思います。その間は、元々の思考回路からの攻撃(引力)をたくさん受けました。腰痛の方が来店されると、つい“神経の圧迫”とか“椎間や腰椎”などと頭に浮かんできてしまうのです。
 ですから思考回路を変更するということ、これまでの思考回路を使わずに新たな思考回路を築き上げるという作業が如何に大変で、粘り強い忍耐力が必要なことはよく理解しています。決して一朝一夕にできることではありません。しかし思考回路が変われば、からだが変わり、からだの使い方が変わります。
 顔・首・肩から力が抜けずに辛い思いをしている人、呼吸が苦しくて生きているだけでも辛いと感じている人、そういう人達は肉体的な調整だけでは不十分です。肩こりをほぐしても、楽に感じるのはその時だけです。
“今の自分”を抜け出して、心地良い自分、新たな自分になることを目指すのであれば、忍耐することを心に決めて”考え方を変えること”、つまり新たな思考回路を築き上げることに取り組んでみてはいかがかと思います。

足つぼ・整体 ゆめとわ
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