ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

 そしゃく筋は全身筋肉の司令塔のような役割をしているので、食事をよく噛んで食べることがとても重要であるという話はたくさんしてきました。それはその通りなのですが、もう一つ、とても潜在力を秘めた存在を発見したような気持ちになりました。それは“舌”です。
 舌やその周辺のトラブルで来店される方は時々いらっしゃいますが、このたびの方の場合は私もビックリしました。舌が強固にこわばってしまったのですが、そのこわばりを少しずつ弛めていく過程でからだが驚くべき反応をしました。現在、その驚くべき反応は通り越した段階ですが、それでも施術する度にいろいろな反応が現れています。今回はこのことを取り上げて改めて“舌の力”について考えてみます。

 その方が初めて来店されたのは3ヶ月ほど前です。今から7年半ほど前に、英語の発音練習をしていて、素速く舌を動かす訓練をしていたときに突然、発声やそしゃくや嚥下に異変が現れたということです。その後、顔の筋肉を動かすことができなくなり、呼吸も普通にはできない状態に陥ったとのことですが、7年半の間、あらゆる病院や治療院などを巡ったようです。ところが症状はほとんど改善さることもなく、改善の兆しも見つからなかったようです。おそらく私のところにもそれほど期待を持って来られたわけではないと思います。
 最初にお会いしたときは、会話することもままならない状態で、顔の筋肉はほとんど動かすことができない状態でした。顔の表情をつくる筋肉(表情筋)を動かす顔面神経は機能していませんでしたが、顎を動かしてそしゃくする筋肉(そしゃく筋)も動かせませんでした。そしゃく筋をコントロールしている三叉神経の働きも悪い状態だと見受けられました。また横隔膜も動きませんでしたので呼吸も大変浅く、「どうやって生きてきたのだろう?」と思わず思ってしまったほどです。
 非常に強くこわばっていた舌でしたが、その舌を上下に動かすことで顎を閉じたり開いたりして食物を噛み、舌の上下運動を使ってなんとか食塊を飲み込んで食事を行っていたということです。私たちのからだは“結構しぶとく”できているようです。顔の筋肉が全滅の状態でも舌の動きだけは確保できて、それで食べ物を食べて命を維持することができるのですね。
 会話することもままならない状態ですから、なるべく他人と会話をしない仕事を選び、夜間働いて昼間に来店されるという生活パターンで、最初の2ヶ月間はほとんど毎日来店されました。

 舌の硬結、顔面神経、三叉神経、横隔神経という四つの問題が先ず私の頭の中に浮かびました。この中でも一番最初に解決しなければならないと考えたのは横隔神経に関連して呼吸の問題でした。極端に表現すればこの方の呼吸は”口先呼吸”でした。肺まで空気を入れることができず口の中入れた空気を喉の力を使ってやっと肺に届かせるといった状態でした。「まず肺で呼吸できる状態にしなければ‥‥」と考えました。以前にも説明しましたが、舌と横隔膜は密接な関係があると私は考えています。舌が硬ければ横隔も硬くなっているはずです。また、横隔膜をコントロールしている横隔神経は首(頚神経)から出ていますので、頚椎の状態は横隔膜の働きに影響を与えます。
舌のつよいこわばり
(来店から2週間ほどしての画像、呼吸はまずまずできる状態になっている)

 この方は喉仏(喉頭隆起)がかなり上にあって、更に顎先(オトガイ)と喉仏の間隔が狭い状態でした。舌(舌筋)が不自然に巻くように硬くこわばっているため、舌骨と共に喉頭隆起を引き上げ、オトガイを引きつけていました。舌骨は頚椎3~4番の前方に位置していますが、それが舌筋や舌骨舌筋の強いこわばりによってオトガイの方に引っ張られているため、頚椎3~4番も前方に変位していました。これによって横隔神経の働きも鈍くなっているのではないかと考えました。ですから、まずは舌骨の位置が少しでも後退して、頚椎の並びが自然な状態に近づけるようにと施術を行いました。2~3回くらい施術しますと、次第に横隔膜が動かせるようになりました。まだまだ不十分な状態ですが、肺に空気が入るようになり浅いながらも胸呼吸はできる状態になりました。

 顔の表情筋を動かす神経は顔面神経です。顔の皮膚感覚を支配しているのは三叉神経で、そしゃく筋を動かす神経は三叉神経です。この方の表情筋は動かせないばかりか皮膚感覚も鈍くなっていましたので、そしゃく筋が動かせないことも合わせて考えますと、やはり顔面神経、三叉神経ともに状態が悪いと考えられました。顔面神経は頭蓋骨の表面上に現れていますので施術も可能ですが、三叉神経は深部にありますので直接触れることはできません。
顔面神経02
(顔面神経:耳のすぐ下から現れ、耳下腺の中を通って顔表面の表情筋をコントロールする)

 「どうやったらいいのだろう?」と思いながらも顔面神経の働きが良くなるようにすることから始めることにしました。とても硬くなっている耳下腺(顔面神経がその中を通っている)をゆるめ、すかっりゆるみきっている表情筋やそしゃく筋への施術を行いました。変化が現れるまで数回の施術を要しましたが、そのうち表情筋を動かせる部分が現れ、皮膚感覚もはっきりするところと鈍いところが混在するような状態になりました。少しの変化も本人には希望の光です。当初の2週間くらいはちょっとずつ変化が現れるという経過でした。毎回の施術はほとんど同じ内容でした。硬くなっている舌や周辺の筋肉をゆるめ、耳下腺をゆるめ、表情筋やそしゃく筋を施術するといった内容でした。

 すると突然大きな変化が現れました。舌をゆるめているときに、口の中で急に舌が暴れ出したのです。“暴れる”という表現がぴったりの現象です。そしてそんな状況が2~3日続いたと思いますが、舌の暴れ方がいきなり強くなり、それはからだ全体を大きく揺らすほどの力でした。首が激しく振れだし、肩が激しく前後に動きだし、腹部や足までがドタンバタンと動きだしました。その力があまりにも強いので、舌を施術している私の手が何度もはじかれてしまいました。すると、それまで顎の奥の方に引き込まれていた喉が前に出てきました。「喉が本来の位置に戻ろうと動いている」と施術をしながら私は感じました。そしてこの時に「舌にはこんなに強い力が内在しているんだ!」と私は驚くとともに新たな発見をした気分なりました。普段は喋ったり食べたりするときに動いているだけの舌ですが、その内在している力はからだ全体を激しく揺り動かしてしまうほどの力です。
 施術を終えると、明らかに喉仏の位置が下に下がっていることがわかりました。普通の人と比べるとまだまだコチコチに硬くなっている状態でしたが、私も本人も改善に向けて希望の光が大きくなったと感じた瞬間でした。

 この大きな変化によって、それまでは口先だけで言葉を発していた状態が、口を動かして会話ができる状態になったと私は感じました。ただそしゃく筋の働きは戻っていませんので、口を開けたり閉めたりするのはやはり舌で行っている状態でした。ですから舌にはものすごい負担がかかり続けています。私たちが「オ」を発音するときのように唇と舌を使って口を開き、舌を口蓋(口の天井)に押しつけるようにして口を閉じる動作を行っていました。表情筋が動かないので「イー」と口角を横に広げることはできません。「アー」と顎を開くこともできません。この状態で言葉を喋るのはとても疲れることです。
 せっかく舌や喉に大きな変化が現れたわけですから、この変化をバネに確実に前進していかなければならないと私は感じました。そのためには舌の負担を減らさなければなりません。酷使する状況が続けば舌がゆるむのを期待することはできません。
 本来、口を閉じる働きを担っているのはそしゃく筋です。そして口を開くのは頬の筋肉や喉周辺の筋肉(舌骨上筋・舌骨下筋)の役割です。ですからそれらの筋肉が働きを回復すれば舌にかかっていた余計な負担は減ることになります。
 そしゃく筋が動くように! 喉が上下に動くように! これが次の段階の課題です。

 普通の状態の人はそしゃく筋を使って食べているので、そしゃく筋が動かない状態で食物を噛むということがどういうものか私には想像できませんでした。
 そこで「どうやって食事しているの?」と尋ねますと、「口も開けないので、口先に食物を入れ、舌を上に押しつけるようにして下顎を動かして噛んでいる」ということでした。
 施術を続けていくうちに喉の方は少し動くようになり、下顎を引き下げる動作ができるようになってきました。「それでもやはり舌の力が主体となって顎を下げて口を開いている。もっと大きく開こうとすると、舌の奥の方が盛り上がってしまい、それ以上下げることができない」という状態がしばらく続きました。「咬筋(そしゃく筋)は少し動いているように感じる日もあれば、やはり動いていないと感じる日あるけど、少しずつは前進しているように感じる」とのことでした。

 7年半前に数日間発音練習(本人の弁では「吹き上げるように舌を使い続けた」ということです)をしたら突然舌が反乱を起こしたようにおかしくなり、顔がおかしくなってしまったわけですが、7年半という長い年月、舌を酷使し続けた結果このような状態になってしまったのだと私は感じました。
 それでも最初の来店から2ヶ月が経過する頃からは会話もかなりできるようになり、食事では「万全ではないけどそしゃく筋を使って噛んでいるように感じる」というほどになりました。
 2ヶ月間、毎日のように60分間ベッドに寝て、舌をゆるめ、耳下腺、表情筋、そしゃく筋をじっと施術することを繰り返しただけですが、外見上は普通の人と変わらないように感じるほどになりました。しかしその頃から、起き上がることができず施術時間に間に合わなくて来店できなくなる日が現れるようになりました。舌の回復とともに体調に大きな変化が現れ「ぐったり寝入ってしまい目覚まし時計が鳴っても起きることができない」ということでした。
 「舌はこんなにもからだに影響力が強いのか!」というのが私の感想です。
 現在、3ヶ月が経過しましたが、週に3日程度の来店ペースになっています。それでも確実に回復に向かって進んでいますし、来店される度に顔つきや顔色にも変化が感じられますので、私自身「なんとか役に立てている」と実感しています。

 これまでも舌や喉、発声や滑舌などに問題を抱えている人達が来店されました。その中には声楽家や声優さんや声を仕事にしているプロの人もいます。その人達は微妙な違和感にも敏感です。ですからとても繊細に相対してきましたが、ここまで重症の方は私にとって未知の領域でした。
 この方は目を動かすこともできませんでした。今でも「大きく動かそうとすると舌に引っ張られてしまう」という状態です。舌の奥の方に硬結部分がまだ残っているからです。私が勉強した領域、つまり現代科学の見解では目を動かす筋肉(外眼筋)を働かせる神経は脳神経の中の滑車神経と動眼神経です。前述した表情筋を動かす顔面神経、顔面の皮膚感覚とそしゃく筋を動かす三叉神経もまた脳神経です。そして舌の運動に関わる神経は舌下神経(脳神経)ですから、勉強した知識で考えますと「脳神経がおかしい」という結論が導き出されます。
 しかし実際には、横隔神経と顔面神経を除いて、神経の問題ではなく、舌そのものの異常がいろいろな不調や不具合の根本原因になっていると感じています。何故なら三叉神経は触れることができないので施術していませんし、目を動かす神経も触れることができません。私が行ってきたことは、そしゃく筋そのもの、表情筋そのもの、舌そのものへの施術であって、三叉神経、舌下神経を触ったわけではないからです。それでも、舌の硬結がゆるんでくると“神経異常が原因”と診断されそうな症状が改善してくるからです。
 以前に激しい頭痛に襲われ、病院で三叉神経痛と診断されて、手術しか解決法はないと告げられた方が来店されました。しかし、単に頭蓋骨の歪みと強い噛みしめによる頭部筋膜のこわばりが原因でした。一回の施術ですっかり頭痛は改善しましたが、もし手術など選択していたら大変なことになったな、と思ったことがあります。現代医学ではまだまだよく解っていないことがあるという一面です。

舌と舌骨
 普段、舌は口の中で歯列の内部におとなしく収まっていますので、イメージ的には単純な構造のように思えるかもしれません。しかしその筋繊維の走行はとても複雑で、舌はたくさんの筋肉が一塊になったような存在です。
 ほとんどの骨格筋は骨に付着していて、その骨を足場として伸びたり縮んだりして動作を生み出します。胃や心臓や腸といった内臓の筋肉は骨とは関係なく動いていますが、舌は両方の性質を併せ持った存在のようです。そして骨格筋として側面では舌骨が舌の動きの足場であると考えることができます。
 舌の状態が少しおかしいと思われる方に対して「舌を大きく出してみてください」とやってもらうことがありますが、その出し方、出す方向、舌先の状態などを観察します。本人は真っ直ぐ出しているつもりでも、舌骨の捻れている人は真っ直ぐに出すことができません。また、舌が強くこわばっている人は舌を出すことができなかったり、出してもすぐに引っ込めてしまったり(出した状態を保持できない)、舌先を鼻の方(上方)に向けることができなかったりします。つまり、舌の筋肉に伸びることのできない硬い部分があるため自由に動かすことができません。また、舌全体がゆるんでいる人は、舌を動かす力が足りなくて大きく前に出すことができません。舌足らずの喋り方になったり、イビキや無呼吸症候群を招く可能性があります。 
 反対に舌が大きく出すぎる人は、舌全体がこわばっている傾向にあって、舌を引っ込める動作がやりづらいです。このような人は舌が口の中で余った状態になってしまうため下の前歯を押してしまいます。ですから放置しておくと噛み合わせに影響が出て反対咬合になってしまう可能性があります。
 
顎二腹筋と茎突舌骨筋と舌骨
 舌は舌骨を基盤に動いていますので舌骨の状態の影響を受けますが、同時に、舌骨もまた舌の状態の影響を受けます。
 耳の下の内側から喉の奥(舌骨)に掛けてのライン、ちょうど首が絞まるラインが突っ張って辛い思いをしている人が時々来店されます。そこには茎突舌骨筋、顎二腹筋がありますが、それらがこわばっているために首が常に絞めつけられているように感じてしまうのです。
 舌が強くこわばってしまいますと舌骨を顎先(オトガイ)の方に引き寄せてしまうことがあります。オトガイのすぐ側に喉仏が硬くなって感じられる人、つまり他の人に比べて顎先からすぐに喉になっているような人はこのような状態の人です。舌骨が本来の位置よりも前方にあるため、茎突舌骨筋も顎二腹筋も張ってしまいこわばります。
 反対咬合の人も下顎が前方に出ている分、舌骨が前方に移動している可能性がありますので、このような傾向にあると思います。
 このような、首を絞められているように感じている状態の人は、何処に行っても良くならないのか、あるいは何処に相談に行けば良いかわからないのか、心痛で不安気な顔をして来店されます。
 大概は硬くなっている舌をゆるめ側頭骨の位置を修正すること、つまり茎突舌骨筋、顎二腹筋の緊張を解消するだけで状態は大幅に改善します。首を絞められているような状況は恐怖心を誘発しますので「大変なこと」のように感じると思いますが、施術はとてもシンプルです。

気をつけたい舌のトレーニング
 イビキや無呼吸症候群の改善方法として、あるいは顔の引き締め効果を狙ったトレーニングとして舌を動かすトレーニングが最近話題になっているようです。
 トレーニング自体は良いことだと思いますし、舌の働きを高めることは健康を維持する上でも有効な手段だと思います。ところがトラブルもあるようです。それはトレーニング自体に問題があるのではなく、トレーニングする側の認識不足が原因のようです。
 「半日、集中して舌のトレーニングをしていたら耳の下から喉元にかけて突っ張りが生じ、首が絞められているようになってしまった」という若い方が来店されました。普段とは違う使い方で舌を酷使した結果です。例えば一日に3~5分くらいでトレーニングを行っていればこのようなことにはならなかったと思います。上記の人もそうですが、一生懸命になりすぎて、休むことなく1時間、2時間、舌を酷使していれば舌がこわばってしまうのは当然のことと言えます。
 パソコン、IT社会の今日、若い人から高齢者まで不調を抱えた人が多くなり、いろいろなトレーニングが流行っていますが、どのトレーニングも適切な範囲で行わないとトラブルを招いてしまいます。
 ドライアイ対策に眼綸筋を鍛えるトレーニング、無呼吸対策に舌のトレーニング、有名サッカー選手がCMしていた首を振るトレーニング、これらには落とし穴があります。特に首から上のトレーニングは感覚器官に影響が出る可能性がありますので、注意事項を厳守して適切な範囲で行ってください。

骨格筋としての舌、内臓としての舌
 カエルがハエを捕食するとき、とても素速く舌を長く伸ばしてハエを瞬く間に口に入れてしまいます。ですからカエルにとっての舌は、私たちの手と同じ役割をしています。この意味で舌は骨格筋であると言えますし、私たちも自分の意志で舌を動かすことができますので、随意筋であり骨格筋の性質を持っていると言えます。一方で、舌は味覚を感じる感覚器官であり、そしゃくや嚥下(食物を飲み込む)の過程では喉の筋肉と連携して“食べる”という行為を行いますので、内臓であると言うこともできます。
 そしゃく筋もそうですが、舌は私たちが自己表現したり日常生活を営む役割(=骨格筋)と生命を維持する役割(=内臓)の二つを担っていますので、とても大切で、私たちの「存在としての要」であると考えることもできます。

舌の潜在力
 何もなく静かにしていれば、口の中にひっそりと控えめに収まっている舌ですが、私は今回の施術経験で、その潜在力の強さを思い知らされました。
 今回取り上げた方が、表情筋もそしゃく筋も眼も動かすことができなくなり呼吸も満足にできない状態になってしまったのは、神経がどうのこうのとか、それぞれの筋肉がどうのこうのというよりも、単に舌が異様に固まってしまったことが原因なのかもしれないとも思えます。強く固まってしまった舌はブラックホールのように引力が増大し、周りの筋肉の力を奪ってしまったのかもしれない、そんなふうにも感じます。
 そうでなければ、舌がおかしくなったことと顔の皮膚感覚が鈍くなったこと、そしゃくができなくなったこと、眼球を動かすことができなくなったこと、それらの因果関係を説明することが難しいと思います。現代医学における“神経と筋肉”、東洋医学における“経絡やツボ”、それらの理屈では筋の通った説明ができません。

 以前に「舌は神秘的」という表現をしたことがありますが、仙骨を中心にした骨盤力がからだ全体の中心であるとすれば、舌は感覚器官をはじめとする顔や頭の働きに強い影響力を持っていますので“舌は首から上の中心”ということができると思います。
 私自身の舌もこわばっています。舌を出して鼻先に向ける動作は舌を伸ばす動作ですが、すると右耳の耳鳴りが顕著になります。つまり舌と耳鳴りは関係性があるということですが、このことについては今後さらに追求していきたいと考えています。

舌の変調によるトラブル
 舌がこわばっていたり、反対にゆるんでいる場合のトラブルについて幾つか挙げてみます。

①顔、首、肩から力が抜けない
 顔・首・肩から力が抜けず、いつも肩が上がってしまうような人は、舌がこわばっている可能性が高いです。ご自分を振り返ってみて「胸から上で生きている」と感じるのであれば、息苦しく生きている人であって、舌のこわばりよる影響が大きいかもしれません。

②滑舌が悪い、発声の調子が悪い、歌唱力が落ちた
 声帯は喉にありますが、喉仏(後頭隆起)は舌骨と一体になっているようなものですから、舌の影響を大きく受けます。喉がこわばっても舌はこわばり、舌がこわばっても喉がこわばるという関係がありますので、声帯の動きが悪くなったり、声の出が悪くなったと感じる時は舌の状態を確認する必要があると思います。舌の状態が大丈夫であれば、舌を出して下方(顎先の方)にも上方(鼻の方)にも同じようにスムーズに動きます。上方に動かすことが苦手なときは舌がこわばっていると考えられます。
 また、舌がゆるんでいますと「舌足らず」の喋り方になってしまうでしょうし、舌がこわばっていますと舌を噛んでしまうような「舌余り」の喋り方になってしまいます。

③噛み合わせが不調、反対咬合
 噛み合わせが合わなくなる理由はいくつかありますが、舌がこわばっていますと舌先で下の歯を押してしまいます(舌先に歯型がついている)ので、下顎が前方に移動して噛み合わせが狂うほか、反対咬合(受け口)になってしまう可能性があります。

④そしゃく・嚥下の不調、飲み込みがスムーズにいかない
 顎を動かして食物を噛む筋肉の主体はそしゃく筋ですが、食物は噛み砕いただけでは喉を通っていきません。口の中で唾液と混ぜてドロッとした塊になるまでそしゃくしなければなりません。この時、舌と頬(の内壁)を絶妙に使いますので、舌の状態が悪いとしっかりそしゃくできないということになります。舌や頬に口内炎が生じますと途端に食べられなくなりますが、それは食塊をつくる作業がスムーズにできなくなるからです。
 また飲み込むことができる状態になった食塊は、実際に飲み込んで食道に送り込む(嚥下)とき、舌を口の天井(口蓋)にペタッとくっつけて空気の入らない状態(陰圧)にならないと喉を通っていきません。舌がゆるんでいて働きが悪い状態では陰圧をつくるのに時間がかかってしまうため、嚥下がスムーズにできなくなってしまいます。

⑤無呼吸症候群やイビキ
 舌がゆるんでいてハリがなくなりますと、仰向けで寝た時、舌が喉の方に落ちてしまい気道を塞いでしまいます。これが無呼吸症候群の一つの原因であり、イビキの原因でもあります。元々口呼吸の人はこの傾向がありますが、それは仰向けになって口を閉じた状態から口を開くと舌が気道の方に落ち込む現象をみればわかるかと思います。
 
⑥その他
 舌がこわばっている時の症状は認識しやすいのですが、舌がゆるんでいる時の症状はなかなかわかりにくいものです。舌がゆるんでいると活力が乏しくなりますが、単にからだ疲労しているだけでも活力は失われるからです。しかし「休養も十分取ったはずなのになかなか活力が戻らない」というような場合は、内臓の病気も疑われますが、舌がゆるんでいるからなのかもしれません。舌のトレーニングを幾日か行ってみてください。舌がしっかりすれば活力が戻ってくるかもしれません。
 また、東洋医学では舌と心臓は密接な関係にあると考えられています。舌の状態がなかなか良くならないと感じる場合は、一度循環器系の診察を受けてみることをお奨めします。

 今回はほとんどの人が信じないだろうと思われる、“眉唾”に受け取られる話題です。

 過去に経験した肉体的な大ケガやそれに基づく精神的な恐れやトラウマ、それらを克服することはなかなか困難のようです。鬱、ストレス、それらから抜け出せない人もかなりいると思います。このブログで「首肩から力が抜けない」というの話題を幾度か取り上げましたが、実際、首肩から力が抜けない状態を克服することもなかなか大変です。
 私の母はリウマチを患い膝関節が変形してしまったため、常に膝が締めつけられているように感じていますし、長く歩くと膝が痛くなります。しかし、時々からだに何の痛みや違和感を感じなくなる時があります。すると「なぜか意識がからだをチェックしだし、何処かに悪いところはないかと探し始めてしまう」と言います。「何かに夢中になり、意識がそちらにとられていると痛みのことなど一切忘れてしまうのに‥‥」というのは誰もが実際に体験していることではないでしょうか。
 何度も何度も”ぎっくり腰”を繰り返し、常に腰に不安を抱えている人は、実際には筋肉の状態が良くなって腰を使うことができるのに、なるべく腰部を使わないようにガッチリ腰を固めて動作しようとする傾向があります。すると腰や背中はピンと張った状態になりますので、捻ったり曲げたりすることができないばかりか、ちょっとしたことでまたピリッ、グキッとなってしまいます。心理の深い部分に「もう腰をケガしたくないので腰をガチッと固めておきたい」というのがあるのは理解できます。しかし、これでは自分で自分自身に制限をかけているのと同じこと、つまり自分で症状の改善をストップしているのと同じことですので、そこから先には一歩も進めなくなってしまいます。いつもいつも同じことの繰り返しで、少し状態が良くなったとしても、またちょっとしたことで腰部が傷つき、腰痛状態に戻ってしまいます。

不安、恐れ‥‥負の思考回路
 「マイナス思考」「ネガティブ」という言葉はよく耳にしますが、それを克服することは実際なかなか難しいことです。
 私の仕事に関連して例をあげてみます。
 何度も何度もギックリ腰を繰り返して腰の状態が非常に悪くなった人は、ちょっとしたことですぐにピリッ、ギクッ、グキッとなってしまう経験が身にしみていますので、常にその状態にならないようにと気を使っています。そしてそれは“腰部を固めてなるべく動かないようにする”という対処方法です。布団に入る時、布団から起き上がる時、椅子に座る時、椅子から立ち上がる時、必ず背中や腰を固めて動かない状態にしてから動作を行おうとします。“固める”ということは”息を止めた状態”で動作するということです。「腰をゆるめながら動作しないと危ないですよ!」と注意するのですが、どうしてもそれができません。不安や恐れの気持ちが根深くあるので、本人が「ゆるめなくては‥‥」と思っていてもそれができないのです。
 そしてこのような人はすべての動作において警戒心が働いてしまうようです。自分の意に反して常に腰部が固まった状態になってしまいます。家事で洗い物をするとき、包丁を使う時、洗濯物を干す時、入浴で髪やからだを洗う時、誰かに呼ばれてふり向く時‥‥、あらゆる動きで腰や背中を固めてしまいますので筋肉のしなやかな連係プレイは望むことができず、すべての動作がロボットの動きのようになってしまいます。そして何よりも、すべての動作でピリッとかギクッとか筋肉を傷める確率が高くなってしまいます。

 筋肉や骨格の状態も改善してきて、普通にしているだけではそれほど腰痛を感じる状態ではないのに、散歩をしてくると腰部や殿部がカチッとなってしまい痛みを感じる部分ができてしまいます。すると、その後の家事がやりづらくなったり、肩や腕などに痛みを感じるようになってしまうことがあります。「朝は普通に包丁が使えたのに、夕方は肩がカチッと固まってしまい包丁が使えなくなった。」というのは腰が固まっているからかもしれません。
 右手を使う時、普通は左腰に体重を預けて動作を行います。椅子に座った状態で、右のお尻(坐骨)に重心を乗せた状態で右手を動かそうとすると、どことなく不自然な動きになります。ところが左のお尻に体重を移すと途端に右手の動きが楽になります。重心を掛けた側とは反対側の腕や脚がフリーになるからです。からだはこのようにできています。ですから右手で包丁を使うならば左脚に体重を乗せるようにしたり、あるいはキッチン台に左腰を預ける(ぶつける)ようにして斜に構えて右腕を操作するのが自然な在り方であると言えます。ところが左腰に痛みを感じたり、左腰が固まっている時はそれができませんので、両足で突っ立ったまま、あるいは右側に体重をかけて右腕を操作してしまいます。すると包丁が上手く使えないばかりか、右肩や右腕の負担が増し、痛みを感じるようになってしまうかもしれません。包丁を使った後、字を書いた後、手や腕がとても疲労してしまう人は、重心のかけ方を工夫するだけで問題が解決するかもしれません。

 「左腰がカチッとしているので体重を掛けられない」という心理は解ります。しかし私はあえて「工夫をして左腰に体重を乗せてください」と言います。ゆっくり軽く足踏みをしたり、ゆっくりからだを捻ったりして左腰が固まった状態を解除してくださいと言います。「左側に体重を掛けられる状態にしてからでないと包丁は使ってはいけない」と言っていますが、からだの改善を図っている人にとってはこの微妙な重心移動がとても重要な要素であると考えています。

 ここからが謎めいた話になりますが、私の母は考え事をするとき必ず頭を動かして右下やや後方に視線を向けます。こういう仕草をしないと脳の思考回路のスイッチが入らないのかもしれません。一方で“右下やや後方”ということは、脳の右端、“右耳辺り”の場所を使って思考を展開していると解釈することもできます。人それぞれに脳の中で思考を展開する特定の場所というものがあるようです。
 ある人は額(前頭葉)の右側寄りを使って思考を展開しています。何を考えるにもそこを使っていますので、しばしばその部分が頭痛に襲われますし、頭蓋骨もそのように歪んでいます(頭部が右側にずれている=頭の右側が大きい)。それだけならまだ良いのですが、観察していますとその部分を通過する思考は必ずマイナス思考になってしまうようで、それが問題です。「できない」「恐い」「慎重」「不安」というフィルターがそこに存在しているかのようです。例えばこれまで30㎝くらいしか動かすことができなかった動作を35㎝に拡げようとします。筋肉の状態は十分にその動作が可能な状態です。ところがこれまでよりも5㎝動作が大きくなると考えただけで息が上がりだし、緊張感が生まれ、不安に襲われてからだが硬直してしまいます。当然動作は上手くできません。
 「首肩から力を抜いてゆったりと腹式呼吸をしてください。」とやってもらいますと、始めの2~3回は上手くできます。余計なことを考えることなく、単にそのリズムと雰囲気を継続してもらうだけでからだはどんどんリラックスしていくのですが、こういうタイプの人はすぐさま頭の“いつもの場所”を使い始めてしまいます。「このやり方でいいのだろうか?」とマイナス思考の回路が台頭し始めます。すると腹式呼吸をしているはずが、次第に呼吸が上がってきて息苦しくなり首肩の緊張が増してしまいます。
 そうなった場合でも、「そこ(額の右側)に意識やイメージを持っていかないでください。額の中央にイメージを持っていき、“単に吐くこと”だけに集中してください。」と言いますと、すっかり息苦しく感じていた呼吸が急に楽になり始め、腹式呼吸ができるようになります。
 呼吸に限らずどんな運動を開始する時も、この方は先ず身構えてから動作を始めようとします。慎重に体勢を整えてから動作を開始しようとする姿は“集中する”という面では長所です。ところが知らず知らずのうちに額の右側を使ってしまので、それは大きなマイナスです。「そこ(額の右側)で何を考えているのですか?」と尋ねても「別に何も考えていない」と応えます。もう何十年もこの癖を持って生きてきたので本人にはごく自然のことであり、「何がいけないのか?」まったくわからないのかもしれません。
 「では、そこ(額の右側)に意図的に意識を持っていかないようにしてください。何を思うにも額の真ん中で行ってください。」とやっていただくと身構えることなく動作を開始することができるようになります。あるいは動作をしながら意識を額の中央に持っていっていただくと、最初はぎこちなかった動作が次第にスムーズにできるようになります。
 この方のご両親は大変しつけが厳しかったようで、幼少の頃から“ミスしてはいけい”という思いを抱いていたということです。これは私の想像ですが、怯えが常にあったのでご両親を真正面から見ることが出来なかったのかもしれません。そうであるならば、それが知らず知らずのうちに視線と意識を額の右側に寄せてしまう癖をつくってしまったのかもしれません。

 「上手くやろうとしないでください。気持ち良くなるようにやってください。」私が今、この方に言い続けている言葉です。たとえば最初から上手く歩くことができなくてもかまいません。歩き続けているうちに、歩みの一歩一歩が次第に心地良く感じられ、腰やお尻の筋肉が働いていることが気持ちよく感じられるようになれば、歩き方は自ずと良くなっていきます。そして気持ちよく歩けている時は額の右側の思考回路は停止しています。自然に顔が上を向き出し、視線がしっかりと前方を捉えるようになります。背も高くなったように感じられます。「この感覚をしっかり覚えてください。からだに染み付かせてください。」とそう言っています。
 しかし、一端止まって再び歩き始めてもらおうとすると、例によって、“上手く再現しよう”という思いが額の右側を占有し始め、身構えることから始めてしまいます。すると、たった今できたことが何秒か後にはできなくなってしまう状態になってしまいます。

 ピアノや楽器の練習、スポーツの練習、あるいは何かの習い事などを真剣にやってきた経験のある人たちには理解できると思いますが、「上手くやろう」という邪心が芽生えますと、それが自分自身を制限し始め、それまで普通にできていたことが突如できなくなってしまったりします。また反対に、その時の技量では「なかなか難しい」と思われていたことも一生懸命トレーニングを繰り返し、頭の中にしっかりとしたイメージが出来上がれば、いざ本番という時に無心(余計なことを思わない集中した状態)になって取り組むことができるようになり、自分の限界を超えることができたという経験をお持ちの人も多くいると思います。これをメンタルトレーニングなどと言って心理学的に考えることもできるのかもしれませんが、頭の使う場所、つまり脳のどの思考回路を使うかという観点で考えることもできると私は思っています。

 四十肩や五十肩で肩関節が思うように動かせないのに「関節が固まってしまうから‥‥」という私から見ればとても不合理な理屈でオモリを持たせ強制的に関節を動かすようなトレーニングをさせたり、膝が痛むのに太もも(大腿四頭筋)にかなりの負荷をかけて筋力をアップさせようとするトレーニングなどを推奨している専門家がたくさんいます。こういうことは私のところでは一切やりませんが、時々、その時点でのご自分の限界点をその方が超えようとするとき、どのような息づかい(呼吸)、どのような気持ちや頭の使い方をしているかを観察するために、「動かせる限界から、もう少しだけ動かそうとしてみてください。」とお願いすることがあります。
 限界点を超えて動かそうとするので痛みを感じます。ですから誰もが一瞬不安な気持ちに襲われます。この時、もしその方がこの症状でとても辛い思いや痛みを経験したことがあったり、あるいはトラウマが頭に甦ったりしますと、その方の呼吸は突如として変わり、からだが硬直して手に冷や汗が出てくるかもしれません。「少し痛くてもリラックスして、息を吐きながらもう少しだけ動かしてみてください」と言われたところで、「わかってはいるけど、できない!」ときっと思われることでしょう。
 そして「できない!」という思いがどこかにあれば、実際、それ以上は動かすことはできません。“恐い”、“できない”という否定的な感情や思考はとても強力です。瞬時に呼吸を悪くし、筋肉を硬直させてしまいます。
 限界を超えて何かに挑戦するためには集中力が何よりも大切です。腕が30㎝しか上がらなかったものを35㎝に拡げようとするなら、肩関節や腕のつけ根の筋肉に全意識を集中させて取り組む必要があります。ところが頭の中に否定的な思考が生まれますと、意識の力が分散してしまい集中力が消え失せてしまいます。ご自分では肩関節や腕に意識を集中させているつもりでも、実際には頭の中にある「できない!」という恐怖心に意識がとられてしまいます。ですから実際、“できない状態”になるばかりか、痛みを感じたり、呼吸が荒くなって息苦しさを体験することになります。

 この時の「できない!」「恐い!」という感情は思考回路だと私は考えています。
 腕が30㎝しか上がらないなら、30㎝上げることをゆっくりと幾度か繰り返してもらいます。この時に意識を肩関節あるいは腕のつけ根に持っていってもらうのですが、それは実際には頭の中にイメージを作りあげるという作業です。頭に肩関節のイメージを描いて、そこに意識を集中するということですが、この作業をいつもの右側ではなく額の中央で行ってもらいます。ゆっくりと幾度か(30㎝動かす)動作を繰り返していると集中力が増していき、無心の領域に近づいていくのが感じられます。するとやがて30㎝だった可動域が自然に35㎝になり、それを超えていくようになったりします。(但し、肉体的状態として”動かすことができない”というのはあります。こういう状態の時に「もっと動かして!」と強要するのはからだを更に壊す原因になりますので、それはダメです。)

 少々乱暴な言い方になりますが、誰でもプラス思考やマイナス思考を持っています。額は脳の前頭葉の場所ですが、そこで私たちはイメージを形成して思考を展開していきます。仮にその方の前頭葉の右側で視覚化されたイメージはマイナス思考に結びつき、前頭葉の中央で視覚化されたイメージはプラス思考に結びつくと考えるならば、額の右側を無視して欲しいと思います。長年の癖は引力がとても強いものです。実際、額の中央に集中しようとしても動作が限界点に近づくと額の右側から“引っ張り”がやってきます。一連のトレーニングが終了して“ふっ”と安心して気を許すとすぐに思考の場所が右側に戻ってしまったりします。ですから、額の中央で視覚化することが“ごく普通”、“当たり前”になるまで自分の思考の在り方を注視し続けなければなりません。

集中するということ
 ほとんどの人は今回の話に疑問や疑いを持たれていることと思います。実際に体験しなければ“誰もわからないだろう”ということを承知の上であえて話題にしました。その理由は、私のところに来られる方々の中には肉体的な不調だけでなく、それに関連して精神的にも苦しんでいる方々が多くいらっしゃいまして、「何か良い手立てはないだろうか?」と毎日のように考えているからです。
 これらの方々は、施術を終えたときは症状も軽快して心理的にも明るくなるのですが、何日かしますとまた元の悪い状態に戻ってしまいます。肉体的な問題だけでそうなるのであれば、私の見立てが見当違いだったのか、私の技術力が未熟だったのか、という問題としてとらえることができるのですが、明らかにそうではなく、本人の心理状態が不調を改善することに対して邪魔になっている場合があります。“呼吸が悪く首肩から力が抜けない人”はこの傾向の人だと思われます。

 “疑いの心”、“恐れ”、“不安感”は、からだを改善することだけでなくいろいろな面で“邪魔者”です。何かを達成しようとするとき、私たちはそのことに集中して取り組まなければなりません。集中力が欠如した状態では思いを現実化することはできません。好きな楽器を練習するとき、趣味やスポーツに没頭するとき、商談で話し合うとき、美味しい食事を口にするとき、私たちは自然とそのことに集中し、瞬間的であったとしても他のことは頭から消えてしまいます。それが私たちに本来備わっている“集中力”という能力です。「どうせできないさ」とか「自分にできるだろうか?」とか「できなかったらどうしよう?」といった邪心(疑い、不安、恐れ)が頭にある状態では物事に集中することはできません。
 ですから、からだの状態が悪い「今」を、良い状態に変更しようと考えるならば‥‥つまり健康な自分を現実化しようとするならば、邪心をどこかに放り出して集中力を最大限に発揮する必要があるという理屈になります。

 たとえば痛みの出ない範囲でゆっくりと腕を動かし始めることは、不安感や恐怖心が表に現れませんので、集中力を発揮しやすい状態で運動を開始するということです。そして何度か同じ運動を繰り返していますと、集中が次第に深まっていき、他のことは何も頭になくなるという領域に心がシフトしていきます。するとからだの細胞は頭(脳)の状態を反映するかのように動きが良くなり始め、可動域が少しずつ大きくなっていきます。(ゆっくり、じっくり動かすということが大切です。)
 観察していますと 不思議なことですが、頭(脳)はギアチェンジするかのように違う領域へと状態をシフトしていきます。それを“脳波の移行”(α波、β波、θ波、Δ波)というとらえ方で説明できるのかもしれませんが、それについては私はよく知りません。
 ミュージシャンや歌手が音楽に集中するとき、野球選手が最大限に集中力を発揮しているとき、サッカー選手が集中しているとき、顔つきが普段とは違って「集中しているなぁ!」とわかりますが、ここに来られる方々も集中しているときは、顔つきが変化しますので私にはわかります。それは“わざとらしい集中”や“大げさな集中”ではなく、地味で”静かな集中”という様相ですが、確実に呼吸の状態も良くなっています。ですから、自分自身の変革、変化に取り組んでいるときは「いつもこうあってほしいなぁ!」と思っています。
 そのためには、先ず邪心の入らない状態に自分をおくことから始め、少しだけの進歩や変化でもいいですから、それを”良し”と思っていただき、毎日着実に前に進んでいることを実感していただくことが大切だと思います。

 また、からだの不調をいつも気にしている人は、ここで取り上げた”静かな集中”、“邪心のない集中”が苦手な傾向にあります。からだの不調とは関係のない、例えばお喋りに夢中になる、テレビ番組に集中する、といったことに対しては何の邪心もないままにストレートに集中することができますが、からだや心の気になることに関しては「単に集中して観察する」ということができないようです。どうしても“自分の想い‥‥不安、恐れ、疑い”というフィルターを通して観察してしまうようです。疑いのフィルターを通してからだを観察すれば、「今は良くてもまた駄目になってしまうのではないか」という思考が形成されます。恐れのフィルターを通して観察すれば、「この運動でまたグキッと筋肉を傷めたらどうしよう」となります。
 そしてこれらの邪魔なフィルターは“思考回路”だと私は考えています。道路を走る自動車に例えるならば、目的地に着くまでにどうしても寄りたくなってしまう「道の駅」みたいなものです。道の駅を無視して真っ直ぐに目的地に向かうなら余計な買い物をすることもなく、時間を浪費することもありません。道の駅に寄って一服してしまいますと、トイレを済ました後突然、「やっぱり行くのは止めて家に戻ろうかな?」などという心が芽生えてしまうかもしれません。朝目覚めたときに思いついた「今日は遠出をして気分転換しよう!」という素晴らしい計画は道の駅に寄ったがために「遠出して本当に気分が変わるだろうか? やっぱり家に帰ってのんびりしよう」という尻つぼみの結果になってしまうかもしれません。
 邪魔なフィルターの回路とは、この道の駅のようなものです。そこを思考が通過してしまいますと、当初の目的とは別の結果が導き出されてしまうのです。ですから、その思考回路に思考を通過させないようにと、苦しんでいる方々にはお伝えしたいのです。

 上記に例として取り上げた方は、この邪魔な思考回路のある場所が額の右側です。ですから何を考えるにも「額の右側に持っていかないでください」と注意し続けています。それでも何十年にもわたる癖ですから、そう容易く克服することはできません。ふとした瞬間に、油断した瞬間に、額の右側は思考を引っ張り込んでしまうのです。

意識の向け方とからだの変化
 やはり首肩から力が抜けずに顎、首、肩が不調で苦しんでいる別の人がいます。「私は二人で並んで歩く時、左側(連れの人が右側) に居ないと落ち着かない」と仰います。つまり誰かが自分の左側にいると落ち着かなくなると解釈することができます。また同時に「赤面症の気があるようで、正面で相対して仕事の話しなどをすると顔が火照ってきて緊張してしまう」とも仰っていました。そこで実際に、私がその方の左側と右側に立ってからだの変化を観察してみました。すると実際には本人の思いとは反対に、私が左側に立つと首肩から力が抜けてからだはリラックスした状態になり、右側に立つと首肩に力が入りだし呼吸も荒くなってしまいました。そしてその方の正面に相対して眼を見ながら会話を始めると、ここでも二つの状態が現れました。私が正面やや右側で相対すると首肩に力が入り出し息が荒くなりますが、私が少し移動して正面やや左側の位置になりますと、それまでの緊張感はスッと消えました。
 この反応を私は、意識を右側に向けるとからだが緊張する、つまり自律神経の交感神経が優位になる傾向があると解釈しました。からだが自然と防御体制になってしまうと考えました。
 「これまでの人生でトラウマになるような出来事はありましたか?」と尋ねますと、なかなか思い出せなかったのですが、しばらくしてから「そういえば随分前だけど、子供の友人のお母さんから激しく苦情を言われたことがあって、その時のことがずっと心に残っているのかもしれない。赤面症のようになったのもそれからかもしれない。」と仰いました。
 赤面症を医学的どう捉えているのかは知りませんが、単純に考えますと“顔の表面に血液がたくさん集まる”ということですから、顔の血管をコントロールしている交感神経が活発に働き出すということであると考えることができます。また火照りなども感じるのであれば、顔だけでなく脳も含めて頭部全体の交感神経が活発化するということです。自律神経のうち交感神経は、本来“防御体制をとっていつでも逃げられる”準備をするためのものですし、副交感神経はこれとは反対にリラックスしてからだを休めるためのものです。
 こう考えますと、この方が誰かと並ぶ時は右側にいて欲しいと願うのは、何かあったらいつでも逃げ出せる状態に自分を置いておきたいという深層心理なのかもしれません。
 これを“意識の向け方”という観点で考えますと、意識を右側に向けておけばいつでも防御できる状態なので安心感が生まれ、意識を左側に向けることは、どこか無防備に感じてしまい、からだはリラックスするかもしれないけど心は落ち着かなくなる、ということであると考えることもできます。

 意識がいつも頭や首や肩にある人はそこから力を抜くことがなかなかできません。つまり悩み続けている時や、いつも頭で考え続けている人は自然と顔首肩に力が入ってしまうということです。こういう人に「肩の力を抜いてください」と言ったところで、実際のところそれは難しいことです。意識がそこ(首・肩・頭)から離れないので力の抜き方がわからなくなってしまうのです。ですから私は「意識を足の方に向けてください」とか、腰を捻る運動や下半身を使う運動をやってもらったりします。すると意識がそちらの方に移動するので自然と首肩から力が抜けるようになります。
 なかなか首肩から力を抜くことができない人に対して、稀にとても抽象的な質問ですが、「今、この瞬間、あなたはどこで生きていますか?」と尋ねることがあります。つまり意識をどこに集中させていますか? ということなのですが、上記の”思考回路”のことも含めて、その方の癖を自分自身で実感していただきたい、そしてその癖を克服することに挑戦していただきたいという願いを込めて、こんな突飛な質問をすることがあります。

 私は心理学者でも心理セラピストでもありませんので、トラウマや上記で取り上げたような状況を根本的に解決するためにどうすればよいかということは知りません。ですからここに記してきたような事柄はもしかしたら単なる対処法に過ぎないかもしれません。しかしながら色々な病院を巡っても曖昧な応えしか得られず、挙げ句の果てに心療内科に回され、結局のところ薬を出されて釈然としない思いを抱いている人達の話を聞きますと、このようなアプローチ方法も有効な手段ではないかと思っています。

 思考回路のことに話を戻せば、私の仕事上での思考回路は「からだは全部つながっている」というものです。この思考回路を通して皆さんのからだを観察し、施術の方針を決めています。ですから骨盤を調整するために足先や手指を施術したり、噛みしめや目のコリを解消したりすることは、からだは全てつながっていて影響し合っていると考えている私にとっては何ら不自然ではなくごく当たり前のことです。ところが現代医学ではほとんどそのような考え方やアプローチはしませんし、テレビや本や雑誌などから情報を得ている皆さんも同様だと思います。これは大雑把に言ってしまえば、私とお医者さんとは思考回路がまったく異なっているということです。私もかつてはお医者さんや皆さんと同じような思考回路を使ってからだを観察していました。「腰痛の原因は椎間板が云々で、神経が圧迫されて云々」と勉強していましたので、そのような目(思考回路)で腰痛を捉えていました。ところがそれでは解決しない、“腑に落ちない”ことをたくさん経験しましたので、根本的に考え方を変えようと決心しました。つまり、それまでコツコツと勉強して築き上げてきた思考回路を全く別のものに取り替える作業に取り組んだのです。新しい思考回路が確立するまで2~3年は掛かったと思います。その間は、元々の思考回路からの攻撃(引力)をたくさん受けました。腰痛の方が来店されると、つい“神経の圧迫”とか“椎間や腰椎”などと頭に浮かんできてしまうのです。
 ですから思考回路を変更するということ、これまでの思考回路を使わずに新たな思考回路を築き上げるという作業が如何に大変で、粘り強い忍耐力が必要なことはよく理解しています。決して一朝一夕にできることではありません。しかし思考回路が変われば、からだが変わり、からだの使い方が変わります。
 顔・首・肩から力が抜けずに辛い思いをしている人、呼吸が苦しくて生きているだけでも辛いと感じている人、そういう人達は肉体的な調整だけでは不十分です。肩こりをほぐしても、楽に感じるのはその時だけです。
“今の自分”を抜け出して、心地良い自分、新たな自分になることを目指すのであれば、忍耐することを心に決めて”考え方を変えること”、つまり新たな思考回路を築き上げることに取り組んでみてはいかがかと思います。

 ここで“顔が下がる”というのは頭蓋骨の中で、顔面(前面)の骨格が本来の位置より下がってしまうことを言っています。頬がたるんで下がる、顎のラインがたるんで下がる、というのとは本質的に意味が違いますが、顔の骨が下がると確実にそれらもたるんでしまいますので「顔のたるみの原因の一つとして骨格が下がっていることがある」と言うことができます。
 
 顔の骨(前頭骨、頬骨、上顎骨、下顎骨など)が下がる理由として考えられることは以下の通りです。
①頭蓋骨や顔の皮膚・筋膜・筋肉を損傷した場合
②からだの歪みの影響が頭蓋骨を歪めている場合
③噛みしめ、片噛み、歯ぎしり、食いしばりなどの癖によりそしゃく筋が変調状態にある場合
④歯茎が傷んだり弛んだりしている場合
⑤筋肉・筋膜・皮膚の疲労や衰え‥‥加齢など

 実際の施術では以上の5項目からの影響を考えて最終的に頭蓋骨を整え、表情筋の働きを整えるようにしています。ですから、おそらく皆さんがイメージしていると思われる「たるみを改善するに顔のマッサージをしてハリを回復させる」ということには重きを置いていません。

頭蓋骨の前後の関係‥‥前が下がると後ろが上がり、後ろが上がると前が下がる
 頭蓋骨において“前面”と言えば顔のことであり、具体的には前頭骨、鼻骨、頬骨、上顎骨、下顎骨のことです。そして“後面”は後頭骨のことであると言ってもよいと思います。

頭蓋骨の後頭部と顔面部の関係

 頭蓋骨の前面と後面の関係はシーソーのようになっていて、片方が下がると他方が上がるという現実があります。後面の後頭骨は、後頭部~後頸部~背中~骨盤後面という筋肉、つまり脊柱起立筋によって仙骨に、他の背筋によって骨盤後面につながっています。ですから脊柱起立筋が伸びた(ゆるんだ)状態になりますとお尻(仙骨)が下がり後頭骨が上がります。猫背のような姿勢の人は背中の筋肉が伸びてしまいますので、このような状態になっています。すると前頭骨や鼻骨が下がり、それに追随するように頬骨、上顎骨、下顎骨が下がってしまいます。
 また頭蓋骨前面の下顎骨は喉や首前面の筋肉につながり、胸~腹部~骨盤前面(恥骨)につながっています。例えばお腹が冷えて腹筋が硬くなる(こわばる)と胸が下がり首前面や喉の筋肉が緊張して下顎骨を下げてしまうということが起こります。そして下顎骨を下げるだけでなく顔の筋膜も下に引っ張られますので、顔前面の骨が全部下がってしまいます。そして、実際、こういう状況は大変多いので顔を整える施術の最初に背中側とお腹側の状態を確認し、それらを整えてから顔への施術に入るという手順が多くなります。
 60分の施術時間のうち、最初の30分をからだを整えることに費やすということはよくあることです。なぜなら顔や頭蓋骨を集中的に整えたとしても、腹筋や背筋の影響で元の状態に戻ってしまうのであれば整体の意味がなくなってしまうからです。

鼻骨が下がると顔が下がる
 顔が下がっている人はほとんどの場合、鼻(鼻骨)が下がっています。顔を上げる施術を行う場合、目安にする部位がいくつかありますが鼻骨は最初の目安です。見た目にも、鼻骨が下がりますと鼻筋の通り方にシャープさがなくなりますし、鼻骨はちょうど両眼の間にありますのが、その周辺の凹凸が減りますので、光と影の関係で“ホリの少ない顔”のように見えてしまいます。反対に鼻骨が上がって本来の位置に戻りますと、額から真っ直ぐに降りる鼻筋がはっきりし、眼窩の凹みもしっかり現れますので、引き締まった顔立ちに見えます。

表情筋のこわばりが顔を下げる

 鼻骨が下がる要素として眼鏡の影響はあります。昨今は眼鏡もだいぶ軽くなっているようですが、それでも重さがあります。それが一日の多くの時間、鼻骨にぶら下がっていれば鼻骨と前頭骨を繋いでいる関節がゆるんでしまい鼻骨は下がってしまいます。
 その他にも鼻骨が下がってしまう理由は幾つかあります。後頭骨が上がっていることもその一つです。また鼻骨は上顎骨と関節していますので、上顎骨が鼻骨を引っ張るという状況で鼻骨が下がってしまうこともあります。鼻と眼の間、そして眼の下(頬骨周辺)には幾つかの表情筋がありますが、これらの筋肉は日々の生活の中で非常にたくさん使われます。そのため収縮して硬くなっていることが多々あります。(強めに指圧すると痛みを感じます)。これらの筋肉は上顎骨と鼻骨をつないでいますので、筋肉の収縮が鼻骨を引き下げてしまうという状態を招きます。実際、鼻骨を上がる施術では、この辺りの表情筋をゆるめます。すると鼻骨だけでなく頬骨も上がりますので眼窩の状態も良くなり眼が大きく開くようになります。
 そして定かな理由はわかりませんが、胸(胸骨)と鼻骨は深い関係にあります。胸骨上には筋肉はあまりなく、ほとんど筋膜の下に骨があるような感じになっていますが、この筋膜がゆるんでいますと鼻骨が下がってしまうという関係があります。胸は環境に対するセンサーのような役割をしていますし、心理的な状態も胸に現れます。心配事や不安があると胸は閉じてしまいますが(実際に肋骨が閉じます)、その他にも天気や季節的要因の影響を受けます。花粉症の時期鼻の通りが悪くなりますが、その理由の一つは鼻骨が下がっていることです。胸骨を観察しますと力弱く感じられ筋膜もゆるんでいます。ですから花粉症の症状を改善するために胸骨の状態を整えて筋膜のゆるみを解消する施術を行いますが、それは鼻骨を上げて鼻の通りを良くするためもあります。

からだの前面(腹側)の筋肉が顔を引っ張って下げてしまう場合
 東洋医学ではからだの陰(腹側)と陽(背側)の境目として「人中」というツボがあると考えられています。“人中”は上唇と鼻孔の中間にありますが、からだの急所とされています。また解剖学的には上歯と下歯の接点、つまり上顎骨と下顎骨が背側と腹側を分ける骨であると考えられています。それは顎関節のことでもあり、上歯(上顎骨)から上部が背側であり、下顎骨は腹側です。

腹筋のこわばりによる顔の下がり

 腹側の出発点は骨盤の前面(正確には骨盤底)であり、恥骨部から始まる腹直筋を例にとると解りやすいかもしれません。腹直筋は恥骨部から始まり肋骨(胸郭)の前面につながっています。仮にお腹の冷えなどによって腹直筋がこわばって(収縮した状態)いるとします。すると肋骨は恥骨部の方に引っ張られますが、その流れは首の前面を経由して舌骨を引っ張り下顎骨を下げてしまいます。腹直筋がこわばってしまう理由は“お腹の冷え”以外にもありますが、猫背などの悪い姿勢を長く続けていること、丸まっている姿勢が“楽”という状態もあてはまります。ともに腹直筋をこわばらせたり、こわばっていることを象徴しているからです。
 下顎骨とそれ以外の頭蓋骨は陰と陽の関係にありますが、同じ顔を形成していますので筋膜や皮膚はつながっています。ですから腹側のこわばりによって下顎骨が下がりますと筋膜や皮膚が顔全体を下に引っ張りますので、結果的に「腹筋がこわばると胸が下がり顔も下がる」と言うことができるようになります。他者とくらべてバストの位置が「なんとなく下にあるな」と思われている人、あるいは「本来の自分より胸が下がっているように感じる」と思われる時は、ほぼ間違いなく顔が下がっていると考えられます。

 また腹筋だけでなく、手で言えば、手のひらは腹側であり、手の甲は背側です。手のひらを大きく伸びやかに拡げようとしても中途半端で終わってしまい、拡げきれない人は腹側の筋肉がこわばっているということです。左手は伸びやかに拡げることができるのに右手のひらはこわばっているという場合、顔の右側だけが下がっているという状態かもしれません。実際にはもっと複雑にいろいろな状況が絡み合って顔の歪みをつくっていますのでこんなに単純ではありませんが、このような原理によって顔の歪みがもたらされている場合もあると理解していただければと思います。そして、こういうからだの歪みが顔の歪みをつくっているというケースがとても多いと感じています。

お尻が下がると顔も下がる
 “頭蓋骨の前後の関係”で説明しましたとおり、後頭部(後頭骨)が上がると顔は下がります。そして後頭骨は仙骨と対になって連動して動いています。通常の場合、呼吸で息を吸う時、仙骨が上がると共に後頭骨は下がります。つまり息を吸うとき顔があがります。このようにならない人は呼吸の仕方がおかしいか、顔が歪んでいると思われます。
 ですから、骨盤つまりお尻が下がっている人は常に後頭骨が上がっているため顔が下がっている状態であると言えます。骨盤が下がる理由はたくさんありますが、普段の姿勢や歩き方は大きな影響力を持っています。背中の丸まった悪い姿勢で背中の筋肉が伸びて(ゆるんで)しまった人は後頭骨も上がり仙骨も下がります。ムチウチを経験した人でしっかり治癒していない人の多くは首後面の筋肉がゆるんでいますので後頭骨が上がり骨盤が下がっています。ウエストが緩いわけでもないのにジーンズやスラックスがすぐに下がってしまうような人はお尻が下がっている人と言えます。

噛みしめや歯ぎしりの癖
 再三登場する噛みしめ、歯ぎしり、食いしばりの問題ですが、これらも顔の下がりに影響します。これらの癖を持った人は“ついつい顔に力が入ってしまう人”に分類されますが、そしゃく筋だけでなく頬を中心とした表情筋もこわばっています。上唇から頬骨にかけて頬骨筋や笑筋などがありますが、これらがこわばりますと頬骨を引き下げてしまいます。頬骨が下がりますと額の骨である前頭骨も下がりますので眼窩が下がり目が開きにくくなります。そして額が下がるということは顔全体が下がるということです。また鼻の周辺にも幾つかの表情筋がありますが、これらがこわばると鼻骨を下げますので、やはり顔全体が下がってしまうということになります。私たちは日常生活において喋ったり、笑ったりしてこれらの表情筋をたくさん使っていますが、その影響で頬骨の下にある筋肉がまるで骨のように硬くなっている人がたくさんいます。目の下の部分を強く指圧したときに痛みを感じるのは筋肉が硬くこわばっているからですが、この辺りの筋肉を指圧してゆるめるだけでも目が開けやすくなり額が上がる場合もあります。

側頭筋と咬筋

 また、そしゃく筋である咬筋は顎関節から頬骨につながっている頬骨弓に付着していますので、噛みしめや歯ぎしりなどによって咬筋がこわばってしまいますと頬骨弓、つまり頬骨を下げてしまいます。ですから顔が下がるのを予防するためには、噛みしめ、食いしばり、歯ぎしりなどの癖や表情筋のこわばりが蓄積しないよう気をつけなければなりません。また日々のフェイシャルマッサージでは、顔の表面(皮膚や表情筋)だけでなく深い部分や咬筋の硬さをゆるめるケアをすることが望ましいと思います。そのやり方は静かにじっくりと指圧することが一番です。みなさんがやりがちな、“グイグイ”揉んだり指圧したりすることは組織を傷つける可能性がありますのでやらないでください。

歯茎の問題
 歯茎の影響については、現在いろいろと事例を集めて考察しているところですが、現象面のみで申し上げれば「歯茎がゆるむと舌がこわばり顔が下がる」となります。
 歯茎がゆるむ理由としては、歯槽膿漏や炎症など病的な要因もありますが、私のところに来られる方々の場合は、歯列矯正、インプラントなどによる影響が多いです。また、噛みしめや食いしばりによって歯茎に負担が掛かりすぎて弱くなっていることもあります。
 歯茎は上顎骨と上歯、下顎骨と下歯をつないでいて歯の健康やそしゃくの安定に深く関わっています。ですから歯茎の健康が損なわれますと、歯やそしゃくに関わる組織=舌、そしゃく筋、口の中の壁(口蓋や咽頭、頬)などに影響が及ぶと考えることができます。
 「首肩から力が抜けない」という項目で取り上げましたが、舌は神秘的で大きな影響力を持っています。首肩から力が抜けない人の多くは舌が硬くこわばっている傾向があります。顎を引く動作で舌は収縮しますが、舌がこわばっている人はいつも顎を引いている状態と同じであると考えてもよいと思います(程度はそれぞれ違いますが)。このような人は何かあると瞬時に顔に緊張が生まれ、呼吸が止まって息苦しくなり、首や肩に力が入ってしまいます。24時間、365日、ずっとこのような状態で生き続けることはそれだけで「大変」なことだと感じてしまいます。
 そして歯茎の状態が悪い時は、舌がこわばってしまいます。歯列矯正をした人、インプラントを行っている人、歯槽膿漏の人、あるいは歯茎がゆるんでいるかもしれないと思っている人は、両手の指先を使って歯茎に届くように押しあててみてください。歯茎に指先が当たっている時は舌がゆるみ、手を離すと舌がこわばる(舌先が少し引っ込む)のであれば、歯茎の影響が舌に及んでいるという証です。
 舌はこわばると下顎を引き寄せると同時に下げる働きをします。つまり舌がこわばっている人は顎が下がっているということです。そしてそれが顔全体を下げてしまうことは上記で説明したとおりです。

 先日「三白眼(黒目が小さく白目の面積が大きい)」を改善したいという要望がありました。「そこまで整体で可能かどうか?」と一瞬考えましたが、要望にはなんとか応えたいという思いもありまして過去のことをいろいろ尋ねました。「幼児の頃は三白眼ではなく、中学性になった頃から黒目が小さくなったように思う。」ということでしたので、子供の頃の癖について尋ねました。すると「顎を引いてにらむように見る癖があった。」ということでした。顎を引く動作は舌を収縮させる動作です。そして、にらむことは虹彩(黒目)を緊張させる動作です。ですからこの方は子供の頃、舌をこわばらせ、さらに黒目をこわばらせていたということになります。このことが影響しているかもしれないと思い、舌のこわばりをゆるめるように施術をしていきますと少しずつですが黒目が大きくなっていきました。“舌は神秘的”と前に少し記しましたが、舌が全身に及ぼす影響力はかなりのものだと思います。

打撲や損傷の影響
 転んで顔を打撲したことがある、頭を強打した経験がある、顔を殴られたことがあるなどで顔面や頭部の骨や筋肉や皮膚・筋膜が損傷し、それが治りきっていないことが原因で顔が下がっていることもあります。また手術を行った経験のある人は縫合の部分が弱くなっていますが、その影響で顔が下がっていることもあります。医師は手術が成功し、縫合部分がしっかりつながっていれば、それで治療が終了、「問題なし」と判断するのだと思いますが、整体的な観点では問題が残ったままになります。
 縫合部分は“すっかり元の状態に戻った”ということとは違います。からだには電気が流れていて、その流れの有様によって筋肉や筋膜や皮膚の働き具合は変わります。縫合によって皮膚も筋膜もしっかりくっつきますが電気の流れは縫合部で途絶えてしまうように感じます。ですから多くの場合、縫合部周辺の筋肉・筋膜・皮膚の働きは弱くなっています。それによって骨格は歪みますが、それだけでなく感覚器官の働きが悪くなったり、体調が“今ひとつパッとしない”という状態になってしまうことはよくあることです。そして、そういう人はたくさんいます。

加齢や衰えによる影響
 加齢によって筋肉の力や働きが衰えていくのは自然の流れであり、自然界に存在するかぎり避けることのできない現象です。しかしながら同じ40代、50代、60代であっても、個人差があり顔の下がり方に違いが生じているのも現実です。
 加齢による影響だけついて言えば、骨と骨をつないでいる関節線維の力が弱まり骨格全体がゆるんでしまうこと、代謝力が弱まってむくみが生じるため組織全体が重くなり、また筋力が弱まるため重力に負けてしまうことなどが考えられます。
 ですから、関節線維をケアすること、むくみが生じないようにケアすること、適切なフェイシャルマッサージを行って表情筋や皮膚の力を補うことなどが対策となります。そして加齢(老化)現象が速く進むか、ゆっくりになるかは、摂取するもの、特に薬やサプリメントの影響力は大きいと思います。科学的な見解では、同じ類の薬でも化学的作用の仕方に違いがあるとのことですが、結局のところ、鎮痛剤は神経の働きを鈍らせるものであり、筋肉弛緩剤は筋肉の働きを弱めるものであると私は思っています。
 痛い時には鎮痛剤は大いに役立つと思います。しかし“1日3回、毎食後に”と記され、常に鎮痛剤の効果が消えないように飲み続けるのはいかがなものかと思います。「痛みからは解放されるかもしれないけど、老化はどんどん進む」と私は思ってしまいます。

 老化は骨細胞、筋細胞、神経細胞、血液細胞などの力や働きが衰えることであると考えることができます。つまり細胞レベルで力や働きが衰えることですが、ということはホルモンと深く関わっていることだと考えることができます。なぜならホルモンは細胞に働き方を指示する命令書のようなものだからです。思考はホルモンの分泌に影響を与えます。生活習慣や食物はホルモンに影響を与えます。湿疹で苦しんでいる時、ステロイドホルモンを投与すると速やかに湿疹が改善したりしますが、この一例だけを見てもホルモンの細胞に及ぼす影響力の強さを知ることができます。高齢になっても若々しく見える人は、おそらく思考も若々しいのだと思います。若くても思考が高齢化してしまえば、年齢以上に老化して見えるかもしれません。

 冒頭に申しましたとおり、今回は顔の骨格について記しました。顔の“たるみ”や”むくみ”については直接的に触れませんでしたが、骨格が下がることはそれらの根本原因になると考えることができます。
 ”たるみ”は皮膚や筋膜や筋肉のハリが失われゆるんでしまうことですし、“むくみ”は静脈やリンパの流れが滞ってしまうことでもたらされます。骨格は筋肉の働きや静脈・リンパの流れの基盤です。一所懸命皮膚や筋肉をマッサージしてハリを回復させたり、リンパの流れに刺激を与えてむくみを改善したとしても、骨格が歪んだ状態であれば、その効果は長続きしないと思います。
 また、時々、本来の顔以上に「エラを細くしたい」「小顔にしたい」という要望をお持ちの方から問い合わせがありますが、生来の骨格を乱すような施術は一切行いません。必ず将来的に不調を招く原因になると考えるからです。顔が上がってハリが戻り、むくみが改善すれば顔はイキイキとして魅力的になると思います。小顔矯正などの施術を受け体調不良に苦しんでいる人を見る度に「それは邪道!」という思いが強くなります。くれぐれも気をつけていただきたいと思います。

 私は数年前、顔面神経麻痺を経験したことがあります。顔全体の筋肉が思うように動かせなくなり、顔の右側はほとんど動かせなくなりました。それは突然発症し、あれよあれよという間に進行しました。朝、洗面の時に「なんだか歯磨きがしづらい」と思っていたら、口をすすぐ時唇が閉じにくいことを感じました。そして、その日は電話での応対やお客さんとの会話で口が動かしづらかったのですが、晩には食事ができないほどになってしまいました。唇の右側、右の頬が動かせなくなってしまったのです。そして、その時「確実に顔面神経麻痺だ!」と思いました。
 翌日に一応耳鼻科を受診し、ステロイドを処方して服用し始めました。あとは自分なりに治してみようと、顔の解剖図を詳細に見たり、顔面神経に関する情報を集めてセルフケアし始めました。それから一週間ぐらいで会話や食事は普通にできるようになり、二週間くらい経過した頃には不自由さを感じなくなりました。ステロイド剤はそれで止めたと記憶していますが、医師の診断で“治癒した”と判断されるまでに一月ぐらいは掛かったでしょうか。

 自分自身がこのような経験をしたものですから、顔面神経麻痺の状態や対処法についてはある程度理解できているつもりです。
 おそらく私の顔右側は一時的にかなり状態の悪い顔面神経麻痺になったのだと思います。素速く対応しましたので、ほぼ一月で回復しましたが、対応が遅くなれば状態はこじれ、慢性化してしまったかもしれません。そして、そのような人が先日来店されました。本人は顔左側の眼瞼と口角が下がってしまっただけだと考えていたようで、顔の整体で改善する可能性があるかもしれないと考えたようです。その方の症状は5年ほど前からだったようです。顔を触った時に私は直感的に顔面神経麻痺の可能性があると思いました。筋肉の動き、皮膚や筋膜の感触、それらを観察してそう思いました。そしてそのことを本人に話し、「5年も経ってしまったので改善までに時間がかかるかもしれない」と伝えました。その後、その方はまだ来店されていませんが、病院に行かれたのかもしれません。

 現在、顔面神経と三叉神経と頚神経に問題がある人が毎日のように来店されています。まだ20代の若い方です。今から7年半ほど前に英語の発音練習を半日ほど一生懸命していたら突然顔の筋肉が使えなくなってしまったということです。それからたくさんの病院を訪れ、いろんな検査を行い治療にあたっていたようですが、症状が改善することなかったようです。それで鍼灸治療へ進み4年ほど経過したようです。鍼灸治療で少し症状が良くなったようですが、最近、私のこのブログを読んで「どんなものか?」と来店されました。
 現在最初の来店から3週間ほど経過していますが、少しずつ状態は良くなっています。この方の場合、単なる顔面神経麻痺だけでなく、そしゃく筋がほとんど動かせませんし、横隔膜もほとんど動きませんでした。ですから極端に言えば、しゃべったり食事をしたりするのは口先だけで行い、呼吸は喉の筋肉だけで行っていたという状態でした。顎先と喉の筋肉を使って口を開き、舌の力を使って口を閉じるという状態です。顔の表情をつくるのは顔面神経の働きですので、ほとんど無表情で口先を動かすことしかできないですし、鼻と喉を動かして浅い呼吸をたくさんしているような、そんな状態でした。今はまだまだ不完全ではありますが、横隔膜を使って腹式呼吸ができるようになりましたし、そしゃく筋も弱いながら使うことができるようになりました。そして顔面神経の働きも回復しつつありますので表情筋を動かせる部分も少しずつ拡がり、ほとんど無表情に近かった顔が自然さを取り戻しつつあります。
 顔の様々な表情をつくるのは顔面神経の働きです。そしゃく筋を動かして食べものを食べたり会話をしたりするのは三叉神経の働きです。そして横隔膜を動かして腹式呼吸を行うのは頚神経の働きです。その他に眼球を動かすのも不十分ですが、これらを総合して考えますと頚椎の問題もあって脳神経の伝達が悪いことも重なっていると判断することができます。私にとって、このような方は初めての経験ですが、おそらく本来の状態に戻るだろうと思っています。この方の症例については参考になる人もいると思いますので別途取り上げたいと考えています。

顔面神経01

 顔面神経は表情筋の働き関係する神経です。ですから顔面神経の働きが悪くなりますと唇が動かせなくなったり、目が最後まで閉じなかったり、瞼が下がってしまったり、頬の筋肉が動かせなくなったり、笑いや怒りなどの感情をあらわす表情をつくることができなくなったり、しづらくなったりします。反対に顔面神経に刺激が入り続けているような時は筋肉が常に収縮してしまうため、顔全体や額にこわばりや圧迫感を感じシワや凹凸ができてしまったりします。

顔面神経麻痺

 医学的にどのような基準で顔面神経麻痺と診断されるのかは知りませんが、本人にまったく自覚がなくても顔面神経の働きが悪い状態の人をよく見かけます。「昔に比べてすっかり頬がこけ、顔面の皮膚や肉が衰えてしまったように感じる‥‥」というのは加齢による変化も考えられますが、顔面神経の働きが悪くなっていることが関係しているかもしれません。表情をつくりにくくなったと感じる‥‥笑おうとすると何故か口角の周りがこわばったり、目の周りがこわばったり、口角を引き上げようとしても上がらない、これらは表情筋の笑筋や口角挙筋の働きが悪いことが要因の一つとして考えられますが、筋肉がゆるんでしまっているか顔面神経の働きが悪くなっていると考えることができます。眠りにつこうと目を閉じると眼瞼がピクピクしたり痙攣したりしてしまうのは、眼輪筋がゆるんでいるか顔面神経の働きが悪いか、他の筋肉の影響で引っ張られ瞼が閉じにくい状態であることなどが考えられます。瞼が閉じにくいからといって瞼を強く閉じる訓練を繰り返していますと、ある日突然、瞼が痙攣しだしてしまうということもありますが、筋肉の問題なのか顔面神経の問題なのか、両方を確認してみる必要があるように思います。
 概して顔面神経の働きに問題がある場合は“無表情”が何処かに潜んでいるように感じられます。
 眼瞼の動きに問題があったとして、頬がどこか無表情であったり口元も締まりが悪かったりするならば、顔面神経の問題を疑ってみる必要があります。過去に眼輪筋のトレーニングをしすぎて目元にシワがたくさんできてしまい、目を閉じると瞼が痙攣してしまう人がいらっしゃいました。その時、私は顔面神経のことはすっかり頭になく、骨格や筋肉や筋膜のことばかり施術していましたが、なかなか思うように回復しませんでした。今に思えば、年齢の割にシワのほとんどない頬、それはもしからしたら無表情の現れだったのかもしれません。
 顔面神経麻痺の症例として目にするのは大方、口角や瞼や頬が下がってしまい口元がおかしくなったような写真ですが、能面のように表情が変化しない状態も顔面神経麻痺の症状です。

顔面神経は耳下腺の中を通っている
 顔面神経は脳神経の一つです。神経についての詳細は私自身理解できているわけではありませんが、脳神経は脳の下部、脊髄との間にある脳幹に神経核(出発点)があって目、鼻、口、耳、頭部の知覚といった顔面にある感覚器官の働きと運動に主に関与しています。

顔面神経02

 脳幹から出発した顔面神経は頭蓋骨の内部を通って耳の穴のすぐ下から表に出てきます。そして顎関節のすぐ下にある耳下腺の中を通過した後、枝分かれをして顔面全体に拡がり表情筋の働きを支配しています。ですから“耳の穴”と“耳下腺”は顔面神経の働きに影響があると考えられます。ヘルペスの症状が耳の穴まで侵入し、顔面神経麻痺(ベル麻痺)になってしまったという話はよく聞きます。
 先日、数年前にヘルペスが左側の耳に侵入し、それ以来顔面神経麻痺の症状が現れてしまった方が来店されました。左目をすっかり閉じることができませんでした。私は頭蓋骨を整え耳の穴の状態が良くなるようにした後、硬くなっていた耳下腺をゆっくりと緩めていきました。するとそれだけで左目が最後まで閉じられるようになり、ギュッと強く閉じることも可能になりました。
 耳下腺は咬筋の顎関節直下部分を覆うように存在していますが、この部分が硬くなっている人がたくさんいます。つまり顔面神経が圧迫を受けている人がたくさんいるということです。そういう人は自覚として気づいていないかもしれませんが、顔面神経の状態が万全ではないということになります。表情をつくるのに疲労してしまったり、口笛が上手く吹けなかったり、目をしっかり閉じようとするとどこか別の場所が緊張したり、頬の動きが悪くもたつくように感じたりすることがあるならば、それは顔面神経の働きが鈍くなっているからかもしれません。
 ご自分の耳穴(あるいは顎関節)のすぐ下、下顎骨の上部を触ってみたとき「張っているなぁ」と感じるようであれば、それは耳下腺が硬くなっているということです。私自身のことで申し上げれば、普通に目を閉じた状態で、この硬くなっている顎関節のすぐ下(耳下腺)を強めの力でグイッと押して弛めるようにしますと、自然とそれまでよりも目がしっかり閉じた状態になります。眼輪筋の働きが良くなったということです。ですから施術において顔面神経麻痺や顔面神経の働きが疑われる場合は、まず耳下腺をゆるめることから始めるようにしています。

顔の変化と顔面神経
 女性の方々がとても気にされていることに“顔のたるみ”があります。残念なことに私たちは自然界に生きていますので、時の流れに逆らうことはできません。ある年代を超えると皮膚や筋肉がたるみ始めるのは避けることができません。しかしながら素肌をなるべくたるまないように保持することは可能です。
 顔にたるみをつくる原因としては、むくみ、筋肉・筋膜・皮膚の働きの低下、または“こわばり”や”ゆるみ"といった変調、そして顔面神経の働き低下が考えられます。
 顔面神経の働きが低下しますと表情が冴えなくなるのと同時に筋肉が痩せ細り突然老化したような肌質になってしまいます。まだ30歳や40歳になったばかりなのに「突然老けてしまった」と感じるようであれば顔面神経の働きも視野に入れて対策を考える必要があるかもしれません。「かつては表情が豊かで自然と笑みがこぼれていた自分が、笑顔をつくるだけでも顔が疲れてしまう」というのであれば、是非顔面神経の働きをチェックしてみてください。自分の想いとは違っていつも仏頂面に見られているようであれば、頬をもっと豊かにしたいと思うのであれば、顔面神経の働きを確認してみる必要があると思います。
 顔面神経の確認については耳鼻科の担当分野だと思いますが、明らかな顔面神経麻痺の症状が現れない限りは、病院では「問題なし」とされてしまうかもしれません。どの症状についてもそれが問題ですが、診断基準に満たないと病名が付かず「気のせい」みたいなことを言われてしまい、その後どう対処すればよいかわからなくなってしまいます。
 また顔面神経の問題は働きが低下していたり、麻痺していることだけではありません。反対に常に顔面神経に刺激が入り続けていて、表情筋や皮膚がこわばり続けているという症状にも関係します。額に力を入れているわけでもないのに額に不自然なシワや凹凸が現れていたり、頬や口の周りが「シワシワ、ジュワジュワ」しているように感じたり、皮膚がボコボコ硬くなっているようになっているのであれば、それは恒常的に顔面神経に刺激が入り続けていて筋肉が作動し放しの状態なのかもしれません。こういう人は常に額や顔面が圧迫を受けているように感じていることと思います。「もっと顔が解放されたい」と感じているかもしれません。

顔面神経の基礎と対策
 顔面神経は脳神経の一つで、核(始まり)は脳幹にあります。ですから顔面神経麻痺になった時には耳鼻科の医師は脳のMRI検査などを行うことを勧めます。
 脳から出発した後は耳に関係する器官の側を通り、耳穴(外耳孔)のすぐ下から体表に現れます。ヘルペスが耳穴まで侵入しますとベル麻痺と呼ばれる顔面神経麻痺になってしまうことがあるのはこのためです。
 体表に現れ耳下腺の中を通過した後、幾つかに枝分かれして顔全体に拡がり顔の表面を覆う表情筋の働きを支配しします。(皮膚感覚は三叉神経)ですから額や頬や口元、顎周辺といった部分部分で働き方が異なることもあります。
 また末梢神経全般に言えることですが、神経について考える時は管とその中を行き交うニューロン(神経細胞)の二つを思い描かなければならず、神経の伝達とは電気信号の伝達であると考える必要があります。更に神経管には神経を養うための血管がまとわりついています。
 ですから神経の働きに問題があるという場合は、神経管自体かそれを養うための血流のどちらかに問題があり、電気信号が乱れていたり、あるいは届かないため、目的の筋肉や皮膚が正常に機能しなくなっていると考える必要があるのだと思います。

 神経の働き(=電気信号の伝達)に問題あり
  ①神経管の損傷や圧迫など
  ②神経を養う血流(動脈)不足

 少し話しはそれますが、例えば坐骨神経痛は殿部の筋肉が強くこわばっているために神経管が圧迫を受けておこす症状です。圧迫により常に神経管に刺激が入っているため神経管内部に電気信号が発生し続けているのかもしれません。ですから坐骨神経に支配されている筋肉は収縮し続けてしまい、こわばって硬く太くなってしまいます。これが痛みやシビレの原因であると考えられます。筋肉がこわばり続けるとどんどん硬く太くなって血管を圧迫するようになってしまいます。その状態が慢性化しますと、やがて神経を養う血流量が減ってしまうため神経の働きも悪くなってしまいます。そうなりますと筋肉への伝達が悪くなりますので、筋肉が思うように動かせなくなってしまいますし、筋肉自体も痩せ細って質が悪くなってしまいます。顔面神経の作用の仕方も同様であると考えることができます。
 ケガや病気によって神経管自体が損傷を受けている場合は外科的処置が必要になってくるかもしれません。あるいはウイルスや雑菌類を無害化するために薬物を使用することも考えられます(ステロイド剤がよく処方されます)。
 神経管が圧迫を受けているのであれば、それを取り除くために骨格を整えたり筋肉や耳下腺のこわばりを取り除く手段が必要になりますが、整体は有効だと思います。
 血流量をアップするための手段として病院では薬剤が処方されたりしますが、それより整体的な手段の方が効果的であると私自身の体験からもそう思います。

 なお、顔面神経は顔の表情筋を働かせるための運動性神経です。顔面が痛くなったり
、皮膚感覚(知覚)がおかしくなるのは神経で言えば三叉神経の異常です。もちろん神経とは関係なくシビレや痛みを感じたり、知覚がおかしくなったりすることはあります。単に筋肉や筋膜や皮膚がこわばったり、張ったりしているだけでも痛み感じることはあります。単に血流が悪くなっているだけでも皮膚感覚がおかしく感じたりします。そして、こういったケースの方が三叉神経の異常よりずっと多いと思います。
 以前に顔面が強く痛むので大学病院で診察してもらったら三叉神経痛と診断され、治療のためには手術も含め大がかりなことになってしまうと告げられた人が来店されました。しかし実際には食いしばりの癖が強かっただけでした。側頭筋が強烈に硬くなっていて、その痛みが周囲にも放散していただけでした。丁寧に側頭筋のこわばりを取っていくと、それだけで問題はすっかり解決してしまいました。どうしてこれを三叉神経痛と診断するのか私にはさっぱりわかりませんでした。

 顔面神経については私もまだまだ手探り状態です。筋肉が正常に働くためには、骨格、血流(動脈と静脈)、神経、温度、電気、拮抗筋などの状態が“概ね良い”という必要条件があります。その他にも「気」と呼ばれたりするエネルギーも確実に筋肉の働きに影響を与えます。
 ですから顔面の筋肉や皮膚が正常に働かなかったり質が悪いと感じた場合は、これらの条件の一つ一つを確かめながら解決策を見いだすようにしていますが、顔面神経については、もっと比重をあげて対応していかなければならないと改めて自分に言い聞かせているところです。
 顔には感覚器官が集中していますし感覚も鋭敏です。ですから僅かな異常でも違和感や不快感を感じやすく、スッキリしないと感じてしまいます。また自分の顔は毎日鏡で見ていますので、少しの変化でも気づきますし、気になります。
 美容面から毎日一生懸命スキンケアを行っている人も多いと思いますが、その効果がなかなか上がらないと感じている人は“顔面神経の働き”という観点も含めてフェイシャルマッサージのやり方を見直してみるのも一つの方法だと思います。

硬い耳下腺を緩める
 もう一度顔面神経の図を見て下さい。
顔面神経02
 顔面神経は耳の穴のすぐ下のところから体表に現れてすぐに耳下腺の中に入ります。耳下腺の深部には咬筋がありますが、この部分が硬くなっている人がたくさんいます。口の中には幾つかの唾液を分泌する“腺”がありますが、耳下腺が硬くなっている人は、この部分からの唾液があまり分泌されていません。舌の底(舌下腺)や顎先(顎下腺)からは唾液が出ているのに耳のところからは出ていない状態ならば、耳下腺がこわばっていることが考えられます。
 両眼を閉じた状態で両方の耳下腺に手指を押し当て、耳下腺が柔らかくなるようにじっくりと持続的に指圧していきます。耳下腺のこわばりがゆるんできますとそこから唾液が分泌されるのを感じると共に、瞼がそれまでよりもしっかり閉じているように感じられると思います。耳下腺はけっこう大きなものですから、図を参考に顔面神経の通り道をイメージしながら指圧の場所を少しずつ変えてみて下さい。とても単純な方法ですが、多くの場合、これで顔面神経の働きは良くなると思います。

 私たちは疲労しますと筋力が弱くなりますが、そんな時でも力を振り絞らなければ状況では奥歯を噛みしめたり食いしばって、つまりそしゃく筋を収縮させて力を増強しようとします。ペットボトルの蓋を開ける時、重たい物を持つ時、噛みしめている人は多くいます。
 ところが、これとは反対に噛みしめると力が弱くなってしまう人がいます。そんな方から質問を受けまして、このことは多くの人の参考になるかと思いブログに書くことにしました。

その方は抜歯による歯列矯正を行いました。更に「矯正の時間を短くするために歯茎にクギを刺した」ということです。私はその意味を正確に把握することはできませんが、おそらく固定されたクギを利用して歯を半ば強制的に動かしたということかもしれません。この方の現在の状況は以下の通りです(原文のまま)。

「歯茎を見ると痩せて下がり薄くなっています。
特に奥歯の物を噛んだり噛み締める歯の歯茎を触るとブヨブヨした感触です。
噛む力が普通より大分弱い事に最近気付きました。
あと重い物を持ち上げたりするとき歯と歯が付いていない、噛み締めていません。
瓶の蓋やペットボトルを開けられないことがあるので力が入らないとは感じています。
食べたり、咀嚼筋に力が入っている状態が続くと側頭筋がすぐ凝ってしまい揉むと痛いです。」

 歯茎が弱いことがわかりますが、歯列矯正に限らず歯槽膿漏などで歯茎が弱くなっている人にも共通している状況かもしれません。
 歯茎に限らず筋肉や筋膜や組織は、弱くなって働きが悪い時に負荷が掛かると耐えられなくなりからだの力が弱くなったり他のところにしわ寄せがいって不調を招きます。
 寝苦しかったり、朝起きた時に首肩や背中が張ってしまうのは「枕が合わない」からだと思っている人はたくさんいて、幾つも枕を買い換えている人がいます。ところがその原因は枕が合わないことではなく、首や後頭部の、枕に接する筋膜がゆるんでいることだと思います。ゆるんで働きが悪くなっているところに自分の頭の重さという負荷が掛かりますと、そこが耐えられないために寝苦しく感じたり、首肩、背中にしわ寄せが及び凝ったり張ったりしてしまうのだと思います。ですからこれを解決するためには枕を換えることではなく、自分の筋膜を整えることが必要です。簡単に言ってしまえば、「元気な人はどんな枕で大丈夫」ということになります。
 さて、この方の場合、歯茎が荷重に耐えられない状態ですから、歯茎に負担が掛かるとからだから力が抜けてしまいます。これが重い物を持ち上げる時に歯を合わせない理由だと考えることができます。そして食事をして歯茎に負荷が掛かったり、そしゃく筋を収縮させて(=噛んだ状況を続けて)いるとからだの別の場所=側頭筋(側頭部)がこわばってしまい頭痛を招く仕組みであると考えることができます。

 ここで、この方にとって大きな矛盾が生じます。この方は歯茎以外にも問題を抱えており、からだに力が入らない状態ですので、(全身筋肉の司令塔としての)そしゃく筋の力を借りなければならない状態です。常にそしゃく筋は緊張状態(収縮状態)ですし、寝ている間も噛みしめていることがわかっています。起きている間は歯と歯を合わせないように注意し続けることはできるかもしれませんが、寝ている間は不可能です。ですから少なくとも寝ている間と食事の時は歯茎に負荷が掛かってしまうことになります。歯茎を治癒するためには負担を掛けないようにする必要があるのに、負担を掛けざるを得ない状況という矛盾に直面してしまいます。

 また、この方は表情筋のこわばりという問題も抱えていますが、それも歯茎の弱さと関係があることは確かです。今週末に来店され施術を行いますが、①歯茎を如何に回復させるか、②そしゃく筋の緊張状態を如何に改善するか、というのがこの問題に対するアプローチになりますが、上記の矛盾を超えて忍耐強く取り組まなければならないことだと思います。

 膝の悪い人は、良くなるまでは膝をあまり使って欲しくないのですが、仕事上そういうわけにはいかない。腱鞘炎の人は手を使って欲しくないのですが、赤ちゃんを育てている間はそういうわけにはいかない。このような矛盾の状況はいろいろありますが、忍耐強く取り組んでいればやがて解決の光が差してくると思います。
 私のこれまでの経験ではそうでした。困り果てた状況では、一進一退の状態から抜け出すことがなかなかできないように感じてしまうかもしれませんが、ちょっとの進歩でも、その進歩の方に目を向けて、疑いの心を遠ざけていけば、そう遠くない将来に一気に改善に向かうと思います。精神論のような話になってしまいましたが、これが現実であり真実だと思います。
 この方に関して言えば、まず歯茎を強くすることに集中することだと思います。そのためには硬いものを噛むことは今は避けることです。そして意識を込めてじっくり噛み、一噛みごとに歯茎の筋肉を鍛えるつもりで使って欲しいと思います。筋肉は使わなければ強くなりませんので、言うなれば「痛まない程度に負荷を掛けて鍛えて欲しい」とアドバイスします。

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