ゆめとわのblog

ホームページとは違った、より臨場感のある情報をお届けしたいと思っています。 また、テーマも整体の枠を飛び出してみたいと思います。 ホームページは以下です。 http://yumetowa.com/ お問い合わせはメッセージ欄でお送りください。

 「娘が学校の検診で側弯症の初期段階だと指摘され、このまま進行すればコルセットが必要になると言われて‥‥。どうにかなりますか?」と、定期的に来院されている方から聞かれました。同様の相談は過去に何件かありましたし、側弯症が進行した状態で成人された方も幾人か来店されました。腰痛や膝痛や五十肩などは“症状”であって病気ではないと一般に思われいるのか、私のようなところで対応できると思われているようですが、側弯症は病気であって病院が取り扱う分野だと思われている人が多いようです。
 ところが病院では「このまま状態が悪化すればコルセットを装着しなければならなくなるし、もっと悪化するようだと手術も考える必要がでてくる。」というようなことを言われ、「で、では、どうすれば状態が改善するのか?」という最も素朴な疑問に対しては明快な回答が得られないようです。

 側弯症が進行した状態で成人しますと、内臓の位置が普通の人に比べかなり偏った状態になると思います。体幹(首下~骨盤)の左側は薄く右側は厚くなって、正面から見ると「C型」に歪んでいる人がいましたが、「内臓はどのように配置されているのだろう?」と素朴に思ったりしました。「今(35歳)からでも側弯症を改善するように日々体操してみてはどうですか?」と言いましたが、本人は「病気なのでそんなことでは治らない」と思い込んでいて、私の助言は聞き流されました。
 また側弯症の影響で坐骨神経痛になっていた若い女性もいました。坐骨神経痛といっても症状としては軽く、太股から足にかけて「だるさを感じる」程度でしたが、側弯症による影響でしたから“常に症状がある”状態でした。この方にも「側弯症が原因なので、それを改善するために、この体操を毎晩寝る前にやってください。」と来店の度に幾度か進言しましたが、「そんなことで直るわけがない」みたいな反応でしたので、助言を止め、施術で側弯症が少しずつでも改善されるようにしていました。月1回程度の頻度で来店されていましたが、2年くらい経過した頃から坐骨神経痛の症状は消えました。その後は背中のハリや肩こりなどの症状で時折来店されましたが、今はすっかり来店されることもなくなりました。

機能性側弯症は“何処から歪み始めたか”を見極めることから
 側湾症には先天的な要因や神経の問題など病気としてもの(構築性側弯症 )と、生活習慣や姿勢などの問題で背骨が曲がってしまう機能性側湾症があるとされています。明らかに病気としての側湾症は、私の担当する領域ではありませんが、機能性側湾症に対してはできることもあります。
 側湾症が発症するのは幼少期から中学性の頃までの成長期がほとんどのようです。つまり関節が柔らかく筋肉や組織が成長している時期に背骨が曲がり始めると、どんどん曲がりが大きくなってしまうと解釈できます。ですから、そうならないように早い時期から対策を講じることが肝要であるということはわかります。しかし、その対策が“コルセット”では、あまり効果が期待できないのではないかと思います。

 背骨が歪んでいる人はたくさんいますが、歪みの程度が大きくなると側弯症と診断されるのであれば、歪みの度合いを軽減していけば良いという理屈になります。私のところに来られる方々のほとんどはからだに歪みを持った方々ですから、歪みを修整するという意味では、側弯症の人もその他の人も私にとっては大して違いはありません。ただ、側弯症の方々のほとんどは歪みが大きく、固定化している場合が多いので修正に時間がかかってしまいます。

 背骨の歪みに対する施術を行う場合、その歪みが何処から始まったのかを見極めることがポイントです。例えば、骨盤上部の腰椎が左側に歪んでいる人は胸椎下部が右側に、胸椎上部や頚椎下部が左側に、そして頚椎上部が右側に歪んでいたりしますが、その歪みは骨盤から始まったのか、それとも頭頚部から始まったのか、あるいは別の場所から始まったのか、それを見誤るといくら施術を繰り返しても改善には結びつきません。

 先日来店された中学2年生の女子は、小学生の頃からソフトボールを始め、現在もソフトボール部に所属しています。座った状態を観察しますと、左側のお尻に体重が乗っています。つまり、右の坐骨に体重を掛けられない状態です。次に立ってもらい片脚立ちをしてもらいましが、日々クラブ活動で鍛えているにもかかわらず、右脚の片脚立ちがしっかりできません。バランスが取れないのです。これは右側の中殿筋が上手く働いていないことの現れですが、過去のケガについて本人と母親に尋ねたところ、小学5年生の時に右足首に強い捻挫をしたが病院や治療院に行くこともなく放って置いたということです。これが中殿筋が機能しない原因でした。
 この女子は小学5年生の頃からおよそ4年間、右側に体重をかけられない状態でしたから、骨盤の左側ばかりにからだを乗せて座っていたということが推察できます。これは明らかに背骨を歪めてしまう原因です。
 また、首の方を観察しますと頚椎の1番が右側に歪んでいました。それは右側ばかりで噛んでいる片噛みによる影響です。お尻の左側に体重を乗せて座っているので腰部は左側に歪みます。するとバランスを取るために首を右側に倒して座るようになります。その状態で食事をするので自然と右側で噛んでしまう片噛み癖になってしまいますが、その積み重ねによって頚椎上部が右側に歪んでしまっているのだと推察できます。
 ですからこの女子の場合、右足首を整えて中殿筋が機能するようにしてまっすぐに座れるようにすることがポイントで、併せて右側の硬くこわばっているそしゃく筋を整えることが施術方針になります。
 初回はこの方法で背骨と首の歪みはかなり良くなりました。しかし成長期という大事な時期ですから、しばらくは月に1回の間隔で来店していただき経過を観察するとともに施術を行っていくことにしました。

 骨格や筋肉に柔軟性のある成長期までの頃は、歪みを改善することもすぐに結果が現れます。ということは反面、悪い姿勢や悪いからだの使い方をしているとすぐにまた歪んでしまうということでもあります。子供さん達の姿勢の変化や噛み癖、目の使い方の癖には十分注意していただきたいと思います。
 そして、この女子のように過去のケガによってからだのバランスが崩れている場合は「ちゃんと座りなさい」「両方の歯で噛みなさい」と注意をしても、からだがそのようにできない状態である、ということもあります。その場合は厳しくしつけるよりも、からだの不具合を直すことを優先させた方が、親子と共にストレスを感じなくてすむと思いますので、そちらを選んでいただきたいと思います。
 
 もう一つの例として、20歳代半ばの女性のケースです。彼女の側湾はそれほど大きなものではありませんでしたが、自覚的には仰向けで寝ると背中の右側は肋骨~腰の上部までがしっかり床に着くのですが、左側はすっかり浮いてしまっているというものでした。うつ伏せになった状態を観察しますと、右側の背筋が棒のように張っているのに対して、左側は凹んだ状態です。フワッとした感じの服を着ていると側弯症であることがわからない程度のものでしたが、常に右脚にだるさを感じていました。本人はむくみが強くてだるくなってしまうのだと思っていましたが、実は側弯症による軽微の坐骨神経痛でした。
 彼女は小学生の頃に側弯症であると指摘されたようですが、病気なので治らないと思っていました。しかし、側弯症が改善しなければ脚のだるさは取れません。ですから、側弯症を少しずつでも改善するための3分程度の体操を教え、「毎晩寝るときにやってください。やり続けていれば必ず良くなるから」とアドバイスしましたが、全然やってくれませんでした。私の助言を馬鹿にしているというよりも、医師から言われた「治りません」の言葉が頭から離れないからかもしれません。

 彼女の側湾は首から始まっていました。首が歪み、胸が歪み、腰が歪み、骨盤が歪んで坐骨神経痛になっているというパターンでした。「どうして首が歪んだのだろう?」というのが当然の疑問です。顎関節の調子も悪かったので、噛みしめや歯ぎしりの影響は十分考えられます。
 そうだとして、では「どうして噛みしめてしまうのだろう?」というのが次の疑問です。
 からだを観察していきますと右手人差し指の先がが捻れているのが気になりました。その捻れを、私が操作して捻れの無い状態に戻しますとベッドを押しつけるようにくっついていた背中の右側が少し浮くようになりました。背骨の歪みが軽減して右側の張りが少し弛んだからです。
 「どうしてこの指先が捻れているのか心当たりはありますか?」と尋ねますと、しばらく記憶をたどった後、「幼稚園児の頃まで人差し指をしゃぶる癖があったからかもしれない」との返答でした。「これが側弯の原因かもしれない」そう私は思いました。
 人差し指の捻れは肋骨の2番目を中心に胸郭を歪ませ、首の筋肉(斜角筋)を緊張させせる傾向があります。斜角筋が緊張することで頚椎は歪みますが、同時にそしゃく筋も緊張させますので本人の意図に反して噛みしめの状態になってしまいます。
 その後来店される度に人差し指の捻れを解消するようにしていきますと、4~5回目くらいの来店時から右脚のだるさを訴えなくなりました。背骨の側弯は残ってはいるものの以前に比べ明らかに改善しています。そして、その後はしばらく来店されることもありませんでした。
 私としましては、もっと側弯が改善されるまで通っていただきたいという思いを持っていましたが、今は結婚をされ遠くに住まわれていますので、たまにご実家に戻られたときに来店される程度です。

 何故か女子に多い側弯症ですが、それが生活習慣や姿勢の問題に由来するものであるならば、改善する可能性はあると考えます。側弯に限らずからだの歪みには必ず最初の原因があります。それを丁寧に探っていけば歪みを改善するための方法は見つかります。
 ほとんどの人が私のような職種よりも医師の言うことの方を信じると思いますが、それはそれで懸命な判断だと思います。ところが「コルセットを付けて、それでも駄目なら手術まで考えなければならない」という診断は私から見ますと治療を放棄しているようにさえ思えます。「悪い兆候はあるけれど、もっと悪くなるまではやりようがない」と言っているのに等しいのではないでしょうか。患者の立場としては、症状が軽微なうちに治したいし、症状を進行させないためにどうすれば良いかを知りたいはずです。
 また“コルセット”という手段も私には解せません。固定して動きに制限をかければ歪みは進行しない、というような考え方はからだの仕組みを知っている人の発想とは思えないからです。「からだはそんな風にできていないのになぁ?」というのが率直な気持ちです。

 私はこの職業に携わってから、背骨が真っ直ぐで理想的な状態の人に出会ったことがありません。大なり小なりすべての人は歪みを持っていると思っています、と言いますか、それが現実です。
 私はその歪みが大きくなってしまったのが機能性側弯症ではないかという考え方をしています。側弯が進行しますとスタイルが悪くなり、さらに進行しますと内臓機能にも影響が及ぶようになってしまいます。それは女性にとって、将来的に苦痛に結び付くことかもしれませんので、なんとか改善していただきたいです。
 現在、側弯症と診断される程歪みが大きくなってしまっている人は、改善までに時間を要すると思います。しかし、元々のきっかけを明らかにし、それを改善することに忍耐強く取り組んでいけば、きっと状態は良くなるはずだと考えています。
 側弯に対する施術は、腰痛や関節痛、頭痛などのように、すぐに変化を実感できるというものではありません。しかし日々の努力で必ず状態は良くなると思いますので、お悩みの方は一度ご来店の上、ご相談ください。

 今年は9月に入ってから立て続けに台風がやってきて、天候がとても不安定です。台風が発生すると具合が悪くなる人、低気圧が通過する頃体調が悪くなる人、そんな人はたくさんいます。高齢者で膝や股関節など関節を病んでいる人にとってはとても辛い季節かもしれません。

変形性膝関節症01

 私の母は既に後期高齢者ですが、70歳になる手前の頃、リウマチを患い左側の膝関節が変形してしまいました。リウマチの方は投薬治療によって寛解したのですが、変形してしまった膝は元には戻りません。右脚の方は変形することもなく普通の状態ですので、写真(数年前)にありますように左右で脚の形が違っているため(左脚が短いので)歩き方が変わってしまいました。その影響で少しずつ左脚のO脚が悪化し、今では左脚を引きずるような歩き方になってしまいました。今は同居していますので毎朝出勤前にマッサージをしているのですが、この長引く悪天候はマッサージの効果も少なく、とても辛いようです。

O脚で膝の内側に痛みを感じたらしっかり対処してください
 私たち日本人にはO脚の人がたくさんいます。特に高齢の女性には大変多いです。それは、O脚は加齢とともに進行するという現実を現しているのだと思います。スタイルが悪くなるということだけであれば、私があえて問題視することでもないのですが、進行したO脚は変形性膝関節症になる危険性が高くなりますので、そうならないように対策をしっかりしてO脚を進行させないように、あるいはO脚自体を改善するようにしていただきたいと思います。

 O脚は脚の外側面に力がかかりますので、ふくらはぎ(下腿)は膝関節で外側にずれるようになります。そのような状態が長年続きますとやがて膝関節の内側半月板(クッション)が損傷して大腿骨とスネ(脛骨)が直に接触するようになったりして炎症が生じます。ここまで状態が悪化しますと変形性膝関節症と診断されますが、こうなってしまいますと改善はなかなか難しくなります。 膝が変形する前の段階でも膝の内側に痛みを感じることはよくあります。一番多いのは膝関節が一時的に、あるいは慢性的に歪んでいるため、膝内側の筋肉が緊張状態になってしまい、曲げたり動かしたりすると痛みを感じるケースです。O脚ではない人でも、手や足を酷使した後で膝が痛むことはしばしば見受けられます。(この仕組みについては過去のブログやホームページを参照してください。)ほとんどの場合、一時的なものですので手足の疲労やコリが回復すれば膝は元の状態に戻ります。
 他方、O脚の人は常に脚の外側に力が掛かっており脛骨が外側に歪んでいますので、膝内側の筋肉は引っ張られていて緊張状態にあります。また筋肉だけでなく、膝関節を包んで中に関節の動きを円滑にするための潤滑液を含んいる“関節包”にも偏った力が掛かったり、圧迫が加わったりしてしまいますので炎症が起こりやすくなっています。ですから少し長く歩いたり、重たい物を持ったり、正座をしたりしますと膝の内側に痛みを感じたり水が溜まったりしてしまうという状況になります。状態が悪くなりますと膝を曲げることが辛くなったり、椅子に座っているだけでもジンジンしたり、何もしていなくても苦痛を感じるようになってしまうこともあります。このような状態でも湿布を貼ったり、温めたり、痛み止めの薬を飲んだりしますと苦痛は軽減します。ですからそのようにして対処している人が多いのですが、この段階は要注意です。この段階ではヒアルロン酸の注射は効果があると思います。痛みも和らぎ、関節包の状態も良くなりますので関節の動きもスムーズになります。しかし、膝内側の筋肉が緊張状態であることには変わりがありません。「良くなったはずなのに‥‥。また痛くなってしまった。」となってしまうことでしょう。

変形性膝関節症(半月板損傷)

 半月板や軟骨の損傷が進んでいない状態であれば、それがひどい膝関節痛や不具合だったとしても回復の可能性は十分にあります。膝関節を取り巻く筋肉のバランス状態を改善することで膝は良好な状態に戻ることができます。しかし、進行したO脚状態では筋肉バランスを整えることは難しくなりますので、少しずつでもO脚を改善することに取り組んでいただきたいと思います。
 若くて筋肉に力があるうちは膝内側が緊張状態であっても筋肉は耐えることができます。半月板が減ってしまうこともないかもしれませんので膝は変形しないでいられます。ところが加齢とともに筋肉や組織の力が衰えますと筋肉は緊張状態に耐えきれなくなり、少しずつゆるみ始めて膝関節の歪みが進行していきます。O脚状態で膝の歪みが進行しますと、内側の半月板はダメージを受け機能が低下してしまいます。すると大腿骨と脛骨の軟骨部分が接触するようになったりして膝にいろいろな問題が生じるようになります。
 ここまで状態が進行してしまいますと、“膝が良好な状態”に戻すことは難しくなります。正座ができない、早歩きができない、湿布や貼り薬が手放せない、しばしば整形外科のリハビリ器具を利用したくなる、などの状況になりますが、生涯膝の不具合と付き合って行かなければならない可能性がたかくなります。

 ですから、ご自分やご家族の誰かがO脚で、膝の内側に痛みを感じるようであれば、早い段階で適切に対処することを是非実行してください。その症状が一月も続くようであれば、関節を整えることを考えてください。
 現代医学の領域では、ヒアルロン酸によって関節の動きがスムーズになること、痛み止めの注射や薬で炎症が治まり痛みを感じなくなること、関節の変形が酷くて機能を果たすことができなければ人工関節に取り替えること、もしかしたらそういうことを“適切な対処法”と考えているのかもしれませんが、それでは医学が進歩しているとは私には思えません。
 O脚の人は“将来の変形性膝関節症の予備軍”みたいなものですから、如何にO脚を改善するか、あるいは如何にO脚を悪化させないようにするか、そういったことに取り組むのが、本当の意味での進歩ではないかと思うのですが‥‥。

O脚の改善は股関節から
 スタイル重視を掲げている“O脚矯正”では両膝の間が狭くなり脚がなるようにすることを主体に矯正を行っているのかもしれません。それは“形”に重点を置いたやり方です。しかしそれでは今回の、将来変形性膝関節症にならないためにO脚を改善するという目的を叶えることにはつながらないかもしれません。

O脚と下肢の筋肉・骨格02

 私たちの標準的な骨骼では、大腿骨は骨盤の外側から膝に向かって内に入るように降りています。そして膝から足にかけての脛骨はほぼ垂直に降りています。骨格の在り方は力の方向性を示しますので、下肢は“骨盤から膝にかけて力が内側に集まっている状態が正しい”ということになります。つまり立った時、膝のやや内側に力が集中している感じが得られる状態が良い、ということです。立った時、膝の外側に力が逃げてしまったり、どこに力が集まっているのかハッキリしないのであれば、それは改善する必要があるということです。

 O脚を改善するための第一段階は、力が膝の内側に集まるようにすることだと私は考えています。そしてそのためには、股関節では大腿骨を外側に開く働きをする筋肉を整えなければなりません。その要は小殿筋です。
 更に、股関節で大腿骨を外側に回旋させる働きをする筋肉を整える必要があります。その要は短内転筋です。
 その他に筋膜の影響があります。そしてその影響力はかなり強いです。大腿部の筋膜が少し内側に捻れる感じで膝に向かっているのが良いのですが、触診に馴れていない人にとって筋膜の流れを感じることは難しいかもしれません。仮に、筋膜が理想とは反対に外側に流れているような状態では、力はその方向に向かってしまいますので、膝の内側に力が集まる状態にはなりません。そして膝蓋骨(膝のお皿)は筋膜の影響を受けますので、他者に比べて膝蓋骨が外側に位置しているように感じるかもしれません。それは筋膜が外側に捻れていることを現しています。
 尚、立った時に足が「ハの字型」になっているO脚や内股の人は膝蓋骨が内側に入り筋膜も内側に捻れている状態になっていますが、それが良いわけではありません。股関節で脚が内側に捻れているということですから、膝裏が外側を向いてしまうので反張膝になってしまいO脚を助長してしまいます。

 O脚の場合、膝関節で脛骨が外側にズレているわけですが、そのことばかりに注目して膝関節ばかり整えたとしても、股関節から膝関節にかけての力の掛かり方が改善されなければ、膝関節の矯正は極めて一時的なものになってしまいます。5分も歩けば元の状態に戻ってしまうかもしれません。
 ですから先ず第一に整えるべきところは股関節での大腿骨の角度であり、大腿部の筋膜の流れだと私は考えています。その上で、膝関節における大腿骨と脛骨の関係、足関節(足首)などを修正するのが順番になります。

 たとえ脚の形がすぐに真っ直ぐにならなかったとしても、立ったり、歩いたりするときの重心が太股と膝のやや内側に集まるような状態になっていれば、自ずと足の母趾側に力が入るようになります。このような状態でからだを使い続けていれば次第に骨格も筋肉のバランスもそのように変わっていきます。それまで負担の掛かっていた内側半月板も次第に偏った圧力から解放されるようになりますので、変形性膝関節症になる可能性は遠のいていきます。

O脚と骨密度
 高齢者、とくに女性の高齢者にとって骨密度は気になるところです。骨折しやすい状態かどうかは骨密度だけの問題ではないかもしれませんが、一つの目安として骨密度を気に掛けていることは良い方法かもしれません。
 また、私の母を例に出しますが、リウマチを患って少し経った頃骨密度を測定したことがあります。普通の状態である右脚の骨密度は年齢より若い値でした。一方、O脚である左脚は骨密度が芳しくなく投薬によって対処しなければならないレベルでした。
 これを一般の人はどう考えるのでしょうか? 骨密度が悪く、つまり骨が弱いのでO脚になってしまったと考えるのでしょうか?
 専門用語は忘れましたが、骨は重力の掛かり具合によって成長したり退化したりする傾向があります。重力のない宇宙では、じっとしていると筋肉だけでなく骨も細ってしまいますので、宇宙飛行士達は宇宙船の中でたくさんトレーニングをしています。それは骨や筋肉に重力をかけているということに他なりません。
 そう考えますと、普通の状態である母の右脚の骨にはしっかりと重力が掛かっていますが、O脚の左脚には重力があまり掛かっていないということになります。O脚が進行して左脚を引きずりながら歩いている現在であれば、「左脚をかばうために右脚ばかりに力をいれている」ということで骨密度の左右差の原因をイメージしやすいと思います。しかし、測定した頃は左脚で地面をしっかり踏めていた頃ですから、左右で大きな差があることは想像しにくいことでした。

変形性膝関節症01

 ここでもう一度母の写真を見ていただきたいのですが、O脚である左脚は股関節から膝のやや外側に重力が掛かっていて、膝から下は力の方向がすっかり外側に向かっています。この状態を見方を変えて観察しますと「右脚はからだの重み(重力)をしっかりと大腿骨と脛骨で受け止めているが、左脚は力が外側に流れて逃げてしまっている」となります。つまり骨に対する荷重が左側は弱くなっていますので骨が退化してしまう、となります。
 O脚(X脚も同様)の人は膝関節に対する負担が増えるので痛みや炎症を起こすのですが、骨そのものに対する負担は減るので骨密度が悪化するという結果になります。

 ホルモンの関係とも言われていますが、体質的に女性は骨密度が悪化しやすいと言います。高齢になって外出の機会、歩く距離も減りますと骨が弱くなってしまうのは仕方がないことではありますが、そこに膝関節の不具合、O脚が加わりますと尚さら骨の弱体化が加速します。ですから道理だけで考えますと、加齢に従いO脚は改善するようにしなければならないということになります。
「スタイルのことを考えていた若い頃はO脚を気にしていたけど、もうそんな歳でもないし、今更O脚を直そうとも思わない」というのは心情的には理解できますが、からだの健康を考え「いつまでも自分の脚で歩き続けていたい」と思われるのであれば、O脚を改善することを考えていただきたいと思います。
 O脚を改善することは重心をからだの中央に持っていき、動作を無理なく効率的に行うことにもつながりますので、単に脚だけの問題ではないことをつけ加えます。

 私のような仕事をしている人は解剖学をある程度学ばないと、できることがとても限られてしまいます。しかし、実際のところ解剖学の本は退屈です。(少なくとも私には) 実際の問題に遭遇したときは、筋肉や骨格を確認するために参考にしますが、普段から読みたいとは思いません。「自分が好きな仕事に関することなのに何でだろう?」と思ったりしますが、そこには心を引き込むようなストーリーがないからかもしれません。
 ところが三木成夫(故人)先生の本に巡り会ってからは考え方がすっかり変わりました。三木先生の著されている本は一見解剖学とは関係のないような本が多いのですが、普通の人が「何故?」「どういうこと?」と思われるような素朴な疑問にわかりやすく答えてくれています。
 なんで赤ちゃんは哺乳瓶より母乳で育てた方が良いのか? なんで赤ちゃんは畳を舐め回すことが好きなのか? 顔は私たちにとってどういう意味を持っているのか? 舌は生命にとってどういう位置づけなのか?  植物と動物は何が違うのか? 自律神経の本質は何か? そういったことについて魚から人間にまで進化を続けてきた変遷と変化を考察しながら具体的に教えてくれています。
 私は直接お目にかかったこともありませんし、講演を聴いたこともありません。そして残念ながら三木先生の著した文献をたくさん持っているわけでもありません。しかし私にとって未知の症状を抱えた人が来られたときには、「三木先生の観点ではどのように考えるだろうか?」とまず考えてしまいます。

 三つ前のブログで投稿した舌の問題を抱えた若者に対しては、三木先生の言葉を多いに参考にさせていただいています。そして実際、施術を続けていく過程で変化を感じるたびに、三木先生が著していたことを自分が実際に体験しているのだと知ることになります。(ちなみに、おかげさまで彼の症状は順調に良くなっています。)
 この7年半、いろんな病院、最新設備を整えた大学病院、様々な治療院を巡ってもらちがあかなかった状態は、三木先生の言葉をヒントに毎日同じような施術を忍耐強く行っていた結果、大きな変化をもたらしています。施術はとてもシンプルです。毎回60分の間、そのシンプルな施術をじっと続けているだけですが、舌が徐々に本来の状態を取り戻し、そしゃく筋が働き出し、喉の筋肉が働き出すと、筋肉の連係プレイが復活し始め、状態は確実に進展しています。

 私はよく知りませんが、おそらく三木先生は解剖学の世界では有名な学者だったのではないかと思います。そうであれば、現在、医学の最前線で活躍されている医師の中には、三木先生のお弟子さんのような先生方もいらっしゃると思います。そうであるならば、どうぞ医療の現場で三木先生の智恵を活かしていただきたいと思います。

 三木先生が著された書籍や文献の中から、皆さんの実生活に参考になると思われる文章を時折掲載させていただきます。
 解剖学的に顔は内臓(腸管)が表に露出したものだと考えられています。そして顔のあらゆる筋肉や組織は、元々は魚の鰓(エラ)に相当する部分だったと考えられています。そのことを予備知識として下記の内容をお読みください。


 「顔は内蔵の前端露出部だが、唇から舌にかけての感覚はとくに鋭敏で、これら尖端部の構造は食物を選別する精巧無比の内蔵の触覚となる。この機能は正常な哺乳によって日々訓練されていくが、やがて赤ん坊はすべてを舐め回し、将来の『知覚』の成立に備える」

顔と口と舌
 われわれの内臓は、手で腹壁を通してわずかに触れることができるだけです。この中の出来事は、だからおぼろにかすむ、遠い世界の出来事です。しかし、その入り口と出口は当然外に開かれて、この現実世界と交流していないといけない。
 出口のところは、体壁がきんちゃくのようになって内臓は露出しないようにできている。
 だいたい腸の内容がS状結腸、直腸あたりにまでこないと、本当の便意は起こらない。
(中略)
 ところが我々が実際に意識できるのはノド元までで、ノド元過ぎたら熱さを忘れる。ここから下の感覚は大脳皮質までのぼってきません。これに対し、前端部分の顔面、とくに目玉とその周辺、さらに耳、鼻など穴の開いている場所は敏感です。その中でも口の穴、すなわち唇から舌にかけての感覚はさらに敏感です。
 ですから、内臓感覚といった場合、私たちはこの感覚がもっとも高度に分化した場所として、この唇と舌を考えればいいわけです。
 なぜここがこんなに敏感かというと、この入口こそ、食物を取り込む、つまり毒物と栄養物とを選択する“触覚”に相当する場所だからです。いってみれば、大切な秘密工場の厳重な守衛所ですね。

 この中でも、とくに舌は、脊椎動物が魚類から両生類になって、水から上陸して、ものを食べるときにどうしても必要な手となってくるんです。
 こういった舌の運動のはっきり見られるのがカエルです。舌でハエなどをパッと捕らえますね。それから異常に発達したのがカメレオン、さらにアリクイ。
 ですから舌というのは、早く言えば、生命を維持するための大切な触覚と捕食器官を兼ね備えているということになります。
 ただ、舌の筋肉だけは、さすがに鰓の筋肉、すなわち内臓系ではなくて、体壁系の筋肉です。
 顔面の表情筋が全部鰓の筋肉であるのに対し、舌の筋肉だけは手足と相同の筋肉です。舌といえば、ノドの奥にはえた腕だと思えばいい。ただし感覚の方は、体壁系の皮膚感覚とは違って、あくまでも内臓系の鰓の感覚です。ですから舌というものは、内臓感覚が体壁運動で支えられたものだと思えばいい。
 非常に鋭い精巧無比の触覚によって我々脊椎動物の祖先は、営々と五億年の間、食物を取り込んできたわけです。それが哺乳動物になると、大抵は首が発達して、首で襲いかかれるようになります。しかし、それは大人になってからで、子どものときは、すべての哺乳動物はやはり両生類以来の舌を使って母親の乳首から吸い取ります。ですから「この精巧無比の内臓触覚の機能は、正常な哺乳によって日々訓練されてゆく」ということになります。これが非常に大切なことです。
正常な哺乳
 正常な哺乳とは、母親の乳首から直接吸うことです。この唇と舌の、もっとも鋭い内臓感覚でもって、母親の乳首のあの感触を味わい尽くす。哺乳瓶のゴムは、あれこそ子どもだましです。まったく異質です。
 その上、赤ん坊は鰓の感覚が一面に拡がった“顔面”のすべてを動員して、乳房まるごとの肌触りを、一日中来る日も来る日も味わい尽くすわけですが、哺乳瓶ではもう味もそっけもない。
 それからもっと大切なのは、初めて吸うときです。赤ん坊と母親は、まるで死にものぐるいです。最初はうまく出ないものですから‥‥。母親はイライラするわ、赤ん坊は吸えないわ、でもう大変です。
 やはり赤ん坊の時には、まず哺乳動物であることの最低の条件を満たすためにも、母親を経験させないといけない。それで育ってきた赤ちゃんと、なんだかモルモットに水をやるようにして育てた赤ちゃんと、いったいどちらが幸せだと思いますか。
 ところで、これに協力しないといけないのは世の男性です。ストレスを家庭に持ち込むとピタッと止まる。これは汗腺が分化したものだから。カンガルーよりももっと古いカモノハシは、腹の汗の中に脂肪球が出てくるのですが、その汗をペロペロなめて育つ。これが哺乳のはじまりです。緊張すると汗がサッと引くでしょう。それと同じことです。ストレスで瞬間にお乳が出なくなる。男の責任は大きい。もっとも現代は世相そのものがストレスの塊のようなものですから。お乳の少ない母親がずいぶん多いでしょうね。

なめ廻し
 “なめる”ということは学問的に見て大切な意味があります。このときに鍛え抜いた感覚と運動があとになって、どのような形でいかされてくるか。
 心理学のことはわかりませんが、たとえばコップを見て“丸い”と感じるでしょう。これは類人猿には見られない、まさに、ホモ・サピエンスの特徴です。この“丸い”と感じる、その奥には、この“なめ廻し”のものすごい記憶が、それは根強く横たわっているのです。コップの縁に沿って、ゆっくりゆっくり、そして何度も何度も、それこそ丹念に舌を這わせ続けた、その時の記憶です。もちろん、そこには手のひらの“なで廻し”の記憶も混然一体となっているはずです。手と舌とは“年子”のようなものですから。

 六ヶ月をすぎてから、畳の目をどれだけなめさせたか‥‥。“なめる”という世界は大切です。決しておろそかにしてはいけない。

 さらに“なめる”ことには命に関わる重大な意味もあります。畳には適度のバイ菌がいます。そのバイ菌を入れてやると、腸管のリンパ系が心地よく刺激されて、過不足ない防御体制ができあがるからです。
 少々の毒物は、ですから舌を通してどんどん入れてやることです。それを衛生だとかなんとかやりますと無菌動物になる。世の荒波にもまれたらひとたまりもありません。
 このように、畳の目をなめるというのは、形態の把握と外敵の防御の基礎訓練という。二重の意味をもったものになります。

胃袋感覚
 胃は膀胱型の収縮を営むが、一方、手足の骨格筋と同じく日リズムに乗って、夜は眠り、昼間は収縮して食物をねだる。こうした波は年間を通しても見ることができるが、これら宇宙的な要因による収縮は、内臓感覚の、もう一本の柱をつくる。

 この胃袋感覚が非常に大切です。同じ袋でも、膀胱感覚とはかなり勝手が違うからです。膀胱の場合は中身の圧を受け、それに対する逆圧として収縮が起こる。ところが胃袋の場合は、なんと空っぽのとき収縮するのです。この空っぽの収縮はちょうどさっきの大腸や膀胱にも起こります。そのときの尿意と便意にわれわれは欺かれますが、胃袋の空っぽの収縮は、食物を催促するための、それは大切な営みです。もちろん、いっぱいになって中身を十二指腸の方に送るためにも収縮します、膀胱と同じように。
 胃袋は空っぽの時に収縮する。いわゆる“ハラが鳴る”、これが健康な空腹感です。

 ‥‥いわゆる夜型と朝型。胃袋というものは、からだと一緒になって眠ったり、起きたりしている。ですから、朝ご飯の時など、両者とも胃の中は空っぽでも、胃袋そのものの顔つきはまるで違います。一方は、寝ぼけ眼で嫌々ですが、もう一方は身をくねらせて待ち構えている。もっともこれが夜食だと話しは逆ですが。
 そこで、私どもの日常生活を見ておりますと、とうぜん問題になってくるのが、この、いわゆる「夜型人間」ですね。夜は夜で、寝しなに腹一杯食べ、無理に寝かしつける。朝は朝で、食べないと身体に悪い、といって無理やり詰め込まされる。胃袋の方は半分寝ているものだから、ひどいときにはだらりと骨盤まで垂れ下がる。かの有名は胃下垂です。そして、こういうことが度重なってくると、ついに胃袋は自衛手段にでる。つまり胃袋の方から朝食拒否を起こすのです。

以上 内臓のはたらきと子どものこころ (みんなの保育大学)より抜粋

 お一人お一人顔が違って個性があるように、歩き方にもその人その人の特徴があります。ですから“これが正しい歩き方だ”というような絶対的なものはありません。しかし、ある観点、例えば“健康になるための歩き方”とか“故障しない歩き方”、“スタイル良くなる、見栄えの良くなる歩き方”ということで考えますと、原理原則のようなものが浮かび上がってきます。
 私たち(二足歩行)は重力のある地球上に立って、つまり重力に対抗して歩かなければなりませんので、その理に叶うように歩き方を考える必要があります。背の高くなる植物は重力に逆らって真っ直ぐ上に成長するわけですが、そのためには表には見えずとも地中にある根(土台)がしっかりしていなければなりません。同じように、重力に対抗して歩くためには足元がしっかりしていなければならないわけですが、「何をもって“しっかりしている”と言えるのか?」という素朴な疑問が生じす。
 また、“歩くことが健康に良い”とか(今は死語になっていますが)「歩けなくなったら終わりだ」と、かつてしばしば言われていた根拠は何なのか? という素朴な疑問もあります。
 今回はこれらについて考えてみます。

足元をしっかりさせるためには全身の力をしっかり足に伝えること
 私が歩き方を観察する時、一番最初に着目するところは上半身が前に突っ込むようにして歩いているのか、あるいは下半身が主導してからだを前に進めているのか、といった点です。

歩き方03

 上半身が前に突っ込むようにして歩いているとは、顔や首や胸を前に出す、あるいは上半身を前傾することによって歩いているということです。上半身が前のめりのままでは倒れてしまいますので自然と脚を前に出してからだのバランスを保ちますが、そのような仕組みを利用して歩いていることです。つまり先に上半身が前に進み、後から下半身がついてくるような歩き方で、このような人は“つまずきやすい人”、“足が上がらない人”と言えます。足先(足趾)は前のめりになった上半身の重みを支えるために必要以上に力を入れて(収縮させて)踏ん張らなければならなりません。ですからこのような人は足趾が曲がっているのが特徴で、足趾を揉むとすごく痛がります。
 「足趾に力を入れて踏ん張っているのだから足元はしっかりしているはずだ」という誤解が生じるかもしれませんが、それは間違いで、バランスの悪くなった状態を足趾で踏ん張ることで倒れないようにしているということなので、足元がしっかりしているというのとは違います。

歩き方02

 一方、良い歩き方は“先に脚が前に出る”歩き方、つまり下半身主導の歩き方です。体重が軸足(後方の脚)の方に長く乗っていられますので、前脚は軽く感じられ自由に動かすことができます。地面に凹凸があっても、小石や砂利などの障害物があっても、軽々と対応することができます。着地する前足は“上から”地面を踏むことができますので、足裏はセンサーのように働き地面からの情報を瞬時に把握することができます。段差に足が乗ってしまったとしても転んだりすることはほとんどありません。(上半身主導で歩いている人は足が後からついてきますので、足裏がセンサーとして働くことは難しい)
 下半身主導で歩く動作は、脚を前に踏み出して体重を支える時も、次に軸足となって地面を蹴ってからだを前に進ませる時も、下半身の筋肉が直接地球の重力と対抗することになります。ですから、ただ歩くだけで筋肉が鍛えられるという効果をもたらします。一方上半身主導で歩いている場合は、自分の意志で下半身を使っているという感覚にはなりませんし、長く歩くと疲れを感じてしまうと思います。ふくらはぎや足や足趾ばかりが頑張り続けるため、「歩くことが心地良い」とはなりません。

 足元をしっかりさせれば重力に対抗する力が増しますので自ずと“からだは背の伸びた状態”になります。歩き始めの時よりも、歩き続けていると次第に背筋が伸び、腰の位置も高くなったように感じるような歩き方が理想です。しかし、そのためにはからだの力をしっかり足元に伝える必要があります。

 からだを動かすことを分析的に観察しますと“重心を移動させる”ことに置きかえることができます。からだを前傾する動作は、重心を前に移動することによって行うのが自然な在り方です。重心を移動させることなく前傾しようとしますと猫背のように背中や首を丸めるだけの形になってしまいます。同様に、歩く動作の一歩一歩は重心を足元に移動させる動作にならなければなりません。前脚として前方に踏み出した足は着地とともに軸足に変わり、やがてからだを前に移動させる蹴り足になりますが、この一連の動作は股関節周りの筋肉の収縮から始まります。股関節周りの筋肉が動き、次に太股、ふくらはぎ、足、足趾へと動作の主体が移っていきますが、この流れに伴って重心が股関節から足へと移っていくことで、からだをしっかり支え重力に対抗する力となります。
 足踏み運動で、持ち上げた脚(太股)を地面に降ろす動作を“自然に”しっかり“力強くグイッグイッと”行うことができれば、重心の移動が実感できます。そして、それに伴って重力に対抗する力が増していくのが実感できると思います。(降ろした脚の膝裏が伸びず、お尻がキュッと締まらなければ、この感覚は実感できません)
 これが、からだの力を足に伝え“足元をしっかりさせる”ということの意味です。足踏み運動をした時の“この感覚”を実際の歩行時にも実現できれば、それが心地良い歩き方、スマートな歩き方に近づくための第一歩だと言えます。

良い歩き方のために重要な中殿筋と大内転筋と大腰筋
 これまで多くの人たちの歩き方を観察してきました。歩き方教室などに通われている人もいましたが、私の場合は“からだに不具合を起こさない歩き方”、“歩くことで健康を維持増進させる”という観点で考えますので、ヒールの高い靴を使いこなす、美脚に見えるなど、歩き方教室などで指導していることとは見方も申し上げることも違うと思います。

 “歩くことは片脚立ちの連続動作”というのが基本中の基本だと私は考えています。ですから歩き方を修正するためには、先ず“しっかりとした片脚立ちができる状態”を築かなければなりません。“しっかりとした片脚立ち”というのは、何秒間か片脚立ちの状態が保てるとか、からだの何処かに不自然な力を入れて我慢すれば片脚立ち状態が維持できる、というのとは違います。重心をしっかり片方の脚や腰に乗せることができた状態であり、上げた方の脚がフリーな状態になることであり、思いのままに楽々と前後左右に動かすことができる状態です。この状態になりますと、軸脚がしっかり「からだを支えている」という感覚が得られます。


歩き方01

 そして、そのためには何よりもバランスを保つ必要があります。バランスが良ければ無理なくこの状態が保てますので、筋力よりもバランスの方が大事です。
 軸脚にからだを乗せ、反対側の脚を上げてバランスを取るためには上半身が上げた脚とは反対側に少し傾かなければなりません。直立不動のままで片方の脚だけを上げ続けることは不可能です。仮に何秒間かできたとしても、軸足の足裏や足趾にはその状態を保つためにモゾモゾしたりして無理な力がかかってしまいます。

中殿筋と大内転筋の収縮

 例えば左脚を軸として右脚を上げた場合、上半身を少し左に傾けなければなりません。そしてこの姿勢をつくるためにはお尻の側面にある中殿筋がしっかり働かなければなりません。左側の中殿筋が収縮することによって上半身は自然と少し左側に傾きます。そして中殿筋がしっかり収縮することができれば“お尻にエクボ”が発生します。
 ところで中殿筋を働かせずに脇腹の筋肉を収縮させて上半身を傾けることもできます(上半身が折れた状態)が、それは重心が左脚に移動したのとは違いますので、片脚立ちのバランスを保つことはできません。正しい片脚立ちの状態は、背面から見ますと、股関節のところでからだが少し折れて傾き(背中は伸び)、軸脚のお尻の上部が盛り上がって、そのすぐ下にエクボのような凹みができている状態です。

 また、軸脚には全体重が乗りますし、やがては地面を蹴ってからだを前に移動させる働きをしなければなりません。ですから軸脚はしっかりしている必要がありますが、この時に要となるのは大内転筋の働きです。大内転筋の働きが悪いと片脚立ちの状態でお尻を持ち上げ軸脚を真っ直ぐに保つことができなくなります。膝が折れ、お尻が下がってしまいますので中殿筋の収縮(お尻のエクボ)も望むことができませんし、地面を蹴ってからだを前に押し出す働きを望むこともできなくなります。大内転筋の働きが悪い人は、膝が少し曲がったまま地面を擦るような歩き方になってしまいますので、“重力に負けているような歩き方”に見えるかもしれません。
 そして大内転筋は筋連動の関係で大腰筋と深い関連性があります。大内転筋の働きが悪いと大腰筋の働きも悪くなりますので腰椎の前弯がなくなり骨盤は後に傾いてしまいます。それは腰が悪くてからだを真っ直ぐに伸ばすことができない状態に似ています。
 このような人はとてもたくさんいますが、極端な例として、腰の曲がった人の歩き方を想像してみてください。上半身が前のめりになっていますので、からだが倒れないようにと、すかさず脚を前に出さなければなりません。歩幅は狭くなり、チョコチョコ、パタパタ、あるいはバタンバタン、ドスンドスンと歩かざるを得ません。本来、歩くということは下半身の力でからだを前方に移動させることですが、このような人はそれとは反対で、上半身が前に前に行ってしまうので、それを支えるために脚を前に出しているといった感じです。ゆったり歩くことを望むことはできません。

 ところで、滑らかな歩行動作は腹筋を含めた骨盤周りから下半身全体の筋肉の連係プレイで実現できることですから、例えば足趾に創傷ができただけでもバランスが崩れてしまいます。ですから歩行の問題に対して施術を行う場合は、たくさんの筋肉や骨の状態をチェックする必要がありますが、最初に確認するのは大内転筋、中殿筋、大腰筋になります。

大腰筋で歩き始めるか、大腿筋膜張筋で歩き始めるか
 大腰筋につきましては前回の記事で取り上げましたので、そちらも参考にしてください。
 “歩き方”を観察するとき、私は先ず二つに分けて見ます。下半身主導で脚が前に出て後からからだが付いてくるような歩き方か、それとも上半身が前に出ることによって後から下半身が付いてくるような歩き方か、どちらの傾向かを観察します。

大腰筋か筋膜張筋

大腰筋と大腿筋膜張筋
 
 ここで筋肉の話になりますが、股関節で大腿骨を引き上げ脚を前方に出す働きをする筋肉がいくつかあります。体育の授業で行った膝を水平まで高く上げるような足踏み運動は別にして、歩行動作に限って考えますと股関節の内側(大腿骨の内側)には恥骨筋と大腰筋があります。股関節の外側面には大腿筋膜張筋と縫工筋があります。恥骨筋と縫工筋は補助的な作用ですので、脚を前方に出す働きをする筋肉は、股関節の内側は大腰筋、外側は大腿筋膜張筋であると考えていただければよいと思います。
 下半身主導でゆったり歩くためには内側の大腰筋を使って歩き出す必要があります。大腰筋は股関節より上部の腰椎から始まっていますので、大腰筋が収縮しますと大腿骨だけでなく骨盤(腸骨)も動かします。ですから大腰筋をしっかり使って歩いている人の歩き方は骨盤も良く動いて実際の脚の長さより脚の動きが長く大きく見えます。 

座位からの腿上げ比較

 ここで筋肉の働き方を観察するためにテストをしてみます。
 椅子に座った状態で左の腰(骨盤)に重心を移します。重心がしっかり左側に乗りますと右脚のつけ根はフリーな状態になって微かに浮く感じになると思います。その状態で右太股を5㎝上げて保持し、股関節の内側と外側に筋肉の収縮(緊張)を観察します。正しく行えていれば内側の方が外側より収縮しているはずです。つまり大腰筋を使って太股を5㎝上げているということです。
 次に、座った状態で左右均等に、あるいは少し右側に重心を乗せた状態で右脚を5㎝上げてみます。すると股関節の外側から太股の外側にかけて筋肉が緊張しているのがわかると思います。これは主に大腿筋膜張筋を使って太股を上げているということです。
 つまり、重心を上げる脚(右)とは反対側(左)の腰(骨盤)にしっかり乗せることができますと大腰筋を使うことができますが、重心の移動ができない状態では大腿筋膜張筋を使わざるをえなくなってしまうという現実があります。そして座った状態でのこの現象は立った状態でも同じですから、大腰筋を使って歩き始めるためには「最初に重心の移動(=軸脚にからだを乗せる)を行わなければならない」という理屈になります。
 両脚を揃えて立った状態から右脚から前に歩き出すためには、脚を踏み出す前に左脚(腰)に重心を移動することから始めなければなりません。
 左脚に重心を移動してしっかり立つことができれば自ずと右足のかかとが少し浮いて膝が軽く曲がった状態になります。そしてそのまま自然の流れで右脚を踏み出すことができます。(左脚の踵側などに重心がある場合は無理ですが)
 “できる人”にとっては普段やっていることですから何の苦労も要らない自然の動作ですが、“できない人”にとっては、実は修得が難しいことの一つです。

 “できない人”の多くは、先ず重心を前方に移動することによって脚を前に出さざるを得ない状況をつくり、それを利用して歩き始めています。立った状態から首を少し前傾したり、お腹を前に出したりする動作を、脚を出す動作よりも先に行ったり、あるいは同時に行ったりします。つまり上半身主導型で脚が後から付いてくる歩行動作です。このような人の特徴は足の指が曲がっていることです。重心が前方にあるため足指(足趾)は必要以上に踏ん張ってからだが前に倒れないように支えなければなりません。歩く一歩一歩に、足趾はこのように頑張らざるをえなくなりますので、指の筋肉がこわばってしまい指が曲がってしまうのです。一方、大腰筋を使って下半身主導で歩いている人の足趾はほとんど真っ直ぐです。体重を足裏全体で支えることができますので、足趾を収縮させて我慢する必要がないからです。

股関節外側の筋肉(大腿筋膜張筋)を使って歩き始めることの弊害
 上記の椅子に座って脚を上げるテストで、大腿筋膜張筋を使って太股を上げている状態をよく観察しますと、足の甲の小趾側や全体が反った状態になっていると思います。足首を脱力した状態では太股を上げることができませんので、まず小趾を浮かせるように反らすことから動作を始めてしまいます。これが筋肉連動の仕組みなのですが、最初に小趾を浮かせる筋肉(第3腓骨筋)を収縮させないと大腿筋膜張筋が収縮しないので太股を上げることができないのです。

前脛骨筋と第3腓骨筋02

 一方、大腰筋を使って脚を上げる場合は太股の内転筋~前脛骨筋に連動が起こりますので、母趾の中ほどの骨(母趾中足骨)が浮くようになりますが、足首を脱力したまま動作を行うことができます。

前脛骨筋と第3腓骨筋01

 つまり太股の外側の筋肉を使って歩いている人は、足首に力を入れて足を反らせることから歩行動作を始めますので足首周辺やふくらはぎの筋肉が疲労すると言えます。太股の内側の筋肉を使って歩いている人は股関節→太股→ふくらはぎ→足へと筋肉が連動していきますので、足首を曲げる(背屈)こともなく脱力した状態で自然と母趾が持ち上がるように足を踏み出すことができます。ですから歩行で疲労を感じるのは股関節周辺ということになります。

 少し長く歩くと股関節の外側やスネの外側や足の小趾側が疲れてしまう人は大腿筋膜張筋を使って歩いているということになりますが、その弊害について幾つか説明します。

①外反母趾と内反小趾の危険性
 臨床的に見ますと、内反小趾も外反母趾も同じような理由で起こっていることがほとんどです。小趾側に力が入って歩くということは、母趾に力が伝わらないので地面を蹴るのも小趾が主体となって行っているということになります。小趾と母趾では骨の太さがまったく違うように力の強さも大きく違います。

母趾外転筋と小趾外転筋の変調

 小趾側の力だけでは地面を蹴ってからだを前に移動させることは難しいので、小趾に必要以上に力を加えなければなりません。足裏には地面を蹴るために足趾を曲げる筋肉(屈筋)がありますが、小趾にはふくらはぎからつながっている長趾屈筋と短い短小趾屈筋があります。そして、この二つの屈筋だけではからだの重さを持ち上げるだけの力がありませんので、本来は小趾を開くために存在している小趾外転筋までも動員してその仕事をしようとします。小趾外転筋は小趾を捻る働きもしますので、その結果小趾が捻れて内反してしまいます。これが幅の狭い靴を履いているわけでもないのに小趾が内反してしまう主な理由だと考えられます。
 また母趾が機能していない状況ではまともに歩くことはできませんので、地面を蹴るときにはどうしても母趾を使うようになります。靴の中で浮き気味になっている母趾を使うためには母趾先を強く曲げたり捻ったりしなければなりません。その結果、母趾が第一関節のところで曲がってしまったり、外反母趾のようにねじれた状態になってしまいます。高いヒールや幅の狭い靴を履いているわけでもないのに外反母趾になり、炎症や痛みを招いてしまうのは、靴の中で母趾を捻っているからです。歩く度に母趾を捻るので、靴と間で摩擦が生じ、炎症や痛みといった状況を招いてしまいます。また母趾を捻る働きをするのは、小趾外転筋同様、本来は母趾を開くために存在している母趾外転筋ですが、この二つの外転筋(母趾外転筋と小趾外転筋)がこわばりますと筋連動の仕組みで、長内転筋、中殿筋などもこわばってしまうため、その他の弊害が現れます。

②くるぶしの位置が変わって足首が痛くなる

外果の位置と筋肉

 大腿筋膜張筋はふくらはぎで腓骨筋と長趾伸筋に連動していますので、大腿筋膜張筋で歩いている人はこれらの筋肉がこわばります。足首の外側にあるくるぶしは腓骨の下端ですが、腓骨と小趾を結んでいる第3腓骨筋や長趾伸筋がこわばってしまいますとくるぶしを前下方に引っ張ってしまいます。あるいは小趾全体が浮いたような状態になります。それは足首の中で外くるぶしの位置が変わってしまうということですので、足首が回しづらい、くじきやすい、歩くとかかとの外側が痛むなどの症状を招く原因になります。足首周辺がいつもスッキリしていない人はくるぶしの位置がずれている可能性がありますので、単なる“むくみ”とは考えず、歩き方を見直したり、あるいは整体で整えることをおすすめします。むくみに対する手段を行ってもほとんど意味はありません。

③O脚になる可能性、脚が外側に太くなる可能性
 大腿筋膜張筋は太股の一番外側にある腸脛靱帯と一体化していますので、使えば使うほどに力は外側外側へと加わります。ですからやがて膝の間が広がったO脚になってしまうのは当然の理屈になります。
 そして大腿筋膜張筋を使って歩いているということは、太股の内側の筋肉をあまり使っていないということですので、太股の内側は痩せ、外側は太くなるという現実が訪れます。それはふくらはぎでも同様で、膝下も外側ばかりが太くなるということになります。このような状況もO脚も、私たち日本人によく見られる体型であるとのことですが、それはつまるところ、私たちの多くは股関節の外側の筋肉を使って歩く傾向があるということです。
 
④つまづきやすくなる
 大腰筋を使って歩き始める人は下半身主導型であり、特別な力を使うこともなく自然と前足の母趾が上がります。そして地面を“上から踏む”ことができますので、少しの段差でつまずいたり、地面の多少の凹凸につまづいたりすることは考えにくいことです。(但し前脛骨筋の状態が悪ければ別ですが)
 大腿筋膜張筋を使って歩き始める人は、上半身主導型の場合が多く、脚を振り子のように使ってしまいますし、足首で足の甲を反らなければならなくなります。この一連の動作は小趾側が主体となって行われますので母趾はあまり上がりません。足の運び方も“足を引きずる”、”脚を回して前に出す”、“ガニ股や内股”のような感じになってしまいますので、足裏にセンサーとして役割を持たせる余裕が生まれず、つまづいたり、引っ掛かっかりしやすくなったりします。加齢に伴い筋肉の働きが弱くなりますと足首を背屈(甲の方に曲げる)する能力も低下しますので、何もない平らなところでもつまずいてしまうということが起こりやすくなります。高齢になって転んだりしますと大きなケガに発展することもありますので、高齢になるほどに歩き方を見直すことを是非考えてください。

 その他、股関節や膝の痛みや変形、腰痛、背中のハリなども含めて、いろいろなからだの不具合を招く可能性があります。また体型的にスマートな美脚を目指すのであれば、大腿筋膜張筋を使って歩いていては永遠に実現不可能だと思いますので、歩き方を根本的に見直すことから初めていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩くために
 大腰筋をあまり機能させずに歩いている人にとっては、“大腰筋を使う”ことがどういう感じなのか、まったくわかないと思います。実際、皆さんに練習方法を教えていて、大腰筋を使う感覚を感じて認識していただくことが、私が一番苦心するところです。そして私が観察しながらアドバイスしているときにはできても、自宅で一人で練習するときには“よくわからない”となってしまうところです。

 歩行で大腰筋を使うためには原則があります。

①重心を軸脚側の脚や腰にすっかり乗せてバランスをとる。
 例えば立った状態で左脚に体重をすっかり乗せてバランスを取りますと、上半身は少し左に傾き、右脚が浮くか右かかとが少し上がって膝が少し前に出るような感じになります。この状態を私は「右脚がフリーになった状態」と呼んでいますが、この状態をつくることができなければ先には進めません。

重心移動_座位

 そして座位でも立位でも共通していることですが、重心を左側に移しますと上半身(腰部や脇腹)の左側は少し伸びた状態になっているのが正しい姿です。「重心が左側にしっかり移れば左の背中は伸びます」
 皆さんが間違いやすいことですが、ご自分では左側に重心を移すつもりで上半身を左側に傾けますが、それを左の脇腹を収縮させて行いますと、単に「からだを左に曲げている」ということになってしまい、重心を移動したのとは違います。その他には、骨盤を左側に突き出して片脚立ちの状態をつくろうとする人もいますが、この場合、上半身は右側に傾いてしまいますので、これも間違いです。
 イメージとしては“やじろべえ”を思い浮かべていただきたくと良いと思います。左脚を軸としてバランスを取るために上半身を左に傾け右脚を右側に開きますが、軸脚の左足裏は小趾側にも母趾側にも重心の傾きがなく楽に立っていられる状態です。フラフラしたり、足趾や足裏で頑張ってこらえたりするようでは駄目です。
 くれぐれも「上半身を曲げて重心移動を試みてはいけない」を頭に入れてください。

②軸脚のお尻にエクボができる
 軸脚にからだを乗せたとしても膝が曲がっていたり、かかと重心になっていてはいけません。軸脚はしっかりと地面をとらえ重力に対抗しなければならないからです。
 正しい状態の特徴を挙げますと、
 ①お尻にエクボができていること=中殿筋がしっかり収縮している、
 ②膝裏が伸びて体重をしっかり支えていること、
 ③重心が足首の前側にあること、
などです。そして、これらの状態をつくりあげる要は中殿筋と大内転筋の働きです。
 先にも申しましたが、中殿筋が収縮することによって上半身は股関節のところで横に曲げることができますので、踏み出す方の脚を浮かせてもバランスを保つことができます。中殿筋の働きが悪いとこの状態が作れませんので、踏み出した脚はすぐに着地しなければならなくなります。
 また、片脚立ちの状態を軸脚の膝が折れたような状態で行いますと、重力に負けたような恰好になりますので、お尻も下がり地面を這うような歩き方になってしまいます。
 そして重心の位置が軸足のかかと側に来てしまいますと、前に進むというよりは後に下がるような状態になってしまうので足を踏み出すことができなくなります。しっかりと足首(足関節)やや前目に重心が乗るのが良い状態だと言えます。
 このような状態を築くことができれば、踏み出す足はなんの苦労もなく自然とゆったり前に向かうことができますし、長い時間軸足に重心を保つことができますのでしっかりと地面を蹴ることができるようになります。

 以上の二つが原則として大事なことになりますが、軸脚側ばかりの内容になっていて大腰筋そのものをどう使うかという内容はありません。つまり大腰筋を働かせて歩くためには軸脚が何よりも大切だということです。
 軸脚側にしっかりとからだを乗っけ(重心を移し)て、軸脚を重力に負けないようにしっかりさせることによって、反対側の脚はフリーな状態になりますので大腰筋を使って前に踏み出すことができるという仕組みになっています。

 大腰筋を使って歩くことが上手くできないような人は、練習として、
①先ず軸脚側にからだを乗っける
(その状態がしっかりできてから)、
②反対側の膝を少し(10㎝くらい)上げる
(それ以上上げると大腰筋以外の腸骨筋や長内転筋、大腿直筋などが作動してしまうので、大腰筋の動きを認識できなくなります。)
というのを交互に繰り返すことから始めていただきたいと思います。

移してから上げる(歩行練習)

 「移してから、上げる」というかけ声を心の中で唱えながら行ってください。そうしないと、重心を移しながら膝を上げてしまったり、上げてから移してしまったりするからです。何故なら、そのような人たちには「歩くことは足を前に出すことだ」というような固定観念が絡みついていますし、からだの動きにも染みついていますので、それを脱却して欲しいと思うからです。
 実際、この練習をした直後に歩いていただくと、上手く歩ける時と歩けない時が混在します。それは習い事と一緒で、できないことに挑戦する時は「頭では解っているけど、からだが上手く動いてくれない」状態がしばらく続くからかもしれません。からだがちぐはぐになって右足を前に出すときに右肩を前に出してしまったりすることもあるかもしれません。これまでと違った歩き方をからだに覚えさせるということは、考えている以上に忍耐のいることです。それでも忍耐強く「移してから、上げる」を繰り返し練習してください。すると街中を普通に歩いている時に、突如、「ああ、こういうことか!」という“気づき”がやって来たりするかもしれません。思い(意志)とからだの整合する時は、思いがけない時にやってくるものです。

 また、大腰筋はお腹の深部にある筋肉ですから、膝を少し上げる動作のときにお腹の中で動く筋肉を意識してみてください。その筋肉は股関節の内側につながっています。何十回か「移して、上げる」というのを繰り返していますと、やがてお腹の中が温まり、股関節の内側に疲労感を感じるようになると思います。それは練習が上手くいっているということです。その感覚を大切にしてください。
 
大腰筋を使う感覚を養う
 身体能力をアップさせる必要のあるアスリート達の場合は、大腰筋を鍛えるための特別のメニューがあると思います。ところが、そのような練習をしなくても歩き方を改善し、スマートな体型を目指すことはできます。筋肉は使う(収縮と伸張を繰り返す)ことによって鍛えられます。ですから大腰筋をたくさん使えば、自ずと大腰筋は鍛えられます。器具や用具を使って負荷を掛ける必要はないと考えます。
 大腰筋を鍛えるための第一歩は、大腰筋を意識して認識することすることから始めるのがよいと思います。大腰筋は背骨の腰部(腰椎)からお腹の中を通って股関節の内側(大腿骨の小転子)につながっていますので、先ずはそれをイメージしてください。
 次に座位であれば、座った状態でどちらかの骨盤に重心を移します。左側の骨盤であれば、左の坐骨にすっかり体重が乗った状態にします。すると右の股関節内側太股のつけ根から力が抜けてフッと少し浮き上がる感じがします。右太股がフリーな状態になる感じです。そして右股関節の内側と背骨につながっている筋肉を作動させて右膝を5~10センチ程度ゆっくり持ち上げます。そしてゆっくり下ろします。この動作を連続して10回ほど行ってみてください。股関節の内側や背骨(腰椎)の右側に手を添えてみると、膝の上げ下げに合わせて筋肉が収縮したり伸張したりするのが感じられます。その筋肉が大腰筋です。

座位_大腰筋練習のコピー

 右側の上げ下げを10回行ったら、右側の骨盤に重心を移して左膝の上げ下げを10回行います。左右10回ずつを1セットとして3セットほど行いますと、大腰筋のイメージがしっかりと感じられるようになるのではないかと思います。そしてゆっくりと歩いてみてください。歩き方に大なり小なり変化が現れると思います。
 この練習で大切なことは、必ず最初に重心を移すことから始めることと、膝を上げすぎないことです。膝を高く上げますと別な筋肉まで働き出しますので、大腰筋のイメージがぼやけてしまいます。さらに太股の別な筋肉も作動しますので「股関節の内側」がわからなくなってしまうと思います。
 また、立位でも練習することはできますが、そのためには片脚立ちがしっかりできることが必要条件です。軸脚にしっかりからだを乗せることができますと反対側の脚はフリーになり大腰筋を意識して使うことができます。この場合も膝を上げすぎないように気を付けながら、じっくり太股を上げたり下げたりします。
 もし、片脚立ちがしっかりできないのであれば、大腰筋ではなく他の筋肉を使って動作することになってしまいますので、練習することの意味はなくなってしまいます。その点だけ注意してください。

しっかりして片脚立ちができるようになるために‥‥中殿筋を鍛える
 中殿筋のしっかり働いている人は一歩一歩歩く毎に、お尻に交互にしっかりとしたエクボができます。それは、自分でお尻の側面に手を当てながら歩いてみることで確認することができます。
 典型的なO脚の人や内股の人はエクボをつくることが苦手です。立った時に両足が「ハの字」のようにかかとより足先の方が内側を向いている状態ではお尻の筋肉が伸びた状態になってしまうからです。そのような人でも両足のかかとをくっつけ、つま先を少し開いて「逆ハの字」にした状態でお尻をキュッと持ち上げるように力を加えるとエクボができやすくなります。ですから、このような人は中殿筋を鍛えることに合わせて立ち方を変えることも練習してください。女性の人にとってつま先を開くことは「ガニ股になってしまう?」というイメージが湧いてくるかもしれませんが、O脚や内股を矯正する上でも大事なことです。「ハの字」のままでは永遠に脚の形を直すことは不可能です。
 さて、片脚立ちをして上半身の重みをしっかり支えるためにはお尻の筋肉がしっかり収縮して働かなければなりませんが、殿筋の中でも中殿筋と小殿筋は外転筋と言いまして脚を外側に開く働きをします。それは、脚を固定した状態では上半身を外側に傾けることと同じですので、片脚立ちでバランスを取るためにはこの二つの筋肉の働きが重要になります。(左軸脚の場合、上半身を左に傾けることによって右脚を上げてもバランスが取れる。この状況では中殿筋の方がより重要だと思います。)

中殿筋トレーニング

 ですから中殿筋を鍛えるためには、立った状態で、お尻の筋肉を使って脚を横に開く運動を行います。例えば右の中殿筋を鍛えるためには、壁などの横に立ち、左手で壁を押さえてからだが左に傾かない状態にした上で右脚を中殿筋を使ってゆっくり開いていきます。そしてゆっくり閉じます。これを何回か繰り返します。中殿筋が収縮したり伸張したりするのを確認する意味で、右手を中殿筋(股関節の上、斜め後辺り)に当ててみるのもよいと思います。
 整体的な観点で考えますと筋肉を鍛える運動の目的は「筋肉をしっかりさせ働きが十分できる状態にすること」です。ですから運動はすべて「無理せず、じっくり、粘り強く」が基本です。意識を筋肉に集中させて、自分の意志を筋肉に伝えることが大切だと考えています。アスリート達にとっては瞬発力や爆発力が必要なので、鍛え方は変わってきますが、この辺りを混乱しますと「どのトレーニングをしたら選んだらよいのだろうか?」という迷いが生じてしまいます。
 またこの運動の注意点は、足の小趾側の力を使って脚を広げないようにすることです。中殿筋の働きが悪い状態でも大腿筋膜張筋を使うことで脚を広げることができます。ここで大腿筋膜張筋を使ってしまっては本末転倒になってしまいますので、あえて「お尻の筋肉(中殿筋)を使って脚を広げてください」と言っています。
 中殿筋を使ってこの動作を行っているときは足の「母趾が中心になって広げているような感じ」がしますが、大腿筋膜張筋を使って動作しているときは「小趾側に力を入れて広げている感じ」になりますので、この点はよく注意してください。中殿筋の働きが悪い人は思いの外、上手くできないかもしれません。最初はそれでも良いです。意識を中殿筋に集中してください。意志が筋肉に伝わるだけでも進歩です。何日か練習している内に筋肉が働き出し、そのうち大きく広げられるようになると思います。

 片脚立ちと大腰筋と中殿筋を説明するだけでこのような長い文章になってしまいましたが、からだを健康にする歩き方を考えたときには、「重心移動、片脚立ち、大腰筋」の三つのキーワードが最も大切なことだと思います。
「ランニングの時、からだを前傾させて走った方が前に進みやすくなる」というような指導を受けているという方から「どう思うか?」と質問されました。「正しいけれど、誤解しやすい」というのが私の答えでした。ここにも記しましたが、からだを前傾させますと脚を出さざるを得なくなりますので、その原理を利用してランニングを行うことは、正しいことのように思えて実は間違っていると私は考えます。これでは筋肉は、主体的な意味では鍛えられません。我慢する力が増すという意味ではプラス効果はあると言えばあるのですが、反対にマイナス面はたくさん出てきます。上半身が前に突っ込むような歩き方と一緒で、足の指先にかなりの負担がかかります。その負担はふくらはぎ、ハムスト(太股の裏)、腰へとつながりますので、下半身がパンパンに張ってしまうのではないかと思います。現に、私に質問された方の下半身はパツンパツンに張っていました。
 ランニングの際に前傾して欲しいのは「仙骨」です。仙骨を前傾させることによってからだは推進力が高まります。躍動感がでます。仙骨が前傾すると背筋は自ずと伸びます。ですからアスリートの人たちの走る姿は一様に背筋が伸びています。そして仙骨を前傾する筋肉は大腰筋であり腸骨筋、骨盤底筋ですから、これらの筋肉を鍛えることによって躍動感のあるランニング姿が実現し、走力も増します。こういう状態のランニングやジョギングはからだを健康にしれくれると思います。
 指導者の言葉をそのまま受けて「前傾すればいいのなら頭や胸を前に出そう」と誤解してしまいますと、上半身が突っ込んだ走り方になってしまいますので、ランニングやジョギングが健康のためのものではなくなってしまいます。

スリッパを利用して練習する
 スリッパが苦手な人がいます。スリッパを履いて歩くと、スリッパがすぐに脱げたり、どこかに飛んで行ってしまったり‥‥。こういう人は足先が上がっていない人であって、つまずきやすい人です。
 軸脚にしっかり体重を保持した状態で反対側の足を前に出しますと自然に母趾先が上がります。ですからスリッパをしっかりと足の母趾に引っ掛けることができます。ところが軸脚にからだを乗せた片脚立ちの状態を保つことができない人、上半身が前に突っ込んでしまう人は、あわただしく前脚を運ばなければいけなくなりますのでスリッパを蹴ってしまうような状況になってしまいます。あるいは足先が上がらないので、スリッパが滑り落ちてしまいます。
 スリッパが苦手な人は、はっきり申し上げれば“歩き方の悪い人”です。「裸足で生活するのが好き」という人も多くいると思いますが、その理由が“スリッパが苦手”なことであれば、“裸足の生活が健康的”ということにはなりません。
 例えば狭いキッチンの中で家事をするためにチョコチョコ動かなければならない状況だったとします。足の動きは10~20㎝が中心です。そんな時でもスリッパをしっかり引っ掛けることができて苦もなく足を動かすことができるのであれば、それは軸脚に重心がしっかり残っているということです。軸脚に重心を残したまま足を運ぶことができるというのが歩き方の基礎ですから、歩き方を改善したいと考える人は一つの方法としてスリッパを活用してみてください。

歩くことは「足を上げること?」それとも「足を降ろすこと?」
 今回はたくさんの絵を交えて歩き方について私の考え方をお伝えしました。“歩き方を直したい”という目的のために私のところに来られる方はおりませんが、からだの状態を改善する上で、からだの使い方を理解していただく上で、“歩き方、立ち方”から取り組む必要があると思われる人はたくさんいます。
 ところで歩くことをイメージしたとき、それは“足を上げる=前に出す”ことでしょうか? それとも“足を降ろす=地面を踏む”ことでしょうか? このことは端的に歩き方が外側の筋肉主導か内側の筋肉主導かを物語っていると思います。
 歩くたびに首や胸に圧迫感を感じる人、息詰まりを感じる人、普段あまり気にしていなくても、実際はそのような状況になっている人は多いです。このような人は歩くことが“足を上げて前に出す”ことだと感じているのではないでしょうか。
 股関節の外側(大腿筋膜張筋)で脚を上げている人は、筋連動が足の小趾側(第3腓骨筋や長趾伸筋)から始まります。足の小趾~ふくらはぎの外側~太股の外側へ、下から上への流れで股関節を曲げているわけですが、その流れは股関節で止まるわけではなく、上半身~首~頭へと続いていきます。このような人は「歩くと息が上がってきてしまう」と感じます。
 反対に、大腰筋を使うことから歩き始めるときは、筋肉の使い方が上から下へ向かいます。歩き方が“上げた足を降ろして地面を踏む”動作になっていますので、息を容易に吐き出すことができ、それだけで“心地良い”と感じると思います。考え事やストレスで頭の中が一杯だったとしても、歩く動作を利用してそれらを下へ下へと追いやり、足先から地面に解放してしまうことすらできるのではないかと思います。そんな歩き方を目指していただきたいと、そして歩くことが健康にも精神的にも良いものであることを実感していただきたいと思います。

 先日「たかが歩き方が悪いだけで、こんなにからだが不調になるなんて‥‥」と率直な感想を聞きました。私自身、施術をしたりアドバイスをしながら、内心「こんなところにも影響が及ぶのか?」と思うこともしばしばです。しかし現実は現実です。
 魚が水の中で泳ぎ続けることは、私たちが歩かなければならないことの大いなるヒントを与えてくれます。これからパラリンピックが始まりますが、膝から下がなかったり、下半身が動かない人たちが「どうして並外れた能力を発揮できるのか?」。専門的に考えると不思議で一杯になります。
 そんなことも踏まえて“歩き方”や“歩くことの意味”について、また続きを書いていきたいと考えています。

 オリンピック代表の女子バレーボール選手の中にはスラッとして背の高い選手がいますが、脚もとても長く見えます。しかしアフリカ代表の選手は更に脚が長く、お尻もキュッと上がってスタイルが日本の選手とはまったく違って見えます。お臍のすぐ下から脚が始まっているようにさえ感じますが、それはどうしてなのでしょうか。骨格が私たち日本人とは違うというのは確かにあると思いますが、どうも骨格だけの差ではないようです。

大腰筋01

 大腰筋という筋肉があります。文字が表現しているように腰の筋肉ですが、腹筋や太股の筋肉のように体表から触ることはほとんどできない内部の筋肉(インナーマッスル)です。腰部の背骨(腰椎)の前面から起こり、お腹や骨盤の内部を通って太股の骨(大腿骨)の内側につながっています。ですから大腰筋は“お腹と脚をつなげている筋肉”であるということになります。股関節は骨盤と脚との関節で、脚を動かすための筋肉が幾つもありますが、大腰筋は骨盤のもっと上、背骨と脚をつないでいます。そしてこの筋肉の発達具合が、私たち日本人と諸外国の人たちでは違っています。それがスタイルの差となって現れ、からだ全体の動きに差が生じる原因であると考えられます。極端に表現すれば、私たち日本人の歩き方は“ヒョコヒョコ”に近く、欧米人、特に黒人の歩き方は“ゆったり”して颯爽としているように見える原因であると思います。

アフリカと日本の選手の体型
 

大腰筋の働き
 大腰筋の主な働きは「股関節を屈曲する。股関節を僅かに外旋する。」と学問的にはなっています。しかし実際には、このような働きが主であるとして大腰筋を捉えますと間違ってしまいます。
 大腰筋は腰椎そのものにつながっている大きな筋肉ですから、まず第一に“腰椎の安定”に関係していると考えます。すると腰痛との関連性を考えることができます。
 第二に、大腰筋が収縮すると腰椎を前下方に動かしますので、腰部の前弯(からだの左側面から見て「C」字型の弯曲)に関係します。骨盤が前傾してお尻がキュッと上がっていることがスタイルがよく見える条件の一つだと思いますが、そのためには腰椎がしっかり前弯していなければなりません。ところが私たち日本人は腰椎前弯が小さい(弱い)傾向にあって、更に加齢とともにほとんど前弯がなくなってしまうような傾向にあります。ということは骨盤自体の前傾も望めなく、さらに加齢にともない骨盤の後傾が進むため、お尻は下がって見えるばかりの状況になってしまいます。おしゃれなジーンズも「お尻が決まらない」というのは“大腰筋の働き”に原因があるのかもしれません。
骨盤を前傾する大腰筋と腸骨筋
 
 また、大腰筋は大腿骨の内側(小転子)につながっていますので、大腿骨を腹部の方に引き寄せる働きをします。これを「股関節を屈曲させる働き」として定義しているようですが、実際には「脚をお腹の方に引き寄せて持ち上げる」までの働きであると考えた方が正確だと思います。それ以上に股関節を屈曲(太股を持ち上げる)する主動筋は腸骨筋や大腿直筋など骨盤から大腿骨につながっている筋肉の働きです。
 それでも、大腰筋のこの働きは、ゆったり、颯爽と歩くためにはとても重要です。骨格としては、脚は股関節から始まりますが、大腰筋が脚を持ち上げる最初の筋肉であると考えますと、歩く、あるいは走るという動作は”お腹の奥”から始まると考えることができるからです。大腰筋のとても発達している、例えば黒人の選手が走り出すととても脚が長く見えるのは、彼らの脚はお腹から動き出しているからです。

大腰筋を使って歩き始める
 

大腰筋と腰痛
 大腰筋には腰椎の前弯を維持する役割と腰椎を安定させる役割があります。大腰筋がしっかりしていれば、腰椎はしっかり安定します。腰痛の多くは腰部や殿部の筋肉が張って伸びなくなることによってもたらせれますが、腰椎が不安定な状態になっていることも原因の一つです。
 また股関節の筋肉の中で大腰筋は大内転筋と深い関係にあります。大腰筋の働きが悪いと大内転筋の働きも悪くなるため骨盤に歪みが生じ、それが腰痛の原因になることもあります。
 私が腰痛に対する施術を行う時には、まず大腿骨の頭(大転子)と骨盤の状態を確認し、痛みを発している腰部や殿部の筋肉を確認しますが、それと同時に大内転筋を操作します。手動で大内転筋をしっかりさせると骨盤や腰椎がしっかりして腰部のハリが取れるのであれば、それは大腰筋の状態をしっかりさせる必要があるということと同じですので、そのようにして施術の手順を決めていきます。
 
大内転筋

大腰筋とお腹の冷え
 実際のところお腹の冷えている人はたくさんいます。「お腹の奥や腰が冷たい」と感じる時はほとんど間違いなく大腰筋の働きが悪いか、大腰筋が使われていないと考えられます。 「お腹の冷え=血流が悪い」というのはその通りですが「体熱の多くは骨格筋が生み出す」という観点で考えますと腹部の筋肉の働きが悪いか、腹部の筋肉が効率よく使われていないということも考える必要があります。
 腹部の筋肉といえば腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)がすぐに連想されると思いますが、その他に大腰筋(+小腰筋)、腰方形筋があります。そしてこの二つはお腹の深部、背中側に近いところにありますので、お腹の奥や腰部に冷えを感じるといった場合は、大腰筋、腰方形筋の状態や使われ方を確認する必要があります。そして大腰筋と腰方形筋の“使われ方”という観点では、“歩き方”の善し悪しが決め手になります。良い歩き方をしている人は自ずと大腰筋と腰方形筋をよく使っています。ですから、少し散歩するだけでもお腹の中が温まります。反対に歩き方の悪い人は、たくさん歩いて体中が温まったように感じたとしても「なぜかお腹の奥は冷たい」というように感じるかもしれません。
 
内臓を囲む筋肉

 大腰筋の前方には胃、十二指腸、小腸、膵臓、腎臓などの内臓がありますが、大腰筋がよく働いて熱を産生すれば、これら内臓に熱が伝わってその働きが良くなります。反対に大腰筋がほとんど熱をつくっていないような状態であれば、内臓は冷たくなって働きが悪くなります。それは様々な病気の原因にもなりますので、「大腰筋を働かす」ということを是非頭の中に入れていただきたいと思います。

大腰筋を使って歩く
 これまで大腰筋を使わずに歩いている人にとって、大腰筋を使って足を上げて踏み出すという動作はとても難しいようです。理屈は非常に簡単です。しかし実践は難しいと皆さんが仰います。
 歩くことに関する詳細は後日別の記事として投稿しますが、歩く動作は「片脚立ちの連続である」と簡単に表現することができます。小学校の体育などでやった腿上げ運動、足踏み運動です。
 正しい”片脚立ち”は、片方の脚(腰)にからだ全体を乗せて保持することができるということです。中途半端な乗り方では、上げた脚をすぐに降ろさざるを得なくなります。
 例えば、右脚にしっかりとからだを乗せることができれば左脚は自由になります。すると自由になった左脚は軽々と前方に出すことができますが、この“前に出す”動作の最初に働くのが大腰筋です。
 
歩行動作大腰筋01

 右側に重心が移ると左の太股がフッと少し持ち上がりますが、それは股関節の内側の筋肉(=大腰筋)が働くことによって行われます。仮に、右側に重心が乗り切らないのに左脚を出そうとしますと(これは歩き方の悪い人の特徴ですが)、股関節の内側ではなく外側の筋肉で太股を上げてしまいます。長く歩くと太股の外側の筋肉が疲れる人は、このような人です。
 文章で表すことはとても難しく伝わりにくいことですが、歩行の時、どの筋肉を使って脚を前に出しているかはとても重要です。大腰筋を使って股関節の内側を機能させている場合は、その後出した前脚が軸足となってからだを支え、地面を踏みしめる(蹴る)ことも脚の内側の筋肉を使って行うようになりますので、O脚になったりする可能性は低くなります。

歩行時に使う筋肉

 股関節の外側(大腿筋膜張筋)を使って脚を上げている人は、その後の動作を脚の外側の筋肉を使って行うようになってしまいますので、ふくらはぎの外側が張り、小趾側重心で着地して地面を蹴るようになってしまいます。ですから足首の外側(外踝周辺)に問題が起きたり、母趾の使い方もおかしくなるため内反小趾、外反母趾といった状態を招く可能性がとても高くなります。もちろんO脚へと進んでしまいます。

 大腰筋を使って脚を上げ始めるのか、外側の大腿筋膜張筋を使って脚を上げ始めるのか、ちょっと見ただけでは見分けがつきませんし、どちらでも大差ないように思われるかもしれません。しかし筋肉の連動関係や連携関係上、この違いは非常に重要なポイントです。
 散歩するだけで他に特別な運動をすることもなく健康を維持でき、健やかに暮らすことができる人もいます。一方、からだをシェイプアップして健康を実現するために様々なトレーニングや運動を行いながらも「すっきりしない!」といつも感じている人もいます。ピラティス、加圧トレーニング‥‥、毎週一生懸命通い続け、トレーナーの指示に従っても「まったく進歩しているように感じない」という人がいますが、それは根本的なからだの使い方に問題があるからです。内転筋が弱いと指摘され、内転筋を強くするトレーニングを行っても、内転筋がうまく機能できない状態であれば意味をなしません。股関節の外側の筋肉を使って脚を上げ始めてしまう人はこのような人です。立った時、足裏と地面(床)との間に違和感を感じてしまうので、歩いても気持ちよくなりません。

 大腰筋はからだの深部にあるインナーマッスルです。つまり骨格を保持し、体幹を支えるための筋肉です。ジムに通い、たくさんのアウターマッスル(体壁筋)を鍛えてもインナーマッスルの力が弱かったり働きが悪かったりしますと、からだ全体としてのバランスや連携が上手くとれないので、強くなったアウターマッスルもその能力を十分に発揮することができません。
 では、どうやって大腰筋を鍛えるのか? という質問が浮かぶと思いますが、これについては近々投稿したいと考えている“歩き方”のところで考えたいと思います。私たち一般人はアスリートのようにタイムを競ったり、からだの能力アップを追求するわけではありませんので、大腰筋そのものに的を絞ったトレーニングなどは必要ないと考えます。使えば必要な筋力はついてきますので、一般人にとっては「どのようにして使うか?」がポイントになります。太股を上げる筋肉だからといって腿上げ運動をたくさんしたところで、別の筋肉(腸骨筋や大腿四頭筋など)を使ってトレーニングをしていたのでは何の意味もありません。そこは注意しなければなりません。
 大腰筋が上手く使えるようになれば、歩くことが心地良くなります。歩くだけでお腹は温まります。もちろん腰痛も軽減します。体型も良くなります。大腰筋とはそういった筋肉です。

↑このページのトップヘ